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僕、調べる。

多くの読者には全く関係ありませんが仕事で時間が取れなかったため少なめです。申し訳ありませぬ。

 降伏勧告をする精霊を相手に僕らは身構え視線を交わす。

 

15ベルク(10秒)だけ待ってやろう。」

 

 何秒だよと思いながらも同時変換される選定者仕様によってどのくらいかは一応理解出来る。ただせっかちなのか精霊なのか、はてまた時間を与える気が無いのか非常に短い時間であった。その時桔梗が何かを選んだかの用に魔法を放つ。精霊は余裕か、そもそも不可視の魔法攻撃に対して防御手段を持っていないように見えもするがその魔法を回避すること無くその身に受ける。ただ桔梗の顔色はそれほど良く無く効果が無かったのかと思わせる。

 

『【遡行忘却】を撃ちました。時間稼ぎにしかならないと思います。倒す為の呪詛ではありませんので。』

 

 【素行忘却】。対象の感覚的に三から七秒前に戻す魔法である。その動作が二から十秒間隔で一分ほど行われる。運が絡む魔法であり、尚且つ頭の整理がうまいタイプだと術の途中でも効果が無くなる不安定さが問題のようだ。なお記憶を消すわけではないので前後の結果に齟齬が生じ混乱を招くというのが結果的に得られる効果である。

 

「ネタが尽きたのなら、最後の慈悲をやろう。我に従え?」

 

 精霊の思考がそこそこ戻り、会話の流れがもう一度行われる。

 

「従ったとするとどうなるんだ?」

 

 そこで流れを変えるために僕が口を挟む。

 

「まぁ下っ端からということは無かろう。教団の中で・・・のなら、最後の慈悲をやろう。我に従え。・・・」

 

 思考と会話の途中で戻るとこう意味不明な繋がりになる。精霊は何を言い出したのかよく理解出来なかったのか会話が止まる。本来ならこういうタイミングで畳みかけられればいいのだが有効打が見つかっていない以上本当にただの時間稼ぎだ。

 

『今のうちに防御魔法の準備を。引き延ばしたところで戦いになることは変らない。』

 

 僕は延命するための指示を出す。

 

「お前等一体何をした?話が過去に戻る?」

 

 精霊の中で整合性は取れないが戻った瞬間はその時の考えになるはずなので、記憶が重複してくればおかしな事にも気がつく。気がつかないのは何も考えない脳筋くらいだ。こういう時に熟考してしまえば袋だたきに遭うが、精霊はその身を無敵と信じて思考を始める。ある程度防御魔法を仕込み精霊の周囲に偏光を重ねる。その後はこちらも思考タイムである。有効な攻撃を探る。

 

『【精神死】・・・』

 

 桔梗の攻勢魔術ランクよりも上の魔法で思考を停止させる精神攻撃魔法であるらしいが。

 

『負荷を超過させた時に即死は・・・無理だねぇ。テキスト通りにダメージが与えられるかも疑問だし。』

 

 撃つだけタダと言えなくもないがこちらの負荷が超過するまでに有効化出来る自信は無い。

 

『それならみんなで【精神殴打】のほうがうまくいきそうよね。』

 

 神谷さんの代案。今一番堅実な方法であるとは思う。精霊の負荷拡散ペース次第にはなるが。

 

『一度効果のほどを確認しようか。条件発動に引っかけて全力でやってみよう。』

 

 僕の提案に神谷さん、桔梗、クロが頷く。集中し条件発動で待機させ、そして合図する。

 

『撃てっ!』

 

 城で行われている喧噪がわずかに届くだけでここでの戦い自体は静かなものだった。わずかな会話と無言の目配せ。そして見えない魔法線。魔力は精霊に向かって伸び七十を越える【精神殴打】が襲いかかった。そしてそれらは精霊の前で無色の魔力的残骸を散らしながら無残に砕け散った。

 

「なっ。」

 

 僕は思わず声を上げたが、精霊は整理が終わったのか何かをされたことに気がついたのかは分からなかったが顔をにやけさせて面を上げた。

 

「精神攻撃か。確かにそれは有効だな。だがそちらは対策済みだ。」

 

 吸収されているとはいえ物理攻撃も効果を発揮し、一部の魔法もそのまま有効だった為勘違いしていたがこの精霊は一部の系統の攻撃に対してだけ特化して防御力を持っているように感じられた。

 

「我とて多数の賛同者を抱える身。どれだけ頭が悪くとも数を集めればそれなりの案は出る物よ。」

 

 いよいよ何を繰り出すか手が出なくなってきた。

 

「お前等の攻撃もそれなりに参考にはなった。やはり我を死に至らせる物は・・・無いっ。」

 

 精霊は自信を持って言い切り歩き始める。光化すれば障壁の効果はあるが通常状態では微量な効果しか見込めないようだ。そして精霊の体を微妙に曲げている事が精霊にとって自分の体が検知器になることを知らせることとなった。

 

「お前等の持つ最大の防御も仕掛けを理解したぞ。あとはなぶるだけよな。」

 

 精霊は人に分かりやすいように醜悪な笑みを浮かべながら歩みを進め自らの体から周囲に向かって二十を越える細い光線を放つ。直進しかせずレーザーポインターを思わせるその光は人を直接害するものではないが周囲に建てられた障壁の存在を浮き彫りにする。

 

「まずは誰がよいかのう。」

 

 僕らの間で緊張が走る。精霊が消えた瞬間にユウが飛びすさる。精霊が選んで手を突き立てたのはクロであったが鏡面化の魔法で即死は免れている。ローブは炎上しクロは即座に魔法で鎮火する。間に合うかはおいておいて消えた瞬間に動くユウの判断はそれなりに悪くないように思えた。クロは風の魔法に自らを撃たせ吹き飛ぶように移動する。すかさずユウが魔力を乗せて吠える。精霊はその咆哮を受けても涼しげな顔である。恐怖や畏怖を与える咆哮も系統的には精神攻撃であり精霊には届かない。振動的にダメージを与える効果も精霊の糧になるだけだ。精霊はニヤリと笑い姿を消す。鈴を除く全員がユウをまねて動く。しかし光から見れば消えたときには到着している。そんな半端な速度ではないのだ。ユウの体が貫かれる。精霊の煽る笑いが癪に障ったのかユウが雄叫びのように声を上げる。

 

「だぁぁぁぁっしゃぁぁぁ。」

 

 背後から貫かれた腕を、触手と自らの腕で絡め取り背負い投げる。

 

「おぉ?」

 

 半実体化しているとはいえ精霊としても投げられるのは始めたかもしれない。そのまま受け身も取らせぬように地面に叩きつけられるが音すらせずにその場に停止する。こういった衝撃も余さず吸収しているためか反動や慣性で跳ねたり滑ることもない。

 

「けっ。」

 

 ユウは悪態をつきながら離れ再生のスキルを活性化させ失血を止める。

 

「ふむ。自分の力で宙を舞わねばこういう感じか。」

 

 その体験が面白かったという用に呟きながら精霊は浮き上がりながら姿勢を正す。人型の姿をしているので姿勢もそういう風になるように機能しているのだろうか。元がどういう形状だったかは分からないが機能を有しているにかかわらず正対という縛りはあるように見受けられた。最もそこに勝ち筋があるのかと言われると微妙なところではある。

 

【地滑り】

 

 単純に足を滑らせるだけの低ランク魔法を使ってみる。滑るところまでは魔法で解決されるがそこそこの身体能力で転倒を避けることも出来る為、元々効果の低い魔法だ。ただ精霊はわずかに浮いて行動しているのでこの手の魔法は意味が無く、このままでは何の意味もない。

 

【土柱】

 

 下からそれを押しつけるように精霊に持ち上げる。本来このような使い方をしても両魔法の主な目的からすれば意味はない。石柱や鉄杭などと違ってこの魔法はその地形を保ったまま形を成す。地滑りを精霊に押しつける形となる。精霊は魔法に接触しさらに励起する柱の移動力により足を滑らせる。

 

「何っ?」

 

 常に浮いている身としては足を滑らせるなど初めての経験だろう。最も滑らせて姿勢を崩しただけでわずかに足の位置をずらし、そのまま意味もなく柱に体を貫かれることになる。非実体の体にだたの土の柱は意味が無いはずだった。ただ僕の予想に反してめり込んだ土の柱は精霊の体を運び二mほど宙に移動させてしまう。何故という疑問が頭に浮かぶが、核は実体化しているという話を思い出す。若干だけ予想外の事が起こったがここまでの一連の流れは思いつきだけで大きな意味も効果も無い。

 

「馬鹿が引っかかってやんの。」

 

 ただの挑発行為である。本来効果的な要素を期待していなかったが思わぬ収穫はあった。精霊は核に依存して世界に顕現している為、核を中心に存在させられていること。つまり拘束が難しいと思われている精霊だが、核自体を拘束するという選択肢も出てきたということ。ダメージは与えられないが精霊もしくは精霊の防御魔法が攻撃と認知しなければ実体は精霊の体を透過することが出来ると言うことである。剣は体表で止まるのに、柱は核に触れているというよく分からない状態になるわけである。多くの信徒を使って防御魔法のあら探しをしたようだが、その対策自体は後付けで歪な防御構成になっていると考えられる。

 

「お前から死ぬか?」

 

 精霊も煽り耐性低く激昂こそしないものの静かに怒りをこちらに向けた。消えると同時では遅い。もうこの時点で予測を立てて背面に障壁を重ねる。そして精霊が消える。

 

「ぐぁ。」

 

 精霊は間抜けな声を出して障壁にぶつかる。

 

「またかかってやんの。」

 

 僕は安い挑発を繰り返す。光化の移動には攻撃力は無いかもしくは少ない。今も障壁が割れていないことを考えると攻撃力は無いか、もしくはぶつかった衝撃さえも変換しているのかもしれない。このまま僕に矛先が向いている間になんとか事が済めばいいが。無限循環している相手に消耗戦など仕掛けても無意味だが今はこちらも考える、検証の時間が欲しい。周りは不安げに見ているが意図を理解したのか手も口も出さない。一端離れて精霊の前に障壁。精霊は消えた瞬間現れ障壁に動きを止められる。精霊は肩をふるわせ怒りに燃える。そして先ほど見た光線を周囲に放つ。光線は何にも阻害されずにその形を保つ。精霊はニヤリと笑いを浮かべる。僕もそれに習って笑みを返す。もう一度障壁を精霊の正面に建てる。次の瞬間、消えた精霊は障壁にぶつかり姿を現す。実際には緊張感たっぷりの時間稼ぎなのだがちょっと楽しい。精霊の予測に反して障壁は攻撃力のない光は透過する。遮断するのは味方でない攻勢と体だけだ。実にアバウトな防御魔法なのである。もう挑発に言葉は使っていないが、僕の顔と震える肩が精霊に取って十分な挑発行為となっただろう。精霊は手を僕に向けてかざす。直感的にまずいと判断する。障壁に期待するよりも偏光するべきだと。下手に曲げて皆に当たっても困るので左脇に落すようにずらす。閃光と共に足下付近が大爆発を起こす。膨大な熱と音、飛び散る礫と液体。何が爆発したのか分からないまま吹き飛ばされどうにか受け身を取りながら転がる。まったく防御無しに受けてしまった為防具の損傷が激しい。わずかに打撲などのダメージを負うが無視できる。現在位置を確認する為周囲を見回し、ミニマップを見る。。砂埃が舞い、小さな小石が落ちる音、精霊の位置からすると二百mは飛ばされたようだ。自分が元いた位置であろう場所には小規模なクレーターがあり精霊が忌々しげに僕を見ている。皆も爆発に巻き込まれたのか若干位置を移動しているが僕ほどでは無い。

 

「ち、これも曲がるのか。光を曲げる力と移動を止める力を分けて使用しているのだな。」

 

 精霊は無くなっていた(・・・・・・・)僕に向けていた手を乱れた映像が正常化するように再生させる。

 

「自分の手を潰してエネルギーにした?もしかして・・・地面が気化爆発したのか?」

 

 状況を整理しきらないまま精霊の目がこちらに向く。後方に障壁前方に偏光を展開する。精霊の体内の光がより一層輝きを増す。

 

「散れ。」

 

 僕に向けた言葉なのか、これから行う攻撃に向けた言葉か分からないが精霊がそう呟くと掲げた手の上に小さな光の粒が多数浮かび上がる。その光が一斉に動き出し、僕に向かって放たれる。避けられないようにするためなのかでたらめに広範囲にばらまかれるように放たれたと分かったのはその軌跡が僕を貫いた後だった。熱いと感じるよりも針を刺されたかのような激痛が体を駆け巡る。偏光に当たって曲げられた光が僕を貫いている。更に精霊の手のひらに輝く光を見て精霊の前に多重に障壁を展開。光は障壁を容易く貫き再び僕を貫く。二桁ダメージ自体とさほど高くないが集中力を乱されるような激痛が体を襲う。

 

「ふむ、思ったより雑な攻撃のほうが有効か。気分はよくないがいたぶれそうな分だけ良しとするか。」

 

 精霊は成果が気に入らないようだが、確実な有効打が得られると言うことで渋々その攻撃を選択し続ける。攻撃自体は光なので4セット目には鏡面化の魔法を施し、貫通ダメージだけは回避する。しかし乱反射された光が味方に飛ぶこともあり余り良い状況では無い。

 

『見ていられません。』

 

 神谷さんが我慢できずに偏光を追加で足す。経路が複雑になるだけであらゆる角度からせまるその攻撃は経路を変えるだけで僕に届かなくなるわけでは無かった。精霊の攻撃も燃費がいいのか止まること無く続けられる。本来なら壁でも建てて引きこもる所だが皆にターゲットが変っては意味がないので当面耐えられる内は続けるつもりでいた。

 

『ご主人様に選択肢があります。』

 

 やり過ごすための対策を考える中、普段提案など皆無の鈴から言葉が届く。視線をそちらに移すとやはり怠惰そうに蟹の上で転がっている鈴がいる。ただその顔はなんとなく寂しそうにも見えた。

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