僕、ぶつけ合う。
ユウがろくでもないことをしでかし、案内されるまま『広場』とやらに進む。もちろんこの話を逆手に取ってルートを変更し集合前に叩くという手もあった。いつもなら正面から戦って力の差を理解させるところだけど、クロのようなタイプならそうしても問題ないはずだった。
「迂回したら時間がかかりすぎるし、たぶん悟られるな。」
悟られる点については仕方ないと思っていたが、大雑把にルートを聞くだけでも確かに遠回り過ぎる。時間差が出すぎては対応が取られるだろう。かといって相手の準備が整うであろう所にのこのこ行ってやる理由にはならない。しかしどう話を聞いてもクロのほうが先に現場に着き待ち構えていることはほぼ確定となった。
「めんどくさ。」
「心中お察しします・・・」
どうあがいても相手有利の戦場に飛び込むしか無い。唯一のメリットはその戦いでクロと片が付きそうだというくらい。ベニオに関しては現地にいるかどうかも怪しい。ベニオが後ろからという展開は避けたいが、彼の性格はともかくチェイス神の意図がどう乗っているか分からないのでそういうこともあると想定しながら動かなければならない。そう考えながら案内されて現場に到着する。広場というからもっと適度な広さと思っていたが、競技場かと思うような広さである。中央よりにミーバの集団が見られる辺り完全に待ち構えられている。そしてベニオらしい姿もない。一応迂回されるかもしれないという考えからか予定通路に待ち構えるのではなくどこから来られても問題ないような布陣をしている。ただ予定通路付近に何も無いかというとこれ見よがしに魔力溜まりが検知されるので遅延系の魔法が満載であることは間違い無い。
「さてヨルにユウ。弁明をお聞きしましょうか。」
ミーバの集団の中から凜とした声が響く。声質を聞いてはっとそちらを見る。
「女性型!?」
僕は思わず声を漏らす。
「遊一郎と言いましたか。私はクロ。貴方が不思議に思うことは全く無く、天の意思など介在しないシステムの範疇ですよ。」
教鞭のような短杖を手で叩きながら古き教育ママか教頭を思わせるような概念をそのまま持ってきたようなスタイル。ただミーバ故か小さい。迫力が気持ち台無しである。てっきり進化体は主人に対する異性なのかと思っていたのだが。
『籠絡・・・という訳でもないのですが小型の異性体のほうが警戒が薄れる傾向にあるので強い拒否反応が無い限り異性体になると思います。ただ個々の文化的に保護される傾向のある性別の場合は同性が必要になる場合があるので、強く望めば発生しないというわけでもないんです・・・』
桔梗が申し訳なさそうに補足を入れてくる。確かにハーレム思想があるわけじゃないけど女性のほうが色々許してしまいそうだ。自分より小さいなら尚更のこと。良き協力関係が作れるように意図的に操作されていると言うことか。
「そちらの方は後です。今はヨルとユウ、貴方方ですよ。」
僕の方も問題ではあるがまずは身内からとキツいオーラを出しながら若干だけ眉を上げ睨むような強い視線を叩きつける。しかしその表情は感情を爆発させるようなことはなく制御されていると思わせるほど強い意志も感じる。
「それはその・・一応捕虜みたいな扱いだし・・・一応?」
ヨルがなんとなくそれっぽいような言い訳を行う。まあ捕虜という点は全く間違っているわけでも無いか。
「お前がご主人様を謀って好き勝手してるからだ。どうする気かは知らねぇがあの野郎の好き勝手にされるいわれはねぇっ。」
ユウが無根拠っぽいというか完全に八つ当たりみたいな事を言い出し、なんとくなく話がずれてきたように感じる。
「ヨルはともかく・・・ユウは何を言っているか理解しかねますね。私は主殿の意思を確認し代行として動いています。むしろ貴方が命令に逆らっている側ですよ?」
クロは理解に苦しむと眉をひそめて諭すように語る。
「まぁ私たちを排除したくてその男を呼び込む気持ちも多少は分からなく無いですが・・・・敵を呼び込む所業は背信と思われても仕方ありませんわよ。」
クロが短杖をぴしりと手で鳴らし強い警告を発する。ヨルは不安がっているがユウは今にも飛びかからんとにらみ付ける。
「内輪話で悪いんだけど、一応友軍である僕は敵扱いなのか?」
僕はどうにもユウの言っていることも通りが通らないと思いつつ話に割って入る。
「兵を引き連れてやってきておいて、呼びかけること無く城壁を破壊しておいて敵対では無いと言い張るのですか?」
クロは僕のほうに目を向け蔑んだような目線を送ってくる。確かに直接睨まれるときついものがある。確かにそんなことをされれば僕だって敵だと思うだろう。反論しようが無い。
「極端な忠臣って感じなんだけど・・・本当にチェイス神の僕なのか?あれ。」
僕は小声でユウに尋ねる。
「少なくとも出会ったときの気配はお前の所のアレとたいして変わらなかったぞ。」
ユウは遠慮すること無く平常音量で答える。少しは空気を読めと言いたい。もしかすると鈴と同じで限定的に指示される感じなのだろうか。だたそうすると『神託』もしくはそれに類するスキルを持っているということになるが。他の神の話によると直接干渉は結構なレベルの監視下にあるように思えた。さすがに二つ目を仕込むのはリスクが大きい気がするけど。そこまでリスクを計算に入れるかというと余りに気にしない神のような気もするし結論には至らない。そう考えて結局初期の目的をそのまま果たすのが手っ取り早いと思って思考を止める。
「まぁそうだね。勝手にドアを壊した相手に怒るなと言うのも無理な話だ。早々に神谷さんの顔を見るために最初の計画のまま進めるとしよう。」
僕はそう悪びれずに宣言した。
「正体を隠すこともしませんね、この悪魔は。元よりここで討伐して退散させるつもりでしたしかかってきなさい。」
クロは短杖をこちらに向けて宣言し、短杖を上に掲げる。それが合図であるかのように低めの天井すれすれに天使兵が出現し始める。相手のミーバ兵は推定六万くらい。兵力的にはトントンか若干劣るかもしれないくらいではある。ただそれは正面からぶつかった時だけだ。僕らは現在通路から出てきたばかりで布陣も出来ていない。それに対して相手は全兵力をいつでもぶつけられる状況である。この瞬間は七千対六万とどう策をこねくりまわしても戦って良い差ではない。クロもその優位を殺すつもりは全く無く騎兵を使ってこちらの空間を殺しつつ速攻手を打ってくる。
「まぁ様子見するつもりが無ければそりゃそうするよね。」
僕は手加減するつもりもないクロの行動をみながらそう呟く。
『一発撃つから控えてて。兵を横に出して。』
前に出ようとする菫を押さえ、桔梗と共に前に出ないように後につかえている兵を整理するように支持する。収納から最後の処置をしていない陽光石の剣を取り出し肩に担ぐように構える。鍔と柄がむやみに大きく長いその剣は通常の戦闘に置いては取り回しも悪く使用に耐えないだろうと一目で分かる。クロは兵で僕を討ち取れるとは思っていないはず。ミーバ兵が強いとは言えそれだけで僕らを英雄相当を倒すには力が足りなすぎるし時間がかかる。少しでもリソースを消費させより有利に戦う為に今の運用を行っているはずなのだ。それを承知で部下を下げおかしな剣を構える僕の前を無防備にする動きにクロが警戒するのが見て取れる。
「実戦初使用。理論だけで試験すらしてない。どうなるかはお楽しみっ。」
僕は軽いノリで笑いながら力を込め魔力を流し、魔法を絡め剣を大上段に向けそのまま勢いよく振り下ろす。目の前に敵はいないのに剣を振り下ろそうとする動作にクロが怪訝な顔をした瞬間その意味を理解しその場を離れようと体を動かす。加工の最終作業である『状態変化抵抗』を付与していないこの剣は物質本来以上の強度を持ち合わせていない。最も陽光石はさほど柔らかいわけでもなく魔力を流せば周囲に魔力を吹き出し擬似的に硬度も上がる。そして振り上げると共に使用した『形状変更』で天井すれすれになるように剣を伸ばし続ける。鍔と柄を消費しながら刀身を急速に伸ばす。
「『破砕』『先鋭』『重量増加』・・・開山剣!一の秘奥、山開きぃぃ。」
「こんな馬鹿な攻撃がありますかっ。」
本来こんな単体で出すような技でも無く必中にするために相手を追い込んでから使う技である。クロも馬鹿かと言いたくなる気持ちは分かる。重く長い剣先を持ち上げるのも時間はかかるだろう。ただ普通の剣を振り下ろすだけなら割と一瞬である。狙いがバレバレな予備動作に時間がかかるなら発動中に延ばしてしまえというコンセプトで作られたネタ武器による偽山開きである。破砕の魔法により物理壁は事実上意味が無く、障壁も【障破撃】により准無効化し緊急防御手段はない。魔術師であるクロにこれが回避できるかが性能を測る試金石である。クロは障壁を張りつつ身を躱し、短杖を剣の軌跡に添え受け流しながら体を逃がすつもりのようである。短杖は剣を受け流そうとするが刃が柄にかかり大きな負荷がクロを襲う。短杖に引きずられバランスを崩し剣はあっさりと短杖を貫通しクロの肩口を叩く。確実に防具を貫通し身に当たった感触を得るが防御力が百を超えていればここまでである。未だに違和感を感じる事柄の一つである。直線経路の回避を選択しなかった、出来なかったミーバも防具を貫通されているはずである。ただ分かっているからこそこんな単発では終わらせない。
「追加爆散!」
キーワードとキーコードである魔力を流すことで刀身を中心に爆散させ破片をまき散らす。煌めく刀身の欠片が隙間から本体を貫く。経路上にいない者達も小さな無数の欠片を一身に受ける。勢いと込められた残留魔力により攻撃力もそこそこになるし、なにより数がすごい。経路上のミーバはすべからく姿を消し周辺のミーバも少なくないダメージを負う。経路に近い者は倒れるてもいる。クロは爆発も回避し損ねたが元々体が泳いでいた事もあり爆発の勢いに任せてそのまま転がっていく。僕の攻撃は終わり、その隙に生き残った騎兵が前に詰め僕に迫る。しかしそれを見越したように桔梗の『鉄壁』、そして『超重縮』により突撃の勢いは弱まり吸い込まれていく。吹き飛ばされたクロは転がったまま別の短杖を取り出し魔力を集中し手早く超銃縮を解除する。
「使った費用からすると効率はいまいちかな。」
「そ、それは後ほどでも・・・」
結果を見るだけなら魔法を封じた物を投げた方が安価のように思える。あれも決して安い物ではないがこの試作剣の費用を考えると半分のコストでも似たような結果を出せるだろう。わずかながらとはいえ思案にふけって戦場を意識しなかった事から桔梗が恐る恐るといった感じで忠告を入れる。その声で我に返るように戦場に意識を戻す。
「あそこから刃を直接届かせるとは・・・思考がおかしいと思いながらも傷を負ってしまう私も難有りですね。」
クロが攻撃の手が緩んだわずかな時間で立ち上がるが斬られた左肩口は悲惨なほど抉られすぐに機能刺せることは難しいだろう。しかしその名の通り黒なのだから腕一本くらいはさほど問題無いだろう。
「分かっていたことですが単体での地力差は大きいですね。ですが・・・」
クロは短杖を構え魔力を収束していく。
「それが戦闘の勝利に導くとは限らないということを見せて差し上げます。」
「弱者の戯言だ。この世界では何よりも強者が正しい。」
クロの術を見逃しそう宣言されたことを、僕は世界の法則を鑑みて反論する。
「弱者の集まりを無駄にしないという魔法もあるのですよっ。『集渦再臨』」
静かに増えていた天使兵が握りつぶされるように一点に収束する。負荷に対して保有魔力の高い召喚体を集合させて新たな個体を作り出す。そんな魔法だと思わせた。何体の天使兵が犠牲になったのか、複製された存在である召喚体を犠牲というのは少し違うかもしれないなと思いながらもその集まった力の中心に生まれた者を見る。
「それが君の全力か?」
僕は不安を押し殺しながら尋ねる。
「時間をかければまだ上は狙えますが、この辺りが妥協ラインでしょう。」
クロも少し強がるように答える。羽の数がすべてでは無いが象徴となる天使の羽の数は多い方が階級が高いように思える。現代人、むしろ厨二病患者特有の発想かもしれないが今目の前にいる二m程度で四対の羽を持つ天使はいかにも強そうな筋肉を纏い威圧感をまき散らす敵だった。視線を集中し動き出すまでに少しでも情報を拾おうとする。
「遊一郎にまとわりつくように攻めなさい。」
クロが端的に指示を出す。勝敗は恐らくどちらでも良い。それまでに別の方法で勝ちを拾うつもりなのだと理解する。
『桔梗、後は任せる。菫は僕のサポートに。』
『『はいっ。』』
天使が羽ばたき僕に向かって恐ろしいスピードで迫る。初動の気配に合せて僕は指示を出してその天使に集中する。竜の目を四つ、マニピュレータを展開し重厚な金属の蜘蛛を思わせる脚が二対、背中から伸びる。移動スピードだけでも想定よりも早い。それに合わせて肉体的ステータスもそれに付随して高いと予想を修正する。菫が身をかがめながら素早く天使に向かって走る。菫のほうが若干早いが良い勝負だと思う。飛べる分自由に動ければ天使のほうが早く感じるだろう。天使は炎に燃える大きな剣を片手で振りかぶりながら叩きつける。軌道自体は単純なので問題無く盾で流す。受け止める力の感触は決して軽くない。修正したステよりも少し高いかと思いながらも軽く剣を振り天使の体を斬る。力を込めたつもりもないが今の能力なら同じ硬度なら切れない程でも無い。そんな攻撃だったはずだが全く刃が立たない程には弾かれる。
『これは硬い。』
ビジュアル的に金属鎧のようなものを装着しているがどんな金属を使っているのかと思うくらいの強度を感じる。自分と同等かそれ以上のステータスを備えていると考えると不毛とは言わずともかなりの持久戦を強いられることは必至であった。菫が視覚の影から鎧のつなぎ目のように見える場所に剣を突き立てる。しかしそんな方向に曲がるの?と言わんばかりの腕、関節捌きで菫の剣を弾く。つまりこの天使には菫の隠形が見えていたという証明でもある。菫の平均攻撃力が激減する。
『思った以上に隙が無い。これは本当に真面目に攻略しないといけないわ。』
ゲーム感覚的にも強敵の部類と思わせる相手に防御よりになりながらパターン、隙、弱点を探っていく戦い。それまでに周りがなんとかなるのか。別の不安が襲いかかり一瞬天使以外の外に目を向ける。桔梗が兵を指揮し通路からあふれ出る兵を二カ所にまとめクロの軍に抵抗する。クロは一方を少数で防御よりに片方を多数で攻撃的にあくまで多数対少数の構図を作りながら戦う。こちらはスペースを確保するために中央で邪魔をしている僕らを避けて分かれるように兵を外に出している。多少は片方に偏らせられるが戦闘に巻き込まれない為にも送り込める数には限度がある。感覚的には六対四程度には兵を偏らせられるが分けた兵が劣勢なのには変わらない。桔梗は逆に多数側を防御よりに展開しまずは通路の兵をすべて出すように務めているようだ。排出の速度を上げ最終的には四万対五万五千ならまだなんとかなると思っているのだと思う。ただしそれはクロの誘導だろう。クロはまだ相手を減らすことよりも防御の偏りを多くするようにあえて苛烈に責め立てている。桔梗も罠と分かっていながらも少しでも数を減らさない為にもまず兵をそろえようとしていることが窺える。僕が普段末端の兵まで大事にしすぎていることが現在の策に悪影響を与えている。
『桔梗。重装兵を偏らせすぎるな。反対側を喰われるぞ。』
『分かっていますが・・・現状の被害が・・・』
桔梗も危険は感じているもののクロの兵の運用は的確で丁寧に行われ、こちらの兵を着実に減らしていく。近接なら多対少。遠距離攻撃を支援兵に集中。どちらをどう守っても確実に減らすことだけに集中している。策に嵌められているわけでもない。ただ丁寧な指示を的確にしているだけでこれだけの差が出ているということである。しかしクロ一人でやっているにしては布陣が見えすぎている気がする。本来この役目をしているのは、と思考している内に天使が苛烈に責め立ててくる。決して防ぎ切れない攻撃では無いが防御に集中しなければ取りこぼしそうだ。
『菫、速攻で落とせる相手じゃ無い。桔梗の支援の為にヨルを落せ。』
『ヨルをですか?』
『無意識かコントロールされてるかは分からんけど戦場が見えすぎてる。疑わしいところは潰しておく。』
周囲で視覚系の魔法を使われている様子も無く、かといってクロが戦場全体を俯瞰できる位置にいるわけでもない。最も隠蔽されていれば話は別だが。菫が頷いて最後の邪魔と言わんばかりに背後から足下をかすめるように斬っていくがしっかりと防がれる。舌打ちでもしたかのように悔しそうな顔をして菫は走り抜ける。恐らく無意味ではあるが目くらましのように範囲だけを重視して『爆炎』の魔法で視界を阻害する。荒ぶる炎の中僕も天使も気にも止めずに斬り合う。表情が全く無いただ貼り付けたような顔が恐怖感不安感を煽る。確認として距離が離れた折に銃弾と石弾を撃ってみたが案の定そらされる。そして距離を詰められ防戦一方という展開になる。クロが最初に宣言した命令を忠実に守っているのかむしろ時間稼ぎをしているような節すら見られる。ただ馬鹿正直に口頭でしか命令できないとは思っていない。むしろ最初の宣言すらフェイクの可能性がある。
『殴り倒しましたけど、とりあえず寝かせておけばいいので?』
菫がヨルの意識を刈り取ったことを報告してくる。
『ミーバ使って通路の奥に投げといて。』
僕は盾で天使兵を押し返しながら返信する。そうした後に面倒くさい疑問に思い至り天井に目をやるが追加の天使兵は増えていない。召喚者の負荷が超過してるなら有り難いがそんなことはないだろう。ただ追加の召喚がされないことには若干疑問が残った。もう一体こいつを出されたらより確実に倒せるだろうとも思ったからだ。そして大軍を操作しているとはいえ、兵力に余裕のあるクロがこちらに魔法の一つも撃ってこないのも気になる。効果は薄いが無駄では無いのにだ。ヨルが倒れた事に合せて桔梗が兵の運用を変化させパターンを変える。今までなら即座に対応されたところだが、その対応速度はわずかとはいえ落ちている。やはり見ていたかなと思わせるが倒された事を前提に偽装をかけてきている可能性もある。そんな心配をしなければならない面倒な相手だ。最近相手にしていたようなレベルの者なら力押しでなんとか出来たが思ったより場を支配する能力が高い。当面の不安は若干減ったので天使兵を倒す為の手を考える。雷光球を周囲に円形に並べるように作り出し待機させる。追尾させてもそらされるが任意で爆発させる手段もあるので無駄にはならないと思ってのことである。天使兵は相変わらず馬鹿みたいに突っ込んでくる。その突進を回避するために一つステップを踏めば天使もカクッとルートを変更しこちらに向かってくる。単調だなと思いながらも待ち構えるように盾を構える。
『鉄杭』
馬防柵のように天使の前に鋭い鉄杭を五つ作り出す。天使の体に鋭く突き刺さり、となっているはずなのだが防御力を突破出来ていないので勢いのまま鉄杭がはじけ飛ぶ。天使兵は剣を突き出しそのまま貫通する勢いで僕に迫る。もうそんな単純に攻撃しても責め立てても守りに徹すれば防げることを学んで欲しいとも思いながらその剣を盾で受け流し、そのまま飛び込んでくる天使兵の左腕を掴み勢いのまま地面に転がすつもりで投げ出す。バランスを崩して倒れそうになるがそこは飛行生物らしく羽を動かし滑空するように転倒しないように耐えしのぐ。
『空圧』
距離的にも大きさ的にもそらしても意味が無いほどの大きさにした空気の塊を天使兵の上となる背中側から撃ち込む。ダメージよりも押し出すことを重視した魔法で取りあえず地面に押しつけたいという思いだけで撃ち込む。進行速度と同じだけずれさせられるがそれ以上に大きな風球はそのまま天使兵を押しつぶす。ただ押しつけるベクトルまで進行方向にずらされた為か、天使兵がチップしたボールのようにくるくると回りながら地面を跳ねて吹き飛んでいく。予想外だったが場外に飛んでいく分には手間が省ける。飛行の制御を失い体勢を立て直そうと羽を広げて空気抵抗を作り出し回転力を弱めようとしているが、その制御を立て直そうとしている所に戦場の周囲に張り巡らされた雷光球を動かす。すぐ背中にある雷光球が爆発し天使を焼き、その爆発に引かれるように遅延術式に導かれ次々と天使兵に突貫し爆発していく。ただその結果をどうなるかと眺めていたが。
「あー、電撃無効ですかぁ。」
手間の割りに成果が無く思わず口から漏れる。特に被害もなく姿勢を立て直した天使兵が立ち上がりまた武器を構えて突撃してくる。そういえば召喚天使兵にも属性耐性が高いヤツがいたなーと思い出しながら、そうすると何が有効だろうと悩む。およそ天使兵の耐性をすべて備えているとすると有効な魔法が少ない。こんな単調でもそのうちやれると思われるのも仕方がないとも思えてきた。防御面がいやってほど硬い。手堅い。考えを整理しもう一度攻撃手段を作り出すためにまた思案する。こなれてきた攻撃を片手間に受け流すように攻撃に耐える。マニピュレーターも使って防御を始めているので剣を受け流す程度ならさほど困らない。天使兵が手数重視で打ち込んできても苦労は無いだろう。こちらから手をださなければという前提はあるが。竜の目を飛ばし僕も戦場全体を把握するように見始める。クロの大きな軍母体はクロを中心に二方向に分けられこちらの少数軍に対しては防御最優先で手出しはあまりしてこない。大きな隙が出来れば弓や魔法で攻撃しているといった所。見た感じ何かに嵌めようとかそういう動きは見られない。多勢側は桔梗が持ち直して健闘しているように見える。ただクロ側の余力というか余剰兵力もまだ多い。何を待っているのかむしろ試されているような気すらしてくる。現に後衛の魔術師勢はほとんど動いていない。一部は魔法を時折撃っているがほとんどが何もしていない。やはり十全にすべてを使って苛烈に責め立ててこない理由がよく分からなくなってきた。素直に聞いても答えないだろうし、やはり天使兵を倒すしかないのかと思考を元に戻す。目の前の天使兵を適当にあしらいつつ攻略方法を思案する。また召喚され直したら面倒なので手早くよりも手堅い攻略法を見つけておきたい。むしろ一番の攻略法は天使兵が貯まる前に一層することだろけど。そう先の話を少し考えたところでなぜ追加召喚しないのかという少し前の疑問が鎌首をもたげる。もう一度上空の竜の目に視点を移し観察する。魔力視覚、解析を駆使し魔術師は動かないのではなく未だに動いていることが理解出来る。仕掛けが分かれば話が早い。なにも正面の敵を堂々と打ち破る必要がなければそれにこだわる理由は僕には無かった。それが誘いか弱点か分からないが僕は攻略する方向性を変えることにした。
「やはりそう来ますか。」
クロはそう呟くように身構えてじりじりと後ろに下がり始める。菫と桔梗がか細い悲鳴を上げる中僕と天使兵の戦いは相手の軍勢の中へと移動していく。
菫「鶸みたいなのが・・・」
桔「あちらはもっと攻撃的ですわね。」
菫「鶸ってそんな受け身的ですか?」
桔「いえ、物理的に強そうですねと。」
菫「鶸は精神的につらい・・・」
桔「そこはちゃんと言い訳くらい準備しておきませんと。」




