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僕、あしらう。

 上空から落下するかのように鋭く僕の上から突撃を敢行するベニオを見つめながらあれやこれやとどう叩きのめすか考える。手っ取り早く拘束だけしてしまうか、いたぶって心から負けを認めさせるか。正直時間をかけたくないので前者で収めたいところだがヨルがそれを許さないと考える。防御特化型なのか積極的に攻撃する気配は無い。こちらの様子を伺いながら武器を構えながら魔力だけを集中するように操作している。正直倒すだけなら飽和攻撃でもよいのだけどなるべくなら生き残らせて今後に備えたい。可能な限り(・・・・・)円満に神谷さんを説得(・・)に導きたいと思っている以上は消滅させるのは忍びない。思案している顔を困っていると見てか調子に乗って雄叫びを上げて迫るベニオの槍を面倒くさそうに盾で弾いて受け流す。そのまま槍を地面に突き刺すかと思ったが、撥ねのけられた反動のまま背中に担ぐように槍を回し怪鳥の大質量を物ともしないように急角度で上昇していく。僕の無防備そうな頭をついでと言わんばかりに鳥の爪が襲いかかるが腰と首を少し傾けて回避する。爪が鎧の端を少しひっかいていくが大きな影響はない。防具的にわずかにダメージを受けているが毒を代表とする接触を要する状態異常も無い。異常な大きさの鳥が飛んでいること以外はただの鳥であるかのように思える。上空に上がりながらベニオは話に聞いていた通りに弓に切り替えており大きな輪を描くように逆さ飛行で飛びながら矢を放ってくる。これもまた何の細工も無いただスキル任せの攻撃で、試しに障壁で防げば即座に割れるが簡単な石壁でもはじけるような代物だ。システムに則った基本に忠実なスキルを伴う攻撃が行われている。だがただそれだけとしか思えない。とてもこれを相手に桔梗が苦戦するとも思えない。桔梗をそっと見れば今の所心配もしていないが少しだけ不安に駆られているようでもある。不安の詳細を確かめるべく【光の槍】を十二本そろえ一斉に発射する。ベニオは回避する様子も無く矢をひたすら放ってくる。光の槍は予想通りベニオの体を避けあらぬ方向に飛んでいく。

 

「当然偏向防御か・・・」

 

 ベニオが大きく旋回を終え再び突撃体勢をとるというタイミングで僕は【火爆破】を仕掛けて様子を見ようとする。そうするとベニオが爆発前に極端な水平移動を行い爆発範囲外に逃れそして爆発が起こる。僕は桔梗を振り返ると桔梗はただ頷く。なるほどこれが延々とできるなら桔梗で勝ちを拾うのは難しいだろう。火爆破の数を二つにし逃れそうな先にしかけても、同時にしても時間差にしてもベニオは怪しい機動を行い爆発範囲の外へ逃れる。

 

「これ君いらなくないかね。」

 

 僕はベニオへの攻撃を止め軽くヨルに聞いてみる。

 

「魔法に関しては必要ないでしょうね。」

 

 律儀ともいえるようにヨルは反応し答えてくれる。僕はどうもと手だけヨルに返しておき、迫り来るベニオに向き直り盾で槍を弾くと同時に鳥に【縛鎖】を仕掛けて地面に拘束を試みる。土から金属の鎖が飛び出し切り返そうとする鳥を鎖と拘束具が絡みつく。鎖はそのままベニオに向かって飛んでいく。神谷さんの偏向防御の対象基準は分からないがこの鎖のように飛翔体になりきれていないものは曲げられないことは個人の実験で分かっている。およそ世界で対策を調べた時、同じ偏向防御に行き着いていたのなら通用すると思っての仕掛けである。

 

「うぉ、避けらんねぇのか。」

 

 驚くほどあっさり拘束されて正直僕としても拍子抜けなのだが致命的とも言えるほど隙だらけである。防具の具合を確認する為にも下手から雑に鎖の隙間に向かって突く。それと同時に主への無礼を怒るように菫が裏から剣を突き立てる。一瞬やり過ぎたかとも思ったがそれが杞憂であるかのように僕の剣はベニオに接触する前に受け止められ、菫の剣もわずかにベニオの鎧に触れただけに止まった。菫は重ねて追加攻撃を加えようとするがベニオを中心にする魔方陣が展開され拘束がはじけ、ベニオは相変わらず鳥とも思えない垂直機動で上空へ退避する。

 

「おー、逃げられたかぁ。」

 

 僕は特に残念でもなくただ健闘を称えるように口に出す。

 

「やっば、おっかねぇ。」

 

「緊急防御では貫かれかねませんね。どんな威力を叩き込んでくれたのやら。」

 

 ベニオは相変わらず危機感が足りていないが、防御側のヨルは菫の攻撃力への警戒度が上昇する。察するにいくつかの防御手段を持っているようだがとっさに使える物だけで菫の不意打ちを防ぐのは難しいといったところか。ただこの状況を見る限りではお互いに決着がつかずにだらだらと生き延びた桔梗の状況が分からなくも無かった。ベニオは魔法に対して防御が高いだけで物理面はそれほどでも無く、そして僕らから見ればそう対した攻撃力でも無く連続的でもない。攻撃の機会が瞬間的で決定打を与えにくく、そしてとどめを刺せなければ相手は自由に逃げられる。

 

『もう一つは何かしてくるはずです。』

 

 桔梗が警告するようにメッセージを入れる。上空で鳥が羽ばたくと地上で風が吹き上がる。その風に魔力を感じると桔梗がもう一度警告を入れる。

 

『まだです。』

 

 桔梗の警告のまま痛みを感じ始める風をそのまま待機して待つ。一段と風が強くなり渦巻きその塊が僕らに向かって高速で飛来する。ただ種が分かっていればそれだけの魔法であった。飛んできた弾をそのまま障壁で受け止め霧散させる。魔力を解体する風、そしてそれを喰って威力を増す風弾と予想されていた攻撃の一つ。一度だけ使われ防御がギリギリであったと言われていた魔法である。ただそんな魔術師初見殺し的な攻撃でありながら桔梗を倒せなかった辺りでいまいちと言わざるを得ない攻撃だ。使い方を間違えているんじゃ無いかとも思う。

 

『正直あんま強くないな・・・』

 

『も、申し訳ありません。』

 

『桔梗は相性の問題だから仕方ないよ。』

 

 僕の感想に桔梗が申し訳なさそうにする。能力以前に感情だけで出てきたのか本当の狙いは何なのか警戒の必要がある。感情的に出てきたのならと、一つ前提を立ててこちらの攻撃密度を上げていく。

 

「さて、もう付き合う義理もないから捕まえていくよ。」

 

 僕はそう宣言して魔法の準備を始める。

 

「出来る物ならやってみなさい。」

 

 現状で攻撃しないヨルがなぜか得意げなのも何やら引っかかる。

 

『桔梗、超重縮をベニオの突進開始に合せて前方に撃ち込め。』

 

 桔梗は頷き上空のベニオとヨルを交互に見て状況に備える。ヨルもこちらをじっと見つめる。ベニオの旋回が終わり武器を持ち替えた時、桔梗が魔法を解き放つ。魔力線が移動し起点に至りすべてを引き込む重力を展開する。恐らくベニオの回避は範囲内の直接ダメージのある魔法を魔法が指定している範囲内から逃げるスキルであって、直接ダメージを伴わない場合魔法の影響を受ける可能性が高かった。重力に捕らわれて移動速度を鈍らせれば準備していたもので追い打ち、そのまま重力の井戸に落ちたら桔梗に過剰攻撃させればそれでおしまいだ。しかし、そう考えて展開を始めようとした超重縮がヨルによって展開前に解呪される。攻撃は無いものと意識から外し気味だったのは確かだが上空への攻撃を急にらしくもなく解呪してきたことに驚く。さっとヨルに視線を移すと悔しさがにじみ出る表情で若干慌てたように上空を見ているヨルがいた。しかも解呪に取りかかるまでの速度が速すぎた。焦っていたように作業していた割に解呪の手順だけ非常に鮮やかだった。予定が変わって準備していた魔法を放棄して魔力を紐解く。馬鹿みたいに突撃してくるベニオの槍を盾で弾き、鬱陶しいと思いながら鳥の羽を剣で斬りつける。もう少し反動があるかと思ったが表面を一定に切り抜ける感触は少なくとも見た目ほど中身は鳥で無いことをうかがわせる。

 

「何をした。むしろなんでアレを真っ先に解呪できた。」

 

 僕はベニオをあしらってからヨルに尋ねる。

 

「それを答えると思ってるのですか?」

 

 僕の目線に気圧されているのか少しどもるように、それでも強気にヨルは答えた。思考を読むような能力かと考えたがヨルから僕たちへ魔力の流れは感じなかった。そして今現在もそのような魔力は感じない。空間を監視しているのは確かだが魔力を充満させるような非効率なものではなく網のようなもので見ているのはほぼ確定で、こちらも僕たちに干渉はしてきていない。何かで超重縮を防がなければならないと確信に至ったはずだが、それほど大きな魔力は感じず、ただヨル自体は過剰に魔力を消費しているように見える。解呪を確実にするにもかなりつぎ込みすぎているように見える。

 

そういうタイプ(・・・・・・・)の保険魔法か。」

 

 予測を確信に切り替え始め、牽制としてヨルに伝える。ヨルは表情を変えずに僕を見たまま余裕を崩さないようにしている。

 

「決定力が少ないのに守りに入りすぎたな。それを使うなら最初の攻め手に使って終わらせるべきだったな。種が割れたら対策なんていくらでも・・・」

 

「対策なんて取れるはずが無い。」

 

 ヨルが僕の発言にかぶせるように叫ぶ。僕は焦るヨルを見て少し笑う。

 

「まず負荷が大きすぎる。どこまで戻った(・・・)か知らないけどもう少し早めに見切るべきだったな。」

 

 僕は確信が確定になったことを認識し上空のベニオに視線を移し桔梗に超重縮たせる。ヨルはそれを即座に解除する。

 

「いつまで解呪をするつもりかな?君の負荷が持たないだろう。」

 

 追加でさらに魔法を撃たせ、そして解呪させる。

 

『偽装しろ。』

 

 簡単な指示だけで桔梗は頷き、術式を半分だけ乗せて撃ち込む。僕らの魔力の動きで何かするであろう事を察したヨルだが撃たれた魔法は解呪するしかなく解呪を飛ばす。解呪結果を見てヨルがこちらを振り返る。

 

「終わった戦いの余裕として教えてあげるよ。今のは魔法としては不完全なただのガラクタだ。ただ途中までは本物だし区別をするのは難しいだろう。これだけで単純に負荷に差がついたぞ。さぁどうする。まず防げるだけで撃たせない対策が無い。」

 

 桔梗はまた超重縮を撃ちこむ。ヨルはまた解呪を行うがその結果は先ほどと同じ過剰な解呪負荷となる。

 

 

「のんびりしてれば負荷の回復が追いつくのかもしれないけど・・・ちょっとのらりくらりしすぎだろう。」

 

 僕も確率に任せて超重縮を放ち、それをみたヨルは解呪を試みるが魔法は消えない。

 

「同じ解呪しかしないならちょっと負荷を増やして組み替えるだけで消しきれないだろう。解析解呪の難点だな。同じ物では消せないよ。」

 

 ヨルは即座に解呪を組み上げ重力を発し始めた超重縮を打ち消す。

 

「で、それがあと何回できるんだ?使い方が緊急避難すぎてじり貧だよ。最もそういう条件でしか使えないのなら申し訳ないけど。あと・・・」

 

 そう僕が行ったところでヨルが倒れ伏した。

 

「僕らは三人で来たわけじゃないんだ・・・と使いすぎたか。」

 

 建物の影から百体の斥候兵が飛び出してヨルに飛びかかる。恐らく未来選択か視覚、予知の類いの魔法を使いすぎて負荷が超過したのだろう。斥候兵に倒される未来を回避したかったのだろうが回避可能な選択をとれるまで負荷が持たなかったのだろう。

 

「さてベニオくんも状況が詰んだと思うから降参してくれると嬉しいな。」

 

 のたのたと上ってきた重装兵を見せつけながらベニオに呼びかける。

 

「こいつはかなわねぇなあ。」

 

 ベニオがゆっくり降りてきて手を上げる。

 

「最初からそいつら使ってたらこんな手間いらなかったんじゃないっすかね。」

 

 ベニオが槍と鳥を収納しながら気さくに話しかけてくる。

 

「君はともかくヨルが納得したか?」

 

「ちげぇねぇ。」

 

 僕がそう話すとベニオが笑いながら納得した。ヨルもベニオも神谷さんに対する忠誠は高いと思うがヨルはかなり偏っているようにも思えた。これがあるから勝てると思って反抗してるなら正面から打ち破ってやらないと納得しないだろう。ベニオはこだわりの面では薄いように見えたので時間稼ぎのために協力を申し出たといった感じなのだろう。むしろヨルの性格も読んだ上で申し込んだ可能性もあるが。

 

「君の鳥かスライムかしらんけど乗騎は面白かったね。飛翔にこだわらなければまだいろいろ出来そうな気はするけど。」

 

「はー、あんだけでそこまでわかっちゃうんすか。ほんとかなわないっすねぇ。」

 

 急に小物臭が増してきたベニオが盛大なため息をついている。

 

「ご主人様が過保護なんで、まぁああいう選択になったんですよね。あとかっこいいからっ。」

 

「うん、まぁ、気持ちは分かるわ。」

 

 菫と桔梗からいらぬ強い視線を受けながら僕は受け流すように答えた。

 

「地下への行き方を教えて欲しいんだけど。」

 

 僕は唐突にベニオに尋ねた。

 

「そこまでばれちゃってんすね。でもこればっかりは言えません。それも時間稼ぎの一環なんでっ。」

 

 ベニオは嘆息してからはしゃきっとハキハキと本音で言い切った。殺されなければそれでいいと思ってるかもしれないけど、僕としても拷問などする気は無い。

 

「ただ・・・いつもの所にいきゃぁいつも通りどうにかなるんじゃないかと思ってもいいんじゃねっすかねっ。」

 

 ベニオはてへぺろ風に舌をだしてサムズアップしながら大声で言い放った。これもまた作戦の一つなのだろうか。ただベニオとしても何かして欲しいという雰囲気も感じる。

 

「ユウはどうしてる?」

 

 僕は何かを感じてそう聞いてみた。

 

「ユウ兄貴は元気っすよっ。心配が行きすぎて過労死しそうっすけどねっ。旦那のこともちょくちょく聞いてましたっ。こうやって言っとけば多分察してくれるってね。」

 

 ベニオは再びサムズアップで元気よく答える。なんとなく関係性を理解しながら僕は苦笑した。ユウも随分苦労しているようだ。なおのことこんなアホそうなのが隣にいればさらに大変だろう。

 

「気をつけるべき相手は?」

 

「今それなんすか?」

 

「この後聞けるか分からないだろう。ヨルだっているんだし。」

 

「そっすね。物理的に首が飛ぶのは困るっすわ。・・・黒玄型クロ。ユウ兄貴が毛嫌いしてる、ついでにご主人様にいらんこと吹き込んでる元凶っすね。」

 

 ベニオが非常に嫌そうな顔をしながら答える。

 

「難しい所を話してくれてありがとな。」

 

「このくらいなら問題ないっす。能力とか場所とかはまずいんすけどね。」

 

「それは残念。」

 

 僕とベニオは意味不明に笑い合いながら無駄に拳も交わした。神谷さんの配下にしてはノリが良い。むしろ軽すぎる。何を願ってこいつが生まれたのやら。

 

「さて行こうか。」

 

 そうしてヨルを拘束しベニオを腹縄だけでつれて歩き、僕らは神谷さんの最初の心の拠り所である礼拝堂を目指した。

対策が即座に取れない未来視覚に意味はないという話。


鶸「ふんっ。」

萌「どうして急に得意げに?」

鶸「やはり経験の積み重ねが素晴らしいという事です。」

萌「そうなの?」

鶸「高コストで一足飛びに結果を得るなど邪道にも・・・」

萌「どっちにしろ自己解決出来なければ同じじゃない?」

鶸「・・・どうしてこう予測、予知系には攻撃が付随しないのでしょうね。」

萌「それこそ神の悪戯。」

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