僕、決める。
5/22連続投稿の前編です。
ショットガンを散らす。僕の目からはリーダーがすり抜けているように回避しているのが見える。実際には分散範囲に入っていないらしい。菫がまた綺麗に僅差で攻撃を当てない。菫の目からは回避しているように見えるらしい。萌黄の攻撃も僕と同じだ。逆に僕がやっている動きを見ることが出来ると考える。
「無駄なことをする。」
初めて流暢な人間の言葉でリーダーがしゃべった。
「無駄を知れば引くかと思えば無駄を続ける。やはり下等生物は我らに管理されるべき生き物よ。」
接近されたことで大水弾のような大技は使わなくなったが近づけば槍、離れれば魔法とどの距離でも隙無くまんべんなく攻撃をしてくる。それでいてその場から一歩も動いていない。足を動かすことはあっても決して踏み込んできたりはしない。
「弱肉強食な世界ではあるけど、お前みたいなのに支配されるのはごめんだね。」
近づく菫の邪魔にならないようにショットガンをばらまく。
「分かっているなら撥ねのけてみよ。お前はいい苗床になりそうだ。」
リーダーは喜ばしいような喜色の声を上げて煽る。触手の隙間から見える魚人の顔は正に死んだ魚と言うにふさわしい顔であり感情は読めない。正直気持ち悪い。僕が全く気にしない煽りに菫が反応して過剰に攻撃を行う。
「人のようで人で無い。餌にもならないお前は本当にいらないゴミよ。だが同胞を無尽蔵に斬り捨てた罪は重いぞ。」
その場を離れ損ねた菫の足が触手に捕まり、動きを鈍らせたその隙にトライデントが菫に刺さる。
「菫、飛んで。」
萌黄がリーダーと菫に向かってショットガンを構える。菫が力を入れた瞬間萌黄が菫の足を打ち抜く。触手ごと菫の足が吹き飛ぶ。菫が苦痛の顔を浮かべて宙に舞う。リーダーは驚いて砕けた触手を引っ込める。菫が離れて着地することには菫の足は元通りだ。
「小娘、何をしおった。・・・そういう力ということか。」
リーダーは何かに納得したように触手の傷を治療する。僕ら的には初めてリーダーの体を傷つけた攻撃だ。
「萌黄、今のは?」
「捕まってるのをなんとかするために菫を撃った。菫が抜け出た瞬間に傷を無かったことにすれば良いと思ったから。」
「助かりましたけど。脚甲はもうだめですね。」
菫が軽快な足取りで戻ってくる。攻撃の軌跡の上にリーダーがいる分には問題ないのか?そう思ってリーダーの真後ろの粘体を狙って撃ってみたが結果はいつもと同じである。
「やはりそもそも攻撃点がずれていますね。」
「わからんなぁ。」
先ほどの攻撃が当たった事を懸念したのかリーダーの攻撃は萌黄を中心に苛烈になり始めている。自分たちも言えた義理では無いけど負荷はどうなっているのかと思うくらいに攻撃が増えている。萌黄は攻撃を回避しきれずに傷を負い始めている。障壁も使っていかないと持ちそうにないな。どう考えてもじり貧である。
「あそこから動かないことにこだわってるからなんとか動かしてみよう。」
菫は頷く。とはいってもこの足場をまとめて砕くだけなんだけどね。そうして範囲を拡大した【器物粉砕】と【無生物変形】を駆使してリーダー周囲の地面を破壊する。リーダーは想定内と言わんばかりに触手を駆使して安全に新たな大地に立つ。そのまま新たに攻撃を加えるがやはり当たらない。
「動く必要が無いのも事実だが、ああしているとこうやって無駄な努力を追加してくれるだろう?」
リーダーがあざ笑うように語りかけてくる。
「さぁ、ハンディはここまでだ。」
リーダーが槍を構えて萌黄に飛びかかる。ついて行けない速さでは無いが思ったより速い。萌黄の前に障壁を張りリーダーの攻撃を阻害する。幸いそこまで攻撃力は高くなく一枚でもいきなり貫通されるほどでは無い。萌黄はおっかなびっくりで射撃を行いながらその場を離れる。菫が間に入り牽制するがリーダーは意にも介さず萌黄を追い詰めるべく距離を詰める。移動速度は若干萌黄のほうが速そうだがリーダーは牽制しながら更にこちらの攻撃を無視して行動しているのでたやすく萌黄を追い詰める。弾幕をばらまくわけにもいかず僕は手を出しづらい。菫が健闘しているように見えるが相手は意にも介していないだろう。
「萌黄、覚悟。」
桔梗の謎の宣言と共に巨大な氷塊が萌黄に放たれる。おいおいと思いながら萌黄の前に障壁を張る。部分的に干渉があったので別の障壁があることも分かる。リーダーは氷塊を見てその場から退避する。萌黄を中心に氷の破片が舞い散る。
「遅れましたわ。」
少し辛そうな顔をしている鶸が桔梗と一緒に合流してくる。
「あの程度の認識でしたらちゃんと当たるのですね。」
桔梗がぼそっと伝えてくるが何の事か分からない。
「直接狙っては当たらない。味方を巻き込んで当たる。巻き込まれそうな攻撃は回避している。あれはあの寄生体を明確に狙おうと意識すると無意識に外すように仕組まれたものなのですわ。その範囲は寄生体に攻撃を当てるための行動すべてが該当するようですわ。当たれば儲けものくらいでしたらずれないようですが、今のは萌黄に撃ち込むつもりでやって頂きました。」
鶸がそう補足をしてくる。
「それで防御を突破する方法は?」
「それはまだですわ。」
僕の期待を裏切らない自信満々の回答だった。
「もうしばらくこのまま続ければいいってことかい?」
「萌黄に誰かを撃ち続けてもらって、誰かさんが寄生体を追っかけてもらうという方法がありましてよ。」
「それは最悪その誰かを失いかねないから避けたいね。」
萌黄の『活殺』にも限界があるし、壊れた防具は直らない。
「その最悪が必要になる可能性は考えておいてくださいませ。」
鶸が冷たい声で宣告する。僕は鶸を強く睨む。
「萌黄が追い詰められても、先ほどのようにすればなんとか出来ますわ。ただ桔梗も私もおそらく貴方ももう負荷には余裕が無いはずです。早めに決定しませんとすべてを失いますわよ。」
鶸はそう言った後僕のふとももをパチンとはたく。
「そうならないように私が来たんですのよ。相手も様子見を終えたようですから行ってくださいませ。」
鶸はリーダーに目線をやりながら僕を送り出す。リーダーも槍を構えて萌黄に向かって距離を詰める。
「頼んだぞ。」
「任されましたわ。」
僕は陽光石の剣を構えて萌黄の補佐に向かう。実践で剣を使うのはどのくらいぶりだろうと思いながら走る。併せて盾を取り出して構え、萌黄とリーダーの間に割り込む。
「攻撃は当たらないかもしれないけど、身を守る行為は問題ないよね?」
繰り出される槍を剣と盾ではじきリーダーを足止めする。
「狩人かと思えば剣もたしなむか。だがその拙い剣でしのぎきれるか?」
リーダーは定番のような煽りを入れながら槍を繰り出す。防御に専念しても時折危ない場面が見られる。かなりきつめだ。相手は攻撃されないとわかりきっているからこちらの行動も外からの攻撃も気にせずに攻撃全振りなのもきつさの原因だろう。時折ミスしては足をかすられ、胴に傷を作る。その都度治療はするが長続きはしない。みんなと違って僕には疲労の蓄積もあるので限界が速いのも原因だ。菫も積極的に支援してくれているが本体には当たらないし、どうにもやりにくそうだ。ワンマンプレイばっかりでこういう訓練はしてなかったなぁと今後の課題だなと思考の片隅で考える。守られている萌黄は前衛が動かず止まっていると手が出せずにいる。それでも予想外の動きで邪魔にならないようにと集中して不要な移動をしないように心がけている。鶸も桔梗も動きを見せないがその視線はリーダーに集中している。リーダーが稀に攻撃を飛ばしていってもしっかりと対処している。意味がありそうで進歩のない一方的な攻防が十分続いた頃、僕の疲労が大きなミスを呼ぶ。しまったと思う間もなく槍は無慈悲に腹を突く。
「危ないっ。」
その危機を事前に察知していた萌黄が僕に体当たりをする。槍は萌黄の腹を引っかけ、そして僕の剣が触手の表面にはじかれる。また触った?リーダーは過剰反応してその場を離れる。負荷も疲労もそろそろ余裕は無い。
「鶸ー、できるかっ?!」
気力を振り絞るように大声で鶸に問う。僕でも気がついたならきっと鶸なら出来るはず。
「任されましてよ。」
鶸は不適に笑い力強く返事をする。
「貴様等に出来ることはない。おとなしく贄として朽ち果てロ。」
終始諦めさせるような言動、完璧でない防御、不意に当たる攻撃。常にこちらの精神を揺さぶり、わずかな傷も許さない。策にはめ込んでいると思いきや、稚拙で倒しきれない攻撃力。
「こんな大がかりな仕掛けがないと、その種族の特性を十二分に発揮しないと対等になれないほどお前自体は弱いっ。」
「貴様等とて我に攻撃を当てられないでアロウ。」
苛烈になるが雑にもなり始めている槍を丁寧に受け流しながら逆に煽る。
「地が出始めているほど慌てているのに何を言っているやら。お前に攻撃が当てられないのは確かだけど攻撃が出来ないわけじゃない。」
証明してやるかのように槍を大きく突き出してきたのを強くはじき体制を崩し攻撃してやる。当然外れる。攻撃が出来るという証明のただの威嚇行為でしか無い。リーダーはバランスを取り直して少し落ち着いたように槍を構え直す。攻撃が外れるという証明でもある。
「正直倒すだけなら洞窟を砕いて生き埋めにするなり、油でもまいて焼いてやるだけも処理できるんだろ?」
リーダーは少しだけ動くのを躊躇した。
「味方も守れない、自分しか守れないその魔法でどれだけの範囲でしか守れないかはすでに見当がついている。ここで対峙しているのは確実にお前を葬ったと胸を張って報告するためだ。」
離れたリーダーに当たらないと分かっているショットガンを二発ばらまく。ただ意識的に地面に当たるように足下を狙う。はじけた石や跳弾した弾がリーダーの足に跳ね返ったりめり込んでいる。リーダーは軽い痛みに驚きその場を飛び退き治療を施す。
「さぁみなさん始めますわよ。」
鶸が実に楽しそうに手を翻して宣言する。すでにメッセージで通達済みなのか菫がリーダーに斬りかかり萌黄が位置を移動する。桔梗は変わらず鶸の側で待機しているがすでに準備を終えているのか動きだけを注視している。鶸が辛そうな顔を忍ばせながらリーダーと菫が戦っている場に飛び込む。この様子からすると僕は使わないつもりか?蚊帳の外は寂しいと思いつつも構えて様子見をする。
「傷を負わせて申し訳ありませんわ。治療して差し上げますわね。」
鶸が底意地の悪そうな顔をしながらリーダーの体に触れる。それほど鋭く差し出されたわけでもないその手はなんの障害もなくごく普通に魚人の鱗に触っている。予想されていた事の一つ。攻撃して傷つけるという意図がなければ触れることは可能なのである。
「貴様、何のつもりデ。」
振り返って振り払おうとするリーダーの槍の柄を鶸は体を沈み込ませながら回避する。
「暴れては治療が出来ませんのよ。厄介な患者さんですわねぇ。」
鶸は子供をあやすようにされど妖しく語りかけながら腕甲から飛び出る魔力糸でリーダーの足首、そして右腕を拘束する。これに関してはリーダーも含めて全員がびっくりである。
「ほほほ。たかが寄生虫の分際で攻撃は当たらないと高をくくっていましたか?魔法そのものは悪くありませんが貴方の存在自体が欠陥でしたわね。仲間を守れず自分しか守れないその魔法は寄生虫と被害者の魚人としっかり分けて考えれば、こんな簡単な抜け穴がありますのよ。」
鶸が高笑いをしながら悠々とその場を離れる。
「まずチェックですわ。さぁどうなさいます?」
鶸がゆっくりと歩を進めながら振り返りもせずに大きめの声でリーダーに語りかける。両足首を絡み取られ右手も後ろ手気味に足首と長めの糸で結ばれ自由が効かない。だが左手と数多の触手は自由ではある。リーダーは触手を伸ばしそれらの力で瞬間的に上空に飛び上がる。逃げるつもりか。だが解答が示された今もはや手遅れである。僕はライフルに持ち替え魚人を狙って十発撃ち込む。リーダーは反射的に障壁を張り防ごうとするも、障破の乗った弾丸はたやすく防御を貫いてリーダーの体を貫通する。バランスを崩して空中から地面に向かって落ちる。
「馬鹿ナ。我らノ秘奥ガこんな姑息ナ手デ。」
「言わずとも貴方ならやれると思っていましたわ。桔梗。」
鶸の読み通りに動かされ、桔梗も予定通りという感じに萌黄とリーダーを鉄のドームに閉じ込める。
「当たると分かっていたらさすがに当てられないかもしれませんからね。萌黄、よろしくてよ。これでチェックメイトですわ。」
鶸の宣言と共に鉄壁の中ですさまじい金属音が鳴り響く。小さな無数のヒビが鉄壁に現れ始める。ヒビは繋がり大きくなり、それでも止まない金属音に鉄壁が膨らんだと思った瞬間に鉄壁は粉砕された。欠片が舞い散る中で目をつむった萌黄がショットガンを構えており、その前にはリーダーであろう肉片が横たわっていた。
「あー怖かった。」
怖さを微塵も感じさせない萌黄の声が戦いの終了を告げた。密閉された鉄壁の中は恐怖のピンボールの世界であったであろう。恐らく狙うつもり無くばらまかれた散弾が魔法の効果を受けずにリーダーの体を貫き続けたのだろう。
「よく無事だったな。」
「一応壁の曲面は調整したつもりですのよ?最も萌黄ですからその辺はなんとかなる気がしてましたけど。」
鶸の萌黄への信頼感がすごい。萌黄がこちらに突っ込んでくるのでしっかり受け止めてやる。
「よくがんばったな。」
僕は萌黄の頭を撫でて労ってやる。が、周りからの視線がなんだか痛い。
「みんなもよくやってくれた。被害大きくも死を免れたのは君らのおかげだ。」
改めて皆を労う。菫と桔梗はかしこまり、鶸は当然と言わんばかりに胸を張る。
「アレの捨て台詞を鑑みるとこれが連中の固有特性といった所かね。」
一通り皆が満足したところで鶸に話を振る。
「この【深層忌避】と言うべきか対象への攻撃を意図的に外させる魔法は種が分からなければ恐ろしいものですわね。もう少しアレに攻撃力があれば私達も持ちはしなかったでしょう。」
鶸がため息をつくように反省を述べる。
「恐らく広義でみればスペクターワームの特性は寄生、誘致、精神操作でしょうね。見聞きした話と多きく外れないかと思いますわ。」
僕は半分分からず分かったつもりで頷いておく。
「魔法のコスト的な問題で自分しか守れないのかもしれませんが、それが解決したとしても種が割れると穴が多いとも言えますわ。」
転用して開発すれば面白そうであるとは思ったけど鶸的にはそうでもないようだ。
「自分しか守れないという点では寄生主のような欠陥がなければそれほど悪くないように見えますが、精神作用に依存する部分が多いのでただプログラム的に動いているパペット、ゴーレムの意思が薄いタイプには効果がないであろうと思われること。後もっと単純な方法としてこういう方法もありましたわね。」
鶸が木壁を柱のように作りだし僕の腕を押し出す。
「殺意を持った攻撃でも二次的三次的に他者を介した場合は防げなかったのでしょうね。【念動】に類する魔法や他人を操作するような魔法でも簡単に防御を抜けそうですし。何より触れること自体はさほど難しくないので接触から発動できる攻撃なら恐らく外れないかと。」
確かに条件が分かった今ならすり抜けられる攻撃が多いように思える。
「ワンポイントで何かいかせられないか考えてみるか。」
「そうすると対象化してしまってネタバレや解除されやすく、抵抗される可能性があるのがまた難ですわね。」
寄生体のように領域で強制発動させる方法はコストは高いが確実性が高いらしい。ただし相手にはその領域を回避するという選択があるため、必ずそこに来なければならないという条件環境が大事なのだという。初見殺し的で面白いと思うのだがコストに見合うかは微妙だと鶸は言う。
「ご主人様、降伏してきた者がおりますがいかがなさいますか。」
菫が隅から上がってきた魚人を正座させながら僕に呼びかけてくる。
「降伏?今更感あるけど寄生主に支配されていたんじゃ仕方ないかなぁ。」
僕はどうしようか悩みながら歩み寄る。
「ぎょたびゃひゅとうなしひゃいから・・・」
「ごめ。全くわかんない共通語でなくていいから自分たちの言葉でお願い。」
僕はオーバーリアクションな身振り手振りで説明する。魚人がなおさら分からない言葉で話し始めるがなお分からない。それを承知で話させたのは本を使って言語を得るためである。
-『水棲種魚語』を構築しました。-
「わーわー、これで通じる?」
「聞き取りづらくはありますが・・・陸人でありながら我らの言葉を処す努力をするとは、なんと慈悲深い。」
所々変に聞こえるのは人間と魚人の語彙の差だと思われる。シチュエーションとしては分かるのだけど頭の中で人類言語に変換されるとなんとなくおかしく聞こえる。
「このたびは不当な支配から解放して頂き誠にありがとうございます。」
たぶん振り出しに戻ったんだと思う。
「解放したつもりは無いけど、私としても目標のついででしか無い。」
僕は問題なさそうに言葉を返す。魚人は少し鯉のような頭をねじって考えている。明確に首という部分がないせいか体の途中から捻られているのがなんともおもしろい。
「それでも私達は助かりました。多くの同胞を失いましたが、少なくない同胞も助かりました。あなたには私たちに恩を売る義務がある。」
魚人的な習慣なのだろうが今この瞬間にはとても困るとしか言い様がない。恩を売る義務ってなんだよ。
「取りあえずこの粘体は何か聞いておきたいかな。」
僕は膨れ上がりそうな恩を予想しながら見捨てられなくなっている魚人を見ながら尋ねる。
「ゆっくり眠る為の保護膜であり、子を守る為のものでもあります。」
気になってちょくちょく質問を挟むと通常半寝半起きが出来る種族特性があり運動性や思考能力を犠牲に十日程度ならずっと動き続けられるという。しっかり休む時は人間で言う睡眠を取るのだがその際に保護膜を張って休む。保護膜は流水から体を守ってその場に固定したり、破壊されると即座に体に警告が発せられ即座に目覚める仕様らしい。子を守るのは卵生ということもあり卵を守る為に警告機能を活用するといった感じ。
「大分話が右往左往したけど、この粘体に捕らわれている魚人達の一部を助けられるかもしれない。」
目の前の魚人は驚きはするもどうするか悩んでいる様子でもある。目の前にいる魚人と見比べると粘体の中にいるのは鮭ともマスとも言えない微妙な間にいるような頭が多い。最も分類上は同じらしいので顔?は個性なのかもしれない。そして目の前にいるのはのっぺりした鯉である。種類で階級差でもあるのかな?
「いえ、ここは種の復興の為にも可能なら助けていただきたい。」
長考の後、鯉の魚人は覚悟を決めたように発言した。
「分かった。順番に処置しよう。」
僕はそう言って魚人達に手伝ってもらい、粘体から眠った魚人達を連れてきてもらい萌黄に処置をしてもらう。最初はどこに寄生しているか分かりづらく失敗し、やはり成体化直前の個体は二割の失敗例が出る。萌黄のいい訓練になったと割り切りつつやはり人型から外れているのが幸いしたかあまりへこまずに最終的には二十二体の魚人の救出に成功した。
「私達を救っていただきありがとうございます。私達はあなたの恩を受けよう。」
階級構成はよく分からないが一番大きな個体が魚人らしく礼を述べる。
「それはもうお腹いっぱいなのだけど、取りあえず助ける要請をしたのはあちらのの魚人なので礼はあちらにお願い。」
やはり派閥違いのような関係にあったようで助けられたことが意外だったようだが、そこは魚人らしく礼を述べていた。そのままごまかして逃げるように帰ろうとしたが二種の魚人からせがむように恩を頼まれてしまう。そろそろ水に戻らなくても呼吸は大丈夫なのかと言って逃げたい。
「わかった。この洞窟はこの上の人間が住んでいる者達の非常用通路になっている。あなたたちにはここを管理して上に住んでいる人間達がいざというときに無事に逃げられるようにしてやって欲しい。」
僕は僕に関係ないところで完結して欲しいという想いで洞窟の管理をお願いする。
「わかりました。私達の一族の名にかけて生と住処を与えてくれたあなたの恩に報いるため種族の壁を越えて願いを叶えよう。」
両代表が改まってそう宣言する。なんかどうでも良いことが滅茶苦茶重い話になった気がするけど気にしないことにした。もうきっと関係ないし。きっと彼らは上の人間と対立するまでここと逃げる者達を守るだろう。上がどんな人間に住み替わってもしても。僕らは簡単に挨拶してその場を去った。後ろから盛大に見送られているがあえて無視して洞窟を出た。元々来た通路は逆侵攻防止の為か戻ることが手間になっていたので、壊してまで戻ることはあるまいとおとなしく外から戻ることにしたのだ。今回はそこまで下流に行っているわけでもないのですぐ町に戻ることが出来た。領主に解決の報告をし、井戸水に関しては二、三ヶ月は監視しながら使った方が良いだろうと追加の警告を行う。領主は原因駆除に喜び僕らを讃えた。町の規模として少なくない報償も用意されたが金には困っていないこともあって半分だけ受け取ったが、その行動が返って喜ばれ讃えられる結果となった。歓迎されるために頼み込まれた一泊だけして僕らは思ったより時間をかけてしまったこの町を後にした。ただ時間をかけただけに得られたことは多く十三村、三町、二都市を速やかに解決に導き約一ヶ月をかけて元凶たる村に到着した。閑散として生活の気配を感じない村。その片隅にそびえ立つ気味の悪い銀色の肉塔。五mはあろうかという脈打つそれは巨大になりすぎた寄生体の最終形態なのだろうか。
「見てるだけで頭が痛くなりそうだ。」
「実際に軽微な精神干渉を受けていますね。」
「あわよくば乗っ取ろうと噛みついてくる寄生虫も鬱陶しいですわね。」
「きもい。」
方々で感想を述べる桔梗には至っては見るのも嫌というように口元を押さえ目を背けがちにしている。地面には小石と間違えたいと思うほどの寄生虫らしい小さな芋虫が転がっている。
「元凶と思えそうなんだけど、あれを潰せば解決すると思う?」
「この国に広がりきったと思われる寄生虫をすべて駆除する足がかりとして、供給元を絶つのは大事だと思いますわよ。」
今まで狡猾にうごめいていた寄生体を見て来た身としてはあんな目立つ物が元凶とは思いたくないのだが、鶸としてはどうでもよく増える原因になるものは減らしていくべきだと言う。言うこともごもっともだと思ったので桔梗の方を見て頷く。事前に相談しておいたことだが村を生かすことはもう不可能だろうと判断から遠距離から広域魔法で安全に駆除する方向で話を進めていた。
【天変地異】
形相な名前の魔法だが指定範囲内に継続的にあらゆる属性の攻撃を加える魔法である。消費当たりの範囲は広いのだが持続当たりの攻撃範囲は意外と狭い。概ね指定範囲の四~八割の範囲に気まぐれのように攻撃が発生する。常に攻撃は発生するのだが何分狙って出来ない分一点への攻撃効率はすこぶる悪い。ただ今回はこの辺にいっぱい敵がいる、という予測だったのでしばらく維持すればなんとかなるだろうというこれまた雑な話でもあった。近づくとまた面倒くさくなる可能性もあり、楽を出来るに越したことはないという判断でもあった。火柱が上がり、竜巻が発生し、稲妻が各所に落とされる。
「なんともまぁ賑やかな魔法だね。」
「前提条件が多すぎる魔法ですわね。」
僕と鶸が苦労してるであろう桔梗の横で雑な感想を口にする。嗜めるような菫の視線を受けてライフルを構えて肉の銀塔を狙う。
「とりあえずワンカードリッジ。」
様子見のつもりで乱射する。止めてくるかと思えばそのまま肉をまき散らし貫通する。随分柔らかいな。萌黄も参加して塔を分解していく。抵抗される気配がなく巨大な塔は一分も絶たずに倒壊していく。
「拍子抜けだな。」
「女王蟻みたいなものなのでしょうかね。」
あっさりと分解した塔を眺め様子を伺う。見守りながら二分。予定の広範囲駆除を完了し村へ移動する。すでに村という原型を残していない焼け焦げた更地なのだが、僕らは焦げた大地を踏みしめながら周囲の様子を伺う。鶸が魔法を使って調査をしているのでそれを守りながら周囲を見回る。警戒しながら無言のまま焼け野原を歩く。たっぷり二十分使って一週二週と中心地へ向かうように螺旋状に進んでいく。中心にたどり着く頃に鶸が深いため息をつく。
「本当に反応がありませんわね。殲滅完了と言ってよいかと思いますわ。」
全員が警戒感を解いて力を抜く。
「最もここからどれだけ広がったかは全くわかりませんけどね。」
鶸がふんっとけだるそうに息を吐く。
「ルート変えて成体を潰しながら戻ってグラハムに報告するか。対応方法さえ分かってれば正規兵なら対応できそうではあるけど。」
皆の顔を見ながらそう提案する。
「依頼を達成するという意味では問題ないかと思われます。ただ私達だけで対応するには明らかに時間がかかりすぎますので最初から彼らに任せてもさほど時間は変わらないとも思います。」
犠牲は増えるでしょうがと菫は付け加える。出来るだけなら助けたいと思うが見ず知らずの人を無限に救えると思うほど傲慢でもないし正直やりたくもない。
「別段急ぐ必要はありませんが、ルートを変えて直線的に行けばよいですわ。」
鶸が地面に絵を描いている。桔梗が遠慮するように幻影で地図を展開する。鶸が恥ずかしそうに礼を言いながら改めてルートを提示する。
「付近に小さな村がありますのでその辺りで救助と休憩をしながらという感じですわ。」
特に負担もなさそうなのでそのルートを採用して帰路につく。途中十の村を救助しつつ十五日後には町に戻ることができた。だがそこに待っていたのは理不尽な仕打ちであった。
「領内騒乱、住民殺害の実行犯および無許可の魔獣引き込みの罪により遊一郎一党を拘束する。なお越後屋含め従業員は接収、拘束済みである。」
ちょっと約束が違うんじゃないかなぁ。門から出てきた騎士に武器を突きつけられ抵抗せずに拘束を受けるように指示される。
「その前にグラハム氏とは面会できますか?」
「そのグラハム郷の指示である。そもそも貴様のようなヤツが面会できるわけなかろうがっ。」
騎士の怒号を聞いて僕は大きくため息をつく。鶸はおとなしくしているが苛ついてるのが分かる。菫と桔梗の怒気が高まり、萌黄も身構えてやる気満々だ。
「どうしたものかなぁ・・・」
「どうしたもこうも我々の指示に従えと言っているのだ。」
僕がぼやくと騎士が剣を僕に突きつけてくる。一瞬金属がこすれるような音がした後騎士の剣が根元辺りから地面に落ちて金属音を響かせる。すでに菫の姿は見えず、桔梗が身構え萌黄も銃を構えている。
「グラハム氏がこの程度で僕らを抑えられると思っているとは思いたくないんだよねぇ・・・」
桔梗の短い動作と共に騎士達がぴくっと体を強ばらせて直立のまま受け身も取らずに倒れる。
「あれ、私の出番は~・・・」
萌黄が不服そうに銃を下ろす。
「門番さん、申し訳ありませんが門を開けてもらえませんか?」
門番は後ずさりながらどうしようかと仲間の顔を見て判断に困っている。
「こういう時の気が短いのは困りものだね。」
門の片隅に剣閃が走り一角に歪な穴が開く。すでに門の裏に回っていた菫の仕事である。さあどうぞと言わんばかりに迎えられてもちょっと躊躇する。
「機会があったら修理しときますので。」
僕はちょっと申し訳なさそうにしながら歩き出し穴を抜ける。町の中は平和そのものである。
「さてお話聞かせてもらいましょうかね。」
門番がどうしようかとあたふたしているのを尻目に僕らは気楽にグラハム邸を目指して歩き始めた。
ワーム編は終了です。閑話を挟んで新章に入ります。
鶸「負荷が重くてだるいですわ。」
菫「気持ちはわかりますがだらしないですよ。桔梗を見なさい。」
鶸「桔梗の負荷も私が請け負っているのですけどね。ぷるぷるしてるからつついたらきっと倒れますわよ。」
萌「ねーねー、つっついてもいい?」
桔「や、やめてくださいまし。」




