僕、「挨拶」する。
以前のように周辺警戒、討伐を大幅縮小し資源集めに集中すること一週間。銃兵五十、軽装兵二十、急襲斥候兵二十、魔術師三十、医療術師二十、戦術師二十、軽装騎兵二十、長弓兵二十の二百体のミーバ軍を揃える。日々ミーバだけ増えてしまっているので自分の装備は自分で掘れ、みたいな状態になっている。畑が少し過剰に見える。
「まあ・・・この辺はしょうがないか。」
結局進軍のためにも兵士は増やす必要がある。途中菫に変化を確認しに行ってもらったが想定通り大きな人数変化はない模様。
「正直あの規模なら僕らだけでもいいんだけど。」
やはり見た目は重要という菫と桔梗の意見を聞いて、道中対処がしやすい銃兵二十と斥候兵二十、魔術師二十を連れて行くことにする。たが装備はともかくミーバが小さめ、菫達も幼女と相まって威圧感はほぼない。選定者以外には効果が無さそうだが、今回顔を見に行くのは選定者なのである程度効果はあると思いたい。森の獲物を特定の地域から森ゴブリンの集落方面に追いやったことで森には一部空白地帯のようなものが存在する。森ゴブリンの脅威になるようなレベルのものは駆除しているようなので集落に被害は出ていないと思うが、森の生き物の動きの変化により森ゴブリンの集落は対処に追われておりあまり集落から離れて採集することは減っている模様。もう大体隠す必要もなくなってきたので迷子の処断は取りやめさせた。幸いこちらに来たものはいないようだが。
「この森はどこまで続いてるんだろう。」
僕は木々を避けながらめんどくさそうに歩く。
「概ね把握しておられるのでは?」
偵察にいかせた軽装騎兵の地図のことを菫は指摘するが、騎兵には森に入らせていないので森の端まではまだ見えていないのだ。
「端から端がどのくらいかっていうのがわからないね。とりあえず植林の必要がなさそうなくらい大きいことはわかってるけど。思ったより危険生物も少ないし。」
初日のトラウマめいた襲撃のこともあって森からの攻撃はだいぶ警戒していたのだが森から何か出てくることはなかったし、菫の話によると凶暴な生物がそもそも多く無かったと言う。もう少し余裕が出てきたら斥候兵に森の中を調べさせたい。そうして菫とだべり、かまってほしい萌黄をからかい、時折桔梗の調子を伺う。結構な数で出てきているので進軍はそれなりに遅く森から抜ける頃には夕方になる。
「さて・・・ここで一泊かな。」
テントを建てて持ってきたお弁当を食べて周辺の敵性情報を調べる。見張りと調査はみんなに丸投げして僕は寝る。正直この行軍、僕の疲労と空腹が最大の足手まといになりかねないので休むことは正義なのだ、と自分に言い聞かせた。何もしていないことがなんとも申し訳ない気持ちになるのだ。
悶々としながらも結局寝入り翌朝を迎える。日が登り始める頃に目をこすりながらテントから出る。
「おはようございますご主人さま。動物以外の敵性侵入者はありませんでした。」
「わたしもがんばったよー。」
菫の報告にかぶらせるかのように萌黄も声をあげる。桔梗はその後ろに控えているだけだが色々やってくれたのであろうことは察する。僕は礼を言いながら皆を撫でてやって軽くご飯を食べる。その間にテントが撤去され行軍の準備が始まる。
「さて、ここからは見せつけながら一直線かね。あと一時間くらい?」
僕は差し出された手ぬぐいで手を拭きながら菫に尋ねる。
「はい。邪魔が入らなければそれよりは少し早く着く予定ですが、あちらの見回りの動きと見えてない警報関連次第かと。」
菫は頷いて答える。
「では皆予定通り頼む。気軽に行こう。」
ミ゛ャーと謎の気合の入ったミーバの掛け声と共に僕らはコボルトの拠点へと進む。僕の周りは菫と萌黄と桔梗。前面に斥候兵十五、左右に銃兵十ずつ、後方に斥候兵五と魔術師二十で方陣っぽい形で進む。森ではあまり気にならなかったが平地だと移動力差が如実になりB型銃兵はだいぶ足が遅いことが分かる。そもそもB型が他に比べると遅すぎるのだが移動手段は考えておいたほうがいいかもと今後の参考にする。四十分ほどして相手拠点に近づいてくると狼五匹組が視界に入る。僕が見えたぐらいだからすでに菫達は見えているのだろうけど。
「狼か・・・撃ち落としておく?」
「襲いかかられてからでもさほど問題無いかとおもっていましたが、気になるならそうしておきますか。」
僕からするとまだ面倒と思えてしまう動物だが、菫にしたら羽虫程度の存在のようだ。僕は左翼の銃兵に指示を出して斉射させる。狼側が気がついていなかったせいか防御行動もなく着弾し絶命した。素材的に大した価値もなく食料に不安もないので回収もしない。しばらく進むと菫が周囲をきょろきょろし始める。僕が何かあるのかと菫を見る。
「どうも先程の狼も含めて飼いならされているようですね。不自然に等間隔に狼五匹の集団がいくつか動いているように見えます。」
菫が報告する。おそらくコボルトの私兵であろうということらしい。もう数分進むと独特の遠吠えが聞こえ、それに答えるかのように至る所で遠吠えが連鎖していく。なるほど、これは不自然だ。
「先程狙撃した狼が見つかったのでしょうね。それの連絡ということでしょうか。周辺の狼の動きが早くなりました。」
何かに侵入されたことはバレたわけだ。
「あとどのくらいでつく?」
「襲撃がなければあと五分と少々といったところでしょうか。とはいえ異常のあった方向は分かっているでしょうから必ず何かと出会うでしょう。」
僕の確認に菫が答える。進路上でないところで倒していたらフェイクに出来ていたかもしれないが、僕らはそのまま真っすぐ来ているので敵の姿が確認できていなからろうと拠点からその方角に何かが出撃してくれば嫌でも鉢合うということである。このように。
「全体構えて待機。指示あるまで反撃以外は無しだ。」
僕は声を出してミーバ達を止め、目の前を爆走してくる世紀末的集団を見る。狼に乗ったゴブリン、ミーバが十少々。歪な棒のような槍を持って走ってくる。その後ろに騎兵ミーバが数体見え隠れする。やっぱり敵ミーバもカニなんだなと見て少し安心する。その後ろまでは見るのが大変だがミーバの弓兵っぽいものも確認できる。全部で二十くらいか。先頭集団が僕らを見つけ速度を落とし狼は遠吠えをあげる。狼も集まってくるのか、五十くらいいるのだろうか。ただ正直なところ動物は戦力外であるので百になろうが千になろうがだいたい問題ない。相手集団は止まり、周囲に狼が集まり始める。数秒ににらみ合いが続いて相手集団から狼に騎乗したゴブリンが進み出て大声をあげる。
「おまえら何者だ。ここらは我が主の領地だ。おとなしく帰れ。」
ぎゃるぎゃるうるさいが先日学んだ鬼語で声をかけてくる。
「襲撃の意図は無い。貴方たちの主に会いたい。こちらの兵と同じ選定者と言ってもらえれば分かる。」
とりあえず分かるように鬼語で返したが、使い慣れていない言語とそもそも短文で断定になりやすい言葉で意図が伝わったか少し怪しい。あちらはあちらで人間が鬼語で返してきたことに戸惑っているようだ。菫と桔梗は行為を見守っているが、萌黄はきょろきょろして撃ち気満々なのが困る。
「信用できない。そのまま主をヤるつもりだろう。早く帰れ。」
相手はそう答えを返してくる。まあ普通はそうなるよね。僕はため息をついて萌黄を見る。萌黄が気がついて満面の笑みを浮かべている。僕はもう一度大きなため息をつく。
「ヘル百五十で二射。一、二発だけ実傷させて全員生き残らせろ。」
僕は諦めがちに萌黄に指示する。
「はいっ。」
萌黄は嬉しそうに返事をして飛び上がり、僕の肩を踏み台にして上空に飛び上がる。その行動に菫がむっとして萌黄を見上げる。桔梗もちょっとぷるぷるしている。敵兵も何事かと萌黄を見上げたがその時点でもう手遅れである。
「どーん。」
上昇終点で萌黄はショットガンを構えて一射。発砲音が響かないので自分で口ずさんでいるのだろう。そしてもう一射。三百の小さな暴力が敵軍に降り注ぐ。ばちばちばちと雹が地面を叩くような音共に相手から凄まじい叫び声が上がり、うめき声が漏れる。痛いよねぇ。しかも安全の為にヘル弾なので熱要素もきつい。痛いのに傷もないからなお混乱する。幻覚と思われても困るので若干だけ傷を与えさせてもらったがどう思ったかな。萌黄は僕らの前着地して元気よく戻ってくる。僕は踏み台にされたことを気にしなかったが、菫と桔梗には怒られている。萌黄は調子に乗るとどうしようもなさそうなので彼女らが釘を打ってくれるのは助かる。
「こちらの力はわかったか。お前達の抵抗は無駄だ。主にとりつげ。ここで待つ。」
相手の分かる言語でと思って言っているのだが直球な言語すぎてもはや脅迫でしかない。肉体の把握は動物のほうが割り切りが良いのか実傷部分をなめたりしているが比較的立ち直りが速い。ミーバは叫ぶだけで実はこの手の攻撃は効果がほぼ無い。あれらはゲームのようにHPが管理されていて倒れるまでは瀕死の重傷でも割と元気である。心を折るという手法は感情を積み上げた知的生物ほど有効であることが分かる。地面を転げ回っていたゴブリンがよろよろと立ち上がりこちらに顔を向けたあと逃げるように撤退していく。僕らも構えを解いて楽にさせる。菫のお小言はまだ続いている。周りの狼が困惑気味にこちらを見ているのが少し居心地が悪い。二十分ほどだらだらしたところで向こう側から数体の狼が走ってくるのが見える。僕がよく知るスマートな犬面のコボルトとゴブリンにしては屈強なものが狼に乗ってくる。一応精鋭という感じだが鎧がしょぼい時点でこの世界で戦うというラインにすら立っていない。コボルト達は五mほど離れたところで停止する。
「最初に出会う選定者がお前のような強者とはな。俺がここの主であるベゥガだ。」
立派な剣は帯剣しているが他の装備は周りよりはいいといった具合でしか無く、僕からみれば村から出たばかりの勇者というぐらいのレベルでしかない。
「僕は西にもう少し離れたところに住んでる紺野遊一郎だ。僕も初めての選定者の顔を見に来ただけで滅ぼそうとかそういう他意はなかったんだ。話を聞いてもらうためとはいえ危害を加えてしまったことについては許してほしい。」
僕は普通に喋って答える。ベゥガもこちらに分かる言葉で話しかけてきたからだ。たぶん選定者には選定者共通で伝わる言語が与えられているように思える。あとで色々確認してみたいが今は相手が乗ってくれるかどうかだ。
「許すも何も許すしか無い。我々にお前に対抗するすべはない。」
彼は両手を上げて首を降る。やっぱり鬼語ってゴミだよね。
「最初から君と話せていれば良かったんだけど、神様が敵対しているかどうかは一旦置いておいて君とは友達になりたくて来たんだ。」
ベゥガも菫も萌黄、桔梗も驚いた顔で僕を見る。そんなに変か?僕は対等に話せる相手が欲しいだけなのだが。話あって高め合い交流があるならそれって友達じゃないですかね。そりゃ多少の打算とかはあるけどさ。
「これはまいったな。死ぬつもりで来たらこういうことになるとは考えもしなかった。」
ベゥガは少し楽しそうだ。
「まあ信用してほしいってのは無理があると思うからそっちはおいおいと。僕は情報と検証相手が欲しい。君には僕が知るノウハウと技術を提供しよう。」
僕はベゥガに提案する。
「俺の知ってる情報がどれだけ価値があるか知らんが、それで助かるなら乗った。将来的にはどうかわからんがその話受けよう。」
ベゥガはそういって警戒している空気を解いた。
「そっちも信用してくれるかわからんがうちの拠点に招待しよう。」
ベゥガはそう言ってついてくるように促す。その拠点の位置、発展度だけでも随分な情報なんだけどね。まあそれについては知ってたけど。草原からまた森の側に来る頃に木の柵が見えてくる。作りがぼろいというか一定感がない。たぶん近場の木を使ってゴブリンが作ったものなのだろう。ミーバが作ると精密機械工作したのかっていうくらい同一パターンになるからな。入り口の通りすがりに触って軽く揺らしてみる。見た目の割に頑丈なのか思ったより揺れなかった。柵の中はいかにも村といった印象の光景だった。ゴブリンや狼がうろうろしており、子供をミーバが世話したりしている。現地民の労働力化がこんな感じなのかと思いながら眺める。楽しそうと思う反面、効率悪と蔑む思いもある。少し頭痛を感じながら案内してくれるベゥガに視線を移す。声をかけてくるゴブリン達に軽く挨拶しながら道を進む。彼にとってはこの生活が通常であり、平和の中でゲームに興じてきた僕とはまた違うのだと感じさせる。そして進んだ先にはぽっかりと空いた穴が見える。僕は菫をちらっと見るとうなずき返してくる。中は?と思考を巡らせると首を振って答える。罠だったら仕方なく食い破るかと案内されるまま進む。
「最初の拠点は目立ったせいか速い段階でやられてしまったね。新しい場所で空のアリの巣を見つけたので間借りさせてもらってるんだ。ちょっと狭くて悪いけどな。」
ミーバや菫達には何の問題もないが僕だと頭に天上が届いて少々具合が悪い。
「狭い所にぞろぞろ連れて行くのも何だから、うちのミーバを外に置いておいてもいいかな。」
僕はベゥガに伺う。ベゥガは少し悩んだがミーバを呼んで村に伝令を出すことにしたようだ。
「村のものには伝えておくからそうしておいてくれ。」
ベゥガも少し警戒気味ではあるがしょうがないといった風に言った。確かに目の届かない所に兵を置いて指示も出来ない内に全滅じゃあ具合が悪いか。彼的にはそうされても抵抗できないのでせめて村側からちょっかいを出して被害が出ることだけは避けたいのだろう。正直よほどのレベルのやつがいないと軽装兵一体ですら勝てないと思うが、それは胸にしまっておく。穴を進んでいくと開けた場所に出てそこに最下級拠点が見える。まいったね、予想以下の発展レベル過ぎてどこから突っ込もうか悩むくらいだ。ゲーム初心者にレクチャーするつもりぐらいでいこう。ベゥガに拠点の中に案内され自然豊かな家具に囲まれた丸太の椅子に座る。自然が生かされてますね。
「なにか食べるかい?」
ベゥガが聞いてくる。
「敵対、という思いはまったくないんだけど、種族が違ってどんな好みの差があるかわからないから悪いけど遠慮するよ。僕はこの世界より無駄に潔癖なところから来てるからあまりおなかが頑丈じゃないんだ。」
僕はおどけたふりをしながら相手の好意を無駄にしないように断った。
「んじゃ、しょうがねぇな。確かに人間の料理は噛みごたえが無くて食った気がしないものな。」
理解があるようで何より。
「どうだい?うちの村を見て。それなりに見回してたからなんとなくは感じてるんだろ?」
ベゥガは自嘲気味に聞いてくる。僕は少し悩んで答える。
「正直な所を言うと、何やってんの?てくらいには思うかな。ベゥガがどんな世界から来たかは知らないけど、この世界で戦うには厳しいというか歯牙にもかからないどころか、掃除で舞うホコリくらいレベルだよ。」
僕はこれから話すことの為に評価をどん底まで落としておくことにした。あまりの評価にベゥガが目に見えて落ち込む。
「ベゥガからみて僕とは戦えるレベルでないと判断したと思うけど、僕のレベルでも都市相手に戦ってボロ負けして逃げてきたところだよ。」
ベゥガが顔上げてなんとも言えない絶望感を出している。
「この世界のゴブリンがどういう扱いを受けているかしらないけど、見つかったら騎士数名で滅ぼされるレベルと思っていい。ちなみに時間とか見逃しとか考えなければ一人でもいい。この世界はそういうところだよ。」
僕はそう言っておもむろに取り出した水袋からお茶を飲む。ベゥガは頭を抱えて悩み始める。
「神から期待されてないと思ったらそんなところなのか。そりゃあんな顔もされるわけだ・・・」
ベゥガのつぶやきに僕はちょっとだけ反応する。
「僕は人の神様だったけどそっちはどんな神様だったの?」
僕は淀んだ空気を払うのに何気に聞いてみる。
「大きなオーガという感じで赤い鬼の神様だったよ。」
僕はふーんと言いながら考える。神様は違うので敵対であることは間違いない。ただ神様に期待もされてないということは残り二体がえらく強いか自信があるってことかな。
「期待されてないのはお互い様だけど、僕は僕なりにそこそこ発展していると思っている。最初出会った時も言ったけど僕は僕らしか知り得ない情報が欲しい。その対価に君を強くしてあげよう。少なくとも世界の隅で生きていけるくらいにはね。」
僕の言葉にベゥガは期待するかのように顔をさっとあげる。菫達も訝しげな顔で僕を見ている。
「そうすりゃ次に神様の顔見るときにはその顔を替えてやれるはずさ。」
僕はいたずらっぽく笑いかけながらベゥガに語りかける。なんか怪しい宗教家か詐欺師の気分がしてくるが、選定者相手の情報も欲しいので協力者はほしい。
「わ、わかった。苦境に伸びてくる手には災いがあるというが今はその手にすがってでもここを守りたい。」
見返したいというよりは守りたいか。ベゥガの言葉を僕は噛み締めながら朱鷺のことを思う。少し心が暗くなったところで一旦その気持を押さえつける。
「そのためにもこの世界の基本をまず理解してもらいたいのと・・・まずは建てられる施設を全部建ててもらおうかね。」
どうしてそうなったのかよくわからない顔をするベゥガに僕はこの世界のルールとは別の軸で動いている選定者のルールを順番に丁寧に説明していく。金属がネックになると思っていたがこの蟻の巣の奥のほうに鉱床があり他の同居人に配慮する必要はあるが比較的自由に採取できるようだ。ただそういったものを狙わなくても地面を掘り進めるだけで石と金属は場所によらず採取できることも教えておく。そもそも生産を他の種族に頼るのではなくミーバで力押しで済ませたほうが良いということも合わせて彼の村の改善案を出していく。そうこうしているうちに外が暗くなってしまっている。
「思ったより話が弾んだな。僕らは一旦外に出るよ。」
僕はここを出て外で寝ようとする。
「ここで寝ていけばいいだろうに。」
ベゥガは親切で言ってくれているのが分かる。
「君を信用はしても君の周りも僕の周りも信用はしてはいないと思う。急に来た僕を歓待すれば君の立場も悪くなるだろうし、僕の周りも落ち着いてくれないからね。」
もっともらしい理由をつけて拠点の中にいることをやんわり拒否する。ベゥガは残念そうだ。どうも信用されすぎている気がする。
「まあしばらく近所にいるからまた明日来るよ。」
そう言って僕はベゥガと村人に見送られて拠点を去る。ぼちぼち夜道を歩きながら手頃な空間を探す。
「よろしかったのですか?最終的に敵に回る者だと思いますが。」
菫が怪訝そうな顔で尋ねてくる。あそこにいるときは僕は終始楽しかったので菫も僕の意図を読みきれなかったのだろう。
「親切半分・・と少し。最初にも言ったけど選定者同士でしか試せないことを事前に試しておきたかった事。この世界と僕ら選定者は少し違うルールで生きてるからね。後は追手に対する保険・・・と最後の保険かな。」
菫は納得し難いようで少し悩んでいる。
「もー難しいこと考えなくてもご主人さまを信じとけばおっけーだよ。」
萌黄は考えるのをやめている。盲信は結構だけど萌黄はもう少し考えような。
「あの者たちを形にしてミルグレイス市に斬り込むおつもりですか?」
桔梗が静かに尋ねる。桔梗はそもそもベゥガ達を毛嫌いしているように見える。
「それは最後の保険かな。ベゥガがあそこと戦えるようになるのは半年じゃきかないでしょう。」
僕はそう皆に告げる。
「同情かもね。よくわからない世界に連れてこられて右往左往しているヤツがなんか見捨てられないんだよ。」
僕はそうごまかして森の側の空き地に最下級拠点を建てる指示をする。追加で木柵を建てて頑強倉庫を木、布、石、金属、食料と建てる。菫達はよくやってくれているし特に不満はない。ただ一人でこういうゲームを続けているとふと虚しくなって手がつかなくなることがある。こう同じ立場のヤツと自慢しあったり、議論したり、切磋琢磨できる相手が欲しかったのだ。今は一方的に与える関係ではあるだろうけど、近い未来にそうであれるように。助けてくれる皆には悪いけど、やっぱり僕は友達が欲しかったのだ。僕の表層の軽い高揚感を読み取って菫は難しい顔をしているが、そう深く考えないで欲しい。君たちに出来ないことを彼にお願いするだけなのだから。
敵も討ちたいけど同じ立場の選定者を見つけてちょっと一息。




