僕、攻略を始める。
-魔法『広域転送』の構築が完了しました。-
-r+\un『鈴』が第二種管理者権限を返上しました。-
紺野遊一郎 グループなし 戦術師Ⅴ
STR:796 VIT:712 DEX:823
INT:602 WIZ:615 MND:642 LUK:11
MV:10 ACT:1.4|1 Load:2354 SPR:1448
HP:1574 MP:1317 ATK:1232+97|1221/1105 MATK:1319+346 DEF:332+126 MDEF:276+114
扉が開き始め光を感じる。本来なら一瞬の時間のはずを上位の計らいによりほんの少しの時間と大きな情報を得た。腹の立つ神ではあるが逆に一矢報いるための足がかりは貰えたと思える。ただこのまま計画を立てていてはいずれその計画さえもあの神の知るところになる。計画を進める前に彼らに干渉されない記憶できる場所が必要と感じる。圧倒的上位に対して僕らが出来ることはないだろう。可能なら同等の存在にそれをしてもらうぐらいしか今は思いつかない。早速だがザガンに頼りたくなる。光を見ながら歩きそして扉を開け放つ。と同時にものすごい質量によって鍛錬所に押し戻される。重なって意味不明な悲鳴のように聞こえる声達に押し倒されて僕はため息をつく。
「はいはい、取りあえず全員立ち上がって後ろに下がれ。」
鶸を引き剥がし、菫を引き剥がし、桔梗を引き剥がし、紺を脇に置く。萌黄はニコニコしながら鍛錬所の前で待っている。普段突っ込んでくるやつがこういう時に限っては突っ込んで来ないのはどうなんだろうとも思いながら立ち上がる。鍛錬所から出て周囲を見回す。建物が増えて木が少し減ったか、と思いながらみんなを見る。
「どのくらいか分からないけどみんなご苦労だったね。イライラするやつからの邪魔もしばらくは無いだろうとは思うけど、また頑張っていこう。」
菫と桔梗はうるうるした感じで僕を見る。鶸に視線を回すとそっぽを向き、紺は寄りたいけど待てをされている犬のように何かに耐えている。萌黄だけがいつも通りというふうに見える。
「鈴はどうした。」
ここに見えない鈴の存在を僕は尋ねる。
「あの子はいつも通り櫓の上ですわ。今日に限っては来れば良いと思うのですけど・・・申し訳が無いといつも言っておりましたわ。」
疑問について鶸が少し寂しそうに答える。
「ちなみにどんだけたった?」
最初に確認するべきと思っていた事項ではあるがあまりのお迎えに少しどこかへ行っていた。
「あの事件があってから四百日です。」
立ち直ったかのように菫が答える。ふむと頷きつつも思った以上に時間を飛ばされたことにイライラする。
「貴方がいなくなって一月後に予定通り施設関連の大半をブレセアールという者に引き渡しましたわ。その者から特に反応はありませんが。その一週間後に資源の急な増産が始まりそれが一年続きまして、増産に関してはこちらも施設の建造がはかどったのですが研究関連は権限の都合上進めることが出来ませんでしたわ。」
鶸がその間のことを簡単に説明を始める。鶸の本分が果たせなくてふくれっ面でぷりぷりしている。
「権限は残っただろう。」
僕は以前も似たようなことがあったとき朱鷺が勝手にやったことを例にして話す。
「権限は鈴に移されたのですが、鈴の問題無いのか誰かの干渉なのか鈴が権限を使えない状態になっていましたので・・・」
桔梗がそれを補足するように話す。随分な置き土産をしてくれたものだと僕は頭を抱える。
「拘束してくるのは予想通りだったけどそこまでしてくるとはね・・・各自に残した仕事がどうなったか聞こうかな。」
僕がそう言うとやいのやいのとしゃべり始め、話が進められないとなるとお互いに牽制し合って順番を決め始める。幼児の発表会か何かか。いいから早くしろと言いたくもあるが、それはそれで楽しそうなので好きにさせる。ちょっとした喧噪の後順番が決まったようで菫が出てきて礼をする。
「孤月組に関してですが、こちらで資金、武装の支援を進め各都市、国での地下組織の懐柔制圧を進めました。隣接国家間での制圧はほぼ終了しております。その先に関しても越後屋と連携して浸食中です。」
そこそこ進んだかなと思いつつ菫を見て拍手する。菫はちょっと照れくさそうに引き下がる。次は私よと言わんばかりに鶸がぐっと前に出る。
「越後屋の商業部門は隣接国家においては食い込みを完了しシェアを過半数に置くのも時間の問題と思われますわ。支店においても更に先のほうまで規模を広げていましてよ。一般商品と分けまして建築部門を設立し、都市間での資材の販売から建築、改築まで仕事を受けておりますわ。商業部門に比べてまだ規模は小さいですがまだまだ伸びしろがありますわよ。数値に関しては・・・」
「あ、細かい数値は後で良いや。というか商売が順調に進んでるならそれで構わない。」
鶸の話が長くなりそうなので僕はそこで話を断ち切る。なんかテンションが上がり始めていた鶸の表情がすっと陰る。
「グラハ村から王都までの領土結束は完了していますわ。この先も越後屋の出店の動きに合わせて道、旗の配置を進めています。またグラハ村より先、クァラルーン氏族の協力を得て森の奥深くの所まで領土を広げましたわ。連絡さえ取ればあちらの稀少な物も輸送することが可能ですのよ。それらの製品の複製に関しては一部不可能なものが存在してまして、材料を複製して必要に応じて生産という形になっていますわ。」
サレン達の一族と協力が出来たんだなと思いつつもシステムで複製できないものも出始めたんだとも思った。時間が出来たら傾向を見てみたいとも思う。鶸が丁寧にお辞儀をして体を引くと萌黄が飛び出してくる。
「はいはいっ。村は今日も元気ですっ。ダニーさんとこは無理矢理地下組織の吸収を行っているので身動きが取りづらくなっているそうです。可能なら一度ご主人様に収拾をつけて欲しいと言われています。鈴はお馬鹿なので考えすぎなんだと思いましたっ。終わりっ。」
萌黄は補助にしか回してないので話が少しかぶるところがあったが上から指示をしている菫に比べると、中に入り込んでいる萌黄は具体的で範囲が狭いとも言えた。取りあえずいつも通り一部の話しか役に立たないと思いながら次を促す。
「紺は特に指示がありませんでしたので各員の補助と周辺の偵察、諜報、工作が主でございました。現ルーベラント王国の政情不安から周囲国家からの干渉が危険視されたためそちらの牽制が主でした。最も攻められたところで概ね問題無いことが後日確認できましたが、今のところ対象国家へ工作が功を奏しており目下攻められることはない見込みです。内情に関しては今少し不安定な所が残っておりますが、グラハム殿とトーラス殿への指示は7割を越えております。一部の反対派と煽っている連中をどうにかすれば収束すると思われます。」
紺がさっと出てきて報告しさっと下がる。そして僕は桔梗を見る。
「本拠点に関しては王城南の山岳を頂き、そちらを改造して構築を完了しております。実際に見ていただいたほうが早いと思いますので詳細に関しては実地を見分してくださいませ。」
桔梗は控えめに報告して終了した。
「神谷さんはどうしてる?」
みんなには若干嫌な話になるかもしれないと思いつつ尋ねると一瞬空気が冷える。その後紺が手を上げてしゃべり始める。
「主殿には旧というと分かりづらいかもしれませぬが、旧神谷領は現在ブレセアール領になっております。資源、ミーバがいる様子は無く建物だけを委譲してその場を放棄したと思われます。」
紺の報告に僕は状況を少し悩む。一人で離れてどうするつもりかと思ったけど、チェイスがそう誘導したなら意味があると思える。
「一行はそのまま北へ移動したと考えられます。現在地は確定出来ておりませんが一つ国の向こう側にて独立都市のようなものが出来ていると聞いていますのでそれが現在地と考えられています。」
頑張って追いかけたようだ。紺に礼を言っておく。紺は顔を赤くして何かを我慢するようにもじもじしている。
「予定通り進めていてくれたようでご苦労様でした。僕から報告することはあまりないかな。ステータス面では物理面が大幅に強化されたので、精度はともかく兵装面はこっちの世界に合わせていくようになると思う。銃は対策が取られることが見えているので運用は少数で行い戦闘では前面に出さない方向で進める。砲撃を進める考えもあるのだけどこちらは一旦は研究のみで。現在の兵力は?」
「重装兵四万、軽装兵八万、斥候兵四万、重装騎兵二万、軽騎兵六万、伝令斥候騎兵三万、魔術師八万、戦術士二万、医療術士三万、銃兵三万、長弓兵四万。計四十七万が待機中です。実験部隊として人形遣い一万、砲兵二万が利用可能です。また王国兵が直轄騎士四千、賛同貴族軍騎士一万が指示次第動員可能です。なお反対派の貴族軍騎士は推定四千と民兵一万二千と試算されています。」
僕の問いに桔梗がつらつらと諳んじるが詳細に関しては覚えきれず全軍五十万ということまでは理解出来た。割と狂った数になっている。後々判明したことではあるがこのとき全軍ですべてをなぎ払いながらナーサル市まで制圧できていた模様。選定者を抜きにすれば無休憩で圧殺してくるこの数のミーバ軍には都市単位の兵はなすすべもなく、英雄も無視すれば国の一つや二つどうにでもなるレベルの戦力だった。ただこの時の僕は他の選定者事情はほとんど分かっておらず、ベゥガなら匹敵する兵力を用意できるだろうと言うことと当然他の選定者も前後あれど当然この程度の兵力は用意しただろうと慎重になっていた。
-この時の選定者の全動員兵数は二百七十万ほど。一部選定者が戦力を保有していないとはいえの実に五分の一近くを遊一郎が保有しており。戦力という数字のみで測るなら実に四割近い戦力を遊一郎が保有していた。なお世界戦力からみても2割弱という数値であり最大戦力のエルディアン帝国と単独で戦えるほどになっている。-
「なんだか王国兵がゴミみたいに見えるな。」
報告を聞いてぼそっと呟く。
「実際の所表看板であって戦力的には転がる丸太程度ですわね。こちらで製造した装備は与えているのでミーバ兵に一方的にやられるという程でも無いですが。先の戦いで根本的な平均練度の低下は否めませんわ。」
鶸がため息をついて注釈をつける。正直転がる丸太の戦力がどの程度か全く分からない。
「初手の方向を少し悩んでたけどそれだけ戦力があるなら一度神谷さんに押しかけてみるか?」
僕の言葉にみんなが期待感を出すがすぐに微妙な顔になる。
「実は神々のほうからあと四十日ほど選定者間の干渉を著しく緩和するという施策が出ているとのことです。点数的なやりとりや戦闘結果が得られないとかなんとかそういう話でした。」
菫が重々しく口を開き説明する。僕の保護のためかは知らないけど何か余計な措置が施されていて選定者への攻撃は難しいと判断する。
「それじゃあ仕方が無いな。周辺攻略も含めて王城に挨拶に行こうかな。各自準備よろしく。」
多分準備なんてほとんど無い。そもそも領土化が終わってるなら物の移送など一瞬なのだから。運べないのは生物である人的資源とか労働動物くらいといえる。だからそう言って動いたのは僕としての用事である。櫓の前に行きいつも通りゆっくり登る。その上は見慣れた光景。鈴がだらだらと転がっている。
「大丈夫か?って聞くほどかこっちは大分時間が経ってるけど。」
僕の声かけにビクッと反応してもその姿はだらけたままだ。
「しばらく露骨に邪魔してくることは無いと思うけど、僕だってどうにもならない相手なんだ。あまり気にすることはないよ?」
話し始めても時折体を硬直させるだけだ。
「前は置いていったけど今回は一緒に行くぞ。忙しくなるんだ、君にも作業してもらわないと困る。」
僕の声に鈴は力を抜いてだらける。
「きっとまたご迷惑をかけます。私が近くにいては危険が大きいと思います。」
鈴が細い声で反論を述べる。
「それこそ近くにいて見ておかないと。鈴への介入はアイツの意図の指標になる。どうせ近くだろうと遠かろうと何かの妨害は起こる。逆に遠いと静めるのが面倒なんだ。」
僕は軽くため息をついて話す。
「いっそのこと私を殺して貰えれば・・・」
鈴の言葉に僕は怒気を発して剣で斬りつける。何もしてないただの斬りなので当然意味もなく鈴に弾かれるだけだ。
「さすがにそれは怒るぞ?あとどっちにしろ鈴をどうにか出来ると思ってないし。後多分・・・本気でやっても殺せないようになっていると思う。それを表沙汰にするのもアレに抵抗する為の一つの手段だ。」
それでも鈴は渋っているのか来ない。
「どうせ僕の命令に対する拘束力は無いんだろうけど・・・ついてこいっ。」
僕の言葉に鈴はまた体を硬直させるが返事は無い。僕はちょっとだけいらっとして鈴に近づく。足音を聞いて鈴が少し反応しているが何もしない。
「問題が複雑なんだからおまえは黙ってついてくればいいんだよっ。」
僕は鈴を持ち上げ、そして櫓の外に放り投げた。
「あ、地味にひどい。」
鈴のぼやきのような声を、嬉しいのか悲しいのかなんとも言えない顔をして、落ちた鈴を追いかける為僕もそのまま飛び降りる。下では予想通りという感じで菫に受け止められた鈴がいる。表情の乏しい鈴をしてどうしてと言わんばかりの気持ち表情を固めた顔が少し印象的だった。
「二百七十日ぶりくらいの大地ですかね。いくら指示が出来ると言っても動かないのは感心できませんよ。」
菫はそのまま鈴を地面に立たせる。
「鈴、どう?気持ちの整理はできた?」
現場にいて守れなかったという思いは萌黄も同じだ。萌黄も立ち直るには少しかかったのだろう。桔梗は何も言わないが嫉妬深いというか妬ましい視線を鈴に送っている。桔梗も自分からすり寄っては行かない相当なかまってちゃんだと思う。僕が個別に気にかけているのがうらやましいのだろう。
「天上に対抗するにも鈴はとっかかりとして必要ですのよ。そろそろ働いて実験に協力してもらわないと困りますわ。」
鶸も中々無理筋な方向から鈴を連れ出そうとしている。そして鶸も思考の制限を解除されていることを知る。
「働け。」
見た目の姿に反して鈴はそこそこ働いているのだけど、紺の台詞が妙に辛辣であった。まだ鈴の持つ違和感に抵抗感があるようにも見える。いろいろ飛び回っていて仲間との交流は少ないと見える。皆の言葉を聞きぼーっとしてた鈴の顔がキリッと無表情に戻る。
「不承、鈴。ご迷惑をおかけするとは思いますがお世話になりますっ。」
キランっとか音がでそうな謎のポーズをとって鈴は改めてというように挨拶をした。皆が納得したところで僕は柏手のように手を叩いて雰囲気を切る。
「さて王城で現状の報告と動き出すための要請だ。その後本拠点を確認して研究関連を再稼働させよう。王国が戦いを始めるまでの時間で出来るところまで詰めるぞ。」
「はいっ。」
皆の声がそろいそして移動を始める。僕はファイを取り出し、菫は随伴するように走る。他の皆は蟹に乗り僕の周囲を囲むようにしてついてくる。王都まで三日ほど僕はみんなの功績自慢や他愛も無い雑談を聞きながら移動した。
王都に着いてから顔パスになっている鶸に追従して王城の中を早足で進む。謁見の間かと思えば大きめの部屋に通される。中ではグラハムとトーラス、そして知らないおっさんがすでに待機して待っている。
「おお、遊一郎殿。大丈夫でしたか。」
グラハムが僕の姿を見るなりソファーから立ち上がりながら声をかけてくる。
「申し訳ないけどそちらは四百日経っていてもこっちは一瞬だったんで、あまりそういう感情はないんですよね。まあ、体は大丈夫です。」
僕は気持ち申し訳なさそうに返答する。こちらからすれば十日も前に顔を見た相手にそこまでの反応をされても少し困る。
「我々もかなりの支援を頂きまして立て直しは急速に進みました。部下の方々共々ありがとうございます。」
随分しおらしくなったトーラスが頭を下げる。結局更迭もせずにそのポジションに収まったのか。グラハム本当に飾りだな。
「貴方が遊一郎殿ですか。私は最高軍指令を拝命しておりますユグラス=ボーウェンと申します。以後よろしくお願いします。」
僕に若干懐疑的な目を向けながら、それでも随分言い含められたであろうユグラスという男は頭を下げてくる。
「腕力と財力だけの若造ですからもっと軽く扱っていただいても良いですよ。最も喧嘩をふっかけてくるのはやめていただきたいですけど。」
色々と信用出来ないであろうことを察して少し下手に出る。だが彼が頭を上げると同時に手が動いた所で釘を刺しておく。
「その位置から抜き打ちされたところで抜く前に手を切り落とすどころか、抜き手を押さえる余裕もあります。グラハム卿の信用を無くしたくないのであればやめておいてください。」
僕はさらっと言ってユグラスを牽制する。
「これは敵いませんな。大変失礼を致しました。」
ユグラスは謝罪を口にして改めて頭を下げた。前にいたグラハムは気がつかなかったようで驚いて後ろを見ている。トーラスは気がついていて放置していたのか動揺もせず放置気味である。正面切って戦ってないけどトーラスも国では相当に強いのだろうなぁと目を向ける。
「強さや能力で決めるなら私が統括すればよいのでしょうが、正直そこまで手が回りませんので。また権力の集中を防ぐことによって王権の権威を妨げないようにと。」
トーラスはこちらの視線に気がついて軽く頭を下げる。手が回らないのは嘘だろう。元々王として長年決済し続けてきたのに出来ないわけもない。もう傀儡政権みたいなものじゃないかと口には出せなかった。グラハムが慌てるようにユグラスを説教しているがその姿は妙にコミカルに見える。友人を諫めるぐらいのノリにしか見えない。トーラスも軽いため息をついている。
「王もそのくらいにしていただいて話を進めましょう。」
トーラスが説教をやめさせてグラハムと共にソファーに座る。ユグラスは後ろで控えたままだ。僕もソファーに座る。皆は後ろに控える。
「カモフラージュという意味合いが強いのですが、もう少しこの国に強くなって頂きたいと。概ね準備も出来たようなのでそろそろ拡大路線に舵斬りをする方向で進めてもらいたいのですが。どうでしょう。」
僕は軽いノリでそう切り出す。ただそんな調子で戦争をしましょうと言われてもグラハムはさすがに困るようだ。
「さすがに国内の安定が先かと思いますが。まだ我々もすべての貴族を支配下におけたわけではないので・・・」
グラハムが言葉を濁すように答える。
「北東側の貴族が隣国のシュトーレス王国の支援を受けて少々頑固な抵抗していましてね。」
トーラスが補足する。
「貴族かシュトーレスのどちらかをこっちでぷちってもいいんだけど。」
僕の中の誰かの命も随分軽くなったものだと思いながら口に出す。その事に一瞬疑問に思ったがすぐにトーラスの声に遮られる。
「さすがに貴族を粛正してしまっては友好貴族にも反感を買いますのでご遠慮願いたいところですが。こちらもそちら方面に軍を動かすのは不安感がでますので直接攻撃するのはまだ難しい状況ですね。」
政治って面倒くさい。すでに戦争状態から始まるリアルタイムストラテジーのなんと気楽なことか。
「反感貴族の一角に例のカースブルツ家がいますのでご主人様の方からそちらを説得していただければと思いますわ。」
鶸がさっと提案する。
「え?あのおっさんも反抗してるんだ。というかスペクターワームどうなったの?」
僕は驚いて鶸を見上げる。
「ご主人様が拘束された後、ワームの被害は若干広がりましたが我々の手によって収束していますわ。ご令嬢に関してもサレン様を通して謁見に預かり治療済みです。反抗・・・に関しては目の敵というわけでもないのですが隣にいたグラハム氏が王になってしまったのがそれなりに気に入らないようで、半分意地みたいなものですわね。」
鶸の解説を聞いて安心する。ただ彼の気持ちには若干同情したいとも思ってしまった。
「じゃあ彼を窓口にして王家相手はともかくとして僕を通してでも恭順してもらうとするか。どこまでやっていいか話を詰めようか。」
むしろこの件に関しては僕待ちだったのではないかとつらつらと妥協ラインの話が出てくる。結局の所、家格の降格、減封などは本来避けられないところではあるけどシュトーレス王国への進軍を全面協力させることでその功績次第では維持や加増を考慮するという話になった。むしろなっていた。僕は想定していたプランを説明されていただけだ。恐らく僕が動くまでに片づかなければその方針で進めること自体が鶸と相談済みだったのだろう。
「なんか欺されたような感じはあるけど、進軍の準備のほうはよろしく。」
僕が立ち上がりトーラスが頭を下げる。
「すぐに正式な指示書と代行証を準備しますのでそちらをお持ちになってお願いいたします。」
トーラスが書類の準備を進めさせる。
「軍編成について希望があればお聞きしますが。」
ユグラスが口を開くが足が早めで、民兵は不要ということだけ指示した。それを最後にこの場は解散し、数分の後準備された証書を持って僕らは王城を後にした。和気藹々と小話をしながら王都を出て南の本拠点に向かって走る。移動先は森と山にしか見えないのだが近づくとようやく加工されたような建造物が見えてくる。それすらも何かの遺跡のように改造されて元々そこにあったかのように古めかしく存在している。
「こちらが基本の入口になります。」
桔梗がそう言って案内を始める。立派に仕上げているかと思えば気持ち大きな洞窟といったところである。門も門番もなく入口かと疑問に思うところは多々あった。薄暗い洞窟を少し進んだところで緩やかなカーブにさしかかったところ壁に手を当てると実にスムーズに岩が開き光があふれ出す。その先には都市といえるような町並みが並んでいた。
「こちらが資源生産、軍事の第一層になります。最も資源生産に関しては全層で行われていますが。」
ドーム状にくりぬいたような空間に施設と倉庫が並び巨大な空間がある。ミーバ達がなにやら忙しそうに仕事をしている。
「資源生産と拡張に兵種も使っていますので現在待機兵種はいません。必要とあれば三十分以内に八割の軍を招集することは可能です。二割の軍は偵察や護衛に使われているので早急な招集には対応できませんのでご了承ください。あと軍だけで資源生産の七割を担っていますので全軍を同時運用すると拠点内の生産は著しく低下します。現状はさほど困りませんが商会の規模が大きくなってくると生産ミーバのみでは厳しくなってくることが試算されています。」
桔梗が施設の前を歩きながら解説する。僕は案内されながらも半ば呆れるようにその空間を眺めていた。目立たないようになどと指示していたせいか他にやることが無かったのか作業を全振りしてアホみたいに巨大な拠点を造っている。
「こちらから降りていただいて第二層に移動します。」
桔梗の案内に従って螺旋階段を降りる。中央の空間の細い棒は何かと思えば時折棒を伝ってミーバが降りてくる。あー、素早く降りる為のものかぁ。広めの螺旋階段を僕らの脇を通って上っていくミーバもいればそのまま棒を上っていくミーバもいる。下りミーバを避け損ねてそのまま落ちていくのもご愛敬か。
「第二層は一般生産が主になります。武器や製品の生産を行っています。」
所かしこに並ぶ倉庫と加工所からはみ出た加工施設などが目立つ。
「加工所の外で加工できるんだ。」
僕はそれが目を引いて気になった。
「加工道具の収納などは出来ませんが隣接して加工場にすることで恩恵を受けることが出来ます。ただし生産速度が一割と少し低下しています。質に関しては影響がないので数で補う形です。」
「倉庫から量産する手はあるよね。」
桔梗の説明を聞いた後倉庫の複写を使わない理由を聞いてみる。
「めざとい者ですと全く同じ者が並んでいるのが不気味に見えるようで。果実などの生食品に関しては多少仕方ないのである程度のバリエーションで誤魔化していますが、工芸品に関しては可能な限り生産で造るような形にしています。こちらに大量のミーバが使われていますので軍の動員時にはそういった誤魔化しが難しくもなります。あと手作業に関しては稀に倉庫品よりも良い物が出来ますのでそちらを狙って量産している面もあります。」
そういうゲーム的な判定もあるんだと思いながら桔梗の説明を聞く。そしてまた螺旋階段を降りて下る。
「第三層は防衛、研究になります。各層でも防衛自体は出来ますが、この層は不審者に対し自動で迎撃、防御を行う機能があり構造も複雑になっています。」
突然現れた重厚な壁に驚いたが防御を前提としているためと納得する。ついでに基礎研究を選択して稼働する。B型達が楽しそうに動き始める。
「どうする。砲台の研究を進めるかだな。」
僕は鶸を見て聞く。
「そちらは以前言ったことと変わりませんわ。ただ追加で言うなら砲台本体よりも弾を変化させた方が良いかと思いますわよ。」
鶸が焼き直しとなる助言をするが少しだけ変化をくれる。
「物理弾と同様に魔法を発動、処理するようなものですわね。構想段階ですがいけそうな気はしています。物理に関しては爆発力の向上などですが・・・まあ核はやめましょう。さすがに。」
放射能の治療や除去も出来るかもしれないが色々面倒くさくなりそうなのでお互い頷いて封印する方向で決まった。意見としては面白かったので魔法を別の形で保管する技術について研究を進めることにする。護符のような使い捨てや、簡易的に発動できる道具はあれど本人の魔力を必要としない形で発動する物は少ない。条件発動を利用した物になるだろうがもっと別の機械的な条件で発動もできるかもしれない。ドローンの件も含めて魔力感知が難しいという点は魔法依存が高いこの世界では有用に思える。
「こちらが現在の最下層である第四層になります。」
桔梗の案内でたどり着いた場所は中級拠点がぽつんと置かれ、草や花が咲くのどかな空間だった。倉庫や畑が見られるものの上層からしてみれば違和感のある空間にも見えた。
「攻め込まれた際戦闘は上で済ますべきですし、拠点空間はいっそのこと癒やしの空間と割り切って無骨なものは排除しています。」
ちょっと意外そうに空間を見ている僕をちょっとした悪戯が成功したかのように微笑む桔梗が解説をする。
「確かにそうだね。落ち着くというのは間違い無い。」
僕は笑って桔梗の頭を撫でる。桔梗がうつむいてそれを享受している。ただそうすると他の子もにじり寄ってくる。
「もう桔梗だけずるいですわっ。」
珍しく鶸が開口一番にそういって抱きついてくる。あとはなだれるように鈴以外の面々が体当たりするようにやってきてそのまま倒れる。そして大笑いしながらしょうがないなと皆の頭を撫でてやる。これから行われる凄惨な戦いの前にあったのどかな時間だった。
起動開始といった所。
萌「誰が一番働いたか大賞ーーー。」
鶸「働いただけなら私でしょう。領土接続に国家の折衝。越後屋の管理もしてますのよ。」
菫「その成果がどれほど役に立ったかということもありますが。孤月組はすでに他領域に浸食していますよ。」
鶸「領域だけなら越後屋だって進んでますわっ。」
紺「紺とて未知の情報集めなら負けてはおりませぬ。」
萌「最初に撫でて貰えたのは桔梗だよね。」
桔「////」
鶸「色々納得いきませんわー。」
萌「雰囲気って大事だよね。あれ?働いたかどうか関係ない?」
菫「まあそれだと一番働いたから撫でられた訳ではないですからね。」
紺「大賞の意味も景品も失われておりまする。」
鈴「一番働いたら可愛がって貰えると思っていたのがそもそもの勘違いっ。」




