神々の円卓と最初の会合
ドーナツ状のテーブルの中心には銀のゴブレットとそこに満たされた土塊とゴブレットの周りを旋回する光の球。テーブルの周りにはトーガをまとった人型の神チェイス。右隣に白い大蛇の神フレーレ。その隣に怒りの形相に見える荒々しい鬼の神ラゴウ、そして霧を纏う半透明の人型の神ウィルド。彼は人型を取ることを好む精霊に属する神である。神々の前には三枚のカードが浮いている。とある世界の権利を賭けて争う盤面を開催した黒幕達である。チェイスは少しイライラしたように自分と周りのカードを見る。
(レア、アンコモン、コモンか。レアリティが全てではないとはいえ引きは良くないねえ。)
チェイスはレアカードの角を中指で弾いてくるくると回転させる。カードの中身は戦闘型のエルフ。レアリティ的と種族的にステータスは高いが、女性とはいえ戦闘型は特に気位が高く協調性が低いので今回のような長期戦では評価が低い。アンコモンは内政型の人間。レアリティの割にステータスが低めで特に肉体的ステータスが低く序盤ではパワーが足りず、中長期戦でも生存率が低いという期待値が低いキャラ。コモンも内政型の人間ではあるがステータスは平均より高め。人間の女性は当たり外れが多く現時点では未知数だがレアリティが低いということは有象無象の類であることは間違いない。正直きついと言わざるを得ない。
(ま、フレーレよりはましだけど・・・)
完全に消沈してうつむき加減の白蛇の前にあるのはオールコモンという引きの悪さである。万能型ラミア、内政型リザードマン、戦闘型ベビードラゴンとリザードマン自体がそもそも脳筋種族、ドラゴンに至っては盤面期間が短く成長ボーナスが期待できない。ましなのはラミアだけだが比較的強力な種族の割にコモンということは何かしら大きな欠点があるということなのだろう。
(問題なのは一番渡したくないアレの引きが良すぎたとこだよなぁ。)
頭を抱えるように見つめるのは鬼神のカード、スーペリアの戦闘型オーガ。レアの万能型シャドウレイス。アンコモンの戦闘型コボルトである。盤面が広いから救いではあるが中規模以下ではしょうぶにならなかった可能性すら有る顔ぶれである。
(ウィルを勝たせておこぼれに預かるのが無難かなぁ。)
精霊神の手札はレア、レア、コモンと一枚惜しいが良好と言える手札。種族が偏って汎用性に欠けそうなところだけが難点と思われる火の大精霊、光の精霊、土の精霊といった具合。ゴウラも周りのカードを見回しながら勝った気分でご機嫌である。
「んー?これはもうワシの勝ちでいいということかなぁ?」
強面ににやけた面が他の三神の苛立ちを誘う。
「余裕も結構ですが今回は長丁場ですからね。必ずしも初期値有利とはなりませんよ。」
ウィルドが冷静そうに言うが見た目の割に短気なヤツだ腸煮えくり返っているだろう。正直まともに戦えそうな対抗馬なんだからもう少し落ち着いてほしいものだ。
「今回始まったばかりですしは手札の顔見せで終わりでしょ。やること無いなら帰りたいんだけど。」
フレーレは気だるそうに言って退出気分である。コレのテンションの上がり下がり具合はいつも激しく思うが今回は特にめんどくさそうだ。初日が始まり各神の点数が1,2とぼちぼちと増え始める。少しし時間を置いた所でカウンターが5ずつ増え始める。何をするか悩むと最初だけミーバが拠点を建てるように促してくるのでその結果だ。いつもの盤面の開始時と変わらない光景。最後に私のカウンターが増えこれで全員が拠点を立てた勘定になる。ここからはその拠点を中心に各人の能力で生活し始めるので半年ぐらいは微妙に増え続けるだけである。カードが強ければ強いほど自分の力だけで生活をし、弱ければ弱いほど拠点に引きこもる。半年後の会合後の神託という名のアドバイスまで大体ギリギリ生き残るかどうかという具合になる。
「じゃあ、今回はいつも通り解散ということでいいかね。」
フレーレが自陣に引きこもるまでに話しだけしておきたいと思っていた私はフレーレに乗っかるように解散を促す。突然私のカウンターが急増し始め、全員の目がカウンターに集中する。21,22,23,26,29,32・・・数字の増え方が一人で作業している増え方ではない。確実にミーバを使って何かをしている増え方だ。さらに増え方が加速する。ラゴウが何か怪しむように怒りの形相をこちらに向けてくるが私にだって何が起こっているかわからない。ちらっと他者には見えないカードの明細カウンターをみると少年の得点が急速に増えているのがわかる。
「てめえ・・・なんか不正なアドバイスをしたんじゃねぇだろうな。」
ラゴウが睨みつけるが、それをウィルドが否定する。
「君は確認していないだろうが私は全員の導入をすべて確認している。暗躍しがちなヤツではあるが不正と言えるほどの発言はしていない。むしろ君のほうがギリギリラインと言ってもいいくらいだ。もっとも今回の盤面であの発言が正しいかは置いておいてな。」
ウィルドは逆にラゴウを睨みつける。ラゴウは少し動揺するような動きを見せて一旦鉾を抑える。カウンターはなお増え続け200に届きそうな所で少年のカードが燃え上がる。点数は他の神より多いものの62点まで下がった。全員の目が点になりしばらくの沈黙の後ラゴウが円卓を叩きながら大笑いを始める。
「ガハハハ、ガハッ。しょ初日で死んでやがる。どんな無能だよ。腹いてぇ。」
咳き込むほど全力で笑っているが他の二人は警戒するように燃えた中から現れたカードを見つめる。
「選定は必ず未経験者から・・・でしたよね?」
フレーレは再確認するように私の顔を見つめる。
「確かに原理を開発したのは私ですが、厳密には『その肉体で未経験だった場合』ですね。今回はいませんがユニークカードなら体験したことのある転生者が含まれる可能性はあります。盤面を抜けた者が元の体に記憶を複写するか融合体になった場合で、なおかつ転生の際に記憶を蘇らせた場合ですかね。考えるのも面倒なくらいの可能性だと思いますが。少なくとも彼がそうとは言えないでしょう。」
私は暗に「ありえませんよ。」とだけ言っておく。
「お前が原理に干渉した可能性はどうなんだ?」
ひとしきり笑ったラゴウがいちゃもんを付けてくるが私はため息をつく。
「原理が適正か、不正を仕込む余地があるかは遠い昔の合議で700を超える神々の間で問題ないということになりましたよね?あの原理はすでに私の手から離れています。今さら皆の玩具にいたずらして不快感を買おうとは思いませんよ。」
ラゴウは舌打ちをして引き下がる。私はもう一度深い溜め息をついて平静を取り戻すように務める。
「私は死亡者のケアと再始動がありますので失礼させていただきます。」
フレーレと話しておきたかったが今の流れでは協力を求めるのは難しいだろう。ラゴウ以外は気がついているはず。彼はすでに私も含めて他の二柱から最も警戒されるカードになっていることに。仕方がないので次の機会にすることにして私は円卓を後にした。
神様の紹介と手駒の公開。
チェイスは混ぜっ返し暗躍派
ラゴウは直情冒険派
フレーレは冷静策謀派
ウィルドは清廉正統派