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俺、巻いていく。

 俺の四剣による攻撃をブラウは辛抱強く受ける。時折狙い澄ませたかのように魔法を挟み込み俺の動きを制限しようとする。

 

「これは・・・ずるい・・・」

 

「そうか?この世界にあるものだけで構築されてるからそこまでずるいとは思わないけどな。」

 

 ブラウが隙を見て撃ち込んできた魔法も別腕の盾はじき、攻撃は休むことが無い。両手と四肢のマニピュレーター、そして三つの竜の目。一人で有りながら九種の攻防を同時に操る。一人で何でもやり、全てに対応するのが俺の基本形。ブラウは魔術師が本業であり魔法剣士でもない。剣と魔法というスタイルは似ていてもステータスもスキルもすべてが俺の劣化であり、ブラウは近づかれた時点で逃げを選択するしか無かったはずだ。残ったのはブラウの慢心かそれとも他の狙いがあってか。俺の方も相手の出方を見つつ即時対応で戦争を進める気だったが、どうにも噛み合わない。やはり餅は餅屋かと痛感した。同行する魔術師に全軍突撃指示をして俺は強行策に出る。ブラウが延命で時間稼ぎをしているなら助けが来るはず。どこにいるか分らないヤツを探すよりも相手に来て貰う方が良いと俺はその多少な時間稼ぎに付き合う。しかしそれはブラウがギリギリのラインで勝ち目があると思わせるくらいでいい。指導のように隙あれば相手を切り裂き防具を削る。一点を狙わず出来た隙をくまなく狙う。あえて狙いを集中せず、見るものが見ればいたぶっているとも見られない状況。押し込むべき時に一気に倒せる状況を仕込んでいく。視界の隅と展開していた竜の目に鏡のような反射光が見える。監視兵の目が復帰したと判断する。状況からするともうすぐか。見つけた鏡を熱線で攻撃し蒸発させる。監視を嫌っているように見せかけて鏡による反射方向を観測して本体のいる方向を割り出そうとする。それそのものが罠である可能性も否定できないとしながらも相手を牽制する意味もある。

 

「出番はまだ残ってたなぁー。」

 

 蛮族といえばそのような。ユウと蘇芳を混ぜたような元気な馬鹿。長い舌で口元をなめ回し、いかにも戦闘狂と言わんばかりのコボルトが現れる。真銀(ミスリル)の剣に盾。赤茶に赤よりの暗い紫を帯びた頭頂から尻尾までラインが入ったような毛色。いかにもM型を主体としたバランス型の個体。朱鷺に似たタイプと推察する。

 

「守勢に入ったてめぇはご主人でも手を焼くしな。良く生き残ってくれてたなぁ。」

 

 俺とブラウの間に割って入り剣撃を捌き始める。ブラウに比べれば技能は高く危なげなく捌いていく。

 

「ニュイ!油断してはいけませんよ。遊一郎殿が誘っている可能性はまだあります。」

 

 ブラウは助けを求めながらも俺が罠にかけていることを警戒していたようだ。しかしそれに乗るようにベゥガは指示したのだろう。狼、コボルトらしく狩りをしようということか。ならばベゥガが来る前に方をつける必要があるな。

 

「まぁその考えは正しい。まずはお前らからだ。」

 

 俺は口角を上げて宣言する。やって見ろと言わんばかりに割ってきたニュイも口角を上げる。熱源感知と音響探知の範囲を拡大し周囲の状況変化に備える。監視者の鏡のような物体がいくつか感知できる。一km圏内でもそれらしい影は見えない。周囲の状況の観測に一瞬思考を割いた間に正面にいるブラウとニュイの音響探知反応が消える。移動したのかとしっかりと正面を見据えると存在しているのが分る。ブラウが少しぎこちない仕草でしてやったりと表情を動かす。

 

「なるほど・・・そういう手も取れるのか。これは思ったより苦戦しそうだな。」

 

 暗い声で俺は口に出し、そして笑った。剣を振り上げニュイに飛びかかる。急な動きにも慌てずニュイが盾を構える。振り下ろされた剣が盾に触れると大きく弾かれる。技術か魔法か隙を作るための動作。俺の右腕が泳いだところでマニピュレーターから剣を繰り出し割り込む隙を消す。ニュイが盾を動かしそちらの防御に向けたところを見計らって逆側からショットガンを撃ち込む。その散弾をブラウが後ろから障壁を割り込ませて受け止める。続けてニュイに槍を突き立てる。それをニュイが剣で弾く。上方の竜の目に魔力を収束させてブラウの気を引く。それと同時にブラウとニュイの間に鉄壁を建てる。大剣を振り回させてニュイに無理矢理防御させて吹き飛ばす。ニュイは鉄壁に押しつける事が目的だと思ったのか強く踏ん張って大剣を力業で吹き飛ばす。俺は後ろに飛び退きながら弓を構えて狙う。溜めに一拍おけばニュイは右にブラウは左に回避して射線を一つにさせない。やはり見られているか。置かれた状況を理解し手順を思考する。ミーバの前線方向から大きな爆発が上がり始める。突撃したM型の自爆、連爆が始まったのだと予測する。

 

「すまんなぁ。」

 

 俺は矢をニュイに向けてつぶやく。

 

「舐められるような覚えは無いっ。」

 

 撃たれないことに警戒しながらもニュイは俺に向かって盾を前に出しながら突撃してくる。

 

「お前のためじゃないよ。」

 

 俺は犠牲になっているミーバ達を想いながら弦から手を離す。矢は弦の力に導かれて飛ぶ。ニュイは回避して時間を稼がれるよりも俺の元にたどり着くことを優先した。前面の盾で矢を受け止める。その矢は力強く盾を押しのけニュイの突進をくじく。予想以上に重かったのかその衝撃を受けてニュイの足が止まり、更に押しのけられて多々良を踏んで後ろによろける。

 

「残念賞。」

 

 第三弓聖技 重錘

 

 一手での決着に執着する弓聖技において第一射ではなく二射目を本命とする少し変わり種の技である。与えられた課題の勘違いから一撃で敵を打ち倒す技えおその一撃ではなく次の一撃での必殺を試みた三代目の技。研ぎ澄まされた狙いで放たれたその矢は誰の目も引くが決して即死するなどというような迫力も持たず、安易に体に受けようとも思わない雰囲気も持つ。その矢を何かしらの形で防御させようという誘導魔力を持つ。鈴のように大きく瞬間移動出来るような回避方法だと意味がないが、受け止める、流す、かすらせる等と実力が近いほど余裕のあるそしてギリギリの動作での防御になりがちなところを狙わせている。矢に込められた一撃は肉体へのダメージよりも強い衝撃を与え相手の肉体の自由を奪い、行動を失わせることに主眼を置いている。相手の防御が弱ければ数を撃ち、弱っていなければ隙間への致命傷を狙う。即座に弦を引いてニュイを狙う。監視者からみれば危険な場面、ブラウへ指示が飛びその一撃からニュイを守るように動くだろう。ニュイの正面に魔力が展開される。知らない魔法だがきっと通過する飛来物に反応するだろう事は予想出来る。このままニュイを撃ってもいいのだが、こんな猪よりも狙うべき相手は。俺は緩やかに矢先を動かし自分が建てた鉄壁に向ける。監視者から警告は飛んだだろうか。鉄壁が消え俺とブラウの視線が交差する。

 

 第十、十六複合技 無情

 

 欲しかったのは横槍が入らない時間だけ。視線を媒介にお互いの動きを縛る。放たれた矢は煌めきを纏い緩やかにブラウへ向かって飛ぶ。周囲の音も映像も今は認識されない。ただ矢がブラウに刺さるのを見届けるだけ。ブラウもどうしてこんな一撃を守れないのか不思議で、矢が自分に迫るのを恐怖を持って迎える。矢はブラウの鼻先から眉間に吸い込まれるように刺さり、そして頭部を吹き飛ばした。

 

「まずは・・」

 

「てんめぇっ。」

 

 ずれた時間感覚を引き戻しながらニュイの様子を確認しようと振り返ったところでニュイの剣が直ぐ側に迫る。けだるい体を動かしてその振り降ろしをすんでの所で回避する。大きな隙になるかと思えば誘導性があるかのように剣閃が翻り目の前に迫る。

 

「おっとぅ。」

 

 思わず驚きの声がでながらもその剣を左手の剣で受け止める。血走ったニュイの目が仲間の死に激昂しているのが見て取れる。刃を介して力比べが始まる。押しも引きもしない拮抗状態を作っている。ニュイは鼻息荒く怒りに捕らわれている。監視者から何か指示がでているだろうにと思いながらその目を見て力比べに付き合う。お互い片手で力のよれを微妙に調整しながら十秒が経過する。

 

「満足したか?」

 

「なんだ・・と?」

 

 その怒りが分らなくもないので少しだけ付き合ってやった。ステータス的には悪くないのだろうが戦士としてバランスが良すぎた。俺は全力で相手してやった訳でもない。そして本来こんな状況を放っておくような手数でもない。どうしてこの手の戦士は頭にカロリーが回らないのだろうかと手首をひねって力の方向を極端にずらしてニュイの体を崩す。腕が泳ぎ、俺から力を加えてやれば簡単に崩れる。ニュイもそれが大きな隙となるのが分って体に力を入れて耐える。しかしその場に硬直したのではあまり意味が無い。石柱で下から持ち上げてニュイを浮かせる。ニュイは抵抗するように石柱を蹴り上げてその場から逃れる。俺が弓を構えれば、ニュイも盾を構えて身を守る。学習しないなと思いつつも弦を放す。空中で自由に動くことが出来ず回避するしか無いその【非情】の一撃を持ってニュイのコアを貫いた。ニュイが落ちてくるのを無視しながら周囲の鏡の位置と方向を探る。方向とおおよその位置を確認したあと竜の目をそちらに向ける。

 

『質量欠損』

 

 エネルギーの渦が大地を森を削り喰らう。乱戦の側をかすったが味方殺しなどもう気にしない。大事にするにこしたことはなかったが、ミーバ兵でどうにかなる段階はもう過ぎてしまった。これが最後の戦いで温存する必要も無い。メタな話になるなら敵に倒されるくらいなら自分で倒したほうがいいとまである。竜の目からの望遠視覚が障害物の無くなった荒野に一体のユニットを捕らえる。

 

 第二、四複合技 燕返

 

 装備も無さそうでかなりボロボロの姿を視認したこともあり、『白炎』を込めた矢をつがえて不幸な燕を放つ。墜落を運命づけられた四十七の燕は監視者に突き刺さり、運悪く死を逸してしまった犠牲者は四十七の炎にその身を焼かれた。音響探知の端にこちらに向かってくる高速体を確認する。先制攻撃するでもなく、軽く走りながらその移動する旧友の元へ向かう。

 

「ようっ、ベゥガ。元気だったか。」

 

 その姿を視認して大きな声で挨拶した。

 

「遊一郎殿・・・」

 

 ベゥガの前に知らない薄茶のコボルトが進み出る。装備からすると重装兵か。その脇には懐かしい顔であるツェルナが控える。尤も顔の区別はほとんどつかないので認識しているのはカラーリングだけだ。

 

「前回は主人がアレだったんで見逃したが・・・今回は逆に見逃せないんでな。」

 

 俺は一方的に告げる。

 

「そう簡単にはやられません。むしろ・・・すべてをもって貴方を倒す。」

 

 ベゥガが警戒を強めながら武器を抜く。ツェルナは大剣を、重装コボルトも大盾と槍を構える。その装備と姿を見て俺は大きく頷く。一目見て高級品と分るその仕様は見慣れた物だ。

 

「なら・・・死ね。」

 

 俺が武器を展開すると共に宣言するとツェルナが勢いよく突っ込んでくる。大地を空を蹴り大剣を振りかぶる。その全身を使った振り下ろしを俺は大剣の横っ腹をおもいっきり拳で弾く。ツェルナが驚いた顔しながら更に空を蹴って回転軸を変える。

 

「それを止められるヤツがいなかったか?あまり変ってないな。」

 

 俺は一歩踏み込んでツェルナの襟首を掴んで一緒に一回転して地面に叩きつける。後ろから来る気配に対してマニピュレーターから短剣を投射して牽制する。一度だけ高い音が響き弾いたであろうことが分る。

 

「そらお帰りだっ。」

 

 ツェルナをそのまま引っこ抜き、振り返りざまにベゥガに向かって投げる。ベゥガは大きく動いてそれを回避する。ツェルナは自力で宙を蹴って体勢を立て直して着地する。

 

「随分と力業を。」

 

 前面を重装コボルトに任せたまま、後ろからベゥガが銃を構えて撃つ。俺の方では正式採用しなかった魔導銃だ。

 

「お前は随分せこくなったな。」

 

 雑に障壁を張って相殺する。

 

「シュニル。」

 

 ベゥガが声を上げるとシュニルと呼ばれた重装コボルトは更に前に踏み込んで俺の前に立つ。槍という性質上最接近という訳でもないが。槍を繰り出し俺の動きを牽制しようとする。

 

「貴方相手には様子見ぐらいでちょうど良いでしょう。」

 

 俺も様子見している手前言い返す事もない。そうしているうちにツェルナが前線に復帰し大剣を奮う。今度は大雑把に振り回すこと無く一撃を研ぎ澄まし丁寧に振るう。

 

「なんだ。ちゃんと出来るじゃ無いか。」

 

「あれは小手調べ。」

 

 俺は懐かしさを感じながら敵ながら成長を喜ぶ。

 

「さて・・・俺もギアを上げていくぞ。」

 

 監視されていた間の武器は隠す理由も無く全開で振り回していく。

 

「菫たちはどうした。」

 

 戦いの中機をうかがっていると思っていたのかツェルナが武器を振った後に間合いを詰める。

 

「残念ながら・・・全滅だ。」

 

 俺はさらっと答える。間違ってはいない。

 

「そう・・・再戦したかったのだけど。貴方が下手を打ったのか、相手が手強かったと見るべきか。」

 

 ツェルナは武器の反動をそのまま蹴りに変えるように撃ち込んでくる。

 

「俺がふがいなかったのは間違いないな。」

 

 俺はその蹴り足を剣で弾き上げる。ツェルナはそのまま空を蹴り、かかと落しに切り替える。

 

「残念ね。」

 

「ああ、残念だっ。」

 

 蹴り足を弾いても宙を蹴り、蹴りが戻ってくる。えらく面倒くさい体術だな。しかしよく体を動かしているが段々と力がなくなっていく。普通に考えれば距離が短く、筋力だけで切り返してるだけだから体全体を使うよりも弱くはなるか。そして足を掴む。それを狙っていたかのようにもう一つの足を振り上げ空中に立つ。そしてすかさず大剣を振る。握った手を放すがツェルナは落ちない。放した手から巨大な石弾を放ちツェルナを吹き飛ばす。ツェルナは勢いのままその石弾を両断し面倒くさそうに大地に立つ。その隙間を埋めるようにシュニルが槍を繰り出し牽制に努める。

 

「さて、どうしたもんかな。」

 

「貴方の引き出しはまだ多そうですね。」

 

「期待するほど多くないはずなんだけどな。」

 

 うっとうしいシュニルを魔法を使って吹き飛ばし仕切り直す。にらみ合いが両者の動きを止める。ほんとにどうしよう。

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