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僕、嘆く。

修正の為遅れてました。

 鋭い白色光が周辺を満たし僕は背中のマニピュレーターを起動し自動砲台である【竜の目】を四機飛ばす。マニピュレーターの左右に盾を持たせる。

 

「目くらましとは意味のない事を・・・と思ったが見えん(・・・)な。」

 

 ペルッフェアの意外そうな声が聞こえる。最初に魔力感知で探ろうとしたか僕の位置を確認できないようだ。

 

『やるならやると一言くらいっ。』

 

 閃光弾を見て反応はしたものの起爆寸前だった為対応に遅れ目がくらんでいる鶸が怒る。さっさと魔法で治せと。ぼーっと立っている鈴は効いたか効いてないか判断に困る。

 

-異言語:4627世界竜語の構築が完了しました。-

 

 たかが言語と思っていたが時間がかかった。僕はそのまま弓を構えて目を狙って撃つ。

 

「そこかっ。」

 

 どこを狙ったか分からないだろうに目を閉じたまま頭を素早く動かし左手を的確に僕の位置に振り下ろしてくる。ステップを踏んでそれを回避し弓を構えるとペルッフェアの首がこちらを向く。音?熱?空気の流れ?何にせよ何らかの形で僕の位置を感知している。素早く矢を放ち再度位置を変えるがやはり分かっているというように体を向けて攻撃してくる。ただその精度は目が見えていることに比べると良くは無い。熱感知なら位置は特定出来る、でも奥行きは難しいか。そろそろ目も治るだろうし逆手に取ることは諦めて稚拙になった近接攻撃を逆手にとってそのままマニピュレーターの爪と剣をもって全力で攻撃する。牙をかいくぐり爪を弾き斬りつけえぐる。

 

「素晴らしい。これほどまでできる人間はこれまでにはいなかった。やはり強者とやり合うのは至福の時よ。」

 

 ペルッフェアが薄目を開けながら興奮気味に叫ぶ。すごい戦闘狂っぷりだ。あまり長く付き合いたくは無い。

 

「[ご主人様、もう少しご自愛してください。この者は確実に貴方の命に手が届く存在です。]」

 

 金の竜が間に割り込み僕の攻撃を弾き始める。

 

「む、つまらぬ横やりが入ったな。この者らは過保護が過ぎる。全力でかかってそこまでならそれが運命というものだ。最も我らはそれを覆されて無粋と言える存在かもしれんがな。」

 

「その辺はもう諦めたよ。ただそれがこの世界のルールというなら僕はそれも込みで戦うまでだっ。鶸っ。」

 

 鶸が指示に従って無意味と分かっていても土壁を二枚、僕とペルッフェアの間に建てる。僕は合せて後ろに下がり術式を組み立てる。一瞬でも視界を遮り次の手をどうするか考えさせない。

 

『あまり上のランクばかり使っては負荷がひどいですわよ。』

 

『この二体相手にそうも言ってられんだろに。』

 

 上のランクの魔法を使うとそこそこ失敗率が発生する程度で出来ないわけではない。そしてその通常失敗しない魔法の成功率を上げる方法がいくつかある。元々背伸びして魔法を使う文化があったのかは知らないけど単純に失敗率を軽減する付与というものがある。逆に失敗率を付加する魔法もあるようなのでその対抗のためだったのかも知れない。そして魔法そのものにも術式に保険をかけて長くする、魔力を多く使うことで無理矢理成立させる技術がある。これらを組み合わせることで発動率を無理矢理百%まで引き上げているのだ。ただ二ランクも上となるとさすがにそうも言ってられない。成功率は九十%まで持って行けるが運が悪ければ丸損だ。仕込みはしたが成功するかは運次第。壁を叩くような音が聞こえた後すぐに崩れる音がする。二枚目の壁から竜の顎がすり抜けるように見えた瞬間壁が崩れ始める。そしてその顎が見えた瞬間に僕は術式を解放する。一枚目の壁の瓦礫と二枚目に取りかかったその瞬間を狙って円の収束を見られにくいように細工する。こちらから見えない視界は【竜の目】で迂回させて見極める。ペルッフェアの行動はまだ余裕があるのかこちらの動きを探りながらしている節が多い。消耗が目的か手管を見るのが目的か判断しかねるが戦い方を変えつつ手抜き、手加減ではないが少し様子見感がある気がする。竜の驕りとかたづければそれまでかもしれないが発言からするとそれは無い気がする。取りあえず様子見している間に大技で一気にそぎ取ることを僕は選択したのだ。竜の顎が壁を貫通し連鎖するように壁が崩れ落ちていく。

 

「さぁどうす・・」

 

 どうするも何もペルッフェアが顔を出したときにはもう手遅れだ。円は閉じその空間は光の炎に包まれる。【白炎】が発動しペルッフェアと金竜が焼かれる、はず。余裕というわけではないけど僕は深く息を吐いてから腕を伸ばし筋を伸ばして気を楽にする。

 

『無茶なことを・・・』

 

『まぁまぁ、取りあえずうまくいったからね。』

 

『うまくいっているようでいってない。』

 

『それは残念。』

 

 鶸の苦言を躱したかと思えば鈴が光をぼーっと見ながら不安な発言をする。きっと今この瞬間ではなく【白炎】を使ったその先が問題なのだろう。鈴にもたらされる予感はそういう類いのものだ。青竜と違って白炎から出てこないのはよく分からないが金竜の防御が効いているのだろう。防御系は動けなくなるやつ多いし。ログを見ても途中から竜達自体へのダメージは無い。白炎が収まって光から解放されると目の前に氷のドームが立っている。表面が溶けているせいか中の竜達は非常に歪んで見える。ただ目的である防具破壊は概ね成功したように見える。金竜の鎧も融解したように表面が流れておりあのままでは使い物になるまい。それにしてもそのまま着けてても火傷しないのかね。ドームの中で治療を行っているのか相談しているのか警戒して眺めているが出てこない。こちらから攻撃してもいいがあの氷を割るのはちょっと手間だ。

 

『そろそろ鈴の出番かなぁ。絵面が悪いけど。』

 

『分かっていてもひどいですわね。』

 

『のーぎゃくたい、のーらいふ。』

 

 鈴の自爆のように見える特攻は本当に絵面が悪い。僕ら的には検証が済んだ本人(・・)が安全とはいえ初見は気を疑う話だ。ただ何度もやると爆発が弱いのかコントなのかあやふやになってくる。そして鈴、それだと虐待して欲しいように聞こえるぞ。

 

『適時任せるけど牙には注意してね。』

 

『おういえ。当たってもどうということはない。』

 

 大問題だとは思うが。あちらも準備が終わったようで氷が霧散する霧のように消える。金竜の鎧は消え失せ元の地肌がでている。柑橙型ですか、と鶸がぽつりと呟く。左右に細長い先端を持つ盾とも杭とも取れそうな物を浮かべている。一応盾は構えるか。

 

「またせたな。なかなかすさまじい攻撃であったぞ。」

 

「そのうち貴方でも手が届く類いの魔法ですけどね。」

 

 システムに自動で入っていた魔法なので知らないと言うことはレベルが達していないだけなのだろうと判断する。

 

「そうか。人間の魔法は細かすぎてよくわからんところがあるからな。」

 

 だが、思ったのとは違う反応が返ってくる。もしかすると種族か勢力ごとで与えられる構成がちがうのか?その言葉を最後にペルッフェアの頭が沈み飛びかかってくる。先ほどまでなら避けるところだが『鉄杭』の魔法で右脇腹をえぐって衝突コースを外させる。すれ違い様に両手ショットガンでスラッグ弾を叩き込んで、更に吹き飛ばす。鎧はダメージを受けていたが鱗は一応生身なのでどうかと思ったがしっかり傷ついている。HPへのダメージと外皮へのダメージは別扱いなのかと判断する。着地間際に鶸が土壁を立てて視界と進行方向を阻害する。その間に金竜に散弾を斉射。距離があるので大ダメージは期待出来ないが逆に防御力の低下が期待出来る。最も回避する様子も無く左右の盾を上下に重ねてショットガンを受けきる。ペルッフェアは壁を砕かず横にステップして再突撃をしようとするが鶸はステップの着地際に土壁を立てて邪魔を続ける。ただそうすればそのまま突撃して壁を破って飛んでくる。当然予定通りなので『鉄杭』で下からかちあげて一回転させて転倒させその上ショットガンを叩き込んでおく。正直なところ竜というには攻撃は単調気味。連携力も低くあとは削りきる作業かとも感じる。

 

「[ご主人様。もはや相手にならぬようですが。]」

 

 金竜も悲しいかすでに事実に気がついている。ただそれでいてまだ余裕があるように見える。ダメージと回復がどうなっているかわからないが随分タフだとも思う。

 

「このままでは無理か。」

 

 ペルッフェアは素直に金竜に尋ねる。ただまだ切り札があるように見える。黙ってみている義理もないので散弾を撃ち込んでおくが盾で止められて効果的とは言いがたい。ただ相手が攻めあぐねるなら良いかと雑にばらまき鈴に目線で指示する。鈴がびしっと敬礼して花火玉のような爆弾を持って竜達に駆け寄る。

 

「[今の手管ではこれ以上彼の者の手札を引き出すことは出来ますまい。消耗が頃合いとも言いがたいですが、こちらも手札を公開しきる前に踏み込むべきかと。]」

 

 金竜は器用に盾を動かしながら防御を行っている。ただ盾ももう持たないだろう。予備はいくらかあるだろうけど。

 

「そうみるか・・・というかあの者はなんだ。明らかに無謀なことを・・・」

 

 ペルッフェアも次の手札を切ることを決めたようだが鈴の行動に面食らっている。散弾がかする中、火のついた爆弾をもって走ってくる鈴はそれはそれは奇異な生き物として写るだろう。ペルッフェアが鈴に腕を払って吹き飛ばそうとするが鈴はそれを消えるように回避。ペルッフェアからは本当に消えていたのだが金竜からは短距離転移の軌跡が見えていたであろう。僕と鶸は土壁を展開し防御を行う。

 

「[ありえんっ。]」

 

 金竜が唸ると同時に大爆発。そして転がって受け身を取りながら鈴がこちらに転がり出てくる。

 

「思わず先転移してしまいました。危うく爆発するところでした。」

 

 鈴がさも危なかったというような台詞を吐いているが当然のように無傷である。爆発の中心で受け身を取りながら転がるとどうして無傷なのかと僕と鶸は呆れるような目で鈴を見る。そこそこ威力のある爆弾だったので少しくらい傷ついてくれるといいのだがと気持ち期待する。

 

「さてご主人様。これからが本番ですよ。」

 

 鈴がヘッドスプリングから飛び上がって立ち上がり直立不動からだらっと力を抜く。

 

【先の百年を前借りする】

 

 爆発の煙からゆっくりと盛り上がる大きな影。二十m弱の体躯となったペルッフェアが現れる。元々怪我をしていたかと言えばそうでも無いだろうが美しく輝く銀の鱗は傷一つ無く荘厳な姿を見せる。湧き上がる威圧感と魔力は意思の弱い者は逃げ出すこと無くひれ伏すだろう。

 

「説明するまでもなく気がついておろうがただ育つだけの魔法よ。ただ人間と違い竜は育つというだけで大きな意味を持つ。」

 

「リセット魔法とかずるくない?」

 

 ペルッフェアの成長に僕は理不尽なものを感じる。こちらはそれなりに疲弊した状態で突然パワーアップで全回復とか。戦隊物のラストじゃないんだからと。

 

「こちらも制限付きであるし少々のリスクもある。逃げ切る自信があるなら逃げても構わんぞ。逃げ切れるならなっ。」

 

 ペルッフェアは先ほどとは段違いのスピードで突撃を敢行する。動作は大きくなり一歩が長い。体躯自体の速度は大きさ的なものかそれほどには感じないが一気に詰め寄られる。大きさ的にも速度的にも『鉄杭』で起動をずらすなどおこがましい。さほどずらせもしないし、コースがずれる前に目標である僕に到達するだろう。そしてその巨大な顎は防御不能。一瞬その勢いに気を取られた為初動が遅れ即死回避の為に身を捻るのが精一杯で顎は回避したもののそのまま前足にぶち当たり吹き飛ばされる。

 

「がぁっ。」

 

 相当な勢いでぶつかったせいで呼吸を一瞬奪われる。そのまま勢いよく木にぶつかり跳ね返る。

 

「ふむ。これも回避するとは。」

 

 ペルッフェアも意外というように僕を見る。鶸が悲壮な顔をして駆け寄ってくるが正直危ないだけなので勘弁してほしい。鈴は離れて見守っているがこれだと相手させるのは難しいか。金竜の方はもう控えるのは諦めたか邪魔にならないように位置取りしようとしている。

 

『鈴。金竜の方は任せる。なるべくこちらに近づかせるな。』

 

『ほい。』

 

 僕はペルッフェアへの対応は諦めて金竜への妨害だけを頼む。これ以上ダメージを肩代わりされ続けるとさすがに面倒くさい。

 

『鶸も離れられないか?』

 

『自殺願望も大概になさいませっ。』

 

 鶸が怒気を強めて僕を睨む。

 

『いつも言っておりますが、貴方は次があると言っても私達はそれを見るのも辛いのですっ。』

 

 鶸の強い視線で見つめられ僕はため息をつく。

 

『かといって君たちに倒れられても困るのだけどね。』

 

『ならばなおさら私達を使いなさいませ。少なくとも今この戦いにおいては私は貴方を守る事ができましてよ。』

 

 僕の思いを覆すように鶸が不敵な笑みを浮かべる。鶸が空手のように構えをとるがさすがに体術では相手にならないだろうに。

 

「的が集まったならば・・・そのまま共に死ねぃ。」

 

 ペルッフェアは再び吠え突撃を行う。それを鶸は冷笑する。

 

「馬鹿の一つ覚え。研鑽もなくただ己の力のみしか使えぬ愚か者よ。その巨大な力がいかに無力か知りなさいっ。」

 

 鶸が叫びペルッフェアの足が動く。一歩二歩と近づくその足の下にわずかに壁が立つ。むしろ壁というか柱の土台というかもはや出っ張りというべき土の塊。ペルッフェアはそれに気がつかぬように踏み抜く。当然のように土の塊は崩れさるがそれと同時にペルッフェアの足が滑る。ペルッフェアはよろけながらも反対の前足で支えるように大きく踏み込む。そしてその先にも鶸は土の塊を仕込む。二度の滑りによりペルッフェアはあらぬ方向に前転しながら転がってゆく。

 

「ほーっほっほっほっ。どこまで転がりますのこの駄犬は。」

 

 恨み積もってか鶸は容赦なく言葉で煽る。ペルッフェアは転がっていく中で体をバネに大きく飛び上がり木々を支えに立ち、勢いよく地面に降り立つ。そして先の出来事を確かめるように再び突撃を始める。慎重に確かめるように踏みしめているのか力強い音が辺りに響く。鶸はそんなことなど関係がないと言わんばかりににやりと口角を上げ、そして突撃など無視するように僕の手を取る。その結果が分かっているかのようにペルッフェアは力強く踏んだ足場を地面に深く突き刺し前のめりに倒れる。見た目は痛そうだが多分ダメージはない。だが陥没に巻き込まれた手は何かしら異常が起きているかもしれない。

 

「何が起こっているんだ?」

 

 僕は素直に疑問を口にした。

 

『ふふん。私の本来の力が仕事をしただけですわっ。』

 

 いつもにも増して鼻高々な鶸。

 

『変える必要が無かったのか、それしか出来ないのかもはや問題ではありませんわ。同じ手法を繰り返し過ぎですのよ。余程奇をてらわない限りあの突撃は読めています(・・・・・・)。』

 

 それを聞いてここ最近目の前で発揮されること無かった鶸の代表スキルである【精密演算】に思い至る。

 

『ああ・・・そういう・・・』

 

 鶸に読まれ行動を止められ、そしてそれ以外の行動から微妙な変化すらも読み取られる。更にそれらの行動を元に更に次の手までも読まれる。さながら未来視のように鶸はペルッフェアの行動を読み切り仕込みを済ませ余裕を持って戦場を見守る。現状何も無ければここは鶸の独壇場となった。

 

『さぁ元々対した相手ではありませんでしたけど・・・反撃の時間ですわよっ。』

 

 鶸に発破をかけられて僕も思い直して狙撃銃を構えて鶸を見る。

 

『確かにそちらの方が読みやすいですわね。負担軽減に感謝いたしますわ。』

 

 鶸は優雅に礼をする。

 

『まぁ最もこの状況は長くは続きませんが、私がその都度調整いたしますわ。貴方は好きなように、あの者を叩けばよいのですわ。』

 

 自信満々の鶸が頼もしい。狙撃銃を構え連射を行う。どこに当たるかなど今は気にしない。胴体から首辺りを中心にまず当てていく。片手間に狙撃銃を遠隔操作で捕らえて発射台も増やし、竜の目からも片手間程度に石弾を乱射する。ペルッフェアは何が起きているか分からないというように足下を注意して走る。飛ぶ。踏みしめた一歩目が滑る。飛び上がろうと後ろ足に力を込めれば陥没する。飛びかかれば石柱に肩をとられ一回転する。

 

「所詮はでかいだけの図体。真に注意すべきはその牙しかありませんことよっ。」

 

 二度三度繰り返せば止めそうなものだが、合間合間に鶸が煽って単調な攻撃を止めさせない。さすがに僕からの攻撃が問題のあるレベルに達したのか息を荒げて落ち着くけようとしているのかこちらを睨んで踏ん張る。そして咆哮を上げる。その咆哮の音に乗せられた魔力が『遠隔操作』を打ち消す。消されることが分かっていたので銃は素早く収納する。最も手持ちには関係ないのでそのまま連射し、竜の目からの魔法も止まらない。そこに驚いたのかもう一度咆哮。割と簡単に連打できるのかと嫌気がさしながらも表には出さず連射を止めない。生成途中の石弾は霧散していくが飛来しているものは消えず豆粒のように竜の体に当たる。たぶん竜の目が浮いてることが疑問なんだろうが悪いな。今の竜の目は有線なんだ。浮遊の術式が崩されても即座にこちらから復旧指示を出している。断続的に消去されるだけなら術式維持は問題無い。さすがに足を止めているわけにもいかずその場を離れ動きながら僕らの様子を伺う。動き回られるとさすがに当てるのが大変だが鶸は視線を動かすだけで仕込みを済ませていく。移動しているだけでもペルッフェアはバランスを崩し素早い動きを許されない。それでもペルッフェアは歩みを止めず徐々に僕らに近寄ってくる。

 

『どうすんの?』

 

 僕は射撃を継続しながら尋ねる。

 

『問題ありませんわ。私の華麗な踊りを楽しむとよろしいですわっ。』

 

 鶸が三歩前に進み僕の前に立つ。ペルッフェアの体高はそれほどではないにしても五mにおよびかなり大きい。およそ四倍の相手を前にして鶸はひるまずむしろ小馬鹿にするように立つ。

 

「お前が元凶だというのか。」

 

 ペルッフェアが静かに尋ねる。

 

「だからどうというのですか?お前はご主人様の力の前にひれ伏せばよいのです。」

 

 鶸は自らの作業であるのにさも僕の力であるかのように胸を張る。

 

「ならばその矮小な体を越えてあやつを倒すまでだっ。」

 

 ペルッフェアが左前足を踏み出し右前足を振り上げた時。

 

「それを」

 

 鶸が手を振り上げ石柱を伸ばし右前足を振り上げたままの状態で支える。

 

「許すと思うのですかっ。」

 

 そのまま投げるかのように手を回すと同時に左前足に鉄柱、さらに右脇腹持ち上げるように鉄柱。歩くつもりだったペルッフェアが右前足に力を込めて体が浮いたようになった瞬間に狙い澄まされたように力を加え、鶸の動作のごとくペルッフェアの体が一回転する。

 

「なんとっ。」

 

 決して油断していた訳では無いだろうが自分を転がすには明らかに足りない力で転がされたことに驚いたようだ。転がった先でさらに畳みかけるように斉射を行う。解呪されようがお構いなしで銃も増やしていく。

 

「そのまま無駄にあるその体を削られていきなさい。」

 

 鶸は語りかけるように言い聞かせるように言葉を重ね、重しを乗せるように後ろ足に壁を形成して容易に起き上がれないようにする。僕はただ撃つのみである。楽でいいが少し不安になる。いくらか叩き込んだところでペルッフェアの全身から氷のとげが伸び拘束を破壊、即座に後ろに飛びすさる。鶸は少しだけ眉をひそめたがすぐに表情を直す。

 

「読む、読めるということはそういうことか。なればやってないことまでは読めまいっ。」

 

 焦るようにまくし立て大きく息を吸いそして吐く。先ほどまで行っていた凍結ブレスではあるが体が大きくなったこともあり範囲はかなり広がっている。

 

「切り札が切り札たり得なく焦る気持ちは分からなくも無いですが・・・少し考えがなさすぎでしょうに。」

 

 鶸は軽く手を上げ土壁を立ててブレスを受け流す。ブレスは長く続かず冷え込みはそれほどでもない。ただ土壁の向こう側に大きな魔力が収束する。

 

『コオレルジュヒョウノニワ』

 

 竜の目を持ち上げ視界に捕らえた途端、ペルッフェアを中心に氷が広がる。氷は急速に広がり離れた僕らの足下まで広がる。

 

「まだだっ、たとえ格上であろうと貴様等ごときに負けるわけにはいかんのだっ。」

 

 焦燥感。追い詰められているようなそんな雰囲気しか感じない。

 

『どう・・なんだろね。』

 

『どうせどうでも言い理由ですわ。アレには他に仲間もいないでしょうし、竜らしいといえばらしいですわよ。』

 

 僕の疑問の答えを鶸は感じ取っているようだが、その言葉を聞いても僕には何も気がつくことは無かった。

 

「後悔しない程度に手札は出し尽くしましたか?ネタが割れた手品などでは届きませんわよ。」

 

 鶸はあくまで手の内だと余裕を持ってペルッフェアに宣言する。怒れるペルッフェアは怒号を答えに大きな声を上げた。

次回決着の方向で。

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