表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/172

僕、指導する。

 ベゥガの拠点の近くに最下級拠点を建築する。正直敵対の近くに拠点は建設出来ないと思っていたが喋っている内に終わってしまったことが、そういえば制限ないんだと思わせる。ミーバに警備を任せて菫たちをつれて拠点に入る。

 

「納得は出来ないだろうけど今はこのままやらせてもらうよ。」

 

 僕はそう言って切り出す。正直菫達は意見は述べても僕の言うことには基本的には従う。明らかに問題でなければ逆らうことは無い。今のところはだけど。現に何か言いたそうではあるけど菫と桔梗は何も言わない。萌黄は・・・本当に気にしていないのだろうな。

 

「僕はこちらにしばらくいるつもりだけど本拠点を放っておくわけにもいかないので、菫と桔梗には一度戻って管理をしてもらう。資源収集の安定化とミーバの兵士化を勧めてほしい。兵士化が安定したら戻ってきていいよ。」

 

 菫と桔梗は少なからずショックを受けている。萌黄はなぜだが自慢げである。

 

「ここの危機なら大抵のことは僕だけでもどうにかなる。あとは萌黄の能力を多少当てにしてってところかな。」

 

 萌黄の鼻が随分と高くなっていそうだが、菫達への反発を抑えるためであって君も意味もなく送り返してもいいんだぞ。僕が萌黄の頭を強くわしゃわしゃしていると萌黄が微妙な顔になって落ち着く。

 

「じゃあ、しばらく大変だろうけどよろしく頼むね。」

 

 僕はそう言って寝室に入る。ちょっと空気が重いのが心痛むがベゥガたちの警戒も速い内に解いておきたいからね。

 

 翌朝起きると萌黄は控えていたが他の二人の姿は無かった。

 

「おはよう、ご主人さま。菫と桔梗は本拠点に戻ったよ。頑張ってくるって。」

 

 萌黄が話しかけてくる。前向きに行ってくれたならいいけど菫は過保護なところがあるからなぁ。

 

「わたしがご主人さまを守るよ。」

 

「よろしく頼むよ。では早速僕を空腹から救ってくれるかな?」

 

 萌黄が嬉しそうに言って僕が答える。萌黄はちょっと考えてから厨房に移動した。朝食は随分しょっぱかった。首をかしげる萌黄をつれて外に出てミーバ達に資源採取をするように指示しいっぱいになったら頑強倉庫を増築するように指示しておく。以前から出来たか怪しい指示ではあったが拒否されなかった所をみると可能なようだ。この辺もベゥガに聞いてみよう。

 

 村について周囲のゴブリンに挨拶してベゥガの拠点に向かう。まだ見慣れてないせいかゴブリンたちの反応はすこぶる悪い。しばらくはしょうがないと思いながら先に進むと突然大きな人影が立ちふさがる。

 

「おめぇが旦那をたぶらかしたてやつか。」

 

 ガタイの大きいゴブリンとも言えない大男が立ちふさがる。新参者が気に入らないのはどの組織もいるとは思ったがこんなテンプレ展開になってくれるとは少しワクワクすらする。萌黄はこれを危機と感じていないのかそれほど気にかけずににこやかに僕を見上げる。まあここは僕も楽しませてもらおうかな。

 

「たぶらかしたつもりはない。お前に用はない。去れ。」

 

 鬼語はやはり使いにくい。彼の言葉はもう少し抑揚よく聞こえるので使い慣れていない部分とか方言的なものがあるのかもしれない。本で補完されるのはあくまで標準的な部分だけなのだろう。こんなにきっぱり言えば煽るように聞こえるよね。

 

「ふざけてんじゃねぇ。」

 

 大男は激高して殴りかかってくる。ものすごい短気だな。気圧が低すぎだろ。萌黄は悠々と僕を見ながら体を動かしつつ僕が避けるためのスペースを邪魔しないように動く。あの程度の攻撃だから軽く躱すと思ってるんだな?僕は回避する気も無く頭部に拳を受ける。やはり衝撃は感じても痛みは何も感じない。ただ押されるという圧力は残り少し踏ん張らないと体が飛ばされそうになる。少しだけ力をいれて倒れないようによろける。

 

「満足したか・・・萌黄待てっ。」

 

 僕が遊び心で彼を煽ろうとした所で激高した萌黄が彼の喉元にショットガンを突きつけている。全く動きを把握できなかった大男は身動きできずに顔と体をこわばらせる。三体の中ではパッとしない強さとは言え萌黄は能力的には僕よりもずっと強い。当然この村にいる誰よりも強いだろう。

 

「この生き物はご主人さまを叩いたのですよ?叩き返されても文句は無いでしょう。」

 

 萌黄はいつもと違って冷めた声で僕に振り返って言う。

 

「まぁまぁちょっとしたお遊びじゃないか。僕もこの通り全く痛みも傷もない。」

 

 萌黄の肩をぽんぽんと叩きながら萌黄の腕に手を添えてゆっくりと銃を降ろさせる。大男は緊張が解けたのかよろよろと後ずさる。周りが少し緊張して攻撃的な構えを取る。

 

「悪戯心でこうなったのはこちらが悪い。だがこれ以上はやめてくれ。彼女を抑えるのが難しくなる。」

 

 僕は周りに声をかけてその行動を制止する。

 

「こっちは君たちをどうこうするつもりは全くない。ここは引いてほしい。」

 

 僕が伝わるかどうか分かりづらい鬼語で伝える。

 

「ふざけんな、でかいか、ぶぇっ。」

 

 若そうなヤンキーゴブリンが飛び出してきたところを萌黄が容赦なくショットガンで撃ち落とす。彼の太ももから上は消し飛び辺りに鉄と焦げたような匂いが立ち込める。小さな足が地面に倒れ辺りは恐慌する。萌黄さん容赦ないですね。

 

「萌黄・・・ここでは許可なく発砲しないように。君の力ならそこまでしなくても抑え込めただろうに。」

 

 僕は呆れて萌黄に注意する。

 

「だってぇご主人さまを軽く見られるのがいらいらするんですもん。」

 

 萌黄がぷんすかというふうに頬を膨らませている。僕は萌黄の頭をぽんぽんしながらどうするか悩む。そう悩み切る時間でもない所で騒ぎを聞きつけたベゥガがやってくる。周りのものから状況を説明されているようだ。ベゥガはぎょっとして僕らを見ているが、僕はごめんといった感じで手を出して謝っておく。ベゥガは大きなため息をつく。

 

「先にも言ったが、彼らは我々がどうにかできる力の持ち主ではない。お互いに非があったとしても我々が一方的に害を受けることは分かっただろう。彼に敵対の意志はない。むしろ彼から教えてもらう立場だ。これ以上無用な命を使わないでほしい。」

 

 ベゥガはそういって渋るゴブリンたちを解散させる。

 

「すまんな。グレイアー達はちょっと喧嘩っぱやくてな。やはり迎えにいくべきだった。」

 

 ベゥガは申し訳無さそうに言う。

 

「こっちも萌黄がここまでやるとは思わなかったからな。やりすぎたとは思っている。」

 

 僕はそう言って謝罪しておく。萌黄は気に入らないのか頬を膨らませている。もう少し穏便にしなさいと頬袋を潰してやる。そういった結構な問題はあったがベゥガの拠点で話し合いという指導と運営方針を解説した。合間合間に僕はベゥガに色々試したり確認したりする。

 

「順番がどうだったか忘れたけどだいたいこんな順で建物が増えていって・・・」

 

 と僕は日本語で書いて説明したが彼はそれがちゃんと読めていたようだった。逆に彼の書いたよくわからない世界の文字を読むことはできるが、どう発音するかはわからない。文面を見ると頭で日本語として入ってくる感じである。相手のミーバも文字の理解は出来るようだけど、この世界のゴブリン達は理解することが出来ないようである。やはり選定者間では自動で翻訳されているのかやり取りができるが、現地民とのやり取りは別のようだ。ベゥガは元々いた世界でゴブリン達相手に使っていた言語を使って意思疎通をしているが、本によると鬼人語というちょっと変形した言語であるようだった。ただそれでもほとんど聞き返されることはなかったらしい。僕もこの世界の人間(・・)とは普通に会話できていたので元々いた勢力圏で会話出来ていた種族とは会話が出来るようになっているのではないかと推察する。よくわからない采配ではある。彼にはまず畑を増やしてミーバを増やさせる。それを起点にさらに食料と資源採集を進める。倉庫の特殊な利用法なども本の機能ではなくベゥガにも利用できた。こちらで出した肉は大いに喜ばれた。そういったこともあって希少資源を見つけたら取り敢えず倉庫に入れることを薦めておく。ミーバの指示に関してはベゥガのミーバよりこちらのミーバのほうが指示には融通が効くことが分かった。おそらく拠点の進化にあわせてミーバの指示可能範囲が広がっていると思われる。もう少し比較対象がいるけどそれほど重要でも無いので置いておく。ただ将来的には菫達に管理させなくても良くなるかもしれないという希望はあった。

 

「もし君個人で知っている素材とか、この世界で聞いたことがない素材とかあれば倉庫から出せるかもしれないよ。素材の価値的な数値は必要になるけど。」

 

 今回の交流の狙いの一つを聞いてみる。本が媒介になるとはいえ地球からの物質も再現できるので彼の世界にも何かあればと聞いてみたかったのだ。

 

「んー、すぐに思いつくものとなったらニャグの粘体くらいか。主に接着剤なんだが部族の中では武器も建物も何でもかんでもくっつけてたな。」

 

 木のウロや岩場の溜り水のありそうな所にいつの間にか湧いてるスライムみたいなものらしく比較的沢山とれているので困らないけど発生源がよくわからない物質らしい。揉み込むと柔らかくなりベタベタしてくるのでひっつけたいもの同士をくっつけておく。しばらくするとピッタリくっついている模様。変なものだと笑っていたらベゥガは少し席を外し、しばらくするとボウルのような入れ物に現物を入れて持ってきた。

 

「これがどういうものなのかわからないが木材倉庫から取り出せたな。」

 

 とテーブルの上に置いてくる。色は薄い青色だがベゥガによるといくつか色の種類がある模様。ただし効果に変化があるかはわからないとのこと。揉み込むと確かに柔らかくネバネバしてくる。

 

「あまり揉み込むと後が大変だぞ。」

 

 ベゥガが笑いながら手遅れなことを言ってくる。僕の手の中のニャグは糸を引くような柔らかさになっており手から取ることができない。ベゥガは大笑いしながらミーバに塩水を持ってこさせる。

 

「そうなったら冷たい塩水で洗い流す感じだな。抵抗がなければ食べてもいいぞ。小さい子供は腹を壊すことがあるが。もっともまれに歯がくっつくがね。」

 

 僕は塩水で洗いながらゾッとしない話を聞く。塩水でこすると水の中で小さな玉になって沈んでいく。念入りに洗い落としてからベゥガの前に戻る。

 

「ひどい目にあった。」

 

 わざとらしいしかめっ面で僕は告げ、ベゥガはまた大笑いする。余ったニャグの粘体は取り敢えずもらっておくことにした。代わりに何かと便利な天上綿糸と布を提供しておく。布としても頑丈だし、紐やロープと何かと便利なものだ。ベゥガは興味深そうに眺めたり引っ張ったりしている。

 

「そこいらの猪の革よりよっぽど頑丈だよ。うちでもミーバの防具として採用してるくらいだから。ただこの村で運用するにはまだコストが高いとおもうけど。」

 

 ベゥガは驚いてこちらを見ているが素材の必要量を聞くとなんとも言えない顔をする。

 

「まあ麻畑を三十も作れば気にならなくなるよ。」

 

 僕は仕返しと言わんばかりに笑い飛ばした。

 

 僕達選定者の交流はそれなりに上手くいった。ベゥガからはベゥガの世界の話、ゴブリン達の性質や労働、戦力としての使い勝手、この周辺の地形や情報を聞く。僕は選定者施設の解説や利用の仕方と応用、数値として見える世界のシステムについて解説したり、素材を提供したりする。この世界のゴブリンも人間と敵対しているのか村の住民は僕に難色を示していたが、後日持ってきた三百kgの肉の山を見て非戦闘員は手のひらを返した。腕力で敬意を持たれていた者達はさらに反発したが。

 

「気に入らないなら格の差だけ教えてやるよ。」

 

 僕は木刀を持って戦闘員達を煽った。ベゥガには事前に許可を得ている。僕の微妙な素振りを見てなんかやる気になっているやつもいるけどあちらの剣術も僕以下なのでその自信はどこからくるのかわからない。襲いかかってくる若いゴブリンを蹴り飛ばし。

 

「ははは、剣を使うなんて誰もいってないぞ。そんな腐った骨の槍なんて捨ててかかってこいよ。」

 

 僕は笑いながら木刀を踏み出してきたゴブリンに投げつけ挑発する。そこから一時間ほど大乱闘になった。殴る、蹴る、躱す、投げる。僕は体術だけでゴブリン達をあしらい、稀に組み伏せられては痛い思いをし、自分もゴブリンも治療しつつ喧嘩した。終盤には訓練じみてきたのもご愛嬌である。萌黄には事前にこうなることを説明していたので、序盤はハラハラっぽかったが終始元気よく応援に努めていた。そんなかんだで村の連中とは少なくとも上辺だけは和解した。気前のいい愉快な来客としての地位を確立できたのである。

 

 四日ほどしてミーバの生産が安定し最後の施設である教会の建築が完了した。僕の教会と違ってなんとも言えないおどろおどろしい呪術的な建物に見える。

 

「まあ種族によって宗教観が違うのは仕方がないよね。」

 

 僕はその教会の姿に引いてしまう。ベゥガにとっては相談役の呪術師の家かとか思ったくらいで比較的馴染みのある施設だったようだ。

 

「教会ではミーバの進化がメインかな。あとちょっとした質問を神様にできるよ。よく連れているミーバがいたら試してみるといい。好感度って概念が理解できるかわからないけど、ある程度の期間懇意にしてないとこうなってくれないからね。」

 

 僕は萌黄の頭を撫でながら言う。ベゥガはミーバがそれになるのかと驚いている。

 

「すごく強くなるし随分助けられてるよ。あと絶対に裏切らないという点は大事かな・・・」

 

 僕はちらっとゴブリンを見てつぶやく。ベゥガも周りを見てそうならないように願いたいなと言って教会に入っていった。しばらくしてベゥガは小さなコボルトを連れて戻ってきた。その姿を見て僕は取り敢えず拍手を送っておいた。

 

「紅朱B型ツェルナです。今後ともよろしくお願い致します。」

 

 ツェルナは僕に挨拶してくる。僕と萌黄も挨拶を返す。僕はツェルナをじっと見る。扱い的には敵対なので詳細まで見ることはできないが。

 

 ツェルナ HP125/125

 

 鍛錬所が機能していなければこんなものだよね、と朱鷺の頃を思い出して納得する。ツェルナが気持ち身構えるがごめんなと軽く謝っておく。

 

「あとは拠点を更新して完了かな。最下級脱出おめでとー。」

 

 僕らはパチパチと拍手しておく。ベゥガもなんとも言えない顔をして照れている。

 

「自分だけならもっとかかっていただろう。お前の助力に感謝する。」

 

 ベゥガは新たまって礼を言う。

 

「まだまだ先は長いよ。待機所の椅子から立ち上がったくらいさ。」

 

 僕がそういうとベゥガは苦笑いして厳しいなとつぶやく。

 

「また施設と作業が増えるからね。ツェルナにいろいろ指示して動いてもらわないと手が足りなくなるよ。」

 

 資源と鍛錬所、軍事研究や兵種の強化などかいつまんで説明すると、ベゥガはため息をついて本当にまだまだなんだなとがっくりしている。

 

「しかしお前はよくこんなに早く世界の謎に気がつけたものだな。」

 

 ベゥガは感心するように言う。

 

「まあ似たような体験があったというか、ちょっと説明しづらいけど。だてに初日にワンキルされてないぜっ。」

 

 僕は自虐をかっこよく語っておく。

 

「弱いと一度神様の所に戻るでしょ。その時いろいろ聞けるから情報面では弱者のほうが強いと思うよ。」

 

「俺にはそういう考えは無かったよ。でもまぁ面倒くさそうにミーバとか施設の話はしてくれたな。」

 

「たぶんそういう手順(マニュアル)になってるんだ。盤面って言ってるくらいだからあいつらもゲーム感覚なんだよ。」

 

 ひとしきり愚痴ったり騒いだりしてその夜は戻る。帰り際にぴくっと萌黄が反応する。

 

「なんかいる?」

 

「んー・・・ちょっと変な感じがした。」

 

 僕は周りを見回すが夜目が聞くわけでもないので何も見えないし気配も感じない。捜索も伸ばしたほうがいいかなぁ。萌黄もキョロキョロしているが特になにか見つけられたわけでもなく違和感だけを残して仮拠点に戻ることになった。

 

 翌日もベゥガを訪れて運営指導をしながら村人とも交流を図る。村人に何か悪意が紛れているようで萌黄が時折反応を見せている。根底で信用されないのは仕方がないけど一部からまだ嫌われているのはどうしたものかな。前のように直接干渉があればやりようがあるのに隠れて伺っているだけだと対応に困る。

 

「ミーバは随分簡単に増えるものだな。」

 

 周りを警戒しながら視察しているとベゥガが足元のミーバをあやしながらつぶやく。

 

「厳密には生命体・・・ではないらしいからね。細かいことは知らないけどたぶんゴーレムっていって分かるかわからないけど人造機構と生命体の間の子みたいなやつだと思ってる。」

 

 ベゥガはゴーレムには理解があるようだがイマイチ納得できない感じはあるようだ。ツェルナのほうをちらちら見ている。

 

「その辺りは僕も思うところはあるけど、ここにいる間は解決しないかな。神様に聞いてみないとね。」

 

 僕は空を見ながら言う。

 

「ひどい言い方ではあるけど文句も言わない、疲れない、寝ない、労働力としては申し分ないよ。」

 

 僕の言い分にベゥガは確かにと苦笑いで答える。その日またベゥガの世界の話を聞き、炭素鋼をサンプルとして提供して拠点を出る。やはりちらほら監視されてるのか萌黄が面倒くさそうに反応している。一度菫を呼んで調査したほうがいいかもな。仮拠点周辺の開発も雑に行っているが資源だけ増えて少し悩ましいところはある。本拠点に運ぶかこっちでも研究、開発するか考えとかないとな。

 

-拠点間の規定開発値を満たしました。領旗塔が追加されました。-

 

 今までも倉庫などの建物の領域を使うことで離れた場所から物が取り出せたりしていたのだが、領旗塔はそれを大きく拡大するものだ。塔自体は頑丈な物見櫓といった機能しかないが建物間の領域主張範囲が半径1kmと非常に広い。ただし建築条件もそれなりに厳しく領域範囲内の九割を実質支配していることが必要になる。また建築時に範囲内で一定規模の戦闘が行われている場合建築ができない。支配の概念が曖昧ではあるが莫大な範囲を領地として扱い、資源共有を始めとする便利な機能が使えるのは大きい。本拠点と仮拠点の間にいくつか立てれば資源保有の問題も一気に解決するのだが、さすがにこの場で建てるのは無理だった。森ゴブリンの集落のようなものがいくつかあることを考えると森を経由して建てるのもなかなか難しそうだ。一考の余地はありそうだと思いながら寝室を出ると萌黄と菫が控えている。

 

「報告をしてもよいのですが先にご飯にしますか?」

 

 菫がぐいぐいくるのでとりあえずご飯にしておいて厨房へ行かせる。萌黄がなにか不満そうなので撫でておくがしばらく不機嫌は治らなかった。朝食をとった後菫の話を聞く。既存のミーバの兵化が完了し、安定したラインが完成したのでこちらに来たのだという。桔梗は本拠点管理のために残してきたとのこと。森ゴブリンに本拠点の端を見られたことも併せて報告される。千近いミーバの武装が完了したなら森ゴブリンはさほど脅威でもないので今更感があるので放置することにする。菫にベゥガの拠点周辺で感じている違和感を説明した上で領旗塔の機能のこともあるので既知の森ゴブリンの集落を迂回しつつ領旗塔を繋げられるように森の中の調査をお願いする。森の中の別勢力の確認とそれらがこちらに干渉していないかの確認である。菫が名残惜しそうにこちらを見ているのでひとしきり撫で回してから送ってやる。萌黄の機嫌がいくらか回復したのを見てベゥガの拠点へ向かう。

 

「萌黄は菫が嫌いか?」

 

 菫の動きで一喜一憂しているようにみえる萌黄に聞いてみる。

 

「んー、嫌いってのはないんだけど。菫って基本ご主人さまにべったりじゃない?わたしだってべたべたしたいのに自分がいるときは許さないってひどいと思わない?」

 

 萌黄はぷんすかし始める。部下に愛されてて嬉しいなぁと思ってればそれまでかもしれないが、ものすごくどうでもいい争いを目の当たりにしたのだった。それは大変だなと萌黄の頭を撫でながらその場はごまかしておくことにした。周りに被害が及ばない程度に仲良くやってほしいものだ。

 

 ベゥガの拠点はいつも通り。下級拠点からの建築は完了しておりミーバの強化も始まっている。もう数日でゴブリン達の仕事もなくなり保護対象として自由気ままに過ごすことになるだろう。

 

「もう来てたのか。」

 

 ベゥガが見回りに来ていたのか挨拶してくる。

 

「もう僕が来ても誰も気にしないな。」

 

 僕は笑いながら声をかけるが実際には謎の気配を感じる機会は減りこそすれ無くなってはいない。

 

「あそこでご飯の兄ちゃんが来たって子供が騒いでんじゃねぇか。」

 

 ベゥガが軽く指を引っ掛けるようにして手を降っている小さなゴブリンを指す。僕は笑ってそれに答えておく。ベゥガと拠点に入りテーブルで一息つく。

 

「最後・・・てわけでもないんだけど、形の上ではこれが最後の大きな支援になると思う。」

 

 僕は神妙に切り出した。ベゥガが少し構えて聞く。

 

「別にもう助けないって意味じゃない。最後の条件を教えて贈り物をしたらそれからは対等として扱う。今までのようにこっちの気分で報酬を調整したりもしない。逆に過剰に与えたりもしない。」

 

 ベゥガは軽く笑う。

 

「まだかなわないにしろやっとそこまでは来れたってことだな。」

 

「僕としてはそう思ったと言うこと。これからも頑張ってほしい。」

 

 僕とベゥガは平手をぶつけ合って気持ちい音を鳴らす。

 

「まずこの状態でしばらくすると特に大きな転機もなくただ緩やかに成長していくだけになる。外からの大きな技術が入ってこない限りね。かと言って上に上がってもすぐにどうにかなるわけでもないんだけど。その辺りは僕も探しているところだからね。僕が最後に満たした下級から中級への条件は現地生物を二千五百討伐っていう項目だった。それ以外に何かあるかもしれないけど、少なくとも現状の拠点の中だけで解決できることだよ。ただもしかしたらゴブリンが倒した分はカウントされてないかもしれない。そのくらいかな。」

 

 ベゥガは何か考えているようだったが取り敢えずは納得したようだ。

 

「後はこの世界においてはそこそこの価値のある流星鉄。君の世界で聞いたことがあると言っていた六元鉱と黒鉄猪の革。最後に僕が行った都市で見かけた魔導銃の設計図。これらを使ってぜひ対等と呼べるまでにのし上がってほしい。」

 

 僕がテーブルに並べたものを見てベゥガは黙って頭を下げた。僕はそれを感慨深い思いで見ていた。ベゥガはツェルナにそれらを倉庫に片付けるように指示して改めて僕に礼を言った。

 

「そこまであらたまれると僕としても戸惑うのだけど、これからは普通に友達、ご近所さんとして頼むよ。」

 

「ここまで手助けしてもらっておいて、そういう関係なのも俺としては困惑するけどな。」

 

 僕ら二人は苦笑いしながら気合を入れるためかもう一度手を叩きあった。

遊一郎としては初心者脱却まで支援したつもりだけど、選定者立場としてはちょっとやりすぎなところも。彼の基準が平均から大きく逸脱してるせいも大きいですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり男同士のこういう友情?的なのいいよね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ