僕、詰める。
町に戻って真っ先に領主邸に向かい状況の報告。根源であろう寄生体の居場所に目処がついたこと、今後困るだろうと魚人に関しては処理する事を約束した。
「ばれないように近づかなさすぎてそういう管理がなされないのが問題でしたね。後日対策しませんとな。」
「その辺はそちらにお任せします。私たちは駆除を行うだけなので。」
領主は何か期待しているようだが僕としては関わりたくないのでやんわりと拒否しておく。
「数日内には再度向かいますがそれまでの間水の取り扱いにはご注意ください。」
最後に警告とお願いをして領主邸を去る。その日は宿で特に何もせず寝る。
翌朝、道中で小話していた話を皆でまとめる。どんな攻撃をされようと装備と魔法でどうにかなると判断されたが、結局対策として最も重要なものは鉄砲水対策であった。そこそこ規模が大きな魔法なので単独ではそれほど連打はできないだろうが、魔方陣として固定して会った場合は話が変わってくる。込められた時間によってはそれこそ莫大な回数を行使できるだろうと予想された。流されないようにするか、そもそも流水ごと魔法を打ち消す方法が必要である。そもそも撃たせないようにするという考えもあるが、こちらは術者本体も補足できていないのに実行するのは困難であろうと考えられた。
「既存の魔法で流されないようにすることもある程度自由を確保することも出来ますが、こちらの行動が著しく阻害されるため防御に不安が出ます。」
桔梗と鶸の一案である【束縛】で無理矢理その場から動けなくして、【水中行動】で水中での自由行動を得る。ただし移動が全く出来なくなるので遠距離への対応が難しくなること、防御判定的にAGI部分の大部分が失われるであろうこと。全体的にAGI便りで防御を得ている者が多い中でかなり不安な要素ではある。
「その実あの中でも鈴なら単独無双できるのですけどね・・・」
鶸が何やら悔しそうにつぶやく。だが鈴には攻撃力が足りなすぎて無双は難しいだろ。
「爆弾でも持たせて敵中で踊っていれば良いだけですわ。あの子なら最悪爆発の中心にいても避けそうですもの。」
なんとなくその気持ちは分かる。
「まあ・・・今更呼び寄せるわけにもいきませんし、堅実な案を考えましょう。」
鶸が自分で出した小ネタを打ち切る。
「水か・・・通り過ぎるまでどこか瞬間移動・・・いっそのことお化けみたいに無視出来ればいいけどね。」
「【霧化】は危険ですが【幽体化】はありかもしれませんね。」
僕のつぶやきに桔梗が反応する。
「水自体が魔法でしたから【幽体化】しても同じでしょうに。」
鶸が案を却下して桔梗がしょんぼりする。純粋な物理で構成された攻撃は無効化できるが、ある程度魔力がこもった物質や魔力で稼働している魔法については防御的意味は薄い。これは今戦っているスペクターでも散々実証されていることだ。
「あー・・・当時はネタ扱いだったけど。城を持って行くのはどうだろう。」
僕の案に鶸が何言ってるの?みたいな顔でこちらを見る。
「さすがに城は収納に入らないけどさ。こう流線型の構造物を・・・」
僕は幻影の魔法を使って玩具の新幹線のような形状を提示する。
「道幅も狭いあそこでどうやってこんな物を置くつもりなんですの?」
鶸が呆れてつぶやく。
「だめか?」
「悪いとは言いませんが・・・設置と固定をどうするかですわ。」
鶸が難しい顔で思案する。
「条件発動を使って石壁か鉄壁の配置を決めておけば出来そうな気がします。」
桔梗が意見を述べ、幻影を使って道や壁をつかった形状を作り出す。横長の鋭角な三角錐である。瞬間的に壁を出すケースが多いので概ね固定区画の方形で出現する壁系の魔法だが、時間とイメージさえできれば厚みを伴った平面形状という意味では自由度が高い。三角形でも台形でも可能なのだ。固定すべき場所にある程度接着している必要があるので円形で出して転がそうとするのは不可能だが。現地で作ろうとすると隙間が出来たり間に合わなかったりするかもしれないが、条件発動ならしっかりした形を瞬時に展開できる。
「十分対応できそうですわね。問題は回数ですわね。」
条件発動された魔法の保持数はランクに依存する。僕と鶸がⅤ、桔梗がⅥである。
「さすがに十六もいらんでしょう。」
「壁魔法を構築するときに壁だけで閉じることは出来ませんのよ。二回分で一構造になりますわ。」
僕が雑にいうと鶸から指摘が入る。円筒や四半球にはできるが、円柱やドームには出来ない。
「そうすると僕と鶸で二回、桔梗で三回か。」
「・・・貴方の危機管理がなってないって言うことだけは分かりましたわ。桔梗もちゃんと教えて差し上げませんと・・・」
鶸が呆れ声で駄目だしをして桔梗に話を振る。桔梗は恐縮そうに頭を下げている。
「条件発動を持った術士の定番・・・として不意打ちに対する防御や致死ダメージへの回避手段に『認識していない範囲からの攻撃』や『昏倒時に治療』を施しておくのが・・・その常識といいましょうか。」
桔梗が尻すぼみになりながら申し訳なさそうに解説する。桔梗も鶸も二つは保持しているようである。萌黄頼りで一切してませんでした。すみません。
「そこはそれ貴方の尻拭いは私たちの仕事ですから問題はありませんわ。貴方が二回、私が一回、桔梗が二回の計五回分が回避可能な回数になりますわね。」
鶸が微笑む感じに口角を上げて話を締める。なんでそんなに嬉しそうなのかと。
「まあ、わかった。それまでに術者までたどりついて倒せばいいんだな。」
僕はぶっきらぼうに答え、鶸がにやつきながら頷く。
「大砲が数あるとは思えないけど・・・あると分かってれば対策はいらないかな?」
「そうですね・・・あると分かれば回避も防御も苦にはならないかと。」
「貫通さえしなければ・・・問題はないかとおもいますが、相手もこちらの防御を見ていますからね。なんとも言えませんわ。」
正直回避できそうなのは菫とかろうじて萌黄くらいか。
「いる、来ると分かってるならもう明かりを出してしまうか。探査系の魔法を使った方が精度が高いのは確かだけど。」
どうする?と鶸を見る。鶸は少し思案顔をして明かりをつけていきましょうと結論を出す。
「それ以外の手札は分からないけど、水系と石系の魔法には注意していこう。あの感じだと雑兵の物理系は水流さえなければそこまでではないとおもうけど。」
再び鶸を見る。少し長めの長考をした後、鶸がすっきりしない顔で頷く。
「何かまだ不安か?」
「不安材料は正直いくらでもあるのですけどね。今まで彼のワームの本領であった大量のスペクターが一切いなかったこと。そもそも今までのワームもあれらの本質であるような魔法が何一切使われていないこと。」
「確かに。」
鶸の発言にスペクターの件については気になる。装備的なものもあるが一般的な評価からすれば魚人よりスペクターのほうが討伐難易度は高い。水流によって魚人が有利だったとしてもまったく投入しない手はない。本質であるような魔法というのはさっぱりだけど。
「本質である魔法というのは?」
分からないことは聞く。
「魔物の姿、性質から特に保持されやすい魔法や特殊能力ですわね。スペクターなら幽体という存在と生命吸収のようなそういう代表能力ですわ。」
「はぁなるほど。それであのワームのその手は分からないと。寄生体っていうことくらいか?」
鶸の答えに納得したようなしないような曖昧に直感で返答する。
「寄生、その後寄生主に対する精神攻撃・・・。恐らくこの辺りだと思うのですが。これだけならそうそうかからないと思うのですけどね。」
「対策は?」
「かかる精神作用にもよりますけど。貴方と桔梗と私が同時に汚染されなければ大抵のことは抑制か治療ができますわ。」
答えが出ているにもかかわらず鶸の曇り顔は晴れない。
「情報も予測も立たないなら対策がしようがないのでいつも通り行き当たりばったりなのでしょう?できる限りのことはしますわ。」
行くしか無いのだから分からなくてもやるしかないというのが鶸の結論のようだ。
「鶸としての最良手はどうなの?」
「それは近寄らない事に決まってますわ。好き好んでリスクを負う必要はありませんのよ?でも、これは必須の依頼ですわよ。」
鶸の何言ってるの的顔がなんとも目を合わせづらく視線を外す。
「じゃあ、明日朝出発と言うことで。」
僕がそう締めて皆が頷く。
「満足に開発できる工房があればいいのですけどね。」
「さすがに十全にするために今から戻るわけにもね。寄生体の広がりが結構な速度になってるからね・・・」
菫のぼやきに答えながら軽く訓練して時間を潰す。
翌日、ほんの少しの不安を抱えながら再び洞窟へ降り立つ。【浮遊光源】を各自二つ三人で六つ展開し洞窟の道を走り始める。罠がかけられている可能性もあるが踏み潰すつもりで走る。侵入者に気づいた魚人達の攻撃が始まるが桔梗の氷壁と僕の石壁で受け流して駆け抜ける。安易に近づいてくる者達には菫の投擲と僕、萌黄の射撃で追い散らす。
「奥で魔力反応。来ます。」
警戒していた桔梗が宣言する。直に訪れる轟音と鉄砲水。
「第一解放。」
水の流れを見据えて桔梗が左手を突き出し宣言する。宣言がなされると同時に光源の一つが僕たちの側までやってくる。僕らの周りが鉄壁で覆われ瞬間的に外部と隔離される。数拍遅れて壁に何かが当たる音がした後に強烈な震動が起こる。
「いけそうか?」
「洞窟の様子からしても無生物を破壊する効果は薄いですわ。余程の横やりが入らなければ大丈夫ですわ。」
若干不安になる音を聞きながら紛らわすためにも鶸と小話をする。
「魔力反応に終わりが見えます。過ぎ去った後に解除と障壁を同時に入れます。」
桔梗が外部状況を魔力視しながら宣言する。
「解除します。」
音と震動が過ぎた後桔梗が力強く宣言すると鉄壁が消え張り付いていた水しぶきが落ちてくる。目の前には壁を解除しようと近寄っていた魚人と水流に流されたであろう魚人が後方からやってくるのが窺える。
「吹き飛べ。」
「どっか~ん。」
僕と萌黄が景気よくショットガンを打ち鳴らす。かちかちと堅い物に当たる音がすると同時に前方の魚人達の上半身が吹き飛び、後方の魚人達に無数の穴を開け八体の魚人を即座に屠る。
「寄生体は無しか。憑依すらしてないのも気になるな。」
「ですわよね。こちらに意味がないにしても魚人もさして変わらないわけですし。」
戦力を温存していると見ることもできるが何か引っかかる。考えすぎても始めてしまったものは仕方が無いので移動を促す。再び走り始めそしてまた牽制攻撃が始まる。突然目の前に飛び込んできては足止めを試みられるがその都度吹き飛ばしたいした障害にもならない。そして前回の到達地点までたどり着きそうになった時、奥で爆音が響く。桔梗の顔を見ると頷かれる。
「確認するまでも無かったかもしれないけど・・・今度は僕の番だな。リリースA。」
水と一緒に魚人が流れてくるのを見ながら鉄壁を展開する。数拍置いて先ほどと同じように轟音と震動が響き始める。それに合わせて今度は鉄壁をガツガツと叩く音がしてヒビが入り始める。
「予想してたとはいえ・・・これでは持たないね。」
数カ所でヒビが見られ壁が砕かれようとしている。
「分かってるならさっさとなさいませ。」
鶸が呆れ声せっつく。
「こんな使い方になろうとはね。」
僕は【無生物変形】を行使してヒビのある部分と無傷な部分を速やかに入れ替える。ヒビを後方に追いやり無傷な部分と混ぜてダメージを分散させる。また新たにヒビが出来れば無傷な部分と入れ替えて激流と攻撃をやり過ごす。やっていることは壁全体へのダメージの均等化である。均等化が進めば一撃で穴が開く可能性もあるがこの様子なら水流が通り過ぎるまでは持ちそうである。そして激流の音が通り過ぎる。
「解除。」
宣言と共に消失する鉄壁。障壁がそのまま攻撃しようとした魚人の槍を受け止める。一瞬動揺する魚人を菫が切り伏せる。さらに遠巻きから放たれる遠距離攻撃を桔梗が防ぎ、熱線による反撃で目に見える魚人を撃ち抜く。前面の障害がなくなり、僕らはまた走り始める。そして撤退地点を越え曲がり角を曲がった奥にある粘膜の山。多くの魚人が粘膜の中で漂っている。その粘液の前にたたずむ銀の触手がまとわりつく魚人とおぼしき生き物。華美な装飾のトライデントをかざし何かを準備している。
「アレが元凶か。敵とはいえ同情したくなる光景だね。」
寄生体が増えるためだけの苗床のようにされている魚人達に若干同情する。
「だけど人の領域が侵されている以上容赦はしない。」
僕はライフルを構え直し元凶と思われる寄生体リーダーに向かって全力で撃ち続ける。遅れて萌黄が続いて撃ち込む。数秒で五十近い数の弾丸が寄生体に撃ち込まれるがそのすべてを障壁で受け止められる。
「このまま足止めして負荷超過まで追い込む。」
僕はそう指示し菫と鶸がその場で護衛、桔梗が援護射撃をするように構える。
「あ・・・攻撃来ます。」
桔梗が敵の魔法完成を検知して警告を出す。桔梗と鶸は即座に障壁を展開した。寄生体リーダーから甲高い奇声が発せられ洞窟の中を響き渡る。その音量に耐えきれず攻撃を止め耳を塞いでしまう。続けて訪れる魔力の波動により明かりや障壁、移動速度向上などのかけていた魔法が次々と解除される。
「ディスペルか。」
急に明るさが無くなり真っ暗になったように見える。そしてまた奇声を受ける。奇声から身を守る為に【静寂】で音を消し去るのは相手の手の平の上のような気がしてとっさに鉄壁を呼び出す。
「リリースB。」
奇声は若干和らぎ皆で一息つく。
「各自視覚確保をしてヤツを倒すぞ。」
「見えないのは貴方だけですわよ。まだ頭がくらくらしますがやるしかないでしょう。」
「切り込みます。」
「魚人を蹴散らしながら行くよ。」
「私も露払いを。」
「解除っ。」
鉄壁が消えると同時に菫が走り始め、萌黄が姿を見せ始めた魚人を迎撃する。菫に触手と魚人が襲いかかる。
「成体が出てきたか。桔梗、任せる。」
僕はショットガンを構えて水面の陰に撃ち込む。桔梗は氷の槍をばらまき始め、更に菫の近くの寄生体魚人を【拘束】で行動を阻害する。隙ができれば菫ならそれほど苦労はしない。一瞬で処理される魚人を見る傍らでスラッグ弾は不発に終わった。障壁と水壁に捕らわれて水中の魚人を倒すには至らなかった。
「仲間を守る気があったとは恐れ入ったよ。」
とぼやきながらライフルを構え直してリーダーに向かって連射する。だがリーダーは奇妙な動きですべての弾丸を回避する。
「は?」
「何をやっているんですのっ。」
回避したのは相手なのだが鶸からの容赦ない叱責が飛ぶ。
「これならっ。」
弾を微妙にばらけさせながらスキルに任せて回避しづらいように打ち続けるがリーダーは悠々と回避する。
「ちょっと真面目になさいな。」
「相手が全部回避してんだから仕方がないだろっ。」
「貴方一体何を言ってるんですの?」
僕は攻撃を続けながら鶸に抗議するが鶸が驚愕の声を上げる。鶸が慌てたように僕に魔法をかけている。ワンポイントで強化したところで当たるとは思えないけど・・・。案の定リーダーはどう撃っても弾を回避し続ける。視界の端では菫と萌黄が協力して寄生体魚人を倒しているのが見える。桔梗は随所に現れる魚人を牽制、打ち抜きながら菫達にも支援を送っている。
「これでもないんですの?一体何をされて・・・貴方、ちょっと撃つのをやめなさい。」
「撃てったり、撃つなって言ったりなんなんだよっ。」
「落ち着きなさい。」
鶸の発言に苛ついて僕は声を荒げる。すかさず鶸の平手打ちが飛んできて洞窟に乾いた音を響かせる。
「アレに何かをされていますわ。このまま撃っても一生当たりませんわよ。」
鶸の必死の顔に僕は呆然とする。
「貴方にはどう見えてるんですの?アレが回避してるようにみえるんですの?」
鶸の言葉早い質問を聞いて僕は思わず頷く。
「アレはあの場から動いていませんわ。貴方がアレに当てていませんの。」
鶸の言ったことが理解出来ずに頭をかきむしる。僕は確かにリーダーを狙って弾を撃っている。
「私が試せれば良いのですけど、あそこまで届く攻撃がありませんのよね・・・桔梗、数発お願いしますわ。出来れば誘導性でも爆発でも必ず当たるようにして頂けるとなおよいですわ。」
鶸が少し悩み、桔梗に支援を請う。桔梗は頷き手をかざす。リーダーの周りで巻き起こる四度の爆発。だがそれらはぎりぎりでリーダーを巻き込まない。周囲に小さな雷球が無数に浮かびリーダーへと飛ぶ。それらはリーダーを通り過ぎ後方の粘液へと吸い込まれる。鶸が先ほど見ていたのはこの光景かと自分でも目を疑い桔梗を見る。
「どうですの?」
「爆発は巻き込んだつもりだけど無傷でした。雷球は当たってもすり抜けている感じでした。」
「全く当たっていませんからね。」
桔梗の答えに鶸がため息をつく。鶸が何か魔法を使って周りを確認している。こちらの攻撃が止んだのを見てリーダーがトライデントをバトンのように回す。目の前に巨大な水の塊が現れこちらに飛んでくる。とっさに前寄りに障壁を展開するが、水弾はそれを飲み込み回り込むようにこちらへ飛んでくる。
「マジか。」
次の手を考える内に巨大な水弾に体を打ち抜かれ洞窟の壁に叩きつけられる。ダメージはないが何が起こったか判断が出来ずに混乱する。こちらが立て直す前に更に水弾が準備され放たれる。倒れてる二人を放置するわけにもいかず洞窟の壁から受け流すように石壁を展開する。水弾は石壁に張り付きスライムかと思わせるように器用に乗り越えて襲いかかってくる。僕、桔梗、鶸は水に巻き込まれながら洞窟の道を転がされる。
「そのうち落とされますわね。防具が吹き飛ぶ方が早いかしら・・・」
鶸がのんびりしている暇はないとつぶやきながら立ち上がる。
「解析してる暇はくれませんが、何かしらの魔法でこちらの攻撃を外されていますわ。今のところ個人ではなく領域単位なのは確定ですわ。当面は一カ所に固まっているわけにはいきませんので、貴方は私たちを放って回避に専念してくださいな。できるのでしょう?」
「君たちはどうするんだ。」
「それはこちらの仕事ですわ。」
鶸が突き放し、桔梗も頷く。
「だらだらしないっ、貴方に倒れられるほうが私たちには困るのですのよっ。」
「ご主人様行ってください。最悪私たちには鉄壁のシェルターがあります。」
渋る僕を桔梗と鶸が急かす。菫達は前線を押し上げているがリーダーまではまだ遠い。リーダーは水弾を発射しにかかっている。
「わかったよ。いざとなったら隠れててよっ。」
僕は【移動速度強化】をかけて洞窟を走る。水弾の軌道上から外れ水弾は桔梗と鶸を包む。
「回避しづらい地形で防御困難な魔法。中々やってくれますわね。」
「第二解放。」
桔梗と鶸の声を背に僕はリーダーを止めるべく走る。鉄壁のシェルターを一瞥してリーダーの防御のからくりを考える。当たらせるつもりでも当たっていない。むしろ自分から外しているようなイメージ。それならと当てるつもりなく爆発系の魔法をかするように撃っても無傷に見える。やはり当たっていないのだろうが客観視できるものがいないと判断に困る。そう考えている内に菫と萌黄に追いつく。
「リーダーへの攻撃が当たらないようにされている。観測がいる。」
僕はたどり着くなり菫達に言う。
「まずはこの先兵をかたづけませんとね。」
「適当に撃ってれば逃げちゃうからあとどれだけいるかわからないんだよねぇ。」
致命傷を与えても逃げるように水に落ちていくため確実に倒せたかどうかは分からないようだ。
「菫を主にして落ちるヤツを僕と萌黄でとどめをさそう。」
「ほい。」
菫が頷き、萌黄が軽い返事をする。方針が決まって進む速度は落ちたがしばらくやっている内に敵の数は減っていった。やはり治療されて復帰していたのだろう。そして攻撃が緩やかになった頃に萌黄が反応してリーダーに向く。例の水弾がこちらに向けられている。
「防御は無理だ。回避するしかない。」
僕はそう言って回避を促す。萌黄が不安な顔で首を振る。
「なんかそうじゃない気がする。」
水弾が発射される間近になり、僕は判断に困って少なくない負荷を投資して飛んでくる水弾に【魔術解体】を試みる。水弾の魔法特性は失われこちらに飛んでくるのはただの水になる。それでも水の重量は大きく結構な衝撃を受ける。
「これでよかったか?」
「だいぶましになった感。」
萌黄としては満点ではなかったようだけど危機は免れたようだ。しかし負荷を考えてもぽんぽん出来る物ではない。前方の魚人が減ったことで蹴散らすことを優先にして一気に進むペースを速める。そしてリーダーからの第二波が来る。萌黄を見るが首を振っているところを見ると何かあるのだろう。仕方なく再度【魔術解体】で無力化する。そして足を止めて水をかぶる。途中から水から激痛を受ける信号を受け取る。ダメージはならなかったが防具の痛みがひどい。
「酸か。」
水弾を無力化されることは前提で残った水を酸に変えた模様。
「うひー、最悪ではないけど微妙。」
やはり水弾そのものを受けるわけにはいかないようだ。その前に水弾を何度か受けている僕は同じ攻撃を二度は耐えられない。どちらにせよもう前に出るしかない。
「こっちはなんとかする。頼む菫。」
菫の悲しげな顔が見て取れる。
「ご主人様はどうしてもそうなのですね・・・ご武運を。」
菫は周囲に溶け込むように気配を消し先行する。菫が切り払わない分どうしても前進速度は遅れる。だがそれでもなおリーダーに一方的に攻撃されるわけにはいかない。防御の謎は解けておらず賭けになるがしかたなかった。萌黄の顔が曇る。
「ちょっとまずいかも。」
萌黄的には不安が増したようだ。だがもう進めるしかない。体術やショットガンで道を駆ける。そしてリーダーからの三発目。少しでもましにと受け流すように壁を立てる。次いで二枚目の壁を後ろから立てて上から回り込まれないようにする。そして壁に当たった瞬間水弾が爆ぜた。水から空気があふれるような音と共に無数の水弾が辺りに飛び散る。
「そういうことかよ。」
回り込む水弾ではなく爆発する水弾。確かにこちらは回避するわけにはいかなかった。菫が少し不安だが逃げ切れていることを祈る。
「萌黄。区別はつくか?」
「わかんないっ。でも嫌な感じは構えた時にわかるよ。」
「それで十分。」
雑にはなるが十分対策になりそうだ。数が減る魚人を確実に仕留めながらさらに歩みを落として確実に進む。リーダーからのさらなる水弾の追撃。
「萌黄?」
「さっきより不安じゃない。」
「飛んできたら気合いで走れ。」
「はーい。」
魚人を吹き飛ばしながら水弾の発射を視認して前方に力強く走り抜ける。水弾は洞窟の壁にぶつかりそのままゆるりと谷間に落ちる。いけそうだ。
「その調子で頼むぞ。」
「はいな。」
リーダーからの水弾ペースが増えるがその都度萌黄の直感便りで対処する。そして菫がリーダーにたどり着く。やつが感知出来ない攻撃はどうだ。リーダーが背後からの攻撃に気がついた様子も無く菫の攻撃は空を切った。菫が驚いたようにその場から飛び退き、リーダーは今更気がついたかのようにトライデントの穂先を向ける。これも通じないか。リーダーに敵が近づいたことで残った魚人の多くはあちらにいったようだ。追い打ちとばかりに水面にスラッグ弾を撃ち込む。しかし最初と同じように防がれる。こっちに襲いかかった仲間は支援しないのにどうして今更守った。いや、仲間ではなく水面か水面にいる何かを守っているのか。
「萌黄っ、水面に向かって障破徹甲で撃ちまくれ。」
「あいあいさー。」
萌黄はノリノリでライフルに持ち替え水面に向かって銃弾をばらまき始める。僕も併せて様々なところに銃弾をばらまく。さすがに全箇所を守れるわけも無く、守られても障壁を抜け壁に穴を開ける。リーダーは襲いかかってくる菫の対応はおざなりに水面への銃弾に対処しているようだ。菫の攻撃は当たらないと分かっているが、水中に何か仕掛けがあるのだろう。そう考えて撃ち込んでいると水面に魚人が浮かんでくる。気にも止めずに撃ち込んでいると突然水面が爆発したかのように水しぶきが上がる。
(水中はこちらでやりますわ。貴方はアレをなんとかしてくださいませ。)
次々と浮かんでくる魚人を目に萌黄に目配せをして走り出す。遠目にぼろぼろの桔梗と座り込むようにしている鶸の姿が見える。不安になるが振り払うように菫の様子を見ながら走る。菫の攻撃はリーダーが回避動作を取っていないにもかかわらずそもそも当たる軌跡に無い。何らかの魔法で攻撃を当たるように出来ないんだな。ふと思い浮かんで当てないつもりで単発を撃ってみるが当然当たらない。
「萌黄、どう見えた?」
「ん?当てるつもりだったの?明後日に飛んでいったよ。」
当然当てるつもりに無いなら当たらないか。狙った軌道だったかは確認できないが。
「じゃあ、ヤツの足下手前を撃つから。」
そう宣言して撃つ。狙い通りに飛んだように見えてリーダーは動きもしない。
「足下手前に当たったよ。」
萌黄のそのままの回答を得る。やはり当てるように攻撃しても当たらないということか。それは爆発範囲を認識していればその爆発範囲にも及ぶ。しかしどうやったら当てられる。僕は焦りながらもリーダーの元にたどり着く。菫に群がる魚人を蹴散らし菫に合流する。
「巧みに躱されますね。完全な不意打ちにもかかわらず。」
「残念ながら菫が当てるように斬っていたようには見えなかったよ。」
「さようですか・・・」
「しばらくはからくりを知るためにもアレを攻撃し続けるしか無い。」
いつしか水面への攻撃も止み、リーダーはこちらを見据える。こちらもまっすぐ見据えどうするか考える。ただ今やるべき事は生き残りながら攻撃の手を止めないことだ。
「いくぞっ。」
指示を飛ばすと共に自らを鼓舞するように戦いに挑む。
余裕が少ない攻防。次回決着予定。
鶸「やってられませんわ。」
桔「早く直しませんと潰れてしまいますよ。」
鶸「分かってますわよっ。」
桔「あ、割れる。」
鶸「もー、面倒にもほどがありますわ~。鉄陣解放!」
桔「痛い・・・」
鶸「すみません・・治療しますわ。負荷も大部分を引き受けます。チャンスが来たら頼みますわよ。」
桔「もちろん。」




