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俺、決める。

 少しのにらみ合いが続きシュニルがため息をつく。

 

「期待していたほどすごくないのです。ご主人様の買いかぶりでは?」

 

 ツェルナがシュニルをかなり強く睨んでいる。主人想いが酷い。

 

「俺達三人で対等に戦わされている時点で十分だとおもうがね。ちゃんとレズレーが見ていただろう?彼には我々をたやすく消し去る力があるんだ。」

 

 ベゥガがシュニルをたしなめる。レズレーは監視していたやつのことか。やっぱり見たことを共有できる能力があったんだな。構えからの下準備に時間が掛かるからこそシュニルを妨害に徹させてる訳か。シュニルは不満そうだ。本気でやれば倒せる自信が、信頼があるのだろう。

 

「アレを見られているとなるとちょっと面倒だな。」

 

 俺はあえて隙を作りながら困ったように話しかける。

 

「それが本当なら苦労しなくて済むのですがね。」

 

 ベゥガは裏があると信じてため息をつく。まぁまぁ信じてもらえるわけも無く。ただその言葉に反応する程度にはシュニルは素直そうだ。

 

「さて休憩はこの辺にするか。」

 

 俺はそう宣言してシュニルを攻める。三本の剣と二丁の銃と盾。シュニルはそれらを確実に防御していく。防御だけに立ち回らせれば手数などさほど問題では無いという。攻撃は他の者の仕事だからだろう。割り込むようにツェルナが大剣を振りかざす。縦横無尽に走り回り上空すらも彼女の行動範囲だ。およそどこから攻撃がくるか分ったものでは無い。隠密能力があるわけではないので見失うほどでもないのだが。これにレズレーの観察共有、ニュイの近接補助、ブラウの遠距離魔法補助。よくまとまったチームであると思う。狼、コボルトらしい戦術と言えるだろう。だがそれならベゥガの役割はなんだ。現在は減ったチームメイトの穴を埋めるように小さな横槍を入れてくるだけだ。ほんの些細な動作でしか無い。それを考えながらあくまでシュニルを攻め立てる。ツェルナの攻撃も受け流すが、竜の目を駆使して牽制、足止めし攻撃の頻度を下げさせる。テンポが狂っていけばそれでいい。攻撃タイミングが間延びし、わずかにベゥガの攻撃介入頻度が増える。しかしそれはツェルナの攻撃数をカバーするほどでも無く、俺に取って致命的でもなく、そしてシュニルを助ける意味合いが強い。俺も攻撃回数をわずかに減らし、武器を変え攻撃を重くしていく。その意図にシュニルは気がついただろう。そしてそれがどのタイミングで行われるかがお互いの決め手を動かすきっかけとなる。俺とベゥガが機を伺いつつ戦闘音が鳴り響く。先ほどの不満は何だったのかと思うほどシュニルは積極的に受けに回されて苦悶の表情を浮かべる。攻撃を受け流す槍は中程から歪み正常な使い方は難しく、受ける盾は大きく歪み損壊寸前である。それが狙いだと言うことをお互いが理解している。ツェルナが攻撃してくるタイミングで彼女に攻撃を重ね大きく吹き飛ばす。パターンが変れば誰もが警戒する。

 

「はぁっ!」

 

 俺が気合い一閃でシュニルの盾にメイスを叩きつけ破壊する。金属片が飛び散り強い衝撃を受けてシュニルがわずかにバランスを崩して後ろに下がる。予定調和であるかのように俺は弓を構えてシュニルに射線を向ける。弦を引き、ショットガンと竜の目に攻撃を任せてツェルナとシュニルの前進を足止めする。ベゥガはその存在を隠蔽するほどでもなく派手に見せないように終始している。それ自体が次の攻撃の意図を露骨にしていた。俺の手から弦が放たれるとベゥガの手から何かが投げられる。俺の矢はシュニルに向かい、ベゥガのダーツが俺に向かう。弦の音が鳴り響きそれぞれの矢弾がお互いの鎧に弾かれる。

 

「あ。」

 

 ベゥガから呆けた声が上がる。

 

「誇り高き狼の狩りを忘れたのがお前の落ち度だ。」

 

 部下はチーム狩りに専念しているのに主であるベゥガが動かなすぎた。それは狼では無く獅子の狩りだ。ベゥガが何を放ったか詳細は確認出来なかったが、あの小さな攻撃に込められたのは呪詛であると考えられる。ベゥガと一緒にいた頃、無敵と思われた俺があっさりと呪いによって命を落としたことはベゥガに取って非常に印象深い物だったのだろう。ありとあらゆる防御を越え、条件さえ満たせば相手を殺すことが出来る。当然そこまで行うには入念な下準備が必要ではあるが、その準備と条件さえ満たせば過度な能力は必要無い。いつかの邂逅からベゥガは俺を正面から力業で倒すことを諦めたことを示唆している。

 

「今のお前は魔術師か、呪術師か。お前がお前の強みを生かし切れなかったのが、お前自身を信用しきれなかったのが敗因だな。」

 

 シュニルが壊れた盾を捨てて収納から新たに盾を構える。ツェルナも力強く大地を蹴り俺に剣を向ける。三対一が二対一になった今、気に掛ける要素はそれほど多くない。

 

「すまんな。考えは悪くなかったが俺の予想の範疇をでなかった。」

 

 俺は糸を繰り更に操る武器を増やす。六つの武器で対応出来なかったものが二十四になったらどうだろうか。七十二の武具を操り同時攻撃、追従攻撃を操り両手とマニピュレーター二組による三系統による傀儡の武器がシュニルをなます切りにする。焦って攻撃するツェルナすら片手間に防御する。

 

「俺が教えたことを忠実に再現できそうなお前だけが俺の懸念材料だった。」

 

「も・・ぅしわけ・・・」

 

 十八の武器を突き立てられシュニルが倒れる。俺はベゥガに歩みを進める。ベゥガの動きは操る武器が制限し逃走を許さない。

 

「お前が魔法を使えるということが分った今、なおさらお前を逃がすわけにはいかない。」

 

 かといって俺も迂闊に-破魔-を使うわけにはいかない。魔力に強く依存している【物体操作】のスキルが一瞬切られてしまうからだ。それでもベゥガを逃がすよりはマシだが。失った武器を補充し直し宙には多くの武器が舞う。

 

「こんな異常な力があってたまるか・・・」

 

 ベゥガは消沈してたじろぐ。人形遣いの物体操作は見せかけの物量を作ることに大きく貢献する。片手間に人形遣いを職業設定している俺は関係スキルをいくつか持っているが、個人的に習熟出来ていないためⅧというこのレベルでは半端な能力で止まっている。ミーバと違ってプレイヤーは職業以外にも習熟という形でその身にスキルを宿し続けることが出来る。弓Ⅹ+、剣Ⅸ、盾Ⅸ、銃Ⅷ、魔法Ⅸというのが俺の主要なスキルだ。物体操作Ⅷはそれらのレベルをある程度まで再現できるが完璧では無い。それ以外のスキルにいたっては劣化にしかならない。しかしそれが分らない相手に取っては見える物量というのは恐怖そのものでしか無いはずだ。

 

「そう・・・異常に見えるがそれなりに法則があっての力だ。しかもこの世界に再現できる程度の力だ。まぁ、数がおかしいのは俺の努力の賜物だけどな。」

 

 三十三の武器をもってベゥガを斬りつける。元々剣士か銃士かを修めたベゥガにしてみれば魔法を使う戦いは慣れていないのだろう。剣で受け、障壁を駆使するが俺から見れば連携が甘いと言えるところは多かった。その隙を突かないのもツェルナを呼ぶ餌に過ぎない。

 

「俺も良く思ったが・・・A型の難点よな。」

 

 主人を最優先にしすぎて最大効率を取れない。朱鷺、菫もよく俺の危機には暴走しがちになる。桔梗はちょっと忠誠度とシナリオが行きすぎただけで重い女でしかない。ベゥガに駆け寄るために焦るツェルナは動きに力がこもる。限界を超えた力はお互いが拮抗しているならたじろく要素になりえるが力が突出しているだけのツェルナならまだ対処しようがある。

 

「お前の良さは死中に活を見いだすことにあったはずだ。相手の防御を破った瞬間に次を与えないお前の力はこの手にあるならどれほど楽をできたことか。」

 

 ツェルナに呼びかけながら大剣を受け流し、宙を蹴り再度大剣を振るツェルナの動きを降り出す前から止める。

 

「その激情と判断力のなさは朱系A型の永遠の悩みだな。」

 

 大剣をロックされ体が硬直するツェルナを三十の武器でめった刺しにする。竜の目を動かしツェルナに突撃させ『風圧』で押し出しながら追いかける。

 

「この身すら遊一郎に届かないのk・・・」

 

 竜の目が一瞬の光と共に『質量欠損』の魔法と共に消える。ツェルナによる玉砕の爆発が彼女の確実な消失を物語る。ベゥガはその光を見つめ膝を落とす。

 

「この結末は理想的な流れではある。俺に取って実質最後の戦いがお前を倒さなければいけないことだからな。」

 

「どうしてそこまで俺の死にこだわる。」

 

 改めて七十二の武器をベゥガに突き立てて俺はベゥガに語りかける。そこまで警戒される理由が分らずベゥガが吠える。

 

「俺も余計な回り道をしてしまったからしかたないんだが・・・その間にお前が逃げ隠れてしまうのが俺に取って一番の懸念材料だった。幸いグラージの庇護下に入って常に見える範囲にいてくれたことで俺の不安材料の一つが消えた。」

 

 俺はベゥガが気がつくまで解説に付き合ってやる。ベゥガは反論しようとするが何か見落としがあるのかと考え込む。

 

「他勢力と別種特典の情報も欲しくてベゥガには多くの知識を教えたはずだ。根幹たるシステムを始め、気づき、知識・・・友として生き残って欲しいという思いが強かったのもあるが、俺もゲーマーとして勝ちたいと考えていた。そうするとお前に教えたものが少し邪魔になったかなと。」

 

 俺は苦笑した。

 

「前回のグラージの様子を見る限りアレはその考えには至らないだろうと思った。根っからの軍人だしな。」

 

「そうだ・・・彼は君との戦いを経て大きく成長し強くなった。それこそ遊一郎が勝てるか分らないくらいには、だ。」

 

 俺の解説にベゥガは補足をしてくる。

 

「それは良かった。エキシビジョンマッチくらいは心底楽しめるといいからな。」

 

 俺は空を見てその戦いに思いをはせる。

 

「非・・・公式?」

 

 ベゥガの世界に似たような概念が無いのか直感的に分りやすく非公式となったようだ。それも若干違う気がするが。ベゥガがわずかに俺の意図に気がついたように思い、俺はベゥガに向き直って笑う。

 

「そうだ。俺にとってこの後の戦いはクリア後のお楽しみでしかない。この先予想される経過で俺が確実に勝つには今この瞬間を勝利する他ないからだ。」

 

 時間切れと言わんばかりに俺は糸を繰る。

 

「つまり条件が崩れない限り既に?・・・あ。」

 

 ベゥガが何かに気がついた。

 

「それが正解かどうかは盤面終了後に答え合わせするとしよう。」

 

 俺は笑みを浮かべて武器を落とす。無数の武器に突き立てられベゥガの体が急速に削られていく。ベゥガが必死に集中し魔力を動かそうとしているのが分る。一通り攻撃が終わった後、俺は弓を取りだして弦を弾く。武器は落ち、弦の音に合わせて周囲の魔力が霧散していく。

 

「これが君の力か。」

 

 ベゥガが力を失っていく。

 

「俺だけの力じゃ無いが・・・第二十弓聖技破魔。周囲の魔力構成を問答無用で解きほぐす技だよ。」

 

「呪詛という手が読まれていた時点で無理だったということか・・・」

 

「少しばかり相性が悪かったな。」

 

 ベゥガは少し微笑んで体を倒した。脳内に響く討伐メッセージがベゥガの命が失われたことを意味する。後一日以内。ベゥガが復活するまでにグラージと決着を付ける必要がある。そうでなければ同じ軍となった二勢力を同日に相手取る必要は無かった。収納から無線を取りだして魔術師に連絡を取る。戦争という意味では既に敗北することは確定していた。如何にいままで兵の能力差で押し切っていたかを痛感させられた。お互いが近い能力なら正規の運用を心得ているグラージのほうに勝てるいわれは無かったのかも知れない。

 

「ゲームのようにはいかんなぁ。」

 

 空を仰ぎ見る。魔術師に連絡をとったのはグラージの位置を知るため。収納からファイを取りだしてそちらに向かう。不意討ちする必要もないので矢を放って自分の位置も指し示す。最後の決着をつけるために。相手がそれに乗ってくれるかは少しだけ賭けになるのだが、そこは以前のグラージの性格に期待する。ファイに乗りゆっくりとそちらに向かう。連れ歩くミーバも無く単騎で進む。向かう方角から一軍が現れる。探知魔法から得られる数は二万前後。ちょっと面倒な数だなと思いながら前に進む。その心配をよそに軍の動きは止まりそこから単騎で進み出てくる者がいる。グラージだ。

 

「ベゥガを倒したのか。」

 

「そりゃな。」

 

「お前なら見逃すかと思っていた。」

 

「たとえ友だとしても対戦では容赦する必要がないしな。」

 

「そういう一面もあるのか。」

 

 乗騎から降りてお互いが進み近づき、お互いが申し合わせたかのように歩みを止める。五mと少し離れた距離。会話するには少し億劫と思えるが、周囲の戦闘が終わった荒野は想像以上に静かだった。

 

「敵に援助を送り情が移れば徹底して守り・・・お前は甘さを捨てられないと思っていた。いや、今いない配下の事を考えれば甘さを捨てた結果ということか。」

 

 グラージは一人で考察をつぶやきそして自己だけで納得した。

 

「そういう評価で概ね間違いはないと思うが・・・ね。もしかしたらその辺に一人隠してるかもしれないぜ?」

 

 俺は考察を肯定しつつも茶化す。

 

「これが最後なんだから全てを投入するさ。俺はラスボスにエリクサーを取り置くなんてしない主義なんだ。ラスボス前に無くなる事も多いけどな。」

 

 その場で攻略するということを重視するが為に、使ってしのげそうなら使う。言葉の意味が理解出来たかは分らないがグラージは少し笑った。

 

「事件ごとにそんな貴重な物を惜しまないとは・・・貴重な消耗品より換えの少ない人材を重視するか。共感は出来ないが考えさせられるな。」

 

 グラージはそう言って声を大きくする。グラージにはコンピューターゲームの概念がないせいか現実とごっちゃになっているようだ。人の命より消耗品のほうが貴重で重いというのも正直どうかと思っていまうが。俺の心はまだファンタジーに染まりきっていないらしい。

 

「お前の体は万全か?俺としては後日に改めても構わん。全力のお前を倒してこそ俺にとって意味がある。」

 

 グラージの気配が変る。

 

「待つ必要などない。戦わなければならないとき出会ったのなら相手の体の状態など気にするべきじゃない。」

 

 俺はそう言い返して陽光石の剣を構える。そもそも明日にされても俺が困る。精一杯それを表に出さないようにして戦う気を出す。決着は二十四時間以内に付けなければならないのだ。

 

「それも一理だな。お前の戦士としての矜持を汚してしまったようだ。では俺も一つ明かそう。」

 

 以前の傲慢さはどこにいったのか、こいつは本当にあのグラージ本人なのかと思うほど冷静で誠実でその所作は偉大なる剣士の一人だった。

 

「その気配は・・・剣聖に至ったのか・・・」

 

 グラージが剣をとり構えれば荒野の静寂はさらに静まりかえる。今代の剣聖の課題はなんだっただろうか。そう思い返す内にグラージの声が響く。

 

「元の世界では一国の将だった。戦功を積み上げ評価され、一戦士からそれらを率いる将となった。俺自身が戦うことは減り、他人を戦わせ、そして自国で政治という戦いも増えた。自然と俺の考えは変り上層部の考えに染められていった。」

 

 グラージは懐かしむように語る。

 

「俺達の軍は強く負け等無く、逆らう者も減った。お前の目から映った俺はさぞかし偉いヤツ(・・・・)だったのだろうな。」

 

 グラージは俺を見る。

 

「そうだな。今のお前が本当にあの時のお前なのか疑問に思うよ。」

 

 俺は答えた。グラージのいう偉いヤツとは権力と強さをひけらかす、よくある偉いヤツのことなのだろう。そう予想して答えを返す。

 

「お前に負けた後、世界に戻り腐ったように暴れた。だがベゥガから既に言われていたことを無視して、ただ俺の世界のまま強くなろうとしていたのも事実。ベゥガに再度聞き、そして世界を見直した。昔の俺を思い出した。ただ強くなりたかった昔の俺を。軍を率いる強さもあるのは理解している。だが俺がなりたいのは個の強さだったはずだと。」

 

 グラージは一息ついた。

 

「この世界では軍としても個としても弱かったと痛感したよ。そしてお前に追いつくために・・・俺はこのシステムに従属した。まさか体の鍛え方すら世界によって違うとはな。」

 

 グラージは笑う。

 

「軍として追いつくことは出来たようだ。この戦況を見れば誰から見ても明からかだ。そして次はお前を越える。」

 

 グラージは獰猛な笑みを浮かべる。静謐な世界は黒い殺気に蹂躙される。

 

「・・・二十代目弓聖、紺野遊一郎。」

 

 剣を正面に構え俺は名乗りを上げる。

 

「お前が貴族かは知らんが、俺は貴族という立場を捨てた。百三十四代目剣聖、グラージ。」

 

 グラージは剣を水平に構えて名乗る。わずかに殺気が緩くなる。

 

「弓聖なのにそんな武器でいいのか?以前持っていた剣はどうした。」

 

 グラージからの最後の温情か確認を求められる。

 

「これが俺のスタイルだからな。斬岩剣は今はないんだ。借り物だったしな。」

 

 俺は飄々と答える。

 

「そうか・・・なら・・・後悔するなよ?」

 

 グラージはゆっくりと言葉を紡ぎ・・・斬った。振りかぶることなく水平にしていた剣を腕だけで振り抜いた。どの剣聖技かは知らんが軌跡延長上を斬るやつか。体を下げて回避する。グラージの剣閃は遅いわけでは無いが斬った軌跡が即座に斬れるヤツでは無く到達にラグがあった。歴代弓聖と剣聖が戦ったケースはそれなりにある。故にお互いの技を一部一部知っているはずなのだ。弓に比べて剣は人気で実力も近い状態で剣聖が選定されることもあり入れ替わるペースは多い。それがグラージが百三十四代目なんて数えてる理由だ。そしてそれは弓聖に比べて弱いという意味では無く、頻繁に入れ替わる故に剣技という中で隙は無くそして対策は無数にあることを意味する。そこそこの剣技で挑んでもそれは無謀でしかないということだ。後悔するなよと言うのはそういう意味だ。およそ俺が振った剣の回数よりグラージの方が多いだろうし、記憶を受け継ぐ武聖という立場から考えればその数百倍の剣を振り、受けているはず。それでも俺は今のスタイルを崩さない。最初の剣閃を回避して大地を蹴り加速して前にでる。俺が剣閃を飛ばしたところで牽制にもなりはしない。戦うなら剣の届く範囲内で無ければ意味が無い。

 

「グラージ、お前は剣聖として俺と戦うつもりか?」

 

 低姿勢から飛び上がりながら剣を振り上げる。グラージから剣の動きが見えていないわけが無い。ほとんど我流なので型からの予測なんて無いだろうが、型はその流派の戦いの最適化であって勝ち筋なのだ。我流の良さなんて奇想天外さしかない。それは弓聖だからこそ分っている。意味も込められていない伸び上がる剣は一瞬で弾かれ泳がされる。泳いだ剣を持ったままでは腕ごと引っ張られる。力が加わったところで剣を手放す。剣が勢いのまま吹き飛ばされていくのを見送ること無く収納し、生金(オリハルコン)の剣を取りだし魔力を流す。飛び上がる勢いのままグラージの鎧をかすらせる。飛び出す剣に対してグラージは体をわずかに後ろにそらせて回避して見せた。必要な分だけ最小限に。浮き上がった体を狙ってグラージの剣が戻ってくる。マニピュレーターに盾を持たせて下方向に受け流す。グラージはわずかに顔を硬直させる。

 

「俺は俺として戦うぜ。軽戦士で、弓聖で、魔術師で・・・」

 

 『空中歩行』で宙を蹴り軌道を変え剣を切り返して頭部を狙う。グラージが逆手に剣を取りだし切り上げて攻撃を払う。防がれたその力のまま更に宙を蹴って飛び上がる。

 

「俺の全てを持ってお前を倒す。」

 

 弓を構えて見上げたグラージと視線を交錯させる。弓聖特有の魔力がグラージを捕らえる。

 

 第十六技 静寂

 

 放たれた矢がグラージの目に刺さる、はずだったが弾かれた矢が跳ねる。

 

「うぇ。」

 

 予想外の結果に俺は潰されたような声を上げて宙を蹴って離れる。

 

「俺の世界では常識だが・・・オーガの目はそんなにやわじゃねぇぞ。」

 

 グラージも気分が高揚してきたのか声がうわずり荒くなる。こいつは削るのが大変そうだな。俺が着地する前にグラージの巨体が向かってくる。マニピュレーターにショットガンを二丁持たせて、即斉射する。小気味の良い音で鎧に弾かれる。全くの無駄では無いだろうが現状を解決する手段にはならなそうだ。そもそも着地のタイミングなぞ俺次第だということを忘れてないだろうな。俺は宙を蹴って直線軌道から外れる。尤もグラージの大きさと二刀から逃げられる訳でもないのだが。同時に斬られるのを避ける為だ。詰めてきたグラージの剣を盾で受ける。空中歩行の力場を無くして、受けるがままに動く時間差でやってきた逆手の攻撃も盾で受けて反動だけで逃げ切る。グラージからすれば飛んだ鉄球でお手玉をしただけだ。それでも豪腕で殴られた鉄球はそれなりの勢いで飛ぶ。風系の魔法で自らを吹き飛ばして軌道を変え空へ飛ばされる。

 

「なるほど・・・これは弓聖の動きじゃないな。」

 

 グラージは笑みを絶やさない。剣聖の思想に染められているか確認したいところだが、追々と観察していくとしよう。静寂に偏ると欠点を見抜かれそうなので乱発は控える。静寂が便利すぎて関連する複合技は多い。一撃必殺たり得る無情というチャンスがある以上、仕組み気がつかれるのは良くない。選ぶのは弓技と魔法の複合。魔法矢をつがえて弦を引く。魔力を込めて狙う。グラージは守るつもりか剣を構えて様子を見ている。

 

 第一技 瞬

 

 基本にして万能。撃った矢はグラージの反応を飛び越えて鎧に着弾する。静寂ほどではないが慣れないと防御は難しい。魔術師としてMPが高い俺という弓聖ならではでもあるが。着弾した矢は着弾点を中心に『超重縮』を展開しグラージを拘束する。そのまま『大晶槍』を三本生成し重力に乗せて同時発射する。同時か時間差かどちらが防御しづらいかと考えたがそれも無意味な話だった。グラージは拘束している『超重縮』ごと振ってくる水晶の巨槍を一振りで二本、すぐさま翻した剣で残りの一本を斬り消した。

 

「剣聖が魔術師と戦っていないと思ったか?」

 

 そりゃそうだとグラージの声に納得した。単調な魔法は切り捨てられるようだ。ヴィルバンとの戦いを思い出す。

 

「さすが剣聖さまだぁー。」

 

 重ねる代も多ければ無数の職業と戦い、その対策も持っている。一筋縄では攻略できないな。

 

「手品の域を出ないなら終わらせるぞ?」

 

「そう言ったヤツからやられてくんだぜ。」

 

 俺は速射で矢を放つ。グラージが雑にその矢を切り払うとそこを中心に小さな爆発が起こる。

 

「それが手品ってやつさ。」

 

 俺が大地に降り笑う。グラージも声を上げて笑う。

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