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それが裏切りであるかのように

 遊一郎管理の鍛錬所の扉が閉まった時すべての勝敗は決した。

 

「落ち着け。憤るのは仕方が無いが今は大人しくしてくれ。」

 

 ユウは萌黄を大剣で牽制しながら小声で声をかける。

 

「君らがご主人様を害しておいてどういうつもりだよぅ。」

 

 萌黄は半泣きで剣と銃を操り声を上げて訴える。

 

「うちのご主人様もなんかおかしい。でも本人には違いねぇ。恩を仇で返すようで悪いが命令には逆らえん。ただこれ以上あいつの傷も増やしたくねぇっ。」

 

 ユウは大剣を振り回し萌黄を防御ごと吹き飛ばす。防具のおかげもあるが萌黄にダメージは無い。だがそれ以上に防具へのダメージも少ない。萌黄は痛くも無い脇をさすりつつユウを見る。

 

「鈴ぅ。一体どうするつもりなんだよぉー。」

 

 萌黄は鈴に助けをあるいは真意を尋ねるつもりで叫んだ。

 

「別に。何もしませんよ。彼女らにはこのままお帰り頂くだけです。」

 

 鈴は疑問に持つことも無く滑らかに答えた。神谷桐枝が杖を軽く振ると巨人は光の粒と共に瞬間的に姿を消した。彼女は笑顔のまま萌黄を見る。萌黄も彼女を見据える。ユウはわざわざとその視線の間に入るように体を置いて剣を構える。『ハナレロ』と音を出さず唇を大きく動かし萌黄を見据えて警告を送る。萌黄もその行動に対してどうするか悩み足と剣をわずかに動かし相手を牽制するような動作をとり続ける。

 

「もーよくわかんないしぃ。鈴、後で許さないんだからねっ。」

 

 萌黄は周囲に爆発物を投げそのまま村の方に走り去る。

 

「許されるもなにもねぇ・・・まあ予定通りおいておきましょう。貴方方も帰って良いですよ。」

 

 その言葉に促されるように神谷桐枝はきびすを返し自らの領地へ歩き始める。トウもそれに付き従いつつ鈴を一瞥して睨む。

 

「てめぇはてめぇで何様だよっ。」

 

 ユウが大剣を振りかぶって鈴に叩きつける。鈴はそれを避けるそぶりも見せず二の腕で受け止めてみせた。

 

「私は遊一郎殿の配下のユニットの一体に過ぎませんよ。それ以上は理解する必要もないですし、理解も出来ないでしょう。」

 

 鈴は澄ました顔で大剣とユウを見比べる。ユウは柔らかい何かに打ち付けていながら全く切れないとい感触に戸惑いながら鈴を睨む。

 

「ほら早く行かないとご主人様に置いて行かれますよ。」

 

 鈴は何も気にすること無く手を振ってユウを追いやるように指示をする。ユウは狂犬のように牙を立てて鈴を睨み続けるが離れていく主人を一瞥して鈴を警戒しながらそちらに走る。

 

「お前が元凶か。」

 

「さてはて何の事やら。」

 

 ユウの言葉に鈴はとぼけるようにして答える。ユウは嫌悪感を隠すこと無く舌打ちをして神谷桐枝の元へと走っていく。

 

「なかなかいじめがいのありそうなヤツだな。それはそうとして。」

 

 鈴はぶつぶつと呟きながら虚空を見つめつづける。数十秒それを続けた後その場に崩れ落ちる。二十分後周囲の安全確認と状況確認の為、萌黄と紺が走ってくる。

 

「鈴が倒れておりますな。」

 

 紺が先に見つけて鈴に警戒しながら近く。萌黄も剣を構えながら恐る恐ると近づく。

 

「なんか大丈夫っぽい。」

 

 どれだけ近づいても危機感知にはかからず萌黄も余裕をもって近寄る。

 

「村の様子も気になりますが、一度リブリオスに集まりましょうかね。ご主人様の事と今後をどうにかすべきでしょう。」

 

「うーん。一度鶸にメッセージを送ってもらえる?それでどうにかしてくれると思う。話し合いをするだけなら桔梗がなんとか出来るとはずだから。」

 

 紺は萌黄の提案に頷いて鶸にメッセージを送る。鶸から罵詈雑言のようなメッセージが流れてきて紺が眉をひそめる。紺はしばらく眉をひそめていた後、ふと思い出したかのように動き鈴をゆすって起こそうと試みる。鈴からはうめき声のような音が漏れ、小さくはあるがかすかに何かをしゃべっているように聞こえる。

 

「それは皆に説明するがよいでしょう。」

 

 紺は鈴にそう言って再び鶸にメッセージを送る。五分ほど何も無い時間がすぎ萌黄、鈴、紺に魔力の繋がりが施される。『談話室』の魔法により菫、桔梗、鶸を含めて六名にメッセージリンクが作られる。

 

『紺、改めて説明なさい。』

 

 鶸の苛立つような威圧的な指示が出される。紺は特にそれに対して文句を言うこと無く。軽く自己紹介をした後、村での行動と神谷桐枝の来訪、巨人の襲撃について語った。その後萌黄の整理されない続きの話と補足に皆が若干の苦労をかけて時系列を整理し状況を確認し終えた。

 

『あの娘、ご主人様の恩も知らずに寝返ったということ?』

 

 菫と鶸が合わせて疑問に思っての発言。

 

『そのような恩知らずの性格では無かったように感じましたが。むしろ何かにそそのかされたか。』

 

 桔梗の発言は萌黄がユウから聞いた話をくんでのことである。萌黄もどちらかというと様子がおかしいと感じていたと同調する。

 

『で鈴。貴方はどうなんですの?』

 

 鶸は元凶を抱えていると思われる鈴に尋ねる。

 

『詳しくは私もわかりません。時折強い力が流れ込むと私では制御が出来なくなるのと何かしら悪いことが起こっていたとしか。ただ鶸のそのような変化は理解が進んでいる証だと思われます。』

 

 鈴は淡々と身に起こることを説明した。桔梗は首をかしげるように疑問符を投げかけるが、鶸ははっと気がついたように思案を巡らせ始める。

 

『私が何かおかしいと思えた事が一つの鍵になるようです。』

 

 思考の迷路から出られず悩んでいる桔梗に鈴が声を向ける。桔梗はそれでも考えの整理が付かなかったが今はそうなれないとだけ理解して考えるのをやめた。

 

『あの妙に不安にさせる雰囲気というか、忍び寄る悪意というか表現しがたい悪寒ですね。』

 

 菫はそう言って自分の感じた鈴を評する。紺の意見も変わらず胡散臭いという評価が加わる。

 

『まあ今まとまらない物は仕方ありませんわ。ご主人様もいずれ分かる、分かって欲しいと言った感じでしたし。』

 

 鶸は鈴を糾弾すること無く内包する何かを今はどうにも出来ない物として考慮しつつも棚上げすると宣言する。

 

『それよりもご主人様が戻るまでどれだけかかるか分かりませんが、我々だけで可能な限り発展できるだけしておくべきですわ。鈴の不安定感もありますし、鈴には権限の委譲を求めますわ。』

 

 鈴が何かしらのタイミングで自軍に害をなす以上権限をそのままにはしておけない。また鈴は怠惰なところもあるが頻繁にスタミナ切れを起こすことも鶸の中で問題視するところであった。鈴としても管理者権限を委譲することに不満は全くなかったのだが。

 

『委譲できませんね。権限は有していても委譲先が無いという扱いになるというか。おかしな感覚です。』

 

 鈴は自分に起こっていることをうまく説明できずに語る。

 

『加えて権限を持っている事を認識しているのにその権限を行使できないようにも感じます。』

 

 その鈴の発言で懸案を承認してもらうという鶸の代案も口にすること無く出来なくなっていることが判明する。

 

『つまりいつ帰ってくるか分からないご主人様が戻ってくるまでは発展関連作業は出来ないと言うことですわね。なるほど遺言のような指示にはこういう意味がありましたか・・・』

 

 鶸がぶつぶつと呆れるようにつぶやく。

 

『当面はご主人様が戻ってくるまで指示通りに過ごすしか無いと言うことですわね。ふふふ・・・いいでしょう、面白いですわ。』

 

 鶸が何かに気がついてか狂気を孕むように笑う。

 

『では皆様神谷嬢の動きにも注意しながら各自ご主人様の指示を追行しましょう。』

 

 桔梗が少し苦しそうに話をまとめる。談話室の負荷が重くなってきている。

 

『また確認事項があれば連絡を取りましょう。萌黄と紺は私の支援をよろしくお願いします。』

 

 菫がそう言って有無を言わせずに会話から抜け出す。

 

『鈴はグラハ村の維持と保護をお願いするわ。必要な物があれば随時連絡を入れますわ。』

 

 鶸がそう言い残し会話から抜け出す。鈴も了承の意を示して会話から抜け出す。それに続いて萌黄と紺も承諾して抜け出す。それと同時に談話室が条件不成立となり消失する。

 

「桔梗、大丈夫ですの?」

 

 王城で桔梗と合流していた鶸が苦しそうにしている彼女の身を案じて尋ねる。

 

「大丈夫です。私はまた・・・・」

 

 談話室維持の負荷もあるが主の危機にまた居合わせなかった事が桔梗を苦しめる。

 

「大丈夫なら動きなさいな。何がご主人様の邪魔をしているか知りませんが、かなり厄介なもののようですよ。止まっている暇などありませんわ。」

 

 鶸は桔梗を叱咤しきびすを返して歩き出す。

 

「どこの誰かは知りませんが必ず引きずり出して差し上げましてよ・・・」

 

 鶸が城の騎士に挨拶してから部屋を出る。桔梗も大きく息を吐いて立ち上がり同じように部屋を出る。主の指示を追行するために各自が動き始める。

 

 

 一方神谷桐枝は空を飛び、森を越え自らの拠点地へとトウとユウを連れて戻る。拠点に入りうっすらと笑いを浮かべながら杖を磨く姿にトウとユウも不安を覚える。主が急変したのは一週間前ほどか。狩りから戻り教会から出てきた時から天恵を得たと小躍りするように浮かれて出てきた時。信仰心が篤い方だと考えていた二人はその時は気にも止めなかったが主の様子と動きは大きく変わった。時折見せる影が無くなったのは良かったと思えたものの常に変わらない奇妙とも思える笑いを崩さない姿は急変を察知するにあまりある行動だった。日課は変わらないが雰囲気だけが大きく変わった。トウは不安になって問いかけるも彼女は問題無いと姿勢を崩さない。そして反省を促すため天意を成すと遊一郎を封印すると言い出した時はトウもユウも全力で止めた。明らかに主の力、自分たちの力で彼をどうにか出来るとは思えなかった。そして逆らえば彼はたとえ友軍でも容赦はしないであろうことも想像に難くなかった。それでも彼女はそれが神の意志といい彼を罰すると引き下がらなかった。そして彼女は強い言葉でトウとユウに指示し強制的に命令を実行させた。自信が無く相談を欠かさなかった今までの彼女には無い行動だった。彼らは命令を不服に思ってもそれに逆らう力を持たなかった。そして彼女の意思は遊一郎の奇妙な配下と共に実行された。歪な存在だと思った。自分たちと同じ存在でありながら主の意思に逆らい害をなす。なぜそうなのかすら理解出来なかった。彼の配下は封印作業を難なくやってのけ彼女の意思は実行された。それでも彼女は狂ったまま拠点で作業を続ける。トウとユウのこの行動が終われば元に戻ると思った小さな希望ははかなく潰えた。それでも彼女の指示は今までと変わること無くそこだけは安心できた。ただ崩れない笑みだけがトウとユウの不満だった。一ヶ月後、神谷桐枝は配下のミーバ七百体を集結させ拠点の放棄を宣言した。北に移動し新たに遊一郎の言う効率の良い都市に作り直すと。遊一郎と共謀して拠点の放棄は予定事項であったとはいえ彼を裏切った段階でその話は無いと思っていたトウとユウにはやはり不可思議な行動のように思えた。ただこのままここに拠点を構え続けても遊一郎に反撃を受けると思えば、主を守る為にも拠点の移動は必然と言えた。ただそう言われれば納得するものの主に問いただしてもそれが約束だからと言う答えしか返ってこない。やはり主の意思がおかしくなっているとしか思えなかった。しかし理由を聞いても最終的には強権を発動し拠点を放棄し移動が始まった。北へ、北へと移動する。凶暴な動物、魔物に絡まれても脱落者も出さず問題無く行軍は続いた。神谷桐枝は馬車に揺られながらただただ移動を続けた。一ヶ月そうやって移動しそこが目的地であったかのように荒野の真ん中で立ち止まり神谷桐枝はそこに拠点を立てることを決めた。外敵から見つかりやすくそれほど守りやすいとも思えない地形。木材の補給に難がありそうだとトウはにらみ主に進言するが願いは聞き遂げられずそのまま設営は進められた。施設を建て、地下を掘り、そして植林を行う。植林は広大に行われ確かに補充は問題無いように思えた。何か意味があると信じてトウはそれ以上の進言を諦め、主の命に付き従い粛々と実行した。いつしかそれに慣らされていた。しかしユウは疑問を持ち続けていたようだった。それを主に打ち上げることはなかったが様子を見続け何かを探っているようにトウは感じていた。拠点作りは順調に進み巨大に大規模に発展していった。元々ほとんどが生産管理に回されていたミーバも大きく様変わりし兵種を与えられ大きな軍を持つようになった。元々彼女が否定気味だった大きな力を蓄えるようになっていった。何かを待つかのようにただただ陣容を整え拠点を巨大化していく。一年経つ頃にはトウは意見をしなくなりただ神谷桐枝に追従する従順な騎士となった。そんな中ユウはただじっと主の様子を見続け何かを探るように主の後ろを追いかけ、稀にある指示を忠実にこなしていった。そしてその一ヶ月後、広大になった拠点地の端に獣人とおぼしき姿が散見するようになる。トウとユウは警戒を強め様子を見守り主の指示を待つ。神谷桐枝はある程度報告を聞いた後、突如その獣人を捉えるように指示した。獣人は少ない抵抗をしたが努力もむなしくあっさりと捉えられた。彼女は捉えた獣人から目的と居場所を聞き出すように指示し、ミーバは粛々とそれを実行した。たまたま見かけられた都市にどのような物かと調べていたと白状させられた。従順に従っていたトウですらも目を覚ますような拷問の結果であった。改めて主が狂っているとトウは思い直し問いただし諫言も行うが主に聞き遂げられることは無かった。彼女は壱万の軍を持って獣人の国を侵略し始めた。彼女とユウ、トウは行軍することは無かったが彼らの言葉は彼女に届かないまま侵略が始まる。あの時から狂った歯車はまだ狂ったまま回り続ける。

 

「アイツが出てくれば・・・主を救ってくれ・・・」

 

 ユウの小さな言葉が神谷桐枝の拠点地の片隅でか細く消えた。勝手なことと思いつつも今は相対したあの強大な力と知識に望みを託すしかないと感じていた。

 

 

 鍛錬所の扉が閉まり次に開くときは何日後かと夢想し、最初に聞くのは何日後かってところかと遊一郎が考えていたその瞬間にチェイス神に出会った白い空間とは別の真っ暗な空間にいると認識した。周囲には何も無くただ浮いているような感覚。手足があると分かるが動かせず、何かを見ているようで黒しか見えず。感覚が狂うような空間であった。

 

「さてチェイス神の選定者である紺野遊一郎だね。」

 

 姿も見えず声だけ響く。答えて良い物かどうか一瞬悩んだがその考えを無視するように話は続く。

 

「確認はしたが認証など必要ない。私は私で君を判断、認識している。盤面のルールの都合上声だけであることは勘弁してほしい。そしてこの声もルールの例外であることも理解して欲しい。」

 

 録音のようなものかと思ったのだが、こちらの思考を読んでいるのだと遊一郎は判断する。思いついただけ読まれるので騙し合い等は明らかに無駄であるとも認識する。

 

「多少進行に不都合な部分が生じたのでこれは管理側からの詫びとも言える。ただ私個人としてはこの詫びすらも不要ではあると思うくらいには君を買っているとは言っておこう。」

 

 どこの神かはわからないが何かの思惑によって遊一郎に接触してきた事を理解した。

 

「詳細を語ることは出来ないが盤面上の動きを管理する者、君的には不正を監視する者と思ってくれても構わない。それ以外にも著しく進行に不具合が合った場合にも干渉できる権限を持っているのだが、長い盤面の中でも数少ない事例であるとは言っておく。」

 

 今回はその例外なのかと遊一郎は認識する。

 

「例外中の例外。まさか自軍が有利なのにそのはしごを外すとは誰も思うまい。しかもあまりに優位な条件を追加で付与されては手加減されていると言っても過言では無い。それはかの鬼の自尊心を傷つけるには十分な理由であったと思われる。そしてそれすらもチェイスの手のひらであるかのように私は思う。」

 

 あの神ならやりかねないと思う中、声からも無言の同意が感じられる。

 

「与えられすぎるのは気に入らない。そして君にはこの先の問題を解決するべく知識を与えようと会合では決定された。君にはこの盤面におけるあらゆる知識を前提無しで得る機会を与えられた。」

 

 遊一郎は余計な事だと思いつつもこれは一つのチャンスであるとも思った。神とは何か。自分が神を傷つける手段はあるか。そうした疑問がまず浮かぶ。

 

「神とは何か。我々を神と称しているのは我々より低次元の存在であり、我々が神と呼称しているわけでは無い。君の知る言葉にある『高度な技術は魔法と区別が付かない』。それと同様に君たちと認識段階を一つも二つも超越している我々としては君たちが理解出来ない力を行使出来るという意味では神と呼べる存在であると言えるだろう。我々が神を名乗っているのではなく君たちが理解出来ない存在を神、悪魔と呼称しているに過ぎない。君の認識に落とし込むなら君が行っているゲームの中の住民は君を神と認識するだろう。」

 

 遊一郎はその言葉を自分の中に落とし込む。

 

「神を傷つけるというだけなら今いる世界でいう三十億相当の力を一度に加えれば傷を与えることは出来るだろう。君の目的である殺すあるいは一生に残る傷をつけようというのならその千倍でも足りないということは追加しておこう。」

 

 かの神が余裕であるのも分かる。下の者がいくら憤った所で自らを傷つける手段は皆無どころか事実上不可能であると分かっているからである。

 

「我々からして長い盤面の歴史からみても神に復讐を望む者は少なからず存在したがそのどれもが不発、むしろ余興に終わり本人以外の満足もしくは後悔しか得られない。君には無駄な努力を諦めてこの盤面においていかに生き残るかということの邁進してほしいと願う。」

 

 助言を与える神は遊一郎を諭すように語り、それでも遊一郎はチェイス神への想いを小さくすることは出来なかった。

 

「我々をどうにかしたいというのなら肉体的に死を与えるというのは諦めることだ。むしろ考え精神性については君たちよりも高いとはいえ肉体ほど差は無い。この盤面上でかの神の予想を覆すようなことが出来ればそれだけも君の勝ちと言えるだろう。」

 

 無理なことは諦めて基準を下げ鼻を明かすことで満足しろと神は言う。遊一郎はそれで妥協するかと考える。妥協は最低ラインと考えまずはこの世界と神の世界を知るべきだと考える。

 

「この世界はとある神が作り出し、そこに盤面を運営するための機構を後付けしたものである。無い力を再現するための機構を我々の力で外側から支援していると言える。故にシステムの力はこの世界において無制限に力を奮えると言える。我々の世界はその世界を維持するのに君がマラソンする程度の力で再現出来る程度には上位であると思ってくれて良い。君には認識できない力を行使出来る時点で君たちとは一線をかす世界だと思って良い。君が我々を攻撃するというのが君が漫画に殺されるということを再現するに等しいと考えるが良い。」

 

 遊一郎は神が圧倒的な力を持つと知り確かにチェイスを害する行為は無謀と言えるしかないことを認識する。

 

「鼻を明かしたいというのならいくらか協力することもやぶさかでは無い、私としてもこれ以上チェイスを無節操に動くのは良しとしない。アレが隙を見せるなら害したいと言う者はいくらでもいるとは助言しておこう。」

 

 やはり神を害するのは神のみということかと感じる。チェイス神も最初に願いの一つとしてそう言っていた。

 

「盤面を利用するのは神々であるがそれは余興であって争いではない。恨みを積み重ねど遊びに怒りをあらわにするなど興ざめであろう。だがチェイスは不正を重ね怒りを買っても、その不正すらも余興にし自らを守ることに長けている。今回の強い干渉もそれで切り抜けている。」

 

 神は思考に答えることに意味が無いとなると背景を語り始める。遊一郎はそれを聞き何かの意味を知ろうとする。

 

「チェイスを支持する者は世界に飽いたものであり、世界を支えたい者はアレに反発する。盤面においてアレを支持するものは一つのみ。」

 

 それを知ることは恐らく出来ないと予想し、目下の干渉起点である鈴について考える。

 

「君の配下である強固なユニットである。」

 

 しかし返ってきた言葉は思うに過小というか認識の齟齬を思わせた。

 

「強固であるが力強くなく、華を産まず、総じて評価は低い。」

 

 鈴の本領は無敵の体では無く自在に世界と繋がれる神託であると遊一郎は考えている。

 

「そのような力は我々は認知していない。だが君が知るということは我々から隠されているとも取れる。神託か言い得て妙である。この世界においては小さくない負荷であるが上位の世界とも繋がりを持てる。確かに異質である。これはチェイスが干渉したといえる揺るぎない不正であるとも取れる。」

 

 知らないと言いながらも遊一郎が察知できない速度でその力を探り当てた。

 

「かの者を提出するならチェイスを糾弾することもできよう。弱いかもしれぬが一矢報いることは出来よう。」

 

 遊一郎としては鈴も庇護すべき存在であり失うのは避けたい。それは最後の手段としたいと考える。

 

「ならば私もそのように考えておこう。その力はチェイスと繋がるばかりでなく名を認識すればあらゆる世界に繋がれる力である。さらに上位であれば力に耐えきれぬであろうが我々の上の世界までは恐らく繋がれると考えられる。それほどに練られた力である。うまく使えばチェイスの鼻を明かすに十分な力となろう。」

 

 神はそう喜色をあらわにして遊一郎に説明する。遊一郎は悩みそして一つの道筋を考える。

 

「神を討てるのは神のみ。他の神と共謀するのも良かろう。ただ企みは長く数を重ねればチェイスは必ず気づく。実現しようと思うなら少なく短く結果を得られるようにせよ。君が思う以上にチェイスは強い神であると。」

 

 遊一郎は助言をかみしめるように思案する。

 

「次に告げるときは君が解放される時となる。良き案の対価として我が名を知らせよう。かの者の力あれば我と繋がる事も出来よう。ただその行為もチェイスの目を引くには十分であると戒めておく。我が名はザガン。過程を騙し結果を得る小賢しき一柱である。」

 

 神はそう名前を告げ暗闇に消える。遊一郎には暗闇が消え光が訪れる。力がみなぎり鍛錬所の効果が発揮されたことを感じる。一体いかほどの時間が経ったのか。ただ無駄な時間にになるかと思ったが知り得ぬ知識を得られたことはこの先きっと意味が出てくると信じるに値した。

もう少し他の話を挟みます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一つの転換点になるのかな。 ここまでで、起承転結の『起』であり、『転』であると感じました。 ワクワクしながら続きを読まして頂きます!
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