僕、惑う。
王都の鈴を経由してひっきりなしに地方の反乱報告が流れてくる。反国王派、反侵攻派、非恭順派のあらゆる反対派閥も便乗して反乱を起こす。
「もう少し残してくれば良かったかな。」
僕は対峙している相手への対応を悩んでいるままであるにもかかわらず本拠地や王城の心配をする。
「半数十九万もいますし、何より鶸が一般人相手に後れを取るようなことはないでしょう。」
鈴は何一つ心配しないと気丈に振る舞う。
「鶸から連絡がないが王城はどうなってるんだ?戻るか進むか参考にしたいところだけど。」
「恐らく王城こそが反抗勢力にに手こずっている所かと。」
僕の疑問に桔梗が答える。地下組織めんどくさい。民衆がこれだけ荒れているのに裏組織は逆に統制がとれて静かなものだ。比較的序盤から光満教に声をかけられていたにも関わらず、悪は悪を知るというか胡散臭いというお互い様な事情から暴力ある世界には浸透しづらかったようだ。最も周辺の裏組織は概ね孤月組に関与があり、上がノーと言えば下もノーという貴族達よりも余程強固な上下関係によって致命的な汚染を免れている。対抗組織がいくらか動いているが、動くのが無意味と思えるほど少数で新孤月組派によって即座に粛正といった動きだった。
「反乱は無視して進むか・・・分からないうちに上を落してしまった方がいい気がする。」
僕は散々進退を悩んだあげく進む方を選ぶ。戻っても後手に回りすぎると思ったのもあるが、そもそも即進軍しなかった時点で後手ともいえるが。突撃陣形を組み、全体的な移動力向上の為に歩兵には戦車を使わせる。敵を倒すと言うよりも駆け抜けてたどり着くための陣形になる。
「蹴散らせ。」
号令の元有象無象の民兵をかき分け、貴族兵を吹き飛ばす。多少魔法や弓矢で反撃されるも被害はごく軽微。戦車の破損により若干脱落者が出てしまったという結果になった。遅いといって貴族騎兵よりも二割遅いといったところ。世界平均から見ればずっと早く、駆け抜ける目的で突貫した僕らに追いつける軍ではなかった。
「まぁこんなもんか。」
「若干抵抗が弱かった気もしますが。」
「地方貴族ならあんなもんじゃない?」
手応えのない相手の力量はいまいち計りづらい。それでもなお菫は手応えの弱さを疑問に思うようだ。
「いえ・・・士気だけは異様に高かったのに、とは思うのですが、こちらに対する必至さが弱いというか。」
菫はそういって軽く後ろを振り返る。すでに敵本体は見えず、周囲には手を出しかねている民兵が散見しているだけだ。菫の意見を聞くと作為的なものを感じるが進んで落すと決めた以上はやりきると決め進軍を続ける。途中抵抗を見せる貴族領を通ればそれを通りすがりに助け、近場であれば二千程度の軍を援軍に出し救援もした。弱小地方貴族でも国防貴族でも助けられる者は助けておきたい。巻き込んだ主犯としての義理だとは思った。翌日、国境沿い近くの都市で抵抗している集団の中に突破されてしまったカドクナ子爵を発見した。紋章旗を見かけて話を聞いていみたいと思ったからだ。
「お預かりした門を守れず申し訳ないっ。」
生き残ってしまったと恥じるカドクナ子爵が僕に頭を下げる。かつての別国の敵軍で戦ったことがあるのか、元々ルーベラント王国の貴族なのかは知らないが僕の立場を知っていて彼は謝罪をしてきた。
「信用ある貴族の方が生き残っていて何よりです。当時の状況をお聞きしたいと思いまして。」
でかい大人が頭を下げても顔の目の前に後頭部を押しつけられるようで威圧感半端ない。話を聞いてみれば概ね予想通りと言ったところで、教徒軍が現れて声明を出し引きこもって防御していた所、内側にいた国民の教徒が蜂起し門を開けてしまい抵抗らしい抵抗も出来ずに逃げるしか無かったと言う。そこから一瞬で伝播するように周囲の都市でも蜂起が始まり、くさびを打とうにも対抗できる防護施設が無く軍が通り過ぎたところでようやく一都市を落し周辺の鎮圧に当たっていたという状態らしい。
「一応周囲の貴族にも援軍を出しているので連携して周辺の安定化に努めてください。いずれ敵の援軍も来るはずですし。」
「はっ。」
カドクナ子爵に四千の兵を預け、周辺地域に一万七千ほどのミーバ兵が残る事になった。民兵相手ならさほど問題ではないはずだし下手な貴族兵や盗賊でも苦労はすまい。いよいよ国境を越え逆侵攻という形になった。相手の主力はまだ国内におり、やり方次第ではこのまま選定者を引きずり出して勝利することも不可能ではないと考えていた。翌日、鈴から連絡が入り王都は再制圧が終わったという話と神谷さんが復帰したらしくユウ達が迎えにいったという連絡が届く。軍を進めているにもかかわらず抵抗らしい抵抗はなく敵国境側の防御都市リングウェルを遠くに見る所までたどり着く。
「攻められると思ってない?」
「どうでしょうね。」
大軍ゆえ隠れる場所も無く、さすがに都市からも見張りからも見えている状態であろうが都市の動きは何も無いように感じられる。
「遅れましたが戻ったであるよ。」
「紺か。」
菫と話していると間少し後ろから湧き出るように紺が現れる。
「口も堅い、しゃべらないとなると情報も集まらんであるよ。もうすでに決まったことだけしているようであるよ。」
紺はお手上げといったポーズを取り残念そうに話す。
「困ったね。」
「困ったであるよ。一応総本山と言われる都市と従属勇者なる者がいる都市だけは分かっているであるよ。」
紺がマップを展開しながら説明する。総本山はかなり遠い。従属勇者も近くはない。
「従属勇者は、なんだっけか。」
「教祖的な位置づけにも見えるであるが、教え的なものは説いていないであるな。地位はまごうこと無き最上位なのであるが、実の所最高の武力をもっているわけでも無いであるよ。光神に見いだされ常に側に付いているとされている、それが従属勇者であるよ。」
他の宗教にも漏れず教えを説いたり実務を行う神官もいるのだが、実務を専門に行う勇者という地位の者が設定されているのが光満教の面白くもありよく分からないといった所である。僕らが思う魔王を倒す為の勇者、とかいうそういう役柄ではなく神の試練を粛々とこなす存在、それが光満教における勇者である。名誉な地位であるのはどっちの勇者も違いはない。光満教の試練は討伐はもちろん、収拾、清掃、おつかい等ゲームのクエスト製造機かと思うくらいには愉快な内容であった。そのランダムに与えられた内容によって勇者の中の序列が変化しているようだ。中にはそのものの実力では達成不可能なものもあり、挑んで死んでしまうこともざらにあるらしい。運ゲーにもほどがある。なお勇者の強さ的には平均は騎士級未満。最上位でも英雄未満といった具合らしい。秘密主義が過ぎる光満教だが、この辺のことは宗教圏内であれば普通に見聞きできることではある。軍事や神のことになると鉄の結束で表に出ることはない。会議などが聞ければよいのだが今回はそのような機会には当たらなかったようである。さすがに調べ物もはかどらず軍事行動があったので戻ってきたといった所である。
「神軍はどこにいるかわからなかった?」
「動いている気配がなくどこにいるかは分からなかったであるな。」
ミーバ兵さえ潰しておけば不安が減るのだがそこそこ前に大きく動いてから外に出ていない模様。
「そっちまでいってみるか。」
「御意。」
新たに紺を加え、リングウェルを迂回し都市を避けるように大回りで神軍がいると思しきドラウルカイを目指す。道中稀に領地軍に出くわし小競り合いになるが十七万対千とかおよそ勝負にならない戦いで、お互い運が悪かったなとしか思えない遭遇戦となっていた。
「やはり・・・おかしいように思えます。」
蛇行しながら見つからないように配慮し、普段と比べれば遅い進軍を続けて十日ほどして菫が遭遇戦の相手を切り捨てて呟く。
「ほんと面倒くさいくらい抵抗するよね。」
菫の疑問も最もと思えるほど僕も頷く。領地が攻められていると思って抵抗するのは分かるけど、戦力差がありすぎてさすがに意味が無いと一目で分かっても死ぬまで抵抗してくるのはどうなのかと。逃げて情報を持ち帰って団結するほうがよいのではないかと正直思う。
「宗教で繋がった連合国家であるからな。なんだかんだ隣国は競争相手であるのではないかな?」
紺が所見を述べる。
「それにしても国境沿いの貴族兵から見ると必至さが異常だよね。」
僕は移動しながら当時を思う。
「初動の貴族兵には抵抗されなかったのであるか?」
「多少?はされていたと思うけど。そもそも強さがそこまでじゃないから抵抗されても結果が変ったかというと分からないね。」
「抜かれたのに追撃が一切無かったというのは確かに疑問であるな。鶸には?」
「そもそも鶸から連絡が・・・あ。」
「であるよな。」
紺と話している内にそういうおかしな点が思い至る。鶸が全く連絡してこないのだ。
「王都が落ちてる可能性が出てきたであるなぁ。」
「今朝の連絡で鈴は再制圧が終わったって。」
「鈴は拠点の地下であろ?鈴が直接見に行ったとは考えられんであるよ。鶸か近しい者にそう言えと連絡させられてるのであろう。」
完全に読み違えたと。拠点の兵が王都に行っていなかったら、反乱軍だけで王都を落すことは不可能ではない。ただ鈴に送られるメッセージは必ず届けられるはず。可能性として鶸が魔法を使えない状態か、鈴が乗っ取られている場合だ。後者の可能性もある以上は今鈴に確認しても確証は得られない。鶸がいれば検証が出来たが、今はその鶸と連絡が取れない。確かにメッセージは届かないように感じられる。
「ここまで来て・・・戻るか?」
「間に合うか、手遅れかは情報が足りんであるな。主殿が判断するしかないであるよ。」
紺は情報が足りないと判断を委ねる。菫も桔梗も首を振り紺と同じ意見であることを示す。慎重に移動すれば目的地であるドラウルカイまでまだ五日はかかる。通常進行でも一日。攻略するとなればもっとかかる。長いと感じても約十分ほど悩んだところで判断材料が姿を現す。小さく聞き覚えがあるような音。ここ数年聞いた覚えは無くふと懐かしいと思い空を見る。それは郷愁からの反射行動であるともいえた。菫などはすでに反応しており険しい顔でそれを見る。桔梗も同じく、萌黄は驚きを持って、紺は苦笑い。その視線を上げた先にいる十機の航空機。どのくらいの高さを飛んでいるか分からないが目指す都市の方向からジェット音を大きくしながらその姿を大きくしていく。
「ひ・・こう・・き?」
懐かしいと思える形状に見入った後、この世界にあり得ないモノが飛んでいると頭を振って意識を取り戻す。
「なんであんなものが、ここに?」
より大きくなる機影によく見る戦闘機ではなく大きく旅客機を思わせるような黒色の航空機が爆音を鳴らしながら上空を通過していく。
「ご主人様指示を。あれはご主人様の世界の飛行機。分類するなら爆撃機であると思われます。用途がそれそのものなら方角を考えれば目的は明らかです。」
菫が力強く進言する。
「反転して王都に・・・拠点に帰還するっ。」
ファイを走らせたところで飛行機には全く追いつかず姿も音も消える。それでもそれにすがるように軍を反転させ全速で移動する。騎兵だけでも戻らせたい。しかし相手が爆撃機なら騎兵が行っても何の意味もない。騎兵が護衛しながら少なくとも弓兵、魔術師を送り届けなければならない。ただ元の世界と同等の爆撃機ならば魔術師はおろか弓兵ですら射程外だろう。魔法を選べば一kmは届くかもしれないが、相手はより高い少なくとも五kmは上の存在だ。間に合ってどうするのかは分からないがそれでも戻るしかない。恐らく目的地には進軍はおらず、あの航空機の中だろうからだ。爆撃殲滅するにも数が多い。一部はミーバ兵をもしくは勇者を搭載しているはず。ここに来て自分が近代兵器を進めていなかったことが悔やまれる。近代兵器を進めていた相手に手も足も出ない。対抗する選定者の武器は『本』。僕が呼び出した知識を横から抜き取ったかして近代兵器を生産したのだろう。もしくは僕と似たような世界の出身なのかもしれない。どちらにせよそれらを作ったなら、敵は圧倒的射程から圧倒的攻撃力で責め立てる。科学力が違う。これだけでもはや勝てないと思える相手になった。間に合うのか、そもそも間に合ってどうするのか。疑問を持ちながら軍を進める。反転して軍を進めれば今まで何もしなかった敵軍が前を立ちはだかる。今までの敵と同じと思い突撃して蹴散らすと意気込み声を上げる。乾いた音と閃光。見慣れた光景が今自分たちに向かって行われた。銃撃による圧倒的な弾幕。先頭の騎兵が見る見る間に溶けるように崩れる。
『偏向防御』
僕と桔梗が反射的に敵軍の前に魔法を展開する。敵の銃弾は防壁に捕らわれ天高く飛んでいく。従来のモノはなぜか足下に叩きつけるような設定になっていた為、僕らが使うものは上空に打ち上げるようにしてある。それらが降ってきた所で民兵ではつらいだろうけど僕らにはほぼ影響がないからだ。敵に動揺が走ったところで戦車台の魔術師達に『礫爆』を使用させ銃兵を吹き飛ばす。
「邪魔をするなぁぁぁ。」
自らの得意兵装の弱点を露呈させつつも適切な対処をとりそのまま軍を貫通するように突っ切る。火薬の匂いが蔓延するなか偏向防御を立てながら敵軍を貫通しながら進む。出口左右に超重縮を飛ばし嫌な音をさせながら道を切り開く。速度を上げ敵領土を後退していくが敵はそれを止めるように軍を展開しその都度行軍速度を落させる。時には壁すら立てて妨害に努める。明らかに時間稼ぎが目的である。つまりは敵を自国に引き込み、自軍は敵軍を迂回し敵国に攻める。自国は敵の足止めに使う。光満教は犠牲を前提にした戦術で攻めて、攻め返したと思わせたところで止めを刺しに来たのである。
「人の遠慮を踏みにじってんじゃねぇぇ。」
邪魔する貴族軍と群がる民兵。死を恐れぬ狂信徒がすがるように集合し僕らにまとわりつく。いくら倒したか、血を浴びたか考えることもなくただ自分を支援させた、してくれた王城を思いがむしゃらに軍を進め帰還を目指す。間に合うかは分からない。航空機の速度とこの邪魔な教徒達を考えれば絶対に間に合わない。
『鈴。航空機がそっちに飛んだ。爆撃機の可能性もある。王城の連中をどうにか助けろ。あと鶸がどうなってるのか確認してくれ。何を使っても良い。』
『ん?避難?倒せばいい?』
『必要なヤツが助かるなら任せる。』
『りょーかい。』
たかがメッセージとしてはバカみたいな負荷を負ったが延命くらいは出来るだろう。鈴が乗っ取られている可能性が残ったままだったが手を打たずにはいられなかった。
『鶸は受信できるけど何も出来ないみたい。』
鈴から返信が来るがさすがに返す余裕はない。少なくとも鶸が生きていることが分かって一安心。火力を上げて目の前の敵を吹き飛ばすかと思案したところで割と離れた所で爆発。続けてまた別の場所で爆発。三度目に至っては敵の一部が吹き飛んでいる。なんのこっちゃと眺めていると自軍付近でも爆発。即死は無いものの隊列は崩され直撃したミーバ兵は防具をかなり破損させている。
「主殿・・・カノン砲ではなかろうか。」
自分で開発しておいていざ使われると気がつかないものだ。紺に言われて初めて思い当たる。どれだけ配備したかわからないが二十秒弱のペースで降ってきて戦場を荒らしていくその爆発は爆発規模こそ微妙だが確かにカノン砲を思い出させる。概ね何もないところに着弾しているが稀に敵軍や自軍を範囲に収める。味方を軽んずる無謀な射撃である。光満教の神からみれば平信徒はただの駒以下ということか。つくづく気に入らない。
「桔梗は索敵範囲を上方に拡大しろ。弾が飛んできたら弾け。戦場を移す。駆け抜けるぞ。」
しかし多少移動したところで砲撃も敵軍も追従してくる。
「連絡しているものがいますね。」
菫が振り切れない敵の動きを見ながらそう呟く。のろしのようなものは上がっていない。特徴的な音もない。魔法かと思い魔力視覚を巡らせるが巧妙な偽装でもなければ見当たらない。そもそも大きく魔法も使われていない。
「あれであるかな・・・萌黄、よろしく頼むであるよ。」
紺が何かを見つけ萌黄に指示を出す。
「ちょっと遠いかな・・・守ってよね。」
「守るのは銃でよいであるな?」
「とー・・・ぜんっ。」
紺の問いに萌黄が手を振り上げ狙撃銃を上に飛ばす。五mほど上の高さに飛び秒針のように回転し狙いを定める。それに敵も気がついたかのように銃弾、矢弾と飛来するが紺の腕から伸びる鉄板がそれらを弾き飛ばす。
「しゅーとっ。」
萌黄は開発された離れた銃の照準と自らの知覚をリンクさせる装置を用いて指示されたものを撃つ。敵軍の後方にまとまった小規模な集団に向けて放たれた銃弾はその目の前で大きく軌道を変え地面に突き刺さる。
「偏向付きであるよ。無理であるかな。」
紺が残念そうに萌黄の銃にぶら下がりながら呟く。
「んっふー。問題なーい。」
萌黄が自信満々に指を弾き音を響かせる。落ちた銃弾が再び地面から飛び上がるように射出され集団に向けて発射される。何アレ。
「銃弾を『遠隔操作』でもっかい投げられるのだっ。」
萌黄はふんぞり返るように自信満々に宣言する。
「ま、威力はお察しなんだけどあれを壊すくらいなら出来るんじゃないかな。」
銃弾は偏向防御を通ると地面に突き刺さるが防御壁自体は越えている。だからそこからもう一度射出して目標を狙い撃ったということか。随分器用なことを。
「で、何があった?」
僕は起こった出来事を推察してその結果を聞く。
「実際に機能しいるかは分からないであるが・・・恐らく主殿の記録にあった通信機の類いではないかと思ったのであるが。結果は動いてみないとわからんであるな。」
紺が銃から飛び降りてきて答える。無線通信まで製造してるのか。確かに原理的にはドローンと変らないかと納得しながら更に軍を移動する。敵軍は追従するが砲撃はついてこない。紺の予想で当たりのようだった。戦いやすくなったことで範囲攻撃をばらまき敵軍の前面を吹き飛ばし、相手の移動を阻害しつつ逃走する。しかし逃げた先でも見つかり次第前から横からと駆けつけ帰路の道を塞ぐ。傷ついた民兵ですら命を捨てるように襲いかかってくる。
「敵が回り込むのが早くないかね・・・」
「カノン砲も航空機もあるならトラックがあってもおかしくはないでしょう。」
菫がため息をつく。納得の理由だった。戦車がないのは資源的な理由か有用性がなかったかどちらかかね。そもそもカノン砲で味方ごと撃ち抜くなら爆撃した方が早いようなと思いつき、航空機につかった資源で足りなくなったのではないかと期待した。そうであると願いたいと思ったという希望でもある。執拗に追いかけてくる敵を蹴散らしながら進み。負荷がかさんだ者から順に休憩していくサイクルが始まり火力も手数も嫌でも低下していく。本来ならひ弱な民兵などからダメージを受けることなど無いのだが、固定攻撃力である銃の前にはたとえ瀕死の重傷者が撃ったものでもダメージを負う可能性が出てきている。斉射には偏向防御で対処できるが近接戦でも撃たれる為無傷というわけにはいかない。被弾率など十%にも満たないのだが発射数自体が多いため、近接系ミーバの防具も破損がひどく怪我をするものも出始める。相手は偏向防御しない為単純な打ち合いなら絶対に負けないのだが、その先は相手への完全な虐殺であり後々禍根を残しそうであることと、そもそも残弾数の不安と時間がかかりすぎるという考察が得られたからでもある。短い相談で得た結論は移動しながら戦い、そして菫と紺、斥候兵を使って敵の早期集合手段である足(トラックというかでかいダンプだった模様)と通信手段を破壊する活動を行う。鶸を連れてこなかったことを真に後悔するほどの人海戦術で敵の包囲手段を潰していく。地道な作業が功を奏し敵の苛烈な追跡はなりをひそめていきある程度成果が出たところで一気に突破した。国境にたどり着いた頃には引き返し初めて五日後のことであった。
『王都は反乱軍?が制圧していて中に入れて貰えません。こちらで再制圧しても、よい?』
一応味方か確認していたのか鈴が王都で得た最終的な結論はそこだったようだ。僕らも国境沿いに来ているし貴族軍程度ならなんとかなると思うけど。航空機は何をしているのかよく分からない。そもそもどこにいったのやら。
『まかせる。』
『動く。』
反乱が各地で続く国内をひた走り一日経つ。さすがに国内で露骨な妨害は少ない。
『なんか飛んできた。あれが航空機ですか。』
鈴からの連絡。相手もどう動いていたか不明だが航空機は王都上空にたどり着いた。乗っているのがミーバ兵でも爆撃でも王都友軍の救出は更に困難になることが確定した。
『対抗手段がない。一端引け。』
『んー・・・航空機に別飛行体が接近。天使兵・・?』
僕は王都を捨てる決断をし鈴に退却を指示する。しかし鈴が航空機を見ている間に何か横やりが入った。最低でも二千m上空の相手に何が出来ようかと思っていたがその航空機にすがるように現れたのは多数の天使兵だった。
『五百近い数がいますね。何者でしょう。航空機を攻撃している模様です。先頭の一機は撃墜されました。』
駆けつけて颯爽と一機を落す。途中大きな爆発をしたらしくやはり爆撃機であったと推察される。ただこんな数の天使兵を操るのは思い当たるのが一人しかいない。僕が到着する前に神谷さんが王都で迎撃してくれたのかと期待して僕は移動を速めた。
鶸「もごもご。」
鈴『もしもーし。』
鶸「もごっ」
鈴『もしもーし』
鶸「もごっもごっ。」
鈴『返事がない。ただの木偶のようだ。』
鶸「もごっもごっ。」
鈴『通話が通ってるなら生きてるんですねー。よかったーとかったー。』
鶸「もご。」
鈴『取りあえずご主人様に報告しておきますね。』
鶸「もごーっ」




