僕、過去を想う。
開山剣。鉱夫ロックヴォルトにより生み出された恐るべき剣技である。元の僕が過去にプレイしたゲームの一つであるアクションRPG『封剣物語』で登場した斬岩剣の使い手である。趣味の盗掘でうっかり魔界への道の封印を解いてしまった主人公が扉を再封印するために儀式に必要な二十本の剣を制限時間内に集め る物語である。名のある剣士に渡っていたり、売りものにされてたり、埋められてたり様々な場所に散らばった封印の儀式の剣を会話で、金で、恩で、決闘で、発掘でと一つの剣でもいろいろな方法で得る手段があり、見つける順番も無く、時間がたてば位置が変わる剣もありフリーシナリオというか継ぎ接ぎシナリオ的なゲームである。なお制限時間内に集められなくても早めに魔王を倒せればグッドエンドという割と自由すぎる一面も持つ。最も初見でゲーム外の情報無し挑むとほぼほぼ魔王軍とはぶつかることになるのだが。そんな中で比較的獲得難易度の高いのがこの斬岩剣である。情報として出てくるのだが戦いに敗れた剣士が奪われてからの情報が全くないのだ。人からの情報だけを当てにすると基本的には見つからない。この斬岩剣の保持者である鉱夫ロックヴォルト、通称岩爺は表向き剣士としては活動していない。ただの労働者なのである。ゲームを進めていくとふと山道が無くなって街道になっているなぁと思ったら彼の仕業である。彼は木を切り、岩を砕き、山のあらゆる資源を根こそぎ取り尽くしたら山を平らにしてしまうのである。なかなかひどい爺さんだと当時は思っていた。そんな岩爺は実際に出会ってみても豪快で細かい事を気にせず発見の喜びの為にいつも山を切り崩しているのだ。そんな岩爺に決闘を挑むと面倒くさそうながらも応じてくれる。この剣が斬岩剣であることは知られていないが山奥で修行している凄腕の剣士がいる。そんな噂聞きつけてやってくる者が少なからず居るらしい。つまり岩爺はそれなりにこの行為には慣れているのだ。ゲーム的にも噂話は聞けるが山が無かったり山に行っても居なかったり、もしくは会っても分からないのだ。岩爺に剣士のことを聞いても聞いたことがないとしか言わないからだ。そしてこの岩爺、カンストでも牽制攻撃でも四撃、技なら二撃、必殺なら堅守装備でも一撃という恐ろしい攻撃力。軽い攻撃ならはじかれ、技でも1ドット、必殺でも十ドットというふざけた防御力、まともにに必殺がフルヒットしても百回は耐える耐久力を備えており真っ向勝負で戦うと勝利するのが難しい。読みやすい軌道、移動速度の遅さという弱点をついて相手が倒れるまで冷静に回避しダメージを与え続けられるかが勝負の持久戦になるのである。カンストでも1時間近い戦いになること請け合いのめんどくささである。もうお前が魔王倒しちゃえよとよく揶揄される。実際、魔王はもっと楽に倒せる。大体斬岩剣を手に入れる手段としては一緒に仕事したり懐柔する好感度説得方向と、剣士としての悩みを聞いて入門して継承するという二方向に大別される。この入門編に進むと開山剣がなんたるかを聞けるのである。そもそも岩爺が斬岩剣を持った時には開山剣などという流派は存在せず、彼は良い道具が手に入ったと山を開拓する作業に邁進していたのだ。ただ時折くる剣士を追い返している内に恨みを買うようになったという。剣士同士の戦いなら恨みもクソも無いとおもうのだが、岩爺は剣士とは名乗らず腕力と頑丈さだけで追い払っていただけなのだ。そういうことがあってか剣士が決闘で剣士でもない剣を振り回す一般人に負けるという風評がついて岩爺に負けた剣士は這い上がるのが非常に困難な状況になってしまったらしい。自業自得にもほどがあるのだが。あるとき負けた剣士が恨み言を言いながらボロボロの体で再度挑んできたとき岩爺は自分のしたことを結構後悔した。そうした後悔があって岩爺は山での日々の作業に技名を与え、剣士と戦うためのマニュアルを作りそれを開山剣と命名した。この時から岩爺は剣士になったのだ。最も本人は剣士のつもりはないらしいが。もっともらしい流派がつき稀に来る剣士がつまらぬ風評を受けることはかなり減ったらしい。ただ負けた剣士がわざわざ開山剣を言いふらすこともなく酒場の小さなネタとして山に凄腕の剣士がいるとだけ語られることになった。
「わしは山という宝箱を開けるのが好きなだけなんじゃ。どうしてわしが叩かれなければならんのか。」
「まあ強い剣を手にする、強者に勝利した名誉ってのは剣士の憧れだしな。」
「山の資源の恩恵は受けるくせに、山を壊すななどと・・・ブツブツ。」
(更地にすんのはやり過ぎだと思うけどな・・・)
ゲームのとあるエピソードの一つである。こう愚痴を聞きながらも仲を深め開山剣という名の山開発技術を学び免許皆伝として正式に斬岩剣を受け取るのである。この免許皆伝も結構時間がかかる作業なのでもたもたしてると時間切れになったりもする。最も犯罪を犯さずに二十本すべての剣を集めるのは最速スケジュールで行っても割とギリギリなので開発側としては魔王は倒して欲しいんだろうなと思っている。なおエンディング中の選択肢次第では生存した元持ち主に剣を返すイベントも発生したりする。話的にもネタ的にも愛された岩爺に剣を返す人は結構多かったと後のアンケートで語られている。そんな岩爺は平和を愛したわけでは無いが争いを好まず、ただただ山を崩す陽気なじいさんだったのだ。
そして空想の産物であったはずの斬岩剣がこの世界に存在したとなると僕が小さな頃にじいちゃんが話していた小話が現実味を帯びてくる。
『じいちゃんの友達にな、すごい鉱夫がいたんだ。何がすごいって一人で富士山みたいな山を三ヶ月で平らにしちゃうんだぞ。』
『うっそだー。そんなことしてたら日本から山が無くなっちゃってるよ。』
『まあ半分くらいは冗談だな。でもちょっとした山なら簡単に平らにしちゃうんだぞ。まぁ遠い国の人さ。』
『なんで平らにしちゃうの?』
『山にはいろんな資源が埋まっててな。鉄とか銅とか。宝石もあったり。そういうのを掘るのが仕事なんだ。それで掘り尽くしたところには新しく生えてくるわけじゃ無いから目印に平らにしちゃうんだと。』
『平らにするほうが大変そうなのになー。』
『遊は砂場の山の中に小さいお金がいっぱい埋まってたらどうして探す?』
『スコップで掘る。』
『そうだな。それも一つの方法だ。でもスコップの中にあるのを更にほじくって探すのは大変だろ。』
『そうだね。でもふるって綺麗にしたら見つかるよね。』
『そうだ。ふるいにかけるとすぐに見つかるな。でもそうしたら砂山はどうなる。』
『山はくずれちゃうね。』
『そうだ。だから彼が山を開発すると山がなくなっちゃうんだ。』
『そっかー。でも大きな山をふるいにかけるふるいはもっと大きくて大変そうだね。』
『はっはっは。そうだな。こっちでやろうと思ったら随分大変だな。だから誰もやってないんだな。』
そうじいちゃんのちょっとした与太話。
『木を切り、岩を砕き、山を割る。いやいや、あの時は何も考えてなかったが・・・よくよく考えたらやらかしたもんだな。』
じいちゃんはそう言って遠い目で笑っていたのだ。思い返せば信じるに値しない小話。昔話や絵本のような話。じいちゃんの話。父さんのゲーム。そして目の前の斬岩剣。じいちゃんがここに来たことがあるなら、それが与太話で無く事実になる。ゲームの内容がすべてここの事実では無いと理解出来るが、少しずつ混ぜ込むことで規定に反しない程度に記憶の中に刻み込む。いつか誰かが召喚されたときのために。その目的が何かは分からないけど今それが役に立ち、そして目の前に志を継いでいない継承者がいる。今この瞬間はそれこそが腹立たしい。
「貴様が二代目?初代を知っているだと?五百年も前の話を今のように語るなど到底信じられんっ。」
アリアは怒りに身を任せて突っ込んでくる。速いが僕のステで対応できない程では無い。
「まあ、ほとんどは伝聞だからしかたがないよね。一の剣・・・」
僕は大上段に構えた剣を力任せに振り下ろす。開山剣は全般的に予備動作が大きい。軌道が読みやすいだけで決して回避とか防御がしやすいわけでは無い。
-薪割り -
アリアの踏み込みに合わせてまっすぐに斬る。アリアは当然のように反応して剣で受ける。甲高い音が響く。岩爺相手にこんなことをしようものなら受けた物ごと斬られてしまうのだが、さすがにそこまでは再現できない。斬岩剣の特性も必要になるからだ。ただアリアも受け止めて弾くつもりだったのか予想以上の衝撃で足が止まってしまう。
「馬鹿力め・・・」
「そりゃそうだ。そういう技だからね。二の剣・・・」
岩爺なら攻撃を受けてでも次の攻撃にはいるのだが、さすがにそんなことは出来ないので小話をしている内に『重圧』の魔法で簡単な足止めを行い剣を肩に担ぎ水平に振る。
-大木断ち-
衝撃と魔法で動きを止めているアリアに野球打ちのように剣を振る。性懲りも無く彼女は剣で受け止めようとする。甲高い音と共にアリアは大きく吹き飛ばされる。踏ん張れなかったのか逃げたのか思ったより手に受ける衝撃は軽かった。
「ファーストライナーでアウト・・・かな?」
僕はつぶやきながらのそのそ歩きながらアリアに近づく。馬鹿正直に受け止めすぎて手がしびれたのか彼女の手の動きは鈍い。アリアは頼りなく震える腕で剣を振る。
-水鳥・乱-
一振りされた剣閃から水の刃と迂回するように水の弾が四つ放たれる。
「普段ならそこまで手間取らないけど、どうしようかなっと。五の剣。」
-雪崩絶ち-
アリアも使用した技である。ただ魔法で瓦礫の壁を生み出すのは即興では難しいのでただの土壁を剣閃上に伸ばす。土壁で刃と三つの弾を弾く。上空を湾曲して飛んでくる水弾を剣を振って打ち落とす。
-枝打ち-
実際には斬岩剣の伸長機能を使って高い木の枝を切ったり果実を落とす技である。陽光石の剣にそんな機能は持たせていないので先端から石を伸ばして水弾を散らす。そうやって大きく剣を振った所で壁をひとっ飛びしてアリアが上段に構えて斬り込んでくる。そのまま受け止めて打ち返そうかと思ったが同門ということもあって横に飛び退く。斬り込まれると同時に背後から生えてくる石柱を見てちょっとにやける。
「よく飛び退きましたね。」
「双牙は伝わってるんだ。岩爺でもないのにそうそう攻撃うけてたまりますかい。」
双牙は剣閃の逆方向から石柱を生じさせる技である。穴を掘ったときの支柱に使われたりする。アリアが石柱に足をかけてこちらに飛び込んでこようと力を入れた所で横やりを入れる。
「四の剣っ」
手首を捻り剣を水平に肘を後ろに下げ一気に突く。
-岩穿ち-
剣の周りを鋭い石片が舞い散り旋回しながらアリアを襲う。アリアは石柱から上方に飛び上がって石片を回避する。足場にした石柱は石片に削り飲み込まれて消える。すかさず飛び上がった所を『枝打ち』で追い打ちをかける。が再現性が悪すぎて剣で防がれて終わってしまう。威力に欠けすぎるな。斬岩剣ありきなのだと身にしみて思う。
「七の剣は・・・難しいからあと二つかな。」
追撃もなくそのまま警戒だけして落ちてくるアリアにのそのそと近づく。ちなみに七の剣崩落は斬岩剣の剣閃上にある鉱物や土をバラバラにして砂のようにする技である。自分で作った物を消したり不要な土を崩したりするのに使う。
「馬鹿にするなよっ。」
アリアが着地と同時にびっくりするような速度で飛びかかってくる。
「そのつもりはないけど、一週技を見せてからが本番だからね。」
僕は通常の剣技でアリアの剣を受け流し彼女を地面に落とす。振り返り様に彼女は剣を振ってくるがそれを見切るように少し体を後ろに下げて回避する。
「思わず素で対応してしまった。五の剣」
-双牙・変-
岩爺はそんなことしないと反省しながら次の技を繰り出す。斬りつけて死角から石柱を出すのが通常なら、変式は石柱をぶつける所から始まる。体が開いた彼女の脇腹を石柱が押し出し足が浮いたところで斬りつける。衝撃で呼吸が不自由になったところ、そして剣を引き戻すのも困難な状態、足は浮き急な動きも難しい。ほぼ防御不能な状態への一撃。それでも彼女は魔力を集め防御を行う。
-睡蓮-
水の壁が僕を押しだし剣を鈍らせる。彼女の体に剣は弾かれ間合いを引き離される。アリアに外傷はないが衝撃で呼吸障害を起こした為か少し咳き込んでいる。
「粘ったねえ。まあ前座も終わらないうちに決まっちゃったらどうしようかと思ったけど。」
僕は軽口で挑発する。アリアは煽られて目を見開いて怒りをあらわにする。飛びかかってこない所はまだ冷静さが残ってるか。アリアは剣を青眼に構えてこちらの様子を伺っている。
「話が伝わってるなら初代の弱点は大体分かってるよねぇ。」
開山剣というよりは岩爺の弱点。剣士としてはすこぶる足運びが遅い。襲いかかってもプレイヤーが軽く走って逃げれば追いつかれない程度には遅い。故に元祖開山剣は基本的に反撃の剣なのである。それも岩爺の頑丈さを考慮した後の後の剣。肉で弾いて骨を断つ。そんな力業なのである。ただ動かないなら動くようにさせるだけである。なにせお互い逃げられない戦いなのだから。僕はゆっくりとにじり寄る。アリアが剣を持つ手に力が入る。
「まだ手があるんだよねっ。八の剣」
そう期待しながら僕は剣で地面を切り上げる。
-川砕き-
剣閃に沿って幅二m深さ一m強の溝がアリアに迫る。実の所これ自体に攻撃力はない。初見で見れば何かすごい物が迫ってくるように見えなくもないし、そもそもそのまま立っていれば地面がなくなり落ちるだけである。さすがにアリアも見えない物を受け止める気は無く静かに横に飛び軌跡から外れる。そう回避している内に僕はゆっくりと近づく。それでも彼女は何かを待つように剣を構えて動かない。僕は何かを仕掛けていると思っていながらゆっくりと近づくことをやめない。
(目の前に魔力反応がありますわよ。)
我慢できなくなったのか鶸から助言が届く。無粋なと思いながらも礼を返しておく。がついでに黙っておくようにも告げる。間合いギリギリに踏み込むと共に僕は剣を担ぎ大木断ちを構える。アリアはそこと言わんばかりに剣を下げて切り上げる。
-山津波-
地面がはじけ轢弾と水弾の群れが襲いかかってくる。魔力の乗ったつぶてを体に受けながら体を大量の土と水に流される。水流が操作されており意味を持って動いているように見えるが別の方法で脱出しようと思えば出来なくもない。
「貴方の剣は面白かったわ。ただ古い剣が新しい剣に勝つなんてことはないのよ。」
何が起こるか楽しみに待っている僕にアリアは勝利宣言をしてくる。このつまらない芸の先に何があるのか少し期待してしまう。ただその先にあることは少なくとも開山剣らしいことではないことも予想がついており残念にも感じている。斬岩剣に水を操る力はないのが分かっているからである。石や土よりも水量のほうに重きが置かれているこの技の中では十分に力を発揮できまい。
-水流閃-
津波は渦を巻き流れの中心に僕を誘う。渦は速度を増し巻き込まれる瓦礫は鋭さを増し高速回転により僕を傷つける。洗濯機か。僕は迫り来る大きめの岩塊を足場に軽く水面に飛び出して剣を回す。
-護水-
体を囲む石の玉。中は暗く機密性が高いので放っておけば数時間後には酸欠待ったなし。水を掘り当ててしまったとき、谷底に落ちてしまったとき水に流されて困ったときの救命道具である。岩爺は泳げなかったので少なくともこの玉の中に居れば溺れ死ぬことはないと思っていたらしい。救命に時間がかかりすぎると結局窒息死する愉快な技である。かなり頑丈な石の膜なので通常は相手の攻撃方向がよく分からない時に使われる。最も岩爺はこれに頼って防御することはごく稀であったが。今回は珍しく本来の機能として役に立った希有な例とも言える。居心地の悪い石玉の中でぐるぐると渦に回されて、あー本当に浮くんだなと思って僕は振り回されていた。しばらくして流れが止まり石が地面に落ちる。僕は石壁を解除し外に出る。濡れた地面の上に立ち怒りとも呆れとも微妙な表情で僕を見ているアリアがいる。
「さすがに無傷ではないのだな。」
若干安心したような口調で語りかけてくる。移動制限がかかっていたせいか防御機能が下がったのだろう。防具や体の至る所に切り傷が見られる。HP全体で見ても一割にも満たない傷である。ただこの世界において傷を受け始めるというのは大きな意味を持つ。
「こんな傷で喜ばれても困るけどね。」
DEXがほぼ機能していなかったと仮定して貫通はⅥかⅦくらいか。英雄でもそんなもんかと僕は快適さと警戒心から『洗浄』を使って体についた泥や汚れを落とす。
「このまま岩爺っぽく戦ってもいいけど。その程度ならもういいかなと思ってるんだけど・・・まだ何か思う所はある?」
開山剣として生きていけることを証明するのももう問題ないかなと思い、そして十七代目の開山剣ももはやかけ離れた物であることも間違い無くなった。まだ手が残っていようとそうでなかろうと僕が期待しているものでないだろう。僕はもうその剣には失望していた。
「それは貴様の手で引き出せばよかろう。私はまだ十分に戦える。」
いくらか自信が戻ってきたのかアリアが余裕そうに語る。
「ふーん。じゃあ・・・もう終わらせようか。ここからは戦いの為の二代目の剣でいくよ。」
ゲーム上では斬岩剣を使いながらでも別の流派を使える。開山剣を斬岩剣以外で使うことは難しいが逆はそうでもないのだ。動きの少ない開山剣を別の方法で補いながら要所要所で開山剣の技を振るう。それが岩爺との継承式に利用される二代目の剣技である。剣を下手に構えて『移動加速』そして『STR強化』『DEX強化』と移動攻撃偏重に強化魔法を行う。アリアが馬鹿正直に正面に構えて居るがそもそもそれが剣士故の間抜けさである。初代は鉱夫。そして二代目は盗掘屋である。
-川砕き-
アリアの左足だけが穴になるようにずらして切り裂く。剣閃が露骨になれば警戒もするものだが読みが分からない以上は普通は素直に回避しやすい方に避ける。アリアもそれには漏れずに右手に回避行動をとる。僕は切り上げた手をそのままに移動先に飛び込む。
-薪割り-
左肩を狙うように剣閃をずらして斬る。先ほど受けたときの衝撃を警戒してやはり回避行動をとる。下ろした剣を翻し移動を邪魔するように剣を振り上げる。
ー雪崩絶ち-
突如現れる壁に狭さを感じながらもアリアは壁を肩で押しやり反動で移動方向を切り返す。僕はその流れを押し止めるように一回転しながら斬りかかる。
-大木断ち-
受ける気の無いアリアは後ろに下がって隙に反撃せんとして通り過ぎた剣の跡に踏み込む。僕はさらに一回転しながら剣を振り上げそのまま袈裟懸けに振り下ろす。
-双牙-
-双牙-
甲高い音と共に二つの剣が弾かれ二人の体が泳ぐ。僕は彼女の左手正面から、彼女は左手真横から石柱を発生させてお互いを押しのける。
-雪崩絶ち-
僕は石柱に押されながら左右を閉じるように壁の中に閉じ込める。そして壁を蹴って石柱から逃れ、その石柱を足場にアリアに飛びかかる。彼女も剣を地面に引っかけて石柱から逃れ僕を迎撃するためにか下段に構えている。
-護水-
僕は防御膜を張りながらそのままぶつけるつもりで自由落下させる。
-二頭牙-
アリアは剣を伸ばしながら飛来してくる石の玉に一斬り、二斬り。そして石柱と水流が石を穿ち動きを変える。ぶつけるつもりの石は大分手前に落ちて割れる。僕はバランスを崩しながらもその場に立ち武器を構える。アリアはたたみかけるように飛び込み上段から振り下ろすように襲いかかってくる。僕はそれを確認してから今一度護水に閉じこもる。
「それで守れるような一撃では無いぞ。」
彼女の全力の一撃が振り下ろされる。薪割りと呼ばれなくてもこうした一撃が受け継がれていると思うと少しだけほっとする。だが今準備されているこの攻撃が発動すればそれを考えることもあるまい。そうして僕も最後の一撃を準備した。大上段からさらに振りかぶるように構え力と魔力を込める。『先鋭化』を全力で付与しわずかな間に相手が間合いに入るのを待つ。護水に相手の剣が振れたその瞬間。
-秘奥の一、山開き-
原理は薪割りと何も変わらない。ただ込められた力の桁が違う。護水で敵を検知しただそこに全力で剣を振り下ろす。唯一の後の先。自らの剣で護水を切り開き敵の剣と共に敵を斬る。斬岩剣がゆえに金属を崩壊させどんな受けも防具も障害にならず、当たれば文字通り必殺。岩爺の必殺剣である。いつもやられるパターン。そして自らも行う一つのパターン。敵を追い詰め攻撃を誘い、そして斬る。強いて言えばその手にあるのは斬岩剣ではなかったと忘れるほど没頭していたのである。僕の剣が護水を越え切り開きアリアの剣に触れ、力負けした斬岩剣が軌跡から逃がされる。驚愕の顔した彼女の顔を一瞥しながらそのまま振り下ろす。一瞬の時間がスローモーションのように流れる。僕の剣が彼女の頭をたたっ切ろうと届く時、斬岩剣の鍔に僕の剣がぶつかり、そして堅い壺を落としたような高い音と共に陽光石の剣が砕け散った。
「へ?」
「え?」
二人の予想外も予想外の事態におかしな声が出てお互いの体が軌道から外れて交差する。完全に捉えたと思った僕と死を覚悟したアリアからバツの悪い笑顔が漏れる。二人は示し合わせること無く笑い声を上げ向き直る。
「武器が無くなってどうする二代目よ。」
アリアは斬岩剣を僕に突きつけて尋ねる。
「さすがに斬岩剣に依存しすぎていると痛感したよ。そもそも手持ちの剣でそれに勝とうと思ったのも間違いだった。」
僕は手を上げ首を振って返答した。よくよく考えてみれば金属や石の武器はすべからく斬岩剣の制御対象である。まともに機能されていたら勝負にすらなっていなかったはずだ。
「それではこのまま貴殿を拘束してこの戦いに終止符をうつとしよう。」
「殺すと言わないところに優しさを感じるね。」
「貴殿を殺すと・・・収拾がつかなくなって被害が広がりそうなものでね。」
アリアは剣を突きつけたまま静かに語る。
「僕の開山剣は戦えなくなったけど、二代目の剣が負けたとも思わない。そして僕自身もまだ戦えなくなったわけじゃない。」
「この後に及んで負け惜しみとは見苦しいぞ。」
アリアは少しイラッとしたように話を続ける。
「出来ればこのまま降伏して欲しい。貴殿にはまだ聞きたいことがある。」
「お優しいことで。でも僕も僕の目的の為に止まるわけにはいかないんでね。」
僕は収納から四つの龍眼石。不壊鉛のバックパックを取り出す。龍眼石は空中展開、バックパックは背中に取り付く。両手にミスリルバックラーとショットガンを構える。
「やむを得まい。だがもう二度と貴殿を恐れまい。同格、いや格上のつもりで挑ませてもらう。」
「さぁ第二ラウンドだ。」
戦い方を本来の形に戻して再戦。
菫「ああ、無茶ばっかりして。」
萌「菫は心配しすぎ。」
桔「ああ、傷がっ。」
鶸「・・・もう・・・そこっ。ああ、そっちですわ。」
萌「映画館かな?」




