それぞれの一ヶ月(後編)
・ラゴウの選定者達
☆グラージ(47)の場合 スーペリアカード
とあるオーガ一族の部族長である彼は神の前でも不遜な態度を崩さず。またラゴウもそんな態度を気に入りつつも生意気と思い突発的に殴り合う。ただ神との力の差は激しく手加減しても三合で勝負はつき彼はラゴウの話に聞く耳を持つ。
「その気質たるや大いに結構。ただ無謀に突っ込むだけでは命を失うことと心得よ。お前にはこの先の世界を征服してもらう。」
「はっ、必ずや叶えて見せます。」
「まぁそう慌てず話を聞け。」
打ちのめされた彼はラゴウに心酔し疑う耳を持たない。ラゴウはざっくり解説し特典を選ばせる。彼は迷うこと無く『剣』を選び取る。
「どこでもかまわんお前の思う通りに蹂躙すれば結果は出る。」
ラゴウは最後にそう締めて転送先を選ばせる。街道沿い、丘陵、山岳の中から彼は自分の住処と似ていた山岳を選んだ。山岳をあるき回り出会った生き物は殴り倒し、従属するなら連れ歩き、そうでなければ止めを刺す。山岳の頂上付近で拠点を建て、それまでに15体に膨れ上がった部下にその場を守り回復に務めるように指示する。彼はそのまま単身で山を下り従う部下を探す。夕方になる頃には大量の獲物と39体の動物、魔獣を従えて戻る。彼は獲物を皆に配り宣誓する。
「貴様らが俺の指揮下に入り従うなら生かしてやる。手柄を立てれば報酬も出す。何も出来なくても生きていくぐらいは面倒を見てやる。だたその期間はそれほど長いと思うなよ。俺は無能や反逆者に容赦するつもりはない。」
従った54体の動物、魔獣達は恐怖に震えながら彼を称賛または縮こまり与えられた餌を食した。翌日、自分の傷つけた傷が癒えぬものはそのまま拠点防衛を命じ、ついてくる気があるものにはついてくるように言った。多くのものが恐怖と傷を心配する中、一人のオークとヒポグリフが追従する。彼はオークを殴り倒し、ヒポグリフを側に呼んだ。
「着いていきたいという気概は認めるが貴様はまだ戦いに耐えうる状態ではない。その傷を癒やしてからまた立ち上がるがいい。」
理不尽に殴られたと思ったオークであったがその言葉にひれ伏し彼を見送った。ヒポグリフをつれて彼は山の中腹で従う者と反逆するものとを選別し続けた。ヒポグリフはついていくだけで精一杯だったか彼に従うことがすべてであったので可能な限り追いすがった。彼はそんなヒポグリフを労い褒め称え拠点へと戻った。その日彼に従う者は22体増えた。そうやって彼は山を走り回り獲物と従者を選別し続けた。五日後には彼の従者は150体ほどに増え、その時点で彼は山を走るのをやめた。
「今から貴様らをもう一度選別し直す。俺と戦えるかどうかは置いておいて、俺と相対しとき貴様らの価値を示せ。」
付き従った者に理不尽な暴威が襲いかかる。あるものは力を示し、破れ、そのまま生き残れば残留だが、殆どの場合手加減もされずに打ち倒される。力に自信のないものは足の速さ、器用さ、料理、情報と彼の関心を引きそうなあらゆるものを差し出した。彼はそんな者たちも自らの価値判断で選別し、その日のうちに彼の従者は60体になった。
「今日貴様らは選ばれたが次に同じように選ばれるとは思わないことだ。」
彼はそう言い放ちその日を閉めた。そういったものの彼は残ったもの達に訓練をつけ、仕事を割り振り手厚く遇した。ミーバ達とも交流が始まり徐々に施設と囲いを増やし山岳で一大勢力を築きつつあった。2週間ほど拠点と従者の強化、新たな従者の探索を続けるうちに彼らを驚異とみなし始めた山頂の主であるパイロヒドラが拠点に襲いかかる。
「全員速やかに後ろに下がれ。儂がここを食い止める。落ち着いたら周囲から便乗する馬鹿共を追い返せ。余裕ができたら飛び道具を使ってヒドラを撃て。多少ぐらいなら儂に当たっても構わん。」
彼は指示を出して大剣を手にヒドラと相対する。四つ首のヒドラは切られては再生し、噛みつき、焦熱の息、尻尾を駆使して彼を打ち倒そうとする。ヒドラに呼応するように山の中腹から拠点に向かって多数の動物、魔獣が押し寄せる。彼に従った者達はそれらを追い返す、打倒するため、彼の邪魔にならないようにするために戦う。彼の従者達は彼の望み通り押し寄せる敵の群れを防ぎ、押し返し始める。彼もまたヒドラを斬り、殴り、退くこと無く戦い続ける。山の群れはついにいなくなり、落ち着いた従者達は慎重にヒドラに攻撃を加え始める。
「よし、そのまま撃ち続けろ。お前は出来ないならすっこんでろ。むしろ邪魔だ。」
彼は時折助けようと近寄ってくる従者を蹴り戻してヒドラと戦い続ける。彼はトロールとも思わせる再生力を持ってして耐えていた。彼のほうがずっと沢山ヒドラに傷をつけていたが、それでもヒドラの再生力を超えること無くお互いの攻撃と再生力は拮抗していた。だが彼の従者が攻撃に加わり始めるとわずかながら彼らの攻撃がヒドラの再生力を上回り始める。山の群れが追い返された頃には彼に余裕さえ見られる。
「さすがに再生を抑えるものまでは用意できなかったからな。俺等のどっちが根負けするかって所だったんだが。」
彼はヒドラを深く切りつけ、噛みつかれ、蹴り上げてぶつぶつと呟きながらヒドラと戦う。ヒドラもそれに答えるかのように四本の首を駆使して彼を打ち倒そうとする。彼はその首を浅く斬り、受け流し、丁寧に対処し、隙ができれば思いっきり体を切り裂く。
「今回は儂の部下が勝った。お前もそろそろ限界だろう?」
彼はヒドラの心臓を貫き、動きを鈍らせ従者の矢や魔法が当たるままにその場に食い止める。ヒドラは尻尾を大きくばたつかせるが体もひねりきれずに彼に届くことはなく、首を振って噛みつこうにも彼の腕にあしらわれる。そんな攻防がしばらく続いてヒドラは力なく動きを止める。彼は慎重に剣を引き抜き更に心臓に向かって何度か剣を差し込む。そして動かないことを確認して剣を掲げる。
「俺等の勝利じゃぁぁぁ!」
彼は叫び、それに呼応して生き残った従者達も万感の思いで勝鬨をあげる。彼らはこの時点から山の王者となった。
「四分の一くらい減ったか・・・」
彼は武器を片付けて喜ぶ従者達を眺めてそう思った。だが、ここで生き残った者たちはより強くなったことも確信する。彼はヒドラを解体しその肉を勝者達に振る舞ってその勝利を強く印象づける。その後この山林で彼らに逆らうものはおらず、彼はこの山を中心に徐々に戦力を強化していく。
☆ユーキ(12)の場合 レアカード
シャドウレイスとして死後の魂がねじくれまがって生まれた彼はその世界でも運良く生き延びその種の中でも相当な力をもった強化種として存在していた。レイスという実体を持たない亡霊としては強くはあるが、明確な対処法があるその世界ではそれほど危険視される存在ではなかった。それでも12年という歳月はレイスとしては最古参とも言える月日であり、彼もまた多くの力と知識を蓄えて己を排除した世界へ復讐を続けていた。
「なかなかおもしろいやつを引いたな。取り敢えず話を聞けや。」
ラゴウは彼を握りしめて捕まえてそう言った。彼の長めの生存期間をもっても物理に接触される機会は少なく、握りしめられて拘束されるなど初めての体験であった。そのまま精を吸い取ってやろうにも逆に体を燃やされそうになるほどの熱に侵される。彼はラゴウに逆らうことを諦めその話を聞く。
「行った先なら何をしてもかまわんさ。三度倒れるまでは救ってやる。好きなように動け。」
彼はそれなりに攻撃力には自負があるが、弱点への防御を補うために『杯』を選んだ。ラゴウは彼を離してつまらなそうに睨みつけて行き先を選ばせる。街道沿い、丘陵、川沿い。彼にとってはどこも好みの場所ではないがさしあたっては生き物が近そうな街道沿いを選ぶ。強い陽光の下に放り出されたにも関わらず彼は自分が自由に動けることに喜びを感じる。『杯』の力かはわからないが自分の大きな弱点の一つが改善されていることを感じる。ただそのまま光にさらされ続けていれば以前のように存在を失ってしまうことも理解ができる。彼は着いてきた生物と一緒に街道を離れ影がありそうな場所を探す。空間として広くはないが大きな木を見つけてその影に入って一休みする。一旦ここを中心に拠点に良さそうなところを探すことにする。家を建てようと促されるもこんなところに住処を作っては彼の活動自体に支障をきたす。彼はこの街道を見張りながら赤と青のミーバに周辺の探索を依頼する。森、廃墟、穴ぐらを含む洞窟。大きさ問わずそのようなものがアレばと探してもらう。彼は木の枝葉の内から街道を眺めて人の動きを見る。馬車、馬、竜種、鳥、徒歩。流通の良い通りなのだろうが思ったより人の流れが多い。自分の知らない騎乗動物を眺めながらこれから獲物をどう確保するか考える。さらって喰えそうな個体もちらほら見受けられるが、これだけ人が多ければそんなことを続けるとかなり早い段階で怪しまれ見つかり討伐隊が組まれるだろう。夕刻前にミーバ達が帰還し報告を受ける。一時間ほど離れたところに森があり、30分離れた街道沿いに古い壊れた館がある。彼はしばらく悩んでまずはこの周辺の獲物を知るべきだろうと館に行くことにする。打ち捨てられた古い館。戦いの傷跡が館に刻まれており、何かしらの原因で館の主はここにいられなくなったのだろうと考えられる。彼は館を調査するために徘徊し先住民と出会う。彼と同じ幽鬼であるようだが理性を失っておりミーバに襲いかかる。彼はその動きを止め自らの力で拘束する。暴れる霊を押さえつけどうしたものか悩んだが話も聞けないならと腹ごなしをすることにする。
『魂喰らい』
彼は霊を喰らって腹の足しにして、ついでに霊の人生そのものを得る。元々この館の主であるらしかった霊は下っ端貴族で不正を暴かれ、どこかの誰かの代わりに糾弾され抵抗したため物理的に殺されたということのようだ。彼はよくある獲物達の政治劇だと思っていたが、貴族の霊はそれに理不尽だと深い恨みを持っていたようだった。彼は霊の人生そのものに興味はなかったが、この館と霊の背景には少しだけ興味を持った。ここで霊の立場を隠れ蓑にして獲物の様子を探ろうと考えた。彼は館を理解したので地下室へ行き食料貯蔵庫らしい所に拠点を築く。彼はミーバ達に館の中で使えそうな資源を集めるように指示し自分はそこらを動き回って目星をつけていたものとそれ以外の目的物を探す。
『動く死体』
彼はここで死んだ貴族の関係者や兵士の一部をつかってスケルトンを作り出す。生前の骨体であろう形にはなるが生前とは関係のないただの動く骨である。彼はできた5体のスケルトンに残っていた服や鎧を着せて屋敷にふさわしい装いに整える。彼もそれらもロビーでケタケタ笑いながらこれからの悪戯の結果がどうなるか夢想する。ミーバ達が瓦礫や小動物を片っ端から資源にしてしまったため館が小綺麗になってしまったのが彼にとって誤算だったが、それはそれでと思い計画を微調整する。1週間かけて館の内装を整え、周囲の動物を殺しては内部の住民を増やす。
準備が終わった彼は館の貴族を犠牲にした貴族にちょっかいを出し始める。使用人の精気を軽く奪う。貴族の妻に秘密をささやく。貯蔵された食料を腐らせる。彼の腹を適度に満たしつつ、貴族への嫌がらせを続ける。2週間もして疲弊し始めた頃に、陥れた貴族のふりをして貴族にささやく。ついでに精気をいただくことも忘れない。さらに周辺の貴族に噂と障害をばらまき中から外からその貴族を陥れる。その貴族は不審に思い霊の貴族の館に調査に向かわせ、一方で金を払って屋敷の防御を固める。彼は予想通りの動きにほくそ笑みながら悪戯を続ける。調査隊は最後の一人が残るまで喰い散らかしてスケルトンに変え、最後の一人は致死の呪いをかけて逃してやる。報告しおわれば意味もなく血を吹き出して死に恐怖を煽る。貴族は恐怖にかられて自分を見失い古い館へ再び兵を向ける。彼はそれらを美味しくいただき部下を増やす。二度三度繰り返すうちにそれらの行為は正式に明るみに出て、都市をあげて館の悪霊の討伐へ乗り出す。彼はそれらの行動結果に満足し討伐隊が来る前に拠点を引き払い、ミーバと比較的優秀な部下数体を連れて森に移動する。この世界の人間も自分が相手してきたものとさほど変わらない。もう少し注意する必要はあるだろうが彼自身の経験は活用できると判断した。森の奥地の洞窟に拠点を立て直し地固を始める。かの古い館は200人の討伐隊と120体のアンデットとの殲滅戦が三日続いた後、討伐隊の勝利となった。
予定していた被害通りではあったがそれを率いた上層部はわずかながらおかしさを感じていた。一見解決したように見えたが、敵は統率はされていたものの力押しのみでちらほら報告に上がっていた衰弱死したものはいなかった。上層部はそれでも不安を抑えるために館の取り壊しを決めて事件は解決されたものとした。彼は次にどんな手を使って獲物を陥れようと考えながら森の中で獣を喰らい部下を増やす。その肥沃な森は死の気配に満ちた森に変わりつつあった。
☆ベゥガ(16)の場合 アンコモンカード
山の麓付近に住むコボルト一族。彼は若い個体の集団の中では優れた実力を発揮していたが、自己評価が低く小心者、積極性が無いなど期待されていながらも集落の中でも今ひとつ評価が飛び抜けない個体であった。臆病に見られるほど慎重で仲間を憂い、犠牲を少なくして勝とうというその姿勢はこのコボルト社会の中では異端であり評価されないものであった。彼は良かれと思ってやっていることでも周りの評価が低く自信を持ちきれずにいた。
「他がいいんでお前には期待してねぇが。まあ説明はしてやらんとな。」
呼び出された神にもそう言われようものなら彼の心は益々引きこもろうものである。丁寧とは言い難い説明を聞きラゴウの極端な説明により彼は敵を倒せばいいという解釈をし『剣』を選ぶ。ラゴウはその選択だけには満足し行き先を提示する。丘陵、湿地帯、山岳。彼は丘陵を選び旅立つ。何をするにもわからず促されるまま拠点を建てる。周囲の敵を探すためミーバと手分けして敵を探す。小動物が多いが群れでまとまっているものが多く狩りをするのも難しいと彼は思ったが、はぐれた個体を狩っていくことで日々をつないでいく。1週間狩りだけをしていたが獲物を探すのも困難になってくる。武器に不安はないが防具や手勢にも不安が出始める。そう吐露しているうちにミーバから施設と資源、生産を知り一旦自己強化に励むことにする。しかし、周囲に木材が少なく開発の進みは遅かった。木材のため索敵範囲広げた頃に離れたところにいた支配者たるオーガの群れに目をつけられる。別段その山林が支配者に必要だったわけではないが、そう言った文化的作業をしている奴が溜め込んでいるものには興味があった。三日の後、彼はオーガに蹂躙され丘陵を去る事となった。
「ち、やっぱり最初に死んだか。」
ラゴウは彼に期待していたわけではないが、予想通りであるにも関わらず悪態だけついた。彼も期待されていないにしてももう少し頑張りたいと神に告げて次なる地へと踏み出す。木材の確保の懸念から森を選び転送される。襲撃された経験から隠れやすい所と考え、少し離れた場所で発見した大型のアリの巣のような所を間借りして拠点にすることにした。その後五日間はアリの巣の調査をしながら資源集め。アリ以外の先住者はいるものの手出ししなければ安全と判断して入り口周辺の防御を固め、本格的に開発と狩りに着手し始める。多少先住民と揉めることはあれど彼は安全を手に入れ周囲に馴染むように徐々に勢力圏を広げていった。
・ウィルドの選定者達
☆バーノレ(66)の場合 レアカード
世界の狭間にただよう半物質半霊体のような存在である精霊の中でも物質よりに傾き大地を踏みしめる体を持った火を纏う1mのトカゲ。彼は自由気ままに火山をうろついて人、動物、魔獣問わず求めるものには与え、力を示すものに答え、敵対するものには容赦せず。地上に生活していながら精霊らしく自由気ままに生きていた。
「君にはこれらと協力してその世界で生活してほしい。」
丁寧に状況を説明するにもルール上世界のことは伝えられず、詳細な状況も説明できない。
「好きなようにしておればいいのかね。」
彼にそう聞かれればウィルドはそうだと答えるしかなかった。多くの精霊は束縛を嫌い、自らの行動理念によって動く。ウィルドは解説しながらもルール抵触ぎりぎりのラインまでミーバを頼るように説明して行き先を促す。彼は『杯』を選び行き先をすべて聞く前に最初に提示された街道沿いを選び旅立った。街道沿いに降りた彼は少し離れた場所に拠点を建てミーバ達に自由に過ごすように指示した。しかし自由に動くことが出来ないミーバ達は細かな指示を求めた。彼は仕方なく単独でできそうなことを確認し資源を集めさせることにした。彼は拠点を離れ街道や平原を歩き回った。通りすがる
人々を驚かせた。多くのものは逃げたが一部のものは戦いを挑んできた。彼は戦いを挑んできたものには声をかけ、邪魔するつもりはないと説明し、思いとどまったものには礼をつくし、襲いかかってきたものは打倒し元の生活と変わらないことを続けた。1週間も続けるころには有名になり興味本位で近づいてくるもの腕試しに襲いかかるものと会話を試みるのものと増えてきた。彼の力は強く多くの場合、戦闘らしい戦闘にはならず一方的に力を示すだけに終わることが多かったが、彼は止めまでさすことはなかったので気軽に力試しをするものが増えてきた。2週間経った頃きらびやかな装備をつけた偉そうなものが挑んできた時も彼にとってはいつもの作業であった。彼はいつも通り偉そうな男を地に伏せさせ勝負を終わらせた。偉そうな男の親は自らの貴族としての矜持を傷つけられたと理不尽な理由をもって彼に私兵をけしかけた。彼は5人の兵士を余裕をもって打倒した。やはり止めは刺さずに放置した。このことに周囲の人々は彼を心配し彼に逃げるように求めたが、彼はそれすらもいつものことだと流しいつも通り流浪を続けた。貴族はもはや引き下がれず周囲の制止も聞かず30名からなる一団を彼に差し向けた。さすがの彼も統率された一群にはかなわず4名を倒した所で瀕死の状態で束縛された。
「わしを倒した勇者よ。わしに何を望む。」
彼はいつも通り確認をとる。だが彼を倒すだけと命令をうけた兵士たちはそれに戸惑い指揮官を見る。
「知恵ある獣よ。我々は主の命に従いお前を討つだけだ。お前に望むものはない。」
指揮官の声を聞き彼は満足してうなずいた。
「主に従い名誉を求めるものよ。わしはお前にこの亡骸をくれてやろう。」
彼はそういって一層燃え上がり革だけを残して燃え尽きた。周囲の観戦者と兵士たちは戸惑いながらその様子をみていた。指揮官はその亡骸の革を持ち帰り主たる貴族への証拠として提出した。貴族はその結果に喜びそして増長する。従うしかない指揮官も彼に多少の好感を持っていただけに少し嫌悪感をもつ。彼の意志は天上へ帰りそしてまた無為に旅立つ。川沿いに飛び、そこから離れて三日。またぽつんと拠点を建て資源集めを指示して自らは無作為に歩く。1週間後彼は山の麓まで降りてきたトロールの集団に討たれる。止めを刺したトロールに火からの守りを授けて天上に戻る。あまりの短いサイクルにウィルドは苦言を呈するが彼は聞く耳もたずにそっぽを向く。
「まだもう一度ある。わしの目的はわしを欲するものに合うことだ。」
ウィルドは頭を抱えるも「もう一度」という言葉に意味を感じて次の場所へ送り出す。彼は考えること無く丘陵を選びまた放浪を始めるのだった。
☆フィア(22)の場合 レアカード
精霊としては幼い彼女は悪戯好きの悪い意味で精霊らしい光の精霊であった。勇者を求め、候補に追従し、理不尽な試練をけしかけては潰してしまう。そのものの力を見ずただ思いついた試練だけを課していく害悪とも言える存在であった。
「君にはこれらと協力してその世界で生活してほしい。」
ウィルドは彼女の本質に気が付きながらも頭を抱えながら説明をする。彼女は勇者のためにと『本』を選び、平原、森、山岳と人に近そうな平原を選んで旅立つ。彼女は当たりをつけて人の集落を探しその近くに拠点を建てる。ミーバには何か作ってもらおうと思っても資源が足りないということになり資源集めをさせておく。彼女は村に忍び込み、彼女好みらしい勇者候補を探す。三日ほどしてそこそこ素質のありそうな若者を見つけて話を始める。甘い言葉を囁き、己の価値を高く見せかけ、時には彼女自身が男に力を貸して誤認させる。五日の説得の後、男は彼女の言うことに従い村を発展させ村人を煽ってさらに男を増長させる。村の畑、防備は増え村に認知された彼女は歓迎され、賛美された。しかし元々大した力も持っていない男は彼女の試練に耐えきれず狩りの途中で命を落とした。村は彼女が離れる事を危惧したが彼女は次の勇者を選定し村に残った。村人は安堵した。次の勇者は三日後に死んだ。次の勇者は四日後に死んだ。村は勇者に選ばれることを恐怖し始めたが恩恵にむしろ預かれなくなることに恐怖した。次の勇者は二日後に死に、次の勇者は三日後に倒れた。村人はこのまま続けば恩恵の前に村が滅びるとさすがに危機感を覚えた。次の勇者が選定された時、勇者は村人の言に従って彼女を箱に閉じ込めてハンマーで叩き潰した。彼女はそれだけで死ぬことはなく、脱出した後周囲の村人を虐殺したが、勇者と村人の決死の攻撃の前に倒れた。倒されたが彼女は思う存分行動できたので満足していた。ウィルドは頭を抱えたが止めるわけにもいかず彼女を希望した街道沿いに送り込んだ。彼女は意気揚々と次の勇者を求めて人を探した。彼女の目の先には一つの大都市があった。彼女は次はどうしようかとミーバたちと歩みを進めた。
☆ディー(43)の場合 コモンカード
小さな土の気を纏う小人。土を掘り巡らせて土壌回復を促す趣味をもった精霊である彼は黙々と作業して堅実に生きる土の精霊にしては陽気で行動的な異端であった。
「君にはこれらと協力してその世界で生活してほしい。」
「いいよっ」
なにも説明も聞かずに応と言われても困るが否という選択肢もないのでウィルドとしては問題はなかった。しかし彼の知能はその姿相応に低く言ったことを理解しているかは甚だ疑問であった。彼は特に悩まずに『杖』を選びとった。丘陵、川沿い、山岳の中から山岳を選び旅立つ。彼は山岳につくなり取り敢えず穴を掘り始める。掘って掘って掘り進めてそこに拠点を建てる。ミーバと一緒に洞窟を掘り進め四日後に降ってきた雨に流され、流された先でフクロウに食われた。
「すっげーでっかい鳥に食われたー。」
楽しそうに報告する彼にウィルドは頭を抱える。やはり精霊は扱いづらい。引いたカード全部精霊というのもレアリティ以前に諦めが漂う。ウィルドは彼に多少の指導を施して丘陵に送り込んだ。彼は少し高いところにミーバ達と穴を掘り拠点を建ててまた掘り進める丘陵の地下は一大迷路になり彼は迷子のように丘陵を掘り続けた。1週間掘り進め彼は別の離れた場所にたどり着く。
「ついたどー。」
彼は貫通することが目的であって特に意味はなかった。彼はミーバと協力してその穴に祠を建てて出入り口の目印とした。
「よーしもどろー。」
彼はミーバたちと戻り、また穴を掘り進める。ただ掘りそして集める。彼の無意味な行動は暫く続く。