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科学と魔法

 クロが持つ『多勢一身』は指揮下にある集団を操作するスキルである。個々がスキル保有者に操作権を譲渡する必要がある為、人間のような思考が複雑である場合は承認が難しい事もままある。ミーバ相手には全く問題無く完全に発揮される。指揮者は個々に行動させてることも出来るし、集団をまとめて動かすことも出来る。ただ指示を行う必要があるので支配数が多くなると指示が遅延したり処理し切れなる場合もあり決して協力ではあるが使い勝手の良いスキルではない。クロは軍指揮、戦術スキルを持ち同時処理能力も高いのでスキルへの適正は高い。ただ遺憾なくこのスキルを発揮するためにはもう一人の協力も不可欠である。十五万のミーバ兵を掌握した後、重装騎兵を前面に突撃陣形を組み先行組の救出に向かう。早々やられるわけもないのだがそこにいる諜報監視担当のヨルの力を欲しているからである。無駄に犠牲を強いることになるが早い段階でヨルの力を借りた方が最終的な犠牲は少なくなるとクロは読んでいる。城下に向かい敵兵は遠距離兵科で削りはするが注力はしない。ほどなくしてトウとヨルを自軍に巻き込み本陣に迎える。

 

「ヨル、力を貸してちょうだい。」

 

 クロはヨルの手を引っ張り自らの横に座らせる。

 

「この軍勢はどこから持ってきたの?」

 

 ヨルは戸惑いながら尋ねる。

 

「鈴が連れてきた遊一郎さんの軍よ。」

 

 自らの魔法で周囲を警戒しながら神谷桐枝が答える。

 

「指揮権丸投げとか正気かよぅ。」

 

「私もそう思いますけどねっ。そこのサボり魔は問題無いと思っているようですよっ。」

 

 ヨルの言葉にクロは今もまだ怒りを隠さず文句を言う。

 

「私が逃げるだけなら全く問題無く、もしご主人様と相対しても支配権で強奪出来る。何の問題もないじゃないですか。かき餅は米屋に任せますよ。私はその場の最大効率しか目指せないんで。」

 

 鈴は蟹の上でごろごろしながら手を振って答える。これよっとクロが毒づく。

 

「取りあえず監視業務だね。リンクしまーす。ご主人様は無茶しないでくださいね。助けるにも弾数には限度があるので。」

 

 ヨルが手を上げ魔力を放ち魔法を展開する。

 

「まさか撃墜はヨルがやったの?」

 

 先ほど起こった爆撃機の出来事が思い当たり神谷桐枝は尋ねる。。

 

「遊一郎さんに事象改編手段として譲って貰いました。あの人の発想と技術力はほんとすごいですね。」

 

 クロは監視網を再構築した後興奮気味に話す。

 

「瞬発力のある攻撃手段。強固な防御手段。非常用の救出手段。いずれも数と補給に難がありますけどアレの補助には最適ですっ。改編前と落差を付けるためにも普段は使わない方がいいとも言ってましたけど。救済用のスキルなんだから結果を知ってから使った方が手堅いとかなんとか。常用してるとその手段では助けづらくなるとか。」

 

 ヨルは戦闘系ではなくスキルもないので武器運用については疎い。遊一郎はそこも含めて丁寧に説明していた。ヨルが監視を始めたことで神谷桐枝は監視魔法を打ち切り、周辺からの危機防御に切り替える。先日破られたばかりの未来視魔法ではあるが対処さえ間違えなければ問題無い。少なくとも狙撃に対する防御手段として有用な事には変わりない。トウもスキルで同調し同じ恩恵を受ける。守護対象の利益や不利益を同時に受け取れるスキルである。守護の上位でダメージ以外にも適用が可能で選択的に抽出、複写、分配が可能である。トウは神谷桐枝のHPタンクでもありMPタンクでもある。対象を切り替えて調整すればダメージや負荷を適切に振り分け回復を一律、最適化できる一面もある。クロはヨルから受け取った情報を元に軍の動きを最適化する。遅れ気味の重装兵と魔術師組を軽騎兵、弓兵と入れ替え、それらを王都側に送り込み漏れた兵を追わせる。早々に敵軍に潜り込ませた斥候兵と重装兵を入れ替え敵の足止めと同時に新たに斥候兵を派遣し妨害と除去を行う。魔術師の面制圧で広範囲を掃討し更に移動の妨害も行う。敵の進軍速度は目に見えて落ち、自軍の動きは始めからそうであったかのように敵の侵攻を押しとどめ引き網のように絡め取り打ち倒していく。

 

「王都に入ったものについては斥候兵を派遣していますが、さすがに距離があるので結果は分かりません。ただこの戦場自体はもう問題ないでしょう。」

 

 自軍十五万に対して敵軍二十七万。真っ向勝負ではなく敵が王都を優先していたため厳しいはずの戦いではあったが、クロは余裕をもって跳ね返したと言える。王都に推定一万ほど侵入したであろうと考えられている。クロはそちらの処理については斥候兵五千の遊撃にまかせ、追加の侵入を防ぐことを優先した。騎兵で進路を塞ぎ、変更させながら削り、弓兵で動きが鈍った兵を確実に落す。敵軍をかき回し重しを置き動きを鈍らせ、足の速い飛び出たものから順に刈り取る。兵科の移動速度に関係なくその都度最適な兵の配置を入れ替えで駆使しつつ消耗を防ぎ、敵の被害を最大化する。敵の個々の能力も自軍に比べればずっと低く楽にさせた要因でもあった。

 

「召喚術士がいると私の負担がもう少し減るのですが・・・借り物ですからしかたないですわね。」

 

 犠牲を無視して敵を押しとどめる戦いが出来なかったので苦労したとクロは愚痴る。未だに戦闘は継続中ではあるが自軍十二万に対して敵軍は十六万。総数ではまだ負けているが敵に速度のある攪乱戦力はなく、半包囲が完了している状況であり、中央に引きこもっている魔術師の攻撃にさえ注意しておけば逆転の目はない。クロは想定するすべての対策を終え、残りは消化試合といった所である。犠牲を顧みず軽騎兵を突撃浸透させれば手軽に時短ができるのだが、恐らくそれは許してくれまいと鈴もクロも視線を合わせただけで意見交換しこのまま処理する事を決める。

 

「クロが入ってきたせいで緊張感がなくなったな。」

 

 ユウが戦闘に飽きたのか戻ってくる。

 

「私は指示を実行したまでですので。」

 

 クロは嫌みと皮肉を込めてユウに言う。ユウも分かってるよと手をひらひらさせて小言はいらんと突っぱねる。

 

「またそんな戦闘狂みたいなことを言って。安全なのは良いことでしょうっ。」

 

 神谷桐枝はそんなユウを頬を膨らませて叱る。

 

「はい、ごめんなさい。」

 

 素直に謝るユウだが、往々にして繰り返されてきたことであり神谷桐枝以外はこの現象が改善されるとは誰一人思っていない。勝敗が概ね傾き緊張感が大きく緩む。経過の監視が主な仕事となり淡々とした作業で時間が進む。敵の魔術師からの攻撃もなくなり敵の抵抗も激減している。出来れば降伏勧告したいところだが敵指揮官が見当たらずミーバ兵である限り全滅させるしかない。

 

「時間稼ぎ・・・ですか。」

 

 クロが面倒くさそうに唸る。敵兵が徹底抗戦するのは感情面が強いことが多いが相手はミーバであり指揮官に対して絶対である。現地民が指揮官なら話は変るがそもそも指揮官を見いだせず犠牲を最小にまさに駆除をし続けるしかない。そうしてここに軍を釘付けにする必要があるとすれば時間稼ぎしか考えられない。

 

「王都に何かある?」

 

 クロは首を捻り鈴を見る。

 

「王族の身柄、鶸、残りの民衆。もしくは反乱軍の取り込み。」

 

 鈴は指折りながら何かありましたっけと首をかしげる。どれも決定的ではなくあれば便利だがなくてもいいという判断しかクロには出来なかった。強いて言えば鶸が一番の良札になるが敵がそこまで把握しているかも怪しい。クロとしては王都内部は徹底して光満教が排除されているように見え、信用できる内情が光満教に流れる状況には見えない。時間をかけすぎれば遊一郎は戻ってくるし、時間はある意味自軍の味方でもある。その中途半端な時間の中で敵が出来ることを皆が思考する。最も鈴は考えてないし、ユウは結論に至らない。鈴の予感ではどちらを選んでも結果は悪し。結果が見えない予測スキルの結果を伝えても信用は得られないと判断し鈴はそれを黙した。結果的に見ればクロ達は急ぐべきだった。光満教軍も急速殲滅に至らなかったことが計算外であった。もし可能性があればという最終選択肢の一つで実行したにすぎず、本来なら命令者も成立するとは考えてはいなかった。うまくいけば儲けもの。敗北を成果に変えられるかもしれない一手。クロが犠牲を減らすことを優先してしまったがゆえの遅延。その判断が最も犠牲を増やすこととなる。本陣には被害が無いため神谷桐枝達の予知の範囲にも入らず、この世界の魔法ではないため魔力感知にも引っかからない。時間をかけたその召喚儀式が発動する。変化は急激だった。真っ先に変貌の全体を把握したヨルが怯え、クロが結果を探す。監視魔法を直接見ていない神谷桐枝にもその変化が一瞬で理解出来るほど視界は開けた。

 

「何?消えた?自爆?」

 

 魔力反応も爆発もなく敵を囲んでいた自軍の大半が消えた。残っていたのは遠巻きにそれを見守っていた本陣だけ。荒らされた平地に脈動するように輝く魔方陣のようなもの。神谷桐枝の目に陣を構成している知らない言語が映るが、それを知っているかのように意味だけが脳裏に刻まれる。

 

 集積 奪取 改変 魂 力 圧縮 注入

 

 様々な意味だけが脳に入り神谷桐枝は頭痛を感じ目を背ける。

 

「なんなの?魔力は感じない。魔法じゃない魔方陣?」

 

 陣の構成を思い出し力の流れと意味を頭痛と戦いながら思い出そうとする。脈動する光は明滅を速めそして一際強く輝く。光は外側から消えていきそして中央に収束する。

 

「あれが、今回の、敵。」

 

 監視していたクロが光の中央から浮かび上がる光の塊を見てそう呟く。拡張視覚を通してみてもこれだけははっきりと判別出来る。

 

【選定者】

 

 所属も種族も名前も何一つ分からずとも真っ先にそれだけは鑑定できてしまう。自分たちと似た姿でなければすなわち敵。敵軍が呼び出したのならそれは今回の敵である光満教を率いる選定者以外にあり得なかった。

 

「我、贄を元に呼ばれ新たな体を得たり。ここは・・・城ではないのか。」

 

 光の塊は伸び上がりるように人型の様相をとりながら周囲を見回し王都を見ながら呟く。その途中で見えたであろう集団を一目見て自分が与えた作戦の一部が成されたことを理解する。

 

「あれだけ囮にかかっておいてまだ隠し持っておったのか・・・最もこのような計算外なら感謝しかないのう。あの者には随分世話になりよる。」

 

 何を意識してか人型をとるその光は恍惚、侮蔑、嘲笑、ただ人として良いものではない顔をしてけたたましく笑う。

 

「何、あれ。」

 

 ヨルが隣にいる神谷桐枝と見比べながらその光を見る。人間ではないと分かってはいるが人型として実体をとり、男女の区別もつかず、宙に浮き、くるくる回りながら笑う、笑う、笑う。その笑い声すらも気持ち悪い。光は突然狂ったような笑いを止め直立し、何か思案したあと瞬間的にトーガを纏い、そして神谷桐枝の前に現れた。その輝きは強くとも直視できぬ程ではないが見続けたいとも思えない案配でその場に存在した。軍をかき分けてもいないかといって勢いよく飛んできたとも思えない。音も風のなく突然現れた。

 

「汝は我が見た敵では無いが敵であることは知っている。我は光輝精霊。ちょっとそこらにいた贄を頂いて強制進化させて貰った。我が軍を追い詰めた手腕は買うてやろう。我に従うなら専従勇者として使ってやり、最後に殺してやろう。」

 

 光は慈悲を与えるように手を差し伸べる。動作は洗練されていてもその行為が言葉がそもそも自分の味方も贄とする感性が神谷桐枝の琴線に触れた。

 

「お断りよっ。」

 

 神谷桐枝は意識を瞬時に切り替え目の前の光に火柱を叩き込む。ただその瞬間に予知される反撃。障壁を三十建てて相殺。トウが神谷桐枝を小脇に抱えてその場から離れる。ユウが前に立ちはだかり追い打ちを牽制する。ヨル、クロも後ろに下がる。クロは下がりながらも重装兵でユウと光を囲み、魔術師達後衛を後ろに下げる。鈴は寝転んだままその様子を見守る。包囲した頃火柱が消えたが光が何か被害を受けたようには見えない。元々精霊相手であれば怪我という形でダメージが見えないので判断は難しい。少なくともその光は何も堪えた様子はなく余裕の笑みを浮かべただけだった。

 

「中々良い判断力と威力だな。片手間にしては素晴らしい。今従うなら許してやってもよいぞ。」

 

 光は余程自信があるのか尊大な態度で勧誘を続ける。

 

「変らないわ、お断りよ。」

 

 神谷桐枝は細い棒を杖として呼び出し光に向ける。クロが思考ネットワークを構築、ヨルは微妙な距離に下がりながら視野を確保し相手を見据える。トウは主の五歩前に出て守りを固める。

 

「途中で気が変ったらいつでも受け付けるぞ。正し地位は落ちるがな。」

 

 気味が悪い笑みを浮かべ光が動く。神谷桐枝の後ろから体に向けて手が突き抜ける。神谷桐枝は胸から生えた手を見つめる。大きくダメージを受けるのはトウ。痛みもダメージもすべて肩代わりし振り向きざまに槍を光の顔面に突き刺す。予知を認識するより早く突き刺された。異常な速さと攻撃力。槍を嫌がるようなふりをしながらステップを踏みその場から離れる。突き刺した手をついでになぎ払いながら追加でダメージを与えることも忘れない。痛みはなくともそういったデータとしては感じる。とてもご主人様に負わせられるものではないと気を引き締める。自己治癒と神谷桐枝の回復魔法とでダメージを急速に回復させる。刺突、残撃、火傷。傷の大きさは光の腕ほど大きくはなく見た目ほど攻撃範囲は広くないと判断する。ただ瞬間移動とも思えるほどの速さで攻撃されるのはかなり厳しい。トウは神谷桐枝の側で防御陣を張り、そもそも通過させることを防ぐ。転移ならば侵入はできるがそもそも戦闘に短距離転移を用いるのは非常に効率が悪い。その常識を覆している寝転がっている者は攻撃力が皆無なので割愛するが、本来なら負荷のコストに見合わないはずである。それを確認する為にもトウは動けない陣で守る。

 

【超重縮】

 

 移動が止まった間隙に神谷桐枝が魔法を当て行動を阻害する。

 

「以前ならともかく・・・行動を止めたいのならブラックホールとやらでも持ってくるんだね。」

 

 超重縮の吸引をものともせずに光はその場から姿を消し、なぜか寝転がっている鈴の後ろに立つ。

 

「余裕なのか切り札なのか働かないこと自体が罪。」

 

 動かない鈴に手刀を突き刺す。蟹がバタバタと暴れはさみを倒し、腹を大地につける。

 

「私が何か出来るとでも?」

 

 突き刺された鈴はその手刀を意にも介さず頭を掻いて起き上がろうとする。光は逆に驚き警戒して後ろに飛びずさる。

 

「あそこで余裕ぶっこいてるヤツが一番堅いというか死なないってのは理不尽だよなぁ・・・」

 

 動きが読めず攻撃タイミングを逃し続けているユウが呆れるようにつぶやく。

 

「私はやる気がありませんし、貴方に従うつもりもありませんっ。そもそも・・・」

 

「信じられるかぁっ。」

 

 光は鈴の言葉を遮るように六つの光線を放つ。鈴は体の各所を狙われた光を脇に避け礼をしすべてを回避しきる。

 

「むやみに痛がるマゾヒストでもないので避けられるときは避けますよ?痛くないですけど。」

 

 鈴が礼をしながら首を光に向け言う。光はバカにされたのかと思いさらなる追い打ちを行う。鈴ははぁと力ないため息をついて身を捻り、それを予測して放たれた渾身の一撃を手で受け止めて投げ捨てる。非常識極まりないが【魔法受け】と呼ばれる立派なスキルである。光が屈辱を受けたかのように冷静さを失い鈴を睨んでいる所に輝く塵が光を覆う。

 

「やっぱり体が光ならそう言った物の方が嫌なのかな?」

 

 神谷桐枝は光を乱反射するチャフのようなものを光の周りにばらまく。その塵が光に当たればその体をねじ曲げるように形が変る。光が塵を払おうとするも腕も体も無数にねじくれうまく動かせないように見える。そしてその光の捻れは腹の中央に固まるように現れる。

 

「やはり固形の核があるのね。安心したわ。」

 

 光が驚いたかのように自らの胸を見る。核が無ければすべての光をねじ曲げて散らすつもりであったが確実になせるか不明であった。だが核があるならそこを吹き飛ばせば問題無い。クロが障壁を悪用しうまく動けない光の体の周囲に障壁を展開して動きを制限する。

 

秘呪三式【質量欠損】

 

 察した鈴がその場からさっと逃げ出す。神谷桐枝的には多分巻き込んでも大丈夫かなというクロの言を信じて、撒いた粉の力を解放する。魔法によって誘導されたエネルギーは大地を揺るがし光ごと消し去るはずだった。しかしその衝撃は光に到達した時点ですべてが消え去った。

 

「へ?」

 

 詠唱が短いとはいえ知りうる魔法の中でもトップの威力を誇る魔法が止められた事に理解が追いつかず変な声が出る。光は塵自体にそもそもダメージがないことを確認すると無理矢理動いて身を引き裂きながらその場を離れる。光の状態は無傷に見えるが明滅する光が、その体には幾分かダメージがあったような気配を見せる。

 

「訳が分からん。・・・今はここで引いてやる。次は殺す。」

 

 先ほどの瞬間移動ではないが、それでも異常な速さで光の筋を残しながらその光は王都の中に消えていった。

 

「おととしにきな。」

 

 光の筋に向かって鈴が無感情に言い放つ。そのよく分からない台詞に神谷桐枝が吹き出し、その場の緊張感を晴らす。

 

「引いてくれて助かったのか・・・惜しかったかは判断できませんね。」

 

 クロは少し強がるように言うが、安全を考えれば引いてくれたことは助かっただろうと神谷桐枝は思う。認知不能な速度で動き、異常な火力を持ち、そして防ぐことが困難であるはずの攻撃を無効化する能力。こと戦闘においては無敵ではないかと思わせるほど強力な敵であった。唯一効果があったのはチャフの副次効果という決め手に欠ける要素だけだった。

 

「王都の兵力は民兵七万、騎士二万と今侵入したミーバ兵1万ほどですかね。正直再制圧自体は難しくないのですけど・・・」

 

 鈴が情報を話し始める。

 

「こちらは概ね兵力を失ってしまって八千ほどです。敵兵だけなら再制圧も難しくはないのですが、なにせあの選定者が未知数ですね。一応ご主人様に再制圧の許可は頂いていたのですが・・おっと報告して相談した方が早そうですね。」

 

 これからどうするかを相談するのかと思いきや、思い出したかのように遊一郎に連絡を取り始める。何やら空をじっと見つめておりそちらにいるのかと思ったがミニマップの方角からしても見当違いの方向だ。もしかしたら作戦でそちらにいったのかもしれないが、急いで帰ってきている状態のなのでその可能性はないだろうと皆は思う。

 

「無理する必要は無いので一度合流しようという事です。皆様よろしいですか?」

 

 クロが相談しようと見回したが、主である神谷桐枝が少しも考えずに承諾してしまったのでその行動は無意味となった。クロは微妙に天を仰ぎその判断が拙速でないことを祈るばかりであった。日が落ち世界が闇に包まれた頃、遊一郎率いる十五万と神谷桐枝八千が合流し反撃への話し合いが始まった。

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