僕、気がつく。
目線を移すのは一瞬。精霊から意識を外し続けると攻撃の気配みたいなのが感じられない。鏡面化を追加で維持しつつ致命傷を避けるように身を守る。
『勝手ではありますが紺を招請いたしました。後三十分ほど耐えていただければ戦闘面に関しては解決いたしますでしょう。ただその結果ご主人様は紺を失うことになります。』
抑揚の少ない鈴の声が救いの言葉であるようにありながら逆に死刑宣告のように聞こえる。
『紺を失う?犠牲を対価にする方法は認められないっ。』
僕は鈴の提案を拒否する。
『紺は犠牲にはなりませんがここにいられなくなるだけです。ご主人様の言う犠牲にはなりません。』
紺にこの状況を解決出来る手段があるとは思えないが鈴には確固たる当てがあるようだ。
『彼を守りなさい。』
神谷さんから盾を持った大きめの天使が派遣されてくる。天使は僕の身を隠すように精霊に立ちはだかる。精霊としてはでかい的が来ただけだと軽く見ていたようだが、細い光線を一身に受けても揺らぐ気配は全く無い。精霊は多少おかしく思ったのか一端手を止めて天使の様子を伺う。
『あー、メタいねぇ・・・。』
僕は状況を察してほっと一安心し自信の治療を始める。その行動が逆に安全に信頼を持たせたのか神谷さんと桔梗が僕の治療の為に側にやってくる。クロは攻撃の手が止んだ折に同じように守護天使を召喚し他の者を守る。冷静に考えれば攻撃種の少ない精霊に取って特定防御に強くできる天使はある意味天敵とも言えた。この精霊にとっては倒しづらいだけで勝てない相手ではないだろうが。精霊に攻撃が効かない以上無効化できなければ完全膠着という事にはならない。ただクロが追加で召喚したことを考えれば召喚コストは安くは無いだろうが決して重くも無いはずだ。精霊が対策を立てるまで時間が稼げるだろう。
『耐久型で熱耐性を上げたタイプです。正直倒す事ばかり考えていて失念していました。もう少し早く気がついていればこんなことには。』
神谷さんがひとしきり反省している。
『いや、問題はないよ。ある程度引き出しが出た状態になった今のほうが多分良かったと思う。後は光の力で物を飛ばせなければいいんだけど・・・』
僕は力を抜いてもう一つあり得そうな状況を想定する。ただそれを精霊単独では実現出来ないはずなのでさほど心配はしていない。神谷さんが少し首をかしげている。精霊から光が放たれ天使の身を焦がす。うん、焦がすだけで済んでるのがすごい。天使は遅れて盾を動かして守る。ルーチンワークっぽくて少し面白いなと思ってしまう。精霊の姿が消え天使の頭部を貫く。実際には天使の表面で止まっており貫通はしていない。神谷さんの指示なのか天使は盾を動かして精霊を押しのけようとするだけで決して反撃は行わない。精霊は忌々しく思ってか一度離れる。ここから天使の防御を破壊してダメージを通すのは非常に手間がかかるだろう。召喚における耐性の付与がその身だけでなく防御にもかかっているのが強い。僕らの防具と違ってその辺の仕様は雑な調整のようにも感じられる。今はそれに助けられているが。ふと何か魔力の流れのようなものを感じ周囲を見渡す。その行動に不思議に思った神谷さんと桔梗が僕を見る。力の大本は精霊から感じられるようだ。ただ二人は全く感じていないようだ。お互いの共通項に思い至り、本で精霊強化の魔方陣について検索をかける。
【347924世界:強制進化陣を構築します。残780000】
長っ、と強烈な印象を受けつつ精霊を見る。そして構築はキャンセルする。精霊も何かを感じ取ったようにこちらを見る。お互い思い至ったかのように笑う。どうも本の所持者同士が力を使うと何か分かってしまうようだ。もしかしたら各の世界に関することを調べたときに限るかもしれないが。何にせよ、お互いが気がついた。何かを調べていると。精霊は恐らく現状を打破するための手段について調べようとした、はず。魔法を使う気配はないので恐らく自らの能力で解決出来る範囲でだ。防御の為の魔法を停止しないところを見ると発動に時間がかかるか、準備がいるか有るはず。そしてその維持しか出来ないほど手間なものか、それほど魔法能力が高くないかが考えられる。どちらが早くその答えに至り、その結果をより早く実行できるかが鍵に見えた。
「あ。」
そして僕は根本的に手順を間違っていたことに気がつく。分からないなら本で調べれば良いと言うことに。ここ数年自己解決、もしくは調査だけで分かることが多すぎて開発にしか本を使っていなかった為根本的な機能を忘れていたようにも思える。
(実行出来る質量を解さない攻撃方法を検索。)
本に向けて意識を送る。
【身体維持機構を阻害する、身体構造を操作する、生命力を操作する】
言われてみれば首を絞めて窒息させるとかはダメージ無敵には定番だなと思い直す。精霊の防御には首絞めは通用しないから周囲から空気を奪うとかか。最もあの精霊は呼吸は愚か代謝があるかすら怪しいけど。身体構造を操作するってなんだ?
【攻勢魔術Ⅳ浄化、Ⅶ分解に類する対象の身体の結合を切り離す行為。】
浄化ってそういう魔法だっけ?とか思いつつ分解は理解出来る。分解から思い出したけど、攻撃扱いされてないが石化とか封印とかいう手もあるなと思い至る。
【攻勢魔術Ⅴ生体石化、強化術Ⅶ物質変換、守勢魔術Ⅶ属性封印】
属性封印はいけそうだが石化はそもそも実体がない相手には難しいようだ。封印も長期拘束に必要な物が足りず現状では時間稼ぎにしかならなそうだ。生命力操作とは。
【攻勢魔術Ⅳ生命力漏出、Ⅴ生命力吸収、Ⅶ生命力奪取】
所謂ドレイン系か。現状で一番有効そうな攻撃だがいかんせん基本攻撃力が低い。無限に再生出来る相手には厳しいといえた。全力で強化して打ち込んでも倒せなかったり外したらおしまいではリスクが高い。
『どうですか?』
桔梗が僕の百面相を見ていて何かに至ったと思ったのか尋ねてくる。
『いや改めて本って便利だなと思った瞬間なんだけど。生命吸収系ならなんとかなりそうなんだけど攻撃力がね。』
『何らかの形で過剰な増幅が必要ということですよね。』
僕の答えに桔梗が魔法の詳細を確認してか難点を考え始める。
『増幅なら魔法陣とかスキルとかあるじゃない。』
神谷さんが口を挟む。スキルはともかく魔法陣はいける。研究して以後防御用に拠点にくらいにしか置いてないが。
『あとは構築した後倒れるまでに逃げられないようにする方法か・・・』
『さっきやったアストラルバインドは?』
『効果時間もあるけど死ぬまで拘束できるかっていうと不安が。』
神谷さんが再び拘束する案を出すが魔法陣で増幅するとはいえ理論値で考えても維持できるかということと脱出されるという面が不安になる。
『俺が捕まえられりゃ早いんだけどな。』
誰かがしがみついて離れないというのも一つの手だが相手は非実体ということもあり拘束の仕方も手が込む。非実体に接触できる方法もあるがあの精霊に関しては接触そのものすら無効化してくるので掴み続けるのも難しいだろう。
『分の悪い賭けになるけどやってみるか。うまくいけば核はつかめるはずだ。』
『あー・・なんかあんだっけか。』
ユウはなんとなく覚えがあると言った感じだがそういうものがあるんだ。
『クロの守護天使を進ませて物理組は全員でつかんで押さえる方向で。僕も含めて魔法組は生命漏出で効果を確認しよう。』
僕は全体に指示を行う。
『ん?魔法陣を組むのでは無かったのですか?』
クロが事前に聞いた内容と齟齬があることを聞いてくる。
『そっちはそっちで別途進めるよ。ここは僕の支配地域なんだからね。』
そして僕は動かない精霊に向けて守護天使の物陰から不格好に剣を向けて作戦開始の合図を行った。鬱憤の溜まっていたユウが颯爽と飛び出し突撃する。トウはため息をつきながら追い、クロが天使に指示を出して動かす。萌黄もどうするか悩んだ上で盾を展開しちょこちょこと追いかける。クロが僕らの天使の側にやってくる。近づきたくもなかったというような顔をするんじゃない。それなりに傷つく。
『魔法は有効確認できたら可能な限り打ち込む。ただ負荷には注意してね。』
『そもそも豆鉄砲をいくら当ててもどうにもならないでしょうに。』
クロは不満顔で言う。
『僕らは効果の確認だよ。何せ作業者はいくらでもいるからね。』
周囲からミーバ兵がぞろぞろと集まり戦場を囲っていく。一騎打ちの見学をするように先頭の重装兵や軽装兵が武器や盾を掲げ応援する。精霊もさすがにそのやかましさと異様な動きから何かを察する。
「自暴自棄の特攻というわけではないだろうが・・・面白い相手になろう。」
精霊はあくまで余裕で尊大だ。相手が決意の元行動を行ったならそれを崩すべきだ。その慢心故に足下をすくわれるのだから。クロが精霊に向けて魔法を放つ。魔力線しかないこの魔法の軌跡は精霊の目には映らないだろう。精霊は怪訝な顔をしてこちらを見る。
「生命漏出か・・・確かに対策はとっていないが取るまでも無いと判断した結果ぞ?」
一応実験はしていたようで浅はかと言わんばかりに笑う。
「あー、そいつは困ったなぁー。」
僕は棒読みで答えて強めに生命奪取を放つ。怪我は治ってしまっていたので生命吸収では取り切れない為だ。怪我がないと変換先が無く一時的なバリアにはなるが、それが上限になると吸収できなくなるからだ。より強くダメージを受けたことで少しだけ精霊が警戒するが胸の中の光を強めることでそれに対抗したようだ。光合成で怪我が治るとか便利だなと思いながら数任せに生命漏出を打ち込む。四人で打ち込む魔法の数は一度に十数本となりダメージが低いとはいえ魔術傷は治療が難しく、頑丈なトウでも無防備に受け続ければ一分も持たないと思われる。精霊は負荷と同じようにダメージを負った肉体を攻撃としてエネルギーに変換し、体内の光で失った体を再生している。守護天使が焦げ、時折ユウもその身を焦がす。
「おらぁ。」
ユウが勢いよく精霊の肩を掴み引き倒そうとしている。それに便乗して萌黄が盾ごと体当たりをする。トウが槍で足を払う。ただそのすべての攻撃が無意味であるかのように精霊は微動だにしない。応援なのか周りのミーバ兵の声と武具を打ち鳴らす音が大きくなる。
「こんな無意味な突撃とちんけな魔法で倒せると思ってはいまい。何を企んでいる。必要なのは時間か?」
精霊は笑いながら拳を振り上げ萌黄の盾を焼く。加熱したところで萌黄へのダメージは無いのだが輻射熱が嫌なのか萌黄はひょいっとその場を離れる。精霊はそのまま勢いを付けるように大振りでユウに拳を繰り出す。ユウはそれを前屈みで回避しながら自らの拳を精霊の頭に叩きつける。
「おっといけね。反射的に殴っちまった。」
単純な攻撃は無意味だと分かっていながら思わずチャンスと思ってやってしまったのだろう。それが精霊の心に火を付けたのか再び殴りかかってくる精霊をユウは巧みな体捌きで回避する。精霊の体術は決して高い物では無く、技術差あるユウには当たることは無い。ムキになって光化したところで守護天使の範囲内である以上は決定的なダメージは与えられない。精霊も躍起になって攻撃していたがいい加減守護天使をなんとかしないと手間がかかりすぎると思い直したようだ。短気で傲慢で慢心している。冷静になろうと務めてもすでに手遅れの段階まで来ていた。
「さて、これでチェックだ。」
合図と共に精霊の周りからユウ達が離れスペースが空く。精霊を中心に濃霧が展開される。視界を阻害し、攻撃ではないが光を散らす性質から精霊が不用意に動くとダメージを受ける。
「チャフとやらと同じネタか。このような攻撃では我を倒せぬと・・・」
精霊がそう言った所でそれ自体が目くらましであったことに気がついたようだ。六方からゆっくりと迫る鉄柱が精霊の核を捉える。柱を伝って金属の茨が進み、核を絡み取る。
「天使よ、そのオブジェを守れ。」
クロがあえて声に出して指示をする。ユウ達は一目散にその場から逃げ出す。霧は維持されていなければ金属に水滴という存在の証明だけを残して消え去り精霊の現状を露わにした。
「なんだこれは。」
精霊自体に鉄柱は何の効果もないが鉄柱と茨が精霊の核を支え包み近代芸術のようなオブジェとなっている。残念ながら詳細な様子は精霊の光に遮られてわずかなシルエットしか確認出来ない。精霊には影響はなくとも核に依存させられている為その場から大きく動くことが出来ない。精霊自身が核を意図的に体外に出せないのだ。光で金属を破壊しようにも守護天使がそれを阻む。守護天使を破壊するのも一筋縄ではいかない。
「結局の所お前自身の研究不足だよ。知らない物を付け足されているのにそれを無視しすぎた。」
僕はそう精霊に告げる。
「だからといってお前等とて我を倒す事は出来ぬであろう。ここに一生止めるつもりか。ここから王都を灰にすることもできるのだぞっ。」
精霊は余裕があるのか強がりなのか声を荒げるが、それは不安に狩られた焦りなのだろうということを周囲に印象づける。
「まぁ正直これで決まってくれれば格好良くいくんだけどね。」
僕はもうすぐ作業の終わる構築物に向かって作業の支援を行う。
「手間はかかるけどでかけりゃでかいほどいい。それが魔法陣ってもんだよ。」
【限定増幅魔法陣が完成しました。】
身内にだけ聞こえるシステム音声と共に精霊を中心付近にすえた大型の魔法陣が姿を現す。
「これは?こんなものをどこから・・・」
精霊は不思議そうに興味を持って展開された魔法陣を見る。石材で作られた複雑な図形がそこに描かれている。直径二百mという巨大な魔法陣で、周囲空間から魔力を吸収し生命漏出という単一の魔法を無制限強化し、精霊に打ち込むだけの式が書き込まれている。
「たった今作ったっ。」
「そんな馬鹿げた話があるかっ。」
僕の言葉が信用できないのか精霊は声を荒げる。
「ここは僕の支配地域でこんだけミーバがいるんだ・・・できるさ。」
周囲を囲んだのはただ何かあると警戒させる意味もあったが後ろの作業が見えづらくするためだ。ただ何かあると分かっても精霊は余裕を持って何もしなかった。あとは必要な魔法陣を指示して建築させるだけだ。幸い遠征軍だったから資源に関してはかなりの数があった。せっかくだから無意味にでかくて強力なヤツにしてやった。
「まぁうまくいくかは楽しみにしてくれよ。」
僕は初回の起動用生命漏出を魔法陣に打ち込む。魔法陣がうっすらと輝き魔力を周囲からかき集め人で行うには手間がかかりすぎるほどの増幅を行い魔法を精霊に打ち込む。精霊が一瞬苦しげな顔をしてその瞬間を耐える。
「知ってはいたが・・・こんなもの近づかなければ済むと思っていた・・・こんな方法で止められるとも・・・こんな一瞬で有効な魔法陣を作るとも思ってはいなかった・・・しかし・・耐えてやったぞ。耐えられるならいくらでも再生してやる。天使も拘束も焼き払って貴様等も同じ目に遭わせてやるわっ。」
体をエネルギーに変えなお輝きを増し体を再生させる。皆が呆れるように驚いた顔を見せる中、僕は手を叩いて褒め称えた。
「これが通用しないならどうしようかと悩んだけど、有効なら何より。お前の体の変換効率ほどではないけど・・・君から奪った生命力は周囲に魔力という形で還元される。」
僕がそう言うと原理に気がついて精霊の顔が歪む。魔法陣が再起動し周囲の魔力を吸う。
「お前の失敗は降って湧いた力に依存しすぎて穴埋めを怠ったことだ。無敵では無いと気がついていたにもかかわらず。」
二度目の生命漏出が起動し更に大きなエネルギーを精霊から奪う。精霊も死から逃れるために体を再生し暴れて脱出を試みる。体を光化し鉄柱を打ち付け二度三度と狂ったように暴れる。
「くそ、こんなところで。次は無いぞ、次こそは息の根を止めてやるっ。」
「タネが分かってるなら次も同じだよ。精々対策を立てておいてよ。」
三度目の魔法が起動し精霊も虫の息だ。ただ光の魔法は自動で助けるように出来ているのかより一層輝きを放ち精霊の体を回復させる。
「貴様に・・・災いあれ・・・」
「お断りだ。」
呪いの言葉を吐かれるが何かの対策に引っかかったのか弾けるような魔力の霧散と共に精霊の最後の攻撃を無効化する。
「チェックメイトだ。」
四度目の魔法の発動と共に精霊の姿は完全に消え、姿を現した鉄のオブジェの中心にくすんだ玉があるだけになった。
-敵対勢力の一角に勝利しました。近隣勢力からの攻撃が一部制限されます。-
「あーーーーっ、ぎりぎりだったーーぁぁ。」
僕はシステム音声と共に声を上げて地面に寝転がる。
「お疲れ様です、ご主人様。」
桔梗が横にかがみ礼をとる。
「正直最後は何が何だかわからなかったわ。」
神谷さんは勝利したと分かっても実感できないという感じで魔法陣の状況を見ている。
「支配地域ならではという所ですが・・・魔法陣の大きさが狂ってますね。」
クロは神谷さんの横に控えながら毒づく。
「まぁ終わり良ければすべて良しってやつよ。犠牲も無かったしな。」
ユウは残りの怪我を回復させながら陽気に叫ぶ。
「ご主人様、お疲れー。」
萌黄が半身を起こした僕に飛び込んでくる。
「今度もなんにもできなくてごめんね。」
萌黄は若干卑屈なところが出てきた。能力が低いこともあるがその能力に見合った戦果も上げていないと周囲からは思われている。それでも一般兵よりは余程強くはあるのだが。
「まあ、今回は相性が極端に悪かったし、急なこともあったから仕方が無い。また今度頑張れ。」
僕の言葉に萌黄は元気よく頷く。周囲の評価は多少気にするが、そんなところで折れる萌黄ではない。
「急いでということだったので来たであるが・・・もう終わっているであるな。」
紺が軽く土を鳴らして僕の後ろに降り立つ。
「ああ、鈴が紺ならなんとか出来るとか言う話だったからな。鈴が呼んだらしいが・・・」
僕は鈴を指差し紺を見る。紺は微妙に難しそうな顔をして鈴を見る。
「んー鈴がですか。詳細は聞いておりませんでしたので何とも言いかねますが・・・」
紺は鈴と僕を見比べながらバツが悪そうな顔をする。
「んー・・・分かったよ。聞かなかったことにしておく。」
「本当にそれでいいであるか?!」
僕の言葉に紺が期待してたにもかかわらずその結果を得たことで驚く。
「その結果で紺がいなくなると僕が困る。性能に影響しない些細な隠し事を暴いて紺を手放すつもりは無いよ。」
「些細かどうかはアレであるが・・・おおらかというか器が広いと言うべきか・・・恩に着るであるよ。」
僕の答えに紺は手を合せて頭を下げる。
「あとは城内の状況だけど・・・紺、現段階ではどう?」
この話は一端棚上げし、紺に状況を確認する。
「城下には何やら仕掛けが施されているようでありましたが、内容に関しては不明です。恐らく精霊に関する魔法陣ではないかと思いますが。」
やはり進化魔法陣を仕込んでいたか。ただ神谷さん達の初回遭遇の話からすると城下の魔法陣で今の状態になるつもりだったのでは無いかと思う。知識に入れて研究してみないと分からないが、更に進化できるとなると手が付けられないかもな。
「反乱貴族が中心になって城外の対応をしておりましたな。こちらの戦力は一万から二万といったところでしょうが、能力的には高くありませんので無視してもよいかと。ミーバ兵の姿は見られなかったので恐らく城内に入っているのでは無いかと思われまする。」
紺は調べた内容までをざっくり報告する。
「とすると後は菫の潜入内容次第か。よし、このまま城外を制圧する。指揮はクロで。」
僕がそう言うとクロがキッと睨む。
「クロ、お願いよ。」
その様子を見て神谷さんが一口添える。
「丸投げというのが気に入りませんがやって差し上げますわっ。重装兵と軽装兵は前に出なさい。軽騎兵は壁外の周回と逃亡兵の捕獲。」
クロは大きく息を吸って怒りを収め、指揮を始める。
「鈴、鶸とは連絡が取れるか?」
「ういっしゅー・・・・返事はありませんね。」
僕は鶸の状態を確認するために鈴に聞いてみる。鈴は謎の言葉で答え、その結果はやはり交信できないということだった。つまりまだ鶸は捕らえられていると言うことだ。
「もう一悶着あるってことだね。僕らも一通り回復させて城内に切り込もう。」
僕は皆にそういって休憩と回復を促す。
「後で私にも頂けるんでしょうねっ。」
クロが再び僕を睨む。
「僕が回復したら交代だよ、それまで頼む。」
「ふん、貴方のやることなど残すつもりはありませんわよっ。」
「そいつは頼もしいこって。」
心配されてるのか意地を張ってるのか・・・主の違う個体の事はよく分からないなと思いつつ、うつらうつらと瞑想し負荷を昇華していく。反省の多い戦いだったと、戦いの流れを反芻しながら僕は意識を飛ばしていった。




