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僕、流される。

じわじわ読んで頂ける方が増えていましてありがたいなと思っております。

気をつけてはいますが、何か変とかおかしいところがある、などありましたらご一報。

これからも楽しんで頂ければ幸いです。

 洞窟を進み始めて四、五分後。見た目にもよろしくない透明な粘液が増えてくると思われた頃水が跳ねた音がする。

 

「魚?」

 

「ですわね。」

 

 僕が過敏に反応したところで鶸が一瞥もせずに答える。その音に興味を持って顔を向けたのは僕と萌黄だけ。そして萌黄がショットガンをおもむろに構えて撃つ。

 

「もえ・・」

 

 理由を聞くまもなく萌黄は引き金を引き弾を発射する。どこに向かって撃ったのか魚の飛び跳ねた波紋が見える場所とは全く違うところに大きな金属球は着弾し大爆発と大音響が響く。

 

「何事ですか。」

 

 菫もワンクッション遅れてから萌黄を一瞥する。天井まで吹き上がった水が大量に落ち洞窟にあるべきで無い雨音を響かせる。波打つ水面は嵐の風に煽られる水面のように荒れ狂っている。鈍い音と共に近くの壁面に柔らかい何かがぶつかり力なく道に落ちる。桔梗がその音に反応しているかのように水面側に障壁を張る。三秒ほどの空白を置いて水弾と石弾、投げやりが飛来してきて障壁に蹴散らされる。萌黄の危機感知がそうさせたのか魚の音に反応したときに水に敵影を見たのか、なんにせよ萌黄は敵だと確信してスラッグ弾を撃ち込んだようだ。菫の索敵能力をかいくぐってよくもあそこまで近づいたもんだ。全員の警戒が高まり戦闘態勢に入る。洞窟の上方向でも薄暗く道も視認がぎりぎり、水面に至っては所々がキラキラ反射して見える程度の暗さで僕にはそれほど遠くまで視認することはできない。対して敵はこちらを視認出来ているようで正確にこちらに向かって飛び道具を飛ばしてくる。最も桔梗の障壁は越えられていないのだが。

 

「桔梗、維持は?」

 

「二、三発で一枚でしょうか。投槍が間隔が長めですが一番強いですね。維持困難ではありませんが攻撃力はそこそこ高いかと思います。」

 

 桔梗が攻撃を受け止めながら戦力分析を報告してくる。僕は周囲を把握する手段として守勢魔術四【音響探査】を発動する。所謂ソナーと同じ超音波によって周辺を把握するための魔法である。消費を増強することで音源と到達距離を増幅でき、音源を増やすことでより詳細な情報を得ることが出来る。難点は探査系魔法にありがちな消費の高さ、そして音源が物理的要素を含めた簡単な攻撃で破壊されやすいことである。結構小さなゴーレム飛翔体なので狙って壊されることはそうそう無いはずなのだけど。僕は音源を四つ飛ばして周囲の探索に当てる。

 

「桔梗、僕が防御に回るから攻撃に回ってくれ。」

 

「かしこまりました。残数は八枚です。」

 

 桔梗から引き継ぎを受けて僕は障壁係を引き継ぐ。【音響探査】によれば得られる形状から魚人が十二体。洞窟の先からの援軍はまだ来ない。積極的に水弾を飛ばしているものが五体。投石しているものが三体。槍を投げているものが二体。残り二体は水中で停止している。水面や水底にある残骸を聞く(・・)限りでは三、四体の魚人の死体が確認できる。

 

「さて反撃しようか。桔梗を中心に遠距離で対応。萌黄は武器の都合で周辺警戒で。菫も軽く対応できる範囲で。」

 

 桔梗が氷の槍を投射しはじめ、菫も機会を見ては短剣を投射している。僕は久しぶりに弓を構えてぼちぼち撃ち込む。氷の槍は当たっても当たらなくても周辺を凍結させ魚人の行動を阻害する。思いのほかよく動く。氷の槍で三体、投擲で二体、そして僕の矢で一体。氷の槍が一番の脅威なのか全員が水中に潜ってしまい魔法の性質上氷の槍が届かなくなる。魚人は油断なく水深一m当たりから水弾、槍投げをしてくるが槍投げは若干勢いがない。桔梗が意味も無いかのように氷の槍を続けている。間隙を縫って上がってくる魚人を短剣の投擲で強引に討ち取る菫。そんな菫も脅威に思ったか全員が水底に移動しこちらに近寄ってくるような姿勢を見せる。

 

「愚か。」【氷牢】

 

 桔梗の一声。浮島のようになっている氷から魚人達を囲むように氷の柱が伸びる。気がついた魚人の三体は飛び退くように移動するが反応が遅れた魚人は柱に押しつぶされ、それすらも間に合わなかった二体は水中で成長する氷に囲まれ脱出もかなわないまま氷漬けになった。

 

「半分ですか。残念です。」

 

 残っていたのは槍を投げていた一体と控えていた二体。人数が逆転したことで撤退するかと思ったが覚悟を決めたように槍を構えて水底を泳いでこちらに向かってくる。僕はちらっと萌黄を見るが退屈そうに戦闘を眺めているのを確認して障壁の維持を取りやめる。一体目が防壁の六割を砕き、二体目が必殺の気概で防壁を貫通した余力で桔梗に槍を向ける。萌黄が水面から飛び上がった瞬間をショットガンで木っ端微塵に吹き飛ばし、最後の一体が僕に向かって突撃を敢行する。菫が剣を振り突撃を止めるべく切り払う。しかし予想外にも脇から飛び出てきた白い触手の塊がそれを防ぐ。菫が少し焦った顔になるが僕は鋭い槍の一撃を盾でいなして脇腹を剣で突く。その剣も脇腹から出る触手で邪魔をされるが先端は体に食い込み突撃の勢いもあって大きな傷を作る。槍は壁に食い込み魚人は体を捻って壁に着地する。障壁に止められた一体目も再び飛び上がって桔梗に槍を伸ばすが、横から鶸に槍を絡められて軌道をそらされ、桔梗が微笑む中全身に火矢を浴びて丸焦げになる。

 

「よもや成体が混じっているとはね。」

 

「先兵が成体になっているところからすると、随分と大きなコロニーになっているのではなくって?」

 

 再び遅いかかろうと槍を手放し、多数の触手を威嚇するように伸ばして遅いかかってくるのを見て面倒くさそうな感想を述べる。砲弾のように飛んでくる魚人を軽いステップで回避し、魚人の体は水しぶきをあげて川に落ちる。

 

「う、思わず回避しちゃった。」

 

 全員で川の方を見て警戒する。波打つ川としぶきが落ちる音が落ち着くのを待つ。

 

「まあ、さすがに逃げるよね。」

 

 【音響探査】内に魚人の姿が確認出来なくなり僕は警戒を解く。菫達も力を抜き、鶸がため息をついている。

 

「束になって来ても問題ない個体だとは思いますけど・・・無用に戦力の一部が伝わったのは面白くありませんわね。」

 

 鶸の嫌みっぽい声が耳に痛い。僕も同じように考えていたからだ。

 

「やっちゃったものはしょーがないじゃーん。」

 

 萌黄はついさっき聞いた台詞を繰り返して笑う。鶸の鋭い視線を受けて桔梗の後ろに隠れる。

 

「全滅が望ましかったのも確かですが、あとは逃げられたように動きましょう。鶸が考えていないわけでも無いのでしょう?」

 

 桔梗が萌黄をちらちらみながら静かに言う。鶸がそうですけどとつぶやきながらそっぽを向く。

 

「一つ目は無視して予定通り進むこと。二つ目は逃げた魚人を追う。三つ目はルートを変える。どうなさいますか?」

 

 鶸が僕にさっと選択肢を提示する。あえて言われていることではないが二を選ぶことで一と二、二と三は同じ意味になり得る場合がある。十秒とすこしぐらい悩んだ後さっぱり無視して予定通り進むことにした。鶸ははいはいと雑な対応で返事をして何か考えている。そして菫を先頭に全員で進み始める。こういう隊列を組むことを考えると回避系の菫ではなくじっくり守れるやつが欲しくなる。本来なら僕がそのポジションなのだけど、菫も桔梗も鶸にも断固として反対されている。前線に出てくるのは認めても真っ先に攻撃を受けるのは許容できないそうだ。この飛び抜けた身重差がある状態でそれもどうなのかと思ったが火に油なので黙っておいたが。道中散発的な飛び道具での攻撃を受けたがこちらが反撃する前に単発で逃げてしまう為事前に気がついたもの以外はほとんど撃ち漏らした。

 

「こちらを煽ってるのか、それともそのうち当たるかもと思われているのか。」

 

「当たれば・・・儲けものくらいではないでしょうか。こちらを揺さぶるのが主な目的かと思われます。」

 

 僕が面倒くさくなって愚痴っていると菫が回答してくる。揺さぶりという意味ではそこそこの効果があったということだ。

 

「思いのほか回りくどい手を使ってきますわね。かなり年期の入った個体のようですわ。」

 

 鶸が実に面倒くさそうに口を開く。

 

「コロニーごと焼き討ちのつもりでしたが、これは力押しで潰さないと難しいかも知れませんわ。」

 

 鶸が物騒なことを言っているが、僕には前者も力押しにしか聞こえないのだけど。鶸がこちらの考えを拾うかのように倒した姿を確認したかどうかが大事なのですわ、と注釈を加えてきた。鶸自信も力押しであることは否定しないようだ。半分くらい納得しながら歩みを進める。警戒しながらもあるが思いのほか長い洞窟でいったいどこまで続いているのかと思い悩むこと三十分。段々と水しぶきの激しい音が聞こえてきて滝があるんだなと思わせる音が響いてくる。萌黄がぴくっとして足を止め川側を見る。僕は一瞬どちらか悩んだが、桔梗のほうが反応早く障壁を展開したため、【音響探査】を再展開することにする。探査が瞬間的に完了し周辺地形と配置が頭の中に入ってくる。対岸がそれほど遠いわけでもないのに菫や桔梗にはそれが見えていないことになる。

 

「桔梗っ、壁に切り替えろ!」

 

 僕はとっさに叫び、桔梗が氷壁、鶸が石壁を展開する。叫んで一瞬の後爆音と共に砲弾が飛んでくる。丸形の砲弾であるとどうでも言い情報を得ると同時に、形成が完了していない氷壁は形成を貫通され、鶸の石壁にがっちり食い込み爆発する。

 

「砲台ですの?」

 

「いつの時代のを持ってきたのかね。」

 

 鶸の意外そうな声と同じく兵器史を見ていた僕は呆れるようにつぶやく。砲台自体は結構な昔に存在はしている。魔法を使えない者でも使える強力な兵器ということで火薬を使い、元の世界にあった初期砲台のようなものは確かにあったのだ。ただ火薬の調達困難、運搬の困難性、そして魔法に見劣りしない訓練時間、それに比較される精度の悪さ。その時代の製品ではどうやっても魔法に勝てないと判断され表舞台にでることなく研究段階で廃棄されているのだ。それこそ知ってる人しか知らない骨董品なのだ。正直こんな魚人が使っているのは不思議でしか無い。火薬の管理とかどうしているんだろうと逡巡していると。

 

「魔法で隠しているんですの?貴方、分かってるなら教えなさいな。」

 

 鶸の声で現実に戻ってくる。

 

「あ、ごめん。数は一。形と砲弾の形状からすると本当に初期型。動きからすると次弾はなさそうかな。」

 

「見た目から考えるにただ闇を発生させるだけのものかと思われますが。」

 

「暗がりに自然に配置しているのはうまいですね。」

 

 僕は砲台の側から川に飛び込む魚人達を確認しながら報告し、桔梗と菫が配置されている魔法に感想を述べている。萌黄は危機感から脱したのかさっきほどの緊張感は無く周囲を伺っている。鶸がほっと息をついて周囲を見回し始める。

 

「暗がりが見えると思っておいてからこういう仕込みをしてくる当たりが賢いね。鶸と桔梗は別視覚を使った方がいいかもな。」

 

 桔梗と鶸は頷いて魔法を行使している。そして萌黄がショットガンを構え撃つ。水面をはじき水しぶきが散る。しかし、前回撃った時に比べると明らかに爆発が小さい。

 

「水壁と魔法障壁の存在を確認。推定九割を遮断されました。」

 

 桔梗が観測結果を淡々と報告する。壁と障壁で千以上。ただ完全に防げない程度。推定魔法攻撃力が四百くらいか。敵の配置を確認したのか氷の針を形成しばらまく。牽制が目的なのだろうが当たり所が悪い魚人は動かなくなっている。針が途中で遮断されている魚人が魔術師かと判断しライフルを手早く取り出し狙いをつけて撃つ。魚人は反応よく攻撃に気がついた。障壁を張ったのだろうが威力を読み違えて回避し損ない喉元を爆散させて川に流されていった。氷の針から立ち直った魚人達が水弾でこちらの牽制を始めるが鶸が張った障壁に阻まれる。川底から勢いよく上がってきた魚人は菫に斬り捨てられ、萌黄に吹き飛ばされる。そうして初撃のの応酬が一段落ついた瞬間に奥の方から響く爆音と水音。近づいてきた魚人が闇雲に攻撃をし始めこちらの動きを牽制する。露骨な足止めに僕はいぶかしむ。鶸が舌打ちをする。

 

「津波が来ますわよ。」

 

 洞窟に響き渡る轟音と共に奥から段々と大きくなる水しぶきと水の塊が見え始める。洞窟で津波なんてなんの冗談をと眺めていれば、五mくらいあるかと思われる洞窟の天井まで達する荒れ狂う激流が流れてくるのが見える。鉄砲水というには確かに多いかな。

 

「溺死しないように準備をお願いしますわ。流されますわよ。」

 

「防ぐ方法は?」

 

「後三秒で城を建築して頂けるなら。」

 

「それは無理な相談だね。」

 

 急速に増える川の激流を眺めながら僕は強化術で水中呼吸を自分に付与する。菫達はそもそも呼吸をしていないので問題は無い。あとは各個激流に流されて死なないようにするだけだ。僕はちらっと桔梗と鶸を見る。能力的には鶸のほうが不安だけど、なんだかんだでスキルがうまく仕事をしそうだ。足首に激流を受けながらバックステップをして桔梗を抱きかかえる。

 

「ご主人様?」

 

 桔梗の声をかき消すように莫大な質量の水が僕らを飲み込む。この激流の中、魚人達は厳しそうに見えながらもこちらに迫るように泳いでくる。激流の影響をすべて軽減できているわけではないようだ。すでに菫、萌黄、鶸の姿は見えない。桔梗が僕の腕をしっかりと掴む。僕は抱き留める力を強めながら周囲の把握に努める。上流にいる魚人達が何やら流木やゴミをばらまき始める。魚人達も自爆しかねない所業に辟易するが彼らなりのこちらを警戒した結果と考える。不規則な動きで読みづらい流木を、これまた動かし辛い盾で受ける。小さなものまで防ぐことは出来ずに体にコツコツと当たる。この程度なら当分は大丈夫だけど、さすがにこれだけではあるまい。そう思った矢先に流木に隠れていた魚人がこちらに槍を突き出す。かろうじて身を捻って肩で槍を受けてはじく。鎧に突き刺さるのを見てぎょっとする。推定される攻撃力からはあり得ない現象だった。ダメージは受けていないが何度も受けられるものではない。桔梗の掴む手が更に力強くなる。右手で神涙滴の剣を構えながら身構える魚人に不意打ちで目の前に【炎の壁】を設置する。壁によって視界を阻害されるし、水中なのですぐに消えてしまうが、強制的に流されているのはお互い様なので魚人は激流に押されて壁に焼かれる。焦げ付いた体を抱きかかえながら炎から出てくる魚人に納得いった桔梗が魚人の目の前に氷の槍を撃ち込む。氷の槍の推進力は著しく弱くなるが魚人もそれを素早く回避する手段は無く槍に貫かれて激流に流されていく。ほっとするのも束の間の間だけで次の魚人がこちらに向かってくるのが確認出来る。さっきのやつより動きがスムーズだ。それを迎え撃とうと準備しようとしたところに後方に石筍群が現れる。個別に割っていくにも時間が足りずに激流に任せてピンボールのように石筍を壊しながら跳ね返され流される。桔梗が嫌がるように手を跳ね避けようとするがそういうわけにもいかず拒否するように抱き込んだまま流され続ける。二百強ほどの少なくない打撲を受けて石筍群から解放されると同時に待っていたかのような魚人三体からの槍攻撃を受ける。そういう特性なのか防具を易々と貫かれ刺突ダメージを受ける。激痛の為腕の力が強くなりそれに反応した桔梗が周囲に莫大な魔法を展開する。氷、風、炎。激流と併せて視界が悪くなる中魚人たちは肉片になり激流に流されていく。魔法の行使が荒くなる桔梗の腹を揉んで落ち着かせる。それはそれで腕の中で暴れるのだが直に収まるだろう。流されながら代わる代わるやってくる魚人の合間を縫って傷の治療をする。

 

(ご主人様。この水流自体が魔法である可能性があります。)

 

 桔梗からのメッセージを受けて少し考える。朗報かどうかも分からないがこの流れだけでもなんとかなるならと思案するが残魔力に不安がある。僕も桔梗も道中で結構な量を使ってしまっている。桔梗が何かの許可を求めるようにちらちらこちらを見ようとしている。意図を理解してしまって残量から考えてもさすがに容認はできない。じり貧っぽくはあるがこのまま処理し続けてもなんとかなりそうな感は意外とある。

 

(鶸、水流を解呪をよろしく。)

 

 推定最も余裕がありそうな鶸にメッセージを送る。一拍おいて怒気を含んだ了解の意を示しす感情だけのメッセージが返ってくる。鶸らしいと含み笑いをしていると、大きな魔力がうねった途端に水流の流れが若干落ち着く。逆に魚人達の動きが乱れる。水流を制御する魔法の中に魚人の動きを補佐するものも含まれていたのだろうか。水流が更に落ち着くと共に水の高さが下がり始め洞窟の天井に隙間ができはじめる。上下が分かったことで一旦水上に逃げるかと迷っている内に混乱から立ち直った魚人達が襲いかかってくる。勢いは弱まったものの水中ではさすがに魚人のほうに分がある。そう思って衝撃を起こすことを目的に中心点を下方において攻勢魔術【火炎爆発】を行使する。特に貫通系スキルは乗せないので痛い、熱いといった情報は感じられるが体に問題はない。防具は若干傷むけど。爆発を利用して魚人を追い払い僕と桔梗は水面に飛び出る。追加で強化術【空中歩行】を発動しバランスを取りながら天井付近に立つ。勢いは弱まったとはいえまだかなり水の流れは速い。がその流れの速さが幸いして鉄砲水の大本の水は早々に過ぎ去り洞窟全体は濡れてしまっているが元の姿に戻る。魚人も検知出来なくなったので桔梗を抱えて洞窟端の通路に降りる。

 

「あ、ありがとうございます。ご主人様。」

 

 地面に下ろした桔梗が恥ずかしそうに礼を述べる。僕は気にするなと頭を撫でて周囲を見回す。景色なんて代わり映えのない洞窟だったので現在位置が入ってきたところからどの当たりかはさっぱり分からない。その後防具の具合を確認し全損しても困るのでさっと予備と入れ替える。

 

「さて・・・思ったより強力な相手だったし、先にみんなの無事を確認しにいきますか。」

 

 僕の言葉に桔梗が頷く。すかさず桔梗が【移動力強化】を行使し僕らは下流に向かって走る。強化したところで激流に追いつけるわけでも無く十分少々走ったところで外に出る。洞窟の出口周辺は水浸しである。

 

「遅いですわよ。」

 

 どこに隠れていたのかずぶ濡れの鶸が文句を言いながら歩いてくる。

 

「なるべく早く来たつもりなんだけどね。それにしてもうまいこと川から出られたんだね。」

 

 噛みつきそうな顔の鶸に僕はなだめようとしながら話しかける。

 

「貴方が大層な仕事を振ってくれましたからねっ。どちらにせよ水中で魚人を相手し続けられるほど余裕はありませんもの、出られるなら出るに決まってますわっ。」

 

 攻撃手段がほぼ無い鶸からしてみれば当然か。鶸はふんっとそっぽを向きながら髪をかきあげ水しぶきを散らす。なんかお嬢様っぽい。

 

「続いて菫と萌黄を探しに行くか。外ならファイも使えるしな。」

 

 ファイを召喚しつつごまかすように提案する。ジト目の鶸の視線が痛いと思いつつも桔梗と鶸を乗せて下流を走る。走り始めてすぐに大立ち回りを終えた菫がわかりやすい位置に立って待っている。

 

「ご主人様、ご無事で何よりです。」

 

 僕に気がついた菫がすごい速度で走り込んでくる。当たりに魚人の体の一部であろう肉片や四肢が飛び散っているのが激戦を物語る。最も菫はほとんど傷を負っていないのでほぼほぼ一方的だったようだけど。菫のダメージ状況を確認しながら治療魔法を施す。

 

「ありがとうございます。激流の中では思いのほか力強く何度か貫通されてしまいました。特定条件下では油断ならない相手ですね。」

 

 菫が戦った感想を述べる。

 

「ただ洞窟の外に放り出されてからはそれほど力を発揮できているようには見えませんでしたね。」

 

 補足として魚人達の特性を語る。僕は鶸の方をちら見して心当たりを確認してみる。

 

「魔法であれば【先鋭】の類いかと思いましたけど、もしかすると水流に応じて攻撃能力が向上するのかもしれませんわね。」

 

 鶸もまだ推測の域をでないか。思ったよりやっかいな相手かもしれないし本で検索をかけておく。

 

「じゃあ萌黄を探しに行こう。」

 

 のんびり報告をうけていたが恐らく問題ないであろうと全体的に楽観視されている萌黄を探しに走る。さらに十分下流、予想より随分流されていたであろう川岸に萌黄はいた。魚人の死体の横で石積みをしていたのかいくつかの石塔が見られる。

 

「あ、お帰り~。」

 

 僕らがある程度近づいてから萌黄が楽しそうに走ってくる。あとここは拠点じゃ無い。

 

「お帰りじゃないでしょう。もう少し何かあるのではなくって?」

 

 鶸の小言が始まり萌黄が僕の後ろに隠れる。鶸が僕ごときで小言をやめるわけでも無く何か僕が怒られているような気分になる。理不尽さを感じてきたところで鶸をなだめて萌黄の傷を確認する。打撲がいくつかという恐らく何らかの形で自爆してしまったであろう傷以外は無く、なんと魚人相手には無傷である。

 

「なんかこう剣で追い払うのも大変だなーってイライラしてきてショットガン撃ったら・・・えへへへ。」

 

 剣スキルが無くなった萌黄からすると剣での対処は苦慮する事態だったのだろう。そしてショットガンを撃ったら衝撃で自爆したと言うことだ。萌黄の立ち回りか魚人の動きかうまいこと対処できる範囲で収まった為それほど苦労は無かったという。

 

「多少の傷だけで問題なくてよかった。敵から傷を受けること自体も久しぶりと言えなくも無いけど。」

 

「水中というのも難でしたが相手の得意な場所で戦わされたのはよくありませんでしたね。」

 

 傾き始める日を見ながら町への帰路につく途中で小話が弾む。

 

「水中で撃てる銃がほしいですっ。」

 

「そもそも銃を諦める方向性すらあるのですのよ?」

 

「もう全部凍らせれば良い。」

 

 前向きな意見に物騒な話。

 

「あの奥にいるであろう強力な魔術師。魚人、そんで寄生虫対策かな。」

 

「魔術師と首魁の寄生虫は兼ねていると思いますわ。魚人自体はそれほど魔法適正が高いわけでは無いですし。」

 

「ご主人様が巡洋艦で反撃とかっ。」

 

「また流されると思うのだけど。」

 

 感想と対策と雑談と笑いながらそれでいて物騒な話も混じりながら町の門をくぐった。種が全部分かったわけでは無いけど取りあえず探していた相手が見つかって僕らは安堵していたのかもしれない。次は勝つという思いだけはみんな変わらなかったと感じられた。

一方的に事を進めてきた時にしれっと訪れる痛み分け。お互い対策を立てながら次回決戦。



鶸「やっぱり桔梗を選びましたわね。」

菫「ご主人様は桔梗のほうが趣味なのかしら。」

桔「そ、そんなこと・・無いと思います、けど。ほら防御薄いし。」

鶸「薄いだけなら私だって同じですわ。追い払う能力もないのですわよ?」

萌「んー、桔梗って幸薄そうだし緊急時って不安をかき立てない?」

菫「萌黄が言うとなんか妙な説得力がありますね・・・」

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