僕、詰ませる。
投降し忘れてた。ちょっと遅れてます。すみません。
監視していたであろうシュトーレス王国がヘキセン家の陥落を知って動き始めたのは斥候兵を通じて確認できた。しかし動き始める軍が国境にたどり着くまで三日。瞬殺するのは簡単だが大義名分だけは用意して欲しいというトーラスの要請でせめて敵軍が越境行為を行うまで待たなければならない。正直暇な時間である。僕からの要請を聞いて北方連盟からの参加者は集合中であるがこれもまた全員そろうのは五日ほどかかりそうという話。三日後に来るであろう敵をお迎えする旗頭を用意するためにもカースブルツ卿と数十名の騎士だけでも国境付近まで来て貰う。補給はこちらでするので見栄えだけなんとかして来て欲しいと特急要請である。なおミーバ兵二万は翌日には到着予定である。
「侵略系のゲームがいかに簡略化されているかわかるなぁ。」
僕は愚痴りながら森で弓で狩りをしている。
「統治者を叩くだけで民衆が納得するわけありませんわ。」
「大体その後お金ばらまいて済むんだけどねぇ。」
「そちらの欲にまみれすぎた民衆もどうかと思いますが、実行すれば国も市場も経済破綻まったなしだと思いますけどね。」
付き添いの鶸が呆れながら話に付き合ってくれる。
「世知辛い・・っ。」
僕は視界に写った熊にヘッドショットで頭半分強を吹き飛ばしてため息をつく。
「あーもう雑ですわね。商品価値が下がりましてよ。」
鶸が結果を見て怒っているが、もうこんな小銭なんか気にしなくて良いと思うのだけど。鶸がぶつぶつと何か言いながら熊を収納する。時間代わりでパートナーを変えつつ弓の修練をしながら時間を過ごしていく。
二日後斥候兵の連絡を聞いて進入口となるであろう国境に向かうべくカースブルツ卿と合流する。ただ集まった敵軍は急ぎということもあってか総勢三千と予定より少ない。行軍中に徐々に増えているようだが残りは後から援軍で来る形になる模様。昼前に鎧姿の騎兵として現れたカースブルツ卿と合流する。ふくよかな体型にも関わらず鎧姿が決まっているのは造った職人の腕だろうか。
「遊一郎殿か。本当に大丈夫なのだろうな。」
自分と屋敷と周辺に常駐していた騎士二十二名とやってきた模様。
「戦闘はこちらでやりますのでシュトーレス王国軍への布告と開戦の宣言だけしていただければ大丈夫です。」
「それすらも不安なのだがな。そもそも遊一郎殿の軍はどちらに?」
「うちのはもう現地周辺です。森に伏せて貰っていて、暇見て監視や斥候を潰しています。」
この場には僕を含めて三名しかいないので気になるところだろう。目で見ないと信じられないのだろうカースブルツ卿は不安そうにシュトーレス王国のほうを眺めている。
「ここからそちらの通常速度で現地に行き、一泊してからお出迎えですね。」
僕はそう言ってファイを取り出して騎乗する。萌黄と鶸が後ろと前に飛び乗る。そして彼らの信用を得られないまま無言で現地へ移動を始める。不安そうな会話が聞こえてくるが当面は無視する。夕方までファイを走らせ待機地点に建築していた貴族向けの豪華な家に一行を泊める。正直たかが一泊するためだけに石造りで立派にする必要はないと思ったのだがごねられても困るので内装も含めて頑張って準備したのだ。何も無いはずの場所に違和感のある建物にカースブルツ卿達は驚いていた。案内して食事を出した後、まさか戦争に行く先でこんな歓待を受けるとは思わなかったと言われたときには嬉しい反面やり過ぎたかとも感じ、常識の無さを痛感することになる。
「やり過ぎはそうでしょうがご主人様の能力の高さと威光が示せます。」
菫を始めみんな分かってやってた節があった。留守番メンバーにやや問題があったとも思ってしまう。
翌朝顔合わせと言うほどでもないがカースブルツ卿達の不安を払拭するために近所のミーバ軽装兵五千を早々に集合させる。ぞろぞろといった風に集まってくる姿は慣れてくるとコミカルで心が洗われるのだがカースブルツ卿にとってはそうでもない。
「こ、これは魔物かなにかなのか?」
恐怖の感情をあらわにしながら遠くからやってくる大量のミーバを見ながら声を震わせる。
「そう言えば初見でしたっけか。魔物に近い見た目ではありますけど厳密には魔法生物でゴーレムのほうが近い感じですかね。」
小さなローパーが蛇皮の鎧を着てうねうねやってくる姿は慣れないと気が狂いそうになる気持ちは少しだけ理解しなくもない。ここからそれっぽく偽装するためにかかしに服を着せたものを取り付けた甲をつけて民兵だと言い張る予定である。そもそもミーバ自体が小さく目立ちにくいのではないかという邪推もある。鶸や桔梗は無駄なことではないかと指摘を受けたがミーバ兵を表立たせるなら少しは隠したいという僕の意見を元に軽い幻影の魔法すら付与されている一品である。通常は剣を使うが民兵らしさを醸し出すために槍を装備させている。あとは弓矢もあるので戦うには困らない。
「こんな豪華装備の民兵がいるかっー。」
カースブルツ卿の絶叫がお披露目に整列した五千のミーバをみての一声である。ごもっともな意見である。レベルの低い槍をつかわせても連れてきた騎士三人ですら余裕に相手できるのだから過剰戦力にもほどがある。この国の騎士ももう少し強くなって欲しいと思うところである。軍に予算が注がれていなければこんなもんだとカースブルツ卿はぼやく。覇権国家でもなく、侵略準備中でも無い。やり過ぎると主家に疑われたりすることもあり軍拡は中々難しいのだと卿は言う。政治は面倒くさいと改めて思うのだった。ミーバの能力も知り不安が払拭されたカースブルツ卿の気分は晴れやかになった。騎士達も少なくとも死ぬことはないと心を落ち着ける。彼らの心が落ち着いたことで僕も一安心である。斥候兵からの連絡で敵軍が越境寸前であることを知り僕はカースブルツ卿に行軍を促す。
「それでは頼むぞ。進めっ。」
僕は騎乗したまま菫に目配せして軍を進める。このまま進めば会敵するのは一時間後か。関所周辺はすでに退避済みで空っぽである。そもそも防衛用の施設ではないので抵抗がなければ何もされないと思われる。国境を越えて十分と少し両軍は相まみえることになる。シュトーレス王国軍騎士千八百と民兵千二百。斥候からの連絡が止まった時点である程度ばれた事は認識出来ていただろうがそれでも対応が早すぎることに動揺が広がっている。指揮官であろう騎士が大声を上げて隊列を組ませ初めて前に出る。こちらもカースブルツ卿が悠々と前にでる。こちらのミーバ兵一万はすでに横陣で配列済みである。なお擬装用装備は五千程なので相手から視認できる人数もそのくらいであると思われる。ただし見える槍の数は倍あるわけで勘の良いやつは違和感に気がついているだろう。
「支援の為に我が国の使者を一方的に害した貴国に異議申し立てを行い、尚且つその使者すらも害するという国家の威信を踏みにじる行為に我が国は怒りを持って貴国を打ち倒すであろう。」
相手の指揮官が宣誓を行う。前提の話が良く分からなく僕は首をかしげる。正直言いがかりにしか聞こえない。
「そういう体で攻め込んでいるという話ですわ。言いがかりですわよ。」
鶸がこそこそと注釈を入れてくる。話の前提がそもそもあるかどうかは関係なのかと取りあえず納得しておく。
「支援と称して我が国を探り国境が弱くなると見るや領土に踏み込む貴国に国家の威信を見いだすことは無いであろう。それを持って我が国に害をなすというなら貴国のすべてを持ってあがなうが良かろう。」
カースブルツ卿は支援されていた当事者であるにも関わらず飄々と宣誓を返す。まさにどの口が言っているのやらという話である。この記録が他国から見てどう見えるかはその国次第ではあるが国家間の益をやはり勝った方に傾くのは道理である。勝てば官軍で歴史を記すのもまた勝者なのである。為政者って汚い。指揮官は整列しつつある軍の中に消え、カースブルツ卿も踵を返して軍の中に引っ込む。そして何も無い時間。
「え?この間は何?」
「相手の整列を待っているんですよ。」
僕の声を拾った騎士がそう言ってくる。冗談みたいな優しさに僕の顔が引きつる。確かに僕も相手に実力云々と言わせないためにそうすることもあるが、今回の件に関しては相手が一方的に侵略してきた状態なのにそこまで待つ義理があるのだろうかと。
「こちらはすでに整った状態ですからね・・・普通ならこちらも隊列を整えるのでこういうことには中々ならないのですが・・・」
なんか戦争の文化が面倒くさい。苛ついて待っている間に相手の隊列が整い、相手からラッパの音が鳴り響く。そして太鼓のような音共に進軍が始まる。
「栄光ある戦士達よ。祖国を守るために武器を掲げよ。侵略者を討ち滅ぼせ。」
カースブルツ卿の景気の良いかけ声にミーバ兵が槍を振り上げヴャーと呼応する。ノリが良いと思いつつ突然のかけ声にカースブルツ卿もびくっとなっている。
「遠慮はいらない。蹂躙しろ。」
僕は手を振り上げて宣言する。ミーバ達はそのまままっすぐ歩みを速めながら進む。敵軍から矢が降り注ぐ。会敵が近すぎたということもあってか本陣に届く勢いである。正直打ち落とす意味もないような攻撃なのだけどカースブルツ卿がどうかは分からないので一枚ほど障壁を張っておく。ミーバ達はそのまま気にせず進み矢を弾く。障壁は矢を受け止めその場に落す。カースブルツ卿が安堵する。余程当たり所が悪くなければ怪我するかも怪しいというのに。そして敵軍後方から大きな光が三つ上がる。とっさに魔力視覚を発動して確認する。まさか魔法使いまで連れてきているのは意外だった。こちらが矢を撃たないと思って混戦になる前に攻撃に切り替えたようだ。
「まさか魔法使いまで連れてきているのか。」
カースブルツ卿も驚いているようだ。ただ『爆発』か何かの魔法なのだろうが割としょぼい魔力量に僕は冷めた目でそれを見ている。そして展開が遅い。
「あんなものが飛んできたらひとたまりも無いぞ。」
僕は何を言い出すのかと逆に驚いた顔でカースブルツ卿を見る。確かに普通の民兵ならあれでどうにかなるかもしれないと僕も考えを改めた。桔梗がどうかする?と言う感じに僕を見て小首をかしげる。お互いの認識に差がありすぎると痛感しそれは駄目だと手振りで返す。桔梗は少し残念そうな顔をして引き下がる。
「どうしたのだ。どうにか出来るならするべきじゃないのか。」
「いや・・・ちょっと済みません。あまりのレベル差に対応に困りまして・・・」
「そんな一体どうすればっ。」
カースブルツ卿の祈りもむなしく光球ははなたれミーバ兵の先頭付近が爆発を起こす。が、当然のように被害は無い。かかしに着せた服が大きく破れているのがちらほら見受けられる。カースブルツ卿が目を見開いてその惨状を見ている。相手の騎士も少しおかしいと思っているようで妙な雰囲気を感じる。
「いや、お恥ずかしい。雑仕事で範囲攻撃まで想定しておらず偽装用の服が破れてしまいましたね。」
近接の応酬かと思ってかかし部分は頑丈な素材にしたのだが服は偽装の為近くの古着屋で買い集めてきたものだ。近接なら当たった部分だけ壊れるのでここまでボロボロにならないだろうと踏んでいたのだが、範囲攻撃だと防御力に応じて防具全体的にダメージが割り振られてしまう。その結果防御力はないが耐久力が著しく低い服がボロボロになってしまったのである。
「いや、兵・・は?」
カースブルツ卿の声なき主張が聞こえる。
「ミーバですか?さすがにあの威力で防具を破壊するのは日が暮れるどころの騒ぎじゃないと思いますよ?そもそも防具がなくてもあの程度の攻撃で死ぬような奴らじゃ無いですけど。」
M型軽装兵の魔法防御がいくら低いといっても防具がなくても百は越えている。貫通が乗っていたとしても倒す前に相手の負荷が持たないだろう。
「え、えー?」
カースブルツ卿と騎士の思考が僕の解説と一致しないのか変な声を出して混乱している。僕らが強くなったのもあるけど認識している騎士のレベル差がかなり激しい気がする。ミーバ兵と敵民兵が衝突する。文字通り衝突である。ある程度は仕方が無いが民兵はなるべく殺さないように指示してある。結果武器を掲げたまま体当たりである。そのまま吹き飛ばされ押し倒されミーバにふにふにされるがいい。ミーバ兵の勢いは一向に弱まらずそのまま騎士達に迫る。迂回する間も無く、それこそ加速して突撃する間も無くミーバの槍に晒される。一撃二撃は鎧や盾で弾くもその時点で破損全壊状態で次々に槍衾にされていく。
「差がありすぎて逆に哀れになって来たな。」
「しょうがないよねー。」
さすがの萌黄も実力差の剥離が見えていたようで予想通りだった模様。騎士は一瞬で蹂躙され抵抗らしい抵抗も見せずに命惜しさにか指揮官が自らの位置まで到達する前に降伏の印を掲げた。見慣れぬその印にカースブルツ卿から一言あるまで気がつかずそのまま全滅させるところだった。指揮官から事情聴取するも功績稼ぎの為に任命された上位貴族の子だったようでたいしたことは知らなかった。概ね紺が把握している通りで信用できるかは置いておいて多少裏付けが取れたかなという程度だった。
「支援で骨抜きにされていたとはいえ舐められてますねぇ。」
「ま、まぁ・・・つい先日までは仲間扱いみたいなものでしたし・・・急に手のひら返されたら仕方ないことかと・・・。」
敵貴族を見ながらの呟きにカースブルツ卿が申し訳なさそうに言葉を濁す。
「取りあえずこちらの大義名分は立ったのでサクッとやってきますね。」
僕は邪魔な障害という手続きが無くなって軽く気合いを入れる。カースブルツ卿はなんのことかとこちらを見る。
「これから貴方方を運びながらシュトーレス攻略ですよ?」
カースブルツ卿は目を丸くしているが僕の中では拒否権無しで予定に組み込まれていることだ。
「先遣隊は微妙でしたが、強兵がこの十倍強いと言うこともないでしょう。さっと駆け抜ければ予定通り四日で終わりますよ。」
僕は大型馬車を準備してもらいそこにカースブルツ卿と騎士達を押し込める。
「予定より大分人数が少ないですしスペースに余裕もあるでしょう。後続はのんびり来て貰うとして僕らは先行しますよ。」
不安げなカースブルツ卿達をよそに僕らは粛々と移動準備を始める。
「ではしゅっぱーつ。」
全軍が移動モードになり一糸乱れぬ移動が始まる。不気味な音が鳴り響き異常な速さと振動によりカースブルツ卿達の悲鳴が聞こえる。大きくなったが振動吸収機構が改善され揺れは大昔に比べれば劇的に改善している。その内慣れてくれるだろうと思い、最悪移動先で魔法で治療すればと雑に考え悲鳴を無視して強行軍が始まる。途中小競り合い以下と言うべき敵兵のひき逃げを三度繰り返し予定通り四日目にはシュトーレス王国王都に到着する。
「敵の状況は?」
「王都内残存勢力は騎士二万と民兵が三万ほどです。市民が七万程度避難し閉じこもっています。」
菫の報告を聞いて戦力的に問題無い事を確認する。
「あとは出てこなかった英雄をどうするかか。」
「処理済みです。」
正面からぶつかってもなんとかなるとは思うものの能力が未知数のため油断は出来ないと思っていたのだが、菫の口から衝撃的な言葉が紡がれる。
「はい?」
「処理済みでございます。」
思わず聞き間違えたのかと聞き直すことになってしまったが菫から出てくる言葉は無情な一言であった。
「多少の油断もあったのでしょうが軽薄な男で存在価値もないかと思いましたので、一昨日先行した折りに暗殺しておきました。」
正面から戦えば多少の苦労もあったと思うのだが、暗殺で済むなら余計な苦労を背負い込むことはないと鶸の計画の中では一度挑戦してみようという事だったらしい。どう攻略するか若干楽しみな部分であっただけに惜しくはあるが仕方ないと諦め王都を見る。
「まあ、よくやったね。と言うことは城下の士気は随分低そうだね。」
「どん底というわけではありませんが、卑怯な手段であると鼓舞して最低限保っていると言ったところでしょうか。」
戦力の大きな拠り所を失ってはそれも仕方なし。疲労困憊でうつろなカースブルツ卿にお願いして降伏勧告をするが当然受諾されることも無く、桔梗の大規模攻城魔法により城壁を粉砕し日が沈む前に王都は陥落した。トーラスに状況を報告し統治方針を聞き王都の管理を始める。二日後に各地の元貴族達の軍が攻め込んでくるが二万にも満たずミーバ軍によって撃退される。結局僕らはカースブルツ卿と共に後続を受け入れつつ三ヶ月も王都で足止めされることになった。
「随分無駄な時間を使ってしまった気がする。」
旧シュトーレス王国を管理するためのガイル侯爵を受け入れ彼の軍と彼に政権を引き渡す。
「さすがにシュトーレス王都を五日で陥落させ一月も経たずに抵抗すら奪い平定されてはこちらも手配が追いつきませぬわい。」
ガイル侯爵はからからと笑いながら書類に目を通し、僕の小話に付き合っている。
「引き継ぎは終わりましたので僕は戻りますね。」
「ほっほっほ。ごゆっくりしてくだされ。」
大仕事をしたので好意的に休めと言ってくれたのだろうがそうする気もない。否定していらぬ諍いをするつもりも無いのでそれっぽく言葉を受け取っておく。カースブルツ卿は領地に戻るかと思ったが、もうしばらくはガイル侯爵の手伝いのようで城下で分かれることになった。
「このご恩は一生、子孫三代に渡って忘れますまい。」
「いや、そんな時期まで僕いないと思うので忘れても結構です。」
カースブルツ卿の礼についてはすっぱりと遮断し微妙な顔をされてしまう。かいつまんで使徒の立場を説明し長くても後四十年もいないだろうという話をする。それでもカースブルツ卿は礼を重ね北方連盟一同に見送られ僕らはシュトーレス王都改め大都市シャルワートを去った。そのご正式にガイル侯爵現着までにシュトーレス王国王都にたどり着いた北方連盟の一同には領地が安堵されいくらかの報償金も出た。旧シュトーレス王国貴族は王一族に連なる者達はさすがに処断されたものの抵抗に加わっていない貴族に関しては名誉男爵として迎えられ元の領地を安堵された。ただし当主の功績なくば継承は認められず奮起して貢献するようにと指示が出される。命令とはいえ抵抗した貴族達は大小問わず取り潰されるがルーベラント王国からの管理官を受け入れることで騎士爵として領地の一部を残された。功績次第では元の領地に戻してもよいと餌をぶら下げて配下に加えるようだ。さすがに同等の広さであるシュトーレス王国を管理するにも国内貴族は足りず、しかも攻略に当たっては僕がすべて終わらせてしまったために功績のある貴族がおらず、かといって北方連盟の面々に恩賞として土地を与えるわけにもいかず割と苦肉の策といったところのようだ。
「もう少し暴れて貰っても良かったのだが・・・まあ善し悪しだな。」
王都でトーラスに報告した時は随分やつれた顔で愚痴を言われた。
「まぁまぁもう二,三はやるつもりだから準備はしておいてね。」
僕の無情な言葉にトーラスの肩は大きく落ちた。今回も相談はしたつもりだったがまだ見誤っていたと反省され、次回は綿密に計画を練ってから行おうと釘を刺されることになる。周辺国は中立よりも友好国のほうが多く一方的に攻め込んでは不義になると敬遠され、結局はシュトーレス王国側から侵攻していくことになった。翌三ヶ月でカルバレイト王国を攻略。さらに東進し四ヶ月後には中規模国家であるキシリアハイト連合国を攻略。半年後には北に位置する小国ケッシュ王国、東の小国クレイドハイトを攻略する。そして元隣接国であったアドハイトとカールトレイス王国は周囲をルーベラント王国に囲まれることになり、双方共にルーベラント王国に恭順を申し出て王侯爵の地位を与えられて併呑されることとなった。ルーベラント王国は革命により王権が変わって約一年半で大陸南西の第一国として大国の仲間入りを果たす。
「さすがにこれ以上はもう二、三年は待って欲しい。管理と把握がおいつかんよ。」
トーラスから泣きつかれ一旦攻略の足を止めることになった。
「手伝うには人や金は出すんで一年でなんとかしてください。」
嫌がるトーラスを説き伏せ急ピッチで国内の安定化に努めることにする。北方地域を攻略したことで神谷さんの領地に接敵するかと思い調査を行ったが。
「もぬけの殻という状態でした。今回は建築後は確認できましたが建物はすべて処分していった模様です。」
紺の調査では伐採や植林、地下大空洞は確認など開発の後は見て取れたが大草原に戻っていたとのこと。周辺地域の話では幻のような国だったと認識はされていたものの厄介な奴らがいなくなって助かったという思いが強く、次の問題であるルーベラント王国をどうするかに対応が移っているようだ。神谷さんのその後の動向を確認したかったが今回は移動後を消し去っており時間が経っていると考えられすぐに居場所を見つけるのは難しいと判断し追跡調査は断念した。
「不意打ちが気になる相手だけど、ぶつかる気が無いなら当面は置いておこう。神が何考えてるか知らないけど。」
神谷さんの調査は国が大きくなってからついでという方針に。そして別の問題。
「師匠!手ほどきをお願いいたしますっ。」
アリアである。一旦攻略が落ち着いたことを知ってか遠慮が無くなり執拗に追い回される。
「経験談として何か教えるまでかなりしつこく追いかけてきますわよ。」
鶸の悲しい経験談を聞き仕方なく相手をしてやる。種が割れていれば彼女の特殊能力はさほど怖くもなくステータス差がかなりあることもありそれほど立ち会いは苦にならないのだが、あれこれしつこく聞いてくる。出来なければ出来るまで聞いてくる辺りは熱心なのだが出来るように試行錯誤くらいはして欲しいと思う。
「出来ないことは出来る者から教わるのが一番です。」
力や技術の認識の仕方は人それぞれで必ずしもそうはならないと思うのだが、彼女はその姿勢を崩さなかった。結局彼女は僕が再び国家攻略に出るまでつきまとうことになる。ただ益が無かったわけでも無い。
「英雄とはある程度の強さを得ると突如神に選ばれてしまうのです。」
荒唐無稽とも言えないがいちいち神が見ているものだろうかと思いつつも英雄とは『英雄』というスキルを持つ人達の総称といえることは分かった。実はトーラスも知っていたので最初から聞いていけば良かったと思わずにはいられなかった。しかもアリア本人から聞くよりもわかりやすかった。伊達に長生きしていない。
そう邪魔をされながらも一年と二ヶ月。国家運営の方針に従って不穏貴族の粛正と生産物管理や産業起こしを行う。平行して越後屋の商業展開と販路の拡大、そして孤月組の勢力圏の拡大を積極的に進める。僕の我慢できなさから初っぱなからミーバを大きく動かしてしまった為警戒している選定者には知られてしまっていると判断し、選定者の位置情報は急務といえた。国内が安定し、国保有の騎士軍が強化、拡大されたことで小国相手は彼らに全面的に任せる。国内にアリアを含めて英雄を五人抱えることになり英雄を攻め手にも起用していく。中でもアリアの霧と鍛えられた馬鹿げた力は攻略の大きな助けとなった。ただ僕に追従しようとするのでトーラスの指示の元意図的に別方向に配備する。下手をすると走って近づこうとするからだ。攻略を再開し半年、四つの小国を落とし情報網に選定者が引っかかる。一人は神谷さんだ。北東方面に三つの国を超えた先の国で独自に勢力を展開している模様。もう一つは国境の間にある山林に済む小竜。野生の竜かと思ったが明らかに異質な装備を備えており選定者の建物を発見したことから選定者と断定。最後は光満教とかいう宗教で広がる宗教国家だ。教祖までは現地民だったが神と称される精霊っぽいやつが選定者だった。こちらは選定者であることを隠しているようで巧みに建築物やミーバを隠していた。ただ教徒には隠しておらず露見するのはそれほど難しい話では無かったが。
「さてどうするかな。」
急に目標が増えたことで嬉しい悩みが増えた。どう対応しようかな。
次は対選定者へ
萌「ご主人様はなんで弓を使ってるんだろう。」
桔「補正がのるとかなんとか、将来性がなんとか言っておられますが。」
鶸「固定値よりもステが乗る方が一撃が強いとかそういうステータスになってしまったということですわ。」
萌「でもいっぱい撃てるよ。」
鶸「未だに時間当たりのダメージは銃が圧倒的ですわね。対策が容易なことくらいですか。」
菫「きっとご主人様には何か考えがあるのですっ。」
鈴「盲信しすぎじゃないかな、それは。」




