それぞれの半年:後編
だいぶ遅れましたが後編部分になります。
・ラゴウの選定者達
☆グラージ(47)の場合 スーペリアカード
彼は山林を支配した後、山を改造し従うものに生活しやすいように環境を整えた。ミーバが食料を作れると知ってはそれらを任せ、建築し柵や壁を建て要塞化していく。余裕が出てくると略奪を生業にしていた者たちが我慢できずに動き始める。彼はそういう者たちを粛清し指示に従うように行動を縛る。
「貴様らが人を恨んでいる気持ちをくまんでもないが勝手に動いて俺に害を与えるんじゃない。」
彼はそういい含めたが不満は膨らんでいった。ある程度準備が整い、少し早いかとは思ったが彼は街道の襲撃を解禁した。遅かれ早かれ彼も近くの他人の領域に手を出すことは確定事項であったからだ。ただ、この世界は彼が思っているよりは厳しい世界であった。襲いかかった商隊から情報を引き出し近くの町の戦力を知る。人数差ならさほど問題なかろうと一ヶ月後に兵を率いて襲撃した。予定より苦戦はしたものの彼は勝利し町を支配下においた。暴走した部下達のせいで町の被害も大きくなったが、今まで抑圧した分多少は仕方がないと割り切った。半月後ならず者の集団のような者たちに町が襲撃されるが、彼は戦力を出し勝利した。だが被害は決して小さくなかった。彼はならず者と思っていた狩猟ギルドなる者たちから話を聞き出し、この世界の戦闘技術の一端をしる。彼はこのままいては危険だと判断した。彼は部隊に撤退を指示したが知性の高いものほど従わず、彼は獣達を率いて山林の拠点へ引いた。一ヶ月後正規兵による攻撃をうけて町は奪還された。予想通り一方的であったらしい。彼は判断を間違えたと認識した。この世界で戦い抜くにはもっと準備が必要だと。山林の部下と獣を率いて離れるかと準備している間に、正規兵達は山林の拠点へと攻めてきた。彼は部下を率いて戦う。指揮し、先頭に立ち部下を鼓舞して戦うもほとんどの部下は無力だった。彼は三人の正規兵を倒した後、十人に囲まれて命を落とした。
「ふむ、期待していたが・・・思ったより早かったな。」
「申し訳なく存じます。世界は知ったゆえ次はもっとうまくやり通します。」
ラゴウに辛辣な言葉を浴びせられても彼は折れずに次を誓う。ラゴウはその姿に満足して世界の仕組みの片鱗について語る。
「では次だな。」
ラゴウは彼に行き先を提示し、彼は森を選ぶ。彼は森の中でも以前と同じように動いたが選定を慎重にし、さらに部下達への指示を徹底した。ミーバを使って情報を集め、部下たちを鍛え上げ、装備を整える。
「人間に闇雲に戦ってもだめだ。手順を踏まないと絶対に勝てないように出来ている。」
彼は自らをもって彼らを諭し力をつけていく。
☆ユーキ(12)の場合 レアカード
彼は森を彷徨い出会う生物は魂を奪い、素体として強靭でありそうなら動く死体として配下に加える。森の奥深くで壊された拠点を再建し、そこでどうするか悩む。好き勝手してにして良いと言われて目の前にあったネタで遊んでしまったがその後が急に動きづらくなってしまったことを感じていた。彼はミーバに資源を集めさせたり増やしたりしながら考えたが、結局は潜み暗躍するいつもの生活をすればよいのではないかと考え至る。増えたミーバをつかって周辺の情報を集める。彼自信も昼間外に出てみては自分の体の状態と限界を調べる。先日荒らした都市と別の町との関係を調べ観察し人々の不和を突く。人間たちは不信になり原因もつかめぬまま自滅していく。彼はそんな姿を眺めて楽しむ。三度そんなことを楽しんだがその後は仕込める隙がなくなり、彼の遊びもできなくなる。彼は再び悩み考える。いつもなら別の地方へとなるのだが動かしづらい拠点が思いの外便利で置いていくのももったいないと思ってしまっていた。彼はふと思い至り都市をまるごと喰うことを考える。なるべく都市の機能ごと生かしてしばらく餌場にしたいと企画し、都市長に呪いをしかける。都市長は軽く体調を崩しただけだったが問題なく過ごしていた。彼は再び別の呪いをかけ今度は判断力を奪う。都市長はそれを仕事の疲れと片付けた。彼は三度目の呪いを都市長にかけ彼に魂のかけらを奪われそれとなく誘導されるようになる。彼はその後も何度も都市長に呪いをかけて最後には彼の体を乗っ取ることに成功する。まずは都市長の家族を喰らい隷属させる。都市の地下に部下の動く死体を配置し緊急事態に備える。彼は政治、軍事、商業のトップ層を順次操作していき都市を掌握していった。二ヶ月後都市の防衛機能が正常に機能しなくなった時彼は都市を封鎖しその内部に自らの仲間を解き放った。阿鼻叫喚。市民は逃げ惑い、しかしそれらを守るものはいない。逆に襲いかかられて食われる。一夜にして三万人の住民は彼の仲間になった。彼は笑い満足した。彼は仲間になった市民にいつも通り行動するように指示した。都市内で行われる茶番劇。そして外から訪れる人。通い商人は対象外とされたが移住者、旅人は例外なく都市の餌食になった。こうして表向きは機能しているような人食い都市が出来上がった。彼は記憶と資料をあさりながら次はどこを喰らおうか吟味するのだった。
☆ベゥガ(16)の場合 アンコモンカード
アリの巣で拠点を確保した彼は周囲の探索を行いゴブリンの集団と出会う。彼の中では異種族は敵対する傾向にあると考えており、それは相手の中でも常識であった。お互い身構え沈黙の時間がすぎる。ゴブリンが八人ということもありゴブリン側のほうが強気に攻撃に出た。彼はそれをあしらい引き気味になりながらも一人ひとり撃退していく。残り三人になりゴブリンが及び腰になった所で彼は攻勢にでて二人をなぎ倒し一人に槍を突きつけて降伏勧告する。幸い知っているゴブリン語と近い言語であったのでたどたどしくは相手に通じた模様で彼も心のなかでほっとする。
「お前ら数多いか。」
「たくさんだ。」
彼は相手の頭の悪さに若干辟易したが打倒した者達を引き起こして集落に案内させる。集落では当然のように敵対して迎えられたが、倒された者たちの説得により比較的穏便に集落へ入った。ゴブリンの長老たちと話彼は自分の支配下に入るように言う。対峙したゴブリンの能力からして二十人だろうが三倍の強さだろうが問題ないと判断したためだ。長老たちは当然のように激高したが彼は臆せず代案を出す。
「一番強いやつを出すか、戦えるやつ全員でこい。負けたら従え。」
長老たちは鼻で笑って彼と戦いたいゴブリン達をつのる。すでに狩り部隊の惨劇が伝わっているのか多くのゴブリン達は及び腰であったがそれでも八人のゴブリンが彼へ挑んでくる。彼はそれらを軽く見て鼻で笑い挑発した。当然のように挑戦者達は怒りだして戦いの合図が始まるまでもなくその場で襲いかかってきた。彼は予定通りに事が運んだことでより短気に突撃してきたものから順に転がし、打倒し、勝利を収めた長老たちは納得せずごねた。不正だ、合図がないだの文句をつけてきた所で彼は一番権力が低そうなものに目をつけて一突きげ殺した。
「役に立たないなら殺す。逆らうなら殺す。話聞かないものいらない。」
長老たちは保身の為に渋々彼に従うことを決め集落に通達した。彼は自分の拠点周辺に移住するものを求め、彼の力に憧れた若い者たちと力自慢は従った。逆に長老たちに媚を売りごまかし生きて来たものや従来の生活から抜け出せない者たちは集落に残った。彼は従う者たちを率いて拠点に戻りミーバ達と家を建て柵を作り集落として形造る。彼は従ってきたものを世話し集落を強固にしていく。森で出会った狼達を従え、躾し、周囲の警戒に当てる。広い範囲で防備が固められ安定した基盤を築いた。二ヶ月後彼の元に意味不明な襲撃の報がもたらされる。警備の狼の不審を告げる遠吠え。その後にもたらされる部下の一報。一瞬でやられた。何もできない。頭を呼んでる。彼は聞く惨状を半信半疑で聞き、一緒に現場に行く。現場に着く頃には呻く部下たちが転がりたった四人の敵とミーバがいる。あれがいるということは同じ選定者という立場ということか。一方的な力の差を感じて死を覚悟し目の前に立つ敵に挑む。
「最初に出会う選定者がお前のような強者とはな。俺がここの主であるベゥガだ。」
彼はそう敵であろう人間に告げ、部下を生かす手段を模索する。最悪自分は死んでもいいが部下たちは救わねばと。彼の思いは杞憂になるが、この時彼は決死の思いで敵の目の前に立ったのだ。
・ウィルドの選定者達
☆バーノレ(66)の場合 レアカード
彼は新しく生を受けてもただ練り歩き知性のあるものに会うたびに望みを聞き答えられるものに答え手助けし、戦いを挑む者には同じく力を持って答える。たまたま移動先にあった村で噂を聞いていた子供が村を襲う賊をなんとかしてほしいと頼む。
「童よ。お前はそれをなぜわしに頼む。」
「え?あなたにその力があるんじゃあないのか?」
聞けば答えが返ってくる、望めばそれが叶えられると伝わえる話で勘違いしていた子供は頭を悩ませる。
「わしが賊を倒すのは一時のこと。別の賊がきたらなんとする。」
彼の言に子供は悩む。無い頭を振り絞って考える。彼はその様子を見守る。
「なら僕を強くしてくれ。僕が賊を追い払う。」
子供は悩んだ末にそう答える。
「賊を追い払うために力を乞い、指導を願うということだな。童の勇気に答えよう。」
彼は一層燃え上がりその炎を子供に巻きつける。子供は驚いたがそれほど熱くないことに気が付きすぐにその美しさに魅了される。
「わしはお主がわしの思う強さになるまで指導しよう。それまでの脅威はわしが払ってやろう。」
彼は彼の目に叶う一つの目的を見つけて子供の願いに従う。子供に連れられて村に行き、事情を子供と併せて説明し居場所を得る。襲ってきた賊はすべからく追い払い、村を上げて歓迎される。子供に指導しながら、彼は村を助けるため、ひいては子供の成長を助けるためにミーバを使って村の周辺の開拓も行う。ただそれは村を堕落させること無く過不足無く行われ、村は豊かになるが決して裕福になることもなかった。村人は若干不満に思い始めていたが彼がいなければこの贅沢もないのだと殆どの村人はこの状況に満足した。子供は順次力をつけ村を守れるよう、賊に負けない力を身につけていく。一部の強欲な者はその加減した支援に我慢ができなくなっていく。彼の本来の力を知らないそういった村人はおとなしくしている彼に忍び寄り力をもって脅し、彼の支援を引き出そうとする。彼は脅しに屈したわけではないが村人がそれを望むならとやってきた村人に畑とミーバを与えた。厳密には畑の生産物を好きな形で村人達に与えた。村人たちはもらい得だと次々に彼に支援を申し出た。彼は時間はかかるがといい含めた上で順に村人に支援を拡充した。一度与えられれば二度。二度あれば三度。欲深い者達から順に支援の要求は増して言った。
「近頃みんな変わったね。家でだらだら、お金の話と遊びの話しかしない。」
家族のために、村人のために強くなろうとしていた子供は子供心にも疑問に感じ始めていた。
「この村はお主の守りたい村か?」
彼は子供に訪ねた。
「なんか違う気がする。」
子供はそう答えた。
「それでよい。今はお主の目標のために邁進すればよい。」
彼は子供に修行と知恵を与えながらそう言った。彼が求めるのは救われるべきものを救う勇者。彼は求められれば与えるが、それに溺れても気にはしない。与えられたもので救われるか救われないかは必ずしも彼の意図通りになるとは思っていないからである。彼はそれで救われるならと与えるが、それによって自らの力を失うかは彼の管理すべきことではないと思っているからである。たまたまここにいる期間が長いが彼がいることによる恩恵は彼がいなくなれば消える。村人をそれを知らずに彼に支援を求め浪費する。彼はソレを止めない。それは彼の求めるところではないからだ。彼の子供への教育から、彼と子供の村への思いは徐々に大きく広がっていく。与え続けられていることは本当に救いであるか。思いは剥離していく。
☆フィア(22)の場合 レアカード
大都市にひらひらと訪れた彼女は何か良い人材はいないかと探す。彼女の目に貧しい不遇な、されど光る素質を持つ少女が映る。これだと彼女は思った。彼女はそっと少女に近づき使命の目覚めを与える。
「耐え忍ぶものよ。あなたには素晴らしい力がある。その力を奮い、危機を取り除くのだ。」
少女は彼女の言葉を信じ、そして彼女は少女の素質を伝える。魔法の才、弁論の才、軍略の才。彼女はまず魔法を身につけ自分に降りかかる悪意を晴らす。次に弁論を発揮し、人を騙し陥れ地位と財を満たす。ただ少女は彼女の言われるまま関係性を信じ、悪気のない行為を悪と断じ、また財貨の為に法の目をくぐる小悪を善しとしさせられた。さらに軍略を身につけ大都市の動きを知り都市の上層部にも意志を告げられるようになった。少女は彼女の言う無茶振りに大層丁寧に答え、結果を出していった。彼女は少女こそが世界を救う勇者であると少女にも周囲にも植え付けていった。その言葉と行動は膨らみ広がり大都市を蝕む。上層部が気がつく頃にはそれは宗教となり彼女は降臨した神の一部として崇められ、少女とその周囲に祭り上げられる。光満教の誕生である。彼女は気にかけた者を勇者、準勇者と認定しさらに試練と言う名の無茶を与える。彼女にとってそれを乗り越えられようと乗り越えまいと関係なく次々に思いついただけ与える。少女たちはソレに答え、使命を持って成し遂げる。都市としては役に立ったり邪魔になったり、制御の聞かない無法者と大差のない問題のある集団へとなっていった。地位あるものからの苦情により解散を命じられるが、教団はそれに反発しいつしか都市を二分する争いに発展する。彼女はそれを焚き付け盛り上げる。予想以上の勢力になり頭を悩ませる領主。彼女の勇者たる少女の力により徐々に都市は侵略される。手を打てない領主はそれに対抗できずにいずれ飲み込まれる。彼女は高慢に指示し、されど信者は敬虔に誠実に昇華していく。いびつな歯車はハマりそして回り始める。
☆ディー(43)の場合 コモンカード
彼は今日も明日も掘り続ける。地上へ、奈落へ。掘り進めた先で彼は源泉を掘り当て熱湯に流される。熱湯自体はさほどのダメージにはならなかったが、地中の半分は熱湯で満たされ、彼の興味を失った。
「よし次に行こう。」
彼は別の場所を目指して歩き始めた。五日後、差し掛かった森で魔獣であるキメラの亜種に喰われる。戻ってきた陽気な精霊をみてウィルドは頭を悩ませる。どう説明しても彼は何一つ分かっていると思えない。ウィルドは諦めて山岳に彼を送り込む。彼は掘る。さらに掘る。自らの使命をそこに見い出しているがゆえに。
次回は第四部で始まります。




