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僕、村おこしする。

 村から出て約五時間。正直往復時間と戦闘時間がどっこいどっこいと思ったより時間がかかったと思った具合ではあったが、長年苦しめられ警戒していた相手がよもや日帰りで終わるとは思っておらず村からは半信半疑の雰囲気で迎えられた。村長を前に広場でヒドラの首を出し討伐の証として見せると集まった村人の歓声で包まれた。

 

「これで僕らの能力はある程度証明できたと思う。改めて聞く。僕らに協力するか、それとも知らないふりをして生きていくか。」

 

 僕は村長と村人を見て言った。村人は歓声から一転静かになる。言い方が悪くなっているがこうなると答えは決まってくる。

 

「我らグラハ村一同遊一郎様に協力いたします。」

 

 村長はそれでも苦しそうに声を出した。村人としては賛成の歓声が多めで、不安がっている人も少々といったところ。

 

「協力の申し出ありがたいと思います。ただ喜んでくれた人も不安がっている人にも認識して頂きたいのですが、まず戦力としては求めていません。」

 

 一部の元気そうな若者から微妙な声が上がる。

 

「どうしても戦力として働きたいのなら訓練はしますが、よほど強くならないと最前線には出られないと思ってください。」

 

 僕はテンションの高そうな若者に釘を刺す。最も僕も随分若者なのですけど。

 

「皆さんにやってもらいたいのは情報集めであって戦うことではないのは村長に言ったことの繰り返しになりますが、今直接皆さんにその作業をやってもらうわけでは無く一、二年かけて情報を集めるための組織を作ってもらいます。簡単にいうと商売してもらうだけなんですけどね。」

 

 僕はそう言って協力してもらう為のプランを提示する。選定者が生み出す莫大な資源を元手に商売をしてもらいその過程で各地の情報を収集してもらうという流れである。

 

「しばらくはここが起点二なると思いますが時期にもっと利便性の良いところに本拠点が移っていくことになると思います。その時ここにいたままでもいいですし、移動してもいいですし。その辺まではお世話します。最終的には僕の指示無く自由にやってもらって大丈夫にしてもらいたいです。これは選定者側の事情になりますが、必ずしも僕が最後まで面倒を見れるとは限らないので、皆さんに独立できる形で作業をして欲しいと言うことです。今回の試練は最長五十年と長丁場で僕が早々にリタイアするとその間お世話が出来ないことも考慮しています。なるべくそうならないようにはしますけど。相手ありきなので確実ではないということは認識しておいてほしいです。」

 

 僕ら側の事情を交えて構想を語る。

 

「つまり我々に事業を任せてもらえると言うことですか?」

 

 村人の一人が恐る恐る聞いてくる。

 

「簡単に言えばそうですね。資金と商品、輸送手段。最初はすべてこちらで用意します。皆さんにはある程度損得は考えてもらいますが、慣れるまでその辺もざっくりやってもらっても大丈夫です。損失に対する責任も追及するつもりはありません。」

 

 僕の答えに村人の中からぼちぼち感嘆の声が上がる。意外と商売したそうなひとが多かったようだ。

 

「これは全体的にも言えることですが僕に対して不正を行うことは許容するつもりはありません。多少はともかくひどいようならそれなりの覚悟はしておいてください。」

 

 少しだけ強めに警告する。

 

「やりたいことを考えて先行したい人がいたら言ってください。しばらくはそのまま過ごしてもらっても大丈夫です。こちらも準備がありますので。あと村長と通ってくる隊商、直轄の国について詳しい人がいれば話を聞きたいです。」

 

 僕はそう言って話を締めた。

 

「概ね私だけで足りると思いますが・・・村の資材と金勘定をしておるものがいますのでその者と一緒に。」

 

 村長がそう言ってくる。僕は頷いてそれを頼み村長の家で話すことにする。

 

「桔梗と鶸で村と森の間に下級拠点の建築を頼む。倉庫一式と作業場を作って生産と資源採掘体制の構築を頼む。菫と萌黄は中級拠点と最下級拠点のほうに行って資源とミーバの引き上げを頼む。資源についてはミーバ達が持てるだけでいい。財貨と魔石を最優先に他は均等に。あとカノン砲を更地に。」

 

 僕は菫たちに指示を出して作業に取りかからせる。菫が少し難色を示したがすぐに作業に移る。その後村長が連れてきた壮年の男と村長宅で話し合いを行う。

 

「まずは国と税ですね。」

 

 僕は椅子に座るなり話を切り出す。

 

「厳密に管理されておるわけではないのですが、ルーベラント王国の管轄になります。そこそこ古い・・・二百年くらい続いている国ですな。今五代目になったところで特権意識が強くなってる感じですかの。」

 

 村長がため息をつく。

 

「百年前の試練の時はどうだったんですか?」

 

 僕はなんとなく聞いてみる。

 

「先祖が関与した使徒様に協力的ではあったようですが建前上は中立と聞いています。ただ外から見る限りでは及び腰で自分らの地位を守るために近寄る使徒にすり寄り口先三寸で生き残ったという見方の方が強いようです。」

 

 村長はまた面倒くさそうにため息をつく。

 

「まぁ本来税を払って庇護されるべき我々としては税は取られるが何もしてもらえないという何のためにあるかよく分からない国なのですよ。」

 

 村長のつれてきた男が横から補足をしてくれる。僕がそちらを見ると男が軽く礼をしてくる。

 

「自己紹介がまだでしたな。村の資源管理を任されておりますスレウィンと言います。」

 

 しゃべりだすと見た目の割に少し軽そうな男はそう言った。僕は軽く礼をして自身の紹介は省略した。

 

「この村の収穫物はほぼほぼ一部の果実に依存しており、そこで得た金銭のほとんどを食料に変えている状態です。具体的に税を取られているのではなくやってくる隊商に物資の販売を行うとそこから税を抜かれている案配です。」

 

 スレウィンが解説する。僕はそれを聞いてその果実の現物がないか聞いてみる。村長は快くそれを用意して持ってくる。

 

 『カクカダ:別世界から持ち込まれて定着した。そのままでも栄養価が高く、錬金処理することによって様々な効果を及ぼす。』

 

 僕は鑑定して内容を確認する。そこそこ生えているので気にもとめていなかったようだが、珍しいどころかそもそも百年前に発生した植物のようだ。研究が進んでいるかにもよるが付加価値は高そうだ。僕はそのまま本で周辺での相場を検索する。金貨1枚から2枚。正直一果実としてはかなりの価値を生んでいる。

 

「ちなみに税はどのくらいとられているんですか?」

 

 僕は果実を手に持って眺めながら訪ねる。

 

「六割。果実に限らず隊商に物を売るとそれだけ抜かれて支払われます。」

 

 スレウィンが苦虫をかみつぶしたような顔で答える。

 

「果実はどのくらい売れてるんですか?」

 

「通年実が出来るのですが月二十位ですかね。今回は出来が悪く十五ほどでしたが。二十売ると金貨六枚が帰ってきますね。」

 

 金貨六枚。売値自体は十五枚といったところか。村の人口から考えれば普通に維持できそうな額といえる。ぼったくりというほどではないがそこそこ買いたたかれてはいるようだ。ここまでの安全度も分からないので一概には言えないとその時は思っていた。隊商が持ってくる商品がぼったくりだった。他に来る商人がいなくなったせいか、市価の二倍以上の価格で村に売られている。さすがの適正とは言いがたい状況に僕は苦笑いしか出なかった。

 

「町から村までの状況がわからないのでひどいとは言いがたいですけど・・・多分大分ぼってるんでしょうね。」

 

 僕はそう言ってみたが村側も多少は分かっているようで、村での作業と距離、輸送の維持費を考えると中々難しいようでしょうがないと受け入れているようだ。

 

「調査次第ですけど僕らも商売するようにはなるのでぼちぼち改善していきましょう。」

 

 そうはいったもののこんな小さな村が月金貨五枚の税を生み出しているというのは破格といえる。同規模の村の十倍ではきかないだろう。小さな町よりも高いと思わせるくらいである。潰れたらそこそこ困りそうな村なのに国が何もしていないのも気になる。僕は席を立ち桔梗達の様子を確認しにいく道すがらどう進めるか考える。

 

「また悪そうな顔して・・・何を企んでますの?」

 

 鶸に声をかけられてはっとする。拠点から基礎的な施設まで概ね完成している。いつも通りというのもなんだがミーバ達が露天掘りを始めている。

 

「難しいお話でしたか?」

 

 桔梗がよってきて聞いてくる。

 

「いや、難しいというよりは・・・まあ相手も商売だしな。ひどいかもしれない商人をどうしてやろうかなと考えていたんだよ。」

 

 僕は集まってきた二人に説明する。

 

「はぁ。競争相手がいないならしょうがないでしょうねぇ。ただ命を握ってつり上げているのは気に入らない所ですわね。」

 

 鶸は思ったより心証よりな発言をする。もう少しシビアな考え方をしていると思ったのだが。

 

「菫が戻ってきてからだな。斥候兵でもいいけど町中まで考えたら菫が適任だしね。」

 

「菫も大変ですわね。」

 

「しょうがないだろう。判断力、作業性、隠密性とどう判断してもこの手の調査向きだしな。」

 

「そういうことろですのよ。」

 

 鶸が少し頬を膨らませて怒っているが僕としてはなんとも判断つきづらい所ではあった。

 

「菫、寂しい。」

 

 桔梗が僕の袖をつかんで言う。みんなして心配性だな。わかったわかったと言いながら僕は桔梗の頭を撫でてその場はごまかした。

 

 翌日、隣の中級拠点から萌黄がミーバを引き連れて戻ってきて下級拠点の作業がはかどる。萌黄には森の追加調査を依頼し作業してもらう。鶸と検討しながら新たな馬車作りを進める。

 

「何で引っ張らせるんですの?さすがに蟹では通用しないと思いますわよ。」


 鶸の話を聞いて僕は何の事かと思ったが車を引く動物にもいくつか選択があったのを思い出した。スレウィンに相談し最終的には積載性と頑丈さを重視してアトモスという蜥蜴を主に採用し、急ぐものについてはデューリなる恐竜を使用することにした。蟹でいいじゃないかと途中まで思っていたが、そもそも蟹は普通命令を解さないというツッコミをうけて非常識かげんを納得してしまったのだった。

 

 その翌日も村人そっちのけで馬車開発を行う。試作一号を公開し試してみたい人たちに使ってもらう。口々に良い評価をもらってご満悦。

 

「中の商品より馬車の方が価値が高そうというがもなんともいえませんな。これだけ乗り心地が良ければ乗合馬車もよさそうですね。」

 

 とスレウィンの言。使用素材や機能のせいで貨物馬車にはかなり高級な仕様のようだ。

 

「後は護衛をどうするかですな。さすがに村から出すのは難しいですし。」

 

 スレウィンが悩む。

 

「ミーバを使えればいいんだけど、世界的に魔獣使いみたいなのはいないのかな。」

 

 僕は聞いてみる。

 

「狼や犬のタイプで命令を聞くようになったと聞かないでもないですが職業として確立しているほどでは無い気がしますな。」

 

 答えが返ってきて僕は考える。

 

「いや、でも僕の存在を流布するのはあまり都合がよくないか・・・それ用の人を雇うか教育するかかね。隣にいくまではミーバで隠れて行うとしよう。」

 

 僕とスレウィンは当面はということでそこで納得した。

 

 翌日、菫がミーバを引き連れてやってくる。

 

「ただいま戻りました。」

 

 と言いきる前に僕にダイブしてくる菫。なんとか抱き留めておつかれと頭を撫でておく。萌黄が私と対応が違うとなにかしょぼくれているが雰囲気だ雰囲気。萌黄も楽しかったんだろ?

 

「これが遊一郎様の全兵力ですか・・・。」

 

 生産場となる拠点に視察に来ていたスレウィンが空き空間にならぶミーバの群れを見て感慨深い声を上げる。

 

「最近消費してないからねぇ・・・増える増える。しばらくここ以外では生産を控えるからびっくりするほどは増えないと思うよ。」

 

「現時点で都市クラスの兵力だと思うのですがね。」

 

 完全武装のミーバ達を見てスレウィンが呆れ声を出す。

 

 作業担当Y型1532

 軽装兵M1722 斥候兵C1114 重装兵Y982

 長弓兵M50 銃兵Y1252 B352

 伝令斥候騎兵C500 軽装騎兵M1670 銃騎兵Y1026

 魔術師C1215 医療術師B725 戦術師C566

 

 M3442 C3395 Y3260+1532 B1077

 

 一同に集めた事は無かったのでこう勢揃いすると中々壮観・・・よりは気味が悪いという感じである。意図的なのかしらないがグループごとにうねうねする職種の動きが同じなのがなお気味悪さを増幅する。ウェーブ芸とかさせれば解消されるだろうか。

 

「これがたった一人に駆逐されるとか正直考えもしなかったけどね。」

 

 正直来ると分かってれば僕でも出来そうなのがイライラする。

 

「英雄様方ですな。王国にも一応そういう方は一人いらっしゃいますな。まあどこの国も最低一人はいないと隣国に喰われてしまいますからね。」

 

 スレウィンが神妙な顔で語る。むしろ隣にいるのかと辟易するのと、あんなのが無数にいるという事実にさらに嫌気がさす。

 

「いちいち攻略しないとだめなんだろな。億劫すぎる。」

 

「おや、世界征服でもなさるおつもりですか?」

 

 スレウィンは意外そうでもない口調で聞いてくる。

 

「そのつもりは全くないけど、どこにいるかも分からない使徒様方と戦うのにそれなりの兵力もいるわけで・・・国の隣に言うこと聞かないこんな兵力がいたら普通は見過ごさないでしょう。」

 

 僕はミーバ達を見てそ言う。ミーバ達は僕の視線をうけて謎の歓声をあげるが、褒めてるわけじゃないからな。スレウィンも確かにそうですねと少し笑いながら小声で言った。

 

「この国の英雄様について分かることはある?」

 

 攻撃、防御、切り札。何でも前情報で分かっているに越したことは無い。

 

「単独無双なのはどの英雄様方にもほぼほぼ共通されている事項ですね。ただアリア様の肩書きである『霧の剣士』。その名の通りそこにいるか分からず、触れられず、気づかぬ内に斬り捨てられる、そう伝わっていますね。」

 

 聞く限りでは回避か幻惑系の剣士に聞こえるが、堂々と能力が伝わっているのも怪しんでしまう。

 

「初期の頃はともかくそこそこの期間多くの戦いをこなせば自ずとそれらしい能力も伝わってきますよ。」

 

 スレウィンは軽く言っているが初見殺し的な能力は知られたらおしまいだと思うのだけどね。相対したくはないけど参考程度にして考えておこう。

 

「先の話はおいおい考えるとして今は商売の準備をしよう。」

 

「さようですな。」

 

 僕とスレウィンはそう言って話を一旦切り、商品をどうするかの検討を行った。正直流せる高価な物は無数にあるが、高級金属を流して相手が強くなるのも困る。ある程度はこちらで対処できる範囲のものだけ流通させたい。食料品も以前の反省を踏まえてなるべく折り合いをつけながら調整したいところだ。目をつけられるのは構わないが、国家単位で潰されにきてはたまらない。そんな想いも織り交ぜながらスレウィンとあーだこーだと販売品目を絞っていく。

 

「もう二、三日で商隊の方々が来られると思いますが、遊一郎様はどうなさいますかな?」

 

 初回の品目を決めたところでスレウィンが切り出す。

 

「隠れてやり過ごす。というか直接会うつもりはあまりないね。別途探りは入れるけど直接話したところで僕の方がボロがでそうだ。」

 

 僕はお手上げといった感で答える。

 

「そうですか。では、こちらでいつものように対処しておきます。」

 

 スレウィンは確認の為だけだったのか特に食い下がらずメモをまとめて引き下がる。

 

 翌日も馬車の最終調整を行いつつ村人の希望を確認する。菫は連れていき、萌黄には希望者の訓練を見てもらう。萌黄を監督にするのはどうかと思ったが実力差がありすぎるので多少雑になったところで大きな差もあるまい。各技術の担当として各職ミーバを補佐につける。あれだけ言っても前線で戦うことが華だと思っている若い衆の四人と村の防備を底上げしたいという中年二人が参加し思いのほか訓練広場は盛り上がっている。純粋に村に残っていたいのは老人達ばかりで思い入れというよりは足手まといにならぬよう、若者に道を譲ろうという想いの方が強いようだ。何か別途小さな作業でも与えたいところだ。ついては行くが移動先で暮らしたいというものが大多数。伴侶と一緒に行きたい者、誰かのためについて行きたい者、ただ閉塞感から抜け出したい者など危険は歓迎できないが変化は欲しいという者達。熱意、野望、羨望。大きな商売を任せてもらえると言うことで様々な年代の七人が新規事業である商会に参加する。村長は責任者として、スレウィンは代表者として任に就く。

 

 翌日、斥候兵を道沿いに派遣し商隊の移動状況を確認させる。五時間もしないうちに戻ってきて翌日には村に到着するだろう事が確認される。荷物も多いせいだろうが僕らみたいに異常な速さで移動しているわけでは無いからか。僕は桔梗と魔術師と相談して後方の生産拠点を見られないように幻影や魔術罠を仕込み情報を外に出さないように細工する。作業には特に時間がかかるわけでも無く早々に暇になるのであとは訓練と研究に当てる。

 

「そろそろ製造技術か新規素材を探しませんと。ピンと来そうな発想でもよろしくってよ。」

 

 鶸が先の事を見据えて提案してくるが半分くらいは自身の趣味な気がする。追々とと言いたいところだが確かに改善の為には必要なことではある。かといってとっかかりが無いと本で探しようもないのだが。話すだけなら只ということもありゲームやアニメのネタ振りをして鶸の頭を捻らせておく。そもそも世界の金属素材は概ねあさったような気もするのだけど生態素材以外で何かあるのかと。後は地道な合金研究くらいしかないのではなかろうか。ぼちぼち悩みながら時間を進める。

 

 翌日昼前頃に予定されていた商隊がやってくる。馬車三台に食料品を主に積み込みやってくる。僕と菫、萌黄は離れた木の上に隠れて様子をうかがう。音に関してはスレウィンに集音マイクの箱を荷車に紛れ込ませて持ち込ませている。一kmも離れると無理だが三百mほどで隠れている僕らにはちゃんと無線で声が拾える形になっている。先日ドローンで使った技術の一部である。

 

「いつもお疲れ様でございます。ドーナント様」

 

「全く随分な距離ですからな。商売のこともありますが村の為人の為でもありますからな。」

 

 ドーナントと呼ばれた商人は良いこと風に言っているが隠す様子も無く白々しい。良くも悪くも商人といった所か。

 

「こちらがいつもの果実でございますので確認お願いしますな。今月は収穫が悪く数が少ないですが。代わりに森の稀少植物を用意しましたのでそちらも併せて換金して頂きたい。」

 

「あー、いつもの薬草ですな。品を改めます故少々お待ちくだされ。」

 

 スレウィンはいつも通りの作業なんだろうと慣れた風に果実の袋と、植物の束を差し出す。そう言えばあの植物を確認するの忘れてたな。ドーナントは馬車の陰で連れてきた別の男と共にあーだこーだと商品の確認をしている。

 

「それ・・・求め・・隣町・・・金・・・」

 

 菫がぼそぼそとつぶやいている。読唇術かよ。

 

「こういったことの防御なのか癖なのかわかりませんが唇の動きが弱くて読み取りづらいですね。植物のほうが近所で捜索依頼があったような話をしているようですが。唇は動かないのにあのにやけ面はなんともイライラしますわね。」

 

 防御なら完全に口を隠しそうなものだが怪しまれない為だろう。菫が見えないわけでもないのに目を細めて集中している。そのうち打ち合わせが終わったのかドーナントが戻ってくる。

 

「果実はいつも通りで金貨十一枚とQ。薬草のほうは量が多めなので金貨四枚で買い取りましょう。」

 

 ドーナントが嘘くさそうな爽やかな笑顔で提案する。

 

「んー、苦しいですがそれで手を打ちましょう。」

 

 スレウィンがそう答えドーナントが心地の良い返事をして金を持ってこさせる。

 

「今少し動きが鈍りましたね。予想外だったのでしょうか。」

 

 菫が急に反応した。何がそう見えたと思うくらい僕には何も分からない。気のせいならよいですがと菫が小声で言ってその場は保留にする。

 

「では税を引いて金貨六枚と大銀貨十枚ですな。お受け取りください。」

 

 ドーナントは効果が入った袋をスレウィンに渡す。スレウィンはその金を使って干し肉や乾燥野菜などを買い求め荷車に移していく。菫はその間もドーナントの様子を伺っていたが時折首をかしげている。初めて見た男相手によくわかるもんだ。スレウィンは大銀貨六十枚ほどを残して取引を終えて倉庫に戻すように指示している。菫は目を細め視線を動かしながら集中しているようだ。

 

「ドーナントは読みづらいですが他の使用人はそれほどでも無いようですね。思ったより売り物が残ったのが少し気に入らないようですね。」

 

 菫の言葉に僕ははっとなって菫の顔を見る。スレウィンは知らず知らずに必要のないものを買い控えてしまったようだ。無意識に節約指向動いてしまったのだ。そんな些細なことからドーナントは村の様子を少し疑っているようだ。恐らく今までなら売りが多いときでもないとそうそうお金を余らせることがないのだろう。何が起きたかは分からないが何か変化があることは察したようだ。

 

「元々予定通りではあるけど菫はこの後斥候兵と共にドーナント商隊を追跡してドーナントと町の情報を収集して欲しい。税の行方と国との癒着具合がまず一つ。あとは町の規模と可能なら王都の情報だな。」

 

 僕は菫に指示を出して頭を撫でてよろしくと送り出す。強請るつもりもないのだが状況次第ではバッサリ斬り捨てたい。これからこちらが商圏を展開するにおいて邪魔になるか利用できるかだ。そう思いながら僕はドーナントが去って行くのを確認して木から下りる。

 

「スレウィン。どうもごまかしきれなかったみたいだね。」

 

 僕は近づいて声をかける。

 

「恥ずかしながら。いつも通りのつもりでしたが何か違和感を感じられたのでしょうなぁ。年期の入った商人はだませないものですな。」

 

 スレウィンは軽く頭をかきながら乾いた笑いを浮かべる。

 

「まあその辺は後々考えよう。どう言われたところでやることはほとんど変わらない。その後は菫の報告次第だね。」

 

 僕はスレウィンの横にある箱を軽く叩きながら告げる。

 

「面目ないですな。私もあれほど戦えるようになりませんとな。」

 

 スレウィンの気合いを入れる様子を見ながら僕も頷いて次の行動について考え始める。

次は菫サイドを進めてから商会出発したいと思います。


萌「こーやってきたらこうだよ。」

レ「いやいやそんなおかしな動きにならないから。」

萌「体堅いなあ。」

レ「体堅いのは否定しませんけど、その前にその触手は何なんですか。」

萌「だから、こうやって、こうだよ。」

レ「すんません。俺等手が二本しかないんですよ。」

斥「ミ゛ヤー」

レ「いや一本でもうちらそんな変幻自在に曲がりませんから。」

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