僕、事後処理する。
どれだけの間眠っていたか分からない。このふわふわとした感覚は脳が働いていない性なのかとも思わせる奇妙な感覚がある。
『ご主人様、菫と鶸が帰還いたしましたが如何いたしましょう。』
上か下かも分からないのは僕が正対していると思っているのに、鈴がどこを平面にして寝転がっているかよく分からない角度で目の前にいるからだろう。
『負荷は払われていますが、疲労は少々残っています。鶸が何やら急いでいるようなので。』
『そもそもここはどこだ。』
鈴がどうでも良さそうに説明している所に僕は声を出す。しかし出したつもりがメッセージのように周囲に響くだけだった。声に出しても声と言うよりも頭がそう認識しているだけの状態。
『これは夢か?』
『無意識時に干渉していますので、脳の一部だけが活性して言葉を受け止めている。人にしてみれば夢と変らないかと。』
僕の気づきに鈴が答える。何にせよあまりいい感覚では無い。夢で持久走をさせられたように起きたらがっつり疲れそうだ。
『わかった。取りあえず起きる。』
『かしこまりまして。』
僕は夢の中から自主的な覚醒を促す。意識が沈み、反転し、再びまどろみに包まれる。そこへ頭に鋭い痛みが入り急激に覚醒させられる。若干混乱する頭を振りながら持ち上げると周囲に勢揃いして眺められている状態だ。
「こわっ。そんなに心配されるほど寝てたか?」
「いえ、4時間ほどかと。」
寝たきりが目覚めたかのようのシチュエーションに驚き声を上げるが、桔梗が現状を静かに答える。雰囲気が少し重苦しい中、萌黄すらも少し沈んでいるように見える。
「助けが来るのが遅いのですわっ。」
若干整理がついたような状態から突然鶸が声を上げる。
「仕方がないだろう。策に嵌まって分断されて、しかも城内の状況もわからないんだし。一応到着二日で解決したんだから。」
鶸が何やら甘えるように胸に飛び込んできて、死ね、などと物騒なことを呟いている。しょうがないと頭を撫でながら更に周囲を観察する。そろそろ日が沈む時間かなと明るさを見ながら思う。
「状況は?」
「城外の制圧は完了。逃亡者も随時捕獲しています。城下の制圧もほぼほぼ終了し、城周辺で若干抵抗がある程度です。王族の保護は鶸と共に完了している状態です。」
桔梗がさっと報告する。
「城内は反乱軍が制圧しており、抵抗自体は無視していいものです。現状の無力化数から考えれば城内の警備能力はほぼ破綻しているでしょう。」
菫が引き続き城内の様子を報告する。一度僕に抱きついたままの鶸の方に視線を移し、僕を見直す。
「潜入して調査した結果、王族に近しいもの達は城内の一室に隔離され、魔法で封印されていました。その他の者は地下牢がほとんどでした。ただ、警備従事者の残存は絶望的、運営関係者でも七割程度、支援従事者は二割程度しか捕獲されていません。」
菫は少し寂しそうに報告した。つまり捕獲されていない者は全死であろうということだ。
「わかった。ありがとう。」
「おかげで今後の領地運営が大変ですわっ。」
僕が報告を聞いて申し訳ないなと思っている所、腹にいる鶸がヒステリックに声を上げる。忠誠とか迅速性は若干失われるが、最悪トーラスがいればどうとでもなるだろうに。僕は張り付く鶸を引っぺがして脇に置き、きしむ体を動かして立ち上がる。穴を開けられた場所が突っ張るような感覚がなんとも言えず、柔軟をするように手足を伸ばす。
「グラハムとトーラスは?」
「呼びますか?」
僕は二人の場所を尋ねる。菫が呼び出そうとするのを手で制する。菫は若干難色を示すが僕が動き出すと案内をするため先導する。鶸と萌黄が付いてくるが鶸がなにやら鬱陶しそうに萌黄を見る。萌黄は視線を合わせても脳天気に笑顔で返す。萌黄にそんなことをしても無駄って分かってるだろうにと、ご機嫌斜めな鶸をちらっと見ながら移動を続ける。手持ちのベルを出し規定の合図で鳴らす。
「入るぞ。」
急ぎ立ち上がったトーラスが僕に向けて礼をとる。
「此度は守り切れず申し訳ありません。」
「気にするな。僕が急ぎすぎた性もある。」
「ごもっともな話かと思いますが、それをカバーするのも私の仕事ですので。」
トーラスが謝辞を述べ、僕がそれを許す。しかしトーラスは皮肉を乗せて返す。顔を上げて少し笑っている。うっせぇと僕も笑いながら返しておく。
「そっちの感触としてはどうかな。」
「想定以上に動きは速かったですな。各地の制圧、懐柔は英雄達でどうにかなっていると思いたいですが・・・一部を除いて大丈夫でしょう。」
僕はトーラスに感想を尋ねる。トーラスは周囲を見回してからさっと答える。
「取りあえず今から城内制圧に入る。懸念事項があれば。」
「まぁ・・・書類の類いは残っていれば楽ができるというくらいですかな。最も反乱軍にも必要な物なので無くなってはいないでしょうが。後は各部署の管理官が残っていることを祈るばかりですな。」
「地下牢の保護は優先的に行おう。」
「ありがとうございます。」
トーラスは要望を言い、僕は少し考えて地下牢の保護を提案する。書類の事は再調査でもなんとかなるし、トーラスが概ね把握している。だが人は成長、教育も考えればより時間がかかる。
「後ほど無茶な資源要求を行うことになりますがよろしくお願いいたします。」
「その辺はしょうがない。そちらは鶸経由でいつも通りに。菫は桔梗と共に拠点の増産を強化、鶸は通常通りですまないが城内の支援に当たってくれ。」
「しょうがありませんわね。」
菫は頷き、鶸も面倒くさそうではあるが了承の意を告げる。
「よし、本格的に制圧を進めるぞ。」
僕はトーラスを残して臨時家屋から出る。
「菫は桔梗と紺とで軍の再編を頼む。鶸はどうする?」
僕は菫に作業を伝える。菫はすぐに姿を消すように移動する。僕は小規模な戦闘であり鶸に頼ることもあるまいと選択肢を委ねる。
「ん?それを決めるのは貴方ではありませんの?」
鶸が最もらしく反論する。いっそ無意味でも付いてくるかと思ったがまあいいかと頭を掻く。
「じゃあ、トーラスと一緒に事後処理と今後の運営について検討を頼む。」
「わかりましたわ。」
鶸は踵を返して戻っていく。何を怒っているのか素っ気ないなと感じる。僕は面倒くさいなと思いつつ軍の方へ移動する。ミーバ兵の整列は早い。さほど足を止めたつもりも無いが集合場所では既に再編が完了している。
「ご主人様、編成は完了しております。いつでも出陣可能です。」
菫が近づいてきて礼をし報告する。
「あの場では報告いたしませんでしたが、不可解な事がいくつかあります。」
「何?」
菫がトーンを落しながら話し始める。真面目は真面目だが急に雰囲気を固めるので生返事をしてしまう。
「まず城外、城内含めてですが敵ミーバ兵との交戦、存在を確認できていません。桔梗の話によると一万弱の兵が中にいるはずなのですがどこから逃げたのか一体たりとも確認出来ていない状態です。」
「それは変だね。」
まがりなりにも自分たちが管理している最初の国の城だ。抜け道、通路、裏道、路地裏など細かい道も含めてすべて把握済みである。最も新たに作られた場合は話が別だが。魔法があると割と簡単にできるから困る。
「転移系で逃げたか、もしくはあの精霊のように高速移動ができるなら話は変るのですが・・・何にせよ、発見できていないことはご留意ください。」
「分かったよ。」
ただこの程度の報告を目覚めた時にしなかった理由にはならない。
「城内調査の際、グラハム一家は一室に、トーラスは階下の一室に幽閉されていました。鶸は厳重な拘束の上でグラハム達と同じ階層に転がされていたのですが、見つけた時点では意識を取り戻していました。」
「ふむ。ああ、なるほど。」
反乱軍が王家やその周辺を拘束したのだろうが、グラハムと鶸が同列なのが理解し難い。反乱軍目線ならトーラスと同じ扱いになりそうだが。もっと根本的な話としてなぜ鶸がこちらに連絡を取らなかったかと言うことだ。
「魔法的な防御については?」
「手足と目隠し、そして柱に縛られていました。拘束具に関してはこちらです。」
菫では魔法的な判断は出来ないので持ってきたようだ。頑丈な金属紐。後は国で使われている標準的な魔法使い用の拘束具。接触している間、魔力や術式を乱し魔法を使えなくする効果がある。ただしこの拘束具については自軍に関しては抜け穴がある。条件発動によって僕らには効果を及ぼさないのだ。
「確かに・・・おかしいね。他に直接魔法で封じられていたかな。」
「そちらについてはこの時点でおかしかったので確認していません。部屋に関しても同様です。」
厳重に拘束するのはそれほど間違ってはいないし、敵が自軍の備品を使って拘束するのも無いわけではないのでそれほどおかしいとも思わない。
「鈴の件が結局説明つかないのか。」
「そうなります。」
菫は魔法自体にそれほど詳しくないが、それでも鈴の異質性については把握している。どれだけ途中経路を封鎖されていようと、鈴に届かせようとしたメッセージは魔法、手紙にかかわらず必ず届く。メッセージの魔法を使う、自分では無い誰かに手紙を託す。試したことは無いが届くと願って紙飛行機にしてもいつか届きかねない。そういうレベルの異質性である。その鈴がメッセージは届いているが返信が無いと言っていたのだ。それを生存している証にもしており、鶸本人は意識の無い状態にされていると考えていた。
「ただあの鶸が本人だということも事実なんだよなぁ。」
「そこが最大の違和感ですね。洗脳とかそういう類いの可能性もありますが。」
「あれが簡単に洗脳されるようには見えないけど、それなら結局形だけの返信をよこさないのもおかしい。」
僕と菫は少しの間思案する。
「何をしているであるか?」
紺が足を止めて何かしている僕らの所に飛んでくる。
「いや、気になる報告を受けてね。」
「さようでありましたか。出るときになったら指示をお願いするであるよ。」
紺は再び跳躍して戻る。ついでに何か気にしていたような素振りをしていた桔梗に何か話している。
「鶸も何考えてるかわかんないし、でもあからさまに邪魔者ーって目線は貰った事無いかなぁ。」
萌黄がちょっとだけ嫌そうな顔をして呟く。
「萌黄と鶸じゃあ考えてる量が違うからな。分からないのもしょうがない。ただそうだね、そういう性格の子ではないよね。」
僕は萌黄の頭を撫でながら呟きを補足する。萌黄はピンとこないような顔をしていたが撫でられてるからいっかーと笑みをこぼす。菫が微妙な顔をしてそれを眺めている。
「話は分かったよ。取りあえずは城の再制圧を行う。紺。」
「はい、であるよ。」
菫に出立を告げ、紺を呼ぶ。
「事情が少し変った。自陣中央を中心に警護を頼む。」
「むむ、大役でありますな。侵入者に関しては如何?」
「害があるなら討伐でも構わない。直接危害がなければ放っておいて構わない。索敵ならお手の物だろう。」
僕はそう言って紺に頼む。
「ふむ・・・そういう話でありますか。心得たであるよ。」
紺は意図を組んで納得したようで了承し、その場を即座に移動する。自軍の保全、警護は戦闘に参加しない軽装騎兵が中心で銃兵関連が一部と軽装兵を残し、護衛のための重装兵を数体だけ配備する。残り八千は城へ向かう。城下の喧噪はほぼ収まり、外で住民が動いているわけではないが元の主が戻ったことを知ってか家屋の中では活発な動きを感じられる。蟹の怪しい音に気がついてか扉や窓から住民が顔を覗かせてかつての守護者に向かって静かに声援を送ってくる。こういうのも悪くないと感じつつ足を速め城に至る。結果的にではあるが、後方の不安、そして消えた敵への警戒、それらを全く無意味にするほど城内の制圧は迅速に終わった。菫が城内の状況と戦力を把握しており、外の状態から中の状態を推察。反乱首謀者の三人はそれぞれ信頼出来る者を伴い大会議室で指揮しているまでは良かったが、騎士級五千程度でミーバ兵を止める手段は無く、混乱する兵を収めることも出来ず血気盛んな首謀者一名と一味が突出。なし崩し的に残りの首謀者も前に出るが、軍を指揮するならともかく混戦となるとたいした連携も取れずにぐだるように各個撃破することとなり首謀者が倒れた事で下位の者達も降伏することとなった。周囲に見せる為にも軍で来たが、正直僕一人どころか萌黄、ミーバ兵千体ほどでも問題無い相手ではあった。
「敵将・・・誰だっけ・・・まぁいいか、討ち取ったりぃ。」
結局反乱軍の全容を知ることも無く反乱軍は瓦解。各地域で英雄達が押さえてくれたこともあり国が分離、瓦解するほどの混乱は起こらないまま収束した。突入後二十分後の事である。
「紺野殿にはまた返しづらい恩が出来てしまったな。」
「そもそも払う気有るの?」
「そいつは手厳しいっ。」
グラハムが王座に復帰し僕と小話をする。
「取りあえず早急に国内の状態を零に戻さないと。その辺は頼むよ。」
「正直それが一番面倒くさいっ。」
知ってる。だから丸投げしてるんだから。グラハムの心底困った顔が逆に笑いを誘う。
「貴方は台本通り指示すれば良いだけなんですから、せめて態度くらいは正しなさい。」
トーラスからグラハムへ厳しい言葉が飛ぶ。グラハムも多少政治に絡むものの彼の意見がまともに通った事は無い。トーラスに手直しを受けるか、却下されるかどちらかだ。グラハムは渋い顔をして不満の声を上げるが、正直これも通った試しはない。政治能力に関してはトーラスには頭が上がらないのだから。謁見の間にはグラハム、トーラス、僕等しかいない。こういった軽口の関係もこの三人だけの時だけだ。
「論功は任せる。必要な資材はその都度請求してくれ。僕らも国内の平定支援には回るけど失った戦力の回復も必要なので大規模には動きづらいことだけは知っていて欲しい。」
「して動かせるのは?」
「武力なら僕、菫、桔梗、萌黄、紺だけ。兵は全員資源徴収に回すから動かせないと思っていい。内政は鶸が専属で僕と桔梗が回れるかな。」
「戦力は過剰ですが・・・手が少ないと言ったところですね。」
トーラスが運営の算段を付けるために確認を取ってくるが、期待するほど手が多くは無い。トーラス的には僕らが動けるよりもミーバ兵一万を動かせる方が便利だったろうとも思う。
「後ほど指示書を回させて頂きます。」
トーラスが数瞬悩んでから回答する。僕はそれに手を上げて答える。
「では後はよろしく。」
表向きには中枢にいない僕は謁見の間から退出する。グラハム達は少し長めの賞罰の時間だ。
「少し楽しみにしていたのに早すぎるであるよ。」
紺が少し不満顔で呟く。
「少しくらい反抗があると思ったけど・・・想像以上に無かったね。」
僕は申し訳ないと言った感じで答える。
「結果だけ見れば城のほうが面白かったであるな。また今度に期待するであるよ。」
「そうしてくれ。」
出発から制圧までが短すぎて本陣では何も起こらなかった。機を見る暇も無かったと思う。僕らは今後の方針として戦力の回復と国内安定を掲げ、それぞれ作業を分担し本拠地での作業に入った。菫、桔梗、萌黄は別途作業指示があるまで本拠地で指示、紺は早々に国内不穏分子の情報収集へ、鶸は城専属、鈴は本拠地で総合管理。
「私達はどうすればいいの?」
後は神谷さん一行をどうするかである。
「僕らのように大きく拠点を作って戦力を蓄えるのもいいんですが・・・少なくとも王都周辺で行うのも善し悪しなんですよね。」
生産拠点の一極集中は便利な反面、防衛戦力を上回られた場合一気に瓦解する。今はいいが今後更に遠い国へ出兵となると時間ばかりかかる。話して作った場合、戦争面で有利な反面、最大戦力の集中には時間がかかり悩むところ。中盤はいいが後半困るといった所。
「提案としては王都近郊に中型拠点と設置上限六割程度の中枢拠点を作って貰おうかと。」
「ミーバの生産面で大分劣ると思うけど。」
神谷さんの心配も最もだが。
「兵力のメインはこちらだけでも現状は十分だと思うので、むしろこの先の前線に小型、大型を設置、破棄を繰り返していって戦争が中期化したときの支援に充てようかと。」
「んー、最初から増産したほうが良いと思うのだけどね。」
神谷さんは難色を示すが、最終的には了承してくれた。若干安全面には欠けるが王都北西の森林に神谷さんは拠点を築く。結界として目立つオブジェを作りつつ、地下方向へ拠点を広くしていくのは変らない。しかしそれすらも囮として少し離れた平原に中型拠点を擁する本拠点を築いた。潤沢な魔力と杖の隠蔽能力を盾に兵舎と農地を分けた形になる。彼女の拠点を出入りできるのは彼女らのみ。僕も囮拠点には入れても本拠点には許可無く入ることは出来ない。操られての共倒れなどは御免なので予備、もしくは最終抵抗拠点としての側面も持つ。コンセプト自体は数週間で組み上げ、今後一年で形を整えて完成させていく。拠点の再設置についてはこんな所で順調だった。だが国内の安定化についてはいまいちだ。
「光満教徒の動きが止まらんであるな。」
調査に当たっていた紺は訪れた先で必ずと言って良いほど暗躍している光満教徒を発見する。規模自体は数十人から多くても千人程度。国が覆るほどでは無いが、放っておけば町で新教徒が増え無駄に敵性兵力が増える。潰すにも紺一人では手間がかかるので兵や英雄を派遣する。しかしそこでの事件が解決しても別の場所はおろか行って戻った所でも再発する。北方領域で細々と抵抗されている状態が続く。グラハムはこれを機に光満教を敵性集団として指定し、国内で禁教と定めた。だが禁止されると触れたくなるのか、逆に反発を買い更に地下に潜られただけで増えここそすれ減りもせず、発見に手間がかかるだけとなった。
「うまくいきませんな。」
一ヶ月後の身内会議でトーラスがため息を漏らす。国家としても騎士と将軍の再配置、育成を行いたい所だが光満教徒がどこに紛れ込むか分からない状態で、調査に時間がかかり再編が思うように進まない。酷いときには再編済みの軍人が改宗されるという酷い事態にも陥っている。周辺国家からみればかなりぐだぐだの状態である。それを隙と見たのか多少はちょっかいをかけられたものの、小規模な軍についてはミーバ兵を再編し即時掃討していった為大事にはなっていない。今後ちょくちょく続くかもしれないがその都度殲滅してやれば大人しくなるだろう。
「禁じたのがまずかったか、しかし禁じないことにはどうもなならんのでは?」
一応トーラスの承認は得ているものの禁教については善し悪しである。一般住民に忌避感を与えられるだけでも十分効果があるのだが、直接利益の多い改宗は追い詰められた者ほど避けがたい誘惑がある。光満教側もそれを分かってか一部自作自演をしてでも改宗している節も見られる。
「思ったより各地で作業が進んでいるのもあるけど、絶対主導している人がいる動きだよね。」
「そうですな。」
僕の意見にトーラスが賛同する。
「それさえ見つかればもう少しマシな展開になると思うのだけど。」
「少数でも構いませんので斥候兵を順次調査に回して貰えませんかね。さすがに我らだけでは手が足りません。」
「分かった、編成しよう。」
まずは計画を主導している者を探すということで一致し作業を進めることにする。一ヶ月経ちそれらしい者を突き止め捕縛、収束するかと思えば反抗の動きは変わらず、更に一ヶ月経ち二人、三人と捕らえることとなるが状況は芳しくない。
「踊らされていますな。」
紺は各地を飛び回り、C型ネットワークを構築し調査に当たるもリーダーを見つけることだけが早くなっていくがリーダーの先にいるものは捕まらない。その数週間後。
「ネットワークが切られ始めましたね。」
菫と紺の意思疎通が出来なくなり、各地で神気出没する敵ミーバ兵によって単騎で中継している斥候兵や伝令騎兵が狩られ始める。こうなると情報迅速性が下がり、リーダーをしらみつぶしするペースも落ちていく。
「これはもう・・・」
桔梗がため息をついて一つの結論と苦言を呈す。
「鶸だよな。」
鶸のいない拠点会議にて萌黄以外の全員が納得する。鶸が何らかの形で情報を操作、流出させている。なぜそのようなことをしているか分からないが鶸を止めない限りこの事態は終わらせられない。かといって鶸を失うのはさすがに痛すぎる。国家も情報整理も鶸に依存している面が多すぎる。いかにして鶸を元に戻すか、もしくは状況を止めさせるか。
「どうなってるんだ、一体・・・」
ここにいる誰もが鶸が何か変ったと確信できてもその原因については分からないでいた。




