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継続

2/6投稿分前編。

 地面が見えなくなり視界が暗転した後そこは三度目の白い世界。どうせチェイス様が来るのはもう少し後だろうとソファーを出しダイブする。テーブルを出しコンビニのしなったメンチカツバーガーと炭酸飲料で腹を満たす。

 

「かーっ。」

 

 酒飲みのような声を出しつつ久々のジャンクフードを満喫する。チェイス様が現れこちらの様子を見て頭を抱える。

 

「お待ちしてましたよ。」

 

 僕はバーガーを炭酸で流しつつ言う。

 

「堪能してくれたようで何より。二度目の死にも関わらず余裕だね。」

 

 チェイス様は棘のあるいい方をしてくる。

 

「ま、現実には何の影響もないですからね。」

 

 追加でコンソメ味ポテチを出しつつつまむ。食べます?とパーティー開きにしてチェイス様のほうに少し寄せる。チェイス様は難しい顔で一枚つまむ。しばらく無言。

 

「で、今回の利敵行為はどういうことか聞いておこうか。」

 

 チェイス様は切り出す。

 

「利敵行為ですか?特に覚えもないですが。」

 

 僕はとぼけておく。

 

「相手方のコボルトに知識はおろか戦力まるごと渡しただろう。」

 

 チェイス様はちょっといらいら気味である。この世界の神様は意外と万能ではない。もしかしたら僕の真意を読み取れるのかもしれないが、それが手間なのか楽しみを奪うせいなのか、少なくともチェイス様はやらない。ルールで禁止されているのかもしれないが、逐一先回りされると困るのでむしろ助かる。

 

「僕的には半年そこらの戦果を渡した所で痛くも痒くもないと思うんですがね。物資はあってもあれ以上進化するのはベゥガじゃしばらく難しいでしょう。五年か十年か。加工技術を見つけるところから始めないといけないですしね。ミーバって特殊加工できないでしょ?」

 

 僕はポテチをつまみながら言う。チェイス様は少し驚いたようにこちらを見ている。

 

「なんとなくからくりが見えてきたので多分なんとかなりますよ。僕がひょっこり死んでしまうのが一番可能性がありそうですけど。それはそうとしてですね。さすがにシステムの詳細まではわからないのでミーバの根本について聞いておきたいんですよね。あ、質問時間は十日取るつもりなんで十日超えそうになったら教えて下さい。」

 

 僕は真面目な顔でチェイス様に問う。

 

「君がどこまで把握しているか非常に気になってきたね。どうやってこの盤面を知り得てるのかがね。」

 

 チェイス様が不敵な笑顔で聞いてくる。

 

「質問時間おまけしてくれるなら答え・・・にはならないかも知れませんが、チェイス様ならピンと来そうなことは言えますよ。」

 

 僕は僕が知り得ている根本の原因について心当たりがあった。チェイス様はそこに興味があるように見える。

 

「そうだね。私が質問するからにはその答えに対価が必要だね。いいだろう。システムの権限において君の答えに対して私がその答えにふさわしい時間を与えよう。」

 

 チェイス様はそう宣言した。

 

「外れていたら申し訳ないですが・・・足立遊矢。または小鳥遊満。もしかしたら足立優、あたりに心当たりがあればそれが原因ですね。」

 

 僕は父親と彼の仕事上で使っている名前。そして祖父の名前をあげた。チェイス様はそこで納得したように頷いた。僕はメロンソーダを飲む。

 

「そういうことか。だけど直接すべてを教えられたら選定からは外れるはずだ。彼もそれを知っている。」

 

 チェイス様は不思議そうに考える。

 

「すべては作られたゲームに。一部分一部分、分解されて仕込まれていました。今なら多分そうなんだろうということがわかりますね。父が作ったゲームの中のいくつかにこの盤面に似た仕様が含まれていますね。」

 

 チェイス様は手を叩いて笑っている。

 

「なるほど。直接的ではなく、ばらばらに、しかも教えたわけでもない。そんな穴があるとはね。というか選ばれる可能性もないであろう知識の継承をしようと思ったことにすら敬意を評するよ。だけど、そのもしかしたらという奇跡が起こったわけだ。」

 

 チェイス様は感慨深そうに考えている。

 

「正直こういう形で仕様を広めると世界、時期を決めずに選定するわけですから、選定が行われれば行われるほどいずれ欠片でも知った人が選ばれる可能性が出てくるということではないですかね。父は多分そう思ったんだと思いますよ。」

 

 僕はそう言って辛めのポテチを取り出してつまむ。

 

「ふむ、検討して選定システムを修正する必要がありそうだね。少なくともレアリティ設定は見直さないと。」

 

「そこはご自由に。」

 

 チェイス様は重大そうに頷いたが僕としてはどうでもよかった。

 

「で?対価としては十分そうですか?」

 

 僕はそう言って緑茶を飲む。

 

「そうだね。予想外の意図、システムの穴。対価を払うに相応しい答えだったよ。」

 

 チェイス様はそういってポテチをつまむ。思ったより辛かったようだ。

 

「これからは少し力をいれつつ戦力を整えて・・というペースは変わらないんですけど。」

 

 僕は言葉を切ってチェイス様を見る。

 

「あなたがどうしたいかがちょっと見えない。僕の成長ペースを見ているならベゥガにやったことはそれほど目くじらを立てるほどではなかったと思うんですよね。ラゴウを勝たせたくないという思いは伝わりましたが、実は自分が勝たなくてもいいと思ってましたよね。少なくとも最初は。」

 

 僕はチェイス様を見つめる。

 

「最初はまぁ、カード・・・選定者の引きが良くはなかったからね。誰かに相乗りしておこぼれを拾うつもりだったよ。ただ君がそれをひっくり返した。おかげでまだ交渉も根回しも終わってない。」

 

 チェイス様は困ったように言うがそのおちゃらけた声質は明らかに困った様子ではない。

 

「私としては君がそのまま突っ走ってくれても構わないんだよ。」

 

 チェイス様は僕の顔を見て言う。

 

「「だけどそれじゃ面白くない。」」

 

 僕とチェイス様の声が重なる。そしてお互いニヤリと笑う。

 

「取り敢えずはラゴウ氏が勝たないように動けばいいんですよね。ベゥガのこともあるし下手をうたなければ大丈夫でしょう。流石に死にすぎましたし、これからは真面目(・・・)にやりますよ。」

 

 僕はソファーにもたれかかりながら宣言する。

 

「まぁそうだね。彼にはちょっと渡したくない・・・権利なのでね。」

 

 チェイス様は言葉を濁すが僕はふーんと聞き流す。正直なところ神様同士の結果には興味がない。

 

「で話を最初に戻すと、ミーバについて。というよりは進化体について確認したいことがいくつか。裏設定みたいなのはゲームじゃわからなかったので。」

 

「何が知りたいのか聞いておこうかね。失った形態変化のことなんだろうけど。途中の質問にもあったね。」

 

 チェイス様は追加でポテチを出してつまむ。

 

「概ね形態変化体・・・まあ菫といったかね。菫に説明させたことと同じだよ。後は人の視点で生き返る・・・と言えるかということかな。」

 

 チェイス様が同説明しようかと考えながら言っている。人とは違う概念が関係しているのかも知れない。

 

「説明させたっていうことはここからミーバに干渉する手段があるということですよね。」

 

 僕は気になったことに触れる。

 

「ん、そこを突いてくるか。出来る出来ないの話なら出来るけど操作権限は手順が複雑なんでおいそれとはできない。部分的な記憶に干渉するのは比較的簡単だ。ただこちらから露骨に情報を流すと不正になるのでね。事後でも連絡した情報の共有は必要になる。まあ、それはこちらの話だ。」

 

 チェイス様の言葉を聞いて僕は考える。ポテチをつまむ。すっぱっ。チェイス様は楽しそうにこちらを見ている。

 

「んー、そうだね、どう説明すべきか。君たちのこともそうだけど記憶は本来体に宿るもので魂ではない。君的には魂は肉体を動かす鍵だと思ってくれていいかな。厳密には色々違うけど今はそう思っておいて欲しい。だから選定者の情報・・・記憶や肉体、精神の変化情報は世界の外側にも保管されている。そこからの情報で体を再構築して拾い上げた魂を戻す。それが今の君だ。これは生き返ったと言えるかな?」

 

 チェイス様が今僕の体に起きていることを説明した。僕は考えた。

 

「そう、今思ったことがだいたい正しい。人によるんだ。姿かたちと記憶があれば生き返ったと言う人もいるし。傷もない新しい体で生まれたら元の体じゃないと、生き返ってないと言うものもいる。こちらの視点からするとリサイクルしたか、一から作ったかの差でしかない。魂を複製しない限り同じものは作れないからね。」

 

 チェイス様はお茶を飲んで一服する。僕もすっぱいポテチをつまんで待つ。

 

「生き死にの話がそもそも人の世界での話なので私達には多少の差の話でしかない。最もそれが人の世界で大事なことも理解はしているよ。そして今の君にもどうでもいい話だったね。ミーバには魂という肉体を動かす鍵はないけど、その肉体を作るための情報は同じ方法で外に置かれている。この外側の情報共有に製作者の情報にも一部つながっている。形態変化体になるとそこから複製された情報に対してシステムに従って改変されて肉体を再構築する。このままだと死体を作っているだけだから、そのミーバが動くための鍵とエネルギーは外側から流し込んでいるわけだ。」

 

 チェイス様は僕の顔を見る。顔を見て納得して話を進める。

 

「人の世界の蘇生に類する魔法は肉体を再構築してそこに魂を呼び戻すという形で実行されている。だから元の体があることが重要視されている。先程の人の復活観によるところもあるかな。記憶とか云々は肉体に残った情報をそのまま再構築しているので脳のある無しはあまり関係ない。これを先程のミーバの話と重ねるとやはり復活には魂がいることがわかるだろう。だから生き返りはできないという話だ。」

 

 チェイス様は話を締めてポテチをつまむ。僕もポテチをつまんで考える。そろそろ次開けるか。

 

「そうかミーバの情報さえ残ってれば再構築はできるんだ。」

 

「そうだね。」

 

 僕は復活と再構築が神様的に殆ど変わらないと認識した上でその結論を思い出すがチェイス様の声のトーンは低い。

 

「これからが残念な話になるけど選定者である間は君からそれらの情報に干渉することが出来ない。これは盤面のルールとしてそうなっている。不正防止の類の話になるのでこればっかりはどうしょうもなくてね。」

 

 チェイス様が無表情気味にそう言う。僕はそっかぁとソファーに倒れ込む。

 

「意外と残念そうじゃないね。ふむ、そう考えるか。」

 

 チェイス様は僕がもっと残念がるのかと思っていたようだが、僕はまだ抜け道があるように思えた。

 

「まだその件で話はあるかな?」

 

 チェイス様は親切に聞いてくれる。後悔が無いようにという意味もあるのかもしれない。

 

「ようは体があってそこに情報と活動源が付与されれば、そうなり得るということですよね?」

 

「随分乱暴だがそう言えなくもないかな。」

 

 僕の適当にまとめにチェイス様は律儀に返事をする。

 

「僕が思っているゴーレムと何が違うんですかね。」

 

 ふと思った疑問をぶつける。

 

「規模が違うと思ってもらえばいいかな。ゴーレムは世界の中のエネルギー・・・魔力と、それによって構築された行動方針によって動いている。あくまで世界内部だけで完結しているんだ。ミーバは体は世界の中にあるけどそのエネルギーと行動方針は世界の外に持ってるんだよ。」

 

 チェイス様は軽く説明するが、ミーバは世界の中でも相当規格外の存在といえる。ただその力を盤面上で制御されているだけということなんだろう。

 

「この本ってすごいずるくありません?」

 

 僕は本の形だけ作ってぱらぱらと開く。

 

「それをずるいと思えるなら君のアイデアが優秀ということだよ。本が与えるのは助言と知識とそれを扱う技術までだ。技術が扱える器用さも力も、知識を扱うための知恵も、それらの情報が何をもたらすかはすべて所持者次第だからね。狭い範囲なら剣が一番強い。目の前の敵を切り伏せるだけだからね。そこを逃げ切れれば杖が強いかも知れない。特殊な環境に逃げ込めば杯が強いかも知れない。それらをすべてかいくぐって時間を与えられるなら本が強いと言えるかもね。」

 

 チェイス様はそう言ってお茶を飲んだ。僕は本を消してふーんとだけ返しておいた。

 

「あとどのくらい時間ありますかね。」

 

 僕は辺りをキョロキョロして時計を探す。

 

「あと・・三日くらいかな。」

 

 チェイス様が何かをチェックする素振りを見せて答える。

 

「順位に関する点数計算って聞けます?」

 

 僕はメタ的話にメスをいれる。チェイス様はだいぶ悩む。

 

「んーそうだな。君は二度目だから良いとしておくかな。時間が進んでなさすぎて解禁するかも悩ましいんだよね。」

 

 やはりこういう直接的なことについては制限がかかっているようだ。

 

「討伐点、ある一定以上の生命力を持つ生物を倒した時に加算される。建造点、世界に形あるものを残した時に加算される。支配点、世界にあるものを管理下に置いている間加算される。資産点、世界にある資源や人工物を所持している間加算される。大きくはこんなところかな。その世界にとって価値が高いほど点数は高くなり、その結果がなくなると点数は下がる。」

 

 チェイス様が答える。僕はふむふむと頷いておく。

 

「おっと誰かの自動査定に引っかかったようだね。こんなことで大きく変わるようなタイプじゃないんだけど仕方がない。この話はここで終わりだ。」

 

「お構いなく。悪戯が出来るかどうかぐらいの話だったので。」

 

 僕らはその場では何事もなかったかのように収めたが、端から見ればたいそう邪悪な顔をしているのだろう。

 

「む、追加でペナルティまで。ひどいものだ。どうやらそれで時間切れのようだよ。」

 

「おっとそれは残念。それではお暇しましょうかね。」

 

 僕は立ち上がり背伸びをする。

 

「あ、ポテチもっていってもいいですか?」

 

「残念。ここから持ち出しは出来ないんだ。」

 

 僕はダメ元で聞いてみたがやっぱりダメだった。

 

「さてとどこを選ぶかい?」

 

 目の前には平原、森、山岳となっている。

 

「んー、もう森でも大丈夫かな。森で。」

 

「お、強気だね。その調子で頑張ってくれよ。」

 

 目の前が暗転し転送が行われる。明るくなったその場所はかつて見たような森の側。そしていつものミーバ達が三匹。僕は周囲を見回して森から離れた場所に最下級拠点の建築を指示する。これからしばらく黙々と作業するだけだ。僕は次々と指示をして開拓を進める。

命を新たに再出発。

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