1.生まれ変わって
私は、生まれた時から身体が弱かった。
周りの子供たちのように外を駆けまわることはできず、家の中で一日中過ごした。
いつかみんなと同じになれる。
両親は私にそう言ってくれたけど、それが嘘だとわかっていた。
私の病気は、年を重ねるごとに悪化していく。
一年、二年と経つにつれ、身体がどんどん動かなくなっていった。
そして――
いつしか私は、病院のベッドで過ごすようになっていた。
自分の死期が近いと悟り、何もかもやる気が出なくなって、自暴自棄になって。
十六歳の誕生日を迎えた日に、私は息を引き取ったようだ。
結局私は、空っぽの一生を終えた。
終わってしまう最後の瞬間まで、私は憧れた。
当たり前のように生きて、みんなと同じような生活が送りたい。
願わくば、私と同じ苦しみを、誰も知らない世界に――
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天に祈りを捧げることで、人知を超えた奇跡を起こす。
その姿は美しく、神々しく、多くの人々に希望を与えた。
彼女は選ばれた人間だった。
誰に選ばれたのか。
そう、神に選ばれたのだ。
人々は彼女をこう呼ぶ。
――『聖女』、と。
王国の大聖堂には、毎日数千人の人々が訪れる。
皆、その身に病を抱えていたり、何かに苦しんでいる者たちばかりだ。
彼らが救いを求める女性こそ、この国でただ一人の聖女だった。
「聖女様! この子の熱が引かないのです。ずっと苦しんでいて……どうか、この子を救って頂ないでしょうか!」
「頭をあげてください。我が子の幸福を心から願っているのですね」
「はい! この子は私たちの宝です」
「美しい答えです。この子の未来は、きっと明るい」
彼女は両手を組み、目を瞑って祈りを捧げる。
どうか、この子の未来に祝福を。
罪なき魂に救いをお与えください。
声には出さず、ただ心の中でそう願う。
すると、彼女の願いに天が応えてくれたのか、子供の身体を淡く優しい光が包む。
「おお……おぉ! これが聖女様のお力!」
「私の力ではありません。あなた方の想いが、この子に奇跡をもたらしたのです。私はただ、ほんの少し手助けをしたにすぎません」
「あ、ありがとうございます!」
奇跡を目の当たりにした彼らは涙を流し、それを見ていた他の者たちも声を上げる。
「すごい! 聖女様のお力は本物だ!」
「私たちを救ってくださるのよ!」
「きっと女神さまの生まれ変わりなんだ! 聖女様! うちの子も助けてください!」
半信半疑だったものもいる。
淡い希望を胸に秘め、大聖堂に足を運んだ者たちは、希望が現実にあると理解した。
そうして膨れ上がり、大聖堂に声が響く。
護衛の騎士たちが慌てて彼らを制止する。
「落ち着いてください!」
「順番です! しっかり並んでください!」
騎士の声は聞こえていない。
皆、追い詰められて、聖女のことしか見えていない。
だからこそ、彼女の声や表情には敏感だ。
「安心してください。私はここにいますから」
微笑みかけ、彼に向けた言葉は優しかった。
祈りだけではない。
ただの言葉が、その態度が、彼らの心を和ませる。
故に彼女は聖女なのだろう。
彼女は多くの期待を背負った。
それを辛いとは思っていない。
自らの使命だと悟り、救う力があるのなら、多くの人と笑顔にしたい。
心からそう願っていた。
だが、彼女も、彼女を崇める人々も知らなかった。
聖女の力は魅力的で、強くて、万能に見えた。
そう見えていただけで、決して万能な力ではなかったということを。
最初に気付いたのは、聖女本人だった。
「ごほっ、ぅ……」
祈りを終えた後から、身体のダルさを感じていた。
ただの疲れだと彼女も思っていたが、それは日に日に強くなる。
休んでも一向にとれない疲れに、さすがの彼女も疑問を感じていた。
ある日、彼女は夢を見た。
真っ白な世界に一人だけが存在する。
誰かが彼女に語りかけた。
それは彼女が信じる主の声……すなわち神の声だった。
彼女は声に耳を傾けた。
主の言葉を一つも聞き漏らさないように。
そして、彼女は知る。
聖女の力を使う時、自らの命を削っている。
知りたくなかった事実を。
主が語りかけてくれたのは、自らの死が近づいているからだということを。
教えてくれたのは主の声だ。
疑うことなどありえない。
それでも、疑いたくなるような事実に、彼女は悩んだ。
ただ……悩んでいる間にも、彼女を求めてやってくる人たちはいる。
彼らも、理不尽な現実に抗い、嘆いていた。
放っておくことなどできなかった。
私は……聖女なのだから。
彼らを救い、幸福へと導く役目を背負ったのだから。
救わなくてはならない。
祈り続けなくてはならない。
自らの死を突き付けられても、彼女は変わらず祈り続けた。
国中を流行病が襲った時も、医者より多くの人を救った。
だがその代償に、彼女は命を落としてしまった。
最後の一瞬まで、苦しむ人の前では笑顔を絶やさなかったという。
それでも、後悔はあった。
ニ十歳という若さでこの世を去った彼女。
その後悔も、聖女らしいものだった。
私にもっと力があれば、今より多くの人を救えたのに。
救えなかった人たちが……まだ大勢いる。
聖女の力だけでは限界があるのだと、死に際に悟ったのだ。
故に彼女は願う。
もし来世があるのなら、今後こそ救えなかった人たちを救えるようになりたい……と。
それから、千年の時が流れた――
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アルギニア王国、王都セイレム。
王城の一室で、薬草と木のみが並んだテーブルと向き合う。
手元にあるのは薬の調合リスト。
私は今、新しい薬の開発中だった。
「うーん……これじゃ弱いかな」
目指しているのは、あらゆる病に効果がある万能薬。
年々増え続ける病の種類に対応できる薬を開発すれば、みんなが安心して暮らせる。
それが元聖女で、宮廷付き薬剤師となった今の私の目標だ。
お待たせいたしました。
本日より連載版スタートになります!
短編と違い内容も変わっていきますが、ぜひぜひ楽しみにした下さい!
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