4.そしてまた繰り返す
「どうしたんですか先輩? 大事な話っていうのは?」
「その前に確認させてほしい。聖女の力のこと、システィーはどこまで知ってるの?」
「え? それはもちろん! 全部知ってますよ!」
「全部? じゃあ、リスクについても知っているの?」
「リスク? そんなのありませんよ?」
システィーはキョトンとした顔で答えた。
やっぱり、彼女は知らない。
私のときと同じで、天から伝えられているのは、力の使い方だけだ。
知る機会があるとすれば、命の終わりが近づいて、どうしようもなくなった時……
「システィー、落ち着いて聞いてほしいの」
「何ですか? そんなに怖い顔して」
「貴女の……その聖女の力は、使う度に自分の命を削っているの」
「え?」
「信じられないかもしれないけど、本当のことなんだよ。使い続ければ、貴女の命が尽きてしまう」
これを知れば、ショックを受けてしまうだろう。
私だってそうだった。
信じていたものに裏切られたような気分になったよ。
でも、知らないと。
彼女の命が終わってしまう前に。
「……何言ってるんですか? そんなことあるはずないじゃないですか」
「信じられないかもしれないけど、本当のことなんだよ。使い続ければ、貴女の命が尽きてしまう」
「ありえないですよ! だって私なんともありませんよ?」
「今は大丈夫なだけで、確実に貴女の命を削ってる。このままじゃ貴女は――」
「ふざけないでよ!」
続きを口にしようとした。
その時、システィーは声を荒げた。
「システィー……」
「そんなはずないでしょ? 聖女の力なのよ? 何も知らない癖に、勝手なこと言わないで!」
「違う。私は――」
「そうか。そういうことね! 先輩もしかして、殿下をとられそうだからムキになってるんでしょ!」
「え?」
「惚けなくて良いですよ? そうやって私に嘘を教えて、殿下をとり返そうとしてるんですよね? 見え見えなんですよ」
システィーの様子が変わってしまった。
私のことを、まるで敵を見るように睨んでいる。
「違う! 私はシスティーのことが心配なだけで」
「それも嘘ですね。大体もう貴女は私の先輩じゃないんですよ? 私は聖女で、貴女はただの薬剤師なんです。これから、口の利き方に気を付けてくださいね? それではごきげんよう」
「システィー! 待って!」
呼び止めても、彼女は話を聞いてくれなかった。
何度呼びかけても答えず、それからは会ってさえくれなくなってしまった。
聖女の力を手にしたことで生まれた自信が、彼女を変えてしまったのかもしれない。
いいや、きっと私が悪い。
もっと他の言い方をしていれば、彼女は聞いてくれたかもしれない。
彼女が真面目で、一生懸命なことは知っているから。
いくら突き放されても、見捨てたくはなかった。
彼女はもう、私の話を聞いてくれない。
毎日毎日、聖堂で命を削り続けている。
だから今度は、陛下に直接話をしてみることにした。
私からは聞いてくれなくても、陛下のお言葉なら、信じてくれるかもしれないと思ったから。
王座の間で、陛下が玉座に座っている。
その隣には、アンデル殿下の姿もあった。
私は二人に平伏する。
「して、何用か?」
「はい。聖女の力について、陛下にお伝えしたいことがございます」
「ほう、聖女の力とな? 何だ?」
「はい」
私は陛下に、聖女の力のリスクについて説明した。
聞き終わった陛下は、私に言う。
「なるほど。それが事実であれば由々しき事態ではあるな」
「はい。ですのでどうか、彼女にこれ以上聖女の力を使わないように、取り計らって頂きたく」
「だが、その根拠はあるのか?」
陛下は訝しむように私に問う。
「彼女から、そのような話は聞いていない。君はなぜ、それを知っている? 根拠もなく言っているわけではないのだろう?」
「それは……」
こうなることは予想できていた。
だけど、彼女を助けなきゃという気持ちが先走って、説明の裏付けまで考えていなかったことに気付く。
この時代に、聖女はシスティー一人しかない。
今の私はただの薬剤師で、聖女とは関係ない。
盲目的に信じてもらえるはずもなかった。
こうなったら、もう真実を話すしかない。
「信じて頂けないかもしれませんが、私には前世の記憶があります」
「何?」
「千年前……この地で、私は聖女と呼ばれていました」
「何……だと?」
「私は聖女だったことがあるのです! だから知っています。聖女の力は万能ではありません。使い続ければ命に関わります!」
どうか……どうか信じてほしい。
私は必死に思いを込めて、陛下に進言した。
だけど、後から考えてみれば、それが愚かな発言だったと反省できる。
「……ふざけているのか? そんな話を私が信じるとでも?」
「陛下! ですが事実なのです」
「黙れ! 聖女は我が国の宝! それを愚弄することは断じて許さん!」
陛下の怒声が部屋中に響く。
「こんな不愉快な気分は久しぶりだ」
「陛下! 私の話を――」
「もう良い! お前の戯言を聞くと頭が痛くなる」
そんな……
陛下は怒りで、私のことを睨んでいる。
私は助けを求めるように、アンデル殿下に視線を向けた。
普段から優しく、人をよく見ている彼なら、私の話にも耳を傾けてくれる。
そう思っていたけど……
「殿……下」
酷く冷たい目で、私のことを見ている。
「はぁ……ユリア、君には期待していたんだが……そんな嘘をつくなんね。正直ガッカリだよ」
「違います殿下。私は嘘なんてついていません」
「嘘つきは皆そう言うのさ。父上もういいでしょう」
「ああ。これ以上、目の前にいられる不愉快だ。宮廷薬剤師ユリア! 本日をもって、お前の宮廷付きの任を解く!」
「え……それって」
「すぐに荷物をまとめ、この国から出ていけ。異論は認めん」
私は言葉を失った。
何とかしなきゃと駆けまわったけど……私には何も、周りすら見えていなかったんだ。
短編分はここで終わりですが、連載版はここからが見どころです!
明日からの更新もご期待あれ。