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本日は菫の小話の前編と本編の二話になります。こちらは小話の前半部。

 私はご主人様の命に従いドーナントの商隊馬車を追う。こうのろのろと進まれるとご主人様の元に戻るのはいつになることやら。命じて頂く、頼りにされるのはうれしいですが、こう頻繁にお側を離れるのはなんとも辛いところでもあります。馬車三台、それぞれファイ()二匹に引かれてごとごと進んでいます。邪魔が入らないように斥候兵達には道周辺の生物を追い払わせ私は馬車の上で商隊の監視を行います。希薄化して転がっていれば余程騒がれなければこの程度の者達には見つかることはないでしょう。

 

「ドーナントさん、今回は少なめでしたね。森の稼ぎがよかったんですかね。」

 

 ドーナント付きと見られている商人が暇つぶしに小話をしようとしています。

 

「森の稼ぎが良いときは概ね果実も多くなる。今回は収穫が少ないと言っていた。森の実りが良かった訳では無いだろう。」

 

 ドーナントが難しい声で話しています。

 

「違和感は多数あった。スレウィンの過剰な緊張感。切羽詰まっていると言うより何かを隠したい、隠している感じ。それでいて余裕がある。収穫が少ないときは必ず一度は食い下がってきた。今回に限っては薬草が多かったからというのもあるかもしれんが。」

 

 ドーナントは深く息を吸ってうなる。

 

「果実は適正・・・でもないがいつもの価格で提示した。が、薬草に関してはいつもより価格を落とした。にもかかわらず即決だった。あれはあいつらにとっては命がけの収穫であるはずなのに。」

 

「確かにあれはいつもに比べて食い下がりませんでしたね。」

 

 にこやかな顔をしながら見るところは見て、仕掛けるべき時に仕掛けているようですね。

 

「日用品の買い込みに比べて食料関係が少なかった。あれは食に余裕があるときの買い方だ。たまたまかもしれんが・・・少なくとも今回に限ってはまとまった量の食料が手に入った、または手に入る算段があるということだ。」

 

「んー、まぁそんなもんですかね。」

 

「お前はもう少し相手を見るべきだな。」

 

「すみませんねぇ。」

 

 お付きとドーナントは和気藹々と古い話を交えながら笑い話と教訓に興じている。

 

「っつ、ちょっとささくれてましたね。」

 

 お付きの者が馬車が揺れた折に指を刺してしまったようです。

 

「ああ、そうですよ。何か変な違和感と思ったらこれですよ。最近加工場からも離れてましたしね。ほんのり血の匂いみたいなのがしてたんですよ。」

 

「唐突だな。」

 

 お付きとドーナントの話がまた村の話に戻ってきました。

 

「あの独特の鉄の匂いと言いますかね。風に乗ってふわっと、何度か。村に襲撃でもあったんですかね。」

 

「襲撃か・・・それなら肉が手に入ったのかもしれんな。いや、だがそれならそれで毛皮か稀少部位の販売はあるだろう。」

 

「ああ、そうかぁ。でもあれは血の匂いですよ。絶対。」

 

「村への襲撃はないだろうな。医療品関係はいつも通りの範囲内だ。やはり村に流れ者が来た可能性か。」

 

「うちの町を通らずにですか?あまり現実的ではなさそうですけどね。」

 

「そうだな。一本道、補給の最終地点。あの村を知って行くならおかしいことこの上ないな。村を知らずにたどり着いたならどうだ?」

 

「それこそ現実的じゃないですよ。蛇の森を越えたってことですよね。蛇以外にしたってろくな森じゃないのに。そもそもそこを越える連中にあの村が対価を払えないでしょうよ。」

 

「ああ、そうだな。非現実的だ。森を越え、村に食料を与え、対価が低くくても満足する。満足したなら余程のお人好しだな。まあ無い話だ。我々商人としてはあり得ない話だな。」

 

「ドーナントさんはあり得るとお思いで?」

 

「無いな。ただ・・・隠すことがあって、そういうヤツがいたなら、今の状況がしっくりくる気がしてな。」

 

「俺は違和感しか感じないですね。安物は後が怖いですよ。」

 

「だから俺たちは商人なんだろうな。次の様子次第だな。場合によっては手を打っておかんといかんだろう。」

 

「調査員を回しますか?」

 

「戻ったら選定だけはしておこう。金になる場所ではあるが・・・注目されるところでは無いからな。」

 

「りょーかい。」

 

 会話は終わり無言の時間が過ぎる。その後も直接関係ないその後の話や予想の話が続き夜は更けて野営を始める。黙々と準備し食事なればとりとめも無い話で賑わう。見張りを立てながら就寝し無事朝を迎える。変わらない進み、とりとめも無い話、商売の話。そうやって変化の無い時間を三日過ごす。五日目の日遠目に町が見えもうすぐ到着するのだと確認できる。斥候兵達には町の周辺の防備や人の動きを見てきてもらうように指示する。私はこのまま商隊の追跡を続ける。

 

「私はそのまま商店に戻って確認と指示を行う。お前はいつも通りの作業に戻れ。」

 

「あー、しばらくはまた日常ですねぇ。」

 

「いつも波乱な相場でやってるとろくな事にならんぞ。」

 

「ドーナントさんは手堅いですねぇ。」

 

「そうするのが仕事だからな。」

 

 またとりとめも無い話をしながら町に近づく。一般用の門ではなく離れた別の門に向かう。

 

「フレッド商会です。グラハ村への定期商隊の戻りになります。こちらが今回の買取り品の明細と販売品の明細になります。こちらは代理回収の税と販売品の税金なります。」

 

 ドーナントは門番に身分をつげ明細と税を渡す。

 

「いつもの果物と今回は薬草もありか・・・金額は確認した。いつもご苦労である。」

 

「こちらも商売ですんでね。お疲れ様です。」

 

 門番とドーナントは軽く挨拶をし、商隊は町に入る。程なくして商隊は大きな商会にたどり着き荷下ろしを始める。私は商会に入り込む前に人混みに紛れて馬車から離れる。お付きの者は指示をだしながら荷物を整理し始める。ドーナントは例の果実をもって商会の中に入っていく。あの果実だけは別扱いなのですね。食料、日用品が整理される中薬草も同じように整理されていく中であれだけが特別なようだ。さすがに商会の中に無調査で忍び込むのは危険すぎる。仕方が無いので商会周りをうろうろしながら物理的、魔法的な仕掛けを調べ始める。強行してもよいですが命の危険が懸念される限りは生き残ることと危険を冒さない事がご主人様の最優先事項になっていますので無理はできません。やはりこういった施設では不法侵入者に対して警報は基本です。絶対に侵入させないことは困難ですが知ることは比較的簡単なので常用されます。魔法的な警報があることは確認できました。見たところ商会員は作業無く出入りしているように見受けられます。警報がいつも鳴っていては意味が無いので特定の時には外しているか、除外者を設定しているかですが。魔法の関係上こういった時は特定の物を所持している時は除外されるケースが多いです。私は商会員らしき物から一点ずつスリとって近くに落とし様子を伺います。鍵、木札、護符、財布。一人ポケットに腕輪を入れていた不自然な方から取った腕輪が当たりのようです。腕輪を落としたその方が入った後少し中が慌ただしくなりました。入口付近ですぐに腕輪が見つかりましたがその人は随分怒られています。ただ普段腕輪を取ろうと思ったら大変ですね。侵入するのは一旦おいておきましょう。ただ気になっていた果物についてはすぐに判明することになりました。ドーナントとお付きの者が何かやりとりしているのが見えたからです。

 

「これをいつものように。」

 

「いつもながらひどい匂いですね。」

 

「だからこそというのもある。周りの目もあるから早く行ってこい。」

 

 お付きの者は逃げるようにその場を離れ、厳重にその箱をさらに梱包して運び出します。薬草類の積み込みも行われていたので商会の調査も頓挫しそうだったのでついて行くことにしました。輸送先は看板からすると錬金術関連の施設のようです。積み込み作業が粛々と行われ取引が完了したようです。検品しているときにひどい匂いであろう箱が開けられ中身を確認できました。例の果実を干したもののようです。荷受けの錬金術師らしい者はうれしそうに笑いながら箱を閉めています。お付きの者は匂いがきついのか微妙な顔をしていますが。お付きの者は代金を受け取ると逃げるように去って行きました。私はそのまま錬金術施設の調査を始めます。警戒心が薄いのか個人の都合なのか施設周辺には何も無いようです。私はこそこそ書類に近づき先ほどの明細を確認します。

 

 『乾燥カクカダ  905g 金貨96枚』

 

 例の果実がすごい値段になっています。乾燥したのでどれだけの量かわかりませんが。むしろ気になるところはここで初めて果実の名称が出てきた所でもあります。人の視線が切れたところで素早く匂いのする箱に近づき中身を再度確認します。11個の干からびた果実が入っています。先日購入したものでほぼ間違いないようです。商会の中で魔法で乾燥させたのでしょう。匂いが強くなったせいか奥が騒がしくなって戻ってくる気配がしたのですぐにその場を離れます。カクカダ単体では高価な果物程度の認識で、処理を行うと随分高級な素材になっているようです。乾燥させるだけですごい利益になっているのだと思います。税をごまかしたりはしていなかったようですが、ごまかす必要のないほど利益を得ているようですね。誠実でもなく相手の無知をそのままにする典型的な商人であると思います。こればっかりは知らない方が悪いとしか言えませんね。商品と商会の調査は雑ですがこのあたりで切り上げ別口から調査を行います。町の人口、雰囲気、警備、兵の強さ、動員戦力、商品の動き、商会の勢力。町をふらふらしたり、門や市長邸の書類をあさって調査を進めます。一日と半分かけて要望されたことを調べ上げてご主人様の元の戻ります。斥候兵の足に合わせるのももどかしいですが行きに比べれば問題ありません。一日半かけて拠点に戻ります。ご主人様達は馬車とアトモス(とかげ)をつないで町に行く準備をしているようです。

 

「ご主人様、ただいま戻りました。」

 

 ご主人様はいつも喜んで出迎えてくださります。至福の喜びです。ですが離れて仕事を命じられるのはやはり気分が落ち込みます。なんとも言えない悩ましさを感じます。報告を聞いてご主人様の顔がいろいろ変わっていくのを眺めるのも楽しいです。報告が終わって最後に褒めて頂きます。私は幸せに包まれながら次の指示を待ちます。これから皆で町に行くようなので斥候と護衛になるようです。ご主人様は別の切り口からこの盤面に勝利しようとしているようです。もしかしたら楽しんでいるだけで勝利する必要はないのかもしれません。なにがあっても私はご主人様の為に動きますよ。

菫視点のざっくり調査。

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