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僕、意味を知る。

 訛りがひどくて聞き取りづらいメイリィさんの言葉を信じて聞いてみることにする。すぐに答えにたどり着くと言うのも少し考えたが今は気になって仕方が無いので確認することにする。

 

「七百年くらい前から戦史を追いたいのだけど。大きな戦役の戦術とか武装、魔法が知られたらより良い。」

 

「わけぇのに学者さんだか?七百だとこのへんだがねぇ・・・カラデツ戦役ぐらいがええがな。」

 

 メイリィさんはよどみなく棚の間を歩き一つの石版を持ってくる。ミセイエル地方史とおよそ戦史とは関係なさそうな本でもある。内容まで把握しているのだろうか。僕は石版を受け取りパラパラとめくる。最初に地域の紹介がありそう呼ばれている地域の説明がある。時代によって境界がずれているようなことが書かれていて無駄に細かい。追っていくと日が暮れるどころでは無いので、目次を見て目的の戦いを探す。そこそこ羅列してある戦史の中にメイリィさんが言っていたカラデツ戦役という言葉が目に入るので開く。とある貴族の利権争いから周囲の貴族、派閥貴族を巻き込んで発端の貴族の思惑以上に大きくなって派閥のメンツ争いに変わってしまい五年ほど続いた戦いのようだ。数百人の小競り合いが、倍になり、五倍になりとどんどん膨らんでいき最終的には両軍併せて十万人を越える戦いに発展したという。戦いは騎兵が中心で歩兵と弓兵は補助的役割を果たしていることが戦いの動きを見ていて分かる。そして魔法を使う戦闘部隊は兵力のうちに記載されていない。

 

「このごろぁまだひどの距離さちけぇたたがいだ。魔法はぞこまで威力もがずもうでねじ、ぞもそも使いでがおらんがっだでよ。」

 

 メイリィさんが後ろから読んでいるのか僕の疑問を読んだかのように答える。僕はメイリィさんに振り返る。

 

「あんり、邪魔じでごめんな。こんあいだのこんまいこと同じごどじでるでな。づいづいな。」

 

 メイリィさんはばつが悪そうに身を引いて詫びる。

 

「いや、むしろ手間が減って助かります。その子も同じ戦史を調べていたんですか?」

 

「んだ。そんこはもっど前からみでだげどな。あれごれ時期をおっでじらべどっだ。」

 

 メイリィさんは頷きながら語る。

 

「もしかして貴方は研究者かなにかでここの書籍を把握しているんですか?」

 

「ぞんなだいぞうなもんじゃなが。ずきでじがんがあるときにみぜでもらっどるだげだ。だだ、ぞうぞうわずれんからだいだいのごどはわがるで。」

 

 メイリィさんは両手を振って否定する。随分記憶力が良いらしい。

 

「その子が追っていただけでもいいので戦史上の戦術や装備の変化を教えてもらえませんか?」

 

 自分で調べ続けても良いが鶸がここに来ていて鶸が調べろといったのなら、執事の計らいでメイリィさんが来ているのも恐らくは鶸の予定内なのだ。

 

「んまぁよろじぐはないがもじれんけど、でぎるがぎりおじえだる。」

 

 メイリィさんが胸を張って答える。その後はメイリィさんが持ってくる本を見ながら授業を受けている感じである。元々歩兵や槍を中心とした戦いから騎兵、所謂乗り物に乗って戦う高速機動による戦いが主流に移っていく。五十年と少し立ってから機械弓、弩のようなものを使って弾幕戦術を展開し始め騎兵が自陣に届くまでに駆逐する戦いに移っていったという。

 

「こんごろから魔法づがいがふえてぎでな。いぐさの日は雨じゃねぇことがねぇてぐらいだったんでよ。」

 

 魔法で雨を降らせて機動力を落とさせたり、治療効果が増加したことで決定打にかける戦いが増え、戦争も冗長するようになってきた模様。その三十年後と戦史と魔法史に残る発明がされその時代の戦争を制する。集団儀式魔法である。膠着した戦場で敵陣に猛毒のガスを発生させるというえげつない魔法により五千対五千という戦いにおいて勝者戦死者百弱、敗者は五千全死という稀に見る一方的展開が行われたという。

 

「無味無臭の毒でずいごむと眠るようにじんでぐんだと。敵陣にふみごんだどぎのぢんもぐはぞらおぞろじがっだどよ。」

 

 メイリィのおどろおどろしい解説が逆に怖い。各国似たような研究は行われておりつぎつぎと戦術攻撃魔法として開発が進みより早く、広範囲に、攻撃的に戦術魔法を完成させた方が勝ちのような戦いが五年ほど続く。

 

「魔力のがんけいださか町から町まで届くような魔法は無理らじぐでひどとひどがむがい合うだだがいなのはがわんねだけどな。」

 

 当然一方的に攻撃を許すわけでもなく単純に防御魔法が発展し戦術魔法が発動すれば勝ち、みたいな展開は無くなる。個人防御、集団防御、そして防御結界。都市をも守る防御魔法の登場により必ずしも攻撃魔法一強ということは無くなった。そしてその副産物として弩による弾幕戦術も姿を消す。直線的な軌道を純粋にずらす魔法が開発されたからだ。

 

「偏向防御っで魔法でな。まっずぐとばなぐなるんだど。ぎゃぐにざいじょがらまがっでるものだ、まげられんのだど。おっがじな魔法でよな。」

 

 鶸の懸念の一つはこれか。過去に忘れられたこの魔法が出てくれば銃は無効化される恐れがあると。主力が封じられまた戦闘は騎兵を中心とした高速機動戦術に戻る。ただ魔法の支援が多くなり魔法部隊が記録上編制され始めたことが大きな変化らしい。そこから百年は魔法の進化具合で兵種に差あれど騎兵を中心とした戦いなのは今を持ってしても変わらないようだ。

 

「いっどぎだけ騎兵がじごとできなかったじぎがあるで。」

 

 当時でも理論上はという兵種を形にした国がある。超重防御兵である。魔法の発展により身体能力の増加と装備の重量軽減をもって物理にも魔法にも犯されない重装備兵を運用したのだと言う。今でこそ防御百という敷居は普通のことではあるが当時はそれが常識では無かったと言うことだ。

 

「ぞれでもはやぐうごけながっだで、ぜめごむのは難がじぐであまりががつようされんがっだらじげどな。だだごれがヒンどさなって英雄ざまがうまれるんだ。」

 

 魔法の発達により魔獣の加工や金属の加工が出来るようになり武具の性能向上が著しくなり、それを一人の優秀な者に集めた一人無双兵の誕生である。そこそこ才能のあった偉い人が一人で三千の兵を打ち破ったとかで英雄と祭り上げられ、その後各所でそのような事例が起こり始めたという。各国は争うように武具と魔法の開発を進める。負けない英雄を作り上げるか、英雄に処理される前に圧倒的物量で押し込むか。戦争はその両極に支配され大国はそのバランスを取りながら軍拡を進められる。加工技術や資源の増加が進み徐々に装備の安価が進んでくると兵においては英雄を前にも即死しないということが重要視され、英雄もいかに少ない労力で倒し続けられるかという方向性になっているようだ。

 

「ぞっがら四百年ほどねっごはなんもがわっでなが。ぶぞうしっでなるどごんなもんだでな。」

 

「ありがとう。助かったよ。」

 

 最後まで聞き取りにくく難儀したが戦史の授業は終了した。

 

「偏向防御かどんな魔法だろう。」

 

 僕はぼそりとつぶやく。

 

「術式だげならぞこにあるでよ。」

 

 つぶやきに反応してメイリィさんが棚から持ってくる。古典魔法便覧とある。

 

「あ、ありがとう。」

 

 僕は受け取ってからリストを眺める。効率が悪くなって改変されたもの、統合されて用途がなくなったもの、そして利用がなくなったものそんな魔法が集められた本だった。興味がある名称やどうしてこの魔法がと思うものが目に入るが誘惑を退けて目的の魔法を見る。防御魔法の性質こそ帯びているが内容は呪いに近く直線に飛ぶことを意図されたものをその速度に応じて進路を任意方向にずらすというものだ。より速度が速ければ射手まで反転出来るかもしれないが実験で使われた兵装では六十度ほど傾けるのが限度だったようだ。弓においても正面に撃った場合はある程度効果を見込めるが曲射すると全く効果がないことが記載されている。魔法自体が射手か矢弾に乗せられた意図(・・)をくんで発動しているという、なんとも魔法らしい効果だ。ふと気になる単語が目に入る。

 

『矢弾、投石、銃弾を含む何かしら直線的に投射されるすべてのものに適用される。』

 

「メイリィさん。昔は銃があったんですか?」

 

 僕は資料にあるのではないかとメイリィさんに確認をとる。

 

「銃だが。今ある魔法銃じゃなぐでが?」

 

 メイリィさんが不思議そうな声に僕は頷く。

 

「狩りの道具どじでつがわれてたことがあるで。えんろうたごうづぐし、維持費もだがいではやらんがっだで。なにぜ偏向防御もあっだでな。」

 

 銃が出てくる頃には偏向防御がすでにあって戦争には使われなかったようだ。本が作られた時期を考えたら記載されていてもおかしくないか。違和感が解消されたことで、その後の魔法の発動手順を確認する。

 

【守勢魔術四『偏向防御』を獲得しました。】

 

 本からのアナウンスがあり手順を覚えるまでも無くリスト化されてしまう。それならと他の頁もめくって気になるものも見ておく。『毒消し』効果が限定的な為症状ごとに細分化。『豪雨』天候操作に統合。『超加速』使用者が行方不明になる事態が多発。時間を忘れて失敗談を見る気持ちで含み笑いを浮かべる。鶸に渡して研究すれば面白いものもあるかもしれない。

 

「まんぞぐしだだが?」

 

 メイリィさんは楽しそうな顔でこちらを見ている。

 

「ええ、ありがとうございます。失敗する前に確認出来て良かったです。」

 

 僕の答えにそうかそうかとメイリィさんは頷いている。ここでの目的は達成されたので実験の為に外に出ようかと考える。僕は案内してくれた人達に礼を言ってからグラハム邸を出て町の外にでる。町を出てまっすぐ南に進み開けた場所を選んで収納に入っていた木材や石材で的をつくる。なにやら残念そうな顔の萌黄と斥候兵で黙々と作業する。

 

「さて、どうなることやら。」

 

 大体の結果は見えているのだけど偏向防御を設置し右斜め下方向にずらすように設定する。狙撃銃を取り出して的を狙って撃つ。この距離ならまず的から外れることは無いはずだが。偏向防御を設置したあたりの地面が爆発した。飛んでくる土や小石を防具がはじく。

 

「これはひどい。」

 

「すんごい飛んできたねぇ。」

 

 さらに確認のために二、三連射してみたが地面の爆発に耐えられずすぐにやめる羽目になる。とっさに薄めの石壁を作り出して丸かぶりだけは回避する。萌黄は口から土を吐き出しながらもなんだか楽しそうだ。

 

「目くらましにはできそうだけど・・・それを使うにはもったいないかな。」

 

 時流から外れて数百年たった為だれも直線投射武器を主に使うことがなかったわけだが、メイリィさんが知っているなら歴史学者でなくてもそれなりの知識を修めた人ならすぐに気がつくだろう。試しに魔法銃を撃ってみたがこちらには無反応で魔力弾はまっすぐ飛んでいった。ただこれでは長くは戦えないしそもそもの威力が銃に比べて大きく劣る。鶸の近代化を推し進めないほうがいいという言葉が少しだけ引っかかる。勝つだけなら燃やし尽くせばいい。でも確かにそこまでしたくは無い。そうやって考えていると木が転がるような乾いた音が鳴る。ふと顔を上げると萌黄がショットガンで的を狙ったようだ。

 

「当たっちゃった。」

 

 萌黄がなにかやってしまいましたみたいな顔をして僕を見る。もしかしてと思って的を設置し直して僕自身もショットガンを試してみる。結果偏向防御は機能せず的をしっかり破壊した。

 

「どういうこと?」

 

 何度試してもショットガンはすり抜け、狙撃銃は曲げられる。何度か試して一つの結論に至りスラッグ弾を撃つ。そして大爆発。爆発の土を浴びながら僕は大笑いする。萌黄も意味も無く笑う。

 

「どゆこと?」

 

 萌黄が不思議がって僕を見上げる。

 

「融通の利かない魔法だなってことだよ。弾を直線に飛ばす意図はあっても散弾は勝手にばらけちゃってるでしょ。たぶんその時点で射手の意図が乗らなくなってるんだよ。」

 

 僕は笑いを抑えながら萌黄に説明する。萌黄はわかったのかわからないのかそっかーという言葉だけ答える。

 

「スラッグ弾はお役御免になるかもしれないけど萌黄の仕事は何も変えなくてよいってことだよ。」

 

 萌黄はやっぱりよくわかってないだろうという感じにやったーと喜んでいる。もう少しの間銃で戦えるかもしれないけど名前が知れ渡ってくると難しそうかな。それまでに何か考えおかないと。ただ偏向防御がないと防御が楽なわけでもないので狙撃という要素自体はまだ十分に果たせるかもしれない。僕はそう思いながら辺りをかたづけて帰路についた。越後屋の自室に戻ると鶸がおずおずとやってくる。

 

「いかがでしたか?」

 

「鶸の憂慮は理解出来たよ。」

 

 鶸の申し訳なさそうな声とは裏腹に僕は陽気に答える。鶸が予想外という感じに僕を見る。

 

「さすがに鶸は実験までは出来なかっただろうからね。さっき萌黄と実験したんだけど。」

 

 そう切り出して軽く試したことを鶸に説明する。

 

「はぁ、まっすぐ飛ばすつもりでも飛ばないものなら偏向を回避できるかもしれないと。」

 

「意図がどこまで乗るかかな。実包をまっすぐ飛ばすつもりでもまっすぐ飛ばないせいなのか。そもそもばらまいてると認識しているか。魔法が何を見ているかは分からないね。システムがどう判断してるかさっぱりだよ。」

 

 研究者モードで考え始める鶸に適当な予想を語る。

 

「こちらの主力がすべて無くなるかもと思っていたくらいですから・・・穴が見つかったのは何よりです。ただ早い段階で切り替えは必要ですわね。さすがにショットガンで現行運用は無理ですしね。」

 

 鶸の言葉に僕も頷く。

 

「なんか判定から逃げられそうな愉快な装備をつくるか・・・転職がいるかなぁ。」

 

「単発でまっすぐ飛ぶ段階で難しいですから。グレネードとか迫撃砲の類いになりますわね。」

 

「投石も結構ずらされるんだよね・・・野球みたいにカーブ投げるつもりだったらどうなるんだろう。」

 

「曲げるつもりなのにある程度はまっすぐ飛ぶということですか?気になるなら実験するしかありませんわね。ボールがありませんが。」

 

 そこからかぁと気のない返事をしながら僕はソファーにもたれかかった。

 

「噂にもなっていないこの辺りならまだ通用するでしょうし、もうしばらくは越後屋のほうでお願いいたしますわ。」

 

 鶸も懸念材料が少し減って気が軽くなったのかいつもの調子で出て行った。正直お願いしますといわれても立ち上げと商品供給システムを作った時点で僕の仕事はほぼほぼ終わりなのだ。一度戻って桔梗の顔でも見に行くかな。斥候兵に伝達とお使いをお願いして僕は準備を始めることにした。

 

 翌日、菫と鶸はお怒り気味であるが僕はグラハ村の拠点に戻ることにする。グラハム邸から連絡が来たらメッセージを飛ばしてもらうようにお願いしておく。街道を軽快にファイに乗って走り抜ける。途中一泊してから村に到着。村人からは歓迎されるも何かあったのかと思われたが軽く詳細を説明して落ち着かせた。

 

「こちらでは余裕のある暮らしをさせて頂いております。必死で働くことも無くなったのでサボり癖がつくのが怖いですな。」

 

 村長はつややかな顔をしながら笑っていた。まあ好きなようにしてくださいよ。拠点のほうに行くと桔梗が晴れやかな顔でこちらを見てきたのが印象的だったが飛び込んでは来ない。萌黄は自由すぎだが、桔梗は自制が効きすぎかとたまに思う。桔梗に礼を言いながら頭を撫でてしばらくいることを伝える。なにやらふわふわしそうな足取りで指示に戻っているのがなんともいえず笑いがこみ上げてくる。馬鹿でも煙でもないがどうせそこだろうと櫓の上にあがると鈴が転がっている。何をするでも無くだらーっとしているその姿は任せた仕事をしているのか怪しい。滞りが無いところを見ていると指示だけはしっかりしているのだろうけど。

 

「おかえり。」

 

 死体が転がるようなのっそりとした動作で半身だけこちらに向けて声をだす。

 

「ただいま。相変わらずだな。」

 

 僕は苦笑しながら鈴の挨拶に答える。

 

「んー、まぁ。だらだらしてればいいだけなんてサイコー。」

 

 本心からそう思っているか甚だ怪しい声でそう答える。

 

「拠点さえ回してもらえてるなら何するか細かく問うつもりはないけど、鈴はそれでいいのか?」

 

 鈴は少し考える動作をみせるが特に思いつくことも無かったのか別にと小声で答えた。

 

「何か思いついたらまたな。しばらくよろしく頼むよ。」

 

 僕は鈴の頭を撫でてから櫓を下りた。

 

(しばらくいるの?)

 

 メッセージでもないなんとも頭に響く鈴の声が聞こえる。『神託』の無駄遣いか。

 

「ああ。急用がなければしばらくいるよ。」

 

 メッセージで返すのも馬鹿らしいので大声で櫓の上に返して置く。返事は無いが多分大丈夫だろう。斥候兵と補助にB型医療術士を呼び久しぶりに製作所にこもる。寄生虫駆除に何がいるだろうと考えながら太さの違う針をいくつかとメスのようなナイフと数本作成する。武器の強化も考え始め石を変化させながらああでもないこうでもないとこね回す。

 

「ご主人様、晩ご飯ができますけど・・・」

 

 桔梗がなんとも申し訳なさそうに声をかけてくる。もうそんな時間かと思って作業を中断してご飯を食べてから鍛錬所でリフレッシュする。

 

 翌日、石をこね回しながら半ば遊び始めていた頃にふと思いつき歪な手裏剣を作って投げる。以外とまっすぐ飛んでしまうものだと思いながら更に改良を重ねてどう投げても空気抵抗で曲がってしまうものを作る。所謂まっすぐ飛ばそうとしても曲がってしまうものだ。訓練場に行き偏向防御の実験を行う。結果としては曲げられるだった。銃弾は曲り、散弾は曲がらない。まっすぐ飛ばない手裏剣も曲げられる。

 

「分からんなぁ。謎判定だ。いっそのこと誘導弾とか・・・」

 

 まっすぐ飛ばそうとする意思に反応する謎の壁だった。壁の前でたき火を燃やして銃弾を投げ込んで隠れる。暴発した銃弾は曲げられないようだ。やはり銃弾そのもの識別してを曲げているわけではなさそうだ。自動砲座みたいななのならどうだろうと既存の銃の引き金を引くだけの玩具のような機構を作って使わせてみる。結果曲がる。

 

「作ったときのコンセプトから反応してるのか?単純に人の意思ってわけでもないのか。」

 

 ただ弓矢のこともあるので人の意思が絡むことは確定なのだが。正直穴を見つけるより壁を解呪(ディスペル)するほうが早い気がしてくる。解呪は確実性の問題もあるが複数離れて壁を建てられれば対策もしやすい。弾そのものに解呪性能を持たせるならともかく避けたい選択肢ではある。やっぱり長射程から一方的というのは難しいように仕組まれている気がする。迫撃砲も使用し続ければ対策されるか。むしろそれらを神々が操作していると見るべきか。

 

「変化を求めてはいるけど進歩の必要は無い?競技場としての性質を維持しようとしているのか。」

 

 自由意志はある程度認めるけどコンテンツの永続性を重視しているような、出すぎた杭は打たれるような感覚を受ける。

 

「クソ運営かよ・・・」

 

 僕は悪態をつきながら壁に向かって石を投げて曲げられる様子を見る。

 

「いっそのこと地雷・・・回収はともかく味方が巻き込まれるのはなぁ・・・」

 

 来るべき未来を想像しながら銃を諦めるか穴をつくか悩み続ける。ただ遠距離主体にしていたとしても対英雄は近接戦にならざるをえず、明確な対策を思いつくまでは近接武具の強化も必須事項である。陽光石や神涙滴を捻ったり重ねたり束ねたりしながら強度を雑に確認しながら研究を進める。結果いくつかの限界点と成果を持って武器の更新を行う。

 

 積層型神涙滴の剣 ATK+524 Matk+279

 

 積層型陽光石の剣 ATK+475 Matk+365

 

 神涙滴は相変わらず見えづらいので扱いに困る。陽光石は光るので目立つ。剣だけで試す分には龍眼石は剣には向かない。薄くのばすと著しく強度が悪くなる。精々円錐っぽくして槍が限度。それでもすぐに先端が割れるが。切る武器には明らかに向いていないことだけは分かった。一段落ついて辛く背伸びをして試し切りにと訓練場に移動すると珍しく萌黄が訓練している。と思ったら先日作った手裏剣を変則的に投げて遊んでいるようだ。本人的には大真面目なのだろうが山なりに投げて最初から曲げることを前提に的当てをしているようだ。確かにそれなら偏向防御にはひっかからんだろうねぇ。萌黄は僕が来たことを認めると元気よく走り寄ってくる。

 

「ねーねーこれ面白いよ。」

 

 まあ遊んでるなら楽しいでしょうね。そう思いながら萌黄の下手投げで手裏剣を飛ばす様を見つめる。地面すれすれから低空飛行に飛び急に浮き上がって的をかすめ斬り飛んでいく。どうすんだあれ。しばらくすると斥候兵が手裏剣も持って戻ってきてまた外に出て行く。あー回収係がいるんだ。萌黄は今度はサイドスローで投げると綺麗に円弧を描いて的を突き破る。

 

「わわ、やっちゃった。」

 

 萌黄は失敗したかのように慌てて的を取り替える。

 

「もしかしてわざとかすらせてたのか。」

 

「うん、的がすぐ壊れちゃうし、的を堅くすると・・その手裏剣が壊れちゃうし。」

 

 萌黄はさも手裏剣を壊すのが申し訳なさそうに言っているが、投擲武器はそもそも使い捨てが前提なのでそんなもんだぞ。

 

「壊れるのが前提だからそこは気にしなくて良いよ。でもたくさん作ってないから壊れるのは困るか。萌黄は使ってみたいのか?」

 

「うん、なんかかっこよくない?」

 

 元気よく非効率的なことを語る萌黄を見て僕もうんうんと頷いておく。曲芸の域だけどかっこよく見えるのは認めよう。

 

「工房で登録されてるから材質がそのままでいいなら適当に量産していいよ。」

 

 僕は萌黄に許可を出しておく。萌黄は無駄に喜んでいる。使い物になるかは置いておいて喜んでくれて何より。僕は当初の予定通り武器の試し切りをして問題を洗い出しながら訓練場を後にする。その後特に銃の代わりが見つかること無く五日ほど過ごしお土産を持って町に行くことにする。桔梗、鈴、村人達に見送られて僕はファイを走らせる。

 

 翌々日に予定通り町について越後屋に入る。商売に関しては大きな問題はなく徐々に売上は伸びている模様。鶸の報告を聞きながら興味はそこそこに数字を眺める。正直上がっていることしか分からないんだよね。

 

「そろそろフレッド商会がしびれを切らして何か仕掛けてくるとは思いますが、適当に処理しておきますわ。」

 

 鶸が自信満々に答える。

 

「細かい所までなると僕はわからないから任せるよ。なるべく暴力沙汰にはしないようにね。」

 

「むしろ最初が暴力沙汰でしょうに・・・」

 

 僕が穏便にと思っていると鶸が難しい顔をする。

 

「最初なんだ。まあ殺さない程度に頼むよ。」

 

「そこはお任せくださいませ。」

 

 丁寧に礼をする鶸がむしろ怖い。グラハム邸から連絡が無いところをみるとカースブルツ嬢の調査は手間がかかっているのか。しばらく訓練でもしながら過ごすかな。僕は銃の代わりは何かと考えながらぼちぼち訓練をするのだった。

 

 三日後。

 朝から慌ててやってくるグラハム邸の使者を迎えながら話を聞くのも面倒くさく萌黄と鶸を連れてグラハム邸へ移動する。冷静な老執事に足早に案内され思ったより面倒くさそうなことになっていると感じる。重厚な応接室でグラハムは待っていた。

 

「急かして悪かったね。思ったより事態が深刻だったので朝一で案内させてもらった。夜中ではさすがに怪しまれすぎるのでね。」

 

 個人的にはすでに手遅れじゃないかと思うのだけど、貴族的に問題が無いならなにより。

 

「カースブルツ子爵の協力を得て娘さんが倒れるまでの経路を二年ほど調べてもらった。子爵領の端でクルツ男爵領の際にある村が・・・全滅していたよ。これは調査員の最後の連絡で知れたことだ。」

 

 グラハムは重々しい雰囲気で語った。

 

「娘さんが直接その村に行ったわけでは無く、行った場所はその近くの町だった。視察と避暑を兼ねた小旅行のつもりだったそうだよ。つまりはすでにその町事態も汚染が進んでいる可能性が高い。子爵には一応伝えてはいるが半信半疑の様子だった。すでに調査員を送っているかも知れない。娘さんにはまだ昏倒していないようだが話がばれればそうで無くなるかも知れないとは言っているが。どこまで信じるかはわからん。」

 

 グラハムはそういって一息ついてグラスをあおる。

 

「一応許可を得ての調査ではあったが、これ以上種を広げられるのも問題なのですぐに君に駆除、殲滅を依頼したい。子爵には事後承諾になるが仕方が無い。国のためにもこれ以上広げるわけにもいかん。我が領と周辺の諸侯にも手紙を送って昏倒者の調査を行ってもらうつもりだ。時期的にもすでに成体になっているものがいる可能性がかなり高い。もはや一刻の猶予もならん。」

 

 確かに大問題になっているようだ。カースブルツ嬢の治療に失敗した手前もあるし依頼自体は受けることにした。

 

「感染者の命は保証できませんので・・・根回しの方はお願いしますよ?」

 

 僕はグラハムに念押しだけして準備のために越後屋に戻る。

 

「鶸、鈴に連絡して桔梗をこちらに呼んで。越後屋の運営に関しては可能な限り対策をして作業を引き継いでおいて。範囲も量も面倒くさいことになってそうだ。いくらか資材も持って全員でいくよ。」

 

 鶸は一礼して作業に戻る。

 

「菫は先行してここからの経路の集落を調べて症状が出ているものがいるか確認して欲しい。」

 

 菫は一瞬渋い顔をするがすぐ真顔になって一礼して走り出す。

 

「さてどこまで面倒になってるやら。」

 

 僕は先のめんどくささとちょっぴりの楽しみを胸に旅立ちの準備を始めるのだった。

これから荒事パートに入ります。


萌「こうやって・・こうかな?」

斥「ミギャー」

萌「ごめ、あたっちゃった。」

斥「ミャー」

萌「痛いだけなんだから勘弁してよ。そうなると、こうかな?」

斥「ミギャー」

萌「ああごめんごめん。」

鈴「あなたのその前向きさ加減が怖いわ・・・」

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