それぞれの一ヶ月(前編)
一方その頃系
・チェイスの選定者達。
☆シェリス・フィルード・ミスタスフィア(133)の場合。 レアカード
エルフの守護する森で生まれた彼女は守護すべき森で狩りをして集落に貢献し時には守ってきた。典型的なエルフの世界で暮らしていた彼女だが他のエルフ達に比べて集落の外の世界に強い興味を持っていた。彼女は彼女の世界のエルフらしくエルフ至上主義ではあったがエルフにはない技術や文化を持つ他の種族に多少の理解はあった。ただ他のエルフに比べて多少はというくらいであるが。
「一方的な抽選の結果、君は私達の争いの尖兵にされたのだ。」
チェイス神に一方的にそう告げられた彼女ではあるが知らない神の言うことではあったが少なくとも自分より格上であることは理解できたので最低限の礼節はとりその使命を拝命した。彼女は転移先は今着ているものだけと言われたので迷わず自らを守るための武器である『剣』を選択した。示された選択肢は街道、平原、川沿い。どれも彼女の好みの場所ではなかったので求める森が近いであろう川沿いを選択した。
「思ったより私のいた世界と違うわけではないのね。」
丘陵で先は見通しづらいが側には川があり醜い生き物が彼女に付き従う。彼女はそれらを一瞥し視線を外して周囲を見渡す。川の上流に森のような景色を確認しそちらへ走り始める。ミーバ達は懸命に彼女を追いかけるがC型を除きその動きについていけるものはいない。20分ほど走った所で森にたどり着き一息つく。彼女は青いミーバがついてきたことに少しだけ称賛を送るが、すぐに冷めた目で視線を外す。
「さてこの世界の獲物はどんなものかしらね。」
ついてこられて狩りの邪魔になっても困るので青いミーバにはその場で待機しておくように指示して弓を手に森へ走る。草に隠れ、木に隠れ彼女は森の生き物を観察し生態を調べる。ある程度確認してから食料となる見知った兎に似た生き物を仕留めて森の外に出る。例の醜い生き物はどうでもいいのだが神はアレらが自分の生活を助けると言っていたこともあり、待機させていた場所に戻ることにした。その場所では3匹のミーバが主の帰りをにぎやかに待っていた。こちらの姿を確認して3匹共駆け寄ってくる。集落で飼っていた小動物を思い出させたが、その見た目を視界に入れるとやはり嫌悪感のほうが強い。それらを無視して弓をナイフに変え獲物を解体し火を起こす。
「住まいをどうするかだな。」
家を作る知識はあるが本来10人前後で力を合わせてやる作業である。腕力が無いわけではないが一人ではかなり困難な作業である。つぶやきに反応してかミーバが『家建てよっ』と看板を掲げる。
「む、貴様らが建てられるのか?」
『材料ある。建築指定。』とよくわからないことが書かれた看板を見ながら建築?と頭で考える。最下級拠点と示された物が脳内にイメージされ戸惑いながらもそれを建てる事を選ぶ。薄いグレーの範囲にその拠点が建てられるのだろうとなんとなく理解しながら少し森に入り密集した樹上を選ぶ。森の外からの外敵を考えるともう少し奥のほうがいいのだが当面はここでも構うまいと建築を決める。3匹のミーバに指示することになり数分で樹上に拠点が完成する。木々の間を飛び彼女は拠点に入る。来る前の集落の家に似た拠点の中を確認し思った以上にしっかりした構造と施設に満足する。
「貴様らも思ったよりやるではないか。」
後ろに付き従うミーバに賞賛の言葉を送る。ミーバ達は素直に喜んでいる。外に残していた獲物を持ち帰って調理しようとすると獲物を倉庫にいれるか確認され混乱するが倉庫なんかあっただろうかと思いつつも一旦入れてみる。手元の獲物が急に消え去り食料が540になったことが確認できる。よくわからん魔法だと頭を掻くが肝心の獲物がどうなったのか気になる。
「おい、今採ってきた獲物を調理したいのだがどこにあるのだ。」
彼女はミーバに確認する。ミーバは『調理する?赤10、橙100、緑1000』と看板がでる。彼女は訝しげな目でミーバ達を見て尋ねる。
「料理ができるのか?」
『できるっ』と勢いよく出てきた看板に驚きながらも「じゃあ橙で頼む。」と注文を出す。青いミーバが走って行きすぐに料理を持ってくる。テーブルには木の実のパンと先程の兎らしい焼き物とスープがある。出てきた料理を食べ舌鼓を打ち、食べ終われば食器は勝手に消え去る。彼女は料理が出来ないわけではないが楽に自分よりうまい料理が出てくるなら使わない手はない。自分は当面狩りをしていればいいのだと理解し、まずは生活基盤の固めと周辺捜索をすることに決める。
半月ほど彼女は狩りをしながら森の調査を進めていった。生態、木の実、そして強敵たる魔獣。幸い相当奥までいかなければ自分で狩れないほどの獲物はいないようだが自分の身を守るため、また強くなるためにもかの魔獣は討伐できるようにはしておきたい。
「集落で使っていた弓でもあればまだましなのだけど。」
そこそこ強力な弓ではあるがかつて集落で使っていた弓には及ばない。拠点で晩飯をつつきながら弓への不満を漏らす。『木工所で作れる』つぶやきに反応したミーバを横目でみる。木工所?と彼女は尋ねる。随分前に試した建築をイメージすると以前はなかった施設がイメージされる。確かに木工所なるものがある。試しに彼女は拠点の近くの樹上に建築し中を見てみる。簡素ではあるが彼女はなぜかここでなら自分の思う弓が作れるのではないかと確信する。いざ作ろうとすると建築のように弓のリストが表示される。簡単なものから集落で標準だったものそして。
精霊樹の合成弓 ATK+760 木426000 布382000 石412000 魔石126000
「精霊樹の合成弓だと?」
集落で守るべき森の核たる精霊樹を用いた弓。守護する森の各集落で持ち回りで守護されていた至宝の弓が作れることに彼女は驚く。精霊樹、龍の髭、精霊石。そんな簡単に手に入るものなのかと思うがありえないと頭を振る。しかし、視界に入ってきたミーバは『できるっ』と看板を掲げている。
「できるのか?」
彼女は恐る恐る尋ねる。ミーバの答えは変わらない。『できるっ』と。彼女は顔を上げ作成に取り掛かろうとする。
【木0 布2460 石0 魔石0。材料が足りません。】
彼女はがっくりとうなだれる。だが困難な材料であるそのものを求められていないことに気が付きミーバ達に確認をとる。『集められる』と。彼女はかの憧れた至宝を手にするため動き出す。その先に彼女に理解し難いシステムが立ちふさがるが、それらを乗り越えゆっくりと着実に歩みを進める。外の世界に憧れた彼女だが彼女の心はまだ集落の中に残っていた。
☆神谷桐枝(19)の場合 コモンカード
敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれた彼女は親の影響を強く受け、彼女自信もまた敬虔に神に祈る信徒であった。
「一方的な抽選の結果、君は私達の争いの尖兵にされたのだ。」
知らない神にそう告げられ、これも神の試練なのかと混乱した。
「残念ながら私も呼びつけたことも君の祈る神とは一切関係がない。まあ君がかの神に助けを求めるのは止めはしないけど。」
彼女は絶望し、たらたらとチェイスに自分のちびだし、見た目も、頭もと無力さと弱さを説いた。チェイスはひとしきり聞いた後、うんざりしながら。
「残念ながら私も君を選びたくて選んだわけでもなく、これは確定事項なんだ。お互い残念なことに。」
そう告げられてまた彼女は落ち込むことになる。目的を説明されるも彼女は泣きじゃくりながらできないと否定した。チェイスも話が進まないことにうんざりして多少投げやりながらも義務を果たすべく説明を続ける。彼女は外敵から隠れられるという一点のみを注視して『杖』を選び、川沿い、湿地帯、岩山の中でも安全そうな川沿いを選び旅立った。
彼女はミーバ達も恐ろしく注視することができなかったが、数時間もしたころ拠点を建てることを促されて引きこもった。お腹が空いたが食べるものもなく、かと言って外に出るのも恐ろしくベッドに引きこもった。心配するミーバが寄って来るがそれすらも恐ろしく固く引きこもる。日が落ちて夜が明けてひもじい、お腹が空いたとのつぶやきに反応してミーバが『料理は梅10、竹100、松1000』と看板を掲げるのを見て恐ろしさよりも空腹が勝って竹を頼む。出てきた料理を床でつまみ、その暖かさと美味しさにまた涙する。腹が満たされるとまたミーバが恐ろしく見えてくるのだが、心配されている気配を感じ始めるとほんの少しだけ抵抗感が薄れる。神に助けを祈りベッドで震える。夕方前にまた食事を食べて引きこもる。翌日も同様に恐怖に震える。次の日に二度目の食事を考えた頃、ミーバからは『食料無い』と看板を掲げられ打ちひしがれる。少し慣れてきたミーバを見つめる。
「食料、集められる?」
ミーバ達は『いってくるっ』と拠点から出ていった。彼女は周りから気配が消えたことに少し寂しさを覚えたのでまたベッドに引きこもることになる。翌朝、青と赤のミーバだけが拠点に帰ってきており食事を頼み。たま食料の手配を頼む。食料162という数値が見えてあと1食は大丈夫なのかなとほっとする。1時間しないころに青いミーバが戻ってきて食料が70増える。その後さらに2時間ほどして赤いミーバが戻ってきて122の食料が増えてありがたいなとミーバと神に感謝する。戻ってきたミーバに食事を頼みまた夜が更ける。翌日も食料集めに勤しんでもらうが戻ってくる感覚はだんだん長くなる。食料は3000ほどありしばらくは安心だろうと心を落ち着ける。翌日は大雨になった。ミーバは濡れることにも気にせずに食料を集めてくれる。窓の外をみると川が増水して拠点近くまで水がきている。川側に建ててしまったことも後悔したが、これ以上増水しないことを祈るしかなかった。だが危険は増水ではなかった。川から何かが飛び跳ねてきて拠点に強くぶつかる。あまりに大きな音で彼女は恐怖で叫び声をあげてうずくまる。その見てもいない生き物は3mほどの胸ビレの大きなシーラカンスのような魚なのだがしっぽを拠点にぶつけながらばしゃばしゃと動くので、聞いたこともない音と拠点にぶつかる音で彼女の恐怖をさらに大きくした。しばらく拠点の周りを動いていたのだがその音は遠く離れていったようだ。彼女がほっとしたところで爆音が響き彼女はまたうずくまる。ベッドに引きこもりがたがた震えていたところで青いミーバが帰ってくる。見た目の恐怖よりも見知った何かがいる安心感のほうが勝ちミーバを招き寄せてその日が震えて過ごす。翌朝雨は上がっており怪しい物音もしない。安心して食事を食べるが、赤いミーバは帰ってこない。寂しく思いはじめた所で、もうそれほどミーバに忌避感は無いのだと認識する。まだ食料を探してくれているのかと思い帰りを待つ。青いミーバと戯れながら3日待ったが帰ってくることはなかった。さらに3日引きこもったところで意を決して外に出る。平野と川しかないのどかな地形を眺めながら青いミーバと周囲を歩く。少し離れたところに知らない大きな生物の骨らしきものが落ちているのを見かけてびくびくする。青いミーバが触手を振りかざしながら『あれは大丈夫。』と看板を振り回す。その姿におかしくなってくすっと笑いながら歩みを進める。拠点から少し離れすぎたかなと思い戻ろうかと踵を返した時、突然視界の隅の地面が飛び上がり何かが飛び出してきた。2m超になろうかという茶色の蛙だった。彼女はびくっと身をすくめ、青いミーバは彼女を守るように間に立つ。一拍置いてミーバは『逃げて』と看板を投げ捨て、一瞬で蛙に飲み込まれた。蛙の口の中で暴れているのか蛙の口がぼこぼこと膨れている。彼女は恐怖で泣き叫びながら拠点に逃げ帰った。青いミーバへの申し訳無さと恐怖に震えその日を過ごした。翌日焦燥し、誰もいない拠点をウロウロしながら過ごした。翌日、食欲もなく後悔でうなだれる。翌日、突発的な空腹に襲われ無我夢中で拠点を走り回し厨房で食料を出せることを知り無我夢中で野菜と果物を食べる。翌日、果物をかじりながら過ごす。翌日、虚しさに襲われながらも厨房で簡単な食事を作って過ごす。翌日、雨が振りかつての恐怖が蘇ってベッドで震えて過ごす。翌日、雨が続くも空腹で目が覚めて果物を食べて過ごす。そうして拠点に引きこもり20日たった頃彼女は拠点を出ることが出来ずに餓死した。
「まぁ・・・思いの外長持ちしたね。」
開口一番チェイス神にそっけない言葉をかけられ落ち込む。
「最も死ぬだけなら初日で死んだ哀れな人もいるから気にしなくていいよ。君は7番目くらいかな?」
そういわれてもいい評価なのかまったくわからない彼女はなんともいえない顔をした。
「君にはある程度助言ができる。あの世界に戻りたくないと言うのなら終わるまで飛ばしてもいい。なるべく残ってほしいとは思うけど、あなたの判断にまかせるよ。」
目の前のチェイス神は優雅に紅茶を飲みながら彼女に義務的に説明する。
「少し考えさせてください。」
彼女から想定より違う言葉が出たことにチェイス神は眉をあげた。
「じゃあ聞きたいことがあったり、復帰したいと思ったら呼んでくれ。」
彼女は五日間ぽつぽつと質問をし復帰することを決めた。
「正直あなたはリタイヤすると思っていた。戻ることを決めたのはどうしてだい?」
チェイス神は心を読み切っても良いが、本人の意志を固める意味でも聞いてみた。
「私の為に犠牲になってくれたあの生き物達に申し訳ないと思ったからです。」
彼女は強い意志で答えた。
「この先あの三体の10倍どころか1万倍を余裕で超える数を失うとしたらどうする?」
チェイス神の質問に彼女は少しだけたじろく。
「それでも、私を助けてくれた、守ってくれた者達の為に。」
彼女は奮い立つように強く答えた。
「ミーバ達の為にそこまで思ってくれるか。頑張ってくれたまえ。」
チェイス神は腕を振り、彼女に選択を迫る。平原、森、川沿い。彼女は再び川沿いを選んだ。反省を活かし、自分に尽くしてくれた彼らに報いるために。
・フレーレの選定者達
☆ブレセアール(48)の場合 コモンカード
ラミアである彼女は上半身が人間の体で下半身が大蛇である世界ごとに扱いの異なる生物である。とあるところでは市民権を得てその力で他を助ける。一方の世界では住民を籠絡し敵対種族として世界に反旗を翻す。いずれも知性が有り生存の為に戦う多くの「人類」と変わらない存在である。彼女の元の世界では一市民であり、これからの世界では魔獣と称されている。
「選択権はないのだけど、行った先で生き抜いてほしいの。」
ひと目で神格を持つ偉大なる存在とわかる白い大蛇とわかるものの前で彼女はやる気がなさそうにだらっとしていた。フレーレはその姿に若干イラッとしながらも隠しながら淡々と説明を進める。ラミアという種族はどの世界でも比較的大きな力を持つ種族である。優れた力、魔力、知性。文明の発達は遅いにしろその能力は多くの種族にとって脅威である。にもかかわらず彼女の評価が低くとられるのは。彼女が何にも興味を持たず怠惰であるからである。
「選択権がないってことは、やらないといけないんですよねぇ。」
だらだらごろごろと権威に対して気にすること無くだらける。目の前の大蛇はいいからやれと言わんばかりに睨みつけている。
「わーかりましたよぅ。生きればいいんですねぇ。」
彼女は観念して了承する。お互い形だけの了承であるということは一瞬で理解している。彼女は目をつぶって特典をつかみ取り『杯』が選ばれた。行き先はなぜか慎重に睨み森、丘陵、山から森を選んだ。
彼女は転移先でミーバを抱えてするすると木の上に移動して一眠りした。4時間ほどして目覚めてミーバに促されるまま樹上に拠点を建ててまた一眠りした。来る日も来る日も彼女は寝て起き、少しだけ外に出て木の実を集めては食して生き残り続けた。二十日ほどたっていつも通りだらだらと樹上で木の実を集めているところにばったりと人間の狩人に出会う。狩人は上半身裸の彼女を見て頬を赤らめるも下半身をみてぎょっとし、彼女はその狩人を見て・・・一目惚れした。
「あ、あの・・・私を養ってもらえませんか?」
彼女は狩人の矢を額で弾いてそう願った。思わず矢を打ってしまった狩人は呆然としながらその場で固まってしまう。彼女の額は少し赤く切れていたが彼女自身はそれほど気にしていなかった。目をうるませ切に願う彼女から視線を外せない狩人は立ち尽くしたままである。狩人の背後に樹上からサルが襲いかかるが、それは一瞥すらぜずに彼女はソレを束縛した。
『闇の権能よ、かの敵を捉え熱を奪え』
彼女から発せられる呪言はサルの周囲から細く暗い糸を呼び出しサルを宙に留める。サルはしばらく暴れていたが、時期にぐったりして息の根を奪われる。
「ああ、我が君。大丈夫でしたか?」
彼女はするすると樹上から降りてきて狩人にしだれかかる。狩人は光景に恐怖するが従わなければ自分が殺されるのではないかと思い、思わず彼女と共に家に戻ることを了承してしまう。かくして彼女は押しかけ女房となりしばし拠点を放棄する。狩人と獲物の奇妙な関係が始まる。
☆ゲラハド(68)の場合 コモンカード
彼はその世界のリザードマンの寿命が50年と言われている中でゆるゆると生き残り続けた老齢のリザードマンである。動けないほどではないが俊敏には動けず、強い力も発揮できない。かつて槍の名手として自らの村のみならず周辺の村も助け、グラタス湿地帯の英雄とも言われていた。体が思うように動かなくなってからは英雄としての顔と優れた手腕で村を発展させ支え続けてきた。
「あなたの力を私に捧げてもらいたいわ。」
フレーレは跪く彼にそう告げた。
「もう長くもない体ではありますが、骨の一片まであなたに捧げます。」
元々信仰が篤いわけでもない彼だがリザードマン的には上位種族の言うことは絶対であるということもあり一片の疑いもなく彼は従う。彼は少しでも長く神に仕える為に『杯』を選び取った。街道沿い、湿地帯、森の中から迷わず湿地帯を選び旅立っていった。適当な背の高い植物が生えた場所にミーバに促されるまま拠点を建てる。便利な拠点を手に入れた彼はそこを中心に探索を続け調査をする傍ら、ミーバにその都度相談を繰り返し建築システムとその発展性について理解していた。2週間後、途中拠点を建て替えたりもしたが湿地帯の中でも大きな力をもつ勢力になった。彼はミーバの数もそれなりに増やしたが、湿地帯に住むある程度知性のある動物、魔獣も手懐け勢力を拡大していった。さらに1週間経った頃元々湿地帯のトップ勢力であったフロッグマンの一族と対立することになる。はじめ彼は縄張りを線引してお互い不干渉にしようと持ちかけたが、弱気に出たとみたフロッグマンは強く縄張りを食い込む形で線引しようとした。五日間の話し合いにより交渉は決裂し対立は決定的となった。彼がフロッグマンの勢力に確実に勝つために必要なことは時間だけであった。話し合いで済めばそれでよし。そうでなければこの稼いだ五日間で増やしたミーバという兵力はフロッグマンの予想戦力を遥かに上回る力となった。
「これも神の望みとあらば仕方あるまい。先の読めぬものから倒れていくのはどの世界も変わらぬものよの。」
かつて自分が犯した過ちとそれまでの経験はこの世界でも変わらぬ力として発揮されていた。今回時間は彼に味方したが、長い目で見れば時間は彼の敵でもある。この体がいつまで持つかと胸に手を当てながら彼は悩む。しかし、彼の悩みに反して『杯』は徐々に彼の体を頑健にし解決していくのだが、それに彼が気がつき神にひれ伏すのはまた先の話。
☆ペルッフェア(3)の場合 コモンカード
彼はとある世界の雪山に住むシルバードラゴンの4つの卵から生まれた4匹のうちの一匹である。卵のうちから世界の魔力を取り込み成長するためか生まれたときから竜語、人語各種など主だった言語に精通し、人間の10歳程度の知能と判断力、3,4匹の狼にも引けを取らない身体能力も持つ。足りないのは実際に使ったこと無いという経験というくらいにはドラゴンという種族だけで優れている。そして加齢とともに進む強大な身体能力と経験、知識によって世界に恐怖される存在となるのである。3年間雪山を狩りや走り回って過ごした彼はそこそこの経験を得たが、親以外からの高度な知的生物への経験は絶望的に不足していた。10年で巣立ちという事を考えればその行為自体はドラゴンの中でも標準的であり彼も親もまったく気にしていなかった。
「あなたに試練を与えるわ。」
呼び出したフレーレとしても判断に困る幼竜を目に取り敢えずそういうことで納得してくれと概要を説明する。すでに成人並の判断力を持つ彼は理不尽さを感じてはいるが、『本体』に影響が無いことから得のある夢のようなものだと割り切ることにした。狩りを生活の主体としている彼はそれなりに運動能力に自信があったのですぐには補完が難しそうな『杖』を選択することで総合力を高める判断をした。丘陵、森、湿地帯との選択肢において雪山しか知らない彼はさしあたって獲物が多そうな森を選んだ。彼はその森を走り回り、蹂躙し、1週間でその森で恐れられる存在となった。次の1週間、同レベルの魔獣とぶつかり戦いとなり、苦戦が続き両者痛み分けが続くいたが、ついに彼はその魔獣キマイラを打倒し森の頂点に立った。その森で彼に敵うものはいなくなり森の蹂躙は続いた。餌のため、訓練のため彼は走り回った。共にいたミーバは彼の動きについていけなくなり他の生き物の餌食になっていたが彼はそれに気が付きもせずに森を喰らった。3週目に人間の調査隊とぶつかり彼らを食い荒らしたことから森の外に彼の存在が知れ渡る。幼竜と思しき小型の銀龍にも関わらず恐ろしい身体能力と冷気、魔法能力。極めつけに見つかったときにはすでに致死圏にまで近寄られている隠密性。著しく森の生命体の数が減っており、かの竜が森から飛び出てくるのは時間の問題である。と危機感をつのらせた都市ファードライトは国王に報告し正式な討伐隊を組み彼の討伐を決める。最終的に1000人を動員することとなったこの戦いは800名の死者と130名の重傷者を出し、傷ついていないものは運が良かった後方支援の者のみとなったものの人間の勝利となった。後ほどの調査でそれが三年程度の幼竜であることがわかり更に驚愕させるのだが、この件自体は突発性の特殊な例として書庫の隅に片付けられることとなる。三日後さらなる驚異を携えて遠い国の山林に白銀の暴威が舞い降りる。
残りの6名は次に