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僕、待たされる。

 都市に入るということになったが必ずしも降伏が真実であるとも限らないので結構な数の兵を連れての入市となった。菫と萌黄を連れ、他の子は外で警戒に当たる。ちなみに萌黄は連れて行くことが確定していたので残りの一枠はくじで決められていた。視界の隅で盛り上がっていると思ったら何をしているやら。僕の側にはY型重装兵が二体控え、軽戦士、斥候兵、銃兵、魔術師、医療術士の混成で百体ほどを率いている。全体から見ればごく一部ではあるがこの数でも過剰戦力であることは間違いなかった。鶸に言わせるとパレードみたいなもので見せつけるためだからとこんな無駄な編成になってもいる。比較的あっさり降伏したので一安心と思っていたのだけど、実際の所は外の軍がやられている間に領主は逃げ出したらしい。指揮系統はむちゃくちゃになり都市管理のトップ十辺りまで総出で逃げ出した為、最終的に降伏の判断をしたのは都市内残存軍の部隊長だった模様。何せ都市軍の最高責任者まで護衛と称して一緒に逃げ出したらしい。呆れて物も言えない。戦って死ねというのも確かに酷ではあるのだけど。

 

「僕は虐殺するつもりもないし、抗戦の罪などといって粛正つもりもない。ただ無駄に逆らうならそれなりの抵抗はさせてもらう。」

 

 僕は代表者として名乗りを挙げた部隊長ダラシアにそう告げて自分の命で抗命を願い出たのを却下した。

 

「取りあえず都市機能を回さないと住民が困るからね。文官が残ってたら招集してもらえるかな。鈴に連絡して外の軍のために陣地の建造を要請して。あと桔梗と鶸、あとはB型医療術士を呼んでもらうか。」

 

 僕は近くのC型斥候兵に伝達を頼む。都市の警備のためにもすでに斥候兵が配置されていて伝達ネットワークが確立されている。五分もしない内にどや顔で鶸がやってきてその後ろに桔梗が追従してくる。すぐに鶸に頼るのも気が引けたが都市の政治機構を押さえるにも鶸がやった方が早いし確実だ。

 

「どこまでやればよろしいの?」

 

 鶸が鼻高々に条件の要求をしてくる。こういう中央集権的な政治を考えると不正など叩けばいくらでも出てくるだろう。鶸はどこまで掃除していいかを確認しているのだ。

 

「こちらの言うことを聞かないなら排除ということで。あまり離反されても困るし。証拠だけ押さえておいてその後はグラハムに丸投げしよう。」

 

 僕の提案に鶸がいまいちそうな顔をするが何か思いついたように楽しそうになり文官や軍関係者を集めて聞き取りを始めた。

 

「桔梗も手伝ってあげてくれるかな。すぐに問題が起こるとは思わないけど数日後はわからないからね。」

 

 僕は桔梗に頼み、桔梗も微笑みながら頷いて鶸の側に歩いて行った。

 

「さて、僕は一旦外回りをするから後は頼んだよ。」

 

 鶸達に一言告げて領主の館を出る。当然のように菫と萌黄が追従する。高層区から低層区まで移動する。住民は戦争があっという間に終わりすぎて混乱している様子が見られる。ただ戦いがすでに行われていないことと軍による統制が行われていないことからおどおどと活動している様子が見られる。早い内に鶸が指示して概ね元に戻るだろう。斥候兵にも暴行、盗みなど火事場泥棒的な犯行は取り締まるように指示してある。恐らくひどい混乱は起こらないだろう。戦争が起こったと気がつかない商隊などは直に流入してくるだろうし、無理矢理でも経済活動は動き出すだろう。

 

「不本意ながら活動している者を見つけたようです。」

 

 菫はもしもの危険を考えて反対しているのだが僕の個人的興味により地下組織を斥候兵に探らせていた。戦争により逃げるか、または活発化するか、静観するか。どう選ぶにしろ情報を集めるために何かしらの行動を起こすと考えて監視網を作っていた。それにひかかったと菫が報告してくる。英雄と呼ばれる人物は少ないが存在はする。可能性は低くても地下組織に存在しない共限らない。菫はそういうところを心配しているのだろう。最も僕が高をくくって油断しているのも間違いでは無いのだけど。

 

「じゃあ、ご挨拶にいこうかな。」

 

 僕はどんな人達がいるのかとそれはもう楽しみに歩を進めた。路地裏の古い倉庫。そこが入口の一つらしく僕たちはそこにやってきた。トラブルも込みで楽しみたいと僕は倉庫の扉に手をかける。一瞬だけ萌黄の顔を見るがいつもと変わらないので勢いよく扉を開けようとするが開かない。中の気配はその扉が揺れる音で緊張が走る。当然鍵がかかってますよねと思いながら力強く扉を引く。深呼吸をして思いっきり力を込めてノブを引くと大きな音と共にノブが手元に残る。微妙な視線を菫と萌黄が送ってくる。

 

「素直に魔法で対処しておけばよろしいのに・・・」

 

 菫がちょっと呆れた声を出してため息をつく。萌黄は遅れてツボに入ったのか扉とノブを見て笑っている。扉に開いた穴から中の喧噪が聞こえ始める。僕もため息をついて反省しながら念動の魔法を使って鍵を解除する。そして穴に指を引っかけて扉を開ける。

 

「お邪魔しまーす。」

 

 僕はちょっと申し訳なさそうに中で殺気立っている男達に向かって言葉をかける。男達はどんなヤツが入ってくると思えば子供と見て少し胸をなで下ろしている模様。

 

「すみません。孤月組の方だと思うのですけど代表者の方っていらっしゃいます?」

 

 緊張が緩んで来たところに隠していたことを話しかけられまた緊張感が戻る。

 

「見ての通りここはただの倉庫だ。あとあんたのお家を教えてもらえるかな、親御さんに扉を弁償してもらわんとなぁ。」

 

 目の前で一喜一憂していた男達をかき分けて髭ずらの如何にも無法者といった男がのしのしと近寄ってくる。ぱっと見そこらのチンピラに比べればかなりの実力者であることが窺えるが僕らの能力には遠く及ばない。

 

「領主が交代したこともあって少しお話がしたいのですが。」

 

 僕はそう告げてみるが男は近寄る足を止めない。

 

「ここはただの倉庫だってんだろ?俺の質問にも答えてくんねぇかなぁ。」

 

 髭の男は中腰になり僕の目をにらみ付ける。菫が気持ちイライラしてきているので早く済ませようとも思う。

 

「決まった住所は持っていないんですよ。あとこっちに両親もいないんです。まあどう言っても話が進まないと思うので押し通させてもらいますね。」

 

 僕はにっこりと笑ったつもりで手をゆっくりと髭の男の頭に動かす。場違いな笑顔に気を抜かれ僕に頭を振れられた髭の男は次の瞬間には床に引き倒される。その後頭部を右足で押さえ膝を置きながら僕は告げる。

 

「死なない程度に制圧しろ。」

 

 菫と萌黄が放たれた矢のように男の集団に飛び込む。髭の男が引き倒された事に驚き混乱している中、目にも止まらぬ速さで飛び込んで来た小さな二人にさらなる混乱が起こる。手を取り足を取り投げられる男達。床が振動し倉庫が揺れる。次々と投げられ打ち倒される男達が反撃に出ようと我に返る頃にはすでに三分の一ほどになり、襲いかかっても意味がないほどに簡単に投げられる。投げられた者も痛みをこらえ起き上がり襲いかかるもまた軽々と投げられる。

 

「くそ、頭の足をどけやがれ。」

 

 僕が眺めていると足下の髭の男が僕の足を掴む。抵抗のつもりでこんなものかと軽く力を込めて頭を踏みつけると力が強すぎたのか男が激痛に声を上げる。

 

「おっと強すぎたかな。潰さないようにはしてるんですけど大丈夫ですか?」

 

 足の力を弱めながらどうでもいいことを確認する。そう話しかけているうちに喧噪は静かになり辺りはうめき声だけになる。

 

「この先はどうすればいいんですか?」

 

 僕は足下の男に尋ねる。

 

「ここは倉庫だ・だだだだだ。」

 

「別にこの倉庫をがれきに変えても構わないんですよ?」

 

 同じ事を繰り返す男の頭の踏みつける強さを強める。男から僕の足を軽く叩くポーズを見て僕は足をどける。

 

「わかった・・・案内するよ。」

 

 髭の男は息も絶え絶えに首を上げて答える。息を整えてゆっくりと立ち上がる。後頭部を掻きながらこっちだと僕に目を向ける。僕たちは素直について行くことにする。倉庫の一角の木箱をずらすし、床に手を当ててそのまま引くことで床が跳ね上がる。床下には穴が開いていてはしごも着いている。

 

「この下だ。」

 

 男が身をかがめて下におり始める。僕らは穴を覗いて様子を確かめる。髭の男はゆっくりとはしごを降りている。菫が先にはしごを降り、僕、萌黄と

続いて降りる。下は腐臭の漂う地下水路で下水が流れ込んでいるような様子が見られる。

 

「もう少し先だ。」

 

 僕らが降りきったのを確認して髭の男が歩き始める。穴の上の床板は閉ざされ箱も戻されたような音がする。まあよいかと思いつつ男を追いかける。男は確かな足取りで道案内をして五分ほど歩いたところにあったはしごを登る。その先で髭の男はご丁寧に待っていた。

 

「思ったより正直に案内してもらえてますね。実はどこか別の所に誘導されるのではないかとどきどきしていたのですが。」

 

 僕は髭の男に正直に聞いてみる。

 

「俺も弱くないとは思っていたが、あんたに比べたら塵みてぇなもんだ。そんで組織の上を見てもあんたにかないそうなのはいない。あんたがここに攻めてきた襲撃者っていうんだったら半日もしないうちに見つかったってことだ。そんなもん、もう逃げても無駄だろ。」

 

 髭の男は降参とポーズをとって自虐するように語る。

 

「色々言われるとは思うが将来的にはボスも納得してくれるだろ。俺は生き残るためにも自分の嗅覚を信じるぜ。こっちだ。」

 

 髭の男は案内を再開する。もうちょっと波乱になると思っていたのだが、思った以上に男が賢明だったようだ。比較的立派な作りの建物を歩き扉の前で止まる。髭の男は丁寧にノックする。かすかに向こう側で音がする。男はもう一度ノックする。そして綺麗なベルの音が響いた。

 

「ボス。予定外ですが客人を連れてきました。表の件の当事者と思われます。」

 

 丁寧に宣した後ゆっくりと扉を開ける。髭の男が入っていくのにそのままついて行って入る。あらかじめ魔力視覚を稼働させておいたが部屋の中は魔力のある品や仕掛けが数多く仕掛けられているのが見られる。広めの書斎といった部屋でおよそゴロツキのトップとは思えない場所である。そして奥の立派な机にはこれまたゴロツキと思えない優男、むしろ貴族と言われても差し支えのない男が両肘をついてこちらを見ている。脇には護衛と思われる屈強な男が両側に一人ずつ立っている。

 

「で、お前はのこのこ私の前まで連れてきたというわけだ。」

 

 優男は雰囲気にふさわしい柔らかい声で語りかけながらも恐ろしい圧力をかけながら髭の男に問いかける。

 

「こいつらは半日もしないうちに第六倉庫にたどり着きました。そして一瞬でそこを制圧してみせました。無視して嵌めればむしろ組織自体がより危険になると判断して会わせるべきだと考えまし・・た。」

 

 言葉を開くたびに優男からの圧力が増していくようだったが、髭の男は耐えきって最後まで話通した。優男は話し終わった後も圧力を解くことは無かったが、髭の男がしばらく震えて立っているのを見て観念したように圧力を解く。

 

「わかった。お前の判断を信じよう。でそちらの子供が客人かな。子供ではあるが・・・虐殺犯の遊一郎と言ったか。」

 

 優男が僕の姿を確認してため息をついた。髭の男は驚いたように僕を見る。護衛の男達にも少し緊張が走る。

 

「虐殺はしたつもりは無いけど、治療の過程で失われた命があるのは確かだ。罪を甘んじて受けるつもりはないけど、死者を出したのも事実だね。」

 

 僕は否定せずそう答えた。

 

「新興の商人でありながらフレッド商会を相手に引かず、グラハム子爵の手駒でカースブルツ家の眠れる令嬢を治療したという所までは聞いているよ。」

 

 優男は周りの者に披露するかのように僕の功績と立場を明かして見せた。

 

「貴族相手にしているから手駒に見えたかもしれないけど利で繋がった協力者だよ。あと令嬢はまだ治療されていない。」

 

 試されているかと思って僕は事実として訂正してみせる。だが優男は少し動きを止めて僕を見る。

 

「ご本人様からの訂正だからといって鵜呑みにするわけにはいかないが・・・信じてもいい気はするな。令嬢に関して話せることがあるなら少し聞いておきたいが。」

 

「それで僕と話をしてくれる機会を作ってくれるならいくらでも。正直こっちの件は急務というか危機案件だからね。話が拡散するならそれにこしたことはない。」

 

 優男の質問に乗って僕はスペクターワームの話を詳細に話す。ついでにサンプルとしてとっておいたワームの死骸もくれてやる。

 

「聞く限りでは整合性はとれているな。これと今の話を検証させろ。」

 

 優男は護衛に死骸を包ませて壁に手をかけて小窓を開きそこに包みを入れて閉じた。おお、面白い作りだ。

 

「さてこの件に関する対価は私との会話だったな。かなりもらいすぎのような気はするが可能な限り話をしてやろう。私は・・・そうだな今はダニーと言っておこう。」

 

 ダニーはそう信じなくても良いよと余裕の顔で僕に話しかける。

 

「ああ、そうだ。エドは下がって良いぞ。元の仕事に戻れ。」

 

 放置されていた髭の男はエドと呼ばれてはっとなってから恐縮し丁寧にしかし逃げるように部屋から出て行った。ダニーはそれをみて楽しそうに笑っている。

 

「すでに知っているとは思うけど僕は遊一郎。ここに来たのは半分興味本位。半分は勧誘かな。」

 

 僕がそう言うとダニーは少し眉をひそめる。

 

「興味本位でのこのこやってきて傘下に入れとは私も安く見積もられたものだな。」

 

 護衛の動きを押さえながらダニーは椅子にもたれかかって言う。

 

「まあ地下組織だからメンツもあるだろうし急に上から押しつけるつもりはないよ。都市を荒らして混乱させるようなことがなければ今まで通り活動してもらっても構わないし。」

 

「それが上からの余裕というやつなのだろうがっ。」

 

 僕が言葉を選ぶように考えて発言したつもりだが、ダニーとしては挑発に聞こえたようだ。何か仕掛けが動いたようで部屋の隅から風の刃が飛んでくるのが見える。魔力視覚がなければ反応が遅れたかもしれないけど、そもそも当たっても問題はなさそうだ。ただ油断したように当たると菫が激昂するかもしれないので障壁で受け止めておく。

 

「気に障ったなら謝るよ。ただ僕らに対する武力行使は意味がないと思って欲しい。僕はともかくこの子らの怒りを買うだけだから本当にやめて欲しい。」

 

 風の刃が機能したか判断できないダニーは少し動揺した顔をしている。僕は威圧行為の一環として力を見せておくべきだと思った。収納から金貨を一枚取り出し、緩やかな放物線を描くように右手の護衛の方に向かってはじく。何事と部屋の全員の目線がそこに集まる。そして菫に届くようにと頭の中で指示をする。右手の護衛が剣抜き警戒感をあらわにする。金貨は護衛まで届くこと無く少し手前に落ちて絨毯の上で鈍い音を立てて転がる。

 

「はい、死んだ。」

 

 僕がそう宣言すると今度は僕に視線が集中する。そして重厚な机の上にあるダニーが飲んでいたと思われる飲み物の金属コップが音を立てて割れて液体が流れ出る。視線が集まった瞬間に菫が気配を落として一足、コップを切り捨てて戻る。金貨が落ちるまでに行われた作業である。

 

「どう?」

 

「恐らくある程度近づいた時点で障壁が張られていたと思われます。コップにしては手応えがありましたので。」

 

 僕は菫に尋ね、菫は隠していたであろう機能の一つを暴露した。ダニーは呆然としてその会話を聞いている。

 

「なる、ほど。英雄に匹敵する武力と一国並みの兵力。私達を恐れないわけだ。武力に関する報告も眉唾だと思っていたが事実ということか。」

 

 ダニーが両手を挙げて諦めたように力を抜く。

 

「でー?本当に何しに来たんだ。」

 

 ダニーは何もかも投げ出したように投げやりに質問してくる。

 

「僕のために諜報活動をしてほしい。各地の情報とかが欲しい。具体的にいうと貴方方的にわかりやすいのは僕以外の神の使徒を探して欲しい。」

 

 僕は要求を告げるとダニーが勢いよく前のめりになる。

 

「あんた使徒だったのか。」

 

 ダニーの声に僕は頷く。

 

「使徒は全部で十二人。勢力は四つあって一勢力三人。内一人は僕でもう一人は友軍で把握済み。敵としてコボルト、竜、リザードマン、ナーガ、火精霊まで種族は判明している。僕がこの件で知っている情報はここまで。」

 

 僕が情報を明かすとダニーは天を仰いで椅子に寄りかかっている。

 

「でかい案件過ぎてどうにもならん。私達の組織はそこまで大きくはない。世界中を調べるなんてことはほぼ不可能だよ。」

 

 ダニーは姿勢を正して答えを出す。

 

「それなら大きくすれば良い。資金なら出そう。敵対勢力が邪魔なら武器も出す。やる気は無い?」

 

 僕はにっこりと要求する。ダニーは僕を見る。

 

「そこまでして私を使いたいのはどうしてだ。」

 

 ダニーが不思議そうに問う。

 

「最初に見つけたっていうのと、思ったよりまともな人材がいるみたいだったからかな。」

 

 僕がそう答えると、ダニーは大笑いする。

 

「そうかいそうかい。大体運だったってことか。分かった、その話受けようじゃないか。うちは勢力拡大ができる。あんたは情報がはいる。そういうことだな?」

 

「まあ、そういうことかな。それ以外でもたまに荒事を頼むことがあるかもね。」

 

 ダニーが野望に燃えて納得する。僕としては方向性は任せるので情報だけが欲しい。僕は菫に促して先立つものを出させる。収納から袋を二つ取り出して机の前の床に置く。僕は冷石剣と短剣を四本と十本を袋の前に直接出す。

 

「それは支度金ということで。しばらくはこの町にいるよ。まだ監視網が機能してるから大体の所で話したいことがあればこっちに連絡はつくよ。」

 

 僕はそう言ってこの場を去る。

 

「あれ?私らいらないんじゃ。」

 

「僕だってずっとこの町に監視網を置いたままにするわけじゃ無いし、この先もいかなきゃいけないんだ。そもそも監視網を置いてるのは君らみたいなのから住民を守る為だし。君らは君らで独自に調査網を広げてちょうだいよ。」

 

 僕は何言ってんだとしかめっ面で言う。ダニーは納得してこちらに手を振って見送る。僕らは案内人と思われる女性に誘導されて屋敷の裏口と思われるとこから出される。

 

「信用しての処置であると聞いておりますが、吹聴なされないようにお願いいたします。」

 

 女性に最後に釘を刺され裏口が閉められる。外観は立派な屋敷である。恐らく元々どこかの貴族が立てたものなのだろう。もしかしたらダニー自身が貴族の子息または本人である可能性もある。菫に軽く調べるようにお願いして僕らは領主邸に移動した。その日のうちにリブリオスがグラハム家の支配下に入ったことが発表され少なくとも動揺が走った。都市の出入りは制限しないが犯罪行為は厳罰化が布告される。代わりに半年間の一割減税が布告され都市民からはそれなりに歓迎された。後日販売記録を偽り税を誤魔化そうとして罪に問われた者が少々いたのは些細な小話だった。

 

 五日後。その間何も無かったわけでも無いが僕としてはやることが無く訓練で時間を潰すだけになった。周りの情報を得るにも騎兵を使い僕が直接動くことはないからだ。なによりこれだけ手持ち無沙汰になってしまったのはさっさとこないグラハムが悪い。

 

「遅いよ。」

 

「これでも最小限で飛ばしてきたんですけどね。」

 

「坊やの基準に合わせたらちょっとかわいそうだろう。まぁもうちょっと坊やを当てにして整理すれば一日は早く来れたかもしれんがね。」

 

 僕は領主邸に来たグラハム相手に愚痴っている。一緒に着いてきた見知らぬ女性は見知った顔であるように話しかけてくる。話し方からして正体は想像つくが信じたくは無い。

 

「ああその人は、信じられんかもしれんが漬物屋のばあさんだよ。どっちが正しい姿かはもはやわからんがね。」

 

 グラハムもまだ信じ切れないとあきれ顔で言う。

 

「改めてというか正式な自己紹介は初めてじゃな。ナクラレーンの森のクァラルーン氏族第四位サレンじゃ。しばらくよろしくな。」

 

 声も以前聞いたときに比べて少し若々しい。癖になっているのかのじゃ口調は抜けていないのが違和感を感じるのだけは変わらない。

 

「動く必要があるから大分若返らせたでな。どうじゃ、かわいかろう。」

 

 その場でくるっと回る姿は確かにかわいいが中身を知っているという補正がそれを曇らせる。サレンは素直じゃないのうと頬を膨らませてぷんぷんという擬音が似合いそうな怒り方をしている。見た目を武器にするその姿は完全に老獪なあのおばあちゃんだなと思ってしまう。

 

「で、こっからどうするの?こっちは暇を持て余してるんだけど。」

 

 僕は雰囲気に流されそうになるのを打ち切って話を持ち出す。

 

「おいおい気が早いな。これからまた周辺貴族に調略をかけて・・・」

 

「何年かけるつもりなの?僕は割と急いでるつもりなんだけど。」

 

 グラハムが計画を聞くと数年越しの話をしそうなので一旦切る。

 

「仮にも末端からの反乱なんだ。最低半年、一年二年は考慮して欲しいところなんだが。」

 

「王都落とすだけなら二十日もいらないってのに・・・だるっ・・・」

 

 グラハムが困った顔で話したが、僕はついて行けずに突っ伏す。

 

「坊や。前も言ったが上をすげ替えただけでは上も下も納得させるのは難しい。下はまだ経済さえ安定させれば不満もへるじゃろうが、上はそれではすまん。上が荒れれば結局その負担は下に来る。反乱は成功すれば正義にせねばならんが、本来為政者としては反乱そのものは悪とせねばならん。アードラント坊やにとって今の反乱は大義が薄い。ある程度の地固めは認めてやれ。」

 

 サレンに諭されて僕も反論しづらい。鶸をちらっと見ても首を振るだけで積極的に反論するつもりはないようだ。

 

「その大義はどうするのさ。」

 

「アードランド坊やの場合は先の事件の真相と我らの約定を盾に王家の管理不足の追求じゃな。正直反乱理由としてはほとんどが私怨と見られて弱すぎる。ただ管理不足という点で不老の秘薬の独占緩和を目指せば腰を上げる貴族連中は多かろうな。」

 

 僕の質問にサレンが答える。ただ秘薬の管理についてはサレンは難色を示していたはずだ。僕は体を起こしてグラハムを見る。

 

「私としては餌として秘薬を吊すのは仕方が無いと思う。ただゆくゆくは無くすべきものだろう。」

 

 グラハムは事件の嫌悪からか不老の秘薬には興味がないようだ。しかし、存在がしれていて多くの使用している権力者がいる以上すぐにどうにか出来るものでもないと考えている。

 

「んー・・・どちらにせよ早く終わらせたい。」

 

 僕は両肘を立てて顎を支えつつぶすっと呟く。グラハムもサレンも鶸ですらもため息をつく。

 

「少し強引にはなりますが提案ですわ。」

 

 鶸がため息をついて手を上げる。視線が集中する。

 

「私達でここから王都前の都市まで制圧してしまいましょう。喉元に剣を突きつけた状態なら転ぶ貴族も多いでしょう。ただ性急すぎて忠誠心が高い者達は連れないでしょうが。」

 

 鶸が妥協案としてあげるが、鶸としても今後の統治を考えると微妙と考えている模様。強さに転んだ者はより強い者に転ぶかもしれないからだろう。

 

「まあ考えなくも無かったが妥協点としては妥当か・・・」

 

 グラハムがひとしきり悩んだ後言葉を濁しながら紡ぐ。

 

「そこから時間がかかるかもしれんし、坊やとしては結局飽きがくるんじゃなかろかね。」

 

 サレンの反応も微妙だ。進みたい僕と今後統治しなければならないグラハム、そして結果がどうなっても動けるが安定を求めるサレン。結果的に僕が折れるしかないのだった。それでも僕としてはどうでもいい戦争をさっさと終わらせて僕としての計画を進めたい。そのためにわざわざ全軍をつれてきたのだ。のんびりやって情報を広げてもいいならこんなに連れてくる必要は無かった。中途半端に義理立てしたのが失敗だと内心思う。色々話し合った後結果的には威圧外交に舵を取るが侵攻方向は広げる事になる。西方王都侵攻に四千で僕と萌黄が進む。北方に五千で菫と鈴。南方に五千で桔梗。リブリオスに千待機で鶸が防衛となる。調略、降伏の書簡は先行して送り従えばよし、そうで無ければ攻め落とすとい言った具合。直線にいくよりは時間が大分かかるが国土を半分も制圧した頃には王家が休戦か降伏してくる可能性もあると見ている。さすがに降伏は無かろうが。

 

「よし方針が決まったなら行こうか。」

 

 僕は張り切ってテーブルから立ち上がる。

 

「こちらから侵攻方向と速度を指示しますから、貴方だけ突出することが無いようにお願いしますわ。」

 

 鶸が睨むように僕を見て釘をさす。

 

「はいはい、分かってるよ。今後の件もあるしね。」

 

 僕は両手を挙げて適当に返事をする。

 

「だいじょうぶかね。」

 

「ゲーマーですが他人の命がかかっていると言うところでは分かっているはずですわ。」

 

 僕を見送りながらサレンがぼやき鶸が一応の信頼を見せる。

 

「まあ軍事の九割九分は彼に依存しているわけだし、彼も急いでるなら仕方あるまい。」

 

 グラハムも半ば諦めて見送る。

 

「さて、また書類仕事が忙しくなるね。取りあえずリブリオスの状況を確認しようか。」

 

「そちらはさほど問題ありませんわ。こちらの警戒網は解かれてしまいますが、貴方が持ってきた騎士達で代用しましょう。統治面でも貴方の意図を逸脱した物にはしていないつもりですわ。混乱を押さえるために行った政策の資料はこちら。基本的な統治の組織図と政策はこちら。早急な話としては都市の警備隊と貴方の騎士隊の面通しからですわね。犯罪者がうろうろすると面倒ですわ。」

 

 鶸が次々に資料を取り出しグラハムの前に積み上げる。グラハムは面倒くさそうに書類を見つめる。

 

「もう十日ほどは私が面倒見ますからそれまでに覚えてどう変更するか検討なさいませ。」

 

 鶸が笑いながらその場を離れる。

 

「主が主なら部下も部下か。優秀すぎて反論しようが無い。」

 

 グラハムが愚痴る。

 

「それでも楽しいのじゃろ?」

 

 サレンはテーブルに座ってグラハムをつつく。グラハムは笑って答え書類に目を移す。

 

「わしは予定外にはなるが桔梗とやらに助力しようかの。南ならわしもやりようがあるわい。」

 

 サレンはテーブルから飛び降りて歩き出す。

 

「気をつけろよ、ばあちゃん。」

 

「まだ心配されるような年ではないわ。」

 

 グラハムの言葉にサレンは後ろ手に手を振って答え部屋から出る。

 

 リブリオスの外壁前でミーバ軍の再編が行われる。相手の構成も分からないので基本的には等分で分ける。ただ術が使えない菫側には術者が多めに編成する。桔梗を守る為にもそちらに重装兵を割り振り、銃兵も多めに編成する。編成を考えているうちにサレンがやってくる。

 

「わしもついて行くぞ。指揮官が少ない桔梗に随伴させてもらおう。」

 

 サレンの提案に反対する理由もないので許可をする。

 

「命に関しては努力はするけど保証はできないぞ?」

 

「坊やに心配されるほど耄碌はしとらんわ。」

 

 僕の発言にいたずらっぽく笑いながらサレンにおでこをつつかれる。

 

「坊やの軍を実際に見ておきたいでな。中々楽しそうではないか。」

 

 サレンは編成で並び替えられているミーバを見ながら興味ありげに言う。

 

「これならわし等の問題も少しは解決してもらえるかもしれんしな・・・」

 

 ひとしきり眺めた後化細い声でそっと呟いた。

 

「なんかあるの?」

 

「それはわし等の問題じゃし、この件が終わって気が向いたらじゃな。今は国取りに集中せい。」

 

 サレンは問題を明かさないままミーバの兵装を興味津々に眺めている。

 

「そうだ。装備がいるなら言って欲しい。予備は大分持ってきたし、せめて防具だけでも。」

 

 サレンが眺めている姿を見て僕は提案する。

 

「ん、そうじゃな。痛くないに越したことはないしの。革装備が動きやすくてよさそうじゃったな。ひらひらしてるのはちょっと厳しそうじゃ。」

 

「んー、そっか。じゃあ、これとこれと・・・」

 

 サレンの要求に革装備を取り出して並べる。

 

「ほうほう・・・中々良い細工をしておるな・・・珍しい使い方もしておるな。」

 

 サレンは加工に造形が深いのか着る前から眺めて確認している。

 

「何か便利な加工法を知ってたら教えて欲しいな。コスパが良いのでもいいし、ただ強靱なのでもいいし。」

 

 僕の言葉を聞いてサレンが少し反応して悩み始める。

 

「そうさのこの戦いに勝って目的(・・)が果たされたら教えてやろう。」

 

「よし、乗った。」

 

 サレンがにやりと笑い、僕も笑い返す。

 

「ご主人様、編成が完了しました。」

 

 桔梗がそっと近づいて報告する。その後ろには菫、鈴、萌黄と続いている。

 

「では各自検討を祈る。安全第一だ。誰一人欠けること無く戻ってきて欲しい。」

 

 僕が言葉を送り、皆がはいと答える。

 

「思ったより過保護じゃな。」

 

 サレンが少し楽しそうに言う。

 

「もう誰一人失いたくは無いからね。」

 

 僕はそう言ってファイを取り出す。

 

「ふむ・・・まぁ邁進するがよかろう。」

 

 サレンは悟ったかのように言葉を発し桔梗を追いかける。

 

「全軍、進め。」

 

 僕の合図と共に全体が各侵攻方向に向かう。その先の障害を排除するために。

とかなんかやってましたが進軍までで終わってしまいました。まともな戦闘はもう少し先かな。


鶸「身内以外が見ていることですし、鈴ももう少し、いや大分姿勢を正すべきですわ。」

鈴「んー。」

菫「やる気はなさそうですね。」

桔「どうしたものでしょう。ご主人様の評価に関わらなければ良いのですが。」

萌「でも鈴を知ってる人っていないみない。四人組と思われてるよ。」

鈴「ふふふ・・・実は見知らぬ人に見られないように常に回避しているのです・・・」

鶸「努力と能力の無駄遣いですわね・・・」

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