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1.生まれ変わって

 私は、生まれた時から身体が弱かった。

 周りの子供たちのように外を駆けまわることはできず、家の中で一日中過ごした。

 いつかみんなと同じになれる。

 両親は私にそう言ってくれたけど、それが嘘だとわかっていた。

 私の病気は、年を重ねるごとに悪化していく。

 一年、二年と経つにつれ、身体がどんどん動かなくなっていった。

 

 そして――


 いつしか私は、病院のベッドで過ごすようになっていた。

 自分の死期が近いと悟り、何もかもやる気が出なくなって、自暴自棄になって。

 十六歳の誕生日を迎えた日に、私は息を引き取ったようだ。 


 結局私は、空っぽの一生を終えた。

 終わってしまう最後の瞬間まで、私は憧れた。

 当たり前のように生きて、みんなと同じような生活が送りたい。

 願わくば、私と同じ苦しみを、誰も知らない世界に――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 天に祈りを捧げることで、人知を超えた奇跡を起こす。

 その姿は美しく、神々しく、多くの人々に希望を与えた。

 彼女は選ばれた人間だった。

 誰に選ばれたのか。

 そう、神に選ばれたのだ。


 人々は彼女をこう呼ぶ。


 

 ――『聖女』、と。


 

 王国の大聖堂には、毎日数千人の人々が訪れる。

 皆、その身に病を抱えていたり、何かに苦しんでいる者たちばかりだ。

 彼らが救いを求める女性こそ、この国でただ一人の聖女だった。


「聖女様! この子の熱が引かないのです。ずっと苦しんでいて……どうか、この子を救って頂ないでしょうか!」

「頭をあげてください。我が子の幸福を心から願っているのですね」

「はい! この子は私たちの宝です」

「美しい答えです。この子の未来は、きっと明るい」


 彼女は両手を組み、目を瞑って祈りを捧げる。

 

 どうか、この子の未来に祝福を。

 罪なき魂に救いをお与えください。


 声には出さず、ただ心の中でそう願う。

 すると、彼女の願いに天が応えてくれたのか、子供の身体を淡く優しい光が包む。


「おお……おぉ! これが聖女様のお力!」

「私の力ではありません。あなた方の想いが、この子に奇跡をもたらしたのです。私はただ、ほんの少し手助けをしたにすぎません」

「あ、ありがとうございます!」


 奇跡を目の当たりにした彼らは涙を流し、それを見ていた他の者たちも声を上げる。


「すごい! 聖女様のお力は本物だ!」

「私たちを救ってくださるのよ!」

「きっと女神さまの生まれ変わりなんだ! 聖女様! うちの子も助けてください!」


 半信半疑だったものもいる。

 淡い希望を胸に秘め、大聖堂に足を運んだ者たちは、希望が現実にあると理解した。

 そうして膨れ上がり、大聖堂に声が響く。

 護衛の騎士たちが慌てて彼らを制止する。


「落ち着いてください!」

「順番です! しっかり並んでください!」


 騎士の声は聞こえていない。

 皆、追い詰められて、聖女のことしか見えていない。

 だからこそ、彼女の声や表情には敏感だ。


「安心してください。私はここにいますから」


 微笑みかけ、彼に向けた言葉は優しかった。

 祈りだけではない。

 ただの言葉が、その態度が、彼らの心を和ませる。

 故に彼女は聖女なのだろう。


 彼女は多くの期待を背負った。

 それを辛いとは思っていない。

 自らの使命だと悟り、救う力があるのなら、多くの人と笑顔にしたい。

 心からそう願っていた。


 だが、彼女も、彼女を崇める人々も知らなかった。

 聖女の力は魅力的で、強くて、万能に見えた。

 そう見えていただけで、決して万能な力ではなかったということを。



 最初に気付いたのは、聖女本人だった。


「ごほっ、ぅ……」


 祈りを終えた後から、身体のダルさを感じていた。

 ただの疲れだと彼女も思っていたが、それは日に日に強くなる。

 休んでも一向にとれない疲れに、さすがの彼女も疑問を感じていた。


 ある日、彼女は夢を見た。

 真っ白な世界に一人だけが存在する。

 誰かが彼女に語りかけた。

 それは彼女が信じる主の声……すなわち神の声だった。

 彼女は声に耳を傾けた。

 主の言葉を一つも聞き漏らさないように。

 そして、彼女は知る。


 聖女の力を使う時、自らの命を削っている。


 知りたくなかった事実を。

 主が語りかけてくれたのは、自らの死が近づいているからだということを。

 教えてくれたのは主の声だ。

 疑うことなどありえない。

 それでも、疑いたくなるような事実に、彼女は悩んだ。


 ただ……悩んでいる間にも、彼女を求めてやってくる人たちはいる。

 彼らも、理不尽な現実に抗い、嘆いていた。

 放っておくことなどできなかった。


 私は……聖女なのだから。


 彼らを救い、幸福へと導く役目を背負ったのだから。

 救わなくてはならない。

 祈り続けなくてはならない。

 自らの死を突き付けられても、彼女は変わらず祈り続けた。


 国中を流行病が襲った時も、医者より多くの人を救った。

 だがその代償に、彼女は命を落としてしまった。

 最後の一瞬まで、苦しむ人の前では笑顔を絶やさなかったという。


 それでも、後悔はあった。

 ニ十歳という若さでこの世を去った彼女。

 その後悔も、聖女らしいものだった。


 私にもっと力があれば、今より多くの人を救えたのに。

 救えなかった人たちが……まだ大勢いる。


 聖女の力だけでは限界があるのだと、死に際に悟ったのだ。

 故に彼女は願う。


 もし来世があるのなら、今後こそ救えなかった人たちを救えるようになりたい……と。



 それから、千年の時が流れた――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 アルギニア王国、王都セイレム。

 王城の一室で、薬草と木のみが並んだテーブルと向き合う。

 手元にあるのは薬の調合リスト。

 私は今、新しい薬の開発中だった。


「うーん……これじゃ弱いかな」


 目指しているのは、あらゆる病に効果がある万能薬。

 年々増え続ける病の種類に対応できる薬を開発すれば、みんなが安心して暮らせる。

 それが元聖女で、宮廷付き薬剤師となった今の私の目標だ。


お待たせいたしました。

本日より連載版スタートになります!

短編と違い内容も変わっていきますが、ぜひぜひ楽しみにした下さい!


ブクマ、評価はモチベーション維持、向上につながります。

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新作短編②です!(2/12正午より有効)
男勝りな女騎士は、普通の女の子に憧れる ~自分より強い女なんて一緒にいるだけで怖い? 顔が良いだけで軟弱な男なんてこっちからお断りだ!~

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

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ブクマもありがとうございます!

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カドカワブックスより2/10発売予定!
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