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僕、押し込む。

 僕らは公式には表に出ていないがその姿を見られたことが無いわけでも無く、国との繋がりをぼやかしてはいるものの地位ある者の目から見れば決して一般人として見られているわけでは無い。竜との戦いに挑む為に越境行為が必要となりその結果がこれである。

 

『今回は大人数じゃないけど今後の課題だねぇ。』

 

 いつ声を拾われるかも分からないので『談話室』を使って意思疎通を行っている。正規に越境手続きを取るわけにはいかないので道を外れて平野部からこそこそと森へ走る。乗騎は未使用で移動速度にも支障がある。見られても影響が無い鈴を先行させ人影や監視網を警戒。最も鈴自体にそれほどスキルがあるわけではないのですべてを発見できるとは思っていないが、さすがの鈴も罠でもかかれば(・・・・・・・)気がつくので重宝する。後方に配置する僕らは周囲を幻影で誤魔化し、それらを回避していく。

 

『警戒網は大分荒いようですから。』

 

 国境沿いは結構な距離感覚で物見塔が建てられているがその周辺や、街道沿いの砦付近でもなければ壁があるわけではない。さすがに国家を囲むような壁を造る無謀なやつはいないと思うが。過去の事例では実行しようとして破綻した国はあるらしい。通常は魔法的な罠や監視網を設置し大軍の侵入を警戒するのが精々である。僕らはそういう穴を通って国境を越えていくのである。そうしたわずかながらの努力をし竜の住処である山林にたどり着く。

 

「場所は分かってるし相手の軍も無い。取りあえずは馬鹿正直に真っ向勝負で一直線に行こう。」

 

「んーまぁ貴方がそう言うならそれでもいいですけども・・・そういう手はずでしたけど。」

 

 気楽に突っ込もうとする僕に鶸は抵抗感を示す。

 

「相手が多くても十体未満の竜ってことなんだからあれこれ分散しても・・ねぇ。」

 

 今一度僕は鶸に相談事を明確にする。ミーバ兵を百万くらい突っ込めば倒せるかも知れないが八割はいなくなるだろうと。人の兵士よりマシとは言えミーバ兵を造るのも時間がかかる。費用よりももはや時間である。それならばと自分たちで行ったほうがよかろうと。

 

「ただ貴方が前に出なくてもよろしいんじゃなくて?」

 

 皆にも言われたことではあるが僕はまだ前に出るべきだと思う。僕はまだ一回チャンスがあるが菫達にはないのだから。皆には申し訳なくはあるけど。

 

「まあ相談は終わった。ぐだって不意打ちでもされたらしょーもない。」

 

 そう誤魔化して話を打ち切り森を進む。頑丈な鈴が先見。萌黄と菫を僕の前に配置し前中列、そして桔梗、鶸、紺が後列である。

 

「やはり盾役を準備するべきですわ。」

 

 僕もそこは同意だが盾役は真っ先に死にそうなのが少し困る。その辺の対策をどうするかが悩ましいと思う。軽く相づちを打って進み始める。鶸と桔梗は騎乗して行軍速度を上げ村らしい付近まで一気に詰める。

 

『警報らしい結界を踏みました。』

 

 鈴からシステム通知かと思うような警告が発せられる。桔梗が探知魔法を広域に展開して相手の位置を探る。先にある拠点から一点突っ込んでくる。

 

『一体・・・来ます。偽装が無ければ拠点には竜が一、進化体が三、ミーバが二万ほどでしょうか。』

 

 隠していなければ敵は全部で五。その内一体が来たということ。

 

『竜ゆえか・・・舐められたねぇ。』

 

 その一体を迎えるように立ち止まる。森の木々を揺らしながらも間を縫うように素早い動きでこちらに迫る。

 

『どうするんですの?』

 

『舐められてるんだろうけど、力を測るつもりか十分なのか・・・全員でかかる。』

 

 鶸の問いに僕は冷めたように答える。鈴を見ているはずなのにまだ余裕だと思っているのか、その浅はかな考えを粉砕してやりたい。

 

『僕と萌黄、桔梗で先行攻撃。その後は鈴で一旦攻撃を受け止めて。そこからは様子を見ながらだ。』

 

 萌黄は頷いて即座に狙撃銃を5本浮かせる。桔梗は集中し詠唱状態、気配的には大きめの魔法か。僕は命中重視で雷光球を前面にばらまき光の槍で周囲を囲うように準備する。萌黄は僕らの準備が終わりそうだと見るや銃を乱射する。銃士で無くなったことでスキルの関係から命中性と予測が低下。そして射程の補正を受けられなくなっているがこの場では関係ない。弾はばらつきながらも前面の木を粉砕しながら竜に迫る。柔らかい物にぶつけたような鈍い音と共に多くの銃弾は鱗状の鎧と思しき物に受け止められる。ただ全くの無駄というわけでもなく鎧を削り傷つける。

 

『何だろ・・・そういう性質と思うしかないか。』

 

 詳細な検証は後でと二十の雷光球を射出。比較的緩やかに前進する魔法の電球に竜は回避を選ぶようで極端な制動と共に左手に飛ぶ。一瞬宙に浮いて回避が取りづらそうなタイミングを狙って光の槍を全力投射する。二四本のレーザーが竜の体に向かう。竜の周りに一瞬で白い煙で覆われ光が吸い込まれるように突っ込む。そしてかなりの数の光の槍が周囲に飛び地面に刺さる。頭に浮かぶ効果結果を鑑みるに二一本は何かに弾かれたということだ。周囲の木に白い霜が付いているところをみるとなにやら低温であることは見て取れる。そして慣性のまま白い煙から煌めく何かが出てきたかと思えば着地と同時にガラスのように割れ竜の周りに舞い散る。それが何か確認することも無く追撃中の雷光球を竜にむかって加速投射する。竜は応対するように舞い散る破片のようなものを雷光球に放ち接触爆散させる。接触により帯電が解放される雷光球の性質を知っているのか悪くない手である。次々と雷光球が打ち止められている中、桔梗が何かを考え込むように組んでいた術式を解放する。竜の周りを大きく輝く円が描かれ始める。竜は迎撃を止めとっさにその場を離れようとするが回避を想定しての円の大きさか円環が閉じるまでに脱出することは敵わず完成した円が一際大きく輝く。その瞬間にちょうどその円の大きさの白い球体が現れその空間を塗りつぶす。攻勢魔術Ⅶ『白炎』。初動が目立つのが難な魔法だが球形結界を形成し内部を高熱化する魔法である。結界を形成するため逃げ遅れると結界壁に阻まれ物理的な逃走が不可能になる。はずなのだが思いのほかあっさり結界壁は破られ吹き出す高温と共に青白い竜が飛び出てくる。白い煙を垂れ流しているが地面に流れているところをみると自ら発している冷気の模様。ただ装備を守る余裕は無かったようで丸裸の状態のようだ。前肢の小さめな二足歩行の竜ではなく四つ足で走ることを前提にしたような狼を爬虫類にしたようなフォルムをしている。たたまれているが被膜のついた羽のようなものも見られる。結界から漏れ出る熱が森の木を灰にしていくのを見てか桔梗が魔法の行使を中断する。結界が消去され地面にお椀上の穴が開くが、発生していた熱も気化したであろう物質もさっぱり無くなっている。

 

「どうする?逃げるなら見逃してやってもいいよ。」

 

 僕は生き延びた竜相手に声をかける。何のつもりかと鶸と菫が僕を睨むように見る。竜は唸るように顎を下に向けた後拒否するように僕に向かって大きな吠え声を上げた。

 

「じゃあ・・・続けようか。」

 

 僕は声を落して構えながら弓と矢を取り出しながら引き絞り即座に撃ち放つ。竜がそれをギリギリで回避したと同時に菫が前に出る。鈴の仕事無くなったな。萌黄がちらっと僕を見てから菫の後ろを追いかけるように走り出す。ぱらぱらとばらまかれるように五つの剣、四つの槍、四枚の盾、五つのショットガンが次々に飛び出して宙を舞う。鈴は役目から解放されたと言わんばかりにとぼとぼ歩きながら竜の周りを歩いている。

 

「敵にも同情ですの?」

 

 鶸が上目遣いで強い視線を向ける。僕はなんとも言いがたいと思いながらも苦笑いで返す。

 

「僕はみんなに帰ってきて欲しいからね。」

 

 鶸の小声をかき消すように菫の剣と竜の爪が接触し打鍵楽器のような音が響く。音に反応して僕も竜に目線を移す。菫は神涙滴ではなく明るく輝く陽光石の剣を使っている。菫が打ち合うように竜と交戦しているが技術的には菫にかなり分がある。ただ竜の堅さも相当で体に刃を打ち付けるたびに高い音を鳴らしている。

 

『防具いらないじゃん。まさに化け物。』

 

『それでもある方がいいでしょうよ。』

 

 僕らも防具無しで防御が二百を越えているわけで言えた義理では無いのだが、鱗で弾かれている辺り防御二百三十以上はあるわけだ。菫が優位に立っている中、若干後方から萌黄も攻撃に参加する。銃は撃っていないが剣に槍とめまぐるしい動作で攻撃を加える。菫を主に動きを制限するような行動が多い。それでも隙あらば剣が同時に動き鱗を叩きつけ、流れるような動きで次々に槍が繰り出される。菫がわざと強行して攻撃すれば、竜の行動を誘発しつつそれを盾で受け止める。桔梗は時折罠のように魔法を配置しては腹に突き刺すように土槍を仕向け援護しているが、何か思案するように竜の動きを見ている。紺は当面周囲の警戒で待機。僕も乱戦になったことで弓を降ろしたまま魔法で皆を強化しつつ魔法で弱体、妨害を試みる。明らかにじり貧になり竜が勝てる見込みはほぼ無い。鱗が数枚割れた所で威圧するように吠え声を上げる。魔力が乗っているのか体が震動し萎縮し動きを阻害される。そして後ろにステップしこちらをにらみ付ける。それで菫がひるむわけでも無く追いかけるように前に出る。竜の口元から白い冷気が漏れ口が大きく開かれる。

 

『各自防御。』

 

 僕が指示を出すまでも無く概ね全員反応している。菫は竜を避けるように斜め前方に飛び出す。萌黄は盾を重ね射線を遮る。僕らは前方に障壁を集中させる。それらが完成する前に竜の口から渦巻く白い風と氷の礫が飛び出す。円錐状に放出される冷気の吐息は温度と氷の礫で僕らに襲いかかる。菫は転がり込むようにブレスの範囲からは逃れる。結構な勢いで障壁が削られる。

 

『さっむーい。』

 

 萌黄の気の抜けたような意思が談話室に響き渡る。本当は寒いどころじゃ済まないはずなんですけどね。草木は凍り付き鎌鼬のような鋭利な風が凍り付いた物を削り、追い打ちのように氷の礫がそれらを粉砕する。地面も時折えぐられるように土片を巻き上げられる。萌黄の体にも徐々に氷がまとわりつく。十秒ほど打ち付けられたブレスは突如止む。目の前は一面の白。霜と氷の世界に姿を変え、ブレスは横薙ぎに振り回され菫に向けられている。横から邪魔しにきた菫に対象を変更したか。支援のためにと行動を起こそうとする中一際早く萌黄が反応していた。

 

『もっーぅ・・・』

 

 本気なのかよく分からない萌黄の憤慨の声と共に槍とショットガンが整列する。

 

『ぶっとべぇー。』

 

 萌黄のかけ声と共にショットガンが斉射され、槍が投射される。ショットガンが竜周辺に着弾し一斉に炎を吹き上げる。菫の追跡に気を取られていた竜は側面からもろにそれらを受け止め、さらに槍が次々にぶつかり体をよろめかせる。あれでも刺さらないか。ほんと頑丈だ。

 

『もっかーい。』

 

 手早くショットガンを四つ浮かせて合せて九つのショットガンで再度斉射。白い煙を上げている竜は体勢を立て直せずにそのまま蜂の巣になった。しかし最初の時のように竜から白い煙が巻き起こり硬質な音共に白い煙が暴れるように巻き上がる。視線の先には片面に展開された透明な氷の壁。所々に弾がめり込んで煙をあげているもヒビ無くたたずみその先に歪んだ竜の姿が見て取れる。

 

『低温系は控えていましたが、高熱系にもかなり耐性があるようですね。』

 

 桔梗が考えていたことを明かす。

 

『えぇーっ、先に教えてよー。』

 

 萌黄の不満そうな声。

 

『萌黄の攻撃が判断の決定打ですから、先と言われても・・・』

 

 短絡的に熱に弱かろうと思っていたがそうでもないようだ。ただショットガンを防ごうと思うくらいには衝撃自体が無効にされているわけではないということだ。僕は強度を調べるついでに弓を構え速射で二本矢を放つ。竜はこちらを睨むように見ている。しかし矢が氷壁を貫通も刺さりもしないのは当然と言わんばかりに顎を上げる。

 

「ま、これは蛇足だよ。それで(・・・)チェックメイトだ。」

 

 僕はわざわざ力強く弦を引き矢を放つ。竜は氷の壁を盾に矢を防ぐだろう。だからそこまでだ。僕は気を引いていただけで、竜の首の後ろから知らなければ認識できないほとひっそりと菫の姿が現れ見えない剣を割れた鱗に滑り込ませる。ミーバに弱点は非常に少ない。疲れない呼吸もしないことから首を絞めるような窒息は意味が無く。代謝もないので大部分の毒も意味がなかったり効果が限定的だったりする。唯一心臓のようにエネルギをー循環させるための器官としての魔石が大きな弱点と言えるが、配置に個体差がありこれもまた狙いづらさがある。ただ進化体になり創造主の形を模した時点で目立つ弱点を抱えることになる。一つは前述の魔石の位置が模した形態の心臓部付近になること。もう一つは脳に相当する思考部分と骨格を持つことだ。簡単にまとめるとミーバに無いはずの首ができてしまい、これを切断されると活動を停止してしまう。

 

「おまけではありますが塗布麻酔もしてあります。そこからの復活は容易ではありませんよ。」

 

 菫の剣は突き刺しただけではあるが首の骨を正確に切断している。最も警戒すべき状態異常『欠損即死』の成立である。ミーバの場合何らかの形で強引に骨から骨へ一瞬で神経回路を迂回させると即死を回避出来る可能性があるらしいが、首周辺を麻痺させることでその可能性も排除しているらしい。実際に出来るかどうかは別にして。竜の体は震えるように振動を繰り返し首を襲撃者に向け直そうとするも力がなくなるようにストンと頭を落としそのまま崩れるように地面に腹を落した。菫は無表情のまま剣を引き抜き収納に戻す。

 

『周辺に敵対者の反応はありませぬ。』

 

 警戒していた紺が報告してくる。

 

『一旦一息つこうか。』

 

 僕は武器を収納し戦闘からの緊張を解く。

 

『菫と萌黄もうまく連携できてたね。むしろ魔法使い組のほうがどう手を出すか悩むところだ。』

 

 菫と萌黄は笑顔で答える。

 

『敵の性質としてはどうだろうね。』

 

 僕は見回して質問する。

 

『恐らくC型ですが思ったより速くはありませんでしたわね。竜本体の性質なのでしょうがそれほど素早くないのかもしれませんわ。その分かなり頑強のようでしたが。あとは聞いていたブレスとは形態が違いましたわね。一般的な冷気ブレスだったかと。』

 

 鶸が所見の感想をまとめる。

 

『物理も魔法もかなり高めでしたね。肉体をかなり損傷させないと肉体にダメージを与えるのは困難かと思います。気になる点といえば結界の破損が攻撃力の割に早かったとは思いました。途中で話しましたが熱耐性はかなりのものですね。』

 

 桔梗はいろいろ試しながら攻撃していたものを報告する。

 

『長い間ブレス浴びてると服がぼろぼろになるかも。』

 

 萌黄がローブの端の切れ目をねじり込みながら傷んだ様子を計っている。思ったより防具へのダメージが大きいように思える。この竜の特性が全体的なものか判断は難しいが。

 

『動きに多少違和感は感じましたね。回避と攻撃が噛み合っていないというか・・・』

 

 菫が斬り合った感想を述べる。疑問点については解消していない模様。

 

『萌黄は換えの装備に交換して。菫は大丈夫かな?』

 

 萌黄と菫は頷く。萌黄はローブを収納し一般装に、そしてそのまま新品のローブを重ねるように取り出し装備交換を完了させる。

 

『んー、このまま行くとちょっと危ないかな・・?』

 

 鈴が竜の死体を見ながら言う。そしてそのまま収納する。

 

『何かあった?』

 

 鈴が気になる発言をし皆の視線が集まる。

 

『んー、これを・・』

 

『主殿、魔法来ます。』

 

 鈴が何かを指差すように赤いものが付着した人差し指を向ける。それと同時に遠吠えのような吠え声が響き渡り紺の警告が飛ぶ。白いもやのような玉が森の木々の合間に多数見える。それは僕らの周りも例外では無くそれらの警戒に気をとられ背中合わせするように集まり障壁を張り円形に組み立てる。もやが一瞬膨らみガラスが割れるような音が響き周囲が白い霧で覆われると共に周囲の気温が急激に下がる。それが霧では無く霜であり周辺は一気に銀世界に包まれる。

 

『何だ・・・足止め?』

 

 地面も凍り付き障壁より外は五センチ弱の氷で覆われている。森の地面である歪な突起こそ減ったがそこら中がスケートリンクのようになっている。

 

『歩きにくそう・・・』

 

 萌黄がぼそっと呟く。

 

『どうだろう。これだけ凍ってたら逆に滑らないんじゃないかな。』

 

 周辺も冷えて湿気も無い。氷の表面に水もなく霜が降りているだけ。滑りやすい条件を満たしていない気はする。

 

『魔法の場合そうとも限らないと思いますけど。』

 

 桔梗がそう言ってそわそわと周囲を見回す。何事も無かったかのように鈴がこちらに歩いてくる。

 

『大丈夫と思われていても仲間はずれはちょっと悲しい。』

 

 そう思うなら移動してくればいいのに。紺もちゃんと障壁の中に入ってきている。とりあえず鈴が歩いていることから僕も氷の上へ一歩踏み出そうとする。

 

「あ。」

 

 鈴が声を出すと同時に僕の右足は氷の上を止まること無く滑りそのまま左膝をつく。

 

「おおぅ。」

 

 むちゃくちゃ滑った。

 

『ほら、私地面からの不利益は受けないから。』

 

 そう言えば【踏破】ってそんな効果だったか。僕は反省しつつ慎重に足を戻して立ち上がる。

 

『解呪するか、壊すか、別の移動方法にするか。』

 

 解呪も破壊も現実的では無くかけ直しをされる可能性もある。そして移動手段としても魔法に頼るとメンバーの半分は維持が難しくなる。

 

『主殿、追撃が来ますぞ。』

 

 紺が警告を発する。桔梗はすでに防御体勢に入っており氷壁を展開し始めている。ドーム状に展開された氷壁だが結果的に悪手となった。上空から降り注ぐ五十センチ近い雹の雨は徐々に僕らの周りに積み上がっていく。このままじっとしていれば閉じ込められてじり貧というか餓死しかねない。僕は菫、萌黄、鶸、紺、鈴と順番に見る。

 

『仕方ない強化術の『空中歩行』を使おう。』

 

 この魔法は勝手に反発してくれる地面と違って意識的に周辺大気を地面と見なすことでそこを踏みしめて移動することが出来る魔法である。ただうまく認識しないと変なところを踏んでしまったり、踏もうとしたものが無かったりする。歩くことにすら結構意識を割かれるのだ。僕は割と苦手、菫と紺もかなり動きが鈍る。鶸は順当に歩けるしなんならかなりアクロバティックな動きもできる。桔梗は日常通り行動できるくらい。萌黄は絶対にうまく動けていないはずなのだが、危なっかしいながらもかなり俊敏に行動できる。そして強化術Ⅵということもあってかそれなりに負荷が大きい。一時間もすると百は使う。僕と桔梗で分担しても自分を含めて三つの維持が必要になる。前に出がちな僕が菫と萌黄、桔梗が鶸と紺を担当する。戦闘行動を考えると二時間以内に勝負を決めたい。

 

『よし、行こう。』

 

 全員に鈴を除いて『空中歩行』をかけて上空を見る。雹が積もってはいるがまだ薄い。桔梗が天井付近に歩いて行き氷壁を解除する。雹は落ちてくること無くお互いが癒着するようにドームの形を保っている。ただ追加で降ってくる雹の影響で微妙に震動しているので放っておけば崩れかねない。桔梗が天上に手を掲げ『爆破』の魔法で雹を吹き飛ばす。

 

『脱出して敵拠点の方に向かうぞ。』

 

 踏み台を飛び上がるように空中を踏みしめ天井から飛び出す。降りしきる雹を回避するまで神経はいかず時折ぶつかりながら森の間を走り抜ける。鈴は天井まで消えるように移動しそこから雹を踏みながら遠足気分のように飛び跳ねながらついてくる。当たっても大丈夫なのだろうが鈴が雹に当たりそうな気配は無い。頑張れと言わんばかりに無表情に無地の赤手旗を振っている。ちょっとだけイラッとする。そして空中を踏み抜いてバランスを崩す。もう鈴は見ない。鶸の呆れるような目線を受けながらどうにかこうにか雹と木々をかいくぐり前に進んでいく。菫と紺は幅跳びするように踏む回数を最小限にして進む。鶸と菫は並んでいつも通り走り抜ける。ただ鶸は走ると遅い。悪路万能の蟹もさすがに氷上は走れまい。なにより雹に耐えられそうにない。萌黄は飛ぶように移動している。常に真上にジャンプしているのだろうかピンボール思わせるようにいろんな方向に射出されながら移動している。足は動いているのだが絶対走れていないと思う。真似したくない走りだ。かいくぐりながら二十分ほどして先行している菫、紺、萌黄が拠点の端にたどり着く。開けた場所で迎え撃つのは白い鎧を纏った三体の竜達。前衛に二体、後方に一体と逆三角形の布陣。

 

『報告にあった白い鎧の竜を二体。様子の違う白い鎧の一体と遭遇。先行撃退します。』

 

 菫から連絡を受ける。

 

『やれるか?無理はしないようにしてよ?』

 

 僕は全員でやるかと思ったが相手は更に戦力を分けてきたと思って悩む。

 

『むしろご主人様は迂回して敵選定者を。こちらで消耗されるよりはよろしいかと思います。』

 

 編成構成が少し偏るので僕は悩んだ。相手次第ではじり貧になる可能性はある。

 

『桔梗は菫側に行ってくれ。僕は鶸と鈴で選定者を目指す。』

 

 馬鹿正直に同じ数当て理由も無く、耐久をするにしても防御と治療ができる桔梗を配置するのが良いと思った。

 

『・・・かしこまりました。』

 

 桔梗が悩んだが指示を聞いて移動コースを外して行く。

 

『私が菫達に行っても良かったのですのよ?』

 

 鶸が何やらよく分からない発言をする。

 

『総合的に見ると本丸のほうが攻撃力高そうだしなぁ。安全を考えると順当な割り振りかと思うけど。』

 

『そうではなくて・・もぅ。』

 

 僕の話と鶸の話が噛み合わない。僕たちは高度を上げて迂回コースを取る。ただ雹が止んだこともあったが僕らは見逃されたような気がした。元々彼らも相手の戦力を分断するつもりでいたのでは無いかと後々思った。ミーバ竜達の絶対の信頼かそれとも本体の絶対の自信なのか。その姿を見るまでは僕はより早くたどり着くまでに精一杯であったと思う。

 

---んー、このまま行くとちょっと危ないかな・・?---

 

 僕は結果的にこれが起こった事実を知ることは無かった。

1対5でフルボッコ。さすがに余裕の案件。次は3対4での攻防。



萌「爬虫類なのに冷気を吐くとか。」

鶸「竜は変温動物ではないですわよ。」

萌「爬虫類じゃないのっ?」

桔「ご主人様の世界の分類では分けられないのでは無いでしょうか。」

菫「そもそも羽があるでしょうに。」

萌「羽の生えた蜥蜴いるよ?」

紺「アレはどちらかというとワイバーンであろ。」

萌「ワイバーンは爬虫類っ。」

鈴「そもそも煽り文句であって誰も蜥蜴とは思ってないでしょ。」

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