神は波乱を望む
5/22連続投稿の後半になります。先に読んでも全く問題ありませんが前項に章の締めがあります。
時折、盤面の権利を行使して自らの手駒を見る。とは言っても現在注意を向けるほど活動しているのは彼しかいない。
「ふむ・・・確かにうまくいけば何もせずに勝利も可能か。思った以上に進め方が速い。フレーレとの交渉も彼の手を遅らせる手段と考えていたが、それすらも障害になりづらいとはねえ。」
立体映像を通して映し出される彼の行動を見ながら神は彼の勝ち筋を予測する。
「もう少しのんびりとしていてほしいのだけど・・・性格上そうもいかないか。それにしてもこれを他の神に気がつかれると賭けが偏って面白くないなあ。」
盤面は悠久を過ごす神にとって娯楽の側面を持つ。権利を争う指し手としてはもちろん、それを観察して駒が右往左往する盤面そのものを楽しんだり賭け事をしたり自分の世界を育てる為の種すらもやりとりされる。指し手すらも勝利がおぼつかないなら番外で負けを取り戻す手もある。もちろん過度な番外戦は盤面そのものをつまらなくすると言うことで糾弾の対象になるが。ただシステムに携わったこの神は自分の事よりも盤面を楽しくすること好む傾向が強くあった。『ただ戦うだけでも面倒くさい。戦わないならなお面倒くさい』多くの神々がこの神と相対して思う感想である。
「まあ前に出会った感じからすると彼も楽しむことが好きなようだし、私としてもまだまだこの世界を堪能して欲しいね。」
そうと決まればと思念を巡らせ一つの力を流し込む。
「さぁ神の声を聞ける器よ、その耳より口へ世界に言葉を伝えよ。」
本来盤面に力を行使するには申請と指し手達の許可が必要である。だがこの神は先ほど許可を得ずに自由に干渉する手段を作り出していた。
「システムの穴は何度も使えないしなあ、今回は早めに仕込めてよかったよかった。」
システムの創造を行ったこの神は表向きは無いと言いながらも様々な穴を意図的に作り出している。それは勝負に勝つためという意味もあり最終的に自分が最も得をするためにという利己的な観点からである。神の言葉は力を伴い盤面上で安らぐ生物に届く、その生き物は力の負荷に苦しみながら一つの呪文を口ずさむ。何を言っているかも聞き取りも出来ないその呪文は確かに世界に届き世界のどこかに変化を付け加える。あらゆる境界と距離を超えて声を届けるその力はシステムに不正を検知させること無くシステムに則って粛々と実行される。
「さて、次はどう動いてくれるかな?」
妨害をしながらなおも愛でる対象を楽しむ。自由、己のためだけに行われ。遊戯、すべてを弄ぶ。力強く、技巧に長け、守る世界からも神々からもそろえて邪と証される神。制御無き自由とルール無き遊戯は誰の目から見ても等しく邪悪と称されるにふさわしい所業である。
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「アレが何か手を回しているようですが。」
「またかね。最も娯楽を提供すると言う意味ではアレの手出しはさほど問題ないというのは共通の見解であると思うが。」
盤面を監視するべき神の二柱がゴブレットの状態を見ながら話し合う。
「多くの神はそうでしょうが本来こういったものは厳正であるべきかと。」
「厳正にした結果少なくない盤面がつまらなくなり暴走を招く事態になったのも事実だ。」
そう言いながらも手を加えた痕跡を探る。
「世界をより混沌にしないためにも神々同士で直接やり合わないようにこういった盤面を使うようにしたのも、君たちのいう『秩序』を守る為だろう。」
「それはそうですが、そこに別の混沌を持ち込むのは別問題でしょうに。」
不満を言いながら作業を続ける。
「秩序も混沌もどちらに傾きすぎてもよくはないさ。君らはそういう所が極端すぎると私は思うがね。しかし巧妙に隠すな。システム上は問題無いように見える。」
雑談をしながらも監視作業は緩めない。だが不正の証拠を確認することはできなかった。
「許可申請、許諾事項についても今のところ差違は認められませんね。」
「指し手もある程度容認しているということだろう。」
二柱はため息をついて通常監視を続ける。
「ラゴウは許さないと思いますが。」
「あいつは本当に気がついていないだけだろう。特に今回は引きがよかったらしいしな。」
馬鹿にするでもなくアレは純真なだけだと笑う。
「純真・・・というには少し好みの偏りが気になりますがね。」
「とても自分に正直だろう。良いやつじゃないか。」
一柱は不満を示し、もう一柱は好感を示す。
「チェイスは悪さはするが少なくとも最初は盤面を守るさ。」
「しかし最後はやり過ぎて崩壊寸前になるまでのケースもあります。」
「無茶しないわけじゃないが、注意されるたびに無茶は減ったろう。」
「明らかにどこまで許されるか試しているだけでしょうっ。」
厳格な神は思わず声を荒げる。
「多少私情が入っているようだが、それは構わんよ。だがアレを本当に糾弾したいのなら不正の証拠を見つけるんだな。」
「・・・そうですね。」
その怒りを悠々と受け止め諭す。厳正な戦いの女神は目を皿のようにして記録を眺める。どちらに肩入れしすぎることも無いある意味無関心な創造の神はその様子を見ながら監視業務に戻る。この神は共有しないだけで不正の片鱗には気がついている。
(不正で片づけることもできるが、全員が使えるという意味ではグレーと言い逃れることもできなくはない。監視ができる不正な窓口が見つかったんだ。精々利用させてもらうとしよう。何より管理している少年が思いのほか面白い。あわよくば我々の思わぬ方向で楽しませてくれるかもしれん。)
隣で必死になっている神を横目に退屈そうな顔をしながら心の中でほくそ笑む。多くの神に漏れずこの神も娯楽に飢えていることには違いないのだ。
次回より本編報復波乱編です。




