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共闘の始まり

 敵は多くとも神は一つのはずだった。しかしそこには数多くの神がおり、そして悪魔もいた。唯一の神ではないが知った気配のする神は自嘲気味にとなりにいる悪魔を揶揄して笑う。悪魔は敵対したこそあれどここでは敵でもなく知人であると言う。教義からすれば許されないことであった。むしろ神以外の神が存在していることも許しがたいことでは無いかと思う。あがめる管理神が他のモノと何かを話し合っているように見えるがあちらの意図しない声は全く聞こえない。すぐに話は終わったようだが管理神は姿を消す。神を称するモノに話しかけられると理解出来ないほど体が反応し、心が震える。今何をされているのかとも思う。かの声をどれだけ切望していたのかとも感じる。そんな感動を与えたものも一瞬で消え残るは、敵である悪魔だけが残った。信じがたい話を信じがたいモノがする。そこに欠片ほどの信用も見いだせなかったが、これが悪魔のささやきかと思えるほどにはすっと心に入ってきた。そこからは自分と向き合うだけの世界。信じたモノを積み下ろしながらただただ自らの行為を反芻する。ある時点から本当に欺されていたのかと感じ下ろしたモノを積み上げまた悩む。その検証を繰り返していくだけでいかに自分が愚かに欺かれ、そして助けられたということを感じる。そして悪魔の名を呼ぶ。

 

「彼の者への信仰を取り戻しても私を呼びますか。場所が場所なら背信行為ですよ。」

 

 雄牛の悪魔は楽しそうに言った。

 

「場所が場所ならでしょう?主は貴方をむげに扱ってはいませんでした。ここでは主は貴方を許し許容しているのでしょう。それに私が角を立てる必要は無いと思います。」

 

 私はそう答えた。ここは自分と主の世界ではない。ならばその世界の理に従うべきだと。ザカンは鼻を鳴らしてまだ間違っていると言いたそうではあったが正す理由がないと言わんばかりに進行する。並べられた選択肢に少し迷う。映像の先を見たところでどんな地域かは全く分からない。どこに行けば彼に一番近いだろうか。生存難易度が距離に関係するわけではないしそれこそ運次第。それならば少し成長して安全になってから会いに行ったほうが良いだろうか。会うというよりは押しかけることになるだろうが。そんな考えを見透かしてかザカンが口を開く。

 

「参考というわけではありませんが彼からの伝言です。『越後屋に行け。』だそうですよ。」

 

 彼を頼り拒絶し、そして罠に嵌め襲いかかったにもかかわらず彼はまだ待ってくれている。年下の癖にっ。目に溜まる物を振りほどくように断言する。

 

「草原で。」

 

 ならば安全で人に近い方が良い。人間は平地に、亜人は森や山、海その他の環境に住む傾向が強い。目指すは人の町だ。浮遊感と共に草原へ送られる。いつもの三体も付いている。ただ町を目指すにしても周囲には何もない。やはり少し準備をしてから移動すべきかと思案する。

 

『ご主人様帰還おめでとうございます。』

 

『ヨル?』

 

 たかが半月でも懐かしいと思える声が頭に響く。少々の負荷を受けここが現実であるとも実感させる。

 

『こちらは若干きな臭いですが合流したほうが何かと早いかと思います。遊一郎殿の話では初期の手持ちでも二十日分の食料はあるはずとのことですので直接町を探して欲しいとのことです。町についたら門番に越後屋に連絡して貰ってください。もし話が通じない町だったら町と国の名前を確認してください。それでなんとかするそうです。』

 

 ヨルの一方的なメッセージが響き帰還の計画さえ立てて貰えてることが喜ばしい。

 

『わかったわ。』

 

 お供をつれて歩き出す。町に付いたら話は簡単に済み、迎えが来て馬車に乗せられる。揺れないわけではないがこの世界における馬車を考えればずっと静かで乗りやすい。長旅の最後に先日まで聖女と崇められた国の側を通る。突然離れてしまって混乱されていないか、一瞬申し訳ない気持ちになるが埋め合わせはまたの機会にしよう。隣国だったユースウェル王国に入り越後屋で皆と再会した。緊張時以外は子供っぽいヨルが涙ぐみながら体当たりするように抱きつく。ユウとトウは控えめではあるがユウは喜びを隠さない。

 

「少し変られましたか。落ち着かれたようでなによりです。」

 

 クロが案じてくれている。

 

「いえ、多分今が()ですよ。前の時はいろいろ干渉があったようですから。」

 

 私はヨルをあやしながら答える。クロは静かに頭を下げて礼をとる。

 

「ベニオはどこですか?」

 

 私の質問にクロが体を硬直させる。ユウの目は鋭くなり私を見る。

 

「ベニオは行方不明・・・となっていますが、通信も何も通らず死亡しているとしか思えません。竜種らしきものに討たれたとしか・・・」

 

 クロが心苦しそうに報告する。私はユウを見るがユウは首を振ってベニオの存在を否定する。

 

「そうでしたか・・・残念ですね。」

 

 状況を聞いてもその場にいなかった私がどうか言えることではなく、ただ無念と後悔が湧いてくるだけであった。

 

「これからの事ですが・・・遊一郎殿と合流するのが一番と思われていたのですが・・・」

 

 しばらくの沈黙の後トウが口を開く。元々合流するつもりであったのだけど問題が発生しているようだ。ヨルも何かあるようなメッセージを送っていた。

 

「敵対選定者との戦闘が始まっています。以前ちらほら妨害してきていた光満教徒です。」

 

 聖女派とたびたび小競り合いのあった新興宗教だったか。そもそも聖女派自体に自分が関与していなかった為蚊帳の外の話だったと思っている。トウにしてみれば一応友好的な派閥としてある程度粉をかけていた程度だったはず。それが選定者の宗教とは思わなかったが。

 

「一度別の地で力を蓄えた方がよいと思うのですが。支援するにしても主殿には軍もありませんし。」

 

 クロは反対派のようで一度離れた方がいいと思っているようだ。以外にもトウも離れた方が良いと思っているようで頷いている。

 

「どうせ決まってるんだし、まかせるぜ。」

 

 ユウを見たが笑顔で返してくる。そう。どう言われようと行動は決まっているのだ。

 

「遊一郎さんに合流します。雑兵相手なら早々負けやしませんし、後方支援でもやれることはあります。」

 

 私がそう宣言すると皆が頷く。周りがどう思っていようと決定権が私にある。それに皆は逆らわない。不自然で少し寂しいとも思うが今は仕方が無くそれで良いとも思った。

 

「よっしゃ、やっぱそうなるよなっ。これはご主人様への贈り物だぜ。これが出来合いってんだからあいつの開発力はほんとっおっかしいよな。」

 

 ユウは収納から装備を取り出し街路に立てる。装備一式を立てかけるスタンドに白を基調としたローブと胸元から薄い蒼の装備が覗いている。

 

「あの男は元々見透かしていたのかこちらの装備が弱かろうと準備していた節があります・・・やはり『本』の開発力は恐ろしいものがありますね。別件であの男には黙って準備させたものがこちらにありますので収めてください。」

 

 クロが近寄ってきてボストンバッグを手渡してくる。首をかしげながら収納すれば確かにこれは彼には任せられない、むしろこのためにクロが招致されたといっても過言ではない下着や着替えだった。性別はないにしろ見た目も言動も男性であるユウやトウにこの案件を任せるのはさすがに恥ずかしかったのだ。贈り物をスタンドごと収納し収納したものをその身に展開する。布を中心に所々に革が使われている。若干重量は感じるものの今のステータスなら影響を受けずに動けるだろう。腕部には彼と同じような魔法補助道具としてのアイテムが取り付けられている。杖があれば困らないだろうが、防具にもなるし杖を手放してしまった時にも有用だと予備の存在であるらしい。その割に四発装填で棒手裏剣状のものが飛び出したり、魔力で鞭のようなものも出せたりと随分多機能な道具だ。確かにこういったものは杖では再現できない。

 

「魔法だけじゃなくて純物理もあったほうがどうにもならないときにいいって言ってたな。」

 

 ユウは機能の説明をしながらそう呟いた。装填は収納の自由位置範囲内だから直接詰めろということらしい。慣れないと意外と難しい。

 

「それじゃあ、戻りましょう。」

 

 そう宣言して用意された馬車に乗り込み移動をする。移動は早くなったが飛び上がるほどではないにしろ揺れも激しくなった。周囲に心配されながら街道を走り抜けた。戦線から離れているはずだがルーベラント王国に入れば緊張感が高まる。そして小規模の反乱が起こっていて対応に追われているのも見受けられる。手伝ってあげたいが今は合流優先だと言い聞かせて走り抜ける。いざ王都が見え始める頃上空から爆音が聞こえ始める。何かと思い馬車から空を見上げる。歴史や資料館でみたことのある黒い航空機が高く飛んでいるのが見られる。

 

「SEAの爆撃機?なんであんな骨董品みたいなのが・・・クロ?」

 

 実用を終わり式典やショーでしかみないような古い世代の航空機が頭上を通り過ぎる。彼がこれを作れるかもしれないが意図的に実用してなかったかのように思っていたので思わずクロに確認する。

 

「新兵器とは聞いていないですね。なによりアレの意思はその先の王都に向いているように思えます。」

 

 クロはそう答えた。

 

「つまり似たような技術力を持った敵なのね。」

 

「それで問題無いかと。」

 

 私の問いにクロが答える。最もクロはアレが彼の物だったところでさほど問題無いと思っていたのだが。

 

「ちょっと遠いけど長いヤツなら届くかな。・・・ただ防御も分からないから時間がかかるかもしれないし・・・呼んだ方がいいかな。クロ。」

 

「仕様は?」

 

「全種小型汎用種。火、雷混合で。」

 

「了解しました。」

 

 物理も魔法も継続してつかえる飛翔ユニットとして最適な天使兵を呼び出すことを決めクロに要請する。

 

【【軍勢召喚(サモンレギオン)】】

 

 私が三百、クロが二百。召喚兵はいないので二人で呼び出せる限界いっぱいまで上空に展開する。

 

「あの爆撃機を破壊しなさいっ。」

 

 クロは召喚と同時に監督権を私に付与する。これで五百の集団ができあがり、それらにまとめて指示を出し飛ばす。小さな軽武装の天使が一斉に舞い上がり先頭の爆撃機に襲いかかる。一斉に放たれる魔力の矢が爆撃機の翼に突き刺さる。衝撃で揺れながらボロボロになった翼は穴を作り揚力を失って機体を傾かせる。指示を破壊とする天使兵はそれに満足することなく機首を傾けてくる爆撃機を切り刻みきりもみするところに更に矢を放ち爆散させる。しかし爆撃機の速度はそれなりに速く、その撃墜ペースでは空爆を止めることはできそうにもなかった。

 

「間に合いませんね。」

 

「全部が爆装じゃないといいんだけど・・・期待しちゃだめよね。ベニオがいないのが悔やまれるわね。」

 

 クロは最初の撃墜から見て間に合わないと察する。天使兵は二機目にかかるが二部隊に分けても四機が限界そうに見える。下から魔法を撃てばもう二機は落とせるだろうが、残りが爆撃を始めれば首尾良く撃墜しても王都は良くて半分、八割近くが瓦礫と化すだろう。少しの間逡巡している間に後方五機の腹が開き小さなものをばらまき始める。何かと気を取られると真っ先にヨルが反応する。

 

「敵ミーバ兵です。推定二十七万・・・」

 

 時間をかければ倒せない数ではないが自分たちはともかく王都や民衆は無傷というわけにはいかない数だった。ただ一つの希望は見えた。二機目が爆散すると天使兵は三機目に取りかかる。

 

「クロ、腹の開いていない爆撃機を落すわ。」

 

 私はクロに指示を出し、静かにクロは頷く。

 

「他のみんなは落ちてくるミーバ兵の対応を足の速いヤツを重点的に狙って。」

 

 ユウとヨルは頷いて走り出すがトウは迷っているようだ。

 

「ミーバ兵相手ならすぐにはやられないわ・・・貴方もお願い。」

 

「分かりました。」

 

 トウも蟹に騎乗し駆けつける。私は大きく深呼吸する。

 

「お先ですわ。」

 

無形槍(フォースランサー)

 

 直線でも円弧でも一定の軌道をとって打ち出せる手持ちの中では最も射程の長い魔法。不意打ちで騎士が倒せるかどうかという微妙な性能ではあるが天使兵の動きを見る限りではこれでも十分貫ける装甲であるはず。航空機なんて翼がなければ飛べないのだ。私も続いて一撃放ち狙った場所に当たるかを確認する。思った以上に爆撃機が速いようで初弾は当たらない。ただそれで性能は把握し一度に放てる五発を同時展開して発射する。撃墜されそうな三機目と攻撃を受けた四機目が王都上空にたどり着く前に腹を開け爆弾を落し始める。少しでもと考えたのか恐怖から先走ったのかはわからないがその行為が面白くないのも事実。クロも全力射撃を行いもう一度斉射を行い、私も続いて斉射する。クロの槍が貫通した時点で翼がねじれ飛び傾いて墜落を始める。地上に爆弾が落ち王都の外壁近くが粉塵にまみれる。町の中心は王都だが外壁の外にも生活区がないわけではない。その人達が無事であるようにと祈りつつ、落下している爆撃機を撃ち抜き爆散させる。天使兵は三機目を爆散させ次の爆撃機に攻撃を仕掛けようと動き始める。残りはもう爆装してないだろうと一安心していたが、残りの爆撃機は着陸するかのように機首を下げてくる。

 

「まさか・・・特攻するつもり?」

 

 航空軌道を鑑みれば王城付近に当たるように高度を下げ続けている。次から次へと問題が起こる。王都の前に防壁を張るにもその位置ではまだ五百mは上空だろうし、受け止めるような壁は立てられない。打ち落とすにも確実に爆散させなければ王都に被害がでるだろう。奥歯を強く噛みながらこれを指示した者に憤りを感じ、これをどう守るか考える。

 

「王都外苑に被害がでるのは仕方が無いかと。すべてを守るのは無理です。可能な限り落すことを優先すべきです。」

 

 クロは私の意をくんで提案してくる。

 

「それを行えば敵軍に飲み込まれますが・・・それでも主殿はやるしかないんでしょうっ。」

 

 吠える、叫ぶ、叱責とも諦めとも取れるクロの声が飛ぶ。

 

「そうね、ありがとう。近くなればなるほど威力は上げられる。吹き飛ばすわよっ。」

 

「付き合います。」

 

 私とクロは並び立ち迫り来る爆撃機を見上げる。天使兵が攻撃していない機体に目標を定め同時に無形槍を放つ。翼の根元を撃ち抜くがもぎ取ることは出来ない。もう一度斉射した所で翼が吹き飛んだ。天使兵も胴体を翼を穿ち爆散させる。周辺が赤と黒で包まれその先の視界を失う。射程が足りないことを承知で魔力視覚を行うがそもそも反応がない。爆撃機は魔法にも守られておらず純粋に科学だけで飛行しているからだ。魔法ありきに慣れすぎてそれを失念していた。赤と黒を切り裂きながら自らが撃墜した爆撃機が目の前に迫る。

 

「あ。」

 

 気がついた時にはすべてが手遅れだった。爆撃機の巨大な機首が目の前に迫ってくる。クロが壁を立て障壁を重ねる。クロが焦ったように何かを叫んでいるが放心したせいか頭に入ってこない。守ればきっと助かる。それが世界のシステムだと反復するように頭の中に響きとっさに障壁を重ねる。爆撃機がその機体を地面に打ち付ける前に爆散した。爆圧と爆風そして破片。立っていられないような風をその身に受けながら大地をしっかりと踏みしめ歯を食いしばる。破片と赤い炎が障壁の間を縫い徐々に障壁を浸食する。非現実的な光景が意識を冷静に導き後ずさりながら障壁を多重展開していく。どれだけ続いたかと考えたくもないほど長い間爆圧を耐え忍んだようにも思えたが機体が突っ込んで来なかったおかげで無傷で済んだ。

 

「クロ大丈夫ですか?」

 

「・・・はい。なんとか。」

 

 機体が途中で爆発したように思えたが自壊したのだろうか。

 

『ご主人様大丈夫ですかぁ~。』

 

 ヨルから不安感満載のメッセージが届く。

 

『こちらは無事です。そちらは?』

 

『比較的離れていたので無事です。敵の方が損害が大きいくらいです。』

 

 ヨルの返事を聞いてほっと一息つく。ただ砂煙舞う中上空を通過する爆音で我に返る。もう王都の被害を零にすることはできなくなった。無力感をかみしめながらソナー感知を展開し爆撃機の位置を探る。

 

『神谷様。ナイスアシストなのですよ。全力防御を期待します。』

 

 聞いた覚えがあるようなメッセージが頭に流れ誰かと考えている内に次の行動を示唆される。よく分からないが従うしかないとも思った。

 

『クロ、王都方向にむけて全力防御です。』

 

『あの言葉を信じるのですか?』

 

『きっと味方なんでしょう?』

 

 自分たちでは撃墜はもう間に合わない。ただ防御しなければいけないのはあの爆撃機がまた爆発するからに他ならない。ミニマップを見ながら瓦礫を乗り越えクロの近くに行く。

 

「あの声の主にまかせましょう。なんとかなる気がします。」

 

「あの自堕落がですかぁ?」

 

 私が期待する中、クロはその者を知っているかのように話しながら防御壁を展開する。

 

「知っているのですか?」

 

「覚えていませんか?遊一郎の配下の中で最も動かず、働かず、そして死なない者です。」

 

 誰だったろうかと防御を固めながら首を捻る。そして一拍おいて爆音。完全な引きこもり防御なのでくぐもった音しか聞こえないがかなりの振動と熱を受けているのが分かる。しっかりと準備したので防壁だけで十分に守れたようではある。

 

『全機体爆散しました。もう大丈夫ですよ。』

 

 声の主が除去作業を完了したことを告げる。防壁を解除すればあたりはくすぶる煙と破片が散らばっていた。王都から強い風が吹いており意図的に煙を拡散させていることが窺える。頭に響く声はメッセージではなく返信の機会を与えてくれない。お礼を言いたいと思ったがそれも敵わないようだ。王都からくるミーバ兵はおそらく友軍のものだろう。ただ王都の壁は広範囲にわたって消え、その奥の街並みも大きく被害を受けている。軽騎兵が先行してきて私達を追い越していく。視線で見送った先で敵騎兵、斥候兵と接触し戦闘が始まっている。爆発のせいか軽い耳鳴りでなんとなく現実感がない。

 

「神谷様。我らが本陣まで下がっていただくか・・・ご協力を願いたいのですが。」

 

 頭に響かないがまるで遠くから聞こえてくるようなさきほど聞いた声がする。そちらを振り返ればやる気がないのかぼんやりした、そして装備をしていない進化体の少女がいる。

 

「わっとぅ。」

 

 その少女はわざとらしくなまりきった英語をしゃべりながら首をかしげる。

 

「貴方は?」

 

 呆れるクロをよそに私は見覚えがあるような少女に尋ねる。

 

「私は遊一郎様配下の鈴です。このたびは航空機の撃墜支援感謝いたします。」

 

 びしっと何のポーズか理解出来ない仕草を見せつけられながら鈴から返事がくる。

 

「あ、・・・はい。取りあえず支援にはせ参じました。どうすればいいですか?」

 

 香ばしいポーズに気を取られ返事に惑いながらも目的を告げる。

 

「王都の中も外も敵だらけです。ただ中は有象無象の騎士なので後でも問題ありません。今は外のミーバ兵を中に入れないことが重要です。」

 

「分かりました。クロ。」

 

 状況を認知しクロを呼び意思を固める。

 

「支援を頂けるなら重装兵と治療術士を付けます。ご自由にお使いください。」

 

 鈴の指示に従い重装兵三体と治療術士二体が側に寄ってきて元気よく手を上げる。面白いなぁと思いながらよろしくねと声をかけるとまた歓喜の声を上げる。なんとも楽しそうなミーバ達だ。

 

「自軍がいるなら一度ユウ達を呼び戻しましょう。単独で浮いているよりはましに戦えるはずです。」

 

「クロのスキルは?」

 

「友軍では難しいですね。指揮権がありませんと。」

 

「指揮権がいるなら差し上げますよ?」

 

 私が確認するとクロは首を振る。しかしその話を聞いて鈴がとんでもないことを言う。

 

「貴方はまたそういう・・・私が敵に回ったらどうするのですかっ。」

 

「貴方の創造主はご主人様の味方。この状況(・・・・)なら貴方は裏切らないでしょう?」

 

 クロが鈴を批判するが、鈴はそれがおかしいとも思えないように答える。感情の乗らないのっぺりとした口調だが何か大事なことを言っている気もする。

 

「んーーーーー。分かりました。指揮権をよこしなさい。きっちり仕留めて差し上げましてよっ。」

 

 クロがなにやら悶絶した後、指揮権を要求する。

 

「ではよろしくお願いしますね。私はここで監視しておきます。」

 

 鈴はそういって蟹の上で横になる。動いているのにどういう原理か転がり落ちることはない。

 

「貴方も働きなさいよーっ。」 

 

 喧噪ひしめく戦場にクロの叫び声が響いた。鈴は信用したのかたださぼりたかったのか。クロは息を荒げながら意識を飛ばし軍勢を掌握する。スキル『多勢一身』が軍勢に行き渡り気配が変る。

 

「さぁ、みなさん・・・蹂躙しますわよ。」

 

 クロの口角が怪しげに持ち上がりその集団はまさしく手足のように動き始める。

Sacred Empire of America

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