表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/172

僕、釣られる。

 ベニオの情報に関して意味があるのかそれが正しいのかは分からないけど、神谷さんなら礼拝堂だろうと迷ったときの最初の目標としていた場所にしていた所にさもそこだろうという気分を出しながら進む。

 

『礼拝堂ですか?何も無さそうでありましたが。周囲で撤収が始まったようなので後をつけておりますが、いかが?』

 

 合流の指示を紺に飛ばしたが紺の方でも何かつかめそうな気配がある。ばれて振り回されているようなら困るが、一端追跡を続けて貰う。散発的でも襲ってくるかと思ったが何も無いのは地上戦を諦めたからか。ヨルとベニオにそこまで防衛の信頼を寄せていたのか、それともヨルの監視能力のせいか。どちらにせよ無駄な障害であることには変わらないので煩わしさが無くなっただけマシだ。鈴に連絡をとって礼拝堂付近まで軍を動かして貰う。どこに行くにも都市の中心付近である礼拝堂周辺は便利だと思ったからだ。

 

「前見たのと変わらんね。ここに来た時はもう正気だったと見るべきか・・・」

 

 僕は元の世界でよく見たことのある形の礼拝堂を見上げながらつぶやく。

 

「元の世界の神の礼拝堂でしたっけ。この世界基準では異質な違和感がありますが。」

 

 菫は周囲を観察しながら受け答える。

 

「こっちはなんていうかただの家だよね。」

 

「神が実在していて、いつも見られている環境という所では集会所や相談所としての意味合いが強いですからね。祈り願う場という感じではないですね。」

 

 菫と軽く話し合いながら菫が扉を押し開け中に入る。ベンチのような椅子がならび中央の先には如何にもといった十字が飾られている。そこだけ強く光が当たるような構造は如何にもそれらしいという雰囲気を醸し出している。ただ実際にそれらしいものが放出されているわけではないので、この感覚は僕だけのものであり菫や桔梗にとっては上の者が何かをひけらかす場としてしか映っていないのだろう。菫は何か無いかと周囲に視線を走らせ、桔梗は音探知や魔力探知を飛ばして早々に調査を始めている。とは言え同郷の彼女と共通ごとであろう定番ならその場所も予測がつく。僕は中央の講演台に近づき押したり引いたり、動かなければ何か無いか探す。ここには無さそうなのでその背後にある大型十字の台座を調べる。

 

「『神の国と神の義を求めよ』か。チェイス神のことなら御免だけどな。」

 

 台座に刻まれた日本語を呟き神谷さんが何を考えてこれを刻印したのか考える。後ろを振り返れば菫と桔梗がしらみつぶしに入口から順に調査を続けベンチの先頭まで来た所である。ベニオは入口の近くの柱に縄の端だけ結ばれており拘束にはほとんど意味もない状態で入口の扉に寄りかかってこちらを見ている。ヨルはその足下で転がされたままだ。MPが負荷を超過している状態なので外部から回復してやらないと基本目覚めないしな。秘密を口にしないが半端な協力をして妨害もしないベニオは何を意図しているか完全に信用した訳でもなくまだお互いが計っている状態が続いている。

 

「ベニオ。君が思う()とはなんだ。」

 

 僕はベニオに呼びかける。その意図を何かと菫と桔梗も顔を上げる。

 

「お、それを俺に聞いちゃいますか。そうですね。・・・『神は自由である』。発生した者も上り詰めた者も、等しく統べる力を持ち、己の意思のみによって庇護者を自在に導ける。その導きは進歩でも破滅でも選ぶのは神である。故に神は真にして自由に選べる者である。と言うところっすかね。」

 

 ベニオは朗々と神の偉大さを語るように答える。

 

「君の思う神はよく分かったよ。」

 

 僕らはどうだろうか。他の世界から来た者として神に出会った時点で彼らは少し即物的な存在となった。見えないからこそ神、と言うわけでも無いのだけど出会った神がアレのせいでどうもしっくりこない。最も神谷さんが思う神に比べれば他国の神は即物的な神々も多い。それでもこの世界の神々、この世界の周辺で別の世界を管理しているであろう神々は少々行きすぎている気もするが。僕と違って神谷さんはアレを神と崇められただろうか。この刻印がその結果であるような気はする。ただ僕はこの言葉が何か、どんな意味があるか知らない。僕が知っているその神よりにより広められた数少ない言葉のうちの一つ。当然その言葉も言語的に知っているだけで意味は知らない。ただそれでもそれを試して見たかった。

 

「『求めよ、さらば与えられん』。」

 

 なぜこれを紺が発見できなかったのか。あえて見逃したのか仕掛けが分からなかったのか。台座から魔力が溢れ周囲を満たす。扉が勝手に閉まり勢いのままベニオが追い出される。

 

「うぉ、ちょま。いいとこなん」

 

 扉に押し出されるようにベニオの声が閉ざされる。溢れる魔力は僕、菫、桔梗、そしてヨルの体を満たす。

 

「ご主人様、今・・・」

 

 桔梗が溢れる魔力の中で何かを感じ取って報告しようとしたがその結果は言われなくてもすぐに理解出来た。扉が開かれその先には街並みではなく様々な花が区画ごとに植えられた花畑になっていた。

 

「ミャ?」

 

 麦わら帽子に小さなスコップと袋、じょうろを持ったY型がこちらを見ている。

 

「ミ゛ャー!」

 

 そして奇声をあげて逃げた。

 

「ここは、今は・・・」

 

 魔力によって負荷が除かれたヨルが縄で縛られたまま目を覚まし周囲を伺う。場所がどうか認識出来たようだが自分の思っていた状況と違いすぎてうまく整理出来ていないようだ。

 

「君は戦闘中に負荷超過で倒れた。その時点で戦闘は終了。僕らは調査の為に礼拝堂にやってきたところで、とある事をしたらこうなった。」

 

 僕はヨルに状況を軽く説明する。

 

「ベニオはどうしましたっ。」

 

 ヨルが縛られながらも怒気を強めて言い放つ。

 

「どうもこうもさっきまでいたけど扉に追い出されてはぐれちゃったよ。」

 

 僕は不可抗力だというふうに説明した。ヨルは少し落ち着いて小声で謝罪した。

 

「負けたことですししょうがありませんね。で、ここはどこですか?」

 

「それは僕が聞きたいんだけどね。」

 

 ヨルの質問に僕が質問で返す。ヨルは縛られたままごろごろと転がって花畑のほうを向いてそちらをじっと見ている。

 

「どこの庭だろう・・・見覚えがない・・・あの人はまた増やしたのですか・・・思ったより広い・・・あの花が咲いている?かなり古いところなのか・・・」

 

 ヨルがどこを見ているかよく分からない視線で周囲の情報を確認し始めている。やっぱり縛ったくらいじゃ抑制にならないなぁ。

 

「ここはどこなんですかっ。」

 

「僕が聞きたいよ・・・」

 

 なんか興味ありげに少し興奮気味に聞いてくるヨルにちょっと引いてしまう僕。

 

「礼拝堂の仕掛けを起動させたらここに来た。エレベーターなのか転移なのかもわからん。その辺は君のほうが詳しいだろう。」

 

「あー、うん。そうですね。」

 

 何のためにここを?などと呟きながら再び外を見つめて集中し始める。ここでこうしても仕方がないので菫にヨルを抱えさせて外にでる。

 

『鈴、僕の方向は分かるか?』

 

『鈴現着です。少々おかしな進化体を観察中です。』

 

『ベニオか。たぶん安全だからほっといて。』

 

『さようですか。方角となると・・・北西に地下方向ですね。割と浅めです。礼拝堂にいるのでは?』

 

『色々あって飛ばされた。』

 

『石の中にいる?』

 

『残念だけどそんなことはない。』

 

 位置確認と現状連絡の為に鈴に連絡をとったが話がずれる。地下だからあながち石の中と言えなくも無いけど。整えられた石畳の通路を歩きながら花壇の花を観察する。詳しくは無いけど季節も種類も統一感が無い。少なくとも春と夏の花が咲いているのは確認出来た。

 

「それにしてもなんでこんな花畑を・・・」

 

「流れ着いた頃ご主人様が心を落ち着けるための作業だったとか・・・今では趣味の一環として様々な所に隠し部屋のように作っていまして・・・探すのが大変なんですよね。」

 

 僕の呟きに律儀にヨルが反応する。

 

「趣味・・・ね。こんな広いのがいくつあるんだよ。」

 

「ここは古い場所のようですが私も知らない場所ですね。32カ所目が増えたことになります。ここはかなり大きめで他の場所は半分も無いですよ。」

 

「それでも広いだろう。そういえばさっき農家みたいなY型がいたな。」

 

 さすがにそんなにあったら一人で世話は出来ないだろう。しかし今は周囲にミーバは見えない。

 

「Y型がいたのですか?警備が入れるルートがある?」

 

 ヨルがまた呟きながら思案を始める。

 

「逆走できるなら助かるけど。」


 僕は周囲を見回す。菫も合せて周囲を見回す。菫が何か気がついて視線を止めて右手に短剣を構える。

 

「いやいや、勘弁してくれ。私が止めるから。」

 

「まぁ助かるけど・・・一応抗争中なんだけどなぁ。」

 

 ヨルも現状になじみきってしまったのかなぜか警備を止めようとする。そもそも襲わせて脱出しようとも考えていないようだ。

 

「花畑が荒れたらご主人様が悲しむだろう。」

 

「そういう理由かぁ。」

 

 隠れながらやってきたのはC型の斥候兵らしきミーバ。五体ほど確認できたがもっと隠れているかもしれない。ヨルがミーバ兵を見ながら何か交信している。ミーバ兵は納得したように戻っていった。

 

「何を話していた。」

 

 僕は突然集団で襲われても困るので確認して見る。

 

「それを教えると思っているのですか?あとその時点で私がどう説明しても信用するのですか?」

 

「ごもっとも。」

 

 言われたことを嘘と判別できない以上何を言っても無駄だろうとヨルは言う。

 

「口で言ったことと裏で念話したことが一致しているとも限らない。貴方にどういった所でさほど変わらないだろう。一応言っておくとここの住所と警備の所属を確認して見た目はともかく問題無いと説明しただけだ。」

 

「律儀だねぇ。」

 

「ご主人様の為だからなっ。」

 

 ヨルが急に威嚇するように声を荒げる。子犬か。警備兵がいなくなったことで周囲の探索を始める。ヨルの呟きを信用するならこの隔離空間らしいところに他のところから来る手段がありそうなのだけど。ぼちぼち探索しているとどこからかY型農夫がやってきて花の世話を始めている。Y型の移動で当たりをつけた菫が目配せをして案内をし始める。いつもなら先行するところだがヨルを抱えていることもあって一緒に歩いて行くことにしたようだ。そろそろ自分で歩かせようか。そうするとどっか逃げそうだしなぁ。いや、それを追いかけるのもありか。などと考えてると通路の先の交差点が少しだけ広めに作られており中央には木の板がはめ込まれた床がある。

 

「もっと時間がかかるかと思ったけど・・・」

 

 ヨルの残念そうな声がここが一つの目標であることを告げる。

 

「Y型が全自動だったのが敗因かね。」

 

 僕はそう言ってしばらく板の様子を見る。魔力的な付与もなく見た目はただの板で手すりが付いているだけだ。菫が近寄って調査をしているが当然であろう罠もない。むしろ調査中にY型が返ってきてごく普通に開けて入っていったくらいには何も無かった。

 

「魔力的な仕掛けが無い以上、普段の通用路に罠は仕掛けないか。」

 

 恐らく予想外の場所に侵入してしまったと思われ足止めの対策はされていないのかと考える。ただもしもの為に調査は必要だ。菫が武器を構えながらそっと板を開け始め、隙間から中の様子を確認して勢いよく跳ね上げる。しかしその勢いと裏腹にその先の通路は静かなものだ。少々バツが悪い顔をしながらヨルを抱えて飛び降りる。通路に横道があるかと思えばそこは何か道具を保管している倉庫。先ほどY型が持っていた道具の予備らしきものや土を耕す道具、いかにも肥料が入っていそうな絵が描いてある袋、園芸コーナーにある用途の分からないアンプルなど様々なものが置かれていた。

 

「少し古めの型?やはりここは旧世代の施設なのか・・・」

 

 ヨルが再確認するように呟く。

 

「さっきから古い施設であることを驚いてるけど一体なんなんだこの花畑は。」

 

 僕はヨルの言動が気になって聞いてみる。

 

「花畑自体はご主人様の趣味ですよ。ただ増やしすぎたこともあってクロの管理の元区画整理がされて新しくできた場合はクロに申告することになっているのですが。」

 

 何をやってるんだかと思いながらもヨルの口からもクロという名前が出てきたことに注意する。

 

「当然のことながら区画整理する前は誰も地下の全貌を把握していませんからお互いの記憶を頼りに地名と番号をつけて管理を始めたんです。取りあえず住所と言われていますが。」

 

「いやいや、掘ってるのはY型主体なんだろうしY型ネットワークで把握出来るだろう。それこそトウが即座に把握出来るはずだ。そもそもここにだって警備兵が来たんだしC型の進化体はいないのか?」

 

 神谷さんが地下の全貌を把握していないのも問題だが、そもそも管理と拡張にY型を起用する僕と同じ手法をつかっているならY型ネットワークで順に確認すれば済むことだ。

 

「トウに?そう言えば区画整理には何も口を挟みませんでしたが。」

 

「そもそも君らミーバのほうがネットワークの発想に至りやすいだろうに。」

 

「我々がネットワークをつかって把握しているのはご主人様の指示ですから。」

 

「え?そうなの?」


 ヨルが疑問に思い僕が諭すと菫がそこに補足をいれてくるが、その事実に驚いてしまう。

 

「ミーバの時にお互いの位置を把握するために、経験を共有するために頻繁に交信していますが、進化体になると要所要所でまとめて受け取るようになるのでその都度大きな指示をする以外ではネットワークには触れませんね。最もミーバ側から交信はしばしばありますが。」

 

「うちはそれも少ないですね。」

 

 菫とヨルが組織でのミーバの差を露呈させる。

 

「いろいろ前提が崩れて気がする。」

 

「ミーバを使って遠距離通信しようとしたのはご主人様くらいでは?」

 

「伝言ゲームで通信してるの?面白いなぁ。」

 

「コピペみたいに伝わるから伝言ゲームみたいなことにはならないよ。」

 

 正直Y型に見られて警備兵に確認されたのにここまで放置されているのは神谷さんもこちらを把握できていないのか。それとも待ち構えているだけなのか。受け身なところが合ったから引きこもっているとは思うのだけど、こうやって出張ってきているのがいるのは暴走なのか指示なのか。

 

「ヨルはどうして表に出てきてたんだ。」

 

 僕は何気なく聞いてみる。

 

「それが作戦の内だからだ。細かい事まではいわない。」

 

 返答が貰える辺りは有り難いと思いながらふむと頷くことだけして反応を返しておく。

 

「神谷さんも随分変な作戦にしたもんだな。」

 

「ご主人様は関係ないっ。」

 

「はいはい。」

 

 小馬鹿にしたような僕の演技に釣られるかのようにヨルが噛みつくように言い放つ。僕の返答を聞いて菫がなぜか頷いているのもよく分からない。取りあえず作戦に神谷さんが直接関与していないような雰囲気だけ確認が出来たので少し警戒方向を変える。作戦を立てているのがクロとかいうよく分からない相手であることを仮定する。ベニオはクロと敵対もしくはコウと協力関係かと思ったが、ヨルのクロに対する反応も少し気になる。少なくとも神谷さん至上主義のごく普通のミーバでクロに対して友好的のようには見えない。歪な進化体の関係が見え隠れし始める。

 

「相手にしても予想外の状況になってるけど・・・これはおびき出されたかな。」

 

「先に進むか戻るか、どうしますか?」

 

 僕の呟きを聞いて菫が確認を取ってくる。

 

「取りあえずこの先は調べてからかな。そもそもここに軍を持ってくるのも手間そうだし。」

 

 そう言って先に進み突き当たりの扉の前に立つ。菫が扉を調査し僕と桔梗は魔力的に扉を確認する。今度は扉に魔力反応があり桔梗がそれを解析し始める。僕も確認するが桔梗のほうが早くて正確だ。出来るところまでやって訓練を兼ねる。

 

「仕掛け的な物はありませんでした。」

 

「魔法自体に攻撃性はないようです。通過時に種族的と大きさをチェックしていると思われます。そこから先にある物までは確認出来ませんので警報の可能性はかなりあると思います。」

 

 菫と桔梗の結果を聞いて悩む。

 

「ヨル。この先は何があると思う?」

 

 僕は素直に聞いてみる。

 

「それを僕が答えると思っているのか?」

 

「作戦に関係ないなら教えてくれそうだと思ってね。」

 

「段々図々しくなってきたな。やはりご主人様を惑わす悪魔か。」

 

「僕、そんなに神谷さんに絡んだかなぁ。」

 

 ヨルの怪しむ目線を受けて僕は記憶を掘り返す。

 

「貴方はどうして仲間であるはずのご主人様に攻め込んできたのだ。」

 

 ヨルは何かを決めたように僕を見ながら言う。

 

今の(・・)神谷さんは僕の仲間か?操られたかそそのかされたか知らないけど、最初に攻撃を仕掛けてきたのも彼女だしね。」

 

「そんな馬鹿なことが・・・あったのだな。」

 

 僕の冷めた口調にヨルは一瞬反論したがすぐに何かしら思い当たることがあったのか声を落した。

 

「元々神谷さんを見つけたときは極度の臆病者だと思った。ただ何かを成し遂げようとする努力の跡だけは見て取れた。元大学生らしいしそれなりに判断力もあって少し指導だけすれば後は自分なりに出来るとは思っていた。ただ彼女の不安につけ込んだ面倒くさいやつがいたってってだけだ」

 

 僕はそう神谷さんへの評価と所見を口にした。

 

「面倒くさいやつ・・とは?」

 

「それは今の君に説明しても理解出来ないから割愛する。どう疑問に思った所で今の君が結論にたどり着けないからだ。」

 

「説明されて理解出来ないなんてことあり得ないだろう。」

 

「残念ながらそういう物としか言い様がなくてね。」

 

 僕はそう誤魔化してヨルに説明した。先ほどまでのヨルなら突っかかってきそうなものだったがそのまま押し黙った。

 

「扉は通過をチェックして記録するけど警報は鳴らない。いつもいつも誰かが見てるわけじゃ無い。ただ今は貴方を探して見ているかもしれないけど。」

 

 ヨルがそう扉の性質を告げる。

 

「どういう心変わりかな。」

 

「ユウが言っていた通りだと思っただけですよ。いけ好かないヤツだけど筋は通してるってね。貴方はご主人様を救いに来てくれたんだろう?」

 

 ヨルが切羽詰まるようにまくし立ててくる。

 

「いや、結果的に助かるかもしれないけど、後顧の憂いを断つために来たのであって攻め込んできたのは事実だ。」

 

 僕はきっぱりと切り捨てる。

 

「はい?」

 

 ヨルの期待感から突き落とされたように納得いかないような声をあげる。

 

「君もユウも僕に何を期待しているんだ。せっかく見つけた友軍だからそれなりにお手伝いはしたよ。だけど結果、神の都合にあわないとかで妨害される始末。この行動をさせられていること自体もヤツの足止め策の一つだよ。」

 

「はぁ?指し手がしかも自分の駒にそんなことするわけないだろう。」

 

「実際にされてるから困ってるんだよ。」

 

 僕はその反応に苛ついて少し声を荒げる。そしてヨルをちらっと見る。

 

「それでこれからどうするんだ?」

 

「まぁそうなるよね。」

 

 ヨルの反応にため息をついてから大きく深呼吸して心を落ち着ける。

 

「この先次第だ。ここから侵入がどのレベルで出来るかで進むか戻るか決めなきゃいけない。」

 

 僕はヨルに説明する。ヨルはふと思案顔になってからまた顔を上げて僕を見る。

 

「正確なことは言えないが一mと少しの通用路だと思う。使ったヤツに聞いた方が早いかな。」

 

 そう言って戻ってきていたY型に目配せする。

 

「この先はどうなってる?」

 

 ヨルがそう尋ねるとY型は「A型通用路でパワーズ地区です」と看板を掲げる。

 

「A型?そんな大きい通路に繋がってるのになんで把握されていないんだ。ただパワーズか・・・」

 

 ヨルがまた悩み始める。「どうします?」とY型が看板を掲げる。

 

「どうするって何を?」

 

 ヨルが目に入った看板を見て尋ねる。「救援を要するか。」「連絡だけか。」「何もしないか。」Y型は次々と看板を入れ替え確認を求める。

 

「君よりY型のほうがよっぽど理解しているじゃないか。」

 

 僕はそういってヨルをからかう。

 

「え?でもY型から連絡を直接受け取るのはトウだけで・・・トウは全部把握しているのか?」

 

 混乱しているヨルを見て僕は菫に指示してヨルの拘束を解かせる。菫は若干顔をしかめながらも指示通り拘束を解く。Y型も首の代わりに体を傾けながら状況を再認識しようとヨルを見ている。

 

「一体どうなってるんだ・・・」

 

「混乱しているところ悪いが指示してやってくれるか。判断は任せる。」

 

 僕がそう言ったことで拘束を解かれたことにも気がつかない様子でヨルは僕を見上げる。

 

「はぁふざけているのか。貴方もご主人様も何を考えているか分からない。一体何をさせたいんだ。何をしているんだ。」

 

 ヨルは混乱してわめき立てるが僕は冷静にスルーして声が落ち着くのを待つ。

 

「話の中身は全く聞いていないが・・・恐らくここでどうにかしようとしているのはクロで神谷さんは関与していない。そしてトウは・・・全部知っていて放置しているんだろうな。アレも神谷さん至上主義がひどいからな。」

 

 ウチの桔梗も負けてないが、トウは外面はいいが実際の中身は筋も何もかもが神谷さん依存だ。

 

「トウに問題無いと連絡しておいてくれ。」

 

 ヨルは何か疲れたようにそうY型に告げ、Y型はそれを気にもせずに「了解」と看板を掲げて元の仕事であろう動きに戻った。

 

『鈴、ベニオの様子はどうだ。』

 

『少し前に飛び立ってどこかに行ってしまいました。』

 

『礼拝堂からこちらに移動できるか検討してから軍を動かすのでよろしく。』

 

『あいあいさー。』

 

 ヨルが再起動する前に鈴と連絡をとって状況を確認する。

 

「さてこの先はどうなんだ。」

 

 僕は改めてヨルに確認する。

 

「A型通路は荷馬車で荷物を移動することを前提とした外への運び出すための通路だ。幅も高さもある。ただそれにしてはここの扉が小さい。何か別の意図で作られたと思う。パワーズ地区は製造区で加工関連施設が多く配置されている。」

 

 ヨルが何やらぼーっとしながら答える。

 

「ベニオと仲が良いのは誰だ。」

 

 僕は疑念を整理するため愉快なヤツの話を聞く。

 

「ベニオは誰にでも好意的だが好いているヤツは少ない。クロと同じくして進化体になって、一番つるんでいるやつらとも言える。」

 

 ヨルはそう答える。

 

「大当たりかよ。」

 

 僕は面倒なヤツに絡まれたのだと思いながら鈴に再度指示をする。

 

『礼拝堂の転送をつかって至急こちらに兵を送ってくれ。』

 

『至急ですかー、詰め込みますよー。』

 

『方法は任せる。』

 

『皆さんこちらですよー。』

 

 鈴がチャンネルを間違えたかのように最後に謎のメッセージだけ残して動き始めた。情報を信用して扉の先を確認する前に礼拝堂に走る。礼拝堂の扉が閉まり五分ほどすると礼拝堂からぞろぞろとミーバが出てきて、出てくるなり再武装を始める。

 

「詰め込むのに装備を仕舞ったのか。」

 

 それこそぞろぞろと出てくるミーバを見ながらそう呟く。下の方とか潰れそうだしな。

 

「ご主人様。さすがにこの空間に整列させると五万程度までしか・・・」

 

 桔梗が周りを見回してからそう進言してくる。

 

「いや、二便くらい来たらパワーズ地区に進む。さすがに秘密の花畑を荒らすのは心苦しい。」

 

「お優しいことで・・・」

 

 桔梗の睨むような視線を躱しながら兵をまとめて通路に詰め込んで進ませていく。二,三便と続けて増えていく軍勢を確認しとある懸念をしながら先頭に指示して扉を開けさせる。竜の目を飛ばしてその先を確認する。扉の割に広い空間でどちらかいうとこの扉が非常口のようになっており通路自体は上下に繋がっている。

 

「おいヨル。扉の先はどこかの通路みたいだぞ。下か上か。」

 

 僕は少しずつ軍を進ませながらヨルに確認をする。

 

「浅い場所みたいだから多分下だと思う。通路?もしかして外搬出路C辺りなのか?」

 

 大分意識がはっきりしたのかはっきりとした口調で菫に抱えられながら答える。

 

「外れたらその時考えよう。下に行くぞ急いで。」

 

 僕はそう指示し行軍を急がせる。クロがいつ気がつくか、またどう対応してくるか予測しながら少しでも有利に進められるように軍を進めていく。しばらく地下方向に通路を下っていくうちに鈴から連絡が入る。

 

『転送が出来なくなりました。魔力欠乏か停止させられたかは不明ですよ。』

 

『了解。どのくらい送れた?』

 

『五万と少しですかね。』

 

『見た感じ北側に搬出路があるみたいだから紺と探してみてくれ。』

 

『あいあいさー。』

 

 鈴に連絡を取った後紺に連絡を取ろうとするが反応が無い。そもそも談話室が正常に機能していない気配がある。ここに来て鈴の特異性が際立って見えてきた。

 

「通信阻害されてるか?」

 

「内部同士は大丈夫のようですが距離次第では難しいかもしれません。」

 

 僕は桔梗に確認をとってみる。桔梗も簡単に確認しながら推察を述べる。

 

「面倒くささに拍車がかかるな。」

 

 多少不安になりながら僕たちは軍を進めた。



鈴「ふふふ・・・このくらいで十分でしょう。」

 ミャー

鈴「兵は大いに越したことはありませんが、つかえる場所は限られます。これでいいのです。」

 ミャー

鈴「ばれやしませんよ。あとばれても大丈夫だからです。」

 ミャー

鈴「これからどうするかですか?」

 ミャー

鈴「それもなんとかする役目の人がいますから大丈夫なのです。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ