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僕、攻められる。

「足止めしていたものがこれほど早く戻るとは・・・」

 

 見た目は中性っぽく男女の区別が付かず、ただ声は高めで澄んでおり女性を思わせる。多くの人はそれを女性と思うだろうと感じる。

 

「どこからかウチの技術パクってくれちゃって、そこそこ苦労したよ。あげくにやるつもりの無いことまでやってくれちゃってね。」

 

 僕は警戒して防御魔法を組ながら苦情を言う。

 

「あれだけの知識を持っておいてこの体たらくとは・・・ゲームの趣旨を勘違いしているのではないのか?なれば我が活用してやろう。」

 

 光輝の精霊もそれを受けて言い返す。そして何かを探すように周囲に視線を移す。

 

「正直お前の世界の知識は惜しいのでな。このゲームが終了するまで我に忠誠を誓うなら生かしておいてやってもよいぞ。」

 

 光輝の精霊は慈悲をあたえると手を差し伸べる。

 

「ただ、もう答えは分かってんだろっ。」

 

 僕は断りを入れながら精霊の周囲に(・・・・・・)防御魔法を展開する。それと同時に【暴威纏雷】を投げ込む。

 

「ならば死ねっ。」

 

 精霊からは魔力を感じず、そして精霊はこちらの魔法を無視し行動に移る。電撃荒れ狂う空間には精霊の姿はなく僕は若干だけ冷や汗を垂らす。本当に瞬間移動だなと思いながら相手の予想移動位置である左手の空間に視線を移す。そこには光輝の精霊が予想外といった顔をしてたたずんでいる。移動、攻撃をワンセットとしているのか一際強く輝く右手が何も無い空間に突き出されている。出現位置と手の動きからすると一応狙いは僕だったかと推定される。

 

「お前一体何を?」

 

「教えるか馬鹿。」

 

 精霊が若干動揺している隙に僕の前方に同じ防御魔法を壁状に立て、それを迂回して光の槍を速度重視で五本打ち込む。精霊は攻撃に警戒するがその様相を見て気を緩める。僕はその様子を魔法の着弾と共に確認し、事前に予想していた通りの結果になったであろうことを認識した。光の槍は精霊に当たるが、傷一つ付けること無く精霊の中に消えていった。精霊は得意げな顔でこちらを見る。

 

「確認作業はもう良いのか?」

 

「余裕だね。その秘密がすべて暴かれたときがお前の死ぬときだろうに。」

 

「もはや知られて終わるような仕掛けでは無いわっ。」

 

 精霊は返答と共に姿を消す。そして僕はその予測移動地点に向けて【爆発】の魔法を重ねる。相手の存在など確認しない。

 

『ちょ、ちょ。どうなってるの?』

 

 神谷さんが一連の行動の混乱から立ち直って確認してくる。僕はのんきだなと思いながら爆破先を見る。

 

『相手は一瞬だけ光そのものになれるような能力を持っています。防御魔法で光の移動をねじ曲げているだけですよ。』

 

 神谷さんに対する返答であるが、談話室全員に情報共有として伝える。【偏光】という通過する光を指定した方向にねじ曲げるだけのランクⅢ相当の魔法である。システムが起こす魔法的な理不尽により通常視覚に入ってくる風景の光はねじ曲げない。だが鏡に映った光はねじ曲げたりとねじ曲げる光の敷居がよく分からない魔法の一つである。暫定的に『システム的に自然でない、作られた光をねじ曲げる』としている。ただし幻影で作られた象はそのまま見える当たり必ずしもすべてこの法則に収まるわけでは無い。若干賭けみたいな所はあったがかの精霊の光形態(仮)はこの魔法の影響を受けてねじ曲げられるようだ。そしてこの影響を回避出来ない即座に認識出来ないことから光形態中の思考速度は移動速度ほど上がらないということだ。実際に地球七周半するような実際の光速になっているかは不明だがこの短い距離ではどこまで再現出来ているかは誤差みたいなものだろう。十%程度でも人間には認識出来ない速度になるはずである。そしてそれは精霊にも当てはまり行動を決め打ちして光形態を使用していることが窺える。最初に攻防の流れの通り移動と攻撃がワンセットであるようにルーチン化しているのか、設定せざるを得ないのだろう。そしてその光形態になる為に大きなエネルギーを使うのか僕ら全員を殴り倒すほど長く維持できないことも予想できる。乱用できるなら神谷さんが接敵したときにトウと一緒に殺されているはずだからだ。倒せないからといって鈴を理由にして撤退する理由は全く無い。

 

『対策がないとかいいつつあるんじゃないですかー。』

 

 神谷さんが少し余裕を取り戻したのか愚痴をこぼす。

 

『設置時に設定した通りに曲げるだけだし、そもそも効果があるか分からなかったですしね。曲げ角を予測されたら意味が無くなるんですよ。根本的な対策にはなりません。』

 

 内心ため息をつきながら返信する。

 

『あと光そのものを糧にしているのか純光攻撃は精霊の餌にしかならないみたいですね。』

 

『あー、そういうのも駄目なんだ。』

 

 神谷さんは光攻撃が大好きだったので得意科目が無くなったくらいの残念さはあるだろう。

 

『どちらにせよあの防御の秘密を暴かなければ倒しようが無いと言うことですね。』

 

『アイツの余裕も気になるけど、それを知ることは最低ラインだね。そもそもあの攻撃だってかなり脅威なんだけどね。』

 

 小話を続けながら条件発動を付けながら【鏡面】の魔法を自分に使用する。

 

『・・・その効果の自信のほどは?』

 

 クロがその作業に気がついて尋ねてくる。

 

『やらないよりマシ・・・くらいかな。』

 

 【偏光】【鏡面】と光に対応する魔法はこれらを基本としてそこそこ開発されている。それだけ光系の魔法は対策が無ければ対処が難しかったのだろうと窺える。ただ光そのものが与えるダメージの根源は熱である。相手のエネルギー量次第ではあるけど概ね強力な耐熱があればしのぐ事ができる。神谷さんには悪いけど布の防具は大層相性が悪かろう。鏡面の魔法は光をその壁に接触した時点で地球的な物理挙動に従って反射することは分かっている。だけど接触面にエネルギーが与えられない訳ではないので光ダメージを無効化するわけではないのだ。聞いていたような貫通即死を避ける為に使うといってもいい。余力があっても欠損即死とか目も当てられない。

 

「妙な個体に妙な現象。お前が我が驚異の元凶か・・・」

 

 精霊の関心が完全に僕に傾き優先排除対象になったであろうことを感じる。あの精霊の世界では物理は発達していないのかもしれない。あと鈴が変なのは僕のせいじゃないから巻き込まないで欲しいと心から思う。さて次はどうするか。偏光防壁を斜めに立て思いっきりねじ曲げて直角どころか反転するように操作する。これまでの行動から予想するとあの精霊は魔法に関して詳しくなく、また魔法の痕跡を見たり術式の解析もしない。元々自らが持っている力を純粋に伸ばして強くなっているのだろう。ただこちらの知識をがっつり持って行った割に魔法を軽視している状況はよく分からない。興味を感じるところに著しく偏りを感じる。爆破のダメージは無いのだろうが光る体を見ても傷ついてるのかさっぱり分からないのも困る。神谷さんによると画像が乱れたみたいになるという話なのだが。今の所そういった様子はない。精霊もむやみに突っ込んでもどうにもならないと気がついたのかこちらをみて何か思案しているように見える。

 

『もう閉じ込めてチャフだらけにする案をやってみません?』

 

 神谷さんは没案を今一度提案する。

 

『ごく短時間なら閉じ込められるかもしれませんが・・・まだ油断している今がやり時ではありますかね。』

 

 効果の程は限定的で、まずどう閉じ込めるかが課題である策なのだが何を使おうとふと悩む。そして一瞬の後精霊が消える。反射的に出現予定場所に石槍を打ち込む。しかし石槍の位置に精霊はおらずもっと手前側に立っているのが見える。しかも攻撃を行っていない。さすがに単調すぎてネタバレしてしまった。すかさず偏光防壁を張ろうとするが精霊の姿が消える。移動だけなら連続でできるのかと思った時には背後から攻撃を受けてしまった。しかし事前に準備しておいた鏡面により精霊の手は僕を貫くこと無く準備していた通りにバーナーを思わせる光を反射している。

 

「ふむ、まだ小賢しい手を隠しておったか。」

 

「それはお互い様だよね。」

 

 いい加減熱いわと文句を付けながら収納から取り出した真銀剣を振り抜く。しかしわずかな抵抗感も無く精霊の体表で止められる。聞いた話だと非実体という事だったのにそこには何か物があるかのように止まっている。追加で力を込めても押し返される感覚もなく力を込めて握り混んでいる柄の感触だけが残っているようでものすごい違和感を感じる。

 

「当てられたか。お前ならそろろろ至るか?至りて絶望に震えるがいい。」

 

 精霊はそんなことを呟き手を引く。僕はその行動に合せて剣で引き切る動作を行うが、見た目はガイドに沿って剣を引いているようでありながら手に残る感触はただ剣を引くような手応え。やっている動作と感触が全く一致せずに頭が混乱する。僕は一端後方に飛びずさり、それに合わせて精霊も後方に引き距離が離れる。

 

『実験をしているようで手を出しかねるが、そろそろ斬り込んでもいいか?』

 

 ユウが神谷さんの周りで警戒しつつも尋ねてくる。

 

『そろそろ方針を決めなさいな。』

 

 クロも続いて参戦可否を尋ねる。

 

「打撃エネルギーを零にしている?・・・いや運動エネルギーそのものを吸収している?」

 

 僕は少し混乱したまま呟く。

 

「さすがに知識の大本は違うな。信者などは神の御業と賞賛するばかりで何も考えなかったがな。やっていることはそこの娘と同じ事よ。」

 

 精霊は種明かしをしたくて仕方がなかったのか呼びかけるように声をかける。神谷さんは私?と言わんばかりに首をかしげる。その言葉に反応するように僕は神谷さんを見るそして精霊に向き直る。

 

「いや、おかしい。それはおかしいでしょ。」

 

 僕が思い至った事を頭で思い描くが精霊のやっていることがそもそもおかしい。

 

「何がおかしい。我は光輝の精霊ぞ。光の操作などお手の物よ。得られたものをその身に変えているだけでしかないわ。」

 

 精霊は否定されたことを何がおかしいと逆に問う。自分だからこそ出来ているのだとも主張する。

 

「ど、どういうこと?」

 

 神谷さんが話しについて来られずに声を漏らす。

 

「所謂E=mc^2。エネルギーと質量は等価に変換できるという式。あいつはそれをc=√(E/m)にして防御に使ってるんだ。」

 

「え?それ、おかしくない?」

 

「そのおかしいことをアイツは実践できているんですよ。」

 

 僕の説明を邪魔すること無く精霊は聞かせる。あの精霊はこれを弱点だと思っていない。むしろそれを知ったら絶望しか無いと思っている。精霊に行われた攻撃、すなわちエネルギーをすべて光に変換して自分の糧にしていると精霊は言っているのだ。cである光速という数値は真空中での光の速度というただの固定値だったはずのものを、精霊は変化させながら糧にしているという。ていうか速度っていう現象を食べてることになるんだけどどういうこと?それともc√m=√Eが光そのものになるの?どういう計算式で成立しているかは分からないが、すべての攻撃はあの精霊を回復させる行為ということになる、らしい。

 

「理解出来たか?どうあっても、この世界が物質に縛られている限り我を害することは出来ぬ。」

 

「そう言って前はちゃんと傷ついたでしょっ。」

 

 精霊の煽り文句を聞いて我慢できなくなったのか神谷さんが精霊の周りにチャフをばらまく。しかしそのチャフが精霊の体に当たると表面を滑るように落ちていく。

 

「それが我が体をねじ曲げるというなら体に入れなければ良いだけよ。」

 

 その様子を見て神谷さんがショックを受ける。ただその労力も全くの無駄では無く能力の稼働に魔力の流れを見ることが出来た。あれはあくまで防御魔法なのだ。それならばそれを解呪できれば勝算はある。

 

「おっと無駄に努力しないために忠告だけしてやろう。この魔法は負荷を代償に瞬時に展開できる。負荷を負った体はそのまま攻撃に転嫁する。失った体は防御ともう一つの魔法で取り戻す。」

 

 精霊が指を鳴らす動作をすれば精霊の体内に強い別の輝きが見て取れる。灯火や閃光のような魔法で自らの体を再構築しているのだろう。人間にはおよそ出来ない精霊らしい無限循環といえる。ただそれだけだと光形態を頻繁に使えない説明ができない。まだ何か隠されていることがある。そこに穴があるか調べるしかないか。

 

『よくわからん、どうすればいい。』

 

 ユウはあっさり思考を放棄して解答を求める。

 

『現状・・・何も出来ませんわね。こちらが消耗して相手は回復。相手は自己増幅手段があり防御は完璧。あの防御魔法を突破する手段を見つけない限り打つ手はありません。』

 

 クロが得られた情報をかいつまんで説明している。

 

『エネルギーに該当しない攻撃ならどうなのでしょう。』

 

 様子を伺っていた桔梗が口を挟む。

 

『運動エネルギーも、熱も、電気も全部食われるとおもうけど・・・エネルギーでない攻撃?』

 

 僕の解答に桔梗が頷くようにして魔力を集積する。

 

【絶対冷却】

 

 桔梗は精霊の周辺を瞬時に凍結させる。精霊の周りに霜が輝く。

 

「浅はか。」

 

 精霊が消える。桔梗の側面に現れそのまま桔梗の胸を貫く。僕はびくっと驚いたが桔梗も鏡面防御を行っており即死には至っていない。それどころかそれを予想していたと言わんばかりに次の手を繰り出す。

 

【影拘束】

 

 桔梗は燃えるローブを翻しながら離れるように体を回して呪詛拘束を打ち出す。精霊は三次元に飛び出す影を見ながら何?といった様子で見る。無敵の余裕なのかはてまた弱点であればそれを修正するつもりなのか、興味を持った物を少し眺めている。しかし伸びる影は精霊に当たるなり形を崩し呪詛にかかる様子すら無い。桔梗は選択を間違えたかと少し悔しそうだ。そもそも呪詛にかからないというより、光そのものであるあの精霊に影の概念をぶつけても影を映す物がなければ存在するわけも無く光に紛れてしまったのだろう。実体の無いものを実体の無いもので縛ろうとしたが少し相性が悪かったようだ。

 

「ふむ・・・何か分からんかったな。やれることがあるならまだ試すがいいぞ。お前等の命ある限り付き合ってやろう。」

 

 弱点があるか計っているくせにどんな攻撃をされたか調べもしない。やり方が雑というよりも傲慢と言ってもいいだろう。ダメージを受けたときだけそれを修正する腹づもりで、致命打を受ける事は全くないと思っているようだ。この余裕である内に致傷攻撃を見つけなければ。

 

『分子運動の停止も難しいようですね。影が分解したのは少し考察不足でしたね。』

 

 桔梗はまず思いついたことを試して見ようとしたようだ。下手に考えるよりもいいかもしれない。中途半端に有効な攻撃がなされなければだが。

 

『影拘束はともかく呪詛や精神攻撃はいいかもね。もっともそっち方面はあまり研究してないけど。』

 

 呪詛は前提となる条件を数多く満たさなければ効果が薄く、合致すると強いが今のように満たさなければ全くの無駄。むしろ相手を決めた後専用の呪詛を作るくらいのつもりで使うものだ。汎用呪詛は効果を限定的にして効果範囲を広めたものだ。精神攻撃に至っては術者と精神構造が剥離するほど効果が薄い。地域、言葉、民族、文化、種族。知的生命体はちょっとしたことで考え方が変ってしまう。同じ言葉に聞こえても意味が違ったり、怖がらせようと思ってもそれが相手にとって恐怖対象とは限らない。そもそも効果結果が負荷を与えるものが多く、どういうわけか負荷を体ごと切り捨てられるあの精霊には効果が皆無といえる。精々トラウマを呼び起こす魔法くらいだが・・・怯えて逃げてくれるくらいならまだいいが激昂されると目も当てられない。

 

『非実体用の拘束魔法がありましたでしょう。』

 

 クロが割り込むように提案する。

 

『んー、調べたことないな。』

 

『出会ったらどうするつもりでしたのっ。』

 

『出会ったら殴り倒したしねぇ・・・』

 

 クロが口をつぐんで怒りの念だけ送ってくる。スペクターとか相手なら拘束する前に殴った方が早かったしな。クロが神谷さんに視線を飛ばし神谷さんが頷く。二人の間で魔力が行き交う知らない動作が行われる。

 

【アストラルバインド】

 

 二人で詠唱し一つの魔法を発動する。それそのものが合体魔法というよりも一つの作業を二人で行うスキルのように見受けられる。魔力の波が精霊に迫り精霊を縛る。精霊は魔力を見ないので動けなくなったことが何か魔法を使われたというくらいしか思いつかないだろう。

 

「ん、動けなくなったな。で、どうするつもりだ?」

 

 実は僕も思っていた。動けなくして攻撃を叩き込む、無力化する手段があるならともかく現状動けなくしたところで時間稼ぎでしか無い。クロも勢いでやってしまったが『どうしよう』みたいな顔をしている。思いのほかせっかちな性格のようだ。神谷さんも苦笑いである。とりあえず有効なのは分かったな。重力もブラックホール持って来いって言う位だから余り意味はなさそうだ。実際にはちょっと違う存在だが。空間そのものを断絶するような能力なら切れるんだろうけど、ベニオがいない今それも難しかろう。今更ながらに惜しいヤツだ。空間ごとは無理だがようは光をねじ曲げるような能力ならダメージを与えられるのだろう。チャフが良い例である。光で構成されている相手の体を散らすだけでダメージになるのだ。今はその体に侵入されないように遮断しているが。そう考えるとやはりあの防御魔法そのものをなんとかしない限りダメージを与えられないのだ。そこで思い至った行動を行う。

 

【無形槌】

 

 気体に働きかけて圧力差をつくりまるで殴ったかのようにダメージを与えたり障害を与える魔法である。しかし精霊に当たると吸収されてしまう。

 

「愉快な攻撃ではあったが・・・足を止めてまでやることか?」

 

 精霊は攻撃の性質を感じ取ったようだが首をかしげるばかりで意味を理解していない。

 

『あの式が成立しないような攻撃をする。』

 

『どのように?』

 

 僕の宣言にクロが反応する。

 

『質量の無い攻撃だ。』

 

 僕はそう答える。式の根本がc=√(E/m)で成り立っているなら質量が零なら光速が無限大になる。もっとも精霊が光そのものであり光速以上の速度があるものは存在しないことが前提になるが。

 

『光は・・・そもそも吸収されてしまうのですよね。代謝がなければ毒も意味が無く、血液が無ければ失血もない。他に質量が無いものっって・・・』

 

 神谷さんが悩み始める。桔梗はそちらの方面は一端置いて手持ちの呪詛でなんとかならないか検討を始める。トウは守る仕事があるが、ユウと鈴、萌黄の考えない組はまったく仕事が無くなる。乱打して足止めしようにも相手の糧になるので難しく、本当に暇な状態だ。萌黄の人形劇で嵌め殺す手もあるが、役通り動けるかは未知数だな。終劇と共に死ぬという役がある劇がありそれに巻き込むとうまいこと立ち回り最終的に敵にその役を押しつけられれば死ぬというネタみたいなのがあるのだ。相手が劇場から逃げてもダメだし、今みたいに拘束し続けても駄目。多分使うことはないだろう。そして神谷さんが思いついたように動く。

 

【シェイドジャベリン】

 

 黒く細長い立体感の感じられない槍のようなものが精霊に向かって飛来する。精霊は興味深そうにそれを受け止めそのまま取り込む。

 

「光の反対が闇と思ったのか?本質は同じ物ぞ?」

 

 光が反射すれば白、吸収すれば黒。輝く光が消えればそこは漆黒の闇。どうにもあの精霊にとっては両者は同じ物として扱われるようだ。いよいよ呪い殺すかという感じになってきた。神谷さんはかなり残念そうだった。

 

「ネタが尽きたのなら、最後の慈悲をやろう。我に従え。」

 

 精霊から最後通牒が告げられた。

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