僕、攻めるつもりになる。
天使兵が迎撃してくれたことで若干の余裕が生まれたが王都が陥落していることには変わらず速度を落す理由にはならない。状況は気になるが鈴がマメに連絡してくるわけでもなくもやもやした時間が続く。結局連絡が来たのは区切りが付いた四時間後という結構な時間になった後であった。
『王都は助かりましたが敵選定者には逃げられ兵もほぼ全損しています。神谷嬢の助けは得られそうですが侵攻しますか?』
それでよく攻め込もうと思ったなと思いながら思案する。なにせ得られた情報からして彼女らだけで奪還に向かわせる理由もなく、余裕のない負荷を負って合流の指示を出す。鈴からも端的に了解の意が返ってきて一息つく。
「取りあえず王都が全壊するというのは避けられたみたい。一端鈴達と合流する。」
寄ってきた菫達に通達して合流地点に向かう。日が落ちて周囲の把握が困難になるが警戒は菫達に任せて警戒陣地を配置する。設置してしばらくすると見張りの斥候兵から鈴が来たと連絡が入る。お互いの能力と周辺状況からすると心配する理由は全く無いのだがそれでも迎えに行く。
「ご苦労様。大分時間がかかったね。」
「移動手段が少なかったもので。」
神谷さんの為かかなり小さな灯りが点されている。その周囲にいる蟹にはピラミッドを作るようにミーバが乗っている。
「過積載かな・・・」
「色々組み合わせて一番ましなようにしたんですけどね。指揮権はお返しします。」
鈴が珍しく歩いているかと思えばそういうことか。受け取った指揮権で状況を確認し隊列を整えて軍に合流させる。
「お久しぶりです。先日はご迷惑おかけしました。」
鈴と話している間に神谷さんが近づいてきて頭を下げてくる。
「いえ、こちらこそ。今回は助かりました。」
お互いペコペコ頭を下げ合っているおかしな状況になる。それがどうにもおかしかったのか神谷さんは腹を抱えて声を殺して笑う。ツボの入りどころがよくわからん。そんな彼女の姿を眺める。
「お前の手配のおかげですんなり合流できたぜ。ありがとよっ。」
ユウが前に出てきて礼とも思えない礼を述べる。
「打算的な所もあるし、結果的にそれがうまくいってこうなったから礼といえばコレみたいにお互い様だよ。」
「コレとは何ですかっ、コレとはっ。」
未だ身動き出来ない神谷さんを親指で指しながら言うと今度はクロが噛みついてくる。もうぐだぐだだと思いつつも皆が無事で一安心といった感じだった。後は鶸が無事に救出出来れば万々歳である。
「見苦しいところをお見せしました・・・」
テントの中の円卓で引きずられてきた神谷さんが机に突っ伏して平謝りしている。
「まぁお気になさらずに・・・」
僕が言ったところでなんの気休めにもならないだろうが。
「王都に関しては改めてありがとう。管理者として礼を言わせて貰います。これから奪還に移るわけですが場外戦の状況を詳しくお聞きしたい。」
お礼合戦は一端切るところとして、当時の状況を確認する。鈴から聞いてもよく分からなくなるのでその他の当事者達から状況を順に聞いていく。
「魔方陣にミーバが喰われたと・・・」
ゲームでは何度かお目にかかったシーンでもある。対象は精霊ではなかったけど、生け贄で召喚とか進化とかはファンタジーの中では定番と言ってもいいだろう。強くなり方は元々の世界の方法も使えるのだろうか。選定者の精霊は自己強化の為に罠の一つとして用意したのではないかと考える。ただ条件によっては不発で終わりそうな物を罠として使うのはどうかとも思う。うまくいけばラッキー程度だった可能性もある。ただそんなことで自己強化が出来るなら王都の住民を使って同じ事をしそうな気もする。様子見をしていたら廃墟になりそうだ。
「後は攻撃が効かない、もしくは無効化する能力か。」
光輝の精霊と名乗った選定者に攻撃が効果が無かったことが一つの懸念材料だ。ダメージらしいものはチャフのような精霊の体をねじ曲げたもののみ。攻撃と認識していなかったから防御力としての効果をなさなかったのかは個人かシステムの判断なのかは不明。完全無敵ではないのは朗報だが正直光を曲げる能力だけで精霊に致死ダメージを与えるのは困難に思えた。竜巻に銀紙でも投げ込むか?そもそもアホみたいな速度で動ける相手にやって言い手段でもない気がする。拘束するか罠に嵌めるか。正面から攻撃しても効果は薄そうだ。準備期間が取れない状況でギミック系の敵は面倒くさすぎる。
「弱点っぽいコアが有るみたいだから【質量欠損】は自信あったんだけどなぁ。」
神谷さんは机に体を投げ出し愚痴る。
「確かにアレを瞬時に無効化できるのはまいるねぇ。」
そういうものがあると分かっていれば僕も無傷でやり過ごすことはできるが無効化するのは手間がかかりすぎる。相手はそれを瞬時に行っており、汎用的にそのような攻撃を無効化出来る可能性は高い。
「コアかぁ・・・精霊に核があるのもちょっと珍しいかもね。」
「この世界における霊体の類いでもコアを持つのは稀というか私の記憶にはありませんね。」
クロも何かいただろうかと考えていたが思い当たる物はなかったようだ。知ったところでどうにでもなるわけでもないが『本』で条件検索する。幾ばくかの待機時間の後いくつかの魔物が該当した。ただそれらはコアが本体というかコア単体で一つの生命体であり、ガワとして非実体を纏うような存在で霊体そのものが本体であるようなゴーストやエレメンタルに該当する魔物はいなかった。
「確かに本で調べても該当はないみたいだね。」
「そうですか・・・記憶違いでなくて何よりです。ということはあの時驚いていたのは、コアが見つかったことではなく、無いはずのコアがあったからですかね。」
クロが当時を思い出しながら語る。
「選定者全員が非実体を攻撃できるわけじゃないからハンデみたいな物なのかな。」
選定者が特別な存在であることは予想に難くないが、神のお遊びが絡んでいるのでそういった選定者間の平等性があってもおかしくはない。最も現状はそのコアがあったところでダメージを通せるかは疑問ではあるが。
「あとは鈴を嫌って逃げた?鈴にダメージが通らなかった事を相手も嫌ったってことかな。」
「怪しんでいたのは確かですね。防御に使用している何かが消耗が激しくて持久戦に向いていないとか。もしくは王都に何かしら用があったかですが。」
僕の疑問にトウが見解を述べる。
「鈴以外を倒せば問題無い状況でしたでしょうに。逃げる理由がわからないですわ。」
クロが反論するがユウが何か身振りをして注目を集める。
「なんて言うかな・・・俺たちは知ってるけど、普通に考えたら鈴の攻撃力がほぼ零ってわかんなくねか?」
「あー・・・それはあるか。」
「親切に説明して差し上げようとしましたのに、突然攻撃されましたからね。」
ユウの言葉に僕はなんとなく納得し、鈴も態度だけは何やら怒っているように無感情に補足する。
「せっかちなのか慎重なのか。トウが言ってたように準備を優先した可能性もあるしね。性格の一つとして考慮しておこう。」
その後話し合ったが解呪するにしても、別途ダメージ手段をとるにも相手がいないことには分からない、燃費は悪いだろうという予測しか立たず建設的な対策は立てられないまま夜を明かすことになった。
「結局行き当たりばったりか。勘弁してほしいなぁ。」
僕は軍を整列させながら愚痴をこぼす。
「今まで行き当たりばったりじゃないことがあったでしょうか・・・」
驚きの表情で菫が僕を見る。さらっと酷いこと言ったね。
「力量差が明らかで対策すら必要ないとか、概ね相手の能力に予測が立っていて・・・どうやっても臨機応変に押さえ込めるときとは訳が違うよ。」
僕は弁解する。
「んー、まぁそうですね。そうですよね。」
菫は何やら考えながら自らを納得させるように呪文のように呟く。むしろ君たち僕を持ち上げすぎだと思うよ。
「それで今回はどうなさるので?」
桔梗がその辺りをすべて無視して、むしろそれすらも問題ないとして全幅の信頼を僕に向ける。
「王都の残存兵力が分からないから、というよりもまた突っ込んで生け贄にされても困るので軍は外縁で攻める振り、牽制を行う。連絡用に鈴と神谷さん達にそっちをお願いしたいと思う。菫は先行侵入してまずはグラハム達と鶸の安否を確認して欲しい。余力があれば救助まで、だね。紺とヨルとで城下の調査をしてもらって生け贄魔方陣の有無と敵の所在の調査を頼む。」
僕の指示に菫と紺が頷く。ヨルは突然指命されてびくついている。
「城下を壊すくらいのつもりで良いですわよね。」
クロが強きに言う。
「出来れば避けたいけど、この際構わないよ。民衆そのものに被害が出なければね。」
僕は苦笑いで答える。
「ただ範囲が分からないことには踏み込めないということですよね。」
「そうだね。最悪こちらの軍勢で条件を満たしてしまうかもしれないからね。」
神谷さんの確認に僕は現状の見解を述べる。
「既に条件を満たしている可能性もありますわよ。」
「儀式によっぽど時間がかかればそうかもしれないけど、現時点で発動してないからそれは多分無いと思う。こちらから攻め込んで積極的に応戦してくるようなら数は足りてるんだろうし、引き込もうとしているならこちらを必要としていると思う。儀式がないとしても反乱軍の応戦はあると思うけど。」
「判別は難しいですわね。」
クロが悩む。僕もそんな簡単に解決出来るならそこまで悩まない。
「ある程度城下の調査に判断がついたら僕と桔梗、萌黄で選定者にアタックをかける。一度は退却前提かな。早い段階で当たりが付けばいいけど。」
「臨機応変とは便利な意味ですわね。」
「そこを蒸し返されても反論しようがないね。結局ぶつかって見ないことには正体が分からないんだし。ミーバ兵相手に本気になってくれるような相手じゃないでしょ。」
「ごもっとも。」
僕のプランにクロが嫌みったらしく苦言を述べるがやってみないことには判断が付かないのだし仕方が無い。臨機応変、実に言い言葉だ。
「ではこちらも動くであるよ。」
「ご主人様、行って参ります。」
紺が小話は終わったかという感じに顔をのぞき込ませながら走り出す。行きがけにヨルの肩を叩いて一言告げていく。菫も斥候兵を三体ほど連れて走って行く。
「よろしく頼むよ。」
去って行った後に聞かせるわけでもなく呟く。
「指揮はクロの方が良いんだっけ?」
「完璧でしたよ。」
僕は鈴に確認を取る。鈴も親指を立てて推す。最も鈴は仕事が無くなるなら誰でも推すだろうけど。
「そう言って責任を押しつけるのは止めていただきたいですわ。」
クロは頼られてまんざらでも無さそうだが押しつけられても困ると体裁だけ繕っている。
「遊一郎さんはどうします?」
「僕はしばらく軍の後ろに潜んでるよ。迷彩だけ張っておくから視認はされないと思うけど。まずそうなら手伝いはするよ。いきなり前面に出てくるタイプでは無いと思うのだけど・・・仮にも本を選んだ選定者だからね。知りたくなって出てくることはあると思うよ。」
僕がそういうと神谷さんが身を固めて喉を鳴らす。
「ま、こっちとしちゃその方が色々試せていいだろ。」
「守護対象が近いのは助かります。」
ユウとトウは強気で迎える気満々だ。
「その時は頼むよ。」
僕の言葉に皆が頷く。
「では進軍しよう。」
僕の軽い合図と共にミーバ兵が動き出し王都へ向かう。特に迎撃もなく王都外壁までたどり着く。
「さぁやっちゃいますよ。」
神谷さんがちょっと気合いを入れて詠唱に集中する。
「お手並み拝見。」
詠唱の内容をぱっと見で理解し小声で呟く。
「ご主人様楽しそう。」
萌黄が横でのんびりと感想を漏らす。
「王都防御機構が機能するかどうかの試験でもありますしね。爆撃機の突貫に関しては反省点ありでしたね。」
僕がにやりと笑って神谷さんの詠唱完了を見守る。気軽に攻めると言ったが連絡してないことは多数ある。知れば対策を取りようもあるが多少の手順が省かれるだけだ。元々囮という性格上多少の消耗は気にしないし、だらだらと戦って貰える分には教えない方が自然に時間が稼げる。
【巨岩落石】
攻城魔法として定番の魔法。巨大な岩を持って城壁を破壊する目的の魔法である。最もその範囲からして足の遅い軍隊にも有用である。こんな形をして魔法攻撃というのは身を持って証明している。周辺には敵味方問わず被害がでるので近寄らないのは当たり前。巨岩の自由落下の都合で着弾まで時間がかかりその間に対策、回避が可能なのもこの魔法の大きな欠点である。故に動かない建物に使うのが通例である。この世界でも広く使われているこの魔法に対応しない理由は全く無い。城壁から白い光線が飛び落下中の岩に触れる。いぶかしげにその光を見る神谷さんとクロ。ユウは悪戯を脇から見て楽しむように眺めている。巨岩は着弾前に分解しその塵を空にばらまく。
「えー。」
神谷さんの気の抜けた声が響く。まぁまぁ。想定していた機能は想定通りに機能し僕は満足した。敵魔術師の対抗かと思ったのか神谷さんはムキになって再詠唱を始める。思ったより負けず嫌いな人だな。クロは仕掛けに予想がついてか恐ろしい顔で僕を見る。ノーノー。僕は手を振って誤魔化す。多重詠唱、連続発動、複製発動。三系統同時詠唱に追従して発動し、更にそれを二系統複製したものを別場所に展開する。コレが彼女の展開数の全力だろうと思わせる落石十個が城壁に向かう。惜しいな。もうちょっと範囲を絞って撃てば四発は通ったろうに。魔術師を想定した神谷さんは広範囲に渡って落石を散らせた。城壁の防御機構にとってそれは悪手である。先ほどと同じように白い光線が巨岩を分解する。
「もしかして城壁に何か仕込んでるの??・・・ていうことはこれ、遊一郎さんの仕業じゃないっ。」
神谷さんが遅れてふくれっ面をして僕に振り向く。それがおかしくてちょっと笑い出してしまう。
「知ってて黙ってるとか酷くない?」
「主殿、もっと言ってやってください。」
神谷さんは本気で怒っているかも分からないような顔で怒りを表現し、クロはそれを焚きつける。
「いや、ごめんごめん。いきなり侵攻しても困るからさ、実験も兼ねて黙っていたんだ。」
僕はひとしきり笑った後詫びる気も無いように形だけ謝る。
「六ランクくらいまでの単発なら届かないと思うよ。たださすがのあの数は防ぎきれないね。時間的に五個か六個くらいが限界だと思う。つくずく選定者相手には効果の無さそうな防御機構だ。」
僕は笑いを引きずったまま種明かしをする。
「広範囲でもあと七、八回やられたら貯蓄魔力が切れるかも。そこまでしつこくやられることは想定してないかな。」
「どれだけ蓄えましたの・・・」
僕の言葉にクロが呆れる。いくつかの魔法限定に対する対抗魔法とはいえ五百も用意してないよ。それでも結構高いんだからねっ。
「出来なくはないけど・・・そこまでやる気になるかっていうと諦めるかなぁ・・・知ってればやるけど、知ってたら一点突破するよね。嫌らしい防御ですね。」
神谷さんは感心するか呆れるかよく分からない声で感想を述べる。
「他に仕掛けはあるんですか?」
「有るけど・・・時間稼ぎが目的だしぼちぼち知らない振りしてやってよ。」
神谷さんが答えを聞いてくるが僕ははぐらかす。
「貴方と合流しているのが分かっているのに対策を立てていないのは問題ではないですか?」
クロが率直な疑問を尋ねる。
「貴族連中はそこまで考えないと思うけど・・・んー、壁を開けても攻められないしなぁ。悩ましいね。」
「取りあえず別手法で攻めてみましょう。クロ。」
神谷さんが少しだけ対抗心を燃やしながらクロに声をかける。これぐらい破れないでなんとすると挑戦状と受け取ったようだ。クロは一瞬だけ僕を睨みため息をついてから神谷さんに向き直る。
「定番通り石弾で削りますか?」
「定番通りだと弾かれるかもしれないし、ここは薬剤にしましょう。」
「心得ました。」
二人は息を合わせるように集中し杖を掲げる。
【軍勢召喚】
神谷さんお得意の召喚術が発動する。姿形は似ている天使兵達だが召喚する際に色々仕様を変更できるのが面白い。犠牲も少なく汎用性も高く、相手を理解しているほど多くのパフォーマンスを得られる。五百体の天使兵は飛び立ち城壁に向かう。守備兵らしき者から矢が放たれるがそれらは防壁のように立ちはだかる風によって散らされる。防壁を構成している風は竜巻のようになり城壁に食らいつく。ただ塵程度しか絡んでいない竜巻は城壁を傷つけているようには見えない。そこに天使兵が水弾を撃ち込む。水弾を巻き込んだ竜巻はそれを巻き上げながら城壁にぶつかり続ける。水弾が城壁にぶつかるたびに城壁は白い煙を上げて削れていく。打ち込まれる水弾の数が増えるたびに城壁の削れていく速度は上がっていく。
「酸弾か。」
仕掛けを予測した僕の声に神谷さんが得意げな顔をする。可能性としては考えたけど酸を垂れ流して壊すのは現実的じゃないと思って対策はとってない。竜巻で再利用することは考えなかったな。物量系の魔法と違って結果が出るには時間がかかるが確かに城壁は破壊できる。面白い方法だと思った。そしてその白い煙はどんな毒性を帯びているか分からないが城壁の兵士達は咳き込みながら逃げている。よくよく考えたら神谷さんの魔法だしついでに人間を即死させるような毒にはならないかと安心する。風を通り抜けるような魔法を使ったり風を迂回するように放たれた攻撃が天使兵に届き始めるが、攻撃ペースは悪く城壁が崩れるまでに排除するのは難しいだろう。非常にゆっくりとした速度ではあったが竜巻は城壁を貫通し十mほどの穴を開けた。天使兵の被害はわずかに三体だけである。役目を終えて天使兵は一端後方に下がる。
「どうですかっ。」
ちょっと自信ありげに神谷さんは胸を張る。
「珍回答の部類だとは思いますが、対策の必要性を感じさせる良い手だったと思います。」
僕は素直に拍手する。
「さて、早々に穴が開いてしまいましたがどうしましょうかね。あの穴を兵で固めてくれると良いんですが・・・」
煙くずぶる城壁を見ても人だかりは出来ていて防御する気はあるようだが、貴族兵の防御陣など無いようなものだ。期待している防御ではない。
「手加減しすぎなのも怪しまれますよね。」
神谷さんが少し心配そうに貴族兵を見る。
「吹き飛ばしてしまえばいいでしょう。」
クロは簡単に言い、そしてそのまま爆破の魔法を貴族兵に向ける。しかし門の近くで収束する魔力は即座に散らされ不発に終わる。
「魔法は難しいかな・・・城壁が分解するよ。」
「貴方は本当に面倒くさい城壁を作りましたねっ。」
「そりゃそうだよ。」
クロが怒気を向けてくるが元々敵を防御するためであって自分たちが攻めることなど考えていない。当然保険で外部から停止できるなどという逆用されそうな措置もとっていない。矢を軽く放ってみるが当然城壁に届く前に散らされ実害はない。穴を開けたら突撃するしか無いのだ。それも多少対策がされているのだけど・・・神谷さんは消極的に遠距離攻撃を繰り返すが効果が無いのを見ると少し悩む。彼女自身は密度を高めて打ち込めば非効率ながら魔法を届かせることができるのは恐らく理解している。ただやり過ぎると貴族兵を殺してしまうことも若干躊躇しているようにも感じる。ただその心配事は王城から飛んできた光によって中断される。
「お早いお付きで。本当に出てくるとはね。」
軍の前に飛び出てきた人型の光。
「アレが光輝の精霊ですか。」
「ですね。私達が見たままの姿です。」
可能性が低いと期待していなかった光輝の精霊本体が戦場に現れた。
紺「何を探すかというかと。」
ヨル「王都民は自宅謹慎っぽいね。」
紺「普通は外出禁止令であろうなぁ。」
ヨル「そもそも私だとどれが敵兵か分かりづらいのだけど。」
紺「城下で歩いているヤツは全部敵と思ってよいであるよ。」
ヨル「そんな乱暴な。」
紺「無力な市民は言うことを聞く物である。外に出ている輩は敵か悪い市民のどちらかであるよ。」
ヨル「うわ、暴論。」
紺「王都民は割と調き・・・信厚き民であるからな。」
ヨル「遊一郎、恐っ。」




