僕、物語る。
俺の見間違いであると思い周囲を見回すが、そんな驚きもしくは喜びを出している者はいない。
【昇神する:全報酬点】
俺は要望したつもりも無いしそうするつもりもなかった。目線を上げて一応顔を見知っているザガンに視線を送る。
『どうした?』
視線を受けてザガンは俺に向かって念話を飛ばしてくる。一応配慮してくれているということだろうか。どうもこうもこの項目はなんだ。
『それが出た、ということは少なからずお前を神にしたいという思惑がある者がいるということだな。詳しいことは担当神に聞いて欲しい所だが・・・直にそろうだろう。しばし悩め。』
ザガンからの返事は知りたいことを概ね知れたがそもそも神になる気はない。その前に報酬点使い切るつもりでいこうと実行予定の項目をピックアップする。
「遊一郎さんは・・・その・・どうするつもりなんですか?」
神谷さんが近寄ってきて尋ねてくる。
「どう?と言われても返答に困るけど・・・」
リストに集中していたところに声をかけられたので少し動揺してしまった。
「その体の今後です。」
「あー・・・そっちか。」
神谷さんの質問に納得して少し考える。元々の予定は盤面の舞台に戻る予定だった。しかしこんな選択肢をだされて戻ってもいいものか少し悩んでしまった。しかし、元の世界に戻るつもりも無い。せっかく意思を持った二人目となったのに元の世界に記憶を移して統合というのも面白みが無いし、離れて暮らす手もあるが二人になってしまうのも何か違うと思ってしまう。
「盤面世界に戻る予定ではあった。」
「あった?」
神谷さんは回答を得たが、過去形になっていたのが気になったのだろう。
「他人のリストは・・・見られるのかな?」
俺は自分のリストを傾けて視線の中に入れたつもりだが神谷さんには見えていないようだ。俺の視界にも神谷さん含め、他の人達のリストらしいものは見えていない。見せる意思があればいけるかと思ったがそうでもないようだ。ため息をついて理由を話そうとすると、その声が続いて出てこない。俺が妙な動作をしたことで神谷さんが首をかしげる。
「ごめん、どうも他人に話してはいけない内容のようだ。あー・・んー・・・」
俺は神谷さんに弁明し、どの辺までぼかせば通じるか少し試す。
「直接表現は無理だし、多少の婉曲でも無理だね。とある事情でそのまま世界に行ってもいいか悩んでるところ。」
「そうなんですか。」
俺の答えにならない答えに神谷さんが少し気持ちを落とす。
「ついてくるつもりでいたの?」
盤面も終わり突き放す理由も無く直接的に聞く。神谷さんは顔を赤くして頷く。んー、何が気に入られたのか。
「行くときは全員復帰させるつもりだし、期待するような事になるのは難しいと思うよ?俺もそこまで好意が高いわけじゃ無いし。」
神谷さんにはっきりと告げる。長い間戦闘的な協力関係にあったせいで恋人とかいうより戦友とか協力者の側面が強い。嫌いでも無いし好感はあるが、恋愛とはまた違う。
「それでもっ・・・一緒にいれば、時間さえあれば・・・と思っちゃって・・・」
勢いで声を荒げた神谷さんだが、あまりすぎたのか尻すぼみに落ち込んでいく。
「まぁ突き放すつもりもないから・・・皆の視線に耐えられるなら・・・としか。」
俺は進化体に特別恋心などないが思い入れは強い。盤面世界で何かするにしても勝手知ったる彼女らの力は何をするにも都合が良い。最初の刷り込み的な所があるのか恋愛感情に近いのは朱鷺への想いかもしれないが。
「うう・・・がんばります。」
それでも神谷さんは折れなかった。神谷さんも進化体を連れてくるのだろうか。大所帯で騒がしくなりそうだ。話が一端終わりピックアップ作業に戻る。神谷さんも側でリストを眺めているようだ。
「おう。」
微妙な顔をして声をかけてきたのはグラージだ。
「してやられたな。」
「それは俺も思ってたよ。」
グラージは拳を軽く俺の肩に当ててくる。喧嘩も抑制されるような話だったがこういうのは止まらないようだ。さすが超次元の技術は違う。
「勝ちゃあトップだと思ってたんだけどな。まさかそんな保険をかけてるたぁ考えてなかったぜ。」
遺恨があるように感じていたが、戦闘自体には勝利したせいかグラージの声に悪意や妬みはなかった。
「たぶん運営側も可能性はあっても考慮してなかった・・・というか潰し合って勝者になるように誘導されている節はあったしな。」
俺は考えていた事を話す。グラージは疑問の感情を顔に出す。
「俺は元々体を使って好戦的になんかするような性格でもなかった。典型的なネット弁慶だよ。そこの神谷さんだって敵を倒してどうこうする性格じゃ無かったはずだ。元の世界からそのまま複製したような話だったけど、多少はゲームになるように調整されてたと思うよ。お前のほうはそのままかもしれんが。」
俺は軽く息を吐く。グラージはそんなもんかと何かを考えている。
「俺も元世界よりかなり荒れたかもしれんな。気分が高揚しやすかったかもしれん。」
グラージはありそうでなさそうでと自らの過去と比較しながらどうだろうと悩んでいた。
「まぁ、終わった事だ。というか最後のアレはなんだよ。」
話の流れを変えて検証する暇も与えられなかった止めの一撃について質問する。
「あー、あれか。弓聖にやられた剣聖達の苦心の策・・・だな。あの防御がきかねぇ矢を呪詛返しの応用ではじき返すとかそういうやつだ。」
グラージは歴代の秘策をあっさりと口にする。
「あの矢が呪いの一端ってのは理解されてるのか。ていうか動作がいるならもう一個の方でやったら勝ててたんじゃん。」
当てやすい必殺ではなく、行動不能な無情なら勝ててたってことだ。
「あ?それは聞き捨てならん話だな。」
グラージが軽く怒気を強めながら圧を掛けてくる。行動を制限されないと言うことは悪乗りの域を出ていないということだ。
「複合技のもう一つに一方的に当てられるのがあるんだよ。まぁ最後のシチュエーションだとちょっと厳しかったが。」
基礎である静寂の防御行動不能効果は視線を合わせることが大前提である為、光で何も見えないとかいう環境では機能しない。無情はお互いを行動不能にし一方的に攻撃行動を成立させる一対一で成立すればほぼ必勝となる。準備に時間がかかるとか、自分も動けないので別の仕込みがあるとやられるとか、そもそも他人の援護があると対応出来ないとか欠点も多いが。
「歴代の対策も完璧ではないということか。タネはなんだ。」
「それはそっちで考えろよ。」
「俺はネタを明かしたのに、お前は出さないってどういうことだ。」
「種明かしはお前の勝手だろ?俺もきっかけ自体は話しただろ。後任の苦労をいちいち増やす気は無いっ。」
グラージが詰め寄るが、俺はそれを躱す。
「楽しそうですね・・・」
側にいた神谷さんがぼそっと暗い声でつぶやいた。その底冷えした声に俺達はピタッと動きを止める。今にも呪詛を吹き出しそうなその視線に俺達は騒ぐのを辞めた。
「再戦してもいいが分は悪そうだな。どの道俺は元の世界に戻るつもりだ。もう会うこともあるまい。」
グラージは居住まいを正して口を開く。
「そうなのか。まぁ頑張ってくれよ。」
「この力をあっちに持ち込めるならそうそう負けることはねぇよ。」
「そうかね。この世界は良くも悪くも肉体的には守られた世界だからな。こっちの感覚のままいくと即死しかねんぞ?」
「む・・・」
グラージは勢いで行くところだったのだろうが、防御が無くなるまで傷を負わないとか、確実な軽減があるとか、結構耐久気味な世界だからな。グラージは気をつけようと言ってその場を離れた。
「グラージはなんと?」
グラージと入れ替わりで来たのはベゥガだ。
「最後の戦いの反省と今後の予定の表明かな。悪くない話だったよ。」
ベゥガはそうですかとちらりとグラージを見て声にだす。
「もう少し追いすがれると思ったんですがね。届きませんでした。」
ベゥガも最後の反省をすべくやってきたようだ。
「監視の子に索敵を優先させて、見つけたら全員で来るべきだったな。そうすれば目はあったと思うが。」
俺はやられて嫌だったであろうことを指摘する。
「ニュイを止めきれなかったのが・・・やはり戻すか、最初から集合しておくべきでしたか。」
「うちも蘇芳って話聞かないヤツがいたしな。それはしょうがない。俺も分散してるうちに撃破するつもりで動いたし。」
「なるほど。」
その後ベゥガと仮定を話し、離れていく。
「どうしたらいいかわからん。」
「それは自分で考えてくれよ。」
同軍であったはずだが交わりがほとんど無かったシェリスが頭を掻きながらやってくる。
「やりたいことやろうとすると点数が足りないし、それを外すと何をするべきかと余る。」
「何をしたいんだよ・・・」
シェリスは故郷に戻って滅びの予言を止めたいようだ。それは大変だと詳細を聞くと予言の内容は曖昧だし、そもそもあと最低三千年先の話とかいう事で危機感も薄い。
「そもそも死を暗示する言葉が使われてるから滅びってのも安直だよな。」
「しかしそれを漫然と見守るもどうかという話なのだよ。」
エルフ視点からしても遠目の話だが、一族としては重要な課題ではあるようだ。
「ずるい話になると思うのですが・・・」
横で聞いていた神谷さんが口を開く。俺達の視線を集めて神谷さんがちょっとたじろぐ。
「その予言の内容を神に精査してもらうというのはどうなんでしょう。その方が確実に対策できますし・・・」
「「それだ。」」
内容が確定していると思ってどうすればいいかと対策を悩むより、何が起こるか知ってからの方がいいに決まっている。
「予言の内容を知るって事で良いのかな?おー、あるある。」
シェリスは喜びに満ちた声を上げる。
「俺から支援するとなると物品関係は簡単だと思うけど、自分や元世界に関わる事はそっちのポイントでやってくれ。」
俺はそう声をかける。シェリスは聞いているのか聞いていないのかうんうんと頷いているがしばらくすると気落ちしてうなだれる。
「んー・・・そもそもあの文書が預言書というよりエルフの研究者が残した予測のような物らしい。」
うなだれたシェリスから言葉が紡がれる。というか知識系の報酬も現段階で受け取れるんだな。
「エルフに受け入れられるように詩的表現にしたせいで詳細は語れず、曖昧で幅広い意味を持たされているらしい。」
「つまり?」
俺は話を促すがオチは見えた。
「そのままエルフらしく生きてしまえば出生率と子孫の能力不足で確率的に滅びを迎えるという話らしい。」
典型的な閉鎖環境における問題点が露呈するだけだった。
「遺伝子異常の問題でしょうかね。」
「だろうね。」
現代医学の観点から神谷さんと俺が頷く。シェリスが顔を上げる。
「そっちでどう思われているかわからんけど、近親で婚姻が進むと子供に異常が現れやすくなるって言う話だよ。その研究者もそういう概念があることは知ってたんじゃないのかな?人間はサイクルが短いからもっと早い段階で異常が見えてくるんだろうし。」
人間もエルフも近親婚の異常が出るのは同じくらいのタイミングかもしれない。だが寿命も長い出生率も低い、そして時間感覚が長すぎるエルフ達がその異常に気がつくのは千年単位でも足りないのかも知れない。
「気がついたときにはもう手遅れの可能性もあるな。もしかしたら出生率が低いことすら異常の可能性もあるし。」
閉鎖環境で危機感が薄いというのも一つの要因かも知れない。シェリスの不安は収まらない。
「より広く交流を持つか・・・遠いエルフ集落と協力するとか・・・血統主義を捨てるとかですかね。」
神谷さんも解決策を考える。
「その辺も報酬点で確認しちゃえばいいんじゃないかな?問題はそれをどうやって広めるかだけど。問題を聞く前に話の重要度で点数が違うなら、点数差で見分ける邪道もありかな。」
分らなければそれも報酬として貰えば良い。最悪広める力さえも報酬に頼っても良いのだ。裏道を示唆するとシェリスのリストとのにらめっこが始まった。前向きに頑張って欲しい。ザガンのいう直にという時間が過ぎたのか舞台の中央に盤面の主役であった神達が現れる。あるものは平伏し祈り、それぞれ神への敬意を示す。ただその神に殴りかかった俺はそうする意義もなく、そして見知った神もいない。ただ神威をうけてか神谷さんは膝を折って祈りを捧げている。各神が自分の陣営へのねぎらいを始めた事から人型の知らない神がこちらに歩んでくる。ちょうど良く陣営で固まってるしな。
「神谷桐枝はいつぞやぶりであるな。シェリスは他神の管轄ゆえ関わりがないが最終管理だけは儂がすることになった故、短い間ではあるが頼るが良い。して紺野遊一郎には少し話があるな。」
穏やかながらも強い神気を放つ老神は言葉を紡ぐ。神谷さんは萎縮して顔を上げないまま、シェリスも直視する意思はないようだ。俺はあまり気にならないのだが。
「なる気は無いぞ・・・」
先ほど神谷さんに説明できなかったことから、この発言すらアウトかと思ったが声の小ささか神を前にしているからか制限されることはなかった。
「そこも含めて説明の必要があると思ってな。少しばかり話を聞いて貰おう。」
老神が座るような仕草を取ればそこに柔らかそうなソファーが現れそのまま座り込む。チェイスの時と同じかと思い俺もそれに習って椅子を出し、テーブルを出し、お茶とポテチを取り出す。
「ほっほっほ、要領が良いな。どれ。」
老神は笑いながらポテチを一枚呼び寄せ指でつまんで食す。俺もポテチを一口、お茶を一口つける。
「お主の働きもあって巨星が落ちた。」
老神は口を開く。
「チェイスは死んだ・・?」
その表現に俺はチェイスの死を意識する。
「肉体的には活動可能だが、精神が失われておる。人としては生きておる・・・と言えなくも無い。」
「神として死んだ、というやつか。」
「そこは知らされておるのだな。」
老神と俺は目線を合わせる。
「公の記録ではお主との戦闘後いくらかの転移の後精神体を失う・・・ということになっている。」
「事実は?」
「何も分っておらん。」
老神は首をふる。
「ザガンに迷惑がかからないのなら・・・」
知りうる事実を話すにしてもその性でザガンが罰を負うのは面白くないと視線を外す。
「アレが関わっておるのか・・・」
「直接何かして貰ったわけじゃないんだが。」
老神のため息に俺は慌てて弁解する。
「まぁ進行中に発覚したことではないのでな、皆まで言うまい。」
老人はソファーに寄りかかる。
「解説してもいいが記憶を見て貰った方が早いか?」
「どちらも必要になる。お主の話を聞きながら記憶と記録と照らし合わせよう。お主は一時から記録が曖昧であるからな。」
困ったもんだと老神はため息を絶やさない。苦情はチェイスに言ってくれと思いながらも影響がありそうな直近で大きな変化である名前のない老人の話をする。
「嘘を言っていないことは分るがお主の記憶からもこちらの記録からもその老人を見ることはできんな。」
「そんなことがありえるのか?」
「事象としてはあり得る。そういう事象があったということが逆に一つの原因にいきつくのだがな。」
俺が認識したことなのに、神には認識出来ないということがありえるのか。しかし老神には心当たりがあるようだ。
「人も神々も行動をすれば世界に痕跡を残す。それは調整されたあの世界に限ったことでは無い。しかし世界から名を失ったものはそれを記録から追えなくなる。お主は直接見聞きしたからこそ老人を認識できておるが、それを見ていない者はそれを認識することは出来ぬ。これも世界の理の一つ。」
老人のため息は絶えない。
「そうならそうでそういう者が関わっていると理解出来ただけで良い。」
心当たりはあるが追求はしないということか?
「お主にはまだ関わりない事よ。まだな。して話を戻すとしよう。」
老神は背を伸ばし俺に目線を向ける。
「巨星は多くの世界をもっておった。今も持っていると言えなくも無いが管理出来ないのは困る。持っている世界を管理し見守るのが我らの使命の一つ。アレが何を目的に管理していたか全容は分らぬが、目的を変えてでも世界を管理しなければそこに住むモノが哀れであるからな。」
世界を管理しなければどうなるか分らないが、老神が哀れというくらいには問題があるということは推察できる。
「一つ穏便な方法として、全てでは無いが一定の資格を満たしたお主を昇神させて丸投げするという方法が提案された。ざっと千二百程度の神が賛同しており、足りない資格に関してはそれらが少しずつ補うこととなる。戦い勝者が丸々得るという体裁もあり反発するモノはおらん。」
恐ろしく雑な案で神にされそうになっている件。どれだけあるか知らないが管理できる気もしないぞ。
「賛同した神の傀儡になりそうな気しかしないけどな。」
俺はごめんだと手を振る。
「援助の分は返すくらいの器量は見せて欲しいところだが、神と神の間は原則不干渉。その為に盤面があるのだからな。」
支援したからと言って過度な干渉はないようだ。だがそれならばわざわざ支援する意味もない。
「つまりそれらの世界を管理することで損をしない連中が賛同してるってことか。」
「純粋に褒め称えているモノもいるぞ?儂もその一人よ。一族はほぼ賛同したといっても良い。ただ、その世界が思いも知らぬ者が管理することで不利益を被るかも知れないモノがいるのも事実であるな。」
俺の質問を一蹴するように老神は笑う。まさか目の前の神まで賛同しているとは思わなかった。
「それでも拒否するとしたら?」
そもそもメリットがないと俺は思う。
「普通神になるとなれば反対するものなどおらんものなのだがな。なろうと思ってなれない者のほうが多いのだぞ?」
「そりゃ分る。」
老神の誘い魅力的に聞えるが裏のない話があるわけが無いと思わずにはいられない。
「お主が昇神しないとなると、そのあまたの世界の管理権をかけて数限りなく盤面が行われる事になるな。お主が止めようとしているその盤面のな。」
お前達の都合に俺達を巻き込むなとは思っていたが、神になることを拒否すればあの世界に無限の厄災が訪れることになるということらしい。これは酷いメリットを提示された。
「その盤面が繰り返される中でまた管理出来ない世界が生まれ、そしてまた盤面案件が増える。」
老神は悪戯的な笑みを浮かべて俺を見る。
「盤面以外の解決方法はないのか?」
「神々が直接対峙しないための施策であるからな。神々が直接遊戯を行えば力関係が強く出る。やはり影響が弱い世界を介して、盤面を介して決定したほうが力関係に左右されづらい。弱気ものにもチャンスがあるという意味で盤面は優秀で平等なのだよ。」
「ふざけやがって。」
「巫山戯ているつもりは全くない。むしろ大真面目に被害を押さえようとしているのだがな。」
老神の嘘を見抜くことは出来ない。表面上は立場を振りかざさず真面目に対応しているようだ。そもそも神々からすれば『なれ』で終わってしまうような案件であるのにだ。
「疑問は尤もな所ではあるが、ある程度やる気を持って管理して貰わないと盤面を行うより手間な事になるのでな。神同士が争う時代は世界の管理が放置されるだけならまだましで、余波で世界が滅ぶことすらあった。盤面世界の犠牲で成り立っているという主張もわからなくはないが、今の施策は盤面世界すら壊れない程度に穏やかな争いなのだぞ?」
当事者の世界はろくな事じゃないのだが上位存在に訴えても無駄な話か。
「お主が神として盤面以外の効果的な解決を提示してくれてもかまわんのだぞ?昇神については前向きに頼むぞ。」
老神はポテチをつまんでから立ち上がった。神になれば様々なことを解決出来る立場にはなれるが。これから行おうとすることは、解決策を放棄し自己満足でしか無い。そして新たな目的が加わる。老神は眉をひそめて笑いゆっくりと距離を取る。
「君の立場からすると今から俺のすることは軽蔑することかもしれない。」
俺は祈る神谷さんに声をかける。
「・・・そんなことは・・・無いと思います。ですが神になられたほうが出来る事はずっと多いと思います。今の目的を維持することすら出来ると思います。」
神谷さんは祈りの姿勢を崩さず顔を上げて答える。
「いや・・・神になってそれをすることは流石に立場上問題があるだろう。利己的に結果を操作することさえ出来てしまう。前例を作るのは良くない。」
神になれば意思を切り離して独立した俺を世界に残すことは出来るかも知れない。たとえその記憶を奪って送ったとしても、今の目的を考えればいずれ意図に気がつく。なんなら気がつかせる。今のまま俺が神になれば必ずそうする。それが最も自分の意思を通す手段となるからだ。チェイスは不正をしながらも神々を楽しませたからこそお目こぼしをされていた。俺はそこまで気を伺ってプレイは出来ないだろう。なんだかんだいってチェイスは非常に優秀だったのだ。
「なら俺のやることは変らない。」
神谷さんは黙って頷いた。リストの優先順位を調整し組み替えていく。しかし大枠で変るわけでは無い。
「来たれ。俺の使徒よっ。」
俺が声を上げると神谷さんがくすっと笑う。周囲は何事かと声の中心に視線を集める。十人の人影がこの場に現れる。
「ご主人様!」
朱鷺、菫、桔梗、鈴、鶸が飛びついてくる。
「紺は・・・ここにいても良かったであるのか?」
「気にすることはありやしません。主がお呼びしたのであればそれがすべてでありんすよ。」
「みんなでいたほうが楽しいし平等だよねっ。」
珍しくもじもじする紺とそれをフォローする金糸雀と萌黄。
「納得いかねぇやつもいるだろうが、それは行動で示せばいいんじゃねぇの?」
「そのノリでいきますと貴方は真っ先に世界から消えてしまいそうですけどね。」
俺が皆を引き剥がしてる所で菫が蘇芳に声を投げかける。蘇芳はばつが悪そうに舌を出す。
「こうして無事にいると言うことは戦いには勝ったんですのね?」
鶸は誇らしげに尋ねる。
「いや良くて痛み分け・・・事実上の敗北だったよ。勝負に勝ったのは老人のお膳立てがあってこそだ。」
俺は苦笑して告げる。
「まぁ・・・予定通り個人ではトップだったさ。集計上は陣営としてもトップだったはずだ。チェイスが死亡扱いになったから陣営は最下位だけどな。」
俺は笑って最終結果を告げる。
「さすがはご主人様ですね。」
朱鷺がぱちぱちと拍手で祝福を伝える。それは使徒にまばらに伝わり拍手の輪となる。
「これからもよろしく頼むぞ。」
「もちろんですっ。」
桔梗が食い気味に声をあげ、皆も後に続く。
「みんな紺に一言あるかもしれんが、チェイスの縛りが無くなった今、紺もわざわざ裏切るようなことをする必要もないんだろ?」
「それはそうですが・・・」
紺はまだ引け目があるようだ。
「大丈夫でありますよ。支配のくびきが無くなれば胸の内にある想いの先は一つです。」
鈴が紺に手を差し伸べる。紺が鈴の手を恐る恐る取り、よろしくお願いします、と小さくつぶやいた。
「私も覚悟を決めないといけませんね。」
やりとりを見ていた神谷さんもリストを横目に指をフリックしていく。ユウ、トウ、ベニオ、クロ、ヨルと神谷さんの配下が出そろう。
「おー、勢揃いだな。・・・お前のへんな感じも無くなってるんだな。てことは勝ったんだよな?」
ユウが紺を一瞥して俺に声をかける。説明の二度手間感が半端ない。だた邂逅一色触発かと思った展開にはならず、ユウの直感は馬鹿にならないと思ってしまう。
「やっぱお前は死ねばよかったんだよっ。」
チェイスのくびきから解き放たれているはずのベニオの俺への発言は何やらあまり変らないものだった。ユウが笑ってしばいているところを見るとチェイスの悪影響は無いようには見える。
「流石に神性スキルは残ってないよな。」
紺のステータスを参照しようとするが能力制限が掛かっているのか見ることは出来ない。
「別のスキルに置き換わっているようであるな。紺の場合だと【調停者】となっているであるよ。」
紺が情報を開示する。
「まぁ検証は後だな。残りの報酬を処理するから少し待ってくれ。」
この場を早く離れる必要はないのだが、やることが決まれば残っている理由も無い。
「なぁ、残りの報酬点を譲渡するってのはダメだよな?」
俺は老神に声をかける。
「おのおの独自の項目がある場合もあるのでな。点数そのものを渡すことは出来ん。結果を渡すことはお主の思うとおり構わんよ。」
老神は優しい視線で答える。
「んじゃ、シェリスなんかほしいもんが無いか?」
俺はシェリスに声をかける。
「急に言われてもなぁ・・・」
シェリスが悩み始める。
「すっげー下世話な話にはなるんだが・・・」
俺はシェリスに精力剤や受精薬の類いを耳打ちして伝える。シェリスは慌てて顔を赤くしながらも確かにと納得する。こそこそと裏取引のように大量の薬剤を渡していく。交流期間が短くても他氏族との子供が確保出来、遺伝子の交換が速やかにされれば予言の結果はもっと先の話になるだろう。のんびり屋のエルフでも一万年もあればなにかしら解決するだろう。その前に世界が滅ぶ可能性の方が高そうだし。
「んじゃ、会ったヤツも会わなかったヤツも、楽しい戦いをありがとう!この先もよろしくやってくれっ!」
俺は報酬に悩む選定者達に声をかける。対戦の終わりは遺恨を残さず。ゲームの鉄則だと思う。別れが良かった者達には爽やかに見送られ、恨みがありそうな者には罵声を浴びせられ、知らない者達からは軽い挨拶を送られる。
「これが俺の選択で・・・挑戦状だっ。」
俺達は盤面世界へと戻った。
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その日はいつもと変らない夏休みの朝だったはずだった。神の啓示とはこういうことをいうのかと膨大な知識が頭に流れ込む。
「どうした?」
朝食を囲む父から変化に気がつかれて声をかけられる。そしてテーブルには見覚えなお無いタブレットがあるのが視界に映る。
「父さん!じいちゃんに連絡とれるかなっ。じいちゃんと父さんの成果が実を結んだみたいだっ。」
僕は椅子を跳ね飛ばすように立ち上がった。
「これ、行儀が悪いですよ。」
母がその行動をたしなめる。
「いやこれは心乱すに足る状態みたいだ。」
父は通信端末を手に電話をかける。その先にいる人物を確認する必要は無い。
「もしもし父さんかい?俺達のもくろみを遊一郎が達成したみたいだ。そっちに・・・あ、こっちに来るって?俺も夕方には戻るから。その時に。抜け駆けは無しだからなっ。」
父も楽しそうにじいちゃんに報告しているようだ。母はしょうがないわねと肩を落とす。平和な日常に少し強めのエッセンスが落ちてきた。タブレットの前面には一つのアプリだけが登録されている状態だった。『とある盤面世界の伝記』と剣と杖、杯、本が詰め込まれたアイコンに何が記されているのか楽しみで仕方がなかった。その日男三人で夜通し語り合ったのは言うまでも無く。明け方、母の怒声が響き渡ることになる。
作品としてはこれで完結です。最後まで読んで頂いた方々に感謝。
この後簡単な各キャラの後日談と設定などを残して投稿は終了となります。
よろしければ評価、感想などよろしくお願いいたします。
2023/11/24最終投稿時点
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総合PV41951 U10917




