僕、分岐点に立つ。
拠点に行ってもよかったのだが菫が何やら難色を示しているので旅館の食堂で食事をとることにする。菫に特に注文をつけることも無く高い方で頼んでおく。初めて見たときは冗談みたいなコストだと思っていたが今では気にするほどの値でもない。一応もてなしというつもりもあったからだが。食事を並べられてユウがこちらを怪しんでかにらんでいる。
「毒なんか入れないから安心してくれよ。そんな手間をするくらいなら殴った方が早いということくらい理解してほしいね。」
僕は少し嫌みっぽくユウに告げる。神谷さんはユウを軽く制止し、平謝りである。
「食べれるだけ食べてくださいな。いただきます。」
僕が食べ始めると彼女は食卓でぶつぶつ祈りを捧げている。取りあえずはそっち系の人かとだけ認識し気にせず食べる。少ししてようやく彼女は食べ始め美味しいとなんか驚きながら食べている。今まで何を食べていたんだろう。全体的にゆっくり食べ、二十分もしたところで二人とも食事が終わる。菫に食器類をかたづけてもらい、代わりに鶸が飲み物を持ってくる。
「な、何から何までありがとうございます。」
神谷さんは緊張しているのか少しどもりながら話す。
「いえ、別に。友好的に接した相手には大体してることですので。」
僕は気楽にと思ったつもりだったが、かえって彼女は体を堅くする。
「今日は遅くなったのでこのままここを使ってもらっても大丈夫です。今から戻るならそれはそれで止めるつもりはありません。五日くらいの間に協力していただけるかどうか返事だけいただければ。どういう返事であろうと最低限の支援と情報だけはお渡しします。隣で友軍がやられるとかあまり気分がいいものではないので。それじゃ、また。」
あまり話にならなそうなので僕はさっと戻ることにする。たいしたことはしていないが正直眠いので鍛錬所でリフレッシュしたい。身を固くしていた彼女だったが僕が立ち上がるとがたっと椅子を押しのけ立ち上がり僕に顔を向ける。
「貴方はどうしてこんな恐ろしいところでそんなに頑張れるんですか?」
彼女の悲痛の叫びのような質問に僕は少し考える。他人から見るとよほど異常に見えるのか不思議でしょうがないのだがチェイス様も変な反応してましたしね。
「強いて言えば悩むに値しないからですかね。この体は本体ではなくコピーだし。知ってました?盤面をリタイアしても四回死んでも最後の結果発表には参加できるんですよ。つまりは今どんな無茶をしても盤面後には生きていることが保証されてるんですよ。楽しまなきゃ損でしょう・・・と思っているんですが。神谷さんはそう割り切れてはいないんですね。」
僕はちょっとオーバーアクションに言って見せたが彼女の複雑な顔を見ると同意はしてくれなさそうだ。今の僕にとってあくまでここは盤面なのだ。
「神谷さんも最低一回は死んでると思うんですけど。戻ってきてまであんな要塞みたいな拠点を作ってやりたいことがあったから戻ってきたんじゃないんですか。最もチェイス様なら口先三寸でだましそうですけど。」
彼女は一瞬だけはっとした顔をしてうつむいた。
「死にたくないというのなら僕ができる限り支援しましょう。あの拠点に引きこもって三十年頑張るのも自由です。今すぐリタイヤしたいというのならその子達を押しのけて介錯して差し上げましょう。どうぞ自由にしてください。僕も好き勝手やってるつもりなので。」
僕は少しだけイラッとして皆をうながして旅館を出る。彼女をいたわるトウと僕にかみつきそうな顔をしているユウ。ほんと好きにしてほしいと思う。他人の人生を引っ張るほど僕は老成していないつもりだ。鍛錬所に入る前に菫たちに指示をだして僕は休むことにする。
翌朝、鍛錬所を出ると菫に取り押さえられているユウがいる。
「なにやってんの?」
状況がよくわからなくて一応聞いてみる。
「お前、僕と勝負しフガフガ。」
「申し訳ございません、ご主人様。先ほどから私たちにくってかかるものですから。」
暴れるユウを押さえながら菫が申し訳なさそうに言う。
「支援した後ならともかく今やっても道端の石ころと大差ないんだけど。分かってる?」
僕はどうでも良さそうに言い放つ。それでも彼のやる気は失われない。朱鷺が優秀だったのか彼がアホの子なのか。僕はため息をつく。
「んじゃ気が済むなら一回くらい相手してあげるよ。その鉄剣程度でどうにか出来ると思ってるならおいで。」
僕は菫に目配せして束縛を解かせる。ユウは獣のように叫び声を上げて飛びかかってくる。今ならあの時朱鷺が言っていたことが理解出来る。ユウがゆっくり飛びかかってくる間、僕は彼の体に弾丸を放り投げてやる。一、二、三・・・彼がその剣を僕に切りつけるの諦め、目の前に立ち尽くすまでの間に八個の弾丸をぶつけてやった。
「理解できたか?次はもっと良い勝負になるさ。ただ神谷さんを守りたいなら判断を誤るなよ。ただ僕が一番弱いと思った判断だけは間違ってないぞ。攻撃能力のない鶸を除いたら最弱なのは間違いないからね。」
僕はそう笑って彼から離れる。菫がそれに合わせて僕に追従する。
「随分といじめられましたね。」
菫が楽しそうに話しかけてくる。
「いじめ・・・そうか、そうかもな。まあ彼は彼で何もできなかったのが悔しかったんじゃないのかね。」
そう言って僕は話を流した。彼女に見極め、守られ続けた僕は彼の姿に憤りを感じていたのだろう。彼の独断専行は場合によっては彼の主を害する行為なのだから。旅館で重苦しい雰囲気の中朝食を取り終えてお土産を持たせようと物資を出そうとしたところで神谷さんが話しかけてくる。
「あの・・・助けて・・・協力してもらえませんか?できる限りのことはしますから。」
僕はその発言が一瞬だけ理解出来ずにきょとんとした。彼女が判断するのはもっと先だと思っていたからだ。あと「何でもしますから」と言わなかっただけ偉いなとどうでも良いことも考えていた。
「軽率・・・とは言うつもりはなかったですけど、判断が早かったですね。」
僕はなんとかそう口に出した。
「私、この子達をより守りたくて、やり直したくて戻ってきたんです。それで拠点を大きくしていきたくて・・・それで更に大きくしようと思って教会で聞いてみたら、生き物を殺せってなって、そしたら頭がこんがらがって目の前が真っ暗になって、それで。」
彼女はとりとめもなくどうしようと思ったかを語り始めた。僕は取りあえず聞いていた。
「でもそれでもこの子達を守り切れなくてどうすればいいかわからなくて。」
ようはミーバ達を殺したくないという話なのだろう。拠点の形状からもそれは見て取れる。
「残念ながらそれは僕が指導しても無理だ。どうしてもというなら狭い区域で引きこもるしかない。」
彼女は涙目の顔を上げて絶望感漂う表情で見る。
「元々の世界の居住が比較的治安がよかったからって勘違いしちゃいけないよ。元の世界で言えば動物たくさんのへんぴな山奥に住んでるのと大差がない。むしろもっと過酷なんだ。もっと言えば僕らがこうして存在していること自体が異物なんだ。向こうからしたら僕らが邪魔なんだよ。そう思うならせめて村か町で暮らすべきだよ。」
僕は彼女の気持ちを組んでやれず状況を理解してもらおうとする。
「村でそこそこの能力だけ使って生きていればそれなりに過ごせると思うよ。だけど、そこでも僕らに求められるのは外敵を排除する力だと思う。都市に行って貴族にすり寄っても良いかもね。僕らの能力を駆使すればその辺の経済なんか簡単に支配できるよ。現に僕もやらかしたしね。そうすると貴方を巡って戦争になるんだ。直接的であれ、間接的であれこの世界にいる以上快適な暮らしを求めたらどこかでぶつかるよ。快適でなくても貴方が善意でその魔法で誰かを助けてもきっとそのうち争いを呼ぶよ。それだけ僕らの力はこの世界にとって凶悪なんだ。」
僕は彼女を脅すようにして自分たちの能力を認識してもらう。彼女はちょっと引き気味ではあるが聞いてくれてはいる。
「僕の予想だけど、盤面は神様の案件を解決するための手段でもあるけど世界を引っかき回すていう第二の目的もあると思う。何のためにかはどっちかわからないけど。」
僕はちらっと彼女を見る。
「幸いというわけでも無いんだけどミーバ達は各色ごとに共通の意識しかもってない。神谷さんにとっては一体一体が大事かもしれないけどミーバ達にとっては全部で一体なんだ。その中でもとりわけ大事にすると彼女らみたいになる。そうなると独立した意識を持つみたいだけどね。」
僕は菫を指さしトウとユウを指し示す。彼女は頭を動かして目線で追う。
「僕もミーバはそれなりに大事だけど皆に同じ記憶があるなら割り切ることにした。でも戦いで失った彼女だけは今は戻ってこないんだ。そういうこともあって神谷さんには守りたい物を間違えずに、また心を壊すことが無いようにしてほしいね。」
僕はそう言って神谷さんを見た。神谷さんははい、とだけつぶやいた。
「と、説教くさくなったけどどうします?考え直しますか?」
僕は雰囲気を変えるために明るめの声で訪ねた。
「いえ、それでもみんなを守るために協力してほしいです。」
彼女ははっきりそう答えた。
「まあその程度のことなら元々予定のうちなんですけど。要点は僕に協力してもらえるか、ですね。」
僕は改めて訪ねる。
「もらってばかりじゃ悪いと思うので、私も協力します。」
彼女は意を決したように言った。
「ではしばらくか当分かはわからないですけど、仲間としてよろしくお願いします。」
僕はそう言って手を出し、彼女はその手をとって握手した。こうして僕らは協力して盤面を進めることになった。そこから三日ほど彼女の拠点とを往復し防衛機構の見直し、盤面システムの知識詰め込み、そして兵器とミーバの譲渡を行う。
「紺野くんはよく調べましたねぇ。私ぜんぜん気がつきませんでした。」
「僕の場合はちょっとずるみたいなのがあったからね。元々ゲーマーなのもあるけど。細かい所は神様に聞いたりもしたし。」
システムの説明を終えて神谷さんはそう話してきた。彼女はずるが少し気になったようだけど、どうでも良い要素なので少し濁しておいた。
「真面目に体を鍛えても良いんですけど僕のほうで管理もできますし鍛錬所に引きこもってもいいんですがどうします?」
「運動は苦手ですけどそこは頑張ろうかと思います。」
彼女は苦笑いしながら飛び跳ねる。跳ねすぎて胸が痛くなったのか手で押さえてうずくまるまでが彼女らしさを物語る。
「ま、まあその装備を着ていればそうそう死ぬことは無いと思いますが早めにステータスを鍛えるのは急務ですので頑張ってください。」
とうずくまる彼女から目をそらす。正直杖の能力補正をなめていたと思うほど彼女のステータスは歪だった。
神谷桐絵 グループなし 魔術師Ⅱ
STR:82 VIT:112 DEX:65
INT:247 WIZ:298+20 MND:187 LUK:6
MV:6 ACT:1.0|1 Load:326 SPR:363
HP:244 MP:625+232
ATK:114|106 MATK:494+232+346(170) DEF:35+88 MDEF:117+96
スキル:統合魔術Ⅵ
条件発動Ⅲ、詠唱短縮Ⅶ、消費軽減Ⅴ、貫通術Ⅱ、延長術Ⅲ、長射術Ⅳ、拡張術Ⅳ
血操魔、集魔
(攻勢魔術Ⅱ、守勢魔術Ⅱ、瞑想Ⅱ)
装備:龍眼魔法増幅腕防具(杖)、龍布防具
特典アビリティ:杖232
集魔:負荷の回復を早める。
杖の形状は落としたり何かと不利なのでどうにかならないかと思ったが、現物を杖に吸収させるとその性能に合わせることが出来る模様。攻撃能力の類いは杖が超えるとそちらに上書きされるようだ。便利極まりない。
「あとは防御の為の体術か軽盾、もしくは両方があるといいですかね。」
よくよく考えたら杖って防御的な意味もあったので必ずしも腕防具が大正義でもなかったなぁと今更ながら思う。
「後暇つぶし・・・というわけでもないですが魔法関係の製造スキルをいくつか教えますよ。」
「お願いしますっ。」
恐らくその分野に興味があったわけでは無いと思うが、教えるから頑張る、ということだろう。
「もう、お前には負けないぞ。」
ユウが自信満々に指を突き立ててくる。確かに真正面からやったらめんどくさいよなと思いながら顔だけ向けてやる。もらった装備でなんでこんなに偉そうなのかちょっとだけむかつくが華麗にスルーしておいてやるか。ユウは紅紫型で朱鷺と同じなのだが朱鷺よりも腕力よりだ。
ユウ グループなし 軽装兵Ⅱ
STR:572 VIT:506 DEX:451
INT:406 WIZ:412 MND:425 LUK:3
MV:16 ACT:1.3|4 Load:1750 SPR:863
HP:1092 MP:818
ATK:842+497|762 MATK:831 DEF:201+126 MDEF:167+114
スキル:玉砕、剛力、根性、再生
剣Ⅳ、軽盾Ⅳ、軽弓Ⅳ、重撃Ⅱ、必殺Ⅱ、体術Ⅲ
貫通撃Ⅱ、障破撃Ⅱ
装備:不壊鉛の長剣、龍布防具、重龍鱗鎧、真銀小盾
根性:負傷がHPの五割を超えたら受ける負傷を二割、七割を超えたら四割、九割を超えたら七割軽減する。
再生:負傷の自然回復が向上する。負荷1を得て負傷を1回復する。
ツェルナのような一撃重視よりもしぶとく立ち回る構成になっている。決定力に欠けるので今後の仲間に期待したい所。トウはC型のAタイプらしく主人を守る為に構成されている。より過保護になっている。
トウ グループなし 重装兵Ⅱ
STR:523 VIT:611 DEX:431
INT:396 WIZ:493 MND:485 LUK:28
MV:14 ACT:1.1|5 Load:1750 SPR:863
HP:1422 MP:889
ATK:758+465|692 MATK:881+288 DEF:228+151 MDEF:205+112
スキル:荷運び、頑健、守護
剣Ⅳ、槍Ⅳ、重盾Ⅳ、防護Ⅱ、守勢魔術Ⅱ、治療術Ⅱ
貫通撃Ⅱ、障破撃Ⅱ
装備:真銀の剣、陽光石の長槍、龍布防具、不壊鉛プレート、不壊鉛方盾
守護:守護対象を選ぶ。対象への防護効果を五倍にする。防護範囲内の対象の周囲二m以内に即座に転移できる。
将来的にはトウが側にいる限り神谷さんを倒すことは出来なくなるだろう。
「進化体は自分の意思で動いてミーバに指示できる立場になるので、神谷さんの意思を伝えて役割を分担してやってください。というかそうしないと手間ばっかり増えると思うので。・・・そうそう死にはしないので過保護にしすぎない方が良いですよ。」
僕の言葉に神谷さんがひどく暗い顔で彼らを見ている。
「精神的に生き物を倒すのが辛いなら誰かに任せないとまた壊れますよ?まだ進級ノルマに届いてないんでしょうし。」
「うぅ・・・考慮します。」
神谷さんは微妙な顔で悩み始めている。難しく考えすぎないで割り切ってほしいとは思うのだけど。そんな彼女を庇うようにユウが噛みつきそうな顔で前に出てくる。
「わかったわかった。お前が頑張ればそれで神谷さんが楽になるんだから精々死なない程度に働け。」
僕は猛犬になっているユウに代わりになってやるように言う。ユウはわかってると言わんばかりに更に威嚇してくる。そうやっているユウに向かって僕は腰を折って顔を近づけ頭を押さえる。
「ただ頑張りすぎてその最後のスキルだけは発動させるんじゃないぞ。体があればミーバも蘇生の余地がありそうだけど、そいつはその可能性すらなくすんだからな。そのくれてやった装備で意地汚くてもいいから生き残れ。」
僕はユウに小声で忠告を与えて頭を押し出す。ユウは一瞬だけきょとんとした顔になったがまた威嚇するような顔になる。分かってるならいいよ。うん。
「当面は施設と設備、機能の完成と金属の安定供給を目指してください。神谷さん本人はほぼほぼ訓練に当てた方がいいでしょう。ミーバに関してはこちらからの譲渡分でしばらくはどうにかなりますし、可能なら資源を乗せていく方向で。」
「はい、頑張ります。」
僕の最後の指示に神谷さんが気合いを入れて返事をする。それではと僕は軽く挨拶して菫と拠点に戻るべく移動を始める。
「ありがとうございました。」
神谷さんがお礼を述べる。僕は手だけ振って答えておく。これから先どうなるか本当に分かってるか怪しいけどまた病まないことを祈ってます。僕らは軽く走って自拠点に戻ってくる。
「おかえりー。」
門を開けるなり萌黄が元気よく飛び込んでくる。抱きついてきた勢いでそのまま回転してぐるぐる回ってから放り投げる。ひどーいとか言いながら笑いながら戻ってくる。
「お疲れさん。どうだった?」
僕は萌黄に成果を聞く。
「あまり話を聞いてくれなさそうなオークの集落が四つくらい。森の奥の方にヒドラがいるみたい。近寄るとベノムヴァイパーがいっぱい出てきたからめんどくなってそれだけ。森を抜けたところに村があったよ。三十人ぐらいすんでるんだって。時々商人も来てるみたい。」
ヴァイパーも気になるけど村の話が急に伝聞になったのはどういうこと。
「村は斥候兵で調べたのか?」
僕は聞いてみることにする。
「いや、ヴァイパー引っかけちゃったときに巻き込んじゃったみたいなので、その時助けた人から聞いたよ。」
しょうがないとはいえ誰かいることはばれてしまったわけだね。
「助けたときに斥候兵を使ったか、姿を見せたか。あと僕らのことを何か話したか、を確認したい。」
僕は萌黄に確認する。
「無傷じゃないと困るのでみんなでやりました。たぶん斥候兵も見たと思う。みんなのことは言ってないけどあっちから来たってことは言いました。」
萌黄はちょっとおどおど気味に答える。だんだん何かやらかしてしまったかと思っているようだ。予定外にはなるけど仕方が無い。僕は萌黄の頭を撫でて大丈夫だとだけいっておいた。
「菫、ヴェノムヴァイパーってどうなの?」
萌黄がどうして私に聞いてくれないのと騒いでいるが気にしない。
「ヴェノムヴァイパーですか。民兵では苦労すると思われる魔獣・・・ですかね。生態はほとんど蛇なのですが知性はずっと高いと思われます。熱源視覚があるので通常の隠密では見つかる場合があり隠れてやり過ごすには対策が必要です。毒は麻痺毒で即死の危険性は少ないのですが噛まれすぎると呼吸が出来なくなって死ぬ場合があります。噛みつくと毒を流し込みますが、口から吹きかけてくる場合もあります。触れたところの感覚がなくなったりするようです。」
菫がつらつらと御託を説明してくれる。聞く感じではめんどくさそうというイメージしか無い。
「討伐するとしたら?」
「三、四人で連携すれば問題ないかと。十匹程度なら一人でも問題ないでしょうが、数が多いらしいのが少し懸念事項ですね。」
僕は少し思案する。村を無視するか助けるかだ。元々一人でやるつもりだったけど人を増やした方が効率は良い。思った以上に世界が広かったのが問題だった。敵の位置を調べるのもどのみち噂話にも頼るなら計画的にやった方がよい。反面考え方の違いで時間をとられたり保護の義務もある。また例の騎士みたいなのが出てくれば勝てるとも限らない。利点と懸念を秤にかけて揺らす。
「討伐は前提に一旦村の人間と会ってみよう。話を聞いてみてどうなるかだね。もしかしたら貴重な産業の可能性もあるし。」
決め手は神谷さんの存在だった。この戦いに関わることはないだろうけど彼女なら目の前の人は助けようとするだろう。無視してそれが露見したら友好関係にひびが入りかねない。情報は教えてしまっているので後ろから叩かれる事案だけは避けておきたい。
「よろしいのですか?最大能力的にはあの頃とほとんど変わっていないと思いますが。」
菫が敵対時のことを忠告してくる。
「なんとかなるようにしよう。また周辺の国家が敵になるとも限らないし。」
僕は苦笑いをして答える。
「菫、萌黄、桔梗、鶸で村までいってみよう。鈴は留守番で。手土産に食料でもあればいいかね。あとは自衛武器を少々かな。」
その場にいた菫に準備と集合を任せて、僕は鶸に連絡しにいく。鶸は錬金研究所で何やらやっていたので、どちらでもいいと伝えたら食い気味に行くと行ってきた。
「そう言えば手隙になときでいいのでと鈴が話したがってましたわ。」
鶸が出て行くときにそう伝えてきた。僕は何だろう考えながらも大体当てをつけて鈴の定位置に行く。鈴は監視塔の上がお気に入りだ。いつもそこでだらだらしている。それでいて指示は完璧なのだから文句を言うことはない。菫や鶸はだらしないとケチをつけているようだが。
「で、何用ですか?それとも鈴が聞きたいことがあるのかな?」
僕は監視塔の上でいつも通りゴロゴロしている鈴をみて言った。神託スキルは一方的になりがちとはいえメッセージシステムを制限した中では破格のスキルだと考えていた。制限距離がない、妨害されない、そしてそれらを組み合わせると空間すら無視できる。まさに神託の為にあるスキルなのだ。
「なんのkyりゃsyでぃ・・・あまり時間を割くと歪むかもしれないから手短にするよ。」
鈴が突然バグったかのようになったかと思うと、いつもの抑揚の少ない声と変わって分かりやすい口調になる。
「上で契約が成立したので蛇神を一度持ち上げたい。期限は一年後。竜は話にならない。蜥蜴人と蛇人は会話次第。」
僕は一方的に話し始める鈴の言葉を聞く。
「周辺一月内にはいない。手段は問わない。質問があれば一言。」
鈴の言葉が苦しくなり始めている。それなりに負担は大きいようだ。
「該当選定者の名前。」
僕は端的に言う。
「教会で。」
鈴はギリギリ絞り出すような声で言う。その後息を止めていたかのように激しく呼吸を繰り返す。そんなことは必要が無いはずに関わらずだ。
「お疲れ様。菫から連絡が来ていると思うけど、僕らは少しの間ここを離れる。管理は任せたよ。」
僕は鈴の頭を撫でながら言う。
「ふぁい。いってらっしゃい。」
鈴は慣れてない疲労感に戸惑いながら力なく答えてごろんと横になった。僕は塔を離れる。神様の要求は突然でめんどくさい。最終手段も確保したので当面は目の前の事に注力する。僕らの二度目の現地民交流が始まる。
大体地味目な世界的な話は終わったので段々早めに派手になっていくかなと思います。
菫「♪~」
鶸「随分浮かれてますわね。」
菫「ようやくあちらの方の教育が終わりましたもの♪」
鶸「A型は本当に好意を隠しませんわね。」
菫「D型よりひねくれるつもりはないもの。」
鶸「・・・まぁそうですわね。」
桔「♪~♪」
菫「多分一番喜んでるのはあのこね・・・」
鶸「・・・B型はもうちょっと前に出ても良いと思いますの。」
萌「私は私はー?」
鶸「E型はちょっとこう矢印の位置が違うというか・・・ねぇ?」
菫「ねぇ?」
萌「えー、なんかひどーい。」




