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僕、逃げる。

 五日の行程には僕の睡眠時間が含まれている。ミーバなら走り続けられるが僕はそうはいかない。

 

「馬車で寝られるような速度で走れないか?」

 

「途中何かに襲われる可能性が高くなりましてよ。」

 

「襲われるのは早くても遅くても変わらないだろ。」

 

「駆けつけられるようになるのと襲われる種類が増えますがそれでもよろしければ。」

 

 あーだこーだ暇つぶしの議論が行われたが移動は移動。寝るときは完全防衛のほうが安全率は高いようだ。もうちょっと、いや大分飛び跳ねる馬車をどうにかしたいところだ。

 

「この揺れ動く、というか飛び跳ねる馬車をどうにかしたいね。」

 

「あまりにひどくて貴方の趣味なのかと思いましたわ。」

 

「それはない。魔法で色々どうにかしているだけだね。」

 

「どうせ魔力を使うなら最初から馬車が浮いていれば良いと思いますわ。貴族用の高級馬車にはいくつかありますわね。」

 

 どうやら車輪にこだわりすぎていたようだ。定距離を浮かし続ける魔法があるようだ。馬車以外にも色々便利そうではある。揺り飛ばされながら走り、野宿して走り、暇つぶしに語り議論し、時に群れてよってくる獣を追い散らし、僕らは予定通りの行程を経て目的の敵拠点周辺にたどり着く。敵拠点までだいたい二kmほどの山の上、標高は七百mとぼちぼちの大きさである。

 

「見える?」

 

「さぁ、砦のようなものがあるのは分かりますが、それ以外はなんとも。」

 

 ここに来て鶸が異常なほど視力がよいわけで無いことになんとなく安心しつつ双眼鏡を渡す。二人で双眼鏡で敵拠点を眺める。

 

「ミーバ以外は見られませんわね。」

 

「そうだね。それにしても美しさを感じないというか整頓が甘いというか。」

 

 報告にあった通り中央周辺に主要施設と畑が混在し、中心から離れれば離れるほど畑の比率が多くなり監視塔が増えていく。中央の配置もそうだが使い勝手よく配置されているわけでは無く建築出来るようになった順番に配置されているのが分かる。途中から同心円で壁を囲うのは諦めたのか、壁から扇形に壁が作られ、それが順に作られ魚鱗状に拠点が広がっている。

 

「まぁまぁ・・・普通に考えたら堅守で突破しにくい砦には見えるね。」

 

「報告にあった事の予想通り、守り切るためではなく時間稼ぎのための防壁ですわね。」

 

 僕と鶸はぼちぼち検討を重ねながら拠点を眺める。ミーバがひたすら作業をしている姿しか見えない。

 

「あれで下級拠点なのがなんとも。性格的に僕と同じで討伐数不足かな。」

 

 もう少し情報が得られないか眺める。

 

「?」

 

 鶸が違和感を感じたようでこもったような声を出す。

 

「何かあった?」

 

「北側の畑のミーバの姿が見えなくなりました。」

 

 話すつもりだったのか僕の問いに重ねるように鶸は答える。僕は指摘に従って北側を見るが畑で作業しているミーバが見える。だがそこに文句を言うわけも無くその周辺の畑に視線を移す。

 

「中央方面に移動しているな。」

 

 杖の認識阻害の強力すぎる効果の欠点といえる現象が起きている。基本的に動かない建物は認識されていると消えないが、通常動く可能性がある生物などは外部から観測していると効果範囲に入った瞬間に認識できなくなってしまう。狭くはない効果範囲のようだが拠点で常に働いていたミーバが一部の地域だけ見えなくなってしまっている。そしてしばらく観察しているとある地点で動かなくなる。

 

「中心点からすると教会か?」

 

 十分か二十分か動かない時間が続きそしてまた動き出す。次はどこへ行くのかと観察していたところまた動かなくなる。不思議に思って観察し続けていると不意に鶸が双眼鏡を下ろして防壁を張る。

 

「来ますわっ。」

 

 双眼鏡の一点の空間が光り、そこから異常な速度で光の束が飛んでくる。鶸の防壁展開に反応して僕も全面防壁を展開する。どの程度打ち込んできたか分からなかったが僕の防壁を五枚貫通し、鶸の防壁で止まった。推定威力七千超という殺意増し増しの攻撃である。

 

「なんあれ・・」

 

 と言葉を紡ぐ前に第二射。先ほどよりも光点が多い。容赦ない。鶸が防壁を追加して防ぎきり僕らは山の反対側に降りる。

 

「どうやって気がつかれたかは置いておいて油断しましたわね。」

 

「せめて少しくらい隠れればよかった。発展度に騙された感。」

 

「貴方はちょこちょこ詰めが甘いですわよね。」

 

 愚痴りながら僕らは山裾に隠れたが結果的にそれは失敗だったと言える。不意に頭上に聞こえるアーク音。見上げると一瞬見える光球。鳴り響く轟音と衝撃。

 

「冗談!」

 

 幸い周辺と装備が焦げ臭くなるだけでダメージは全くないのだが。次々に現れる光球。どれだけ放てるか分からないが無限に受け止めて防具が持つ自信もない。鶸が指を離れた地面に指し向け魔法を構築する。光球は次々にそちらを目指して稲妻となって打ち込まれる。僕はその間に鶸を抱え上げて身体強化と移動速度を全力で強化して反対側に逃げる。

 

「な、な、な。も、もう少し優しく運べませんこと?」

 

 顔を赤くした鶸が文句を言ってくるが、緊急事態なんだから勘弁してほしい。僕の思考を読んでしょうがありませんわねとブツブツ言ってそっぽを向く。全力で二kmほど走って一息つく。さすがにここまでは来ないだろうと思ってたらそうでも無いらしいと山の方から羽の生えた鎧を着込んだ天使のようなものが五体飛んでくる。

 

「おぅおぅ次々やってくれるね。死体を見ないと安心できないタイプか。」

 

 僕は即座に狙撃銃を構えて天使を打ち抜く。天使自体の防御も耐久力もそれほどではないようで一体三発どころか一発で沈んでいく。

 

「監視型か?えらく貧弱な。」

 

 僕はなんとなく残念に思いながら銃口を下ろす。

 

「いえ貴方の攻撃力がおかしすぎるだけですわ。」

 

 鶸が座り込んで言う。僕は鶸を見て心当たりがあるのか訪ねる。

 

「攻勢魔術か守勢魔術にある従者構成系の魔法。いわゆる召喚魔法ですわね。今のは恐らく攻勢魔術でしょうけど、最低でもⅥランクはあるということですし、込めた魔力の程度にもよりますけど防御は七十超、HPは五百近くはあるはずですわ。」

 

 防御力の低い王国騎士程度か。防御が紙なら銃の敵ではないね。

 

「最初の光線は攻勢魔術Ⅵ光槍でしょうかね。次に来たのは同じくⅥランク相当の雷光球でしょうが、どちらも射程が異常ですわ。」

 

 初級で百m程度で放っていた魔法も中級になるころには五百mにはなる。がランクⅦでも二kmを飛んでくる魔法はない。

 

「早い内に銃を持ってたから魔法の射程を伸ばそうとは考えなかったね。」

 

 僕は乾いた笑いを浮かべながら山の方を見て、鶸の手を取って立ち上がらせさらに移動を始める。どのくらいの相手を検知できるか分からないが五km近く離れても安全とは言いがたい状態ではある。ただ確認のためか追手を召喚体にしたということはそろそろ射程限界だと思うのだけど。

 

「逃げますか?甘んじて受けますか?」

 

「逃げるには時間が足りないんじゃないかなぁ。」

 

 鶸の問いに僕は選択肢が無いよねと足下に出来た影を見て上を見上げる。上空には距離感も狂うよく分からない大きさの岩がこちらに落ちてきている。

 

「物理攻撃だったら(わたくし)絶対に無理ですわよっ。」

 

「どっちも僕は遠慮したいなぁ。防壁五十枚くらいでなんとかならないかね。」

 

「大きさ的にどうやっても回り込まれますわよっ。もーっ。」

 

 推定二十mの岩塊は僕らを直撃して瓦解した。

 

 

 二時間後。

 

「娑婆の空気はうめぇなぁ。」

 

「冗談はいいですから、安全を確認したらさっさと出てくださいませ。」

 

「もうちょっと労働者をねぎらってほしいなぁ。」

 

 神涙滴の剣を振り回しながら外を堪能していた僕を押し出すようにして鶸が這い出てくる。お互い防具が破壊寸前程度で無傷である。見てくれは岩塊だったが召喚物ではなく魔法生成物であったので判定は魔法攻撃であった。従って覚悟を決めれば防御の一時低下は無かった。

 

「術者が対人慣れして無くてよかったな。貫通術があまり乗ってなかったっぽいし。」

 

「た、し、か、に不幸中の幸いですわね。」

 

 服についた土やほこりを払いながら鶸が愚痴る。それにしても今更ながら世界の防御システムの堅牢さに感心する。びくびくしながら当たったが崩れた岩塊の中で体に傷一つ無いのを確認した時は笑いすらこみ上げたものだ。ただこれが岩塊ではなく土塊だった場合窒息してしまったのだろうか。逆にいい案のような気がする。

 

「とりあえずもう大分離れたところでひっそりと野営しようかね。」

 

「是非そうしてくださいませ。」

 

 心配しているのか皮肉なのか分かりにくい口調ではあったが、反対しているわけでもなさそうなので馬車を回収して静かにその場を離れた。

 

 翌日。

 念のため持ってきた防具の予備を早々に出すことになることにため息をつきながら敵性魔術師をどうするか悩む。なにせ杖を持っている間は相手が確認できないので銃とすこぶる相性が悪い。多分あの辺と思ってばらまいて守勢魔術で防がれるのは目に見えている。

 

「さてどうしましょうかね。」

 

 僕はキャンプ場所で地面に無意味な図形を書きながらつぶやく。

 

「あちらがこちらにどうやって気がついたかを把握しないことにはどうしようもないのではなくって?」

 

「まあ、そうだよね。」

 

 鶸の意見を採用して森を通って敵拠点まで忍び寄ることにする。

 

「そうは言っても私は隠れることを得意としておりませんわ。」

 

 森の中で落ち葉を踏みならしながら鶸が言う。

 

「視線が途切れるだけでも大分違うから、がっつり監視でもされていなければ大丈夫だよ。」

 

 と言ったそばから前方より飛来する雷光球。

 

「何で見つかったかなー。」

 

 僕は乾いた笑いを浮かべて防壁を張って相殺する。次々に現れる雷光球を見て僕らは撤退した。

 

「罠的な魔法か、魔法で索敵されているかどちらかだと思いますわ。」

 

「罠系の魔法よりは【条件発動】が可能性高そうかな。雷光球が飛んできてるわけだし。」

 

 僕らは逃走した先で現象を分析する。ある程度整理してリトライ。今度は魔力隠蔽障壁を使う。守勢魔術Ⅴで探知系の魔法を阻害する働きがある。術者中心で動かすことが出来るが狭い範囲でしか効果が無い。また物理的な視界は全く阻害しない。そして多くの防壁系と違いこちらの魔法も外に出せない。というか出すと意味が無いという意味もあるが。

 

「何か踏んだ気がした。」

 

「ええ、魔力線みたいなものを切ったような感覚がありましたわ。」

 

 僕らは似たような位置で引き返すことを余儀なくされた。条件発動の一部の条件、指定範囲内に入った場合や索敵魔法で見つかった場合のようなケースは今回の魔法で回避できるはずだった。それが今回は明確に魔法で出来た何かを壊したために発動したような気配を感じ雷光球から迎撃されることとなった。相手さんはよほど慎重なのか怖がりなのか複数の手段で警戒線を張っていることが分かった。それを調べるために魔力視覚を強化術でつけていったのだが。

 

「相手さんはよほど怖がりか慎重派なのか。これはひどいね。」

 

「強行突破の方が早いと思わせるぐらいには厳重ですわね。」

 

 目の前には広範囲に及ぶドーム状の魔法。範囲内の何かを検知する魔法であると思われる。その奥にもちらほら見られる小さなドーム範囲内にはいると起動するであろう何か。そして所々に張り巡らされたワイヤー状の細い魔法線。魔力の追加供給用なのか単純なワイヤートラップなのか。どちらも兼ねているのだろうが高低に結構な数。そしてメンテナンス兼物理視覚要員と思われる飛翔する小さなゴーレム。まだ拠点まで1km超ありそうな距離からこの警戒レベル。

 

「あ、天使様がいらっしゃいましてよ。本日はここまでですわね。」

 

 鶸が召喚体の存在を検知し僕らは隠蔽魔法を展開しながらその場から去った。

 

「どうなさいますの?」

 

 キャンプ地に戻ってきて鶸が聞いてくる。

 

「んー、倒すだけならカノン砲でも作ればいいとおもうけどね。二十kmから一方的に打ち込んだらさすがに持たないでしょう。」


「そうしたら本人が乗り込んでくるのではなくて?」

 

「あれだけ過剰にミーバを守っているヤツが拠点をないがしろにして飛んでくることはないでしょう。来るまでに拠点を廃墟に出来ますよ?まあ、やらないけど。そもそも敵かどうかの調査が目的なんですけどね。だんだん敵前提になってますが。」

 

「近代兵器の恐ろしいところではありますわね。」

 

 話の流れに鶸がため息をつく。

 

「そんな兵器も魔法で軽々と無力化されたりそもそも爆心地で服だけぼろぼろで咳き込む無傷のヤツ多数とか、そっちこそ恐ろしいわ。ギャグ漫画かっての。」

 

 僕は僕で愚痴る。今後役に立つこともあるだろうと本で構築しておく。ただ帰って練り直した方がいい気もする。調査用の魔法を構築するにも、ドローンの類いを作るにもこの場では難しいし困難ではある。多少考えるのは面白いのでいいのだが、この拠点の相手をどこまでやるのかが問題でもある。

 

「腰を据えて取り組みますか。」

 

 僕は立ち上がって拠点に向かってメッセージを飛ばす。軽装騎兵なら三日もせずにこれるだろうし。僕は脳内マップとにらめっこしながら良さそうな場所を探す。相手の拠点からさほど離れず視認性が悪そうな所。

 

「索敵をさぼる引きこもりがどうなるか教えてやろう。」

 

 僕の底意地が悪そうな顔を見て鶸が軽くため息をついた。現在位置より北側に山と言うには高くもないが使い勝手が悪そうな盆地を見つけてそこに決める。地形の悪さは最悪後でどうにでもなる。その日はキャンプをしてから早朝に現地へ移動する。山のくぼみというかそんな所だ。

 

「本日の予定は伐採というか整地です。がんばっていこう。」

 

 僕のテンション高めの宣言にミーバ達がミ゛ャーと声を上げる。鶸は冷めた目で見ている。それでもちゃんと協力してくれる。細めの木は神涙滴の剣でサクッと切り倒す。切り株はミーバ達に処理してもらう。適当な空間が出来たら木材倉庫を建てる。黙々と木を切り倒し切り分け分解する。ミーバは採集しながらどう加工しているのかわからないが、木を木材資源として倉庫に入れるには加工されていなければならないという制限がある。切り倒して枝打ちしてくらいまでやって適当な長さに切り分ける。そして倉庫に投げ込む。明らかに倉庫より大きい丸太なのだが四次元ポケットばりにするする入っていくのは少し面白い。剣で作業すると非常に早いのだがゴミが非常にたくさんでる。枝打ちした枝をさらに枝打ちして資源にもできるのだが、ミーバが最初から採集すればなぜかゴミは一切でないし切り株もなくなる。そこそこ時間はかかるが百%資源にできる。もっとも今は作業速度優先なのでばしばし切り倒す。思ったより早く予定してた更地が出来たのでもう少し広げる。石材倉庫をつくって石ころと土を集めて畑も作る。食糧倉庫もつくってさらに集める。伐採し更地を広げつつ土を掘らせて平らな土地を広げる。整地作業はミーバに任せて僕は木々の間に丸太を立てたり植林をしたりして更地への視認性を悪くする。

 

 翌日、更地作業をミーバにまかせて僕と鶸は別の方向から敵拠点の防御網の調査をする。事前の予想通り敵拠点を中心に一定距離で同じ仕様の防御網が敷かれているのが分かる。再確認という意味もあるが拠点の主を拠点に引き留めるという意図もある。これだけ防御網を敷いていることを考えれば攻め込まなければ安心して引きこもるタイプと見たからだ。気が立っているのか二度ほど範囲に侵入すると天使をけしかけてきたので一旦撤収。別の位置から嫌がらせのように侵入。そして撤収する。相手に防御網が機能していると意識させる。若干苦労したもののいい嫌がらせができたと爽やかな思いでキャンプ地の更地に戻る。

 

「貴方と関わる相手は本当にかわいそうですわね。」

 

 鶸の言葉がぐさっとくる。オンラインでやってたらこんなの嫌がらせですらないからね。

 

 次の日にカノン砲の構築が完了してその仕様を鶸に丸投げする。鶸はジト目で見ているが内心楽しくて仕方ないのは知っている。存分にこの世界仕様にしてくれたまえ。次に監視や索敵で便利そうなドローンの構築を進める。この世界自体にも類似の作業はゴーレムで再現できるのだが、魔力稼働しているため魔力感知のようなこの世界における通常の方法で検知されやすいのだ。ドローンにも魔法を使うことにはなるだろうけどある一定の小さな魔力は動物が持っている場合があるので無視されるのが基本のようなのでちょっとしたものなら搭載しても問題がないと考えている。ドローンが出来たら小型カメラと、いい加減電波的なものも構築するかと考える。整地作業をしているところに軽装騎兵とY型が走り込んでくる。Y型が持ち込んだ材料をつかって更地に中級拠点を建築する。拠点建築を皮切りにミーバの増産、施設の建築と作業が増える。連れてきたミーバと増えたミーバを使って周囲の開拓を進める。一日おきぐらいに嫌がらせをしつつ研究開発テストを進める。あまり横に広くスペースがとれないため、試しにどこかのゲームであったような畑マンションを作る。明かりや水を魔道具で準備する必要はあるものの思いのほかうまく畑の立体化が成功する。畑の養分が枯渇しないのかなぁと不思議に思っていたが、そもそも異常なサイクルで畑が生産されているので考えるだけ無駄だと無視することにした。使えなくなったり生産性が著しく落ちたら悩もう。

 

「普通の畑では絶対出来ないことですわね。」

 

「一応畑工場みたいなのは地球にもあったけどね。これはそんな大層なものじゃ無いけど。」

 

 鶸が呆れているが現代でもある程度存在している産業ではある。

 

 五日後。ミーバをさらに連れてきたこともあって開発も防備も万全となり、ドローンとカメラ、映像を映すためのハンドディスプレイが完成した。一応電波という概念を取り込んだのだがそもそも規格通りに使っていた自分には全く意味がわからなかったのは難点だった。その辺は鶸に丸投げし魔石を燃料に電力変換して云々みたいなことを説明されたが、よくも分からずうなずくだけだった。最終的に二十cmのプロペラ式のドローンが完成した、という事実だけが僕の中に残った。

 

「飛行時間は時速六十km飛んでるだけなら二時間くらいですわね。映像を記録しつづけるなら一時間。映像を伝送するなら二十分ほどですわ。ちなみに移動速度を半分にしても飛行時間は一時間も増えませんわ。」

 

 意外と制限がきつい。実際のドローンはどうなのか全く分からないが。

 

「後は認識阻害と強風保護、衝撃保護が展開できますが。こちらも合わせると二、三割ほど飛行時間が減ると思ってくださいませ。」

 

 上空を飛ぶことを前提としておりある程度の距離では薄くぶれて意識しないと見つけづらい。さらに風で飛ぶのに風で流されないように出来るらしい。衝撃保護は雨や小石程度を想定しているので思いっきり叩かれたりすると普通に壊れたりするようだ。

 

「保護機能をすべて同時に動かすと小心者の魔術師の気を引いてしまうかもしれませんわね。」

 

 保護機能により稼働魔力が大きくなるのでちょっと強い獣みたいな感じになり警戒される可能性があるということのようだ。

 

「本体は基本真銀(ミスリル)が使われておりますが底面の内部に地獄土(ヘルソイル)を詰め込んでいますので操作にはご注意くださいませ。」

 

 鶸は最後に含み笑いをしながら告げた。物騒なもの仕込んでるなと思ったが鶸なりの配慮なのだろう。平たく言うと強い衝撃を受けると自爆しますよと言っているのだ。

 

「最も仮想的に打ち落とされるより鳥や飛行する魔物の興味を引く可能性のほうが高いと思っておりますが。」

 

 オチがついたと思ったらさらにオチがあった。

 

「ですがゴーレムに比べてよいところは魔力探知性が低いことくらいしかありませんわね。自動化もできない、視覚共有にも手間がかかり、耐久力も低い。」

 

 魔法万歳。ただし今回に限ってはその魔力探知性が低いという要素に賭けたい。鶸には鼻で笑われた。

 

 翌日。

 防御網の端にある森からドローンを旅立たせる。拠点上空まで約二分。そしてそこから速やかに降下する。予想される防御網の範囲に入ったがまだ反応はない。

 

「運がよろしゅうございましたね。」

 

 鶸が扇子でも持っているかのようにホホホと笑う。

 

「運が悪ければ本体で魔力線を切ってしまう可能性もありましたわ。」

 

 うへ、と思いながら画面を見るがそこには拠点ののんびりとした風景しか見えない。

 

「そのカメラこちらでどう見ても魔力は見えませんことよ。」

 

 割とひどい。ここから先はほぼ運試しになった。拠点の中まで魔力線を配置していないと楽観しよう。拠点内をくまなく探索するのも危険だと思い当たりをつけて教会のほうへドローンを飛ばす。外から来て下級拠点では無く教会に行った行動が、そこに何か依存しているのでは無いかと思ったからだ。ざっくりとした第一候補だったがそこに彼女(・・)はいた。教会の前に立ち尽くす杖を彼女は憔悴した表情で二人の少年を携えて立つ。心配そうに見つめる少年達を穏やかな顔で見つめ返し、また神経をとがらせる。苦しそうなその表情は悲壮で今にも押しつぶされそうな姿で神経を張り詰めている。

 

「アホか、アホの子か。え?常時自分で監視してるの?人力とは恐れ入ったわ。」

 

 あまりにもひどい光景に僕はあきれかえって声を上げた。

 

「なにが彼女を奮い立たせるのか、妙な使命感を感じますわね。」

 

 鶸も信じられないようなものを見る目で画面を見ている。僕はその姿を確認してからドローンを撤収した。確認したいことは確認できたからだ。たかがこんなことで随分と時間をかけてしまったとも思う。ドローンを手元に戻して収納し立ち上がる。

 

「彼女は人間だった。恐らくチェイス様の所属だろう。仲間とは言わずとも同胞として協力し合えるはずだ。」

 

 鶸は無言でうなずいた。

 

「彼女をあの馬鹿みたいな作業から救ってやろう。」

 

「どうなさるおつもりで?」

 

 僕が力強く言ったことに対して鶸が問うてくる。

 

「彼女には負担になるかもしれないが正面突破だ。」

 

「さすがにそれは・・・貴方と私で防壁を張り続けても厳しいですわよ。彼女にも護衛がいます。彼女に納得する形では難しいでしょう。」

 

 僕の考えに鶸は否定的だ。

 

「大丈夫、必要なピースはもうすぐそろう。今日は戻るぞ。」

 

 僕は歩き出し、鶸が首をかしげて追従する。そうもうすぐなのだ。

 

 翌日、僕は新拠点の強化を進める。あまり役に立った記憶もないが結界施設などを建築しもし彼女が動いてきても大丈夫なようにする。むしろあれならこちらに動いてきた方がやりやすそうではあるのだが、彼女は動かない、いや動けないのだろう。そう考えている内に森で騒がしく動いてくるものがこちらに向かってくる。

 

「疾走音?何者ですか。」

 

 鶸が警戒するが僕は気にせず外に向かって歩く。鶸が咎めるように手をつかんでくるがそんな必要はない。急にこんな音を出しているのは警戒させるためではなく伝えるためだ。聞こえるところまで来たんだと。軽快な走る音とサクサクと落ち葉をかき分けるような音。

 

「ご主人様ただいま戻りました。」

 

「ご主人様元気してたー?」

 

 菫と萌黄が勢いよく抱きついてきて僕はそれを受け止める。桔梗がなにやらC型を抱えて遠慮気味に近づいてくるのを抱き留めてやる。

 

「よく戻ってきた。疲れては無いかもしれんがご苦労だった。」

 

 僕は戻ってきた三体を労う。

 

「先輩方でしたか・・・鶸と申しますわ、よろしくされますわよ。」

 

 色々間違ってるが鶸がいつも通りに挨拶する。

 

「菫よ。よろしくね。」

 

 妙に敵意ある目で見つめる。

 

「萌黄です、よろしくね。」

 

 萌黄は安心の通常運転。

 

「桔梗です。よろしくお願いいたします。」

 

 桔梗も通常運転。ただ萌黄と違って何を考えているか分からない。

 

「それで状況はどうですか?」

 

 菫が聞いてくる。

 

「まあ状況自体はそれほど悪くはない。こちらには余裕のある選択肢が取れるくらいにはね。取りあえず状況の共有はしておきたいけどそのC型は?」

 

 僕は菫に答えつつも桔梗の抱えるC型が気になる。ただ答えは概ね分かっている。

 

「そうなんですよ。走っているときにたまたま視界に引っかかりまして。大先輩ですよ、大先輩。」

 

 菫は桔梗が抱えるC型を両手で指し示しつつ珍しく興奮して話す。抱えられているC型はミ゛ャ-と声を上げる。それは随分な偶然だねと思いながらおそらくはと考え皆と教会へ赴く。形態変化を選択すると流浪のC型が光に包まれる。

 

「C型改めまして、藍無N型であります。よろしくですよ?」

 

 抑揚の無い声、無表情な顔、だけど効果音が聞こえそうなくらいノリノリに何かの登場シーンのような決めポーズをとっている。菫は驚愕の表情を浮かべ、僕も含めたその他は呆然としてそれを見る。

 

「おや、はずしちゃいましたね?取りあえず主様、定例通りお名前をくださいませ。」

 

 いまいち感情が乗り切らない声でちょーだいと両手を前に差し出してくる。またなんとも癖の強いのを送り込んできたなと思ってしまう。動揺を抑えて青系のは図なのに灰色っぽい色を纏う進化体を見て少し考える。

 

「んー、錫はアレだから音だけ併せて鈴でいこう。」

 

 僕は鈴と命名して告げる。

 

「ではこの私、鈴として頑張らせていただきます?」

 

 やる気の欠片も感じられない声でしゃべられてもなんとも言いがたい。菫が妙に警戒して声を上げる。

 

「貴方は一体何なのですか、そんな個体になるはずがありません。」

 

 菫は進化体における法則性が気になっているようだ。

 

「そんなことはあるのですが、主様は認識しておいでですので気にされても無駄ですよ?」

 

 鈴は異常であることを隠しもしないまま、僕に爆弾を投げる。おいおい勘弁してくれよ。

 

「確証は無いがある事象があって予想の範疇ではある。こんな性格とは考えもしなかったけどね。歪ではあるけど菫も仲良くしてやってほしい。今の所は(・・・・)敵じゃ無いよ。」

 

 僕は菫に優しく言う。

 

「私の同調能力を超えて疑えるとは素晴らしい個体なのです。末永く仲良くするのですよ?」

 

 鈴は無感情につらつらと言う。何を考えているのか本当に分かりづらい。一応鑑定だけかけておく。鈴はその目線気がついて決めポーズをとる。妙にうざい。

 

 鈴  グループなし 職なし

 STR:10 VIT:1684 DEX:16

 INT:11 WIZ:1678 MND:10 LUK:1987

 MV:38 ACT:0.3|15 Load:1704 SPR:1688

 HP:3368 MP:1688 ATK:18|21 MATK:21 DEF:340 MDEF:339

 スキル:迎合、神託、踏破、神速

     回避術Ⅶ、魔力受けⅦ

 装備:なし

 

 迎合:自主的に敵対しない限り敵対ではなく仲間として扱われる。

 神託:あらゆる距離、障害を無視して言葉を送り、言葉を受け取れる。

 踏破:固体平面から受けるあらゆる移動阻害を無視する。

 神速:視界内で移動速度の範囲内を瞬間的に移動する。

 

 極端なおかしいステータスになっている。堅いあげくに高耐久高回避。正直やれる気がしないという感じである。ただしやられる気もまったくしないのも事実。なんとなく偉そうな格好で立っているが表情が死んでいる。スキルもC型にそぐわないようなスキルが出てきている。強いて言えば長々と走っていたせいか踏破があるくらいである。

 

「弾よけにはなるのか?」

 

「ふふ、弾が私を避けますよ?」

 

「役に立つ気がしないな。」

 

「せっかく苦労して駆けつけたというのにっ。」

 

 感情がこもって無くて心がざわざわする。ほっといても死なない。口だけはだせて考える能力はある。しかも戦闘で役に立たないともなれば。

 

「鈴は留守番専門だなっ。」

 

「心得ましたっ!」

 

 びしっと敬礼をしてくるがなんとも言えない声だけが残念でもある。普段役には立たないが、連絡を取りやすいスキルもあり留守番向きといえる。本人が使えるかはこの際おいておこう。

 

「では改めて友軍らしい彼女を救うための計画を立てようじゃないか。」

メインヒロイン(予定、病み中)登場です。存在的にはメインの予定なのですが出遅れているせいかそんな気はしないかもしれません。


鶸が山で使った守勢魔術の虚像分身という誘導性攻撃を誤誘導するためのダミーを作る魔法です。戦闘機がつかうフレアーみたいなものですね。


萌「ご主人様おもしろそうな玩具つくってるー。・・・・あ。」

ブーーン ガッ ドーーン

鶸「萌黄は私に恨みでもありまして??」

萌「いやー、操作が分かんなくて、えへへ。」

鈴「大丈夫。ぶつかってから爆発回避余裕。」

菫「いや、それは私でも無理だから。」


 菫  護衛 急襲斥候兵Ⅳ

 STR:472 VIT:426 DEX:596

 INT:442 WIZ:454 MND:419 LUK:18

 MV:25 ACT:1.6|3 Load:1420 SPR:1090

 HP:932 MP:896

 ATK:810+368|892 MATK:861+145 DEF:204+126 MDEF:174+114

 スキル:機先、精査、希薄

     短剣Ⅵ、体術Ⅵ、隠密Ⅵ、捜索Ⅵ、必殺Ⅵ

     貫通撃Ⅵ、貫通射撃Ⅴ、障破撃Ⅵ、障破射撃Ⅴ

 装備:神涙滴の小剣、冷石短剣、龍布防具、重龍鱗鎧

  

 萌黄  護衛 銃兵Ⅳ

 STR:424 VIT:427 DEX:512

 INT:412 WIZ:421 MND:421 LUK:44

 MV:20 ACT:1.5|3 Load:1325 SPR:973

 HP:894 MP:833

 ATK:680|724 MATK:833 DEF:187+126 MDEF:168+114

 スキル:先制、索敵、危機感知、活殺

     銃Ⅵ、体術Ⅴ、隠密Ⅵ、捜索Ⅴ、速射Ⅳ、狙撃Ⅵ

     貫通射撃Ⅵ、障破射撃Ⅵ

 装備:冷魔式スナイパーライフル、龍布防具、重龍鱗鎧

 

 桔梗  護衛 魔術師Ⅳ

 STR:372 VIT:331 DEX:612

 INT:602 WIZ:595 MND:575 LUK:5

 MV:18 ACT:1.6|3 Load:1125 SPR:1207

 HP:702 MP:1317

 ATK:678|798 MATK:1257+346 DEF:188+88 MDEF:274+96

 スキル:先制、索敵、血操魔

     攻勢魔術Ⅵ、守勢魔術Ⅴ、強化術Ⅳ、治療術Ⅳ、瞑想Ⅵ

     条件発動Ⅵ、詠唱短縮Ⅵ、消費軽減Ⅴ、貫通術Ⅵ、障破術Ⅵ

 装備:龍眼魔法増幅腕防具、龍布防具

 

 鶸  グループなし 医療術士Ⅳ

 STR:302 VIT:284 DEX:592

 INT:685 WIZ:663 MND:679 LUK:34

 MV:12 ACT:1.0|4 Load:938 SPR:1255

 HP:648 MP:1488 ATK:598|743 MATK:1429+346 DEF:195+126 MDEF:328+114

 スキル:並列作業、集中、緊急治療、精密演算、

     統合生産Ⅶ、体術Ⅳ

     守勢魔術Ⅵ、強化術Ⅳ、治療術Ⅵ、瞑想Ⅴ

     条件発動Ⅴ、詠唱短縮Ⅵ、消費軽減Ⅵ

 装備:龍眼魔法増幅腕防具、龍布防具、重龍鱗鎧

 ※職と変化体のスキル調整ミスによりスキルランクを調整

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