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僕、ぶらぶらする。

PVが一万に乗りました。一見さんも読み続けてくれる方もありがとうございます。

 僕は自分自身をそれほど優しい人間とは思っていない。ある程度関係があれば慈悲も見せるし、利になるなら無償奉仕もいとわない。が結局自分の身になるかどうかが一つの判断材料であり自己中心的で偽善的。そして力は抑止力でありやられたらやり返すべきだと考えている。今回の件については神谷さんに事情があるにせよ報復は必要であると僕は考える。むしろこれは同じ陣営だからといって何もされないと、好き勝手やって良いというわけでも無いというチェイス神への警告でもある。最もこの行動が神にとって不利益かどうかは怪しいが線引きは必要であると思っている。

 

「物騒ですねぇ。」

 

 馬車の中でスレウィンが通りすがりに襲ってくる盗賊らしきものを眺めながら呟く。大きな商隊が見た目は少数の護衛でやってきているとあって比較的襲撃回数が多い。実際に馬車までたどり着く者は皆無だが姿の見えていない野党も含めて普段の倍は来ているようだ。越後屋も国のバックアップがあるとは言え他国に出れば恩恵は大きく下がる。孤月組が大きな組織を押さえこんでいるとはいえ末端や小さな集団にまで強制することはできず盗賊の被害は少ないとはいえ無くならないらしい。ただ今回に関しては相手が悪いとしか言い様がない。下準備して潜伏しようものなら斥候兵の餌食になり、一般人を装って姿を見せたところで軽装兵の弓か魔術師の魔法の餌食になるだけであり、見せかけの為に連れてきた護衛などはファイに乗ったまま苦笑いだ。

 

「今回はいいけど普段はどうなの?」

 

「通常なら一台二人ですかね。最低でも四人は使いますが。二、三台ごとに追加で一人二人といったところでしょうか。」

 

 僕の話題にスレウィンが答えるが聞きたいのは襲撃のほうである。

 

「ん、盗賊のほうですか?規模が大きくなれば頻発しやすいですがね。先ほども説明しましたが規模としては少ないのではないでしょうか。」

 

 見える位置まで到達出来ている盗賊が少ないからな。

 

「正直護衛など三倍にしても構わないのですが、それで運営を継続すると余所から怪しまれますしねぇ。」

 

 仕掛けなど言えた物では無いが僕が生産している一部の商品は著しく原価が低い。特に独占で値上がりしていたようなものに関しては笑い出すくらいには格差があった。コピー商品と言っては聞こえが悪いがこちらの世界にはそう言った刑罰もなく製造技術を盗まれたと言い出すくらいである。全体的に商品を多少安く売っても利益率は他店よりも高いという状態になっている。遠方に運ぶ場合はその分かかった経費を上乗せするがそれでも競争相手よりも安い。国内なら倉庫機能のせいで輸送費すらゼロである。スレウィンの話では安全に輸送するために護衛を増やしても利益が出るのだが、それを続けるとさすがに疚しいことがあるのではないかと疑われるので得策では無いと思っているようだ。

 

「裏界隈に理解させるっていう手もあるけど・・・」

 

「今でも相当なのに孤月組の方々にこれ以上仕事をして貰うわけには・・・」

 

 越後屋と孤月組は正式に協力関係にあるわけでは無いがお互いの初期メンバーは面通しが済んでおりそこそこの情報交流がある。今の話からすると孤月組の作業量は随分多そうだ。最も僕からの依頼のほうでかなりの余力を使ってはいるらしいが。スレウィンも商売に関係ない事で揉めているときは依頼したりしているようだ。出会うたびに忙しいだの愚痴を言われるらしい。道中小話を交えながら隣国であるカスイル王国の王都ボウリクに着く。馬車は越後屋支店に入り僕らは別途王城へ向かう。通常特使扱いになっているとは言え突然訪問したところで後日となるのが普通だが気分かたまたま時間があったのか話を聞いて貰えることになった。応接間に通されたので高位貴族が相手だと推測する。菫と桔梗が控えており紺は別途情勢把握の為の情報収集に出ている。ほとんど待つこと無くいかにも偉いと顔と姿で体現しているような男が入ってくる。護衛の兵士と給仕の女性も入ってくる。

 

「ルーベラント王国からの使者殿でしたな。私はダラウ=メスコゥだ。侯爵を拝命している。」

 

 僕と後ろの二人をなめ回すように目線を向けながらさも偉そうに挨拶する。実際偉いのだが。

 

「ご丁寧にどうも。私は遊一郎です。本日はお願いしたいことがありまして参上いたしました。」

 

 あえて名字は告げずに挨拶する。教えても意味は無かろうという判断もあるが、どちらか言うと相手の反応を見るためである。案の定更にこちらを見下してくるような顔を向ける。仮にも王国の使者であるということは考慮して欲しいものだが。地位が服を着たようなタイプの貴族だと評価する。桔梗は澄ました顔で流しているが、菫は若干気配がいらいらしている。いつものことだがそろそろ慣れて欲しい。

 

「それでお願いとは何かな?」

 

 挨拶が終わって突然豹変するように強気になりソファーにもたれかかるメスコゥ侯爵。給仕の女性は澄ました顔でお茶を用意している。いつものことなのだろう。他国相手なんだから権力効果が薄いんだしもう少し危機感を持って欲しいと思ったが、どうも下々からの話は通じないタイプのようにも感じる。

 

「お願いと言うよりも実際には一方的な通告になるのですが、近々こちらの国を当国の軍が通過しますのでお知らせに。ついでに許可が貰えれば最良です。」

 

 僕は長々と交渉しても無駄かなと判断し、国内で慣らされてきたにこやかな笑いを浮かべながら告げた。メスコゥ侯爵はなんだそんなことかと思案し始めたが急に重大さに気がついたのか驚いたような顔をこちらに向ける。まあ普通に言われた何言ってんだとしか言い様がないとは僕も思う。

 

「貴国はそのようなことをして許されると思っているのか?」

 

 メスコゥ侯爵は青筋立てながらそれでも下々相手にそれなりに感情を抑えて言葉を発した。思ったより思慮が回るようだ。さすがに侯爵なんて地位にいたら配慮ぐらいはして貰わないと、と思いながら話を続ける。

 

「状況と理由次第ですかね。まず当方の理由としてはグライラスト王国の一角にいるこちらに反抗した者に向けて軍を送りたい。経路の国をいちいち攻略していてはまた逃げられる可能性があるので・・・貴国を無傷で通過したいのです。」

 

 正直無傷で抜けるだけなら多少リソースを割けば出来ないわけではないのだが。

 

「その軍で我が国を侵略しないという保証はあるのかね。」

 

「そうするつもりならそもそもここには来ないですし・・・無断で通過してばれた時に貴国を思わず滅ぼしちゃったりしないようにする為の配慮ですよ。」

 

「我が国をそんな片手間に滅ぼせると思っているのかっ。」

 

 煽ってしまったのもあるがメスコゥ侯爵がお怒りになる。

 

「後先考えないならそれほど・・・と失言でした。お怒りになるのもごもっともかと思います。こちらに誓約書を用意しましたので確認をお願いいたします。」

 

 激怒するメスコゥ侯爵の前に誓約書を置く。怒りながらも相手の意図を把握するために書類を一瞥する。怒りはポーズなのか意外に周りが見えている。誓約書には予定のルートと金銭の支払いが記載されている。当然のように情報守秘も含まれている。メスコゥ侯爵は一端怒りの矛先を収め思考を巡らせ始める。ルートは山裾を通って進みカスイル王国としては軍の監視さえしておけば約定を反故にされてもまだ間に合うくらいの距離である。通過さえ見逃せば金貨で前金五万、後支払いで十五万という金だけが入ってくるという契約である。こちらの反故には追加の賠償があるが、カスイル王国側には金が入ってこないだけで済む。

 

「こちらからの用事はこれだけになります。誓約書にサインを入れて頂いたら越後屋に証書をお持ちください。そちらから金貨をお渡しいたします。作戦完了後成否に関わらず約束が履行されていれば後渡しする割り符を越後屋に持ち込んで頂ければ残りをお支払いいたします。それではよろしくお願いいたします。」

 

 僕はそういって立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっとまてこんなこと私だけでは決められん。」

 

 ちょっと素に帰ったメスコゥ侯爵が激怒が嘘のように止めようとしてくる。

 

「最初にも言いましたがこれは一方的な通告で誓約書については善意の謝礼になります。作戦開始日までにそちらで話し合って決めて頂ければよいですよ。」

 

 僕は始めのようににっこり笑いながら退室する。

 

「いや、ちょっと待たれよ。」

 

 メスコゥ侯爵の言葉をどう捉えたか護衛の兵士が素早く動き僕の進路を塞ごうとする。そして菫の一撃を受けて吹き飛ぶ。今度は桔梗がちょっと苛ついてる。表に出にくいだけで桔梗も相当だな。

 

「申し訳ないがあまり時間が無いのでこれで失礼します。」

 

 僕はどうだったかな、あってるかなと頭の片隅で悩みながら礼をとって出て行く。城を出てさっぱりした笑顔の菫と無表情の桔梗をつれて越後屋に向かう。さすがに王都なので大層な賑わいである。

 

「桔梗もそんなに憂さ晴らししたかった?」

 

「え?いえ・・・そこまでではないのですけど・・・」

 

 道中僕は不機嫌そうな桔梗に聞いてみる。

 

「こういう時は加減が難しくて・・・最小ダメージの魔法でも・・・死んでしまいそうでしょう?」

 

「いや、さすがに大丈夫じゃないかなぁ・・・給仕のお姉さんは無理そうだけど。石が無難かなぁ・・・」

 

 魔法防御が百に達していればいいがそうで無ければスプラッタか。微妙な手加減が難しい魔法の難点か。しかし悪戯と憂さ晴らしの為に魔法を作るのもなんか無駄っぽい。

 

「難しいか・・・」

 

「難しいですのよね。」

 

 魔法使いにしか分からないどうでもいい手加減の話で桔梗の気分は取りあえず晴れたようだ。何も解決はしなかったが。越後屋の前につくと道中以上にごった返してる。馬車やら荷駄やらで道が動かなくなっている。

 

「なんだ・・・これ。」

 

「小売り業者のでしょうか。」

 

「輸送した品物狙いのようですね。」

 

 緩やかに曲がった道が混み始めたかと思えば目的地が原因だった。どうも面倒なことになっているようだ。聞こえる会話と怒号の端々は品物を求める声で溢れている。行きすぎている気はするけど人気があるのは良いことだと裏口に回ろうと移動を始める。

 

「おい、小僧抜け駆けしようったってそうはいかねぇぞ。」

 

 出遅れたのか群れの後ろでつっかえながら声だけでかい男が急に振り返って僕の前に出る。男が行動したことで周囲の人間の視線が集まる。

 

「僕らは関係者なんで気にしないでください。」

 

 僕はなるべく丁寧に言って男の脇をすり抜けようとする。

 

「そんな言い訳が通用すると思ってんのか。」

 

 男は半歩踏みだし僕を止めるように肩を掴む。ちょっと菫が切れそう。桔梗も地味に気配がやばい。最も押しとどめられるような力でもないので目線で菫達をなだめながら男を無視し歩き出す。男は止めようとしても全く障害にならずむしろ肩を掴んでいる限り引っ張られているかのようにたたらを踏むように動かされる。周囲に人も何が起こっているのかよく分からないというような目で男を見送る。裏手の方に回る通路には護衛の人が立っておりちらっとこちらを一瞥してから苦笑される。

 

「お帰りなさいませ、遊一郎様。そちらの男は?大層勇敢な方とお見受けしますが。」

 

 護衛の人は後ろの気配を感じてもう近づきたくないと少し及び腰だ。

 

「関係者だって言っても信じて貰えないし、たいしたことも無いから無視してた。」

 

 僕の言葉に護衛の人も楽しげに微笑む。

 

「さようでしたか・・・そこの男悪いことは言わないから今日は戻りなさい。このままこの場にいても貴方には決して商品は回らないし卸売りの打ち切りすらある。貴方が掴んでいるそのスポンサー様がどう思おうとうちの店主様がそれを許さないよ。そもそも後ろの方々を差し置いてそんなことをしているなんて私には耐えられないね。」

 

 護衛の人の言葉に信じられないといった顔をしながら肩から手を放し後ずさる。にこやかに笑う菫達と僕の顔、護衛の人に視線を何度も移しながら恐慌したような声を上げて逃げ出した。

 

「みんな脅しすぎでしょ。」

 

「「「そんなことはありません。」」」

 

 三人の声が無駄にハモった。理不尽なものを感じつつ護衛と別れて裏口から認証をつかって中に入る。中は中で随分忙しそうだ。

 

「なにがあった。」

 

 役に立てるかは置いておいてスレウィンに確認する。

 

「馬車の数を見て何かあると思って持ってきた物に関係ない人まで確認の為に来ているといった所でしょうか。」

 

 スレウィンが席を外して一息ついてからため息をつく。

 

「貴金属類や乾物が多いのですが、さすがに食料品、一般衣料品などはそれほど多くはないので。なにか掘り出し物はないかみたいな感じで来ている者が多いので開放したところでどうにかなるかというと・・・」

 

「とりあえず順番に説明して帰って貰うしか無いと・・・」

 

「そしてご覧の通りの惨状で帰りたくても帰れない方が多数でして・・・」

 

 スレウィンがため息をついている。

 

「道の方はこっちでなんとかしよう。店舗側で説明だけして商いは後日にして貰え。」

 

 当面の策として僕は提案するがスレウィンが申し訳なさそうに渋る。

 

「僕に遠慮されて出発が遅れても困るんだ。動けそうなのを十人くらい確保しておいて。とりあえず道を空ける。」

 

 僕はそういってその場を離れる。

 

「どうしますか?」

 

 菫が確認を取ってくる。

 

「力業が一番早いでしょ。菫は帰る人を見つけておいて。桔梗は僕と手分けして馬車の輸送で。『浮揚』辺りで持ち上げとけば良いんじゃ無いかな。ある程度道を空けたら従業員と協力して道の整理をしよう。流れる方向を一方向にすれば後は大丈夫じゃないかね。」

 

 当面の雑プランを立てる。菫も桔梗も納得して動き始める。

 

「そこの人もう用事は済みましたか?」

 

 小さな子供に聞かれていると思って一瞬きょとんとしていたが動けなくなって立ち往生している商人らしい者に話しかけた。

 

「品物の確認だけでもと思ったのだが出ようとしたら動けなくなってしまってね。」

 

 本当に困ったと商人がぼやく。

 

「荷物と馬車、関係者はそこにあるものだけですか?」

 

「そうだが。」

 

 僕の言葉に商人が戸惑いながら応える。言葉を聞くやいなや魔力を集中し馬車を上まで持ち上げる。

 

「あちらの空きスペースまで運びますので着いてきて貰えますか。」

 

 商人達はぎょっとした目で見ながら見送る。菫が人を整理し僕と桔梗で運ぶ作業が続く。後から来た従業員に指示して交通整理を行う。列は止まるが流れるようにはなった。概ね問題なく回転し始めた所で僕らは撤収して後を任せた。

 

「お手を煩わせて申し訳ありません。ただ助かりました。」

 

 スレウィン申し訳なさそうに礼を言う。

 

「僕も早々に出発したいし必要があってやったことだよ。」

 

 ソファーで一息ついて飲み物で喉を潤す。

 

「予定通り明日の早朝に出られるようにします。」

 

「いつもこんな感じだと大変だろう。」

 

「いえさすがに通常ここまでひどくなることはないのですが・・・今回私が来たことで特別と思われていたようで・・・」

 

「それは大変だ。もう普通に商売(・・・・・)なんて出来なさそうだね。」

 

「それこそ知らない土地まで行かないと難しそうですな。」

 

 僕とスレウィンは笑いながら小話を続けた。ある程度気が晴れたところでスレウィンは腰を上げて仕事に戻った。

 

「主殿よろしいですか?」

 

 急に紺が存在感をあらわにして尋ねてくる。もうちょっと前の段階から気配を戻してくれるといいんだけど。僕は頷いて返しておく。

 

「穴や細工状況には変化がありません。こちらが煽った(・・・・・・・)結果にはなりますが軍通過の案件は意見が割れております。ただ問題無く収束して案は通りと思われます。」

 

 紺は淡々と丁寧に報告をした。

 

「仕込みが正常に機能しているようでなにより。」

 

 いずれ攻め落とす国の状況と仕込みの再確認と正常な動きを確認し僕は安堵する。最も前の段階からばれていればあんなにあっさり交渉が終わるとは思わないが。払った金とていずれ回収できる話で額が大きかろうと今は余り関係ない。

 

「お隣さんはどうだろうね。」

 

「あちらは距離もありますが、ここほど抜けてはいないので難しいであるかな。」

 

「そうかー。まあどうなるやら。」

 

 鶸の見込みでは問題ないが力押しは止めた方が良いという話ではあった。問題無く翌朝を迎え商隊は積み上げ、下ろしを完了し出発した。スレウィンは眠そうだ。

 

「寝てて良いぞ。」

 

「いえっ、貴方の前でそんなこと・・・」

 

「昔はそれが普通だったろうに。」

 

 僕が苦笑し、スレウィンもそうでしたねと笑う。スレウィンはでは失礼してと一言言ってから座りながらあっさり眠った。出発してから変わらない日常を十日ほど眺めて隣国のユースウェル王国にはいった。同じように越後屋で分かれ王城へ向かう。さすがに後日改めるように言われて親書を渡して滞在場所を告げる。街を巡って面白いものでもないかとぶらぶら探す。ちびときれいどころが集まっていればどうも目立つのかちょくちょく絡まれる。話し合いで解決もするが、概ね菫が吹きとばした収める。荒事が大きくなれば桔梗が拘束する。道を歩けば人が飛び、店にあってはぎりぎりまで値切られる。一日して僕らは無駄に街から恐れられる存在となった。旅の恥はかきすてというか、やり過ぎたと少し反省した。二日目は微妙な目線で見送られながらの散策となった。メンツの問題かどこで関わったかよくわからない荒くれ者の上司が出てきて町中であわや乱闘となりそうな雰囲気もあったが、秒で鎮圧する。鎮圧ついでに拠点まで行って大暴れ。後々孤月組に取り次いで取り込ませる。最も孤月組で手続きするにも一悶着あるわけだが。どうも容姿の問題か侮られすぎるのは問題だなと思う。

 

「当初に比べれば成長されましたよっ。」

 

 桔梗のなんともいえないフォローが妙に寂しい。一年実空間にいなかったとはいえ五年近くもたって身長はそれほど伸びなかった。数少ない悲しい出来事である。荒事を収めて越後屋に戻ると。昼頃に王城から使者が来ていたようで明日の昼に会うという話になった。あとはちょこちょこ支度をして明日に備える。特に妨害も無く王城で会談となる。対等にはさすがにならないと思っていたがそこそこの大きさのしっかりとした部屋に通される。

 

「ルーベラント王国の特使遊一郎殿であったな。儂はユースウェルの王パステール三世である。こちらは外務のコーズ伯爵。そっちは軍務のソルダート伯爵だ。」

 

「ご紹介にあずかりありがとうございます。私はルーベラント王国の遊一郎です。お時間を作って頂きありがとうございます。」

 

 よいよいとパステール王に促されてソファーに座る。

 

「して物騒なお願いをしに来たと聞いておるが、どうだったかの。」

 

 王は緩やかな口調で話を切り始める。

 

「指定地域まで軍を送る為に通行の許可ということになっております。」

 

 コーズ伯爵が内容を語る。王はふむと頷き僕を見る。

 

「裏を疑うのは最もですが今回の要望はそちらだけになります。」

 

「遠き他国に軍を送るのにそこに他意は無いと申すか。」

 

 僕の言葉を聞いて王は少し楽しそうにしながらも鋭い目線を送ってくる。

 

「私の私的な戦いになりますので。歴史的な背景があり知っておられるとは思いますがこちらでは神の使徒と言われている者達と同一の存在です。今回もそれと同じく使徒同士の戦いのためになります。通行の許可を求めているのは一度逃がした相手をたどり着くために騒ぎを起こしてまた逃げられないようにするためです。」

 

 僕の言葉を聞いて王は自分の部下達に視線を送る。コーズ伯爵は悩むように目線を下げ、ソルダート伯爵はこちらの目を見返す。

 

「使徒のことは知らぬでもないがそう言われても貴国が侵略国家であり、通過に疑問を持つことは致し方なかろうな。」

 

 通過ルートはカスイル王国の時と違ってユースウェル王国としては致命的な距離ともいえる。そもそも面積的に大きな国家ではないのだが。

 

「そもそもだ、なんであそこを通る。もうちょっと避けていきゃいいではないか。」

 

 ソルダート伯爵が我慢できないように言った。ちょっとした山を挟んで向こう側にいけば国土を通る必要すら無い。カスイル王国に入るときから山を迂回していけば山を登る必要は無い。

 

「こちらの都合ではありますが敵に警戒されないためですね。」

 

 山を越えたルートを使うと彼女の探知網が広がっていた場合早々に見つかることになる。どういうわけかグライラスト王国国境側の警戒距離はかなり広く、国内側の警戒距離から考えると異常とも思えた。

 

「経路に関しては言い分はあろうよ。まぁ最近は国内にも不穏分子が見え始めてのぅ。そう言った恣意行為は避けてほしいのだが。」

 

 こちらに目線を強めながらゆっくりと話す辺り、概ね僕らの回し者だと思っているのだろう。どの件かは知らないが送り込んでいるのも事実なのでそう言われても仕方が無い。

 

「恣意行為になるのは申し訳ないがこちらもあちらが事を起こす前に処理する必要があるので理解して頂きたい。黙って行うには国家間の問題が大きく、強行すれば各国への対応が手間になる。放っておけばいずれ周囲に害をなすことになりますよ。」

 

「脅しとも取れる発言ではあるが・・・過去にそう言った記録もあるらしいからの。それは事実であろう。だがあの者が周囲に害を成すか?」

 

 王の発言に僕は反応する。この国はすでに神谷さんの存在を認識している節が見られた。最悪の場合後手を踏んでいる可能性がある。

 

「そうそう悩むような目をしなくてもよい。風の噂ほどでもないが上位階層の者にはそれなりに伝わっておるよ。グライラストの笠の中にいる『聖女』の話はな。」

 

 ちらほらとそういう話があったのは聞いているが人物か存在までにはたどり着いていなかった。聖女の内容についても伝わってきていない為神谷さんと一致させるのもどうかという判断だったが、どうやらそのままだったようだ。

 

「この周辺のものでは決してできないような治療を『奇跡』と称して行使しておる。場所が場所だけに力のないものはたどり着けぬ。来た者については対価もとらず拒まず治療しているようだが・・・藁にもすがりたくなるような者には仕方ないのかもしれんが・・・何かと胡散臭い話よな。」

 

「そういう話でしたか。」

 

 王の話に腑に落ちないような感じをうけながら曖昧気味に相づちを打つ。

 

「お前さんも使徒として使徒らしい。国の裏にいながら貴族ではないことがよく分かる。そこに行った者達は大層敬遠な信徒になるか・・・そこに行ったことをよく覚えていないだけだ。市中の話で情報を集めるにはちと話が弱いな。無理な傷病の者が健康になったことである程度そういう話は伝わるが、本人達からは決して話がでんよ。そういう契約らしいからのぅ。」

 

 王は僕をからかうように少しニヤニヤしながら話す。これはこちらの手もほとんど潰されてると思った方が良さそうだ。

 

「王もさすがの情報収集能力ですね。どういった方法かご教授頂いても?」

 

「何、あちらに送った者を尋問と同じ魔法で吸い出しただけよ。火急の用件であるからな。」

 

 話して貰えるとも思わなかったが思った以上に強権だった。

 

「あの聖女の影響もあってかこの辺りでは例のおかしな宗教の影響力はかなり低い。遠くで聞いた利益より今見える利益があるからな。ただ今はどちらも噂程度という段階であるから困るほどでは無いが、いずれどちらかに浸食されるのは目に見えておる。」

 

 王は露骨に困ったという顔をしながら話を進める。

 

「正直に言うともう貴国の意図が読めない。我が国が出している要望の話の枠をすでに越えています。」

 

 正直口先の深淵で貴族と勝負する気は毛頭無い。あっさり白旗を掲げて答えへと導く。

 

「ほれみろ。やはり額面以外のことなど湖の底ほど考えておらぬではないか。お主等の考えすぎよ。」

 

 王が鬼の首を取ったかのように笑いながら隣の配下に声をかける。

 

「それでも可能性があれば諫め進言するのが我らの仕事です。」

 

 コーズ伯爵が苦虫かみつぶしたように発言する。

 

「それではこちらも本題にはいろう。」

 

 王は爽やかな顔で僕に顔を向けて明るく話す。

 

「貴国の要望に関しては飲む。そしてそれと情報の対価として貴国に恭順したい。」

 

「はい?」

 

 どうしてそうなった。

移動と交渉タイム。



菫「ご主人様はどうして行く先々で舐められてしまうのでしょうか。」

桔「それは・・まぁ。」

紺「はっきり言えばよいであるよ。小さくて可愛らしいからと。」

菫「それは良い点であって、舐められることでは無いでしょう。」

紺「普通は見た目から入るものであるよ。菫は主殿に染まりすぎであるよ。」

菫「それが何か問題で?」

紺「思った以上に会話にならないのである。」

桔「ご主人様も気にされているみたいですから・・・」

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