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僕、返り討つ。

 比較的慎重に道を進め国境に至る。菫と紺で先行し斥候兵を発見し随時暗殺して安全を図りながらという道中だったため随分と時間がかかった。それでも二十時間程度ではあるのだが。行軍を始めたとはいえ軍が到着するまで三日はかかるためしばらくは周辺調査を行う。適当な山裾に警戒魔方陣を構築し襲撃に備える。神谷さん側の様子もどうなっているか知りたいのでメッセージにて鈴に連絡をとりこちらに来るように伝える。しばらくして了承の返事が返ってきて一安心する。相手方にはチェイス神の加護がある可能性もあり、最悪鈴が捕まる可能性もあったかと今更ながらに感じていた。鈴が障害に対して無敵なのはあくまでチェイス神によるバグじみた恩恵によるものだからだ。当然チェイス神なら対策を打てるだろうと思っている。どこにいたかまでは分からないが周辺調査をしている途中、半日程度で鈴は戻ってきた。

 

『ただーいま、戻りましたよぅ。』

 

 目の前にいるのに【神託】を使ってくる辺り、そして殊更どうでも良さそうな棒読み加減が鈴らしいと少し笑う。

 

「さて、あちらはどうだったかな。」

 

「さて、何から話しましょうか。」

 

 僕の確認にもったいぶるように鈴はぽつぽつと話し始めた。推定十kmの感知結界。鈴という存在を警戒してか味方以外を感知、迎撃する警戒陣はもちろんのこと通過するだけでその存在を知られる結界も至る所に存在していたという。

 

「早い段階でお迎えが来ましたね。」

 

 侵入して三十分ほどで進化体と天使兵がやってきたという。蒼朱型の軽装兵と言っていたので知らない個体だ。鈴としては逃走、もしくは無視しても良かったが案内してくれるというのでそのまま追従したという。杖の隠蔽範囲が四kmに渡っておりその内に三km円の都市が存在している。以前と似たような城壁に城壁を更新していくような構造ではあるが、整頓され大区画単位で独立運用できるような形になっている。僕のようなゲーム的に攻略するための拠点では無く、ある程度生活を考えた都市構造になっているようだ。内部にはミーバ以外にも一割弱ミーバでないもの達が生活していた。ただその人数は一万人弱とされ都市全体で十二万近い生命体が存在している説明されてる。

 

「全体が職を持っているようですがさすがに詳細までは教えて貰えてませんね。」

 

 ミーバ兵が十一万。こちらより若干能力が劣るとはいえ、さすがに五万で攻めるには辛い数字だ。寡兵で勝利するのはロマンだが、わざわざそんな苦行をする理由もないのでもう七万を追加申請する。鶸はさすがに生産機能の低下で予定が狂うかもしれないと難色を示すがそこはそこ。ここで無駄に兵を減らす方がさらに無駄なのも分かっているようですぐに進軍を手配した。待機時間がもう二日増える。

 

「容赦しませんね。」

 

「容赦する理由もないし。倍兵力にしなかっただけまだマシじゃないかな。城攻めなら三倍は用意すべきとか言う人もいるわけだし。」

 

 防衛の為に作られた要塞を攻めるには多大な兵力がいるという話ではあるが、この魔法世界では城壁を崩す手段は非常に多く、すべての手段に対して対策を取るのは難しく城壁は多少の足止め要素、もしくは最初の大攻撃を消費させる一手段として認識されている。それは決して城壁の防御が薄くてもいいという訳では無いがその壁に絶対の信頼を寄せているわけではないということだ。当然最弱攻撃で破られれば地力の差を露呈させられ慌てもする。城攻めにおいて最初の壁を破るという作業はお互いが相手の力を把握するための手段でもあるらしい。ただそれは選定者に当てはまるとは限らないという話もある。現地に染まる者もいれば、自分の手段に固執する者もいるということだ。僕はどちらかと言えば自分の手段に固執するタイプだろう。鈴から兵力予測、都市内の様子を確認しある程度道筋を立てる。一番薄いところを進むか、あえて厚いところを進むか。どこまでチェイス神の入れ知恵があるともわからず少し悩む。

 

「干渉はされてるともされてないとも。直接見たのは一度だけですし。」

 

 鈴も同じようなところがあるとはいえ断定は出来ない模様。ただ干渉されるよりも前の姿からみれば干渉され続けているとも見えるようだ。今もまだあの時のように狂ったままと判断することにする。

 

「ただ・・・十二万にしては狭い?」

 

 ミーバが小さいとはいえ建物と城壁、畑が入り組むその空間にそこまで抱え込むには大分小さな都市のような気がする。

 

「ご主人様と同様に地下でしょうね。土中資源の採掘にどうしても掘り進めることになりますし。」

 

 菫の予想として地下を掘ってしまう都合上その空間の有効活用ということになると倉庫や生活空間にした方が手っ取り早いとミーバ達は思うらしい。

 

「地下となるとまた手間だね。」

 

「あることを前提に計画を立てる必要はあるかと思います。」

 

 桔梗がメモを見ながら悩む。

 

「地下なら地下で魔法で粉砕してもいいかな・・・」

 

「確認作業が手間になることと、彼女なら対策を取っているか知恵を与えられているでしょう。」

 

 僕はですよねーと雑に相づちを打ちながら桔梗と神谷さんの防御構想を考える。結論が出るわけでも無いがある程度は理想進行を組み立てる。

 

「彼女とはまたご主人様が相対するのですか?」

 

 桔梗は若干不安そうに尋ねる。

 

「さすがに一対一にはしないとおもうけど。最低神谷さんにもトウが着いてると思うよ。」

 

「我々だけで相対するというのも・・・」

 

 桔梗が菫をちらっと見ながら言葉を濁す。まだまだ過保護は続くようだ。多分一生ものなんだろうけど。

 

「今回はけじめ的な所もあるし僕が出るよ。うまくいけば全員で戦えるんじゃ無いかな。」

 

 僕も引く理由がないのでそう答えて黙らせる。その後も黙々と対策検討を進め時間を潰す。時間が進み周辺捜査を広げても特に怪しいところもなく、神谷さん側から何か来ることも無い。国境付近の街道でグライラスト王国の動きが若干活発化したくらいか。何かしら攻撃されるであろう気配が漂っているにも関わらず神谷さんからの攻撃アクションは無い。引きこもりに自信があるのか、まだ攻撃に躊躇しているのかは分からないが。そして何の干渉の無いまま第一陣である五万のミーバ兵が到着する。

 

「さてどうするか。」

 

 相手の出方を見たいと思っていたが、堅実か臆病か判断がつかない。菫達の意見と最終的には鶸の意見を聞いて全軍をそろえる方向で進める。

 

『無駄な消耗を減らすために増やしたのに分けて進めてどうするのですか。』


 ごもっともな話だった。翌々日には追加の軍が到着し十二万となる。最初の五万の時点でさすがに気がついていると思うがまだ来ないのも気になる。そこはもうどう様子見されているかは憶測でしかないので整列を進め進軍を始める。魔法、長距離攻撃兵は桔梗に任せ、騎兵、軽装兵は菫に、斥候兵、重装兵は鈴に任せる。一部の各兵種と少数の人形遣い、伝令騎兵は僕で管理する。ただ基本的に僕らは【談話室】の魔法で繋がっている。C型ネットワークは基本的にはミーバのためにある。進軍を進め国境付近に近づくと鈴から連絡が入る。

 

『この先は感知結界の端になります。』

 

 魔力視覚を付与するとうっすらとそれらしい物が感知出来る。わざわざ魔力隠蔽までしている。ただその一見慎重に見えて有用とも言いがたい作業に若干違和感を覚える。常時魔力視覚をしているような人間などそうそうおらず、かといって天然にそれらを感知出来るような相手がここに来るようなことがあるだろうか。知らない選定者を警戒しているようで、外部の索敵はすこし弱いと感じる。やっていることがちぐはぐで目的が見えづらい。入れ知恵している者のせいかもしれないが違和感を感じて仕方が無い。

 

「意図が見えないね。」

 

「そこまで考えているでしょうか。」

 

「やれることをやりやすいところからやっているとも言えますが。」

 

 僕の言葉に菫、桔梗が私見を述べる。

 

「半分意思、半分人形。本人の意思決定能力は曖昧かもしれません。」

 

 実際に現場を見て来た鈴がそう棒読む。そこまで聞いて策の可能性はないと直感し進軍を決意する。

 

「僕を中心に方陣を組む。魔術師と斥候兵で罠の検知と除去。残りは敵兵に警戒しながら進むぞ。」

 

 そう宣言し僕らは六角のように方陣を形態をとる。重装兵を前面に斥候兵を混成、軽装兵、騎兵、弓兵、魔術師と布陣。五分程度で完成させた兵の塊をその警戒区域へ進軍させる。踏み込んで数mで魔術罠。いつもの雷光球らしいもの、爆発するもの、少数の氷結や物理拘束型の罠など配置されそれらを随時破壊していく。駆け抜けるような進軍とはいかず人類軍の進行よりやや早い程度で進む。最初に鈴が感知結界を越え、続いて菫が越える。僕がその線を越える頃に上空より大きな魔力が発生する。二mはあろうかという燃える炎の塊が無数に飛んでくるのが見える。直接対象に視線を通せない長距離魔法はどうしてもこういった大規模な召喚落下系になりがちだと思う。対処する時間が取りやすいというのが難点だといつも思う。最も直線的に飛んでくると早々に感知されて防御されやすいが。そう考えると魔法の長距離化は度が過ぎると微妙だといつも思う。実際にはこの攻撃に対処できる国家は少ないのかもしれないが。二万に近い防御魔法を使えるミーバ兵が順次落下する火炎弾を防ぎ処理する。こちらのMPも無限ではないがあちらも条件的には同じ。攻撃と防御の応酬となれば負荷的には概ね防御側有利である。罠と攻撃の処理を見守りながら進軍を続ける。炎の雨を数分維持したところで被害らしい被害もなく、続いて物理的な石弾に変わる。実弾だろうが魔法だろうが余り関係ないが変わらず対処していく。石材が散見して残るが進行にもまったく影響は無い。続いて足止めするかのように天使兵が現れる。前回を上回る百体の天使兵が出現するが、魔術師一万八千が瞬時に塵に返る。さすがにそんな小手先じゃ足止めにもならんよ。数の暴力は最も単純で破壊力が出しやすい。菫達も全く手を出すことなく進軍は進んでいく。無駄と理解するまで遠隔魔法による攻撃は続き、結果全体の負荷許容量を一割も失う事無く無傷で防衛は完遂された。

 

『小手調べ・・・以下かな。』

 

『ご主人様でなければ半壊どころか全損撤退もあり得たとは思えますが。』

 

『褒めても何も出ないし。ある程度お互いの能力が分かった戦いであると思っていたけど・・・そうでもないのかな。』

 

 思った以上にぬるい歓迎に僕は期待外れ感を出しながら進軍を見守る。三十分ほどして工程半ばといった所で丘の上に布陣している軍を見かける。ただ旗がひらめいている辺り神谷さんの軍ではなさそうだ。

 

『旗的にはグライラスト王国軍でしょうか・・・』

 

『正気とも思えないけど、彼女の差し金かな。まさか自主的ってことはないと思いたいなぁ。』

 

 遠視の得意な菫の索敵により二km前から察知され、望遠視覚の魔法により布陣を確認する。総勢四万程度か騎兵と歩兵を中心とした軍である。

 

『民兵は見逃してあげたいけど・・・難しいかなぁ。』

 

 乗り出した貴族の騎兵達はまだいいが、この国の命運もかからない戦いに経済を支えている民衆が犠牲になるのは若干気が引ける。

 

『手加減は兵のほうが楽かなぁ・・・騎兵を両翼展開。重装兵を前面に防衛。軽装兵で正面進軍』

 

 横陣亜種。正面でうけて騎兵で囲い込む形になる予定である。正直雑に行ってもやられる見込みなどほぼない。あちらから何やら開戦前の宣言が行われる。

 

「我ら混成貴族軍は派閥を越え聖女をお守りするためにはせ参じ、聖女の敵を打ち破る者である。刃向かう者は神の罰を恐れよ。恐れるものは敬服し武器を捨て地に伏せよ。」

 

 最悪な自発的軍勢であった。

 

『狂信者かよ・・・』

 

 僕は天を仰ぎ、彼らの思う神を少しだけ恨む。最も宗教戦争にかけては抜群の歴史と兵力を持つ神である。今更という感じが無くも無い。

 

「どちらの神であっても私達は恐れない。逃げるなら追いはしない。無駄だと思うなら武器を捨てて地に伏せよ。運が良ければ生き残るだろう。」

 

 一応世界への義理として宣誓を返し両軍速度を上げて進軍を始める。しかしこちらに対してはいくつか罠が発動しミーバ兵が被害を受け始める。

 

『これが狙いだとしたらえげつないなぁ。』

 

 事前の範囲攻撃によって不活性化する罠もあるがそうでないものも少なくない。進軍が遅い軽装兵は後ろから逐次罠を潰していけるが騎兵はそうもいかず到着までにはいくらか犠牲がでそうだ。両軍が正面からぶつかると兵自体は一方的に処理されていくが、こちらが罠の領域はいるとお互いを巻き込んで被害を与えていくため敵軍に予想外の犠牲が出ている。こちらの騎兵も罠を踏み越えながら敵を包囲し被害は拡大する。無駄な犠牲は増えるがより早く戦闘を終わらせてその犠牲を最小にしてやりたかった。士気が崩壊して逃げだすものやその場で投降するものも出ているが巻き込まれるように死んでいく様は見ていて気分がいいものではない。しかし相手の指揮官も犬死によりはと罠を逆用するように用兵し始め、こちらの罠による被害は拡大し当然巻き込まれて倒れる民兵や貴族兵も増えた。一時間という時間稼ぎもあっての戦闘により抵抗勢力は鎮圧された。グライラスト王国軍は重軽傷者含み生存者一万弱。こちらは騎兵を中心に四千を失うことになった。本来このレベルの軍から受ける被害ではない。確実に神谷さんが自主的に依頼したことではないだろうが、僕らが城で焚きつけた要因も含み何かしらの誘導は感じた。

 

『本当に彼女の手管だとすると、そうとうシビアに物を考えるようになってるな。』

 

『この程度の軍で我々を計っていると?』

 

『性格的なことも含めて読んできてるんじゃないかな。相対すれば戦うとか、戦えば犠牲をいとわないとか。世界の住民への同情も盾に取ってるとしたらたいした物だと思う。進軍前の感想を撤回するよ。』

 

 罠の除去をしながら方陣形態に整列しなおし、傷を負った者については治療を進める。そして丘を越えた頃に大きな魔力の動きを検知する。障壁を張り攻撃にそなえたが魔力が安定した後も何か起こる気配は無い。残留魔力は大地に停滞しそして地面に吸い込まれるように消える。厳密には地面ではなく残る死体や死を間近にした瀕死の兵達である。死体は側にある武器を持ちながら緩やかに立ち上がる。死体が起き上がり恐慌する民兵と怨嗟を上げる貴族兵。

 

「そこまで墜ちたかっ。神谷ぁっ!」

 

 僕は激昂して叫ぶ。軍の中に生じた敵を歩兵が処理していく。一体一体はさほど強くは無いが、どんな原理か死体が消えたはずの自軍のミーバ兵すらゾンビ化してこちらに襲いかかってくる。戦術も無く多少のまとまり程度で脅威度はそれほど高くはないがグライラスト王国軍のゾンビに比べれば圧倒的な性能である。僕らはまだ対応が難しくは無かったが投降して武器を手放していたグライラスト軍は負傷もあってかただ蹂躙されていく。桔梗と鈴に指示を出し王国軍を守らせる。焦りと怒りで過剰な力を注ぎゾンビを駆逐していく。戦術も策もないアンデット相手では先ほどまでの苦労はない。ゾンビ騎兵による被害が追加で二十ほど出るが数字的には悪くない。

 

「なんのつもりだあの聖女はっ。」

 

 僕は土塊のように形を残すミーバゾンビを切り崩し様子を確認しながら悪態をつく。残骸の中から出てきたひび割れた魔石が別種の魔力を含んでいることが分かる。魔石に干渉するとこういうことも出来るのか。僕はそう結論つけていくつかの残骸を医療術士に回収させ状態を調査させる。そして護衛されている王国軍の側に向かう。こちらの犠牲は民兵を中心に二千くらいか・・・。

 

「この事態は想定していなかった。助けが遅れて済まなかった。」

 

「この事態は本当にお前の力ではないのか・・・」

 

「完全に無差別だったろう。降伏した者をいたぶる趣味はないよ。」

 

 僕は王国軍の代表者と疲れたように言葉を交わす。

 

「本当にこれは聖女様の仕業なのだろうか・・・あの方が・・・とても信じられん。」

 

「・・・会ったことがあるのか。正直僕も信じられんね。以前の彼女のことを考えるとね。」

 

 お互いの彼女への初見を躱し合う。だが今の彼女がどうなっているかは想像の域を出ない。

 

「多くは無いがこれを民兵達の保障にしてやってくれ。」

 

 僕は若干重くなる金貨千枚を渡す。

 

「いいのか?」

 

「君らががめなきゃそれでいいよ。貴族連中に分けるには少なかろう。」

 

 貴族兵の代表は袋を受け取りながら確認をとってくるが僕としてはそれほど大金ではない。貴族が横領して株を下げたところで僕としてはどうでもいい。

 

「武器はそっちの荷車にまとめてある。僕らが行った後ならどうしてくれても構わないよ。」

 

「本当に歯牙にもかけられていないのだな・・・」

 

 貴族は苦笑いをしながら若干落ち込む。

 

「せっかくこの場で命を拾ったんだ。是非無駄にしないようにして欲しいね。」

 

 僕はそう釘をさして自軍に戻った。

 

『さて時間を取られたけど進もうか。』

 

 僕は皆に指示をだして進軍を再開する。被害は軽微だがただただ気分が悪い。もしかしたらこれがチェイス神の策なのかもしれない。そうだとしても苛立ちが収まるわけでも無いのだが。

 

『ご主人様、大丈夫ですか?』

 

 菫がメッセージを飛ばしてくる。それを聞いて現実に意識を戻す。

 

『いや、大丈夫。ちょっとこの状況に苛ついてただけだから。』

 

 僕はそう返信してちょくちょく雑談を交えながら進軍を続けた。鈴の誘導は的確で何も無かった平原に杖で隠蔽された城塞が目の前に現れた。平原にたたずむその城塞都市は静謐を保ち城壁の所々にミーバ兵が見えるだけだ。厳戒態勢でもなく野戦をする様子も無い。斥候兵を散らし周辺の伏兵を調査させる。

 

『伏兵はないが、地下道がいくつかありそうだ・・と。』

 

 出口は最悪自分で作ればいいだけだからそこからの不意打ちに気をつけるか。もしくはそこから攻め込むか。ただ不意打ちには良くても大軍を運用するにはかなり狭い。考慮はするが主功には難しいだろう。こちらの存在に気がついたのか城壁の上にミーバ兵が集まり始めた。

 

『いやいや、今から準備するの?取りあえず先制攻撃のほうが良かっただろうか。』

 

『どうでしょうね。どちらも善し悪しかと思いますが。』

 

 僕の若干の後悔に菫が意見を述べる。 

 

『前面に騎兵をおいて速度順に鋒矢陣を組め。一気に打ち破るっ。桔梗っ。』

 

 僕と桔梗で終点を合せるように詠唱を始める。

 

「「【砕城槌】」」

 

 敵を巻き込むなら巨石落としも悪くはないがこちらは城壁破壊に特化した用途極限定の魔法である。各自二重詠唱し四本の巨大な杭が壁に向かって飛ぶ。もちろんこれに人が当たればそれなりのダメージだが消費魔力量に比べればダメージも範囲も効率が悪い。これらの杭は城壁に突き刺さりねじり進み深く突き刺さる。結果が出るまでにそこそこのラグが出るため対処される可能性はあるが、それも見込んでいるため解呪耐性はかなり高い。対処するなら突き刺さる前にというのが定番である。そして突き刺さってしばらくすれば杭が大爆発を起こし城壁を内部から破壊する。四本の杭が大爆発を起こし土煙と瓦礫を周囲にばらまく。上空が輝き天使兵が現れ始める。五十の束が二十。何体のか魔術師が行っているのか同時に千体。千体が遠距離から魔法射撃を行い始める。そして追加で順次召喚されその数を増やし始める。崩れた城壁から重装兵の姿が見え始める。

 

「いいね。すべてを出し尽くせ。吐き出せ。お前の本性を見せろ。それがたとえ神に踊らされたとしてもっ。」

 

 二万の騎兵が突撃し、それを斥候兵と軽装歩兵が追う。それらの守りを魔術師がにない、魔術師の防御は重装兵が行う。菫が騎兵にまぎれて先行する。遅れて僕が続き桔梗が更に後ろから続く。鈴は軍の中央付近で連絡と状況把握が役割になる。紺は喧噪に紛れて陣容と神谷さん他ユニットの位置確定を行わせる。何かに無理矢理動かされたように同じ派閥の選定者戦が始まった。

不毛な派閥戦の始まりです。盤面の結果としては基本不毛なので指し手である神は本来避けるべき案件ですが、これはチェイス神自らが用意した遊一郎への足かせなので本人は観察はしつつも止めることはしません。


菫「兵が多くなると仕事が減りますね。」

桔「それでも無いわけでは無いですし。ご主人様と一緒にいられればそれでも。」

鈴「相変わらずのご主人至上主義者。」

菫、桔「他になにか?」

鈴「いえ、何でも無いです。」

紺「信じる神に触れてはいけないであるな。」

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