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僕、嵌められる。

  ミルグレイス市からの追手はなく二時間後には拠点に到着する。拠点に入ってすぐに汗と吐瀉物で汚れた体をシャワーで一流しする。

 

 木153000布123000石242000金属131500魔石14710燃料220000食料113800財貨149200

 下級拠点1 畑36 麻畑30

 木材倉庫11 布倉庫6 石材倉庫21 食料倉庫11 金属倉庫7 燃料倉庫3 財貨倉庫5

 木材大型6 布大型6 石材大型8  食料大型2 金属大型4 燃料大型4 財貨大型4

 細工所1 木工所1 石材所1 金属加工所1 魔導構成所2 

 戦士訓練所1 弓兵訓練所1 騎馬訓練所1 魔術師養成所1 教会1

 軍事研究所1 魔法研究所1 錬金術研究所1 鍛錬所1 学問所1

 M型835 C型831 Y型1978 B型251

 

  軽装兵M365 Y200 急襲斥候兵C190 重装兵Y170

  長弓兵M210

  軽騎兵M260 C210 Y100 伝令斥候騎兵C100 重装騎兵Y240

  魔術師C280 医療術師C80 B160 戦術師C220

  銃兵B60 砲兵C30 B31

 

 兵数はM型835、C型830、Y型710、B型236。C型行方不明者一体がまだ生きていることには驚きだがいつ到着できるやら。B型医療術師15体は各種研究所で専属。Y型1268体は畑に4体ずつで264,30体は伐採、残り974体は露天堀りなのだろう・・・あのすり鉢のなかにそれだけうようよしてると少し恐怖感を覚えるが・・・。大事な仕事ではある。総兵数2611。ミルグレイス市の常駐軍の公式数とは若干劣る。日々20体ずつ兵が増えている勘定で素材はそれだけで二万から五万ぐらいが消費されている。ミーバの成長と止めるにしても現状の採集量だと均一化した兵は40体程度しかつくれない。つくずく装備が高級化しすぎたと思ってしまうが、そこは必要だったと割り切る。能力的には装備込みでようやく防御全般が100を越えたろうという頃だ。初心者レベルの貫通撃でも傷を追ってしまう。民兵よりマシだが正規兵には若干劣るという評価のままだ。

 

「もう少し強化の時間が欲しかったところだな。」

 

「偵察は逐次追い払っていますのでこちらの正確な兵力は把握していないと思いますが。市長がどれだけこちらを評価しているかが初戦の兵力に出てきそうですね。」

 

「こちらも小出しにするか全力で対応するかか。」

 

「短期と睨むか長期と睨むかですね。ただ・・・一つだけ決めておかなければいけないことがあります。」

 

 朱鷺が真剣になり、僕はわからないと言った風に朱鷺を見る。

 

「この戦争における終着点です。我々が全力で挑めば、うまいくけばミルグレイス市は落とせるかもしれません。ですがその先はおそらく難しいです。この『戦争』をどうやって終わらせるかという見通しが必ず必要です。」

 

 朱鷺の言葉に僕はハッとなって悩む。人口四桁を抱えようかという国を相手にして人口3000程度の町が戦おうというのだから、普通に考えたら戦わずに逃げる案件だと思う。実際攻めてこない内に引き払うのも有りのような気がする。

 

「そうです。終りが見えないなら本来戦うべきではありません。ただすべてを犠牲にしてでも経験を積むという選択はまだ復活の余地があるご主人さまにはあると思います。」

 

 朱鷺は少し寂しそうに語る。朱鷺の言葉尻が落ちていくの僕は読みきれなかったが、経験を得るという意味では負け戦でも問題ないという考えが生まれる。ミーバや装備を失う事自体はさほど惜しくはない。まだ一年も経っていない状況でこれだけの兵力を集められるなら全体としては極小規模だと思える。僕は首をひねりながら悩む。

 

「戦うことを前提として今直近の戦争に何が必要だろう。」

 

 装備は平均的に優勢でそのおかげで単体兵力において正規兵よりはちょっと高い。民兵では相手にならないレベルだと推定できる。兵数では中期戦以降で援軍が望めないこちらが確実に劣る。先程の戦闘を思い出し嫌な気分になるが、障壁特攻スキルが予想されていたので構築を試みる。

 

-スキル【障破撃】【障破射撃】【障破術】、攻勢魔術Ⅴ【障壁破砕】守勢魔術Ⅵ【魔術解体】が該当しました-

 

 障破スキルは攻撃力の一部を障壁破壊専用の攻撃力に変えるスキルのようだ。ランクによって変換量と倍率が決まる。射撃を先に開発して残りを次に回す。最も明日の夜半には全部完了するみたいだが。

 

「一番できそうなのは兵数ですね。素材と日産量を含めれば戦争までに400体くらいは集められると思いますが。時間さえ許せばご主人さまを一点強化するのが大正解なのですが。」

 

 朱鷺は一番総合力を増せる形で提案し、結局僕の強化に帰結させる。僕の視線に朱鷺は慌てて否定するが、極端な話防御を強化してダメージがなければ死にはせず、復帰の機会が与えられる。相手にもダメージを与えられなければ不毛になり、戦う意味が低下すれば和平にもなるという。僕自体はまだ復活ができるのでそこまで自分を大事にしていなかったが、世間一般ではまず死なない、殺されないという形をつくるのが定跡の一つであるという。兵数を増やして、相手と同じ初期兵力になったところで最終的には勝てはしないだろう。尖った強化をして一矢報いるか、総合力を高めて長く耐えられる形にするか。やはり戦争におけるお互いのゴールを決めないと長期化してこちらが敗北して終わってしまう。僕はうんうん唸る。朱鷺がふと街道方向に顔を向ける。僕はさっと意識を周辺感知(ミニマップ)に切り替える。足速い生命体が『土産物屋』に近づいてそして離れていく。勘違いに消えた後しばらくして朱鷺が現地に走っていく。なんとなく意味はわかるので朱鷺に状況を任せる。すぐに朱鷺が戻ってきて手には書状を握っており、僕に差し出してくる。

 

『部下、商業ギルドの先行があり、市長としての想いとすれ違いがある。市長としては話し合いの席で誤解を解き事態を平和的に終わらせたい。』

 

 派手な家紋印と共に『グラプス=セルザライト』というサインが書かれている。僕は朱鷺をみるがおそらく都市長の名前であると答える。

 

「本物?罠?」

 

 部下ってのは最後に殺しちゃった正規兵のことだと思うけど、商業ギルドも一枚噛んでたってことか。

 

「悩ましいね。これが本物なら戦いは避けられるかもしれないってことだよね。」

 

 僕はほぼほぼ勝ち筋が見えない戦いを避けられそうな所に意味を見出す。

 

「事態が大きくなりすぎてい市長の権限では収めるのが難しい気がしますが一つの手ではあると思います。市長の権力次第ですが横やりが入る可能性も高いかと。」

 

 朱鷺は話自体が成立しない可能性のほうを考慮している。僕は朱鷺としばらく意見を交わしこちらで指定した場所で合うことを文書にして伝令騎兵に送らせた。これに危害が加えられるようならそれこそ終了案件だが、罠にはめることを考えているなら短慮なことはすまい。伝令騎兵は無事に帰ってきた。その夜斥候兵と共に拠点から離れた場所に鉄壁を張り巡らせて箱を作る。両側に入り口を作って中央に水晶で壁を立てて少しだけ格子を作っておく。作ってる途中で魔法の対策とか考えてなかったなと考えたがそこは魔術師でなんとかしようということで、怪しまれないように何もしないことにした。翌日、指定した場所を調査しにきた騎士と魔術師を斥候兵に監視させて市長が何かしかけていないか調べさせておく。会見は明日になるためそれまでに戦争を想定してミーバの増産と装備の強化や兵種の最適化が図れないか考える。

 

「最悪銃兵と重装兵でよくない?」

 

 現状最も攻撃力の高い銃兵と敵を足止めする重装兵。敵が本隊に接する前に圧倒的射程である狙撃銃で敵を殲滅する。

 

「いくらか相手の攻撃を想定して防御のための魔術師はいるでしょうが、それも一つの手であるとは思います。」

 

 朱鷺は僕が認識していない本の知識も持っている為相談するにはちょうどよい。ナーサル市のヴィルバンに支援を申し出てもよいのだけどミルグレイス市に関することについては信用度が著しく低い為聞きに行く気にはなれない。世界の兵力や戦術について確認しようとしたが、本の知識収集は軍事や知らない兵器、人物については著しく制限されていることが分かった。自分が地球である程度知っていたりするものは引き出せるが、未知の兵器や標準的でない魔法に関しては構築に補正がかかっているであろうということは判断できた。そういうこともあって一度も接敵したり、噂で調べたこともないミルグレイス市、ひいてはアークザルド王国やクラファル王国の戦力、戦術を詳細に本から引き出すのは時間がかかる。朱鷺の知識も世界全体における傾向と注意事項だけに限られる。

 

「やはり懸念事項は圧倒的な強者が参戦してくることですね。」

 

 自己の戦力に対する圧倒的な強者。システム上防御力が百を越えている相手には何一つ傷をつけられない。よって防御を下げることが最初の段階になる。現状僕らの貫通スキルはⅣに達しており32%の防御力を無視できる。このスキルだけでカバーできる範囲はDEF168まででそれを超えると次の手段が必要になる。通常は身体能力と防具で防御力が構成されるため、最初に取られる方法は攻撃を当て続けて相手の防具を破壊するか、防具の薄い、または無い所を狙うことになる。こちらの狙撃銃は威力と連射が恐ろしいことになっているのでちょっとした鋼鉄装備くらいなら一瞬で破壊できるし、低レベルの破壊防止措置も楽に突破できるレベルであるらしい。この範囲の敵ならば世界的には比較的対処できると言われるレベルになるらしい。この上にいるのが『圧倒的強者』と言われる段階で、相手のステータスだけの段階で防御を貫通できない場合である。最底辺の例で言うと貫通スキルを所持していない者に対して、ステータスのみの防御で百を越えている者になる。こういった敵を倒そうとすると防具破壊以外の方法で防御を下げる必要が出てくる。単純に弱体化魔法で低下させるか、またはステータス防御が働かない状況に追い込む。自主的に動きづらい状況になるとAGIによる防御が低下するので複数人で組み付いたりする方法がよく取られるようだ。敵に抱きついて俺ごと撃てというヤツである。魔法防御に関しては相手の集中力を低下させたり思考力を奪う必要がある。こうしたことから圧倒的強者には遠距離からの対処が非常に難しくなる傾向にある。つまり僕らの最初の極端な兵種は圧倒的強者が現れた瞬間に無力化しやすい。そうでなくても相当数の魔術師を用意すれば障壁によって遠距離攻撃は軽減しやすいので致命的な損害を与えづらく、強者である近接兵力は非常に重宝されるというのが世界標準である。そういう意味では平均的に軍の能力を強化しようとした僕の方法はあまり世界の事情に沿っていなかったとは言える。一応自分と朱鷺の専用装備があるので少しはましなのだが。一応朱鷺はミルグレイス市の正規兵に対しては圧倒的強者といえる。装備を破壊しきられる心配はほぼなく、ミーバが寝ない、疲労しないというかなり特殊な身体能力のおかげで無限に戦闘を行えることも大きい。それでも被害を気にせず人海戦術で拘束された場合はその限りではない。朱鷺はAGI回避型という部類に属するようなので動けない状況に追い込まれるとやられる可能性はあるということである。軍対軍なら兵力や戦術で戦うことになるが、圧倒的強者を要する場合は軍はその強者に対する補佐役に転ずる。理論上ミーバがこの世界一位に対して圧倒的強者であるなら一体で世界征服ができるという、呂布も真っ青な無双世界なのである。しかし現状朱鷺は世界的に見るとそこまで強いわけではなく、強いやつは世界には多数いるという現実である。まあ半年もたたない内にトップになるなら苦労はしない。

 

「強者対策もそうだけど市に強者が常駐しているかもわからないし、戦争になったときの落とし所を決めないとね。」

 

「そこも相手次第になりますし明日の会談次第になるかと。市長の性格と立場を見極める必要があるかと。市を壊滅できそうな力を見せつけつつ、相手の妥協できる所に終点を落ち着ける必要がありますので。やはり今できることは戦争を前提とした対策になると思います。」

 

 難しいね。そこからの相談の結果、現状こちらの攻撃は狙撃銃が圧倒的になるので魔法攻撃は抑えて弱体、防御、強化に割り振る方向にし、歩兵は撹乱と正面の抑え、長弓兵も牽制と抑制にし、騎兵は撹乱と敵遊撃の抑え、開発が間に合わない砲兵は銃兵に転科、一部の騎兵を銃騎兵に転科し遊撃に当てる。

 

「結局の所砲兵はどうだったの?」

 

「遠距離、広範囲と開発が進めばよい兵科になると思います。開発当初で700を超える威力と1km前後の射程がありましたから。現状でも民兵を蹴散らすには良いのですが、狙撃銃の性能を考えればそちらを増やしたほうが安定感は高いと思います。」

 

 将来的には運用してもいいかもか。ただいっそのこと戦車作ったほうがいい気がしなくはない。その延長線上に自走砲があるのかもしらんけど。

 

  軽装兵M373 Y208 急襲斥候兵C190 重装兵Y120

  長弓兵M210

  軽装騎兵M260 C210 伝令斥候騎兵C100 重装騎兵Y240

  魔術師C286 医療術師C82 B160 戦術師C220

  銃兵C30 B97 Y50 銃騎兵Y100

 

 本隊:僕 急襲斥候兵C50 重装兵Y70 伝令斥候騎兵C20

    医療術師C32 魔術師C50 戦術師C20 銃兵C30

 第一:朱鷺 軽装騎兵C100 銃騎兵Y100 伝令斥候騎兵C10

 第二:銃兵B97 Y50 戦術師C30

 第三:重装兵Y50 軽装兵M250 伝令斥候兵C10 戦術師C80 医療術師C50

 第四:重装騎兵Y120 軽装騎兵M80 軽装騎兵C105 伝令斥候騎兵C20

    魔術師C23 戦術師C30

 第五:重装騎兵Y120 軽装騎兵M80 軽装騎兵C105 伝令斥候騎兵C20

    魔術師C23 戦術師C30

 第六:長弓兵M210 戦術師C30 伝令斥候兵C10

 第七:魔術師C190 医療術師B160 伝令斥候騎兵C10

 

 本隊と第一、二は同行動。ただし第一は朱鷺が動く場合は随伴して露払い役となる。敵を駆逐する主力部隊になる。第三は歩兵隊で正面展開し最前線の構築。その後ろは第七の魔法隊で中央からの支援。その後ろに第六の弓隊。主な仕事は嫌がらせと牽制になる。左右に第四、第五を置いて流動的な足止めと遊撃牽制役となる。伝令斥候騎兵には各部隊周辺に散ってもらって擬似的な情報ネットワークを構築してもらう。型単位の意識共有を利用して通信機の代わりにする。

 

  四

  

 三 七 六 本

 

  五

 

 接敵前は本隊を前よりにして乱射。接敵前に壊滅が理想だが乱戦中もある程度は使わざるを得ない。幸いミーバの背丈が敵の半分以下、騎兵でも胸元未満になるのでそれほど困ることにはならないと考えている。銃兵への転科で概ね資源をつかったので軍強化は置いておいて自己訓練に当てる。

 

 翌日、朝から会談のために会場に向かう。兵力を誇示するか隠すか悩んで隠す方向で進める。僕と朱鷺、軽騎兵C20、戦術師C30をつれていく。会場を監視していた斥候兵から仕掛けは特にないと報告をうけて部隊に組み込んで箱の近くで待つ。しばらくするとがたごとと馬車がやってくる。草原とはいえ荒れた所を走ってくるのは大変だったろうなと思いながら離れたところで出迎える。市長側は直轄兵であろう騎士が50と魔術師らしい気配をしているものが30。思ったより警戒されてるな。

 

「お疲れさまです。反対側の扉から5名まで入室してください。魔法的な処置はしていませんので、こちらからの攻撃を警戒する場合は納得するだけの防御処置は行ってください。」

 

 僕は大声で呼びかけて反応を待つ。なんか予想以上にざわめいているがなんか変だったろうか。僕は反対側の扉から朱鷺と戦術師C3体を伴って反対側から入る。僕は中に入って暫く待つ。なかなか入ってこなくていらいらしてきたので椅子を出して座って待つ。C型に聞いてみるとなんか選出で揉めているようだ。あいつら何人この箱に入るつもりだったのかと。だいぶめんどくさくなって緊張感が無くなり朱鷺とだべりながら待っているとようやく反対側の扉が開く。真ん中の領主らしい男が手を上げて詫びるように軽い挨拶をしてくる。隣の文官っぽいのが嗜める仕草をするが領主は手を払いのけるように後ろに下げる。他は魔術師3名かな。僕は立ち上がって彼らを迎える。

 

「こちらの不手際で待たせたようだね。私が市長のグラプス=セルザライトだ。今回は話し合いの機会を作ってくれて感謝する。」

 

 優しそうな白髪まじりのおっさんだが少し疲れているようにも見える。

 

「紺野遊一郎です。こんなところで申し訳ないですが、平和的(・・・)とのことでしたので邪魔が入りにくそうなものを用意させてもらいました。」

 

 経緯だけ見れば殆どこちらに非がある気もするのだが、罠であることも考慮して少し強気に出てみる。文官と魔術師がぴくっと反応するが市長はそれを押さえつけるように手をあげる。

 

「私としては始めから平和的に収めるつもりだったのだが部下が勘違いしたようでね。威圧的に出てしまったようだ。非公式にはなるがこちらから詫びよう。表で詫びると国としての体裁もあるので勘弁してほしい。」

 

 周囲がイラつく中、市長は緩やかに告げる。

 

「私達も過剰に反撃したのは確かですし、そのことについてはお互い様ということで収めましょう。」

 

 僕は丁寧に謝罪を受け入れどちらも悪くないと相殺する。

 

「それならそれで結構。まず最初の話になるがお互い戦いにならないようにするために表向きにそちらに謝罪をいれてほしい、というのが心苦しくはあるがこちらからの提案である。罪状というわけでもないのだが、市の経済を混乱させたことと、こちらの出頭要請を拒否して騎士を殺害した件についての謝罪、ということになる。」

 

 裏では詫ておいて表ではこちらに詫びを入れろという。今度は朱鷺がイラッとしている。ふむ、と僕は考える。

 

「そちらがこちらの事情を知っているかわわからないが、現在当国は外部からの攻撃に関してはかなり敏感に反応していてな。厳然として対応する必要がある。謝罪と共にそちらには賠償金大金貨50枚程収めてもらいたい。」

 

 市長はゆっくりと落ち着かせるように語る。正直払えないわけではないが面白くないことも事実。

 

「建前上そうしていただかないとこちらの郡長、ひいては王都が納得させられんということだ。貴方も貴族なら面子の問題があるのはわかるであろう。貴方の裏にどなたがいらっしゃるかは知りませんが、本件に関してはこちらが被害者ですからな。かわりに当市とあなた方で提携をして交易という形で賠償金に関しては早々に還元させてもらうつもりだ。貴方がたの装備ほどでなくても良さそうな武具がありそうですからな。流通さえ調節してもらえれば衣料、食料品とて流してもらっても構わん。貴方は一時的に面子を失いますが、貴方と私は中、長期的に利益を得られる。」

 

 市長はどうかな?という顔でこちらを見る。あちらが僕を貴族と思ってるのは名字を名乗っているからだろうか。それとも意味不明な流通と財力からだろうか。正直なところ風で飛んでいきそうなレベルの軽い面子で得られる対価としてはかなり大きいといえる。朱鷺も難しい顔をしているが僕の好きなようにしろとうなずく。

 

「そうですね。私としても交易の取っ掛かりが欲しくて少しやりすぎたようですし、戦争まで起こして利益を貪ろうという意図は有りません。多少心苦しいですがその案に乗りましょう。」

 

 僕は戦争における損よりも当然友好による益を取る。なにより世界の情報がほしい。正式に上層部とつながればそう言った知識も集めやすかろうという判断である。C型から外で動きがあり追加で20人くらいの騎兵が来たことが知らされる。援軍にも微妙な数だが向こう側でなにか動きがあったろうか。市長側は通信手段を持たないのか特に動きはない。

 

「そうか。納得してくれるならありがたい。無用な戦いが避けられて何よりだ。形式が大事になるのでまずはそちらから謝罪文を送ってもらえるかな。交易に関しては後日調整ということで。」

 

 よくよく考えたら和平締結までうまいこと立ち回らないと賠償金丸損の可能性もあるのか。まあ財貨程度で戦争が止まるならそれこそ安いものか。お互いほっと一息ついて解散しようかという雰囲気になる。そんな所であちらの扉が力強く叩かれ、返事も待たずに力強く開けられる。

 

「何事だ。終わった後とはいえ約定破りになるぞ。」

 

 文官の人が踏み込もうとしてくる騎士の一人を咎める。

 

「至急報告すべき案件がありまして。」

 

 息を切らせている騎士はこちらをちらちら見ながら市長を見る。市長は思案顔をしながらこちらを一瞥してくるが、僕は何も知りようがないのでなんだろなくらいの気持ちで反対側を見る。

 

「構わんそこで話せ。お前らが思うほどこちらの御仁は擦れておらん。人としても貴族としても若すぎる(・・・・)。」

 

 さり気なくすごい低評価された気もするが、市長は人として信用してくれていくことくらいは伝わる。そんなに顔に出てましたかね。朱鷺はかなり警戒気味で控えているC型に撤退準備を指示している。

 

「で、では報告させていただきます。ナーサル市側で急な軍事行動がありミルグレイス市側に進軍中との情報があり、こちらの会談が罠であったのではないかという事案が持ち上がり急遽報告に。」

 

 このタイミングでヴィルバンが動く?会談の話は知らせてもないし、そもそもあちらの戦争に協力するつもりは無いのだが。騎士はしきりにこちらを気にしており、市長もこちらを見るが一応知らないという意味で首を振っておく。市長は大きくため息をついて襟を正す。

 

「向こうの領主と懇意にしているという話は聞いているが少なくとも本件とは無関係だ。伝令隊はそのまま市に戻って騎士長に軍の再編と徴募の指示を伝えろ。これが演技なら儂に見る目がなかったというだけだ。そもそもこれだけ聞いておいてなにもせんではないか。」

 

 市長はからから笑いながら懐から紙切れを出して一筆書いて騎士に渡す。騎士は敬礼をして外に出ていく。

 

「まあそういうことなので今回はここまでだ。概ねこちらの考えも分かったろうしこれから仲良くしていこうではないか。」

 

 市長は笑いながら片手を上げてそこから去ろうとする。僕もこの面倒そうな状況から逃げる必要もあり礼をして去ろうとした。その礼をして視線を下げた先に輝く魔石が転がってくるのが見えた。

 

「全力障壁!」

 

 僕は大声で叫んで全員の身を守ろうとする。最初に行ったあちらの対策なのか水晶壁の向こう側を魔法の起点にすることは出来ず、数瞬遅れて張った障壁も水晶を超えることが出来ない。舌打ちするも仕方がなく身内を守るためにも二十枚の障壁を重ねる。控えていたC型も二十枚の障壁を展開する。声に反応してこちらを振り返った市長一行はこちらの防御態勢を見て障壁の展開を行うが魔石に気がついておらず、魔石が障壁の中に入ってしまっている。

 

「あしも・・・」

 

 大声で告げる前に竜巻のような空気の渦が爆発的に広がる。水晶壁は切り刻まれこちらの障壁を砕き始める。鉄壁も切り裂かれながら徐々にすり減っていく。障壁越しに市長たちが切り刻まれるがそれなりに強いのか耐えきっている。十秒ほど続いた風の渦は障壁を十六枚破壊し止まった。思ったほど強くなかった?というか爆弾一つで殺せるほどこの世界はやわじゃないよねと思ったとき市長の首が地面に落ちた。なにが起こったかわからないと思って視線を移したとき文官の隣にいなかったはずの人影がある。朱鷺に引っ張られて僕は外に連れ出される。文官の首が飛ぶ。黒タイツとも言うような姿をした知らないけど知っているような人影は犬のような頭まで黒ずくめで覆われており、冗談のようにこちらに手を振ってから満身創痍の魔術師達に踏み込み右手、左手、青い触手(・・・・)に持たれた青白い刃で彼らの首を一度に飛ばした。

 

「それが目的かぁー。」

 

 僕の叫びに彼女?はこちらに顔を向けて微笑むような仕草をした後姿を消した。こうして始まらないはずの戦争は第三者の手によって火蓋を切られた。

 

『報酬として不老と配下といくつかの報酬をもらってこの世界にとどまったんだ。』

 

 彼にはヒレンがいたから、僕には朱鷺がいたから意識から外していたのかもしれない。彼の進化駒は一体ではなかった。

市長はいい人ではありますが純粋な善人でもありません。少なくとも商人ギルドの不正を知りつつも能力重視で甘い汁を与えながら使うくらいには心得ています。こういった人の機微や世情に乗るのがうまくのらりくらりと権力を積み重ねてきていました。

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