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僕、踏み進む。

 馬車二台が五台は通れるであろう広々とした通路。反面天井の高さはかなり低く三mと少しくらいか。幅も高さもあるというヨルの話からすると高さが足りない気もするが。

 

「ミーバは大丈夫だろうけど、この世界の人にはかなり狭っ苦しそうな高さだね。剣も上段にすると天井にかすりそうだ。」

 

「私は大丈夫でしょうか・・・飛びながらだと危ないですかね。ただこの通路で戦うこともないでしょう。」

 

 通路の坂道を下りながら菫とだべる。どこまで下がっていくのかとおもったが五分もしないうちに開けた空間に出る。円形のドームのような空間で中央に倉庫と溶鉱炉がありその周囲壁際に木工所等の各種加工場が確認出来る。

 

「ちょうど良いからそこの広場を使わせて貰うか。」

 

 本来なら作業しているであろう空間には誰もおらず今現在は機能していない。ただ広場には移動したような跡がありここ最近使われていないという気配もなく実働している施設であることが窺える。

 

「ちまちました資源を貰うつもりも無いけど、倉庫くらいは壊した方が良かったんじゃないかね。」

 

「略奪が足止めになるという事例もありますし相手の意図次第かと思います。」

 

 僕ののんきとも思える呟きに菫が周囲を警戒し視線を動かしながら答える。そういう考えもありだが、神谷さんが僕を相手にそういうことを考えるとも思えない。

 

「ヨル、ここから先は?」

 

「はぁ?貴方はいちいち知らないと進めないのか。」

 

「知れる手段があるなら知るに越したことは無いだろう。やり直せる攻略ゲームとは違うんだぞ?」

 

 仮にも敵勢力であるヨルに聞いて答えが返ってくると思われていることがヨルは納得いかないのだろう。さっきまでは素直に教えてくれたじゃないか。

 

「そう言われても納得しづらい物があるが・・・」

 

 ヨルはブツブツ言いながら少し考えている。

 

「B型通路を経由して中間区。そこから三カ所に分岐してB型通路から倉庫区、C型通路から兵舎、E型通路から保護区かな。保護区はもうロックされてると思うが。」

 

 もう兵舎があるのか・・・といっても実際にそこに待機している数は少ないだろう。なにせ兵士でも全力で生産作業させたほうが資源確保量に違いがでる。一部の常設警備を除けば疲労もしないミーバを遊ばせていく必要はほとんど無い。

 

「保護区とは?」

 

 僕はこちらを睨むヨルなど全く関係ないとスルーしながら再度質問する。

 

「助けを求めてきた人とか怪我の治療で動けない人とか色々な理由ですぐにここから離れられない人を匿う施設だ。そういうこともあって警報が出ると通路が通れないようにロックされるようになってる。」

 

 一瞬嫌そうな顔をしてもため息をつきながらもすぐに解説してくれる。人を助けるのを趣味に始めたような神谷さんがそのような意図で作ったのなら、僕が興味本位で破壊侵入しようものなら彼女が困ってしまうだろうと余計な事を増やさないようにと話し始める。思考回路がユウに似ている気がする。

 

「初手でユウが来てくれれば楽なのになぁ・・・」

 

 そんな思考回路がもたらした呟きをヨルが恐ろしいものでも見るかのような目で見る。

 

「最初にユウが来て欲しいとか苦行好きの生臭坊主か??」

 

「誰だよそいつ・・・」

 

 知り合いにいるのか知らないが生臭は余計だろう。そもそも苦行ですらない。

 

「基本に忠実なタイプで可も無く不可も無く。極端な攻撃力も防御も無い。そして長期的にサポートできそうな神谷さんじゃなぁ。」

 

 僕は以前のユウに対する評価を口にする。

 

「さりげなくご主人様を批判するのは辞めて貰おうか。」

 

 ヨルがキッと視線を強めて僕を見る。

 

「その可も無く不可も無い状態をただただ高めればつけいる隙の無い強者であると思わないのかい?」

 

 ヨルが認識しているユウの姿を主への批判を払拭させてやろうと挑戦的に語る。

 

「少なくとも君を見ている限りじゃその領域ではないかなぁ・・・強弱の問題じゃなくて約束かな?約束した覚えもないか。ちょっとした頼まれ事の話だよ。だいぶ脱線したねこの先についての話はありがとう。」

 

 ヨルが反応に困ったかのようにどもっているのを余所に相手の動きと行軍をどうするか思案する。先の通路は事実上二方向となり地形次第では迎え撃つのが手間である。保護区の第三者が恩を感じて出てくる可能性も零では無い。ここパワーズ地区は背後に搬出路を背負う形になるがそこから挟撃される心配はそこまで高くなく正面にさえ気をつけていればよいという点では優れている。

 

「やっぱ性に合わない進もう。」

 

「ええ、知ってました。ただ私が先行します。」

 

 途中まで効率を考えながらも進軍制圧を選ぶ。それを菫がため息をついて肯定し妥協案として譲れる線を提言する。こうなって維持の張り合いをしても結論が伸びるだけでさほど変わらないことは分かっているので菫に任せる。菫は頷くと集められるだけの斥候兵を連れ、後から重装兵と魔術師、治療術士を追従するように指示してさっと通路の先に進んでいく。残ったミーバ兵を整列させて重装兵から順に通路を進ませる準備をする。

 

『・・・が・・・ま・・か?』

 

 受信がぎりぎりの無線機のような声が談話室からもたらされる。どうも部屋間でも通信は無理そうだと認識を改め受諾の代わりに笛を思いっきり吹いて音で知らせる。疑問形のような口調を聞いたので少なくとも余裕はあるのだろう。僕は重装兵を進ませそれに合わせて部屋の移動を始める。だがその先の部屋はさすがにそこまで大きくなく一万も詰め込めばいっぱいになってしまうだろう空間しかなかった。正直行軍するには短慮であると思うくらいには狭かった。

 

「ご主人様、先ほどの笛の音は?」

 

「感じ取れていたかは分からないけど部屋間の通信も難しいみたいだ。ほとんど聞こえなかったよ。」

 

「そうでしたか。状況に関しては問題無いと思いましたが、用件はアレの方でございまして。」

 

 僕が菫に答えると菫は目線で通路の奥にいる殺気だった気配の人影を指す。その殺伐とした気配を振りまいているのは先ほど話題に上っていたユウである。ヨルはその姿を見て驚き、そして怯えるように僕らのミーバ兵に隠れる。

 

「どうしたユウ。そこまで余裕の無いヤツじゃなかったろう。それとも僕が来るのが遅すぎて待ちきれなかったか?もしくはいけ好かない神に思考をいじられたか?」

 

 僕はその様子を確かめるべく声をかける。その声を聞いてやはり苛立ったかのように抜き身の剣の柄を強く握りしめる。

 

「遅いのは承知の上だ。お前は手順を大事にするからな。一足飛びに来るようなことはないとは思っていたさ。もう少し直線的に来てくれるかとは期待したけどな。」

 

「残念ながら逃げた先を調べるのに時間がかかってね。」

 

「ちっ、アレには気がつかなかったのか。もしくは消されていたかか・・・」

 

 ユウの僕に対する苛立ちを隠すことの無い言葉に僕が軽く弁明すると、ユウは苛立ちを積み重ねるように悪態をつく。

 

「どちらにせよだ。時間が経ちすぎてあの野郎の準備が整いすぎちまった。いざとなったら俺が殴って解決する話でもなくなったんだ。」

 

「ほう、それで。」

 

 ユウの言葉を把握しつつもそれを受け流すように相づちをうつ。ユウは悟られていることにも苛つき舌打ちをする。

 

「兵力は・・・多分問題ねぇ。あれをさほど苦戦しないならな。策に関してはもう俺が判断できねぇし、どっちがどう嵌めてるかもわかんねぇ。」

 

「皆まで言うな。ようは()が納得したいだけなんだろう?サシのほうがいいか?それとも多数で圧倒するか?」

 

「ご主人様っ。」

 

 ユウが鬱憤を吐露するように暗く低い声で語り始める。いざとなれば神谷さんを殴ってでもなんとかしたかったのだろうが、恐らく事を動かす母体であるクロが来てしまった。最初は噛みついたろうけど多分神谷さんがそれを許さなかった。ユウ単独で出来る手段は執れなくなったのだろう。僕の提案に悲鳴を上げるように菫が静止の声をかける。だけどそれではユウが納得しないだろう。いざというとき僕がクロをそして神谷さんを止められるのかユウは知りたいのだから。 

 

「選ばせるつもりでどうなるかはお前には分かってるんだろうっ。」

 

 ユウが牙をむくように吠える。そのまま力を解放するように大地を蹴り鈍く光る剣を勢いに任せて振り下ろす。それを盾で受け流しつつ空手である右手をユウに向ける。ユウはそれを過剰に警戒するように左足を出し僕の右手首を蹴り上げ、そのまま物理法則を無視するように離れるように跳躍した。

 

「せっかちになったな。いや、噛みつくのはいつものことか。じゃれあいで終わらせて良いのか?」

 

 僕は挑発しながら右手に銃を取り出し先端を向ける。

 

「僕はそれでも構わないけどな。」

 

 そのままトリガーを引き銃弾をユウに撃ち込む。微妙に狙いをずらしながら一マガジンの短い連射を行う。ユウはそれを盾と剣で丁寧に落す。

 

「馬鹿にするな。出会った頃とは違うっ。」

 

「それでもその剣はそのままなんだな。神谷さんの怠慢か?」

 

 かつて僕の渡した剣と盾をそのまま使っている。開発力の問題かそれとも別の意図があってのことか。

 

「五月蠅い。ご主人様は悪くないっ。」

 

 再び吠えるように飛びかかってくる。僕は素早くミスリルの剣に持ち替えて応戦する。剣閃を盾で受け流し体勢を入れ替えて剣で切る。それを身を捻って回避しながら蹴りを飛ばし、離れれば素早くお互いが距離を詰め剣を打ち合わせて火花を散らす。

 

「い、以外と強い?」

 

「ご主人様をなんだと思っていたのですか。」

 

 攻防を見ているヨルから言葉が漏れ菫が自慢するように鼻で笑う。ただ遊一郎を見る目線は不安に溢れている。桔梗もじっと眺めてはいるが緊急になればきっと手を出すだろう。そうなる前にどうにかして決着をつけたい。

 

「銃は使わないのか?」

 

「いろ、いろ、対策が取られててねっ。最初の、は、お遊び、だよっ。」

 

 余裕のあるユウと違って僕はこの攻防でもうギリギリである。何かに警戒気味のユウがまだ余力を残して戦っているからこそ僕はついて行けている。

 

「わざわざ俺に合せる必要はないぞ。大丈夫だと、先に進んでも任せられると思わせろよっ。」

 

 そう言ってユウは剣を横薙ぎに払い、僕の剣を弾くと共に大きく後ろに後退させる。僕は反射的に剣を収納するがバランスを崩して後ろに下げられた事には違いない。剣術による近接は完全に劣っているのだ。

 

「これで納得してくれたら話は早かったんだけどな。」

 

 僕は深呼吸をして息を整えて愚痴をこぼす。

 

「お前の強さを見たいのであって成長をみたいわけじゃないんだよっ。」

 

 ユウは剣を突き出して怒りをあらわにする。

 

「んじゃ、まぁ・・・死ぬなよ。」

 

「その余裕ぐらいは崩してやらねぇとなぁっ。」

 

「結局そこかよ。」

 

 僕は攻め手の意識を切り替える。陽光石の剣を取り出し竜の目を二つ飛ばす。まっすぐ突進してくるユウの前に石壁を展開し出鼻をくじく。ユウが壁を蹴ったのは音と竜の目で確認している。そして竜の目を起点に光の槍を四本飛ばす。空中で回避行動が取りづらいのを舌打ちしてか身を捻って剣で地面を斬る。そしてユウはその場で再度跳躍をし体勢を立て直し、その跳躍を追いかける光の槍だが盾に受け止められ、剣に切り裂かれる。ただそのまま着地を許すわけもなく追撃で足下から土槍を発生させる。ユウはそれを足で踏んだ瞬間に跳躍しその槍を回避する。

 

「また随分と愉快なスキルで・・・」

 

 ツェルナの闊歩に比べると随分不便に見えるが、その実物理系の攻撃には無敵でいられるのではないかと思えるほど融通が利いている。そのまま検証を続けるように攻撃を再開する。石壁で囲み上から脱出しようとするところに上空から石弾をばらまく。盾と剣で弾きながらも跳躍を繰り返し巧みに回避し防御不能になるほどの攻撃を受けないように立ち回る。その回避先に障壁を立てて動きを阻害しようとすればそれを切り裂き逃げる。

 

「じゃあ、神谷さんお気に入りのこれはどうだ?」

 

 雷光球を十二個浮遊させ散らしそしてユウを追尾させる。

 

「そいつはつまんねぇ手だぜ。」

 

 見知った攻撃であるためか余裕をもって答え、そして収納から拳小の物体を手慣れた手つきで剣で弾いて雷光球に当てていく。

 

「おー、お見事。」

 

 素晴らしい手際だが言ってみれば曲芸の領域でもある。

 

「じゃあ・・・生き残れよ。」

 

 そう言って僕は組み立てた手順を展開していく。正面から石弾を飛ばしユウを動かす。予定通り視界の遮らない状況では石弾を弾き飛ばしながらかいくぐり僕に向かって移動してくる。攻め手が未だ剣のみならそうするしか無いだろう。そして僕の視界内で虎の子であるかもしれない飛び道具を飛ばすなんてことはこの野生児でもやらないだろう。視界を遮るように鉄柱を立て、そしてぶち当てるように足下から石柱を出す。癖みたいなものだろう目標を視認したがるのは直上っぽいユウによくある行為である。石柱と鉄柱を避けるように横っ飛びし僕の姿が見えるように移動する。ただ視界から外れた時にはすでに石壁が僕の前に設置されており姿は確認できない。ただ何かしらの手段でまだ僕がそこにいると確信して石壁を飛び越えるように跳躍する。

 

【影縄】

 

 ユウの周囲から黒い厚みの無いはずの縄が無数に襲いかかる。厚みの無いはずの影はいかなる方向から見ても一定の幅を持つ。ユウの初見であろう普段使わない魔法を選んだのはユウの回避しているスキルと相性が悪いだろうと予測したからに他ならない。案の定回避のために物体のように見えるその影をユウは切り裂こうとする。ただその手応えは無いままするりと剣は通り抜ける。通り抜けた影縄はそのまま剣に追従して剣の平面に張り付いたまま目標を目指し浸食する。ユウに取っては事実上の詰みである。その影をどうできるわけでもなく無数の影に捕らわれ宙に捕らわれる。そして緩やかにユウが予定していた軌道を動いている。特定の条件下においては強力なタイプだが欠点の多い拘束魔法である。日光に当たると崩れる。縄自体の速度がさほどでもなく逃げるのが容易。そして一本ごとに動きが遅くなるという形式なので実行効果がでるまでに手間がかかりすぎる。あと日光に当たって無くても地味に効果時間が短い。

 

「そう・・・れっ。」

 

 近距離でやるには自分も危ないが完全にノリで【暴威纏雷】を拘束されたユウに投げ込む。ユウも影縄も物理的に実体を持たない物には干渉できない。黒い塊を中心に電撃音が響く。

 

「うわっ、えげつねぇ・・・」

 

 ヨルが僕とユウを見比べながらぼそりと呟く。菫と桔梗はご満悦である。弾ける静電気のような感覚を感じながら少しだけ後ろに下がる。そして背中に堅い物がぶつかり。

 

「さすがに知らんものには対応できんよなぁ。」

 

 ヨルがそう呟くと、背後に今まさに剣を押し込もうとしているユウの姿がある。影縄の時間は切れかかっているがまだそこにユウはいて、ログは電撃でユウを焼き続けていることを証明している。後ろのユウは何だと思考しながら足に力を入れる。背後のユウが力を入れ踏み込み剣を刺す。桔梗が悲鳴を上げて障壁を張ろうとするが間に空間が無く障壁は発生しない。すでに接触している攻撃には障壁は無力だ。背中にかかる力を感じながら片足を上げ身を捻りかかる力を逃そうとする。それを追いかけるようにユウは重心をずらし逃さないと言わんばかりにさらに半歩踏み込む。

 

「驚きはしたが」

 

 僕はそのまま力強く踏み込む。

 

「力ずくで落すにはまだはえぇ。」

 

 身を捻るまま踏み込み背中で剣を弾き、振り抜く腕でユウの首を捉える。鎧に剣が食い込むがそこは気にせず切り裂かせるようにしてでも致命傷を回避する。驚くユウの顔を見ながら首に当てた腕をそのまま地面に向けて斜めに振り落とす。押し込むことで重心が前面に傾きかけていたユウを地面にぶつけ、そのまま体を回転させながらその場を飛び離れる。地面にぶつかったユウはそのまま空間に溶けるように消え影縄の拘束から解放されたユウが地面に落される。

 

「相変わらずの引き出しの多さだな。」

 

 ユウはすすと埃を払うように体を手で払う。

 

「そっちももうちょっと堪えると思ったけど割と平気そうだな。」

 

 僕は呆れたようにユウを見て話す。

 

「さすがにもう一度同じ事やられたら逃げるわ。当たってはやらんが。」

 

 険が取れたように笑うユウの声が戦闘の終了を告げていた。

 

「やれないことはないがこれ以上消耗されても困る。」

 

 ユウは負け惜しみのように言って継続の意思がないことを正式に告げる。

 

「まぁこれならベニオとサシってもなんとかなるんじゃないかな。」

 

 ユウが懸念事項であったと思われる事柄を口にする。

 

「お前と同じで何が出てくるか分からんやつだからな。」

 

「なるほど。」

 

 ユウの話を聞いて少しだけ納得する。

 

「そんなおかしな攻撃をするのか?」

 

「真面目に正面から戦うやつじゃないね。相手を小馬鹿にするのも楽しいんだろうけど。」

 

 ユウが忌々しそうに顔をゆがめる。

 

「乗り物も自由自在、使う武器もまちまち、前から来てるかと思えば気がついたら後ろにいるとか。今みたいに急に喉元に武器があったり、お前と同じで集中力がいくらあってもたりん。」

 

「ほうほう。」

 

 その話だけでも転移か幻覚か等いくつか候補が挙がる。少なくとも先ほどのように突撃、射撃の単調な攻撃ではないようだ。ヨルの反応を見る限りでは転移ではないかと思うけど。

 

「で、合格が貰えたことで案内はしてくれるのかい?」

 

 僕はユウに尋ねる。

 

「そんなことしなくてもだいたいわかってんだろ?」

 

「さすがにそこまで下調べは出来ていないよ。」

 

「珍しく準備不足だな。」

 

 さも全部把握してこのルートから来たかのような買いかぶりだが、ここに来たのは全くの偶然である。

 

「あそこから入れるのはお前くらいのはずだからな。調べてきたのかと思ってたよ。」

 

 ユウが礼拝堂のルートを知っているような口ぶりをするとヨルが驚いたようにユウを見る。

 

「え?ユウは知ってたのか。なんでそれが共有されてないんだ。」

 

 ヨルは不安に駆られたかのようにまくし立てる。

 

「まああの仕掛けはテストみたいなもので常用するつもりじゃなかったしな。ご主人様があそこを隠し気味にしたのは色々察してやれよ。」

 

「それでもっ・・・」

 

 ユウがなんとなく申し訳なさそうに話しているのを察してかヨルは抵抗をやめた。

 

「まああとはクロとの問題だな。」

 

 ユウがそういうとヨルがユウを見る

 

「ヨルとクロは意識していなくても知識を共有している可能性があったし、なによりクロがヨルから一方的に吸い上げられる可能性もあった。だから俺がそういって大っぴらにしなかったのもある。勘弁してくれ。」

 

「一体いつからクロを・・・」

 

 ヨルが以外そうにユウを見るが。

 

「何って最初からだよ。あのいけ好かねぇ気配なんてそうそうあるとは思い無くないな。」

 

 ユウは正しく神の気配を感じ取れている。確信するまでは決して気がつけない。あの神が容易にこの世界で暗躍できる要因の一つでもある。

 

「まぁ分かった。どこに行きたいんだ?」

 

「実はそれも考えてない。」

 

「何しに来たんだよ・・・。」

 

 ユウが気を取り直して案内を買って出たが僕の答えに呆れる。

 

「まあご主人様って意外と行き当たりばったりですよね。」

 

「鶸の苦労が忍ばれます・・・」

 

 後ろの菫と桔梗も言いたい放題である。

 

「んじゃ、取りあえず原因であるクロをなんとかしようかね。」

 

 僕はそう言って方針を決める。

 

「んじゃ、広場でいいか。」

 

 ユウはそう言って歩き始める。

 

「いいかってどういうことだよ。」

 

 僕は不安にかられて尋ねる。

 

「喧嘩売って呼び出しゃ嫌でもくんだろっ。」

 

 笑いながら爆弾発言をして歩みを進める。僕も菫、桔梗も呆れてため息をつく。

 

「あ、なんかウチの馬鹿がすみません。」

 

 ヨルが恐縮そうに詫びをいれて行軍は進んでいく。



菫「どうしてこうあちらの者は気に障るのでしょう。」

桔「あの子を見ているとお互い様感はあると思いますが・・・」

菫「少なくとも私はあのような馬鹿をやらかしてはいませんよっ。」

桔「・・・」

菫「私、そんなにひどいことしてますか?」

桔「方向性の違いだけで規模は変わらないと思いますね。人のことは言えませんが。」

菫「なんかショックだわ。」

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