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戦いの結末

 盤面の中でもなお珍しい武聖同士の戦いに展開は沸いた。観戦者からは開けた場所で開始したことで環境優位から遊一郎にオッズは傾いた。それはことごとく不利な状況を覆してきた遊一郎への評価もあった。しかし戦端が開かれれば策謀が巡り会う戦場では無く、凡庸な展開が続いた。

 

「やはり遊一郎は戦争そのものが得意なわけでは無いようだな。情勢を読んで戦いを始めるタイミングはそれほど悪くはなかったはずだが。」

 

 多くの者がそのつまらない戦いに落胆した。グラージを評価している者達からはその限りでは無い。決して不利では無い戦いと知っていても、遊一郎が正面からくると予測し、環境を使い戦況を優位に進めて見せた。少なくない者達が小銭を握り合い数を増やす。それらは本命の前の余興に過ぎない。その後遊一郎の自暴自棄とも言える軍の動かし方に落胆の声が上がりもするが、やはりそうするのかという意見が大多数を占めた。観戦者からすると遊一郎は歴代選定者の中でも二度目かというほど盤面のルールの細部に熟知しているように見えていた。それならばこの手段は当然の帰結と言えた。自滅同然のM型による連鎖爆発は相手への得点を最小限に防ぎ、なおかつ自分は得点する機会があるものだからだ。

 

「今まではそこまで割り切っていなかったはずだがね・・・この局面だけは非常に効率的だ。」

 

「これが最後だからではないかね。大事な手下を失って自暴自棄とも見えなくは無いが。」

 

 観戦者の意見は自由で勝手だ。遊一郎は進行方向を急転し別の敵を狙う。

 

「相変わらず索敵の上手いこと。」

 

 近くに別の獲物を見つけてそちらに襲いかかる。遊一郎の修めた弓聖は武聖の中でも幅広い射程で高い攻撃力を誇る。準備時間さえ用意できるなら剣聖についで場所を選ばないといえる。しかしその弓聖の力を利用しつつも要所要所で高い攻撃を放つのは術聖の補助もあってか攻勢魔術である。触媒という有限資源を用いる手間はあるものの攻撃力に対する負荷の比率は非常に優れていた。

 

「遊一郎以外にも器用に立ち回れる者が生きて折ればな・・・あのような術がのさばることもなかったろうに。」

 

 収納という便利な入れ物があるため多くの選定者はそれに依存する。故にそれを封じる手段も用意されているのだが今回の盤面では遊一郎も含めて利用していない。正解を知っている一部はまだ対抗手段があっただろうと嘆く。今回の盤面の選定者は特に神に頼らない傾向が強く。自らの力で突き進む者が大多数だった。そのようなヒントを渡されることもなかったのだ。遊一郎はかつての盟友であるベゥガと対峙する。慎重に立ち回る遊一郎に対して観戦者はいぶかしむ。ベゥガの狙いが分った遊一郎は一気に押し切った。そして執拗にベゥガの配下を処理していく。観戦者からすると当然だったことが遊一郎の数少ない懸念材料であったことを神々は今更ながら思い出させる。

 

「本当に遊一郎は盤面を体験していないのか?そこまで予測してのこの詰めか。」

 

 遊一郎の行動の意味を理解した観戦者は沸いた。そして戦いは本命同士の対峙に至る。弓聖と剣聖の戦いになるかと思えば、行われたのは遊一郎と剣聖の戦い。弓聖の近接戦闘術をベースに弓以外の攻撃を多用する遊一郎に対して、グラージはあくまで剣聖として戦う。派手に立ち回る遊一郎に対してグラージはそれを丁寧に捌く。

 

「かなり剣聖の意思に支配されておるな。歴代の遺恨を考えれば無理も無いが、本人の色が出ぬのはつまらんな。」

 

「意識に乗っ取られてないだけマシではないですかな。決定権はあくまで本人にありそうだしの。」

 

 武聖を継ぐと言うことは歴代の経験を受け取ることである。時にしてその強すぎる経験に引きずられ多数派の意識に乗っ取られることもある。妄執のような目的が前面に出ると打ち破る原動力にもなり、行動を読まれやすくなることもある。観戦者からするとグラージはそれらを押さえ込めてるようには見えた。遊一郎がの動きが変り決め手を放つ。場を整えグラージを追い詰めていく。しかしグラージは剣聖の技術をもってしのぎきった。逆に遊一郎はグラージに追い詰められていく。それを打ち破るため遊一郎は戦いの中心を焦土どころか星の中心へと変えた。

 

「えげつないことを・・・人の身では耐えられまいに。」

 

 グラージに焦りが見られるようになるが、観戦者からすればこのまま順当に戦闘が続けばグラージが勝つだろう。しかし遊一郎が戦いをこのまま順当に進めるわけも無かった。一部の者はその先の結果を予見したが本気でその為に実行したのかと疑った。戦いの中心地の温度が二千度に達しグラージの武器が熱に負けた。対して遊一郎の武器にはわずかに余裕が見られた。大地は支える力を失い沼となりグラージの機動力を奪うが遊一郎はすでに対策を終えている。遊一郎は短剣を投げて虚を突く。グラージがそれに対応出来ない訳がない。周囲の環境に意識を取られても反射的に防御した。通常なら弾かれて終わりの金属は剣にまとわりつくように歪み慣性のまま推進をし続けた。水玉を遮ったかのように飛沫が飛び散りグラージの顔面を襲う。周囲環境がすでにそうとはいえ、まとわりつく粘体を顔面に浴びるのは訳が違った。体験したことのない現象にグラージが大きく隙をさらす。遊一郎はそれを察知して距離を取る。弓が構えられたとき誰もが勝負の終了を予期した。弓聖の放つ必殺の呪矢がグラージに放たれる。金属の対処に追われていたグラージがその一瞬に何かを感じ取り剣を振る。何かに支配されたかのような反射行動だった。鞭のようにしなる剣は腕の動きからわずかに遅れて追従したが、それも計算に入っているかのように必殺の矢を捕らえ打ち返した。

 

 抗呪ノ(コトワリ) (カエシ)

 

 弓聖に討たれた四人の経験を糧に生まれた対第十弓聖技非道にのみ反応する剣聖技。非道自体を反射しても意味はないが複合技の場合は話が変る。威力、速度申し分ないその一撃は遊一郎の頭を貫き破裂させる。ある意味意外な結末に観戦者も言葉を失う。オッズの偏りから多くの者が驚愕の声を上げ、一部剣聖の妄執を知ったいて者はしてやったりと歓声をあげる。当事者であるグラージも朦朧とする意識の中何故そうなったのかはっきりと理解出来ないまま勝者とも思えぬ足取りで熱源から抜け出す。術者の制御を失った魔法は瓦解し分解反応を失い周囲へのエネルギー供給を止める。

 

「勝った・・・のか?」

 

 見えぬ所で手応えの感じない勝利をグラージは疑問に思う。泡吹く大地を振り返っても宿敵の死体は見当たらない。システムの庇護を失った体など一瞬で燃え尽きてしまっただろう。光を見通す力を持たないグラージでは残存する装備すら確認出来ない。

 

-ラゴウ陣営が戦闘に勝利し最終生存者となりました。-

 

 グラージは脳内に通告を受けて始めてその勝利を実感した。相手が十全の状態では無かったとは言えかつて手も足も出なかった相手に勝利したという事実がグラージに歓喜を呼び起こした。グラージは天に吠えた。分かたれる前の生から勘定しても今日ほど喜ばしい勝利はなかった。その姿を見て観戦者からもまばらな拍手が起こった。その勝利に対するささやかな祝福であった。

 

「遊一郎がチェイスと戦う前であったならこうはならなかったであろうな。」

 

「どうであろう、結局はあの反撃に倒れていた可能性は高かったのでは無いかな?」

 

 たられば論が交わされるが遊一郎は盤面における全盛期から力を落としていたのは確かだった。観戦者としてはそれが残念であったと言える。せめて斬岩剣があればまた違った展開ではなかったかと、あれこれ仮定に話がもりあがる。

 

-記録を伸ばすために残りの時間を満了することが出来ます。-

 

-もしくは終了宣言をすることで即座に本盤面を終了し結果算定に移行することが出来ます。-

 

 グラージはシステムのアナウンスを聞きながらも満たされていた。最終告知が出たことで観戦者が沈静化し、再びグラージに注目する。その最後の選択を見守る。

 

「遊一郎に勝利した。もうこの世界でやりべき事は無い。盤面を終了する。」

 

 グラージは選択した。

 

「あー、やはりそうなるか。まぁ通常ならそれで良いし仕方が無いか。」

 

「ベゥガとやらが残っていれば別の展開もっ。」

 

「だからこそ遊一郎はベゥガを倒したのだろう?」

 

「まぁ気がついて残ったとしてもぎりぎりであろう。遊一郎が残した国もあるでな。」

 

「可能性があっただけに惜しいっ。」

 

 結果が見えていた観戦者が思い思いに心情を吐露し始める。

 

「観戦者の皆様。最終生存者が終了宣言をしたことで本盤面の選定行程を終了いたしました。皆様からの投票を集計した後結果発表に移らせて頂きます。」

 

 管理委員会のアテナより天上に説明が成される。個人資産をつぎ込む事で選定者に投票を行う。多くの意味では懇意の選定者への追加のご褒美であり、僅差を覆す可能性がある表彰でもある。ただ今回に限ってはご褒美の側面でしか無い。ある時点から最終勝利者が誰になるかは多くの者が理解していた。

 

「そういえば指し手のチェイスが動けないのだけど、報酬の管理は誰が行うの?」

 

 アテナが大国主命に問う。

 

「私がしてもいいのだが・・・いや、そんなに睨むなよ。管理委員は盤面の進行管理以外はしないのが原則だ。流石にそれを無視するわけにはいかんよ。」

 

 大国主命はアテナに睨まれながら答える。

 

「まったく無関係とはいえんが・・・この際ある程度状況を把握していたゼウスにお願いすることになるだろうな。」

 

 大国主命がそういうとアテナが渋い顔をする。


「それもそうだが評価点のほうをどうするかだな。」

 

 ザガンが話の流れを変える。

 

「業績は素晴らしいが・・・結果的に指し手に影響はないということで変更は必要無いだろう。」

 

 大国主命は答える。

 

「あの邪神が死ぬきっかけを作ったというのに残念ね。」

 

「評価点に神を倒すという項目がないからな。次回から追加してもよいが・・・あまり有用とはいえんな。」

 

 アテナがぼやくが大国主命はその考えに否定的だった。滅多に起こらないし狙われても困るというものではあるからだ。

 

「さて投票も終わったようだし、選定者を集めて評定といこう。」

 

 大国主が話を進め、アテナとザガンが従う。三人は黒き虚空に浮かぶ白い円台に転移する。大国主が柏手を打てば台の上に十二名の選定者が現れる。

 

「勝手に呼ばれて恨み言もあっただろうけどひとまずはお疲れ様と言わせてもらおう。長短にかかわらず盤面という調停場を支えてくれたことにお礼を申し上げる。」

 

 大国主は笑いながらそう告げる。礼を言うと言いながらもその言葉に敬意などは込められていない。呼び出された選定者達は何が起こったか理解するのに時間が掛かったようだが、となりに仇敵がいれば襲いかかろうとするものも出る。しかし意思を持って動こうとすればその動きが制限されその一点から動けないことを知る。

 

「君たちには活躍と所属の順位によって報酬が分け与えられる。その他神々の目に止まった者には個別でも報酬が与えられるだろう。たいしたことが出来なかった者もある程度は期待してくれて良い。何も出来なかったことを評価する者も少なからずいるからね。」

 

 どんなに睨まれようと大国主命は笑いを崩さない。ここで起こることはすでに何度も繰り返されたことであり、そもそも下位の生命体からの攻撃を恐れる必要などまるでないのだから。

 

「これは確かに・・・ここでやりあう選択はなかったかぁ・・・」

 

 遊一郎がぼやくが大国主命が口に指を当てその発言を制する。ベゥガは遊一郎をはっと見るが遊一郎は表情からとぼけて返す。

 

「さて総合順位からだが・・・第三位は精霊神ウィルド。」

 

 ザガンが宣言する。観戦者は沸いているが選定者達にそれらは聞えない。火のバーノレ、土のディーは順位など気にもとめていない様子で報告を聞いている。光のフィアは憮然としながらも違和感を感じている。ここにいるほとんどの選定者はそう感じているはずだった。

 

「第二位は蛇神フレーレ。」

 

 二位という順位を聞けば竜のペルッフェア、リザードマンのゲラハドは顔を合わせて何故という疑問をぶつけ合う。ラミアのブレセアールは疑問に感じながら本質的には興味を示さなかった。

 

「第一位は鬼神ラゴウ。盤面の勝者権利はラゴウに与えられる者とする。」

 

 当然という顔をするオーガのグラージだったが、コボルトのベゥガは再び遊一郎を見る。シャドウレイスのユーキも当然という流れに乗って胸を張る。

 

「あー、そうなったのか・・・」

 

 小声で遊一郎はつぶやく。

 

「人神チェイスは途中離脱となった為、残念ながら順位選外ということになる。個別に渡される順位報酬に関しては第四位扱いとなる。」

 

「神様が途中離脱ってどういうことなの?」

 

 ザガンが言い切ると事情を知らないエルフのシェリスがザガンに問う。他の二人は疑問に思わないのかとシェリスが振り返るがヒューマンである遊一郎は素知らぬ顔で桐絵はばつの悪そうな顔をしている。そういう発表がされたということは遊一郎が事をなしたと桐絵は知ってしまっているからだ。

 

「チェイス神が通常活動出来ない状態に陥った為、指し手としての資格を失ったからだ。理由は・・・直に分る。」

 

 ザガンがシェリスに答える。

 

「ちっ、生きてんのか・・・」

 

「遊一郎さんっ。」

 

 思わず愚痴った遊一郎を桐絵がたしなめる。グラージ、ベゥガ、シェリス、ユーキ、フィアの視線が遊一郎に向く。

 

「遊一郎ならやりかねんな。あの場に遊一郎が来なかったのはそういうことか。」

 

 ペルッフェアは納得顔である。

 

「さて、選定者の方々にはお待ちかね。個人順位と報酬の話ね。」

 

 アテナが他の神に比べるとややフレンドリィに話しかける。

 

「順位と活躍によって報酬点が与えられるので各担当神のリストから報酬を自由に選べるわ。ここにいる時間は無制限みたいなものだからゆっくり選んでもらって大丈夫よ。想定される報酬のほとんどは網羅されているから大丈夫だと思うけど個別の相談も受け付けるわ。ただまとめ割引なんてないからそこはよろしくね。」

 

 アテナは陽気に案内する。

 

「ここで割引しようとする猛者がいるのか・・・」

 

「優れた商人は神をも恐れないものよ。」

 

 神威に威圧されがちなグラージが重苦しい声でつぶやくが、その提案をした者を苦笑いしながらアテナが明かす。

 

「さて第十二位は人陣営のシェリス。生存能力は高かったものの活動範囲が狭すぎたのが難点ね。エルフらしい悪さがでたわね。」

 

 アテナの報告にシェリスはばつの悪い顔をする。

 

「所在は概ね把握してたんだが・・・悪かったな。どうせ余るだろうし欲しいものがあれば融通するよ。」

 

 遊一郎はシェリスに声を掛ける。

 

「随分自信があるんだね。」

 

「まぁ・・・恐らくだけどそういう仕様だろうからね。あと個別報酬がもしかしたら・・・て感はある。」

 

 シェリスが聞くと遊一郎はほぼ確信したように言う。

 

「第十一位は精霊陣営のバーノレ。異種との関わり合いは良かったけど点数に繋がる行為が少なかったかな。最後の追い上げはなかなかだったけど。」

 

 バーノレはふむと納得顔で頷く。自分の主張を貫いただけで順位などは気にしていない様子だった。

 

「第十位は鬼陣営ユーキ。」

 

「なんでそんなに低いんだっ。」

 

 アテナの報告にユーキが噛みつく。

 

「世界に与えた影響は少なくなかったんだけど、実際に行った行動自体は少ないんだよね。盤面自体を壊すかもっていう緊張感を与えたことに投票はあったよ。」

 

「あれだけ殺しまくったってのに・・・」

 

 ユーキはうなだれる。

 

「影響殺数だけならもっと早く退場したフィアの方が多いし、遊一郎を倒しているという評価も加算されてるけど、短期間で反撃討伐されると評価点が下がるのも影響したかな。」

 

 アテナは残念そうに評価を言い渡す。

 

「第九位は精霊陣営フィア。精霊らしい策謀への評価と集積した信仰で大きく伸びましたね。」

 

「そこのノームに負けているのは何か納得いきませんね・・・」

 

「後の発表になるけど、その子は別枠かなー。」

 

 フィアも順位に不満げだがユーキほど騒がない。

 

「第八位は蛇陣営ペルッフェア。格上撃破など討伐点もそこそこ、後半の発展指数もそこそこ。少し引きこもりすぎた感はありましたね。」

 

 評価を聞いてペルッフェアは唸る。遊一郎も意外そうな顔してペルッフェアを見る。

 

「第七位は蛇陣営ゲラハド。序盤から発展指数は高かったものの、討伐点が低かったのが惜しい。積極的な友好策が点数の伸びを悪くしましたね。非公開情報なので難しい判断とは思いますが。」

 

 ゲラハドはその評価を可も無く不可も無くと受け取る。

 

「第六位は精霊陣営ディー。なんと四十年生存しながら討伐点零。発展指数も微々たるもの。期間不殺評価や非戦闘系の神々から評価を集め、活動範囲に対する他陣営隠蔽率も単独トップ。本人の活躍以外の特別評価を総ナメにしました。」

 

 ディーは評価を聞いてホーと声を上げて驚いたような顔をしているがあまり理解して無さそうだった。盤面に参加しながら何一切盤面に貢献しなかったことが特別な評価になっている。

 

「そりゃすごい・・・やろうと思ってもできないわ。」

 

 その偉業に遊一郎は素直に拍手を送った。

 

「なんでそんなに評価が高いのかわかんねーな・・・あそこのエルフなんか他の陣営に見つかってないだろ。」

 

 ユーキが評価にケチを付ける。

 

「シェリスは見つからないところでじっとしてただけだからね。その点ディーは歩きまわりながら見つかっていない。そして生存期間中誰とも戦ってない。ある意味すごいと思わないかい?」

 

 遊一郎はそのすごさを力説するがユーキにはあまり通じない。その熱意だけを受け止められた形だ。

 

「その子・・・一度だけうちの結界に引っかかったね。感じたことある気配。」

 

 ブレセアールがだるそうに口を開く。遊一郎はそれを聞いてへーと頷いている。

 

「さて第五位は蛇陣営ブレセアール。長期にわたる国家運営と第一期最長生存が高評価でしたね。戦闘以外の物語りを綴ったことが多くの票を集めました。」

 

 ブレセアールは評価自体は気にしていなかったが、綴られたという物語を思い出し大いにへこんでいた。

 

「第四位は鬼陣営ベゥガ。高い発展指数とそれに負けない討伐点。どれも高い水準での評価でした。特記はなく無難に点数を高めたと言えます。」

 

「むう・・・しかし単独では限界があったし・・・」

 

「まぁかなりいけたんじゃ無いかな。個人的にはもっといけたと思うけど。」

 

「流石に遊一郎殿のような方策はコボルトの身では難しかったと思うのだが。」

 

「そっちの元の世界の偏見かな?以外とこの世界の人達は種族差に寛容だった。逆に損得が絡めば同族にも牙をむくくらいにはね。」

 

 ベゥガと遊一郎が言葉を交わす。事情に気がついていないグラージは何を意味しているか理解出来ていない。

 

「第三位は人陣営神谷桐枝。彼女も語れないエピソードを多く排出し票を集めましたが、それ以上に遊一郎に引きずられて発展指数の伸びが驚異的でした。性格的に討伐点は低い目なものの、単独で術聖を二系統修めるなど特殊成績も高い点数を得ました。」

 

 桐絵は恥ずかしそうに恐縮して縮こまる。

 

「武聖も複数いけたのか。」

 

 術聖の話を聞いてグラージが反応する。

 

「特典が武器だったならいけたかもしれんが・・・武聖は修めた武技の性格に引きずられて相性が良い奴じゃないと取るのは難しいかもな。」

 

 グラージの驚きを遊一郎が補足する。

 

「俺は技能上げが間に合わなかったから無理だったが、お前を見てると剣聖は門前払いだった可能性はあるかなとも思う。」

 

「試練を門前払いってもどうなんだろうな。」

 

「どこからでもいける道場みたいなもんだと思ってる。」

 

 グラージは意識していないだろうが、遊一郎はそのつぶやきに反応して答えている。

 

「さぁ我々的には確定でしたが、選定者視点では判断が難しかったでしょう。順当な第二位は・・・鬼陣営グラージ。」

 

「なっ!?」

 

 アテナのパフォーマンスたっぷりな言葉にグラージが驚きの声を上げて遊一郎を見る。遊一郎はそれを確信的な笑みで返す。

 

「どういうことだ、俺は遊一郎に勝ったはずだ。」

 

「その疑問は従来通りに事が運ばれていたなら理解出来る話なのですが、詳細は後ほど。彼は早い段階で軍を組織したとえ敗れても攻勢を進める事を止めることは無かった。自らも数多くの戦場に出てその討伐点を大きく伸ばしました。最終戦闘においても勝利し討伐点は文句なしのトップです。軍を維持するためとはいえ発展指数も無視できる値ではありません。戦闘勝者にふさわしい成績と言えるでしょう。」

 

 グラージの叫びを押さえつつアテナは解説を続ける。

 

「そして第二位に大きく差を付け第一位に輝いたのは人陣営紺野遊一郎殿!」

 

 アテナは派手に盛り上げる。大差を付けられたと聞けばグラージは何故という顔で遊一郎を見る。遊一郎は顎を動かしてアテナを示し直ぐに分ると促す。

 

「初日からルールを知っているかのような動きを見せ驚かせたかと思えば、突然素人のような即死を見せ観戦者を驚かせそして沸かせました。」

 

「それはちょっと恥ずかしいヤツだ・・・」

 

 黒歴史を公開され遊一郎が恥じ入る。

 

「再開後も急速な発展を遂げ、何度現地民とぶつかっても・・・死しても折れること無く盤石の体勢を築き上げ莫大な発展指数を見せました。特に製造点が凄まじく過去類を見ない値をたたき出しています。塵を積み上げて大陸をなしたと言っても過言では無いでしょう。討伐点においても裏から国家を操り継続的に加算し第二位のグラージと比較しても決して劣っているものではありません。最終戦に敗北したことで大きく水をあけられましたが、勝利していれば比肩することも可能だったでしょう。討伐点比率の高い盤面の意義を真っ向から打ち破り、製造点のみで勝利したケースは今後の盤面の運営を大きく考えさせられる歴史に残る記録であったと言えましょう。」

 

 アテナの解説が終わる。

 

「どういう原理だ・・?」

 

 グラージは解説を聞いてもイマイチ理解に及んでいないようだ。ベゥガは横で大きくため息をつく。

 

「これは私の予測でしか無いですが・・・遊一郎殿は休むこと無く物を作り続け世界にばら撒いたのでは無いか。今思って見れば我々が町で大量の武具を金だけで用意できたのも遊一郎の活動の一環だったのでは?」

 

 ベゥガが遊一郎を見る。

 

「そうだ。ベゥガならもっと早く気がついていたかと思って警戒していたけど最後まで妨害がなかったからね。そのまま進めさせて貰ったよ。得点制の対人ゲームにおける裏技的な勝利方法だよ。目の前にある主要な得点源ではなく補助の点数を積み上げて勝利する。それを試しただけさ。」

 

 遊一郎にとって盤面の舞台は最後までゲームでしか無かった。

 

「最終戦までに陣営が俺とお前達だけになるように調整し、あの日俺が勝とうが負けようが鞭面が終わるように誘導した。ベゥガが生き残っていると助言されてポイント稼ぎされるかもしれない。残機が残っている可能性も考慮すれば戻ってくるまでに終わらせる必要があった。グラージの性格なら俺に勝ったなら盤面をそこで終わらせると思ったしな。まぁ負けるつもりは全くなかったんだが・・・まさか剣聖を得ているのは計算外だったな。」

 

 遊一郎は話を続ける。

 

「自分に都合の良い国家を作り上げ矢面に立たせる。これは選定者として表に出ると敵にばれやすくなるからと思ったからなんだが・・・こっちは早々に意味が無くなった。取り敢えず国家には力を持たせて万が一やられた時の帰還先として用意する意味もある。」

 

 遊一郎は言う。

 

「どうしてそのような手間を。」

 

 ゲラハドが問う。

 

「貴方はあまり死んでないのかな?まず死んだら体は成長したままだけど拠点は作り直しって面倒くさすぎる。最長五十年だぞ。三十年かけて拠点をつくって負けたら零からやり直しとか。どうやって逆転するんだよって話。俺が死ぬ過程で偶然、建物類は失われるけどユニットは地上に取り残されることが分った。敵の建物も支配が無くなったなら接収できることも分った。それなら拠点と戦場を分離して、戦場で敗北しても直ぐに拠点は失われないように作っておいた。俺が死んでも拠点に戻りさえすれば拠点を復旧できる。なんなら拠点管理できるユニットを拠点に残しておけば俺が地上に出た瞬間拠点機能を復旧できるんだ。」

 

 遊一郎が熱ぽく解説する。質問したゲラハドはちょっと引いて解説を受け止める。

 

「神々のお遊びって時点で派手な方に得点が割り振られてるのは見えていたし、戦闘で勝ち続けた方が利点は多かった。ただユニット所持制限がないっていうのが俺の琴線に触れたね。これ無尽蔵に物作ってればいいんじゃね、って。ただ不必要な物を作っても倉庫にかさばるしということで販路を作って売ることにした。」

 

 遊一郎が周囲を見回す。

 

「バーノレだったかな?君なら何を売る?」

 

 燃えるとかげに遊一郎は質問を投げかける。かつて人々に知識を振りまいた理性あるサラマンダーであると認知していたからだ。

 

「そうだな・・・食料は外せないだろう。美しい宝石を愛でる者も多い。芸術品でもよいがそこは感性が問われ必ずしも成功するとはいえんな。」

 

 バーノレは思案しながら静かに答える。

 

「四十点くらいだな。この世界の情勢を鑑みて、それらをシステムの資源と照らし合わせると次に売るべきは武器だ。死の商人よろしく世界水準より高い武器と防具をばら撒きまくった。金属も石材も布もほどよく消費できる。」

 

 遊一郎の解説にほとんどの選定者は納得する。桐絵は苦笑いだ。

 

「戦争が起きれば食料も必要になる。そして戦争が終われば復興の必要が出る。戦争したら終わりじゃ無い。そこに木材を送り込み建築も行う。復興に目処がつけば食料も貴金属も売れる。そしてまた戦争が起こる。」

 

「ひどいマッチポンプなんですよねぇ・・・」

 

 遊一郎が解説すると桐絵が大きくため息をつく。

 

「ひでぇ・・・俺よりよっぽどえげつねぇ。」

 

 ユーキが自らの所業を棚上げしてドン引きする。

 

「戦争は為政者の都合だからなぁ。そこにつけ込んだというのはあるけど。これでも人が死ににくいように医療品もばら撒いたし、農村の支援もしたんだぞ。配る物ならいくらでもあるからな。」

 

 遊一郎は申し訳なさそうにしながらも、それ以外の努力も主張する。

 

「経済支配率は異例の四十八%ですからね。どれだけ遊一郎の商会が根を張り物資をばら撒いたかがうかがえます。」

 

 アテナが少しだけ解説を補足する。

 

「もしグラージが遊一郎の企みに気がつきそれを打破するなら。越後屋の支援無しに遊一郎が作ったものの半分以上を破壊する必要がありました。それを行えば世界すべてを敵に回すことになり凄まじい妨害にあったでしょう。残り八年でそれが実行出来たかというと・・・かなり難しいところでしたね。」

 

 アテナが最後の種明かしをする。

 

「ベゥガが残ってても難しかったか。気にしすぎたかね。」

 

 遊一郎は軽くつぶやく。

 

「仮定の話であればフィアが持ち込んだ航空技術があれば簡単に事を成せたでしょうが。」

 

「そのような評価があるとは・・・苦労して開発した甲斐があったというものよ。」

 

「流石にアレは残しては問題がありすぎだからなぁ。俺ですら封印したのに。本の仕様がひどいと思った瞬間だったよ。」

 

 アテナのつぶやきを聞いてフィアが喜ぶが遊一郎はそれを軽口ながらもたしなめる。

 

「それでは報酬点を配布しますので自由にお過ごしください。なおささいな殴り合いも含めまして戦闘行為は封印さていますのでよからぬ事は企みませんように。」

 

 アテナはそう言って下がっていく。そう言われてもと選定者達は顔を見合わせるばかりだ。そして各自に報酬点がゲームウィンドウのようにポップアップしたところでしばらく一喜一憂し騒がしい雰囲気に変る。遊一郎はその表示を悩ましく見つめる。

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