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戦場の支配者

 トウは槍を手に持ち真っ直ぐにペルッフェアに走る。ディファーダは当然それを許さずトウの前に盾を飛ばし進路を阻害する。その盾の裏でトウから仕草を隠しながらペルッフェアがブレスの前動作をとる。桔梗がトウの足下に土壁を建ててトウを持ち上げる。土壁に気がつきペルッフェアが首を上げて凍結ブレスを展開。迫り来る水礫をトウは冷石の盾とスキルで受け止める。

 

(事前情報通りか・・・致命的な攻撃は牙と爪・・か)

 

 トウは受け止めた攻撃の手応えを感じながら盾を飛ばしてきたディファーダに向けて空中からそのまま槍を投げつける。ディファーダは投げつけられた槍を首を振ってたたき落とす。槍は中程から砕けからからと高い音を立てて地面に転がる。ゆるゆるとディファーダの盾が投げられた場所から戻っていく。落下していくトウを見ながらペルッフェアが身をかがませる。次の瞬間ペルッフェアの体が消えるように空へ舞う。同時に聞える鈍い音。飛び上がる瞬間に合わせて桔梗が石柱をペルッフェア付近から発生させ、軌道をずらしている。空中でトウとペルッフェアが視線を合わせる。トウが腕力だけで槍を突き出す。

 

-凍エル川-

 

 ペルッフェアに槍が届く瞬間に、先端から急速に白く霜に覆われる。凍気を放つ白が槍の柄を這い上がる。トウはとっさに槍を押し出しながら手を離す。槍はペルッフェアに軽く辺り輝きながら霧散していく。霜は槍を覆い尽くし、支えを無くした槍は落下しながら霧散していく。

 

「冗談きついなぁ。」

 

 トウはぼやきながら地面に降り、その勢いのまま前転しその場を離れる。ディファーダから氷の槍が飛びトウにいた位置に突き刺さる。氷の槍は小さな爆発と共に砕け散り、再構成され更にトウを追いかける。トウは盾を構え直して氷の槍を受け止める。更に爆発。爆発した槍は再び再構成されて、盾を迂回するようにトウに狙いを定める。

 

【煉獄】

 

 世界が赤に染まり急激に気温を上昇させる。氷の槍は液状化し力を失う。そして蒸発。地面は赤熱し形状を失い始める。

 

「味方も冗談きつかったっ。」

 

「予定通り逃げなさい。」

 

 トウは棒高跳びのように槍を使いその場を逃げるように離れる。ペルッフェアは白い霧に包まれたまま空に止まり地面を見る。ディファーダを一瞥した後吠える。赤き世界は霧散し世界は元の世界に戻ろうとし始める。桔梗は難しい顔をしながら様子を見守る。

 

『小手先ではダメージが期待できず、大規模魔法にすればかき消される。防御も意味が無く、当たれば即死必至。とことん相性が悪いですね。』

 

『それを期待して巻き込むのは勘弁してほしいですがね。遊一郎さんならどうするかね。』

 

『ご主人様なら・・・力で押しつぶすでしょうね。あの方は物理も魔法も何でもありですから。』

 

『人選ミスと思いたくなるほどだね。』

 

『三対二とその他大勢ならどうにでも出来る気がするのですが。蘇芳がなんとも。』

 

『あの人がそれを織込まないかね。』

 

『織込んでいるなら・・・何を見たのでしょうか。』

 

 桔梗は竜を見上げてため息をつく。

 

『相手に力を使わせて魔力切れを狙うか?』

 

『竜という素質に加えて『杖』持ちですよ?あげくに【成長】すらあります。私達でそれは現実的ではないことは解ってますよね?』

 

『なら・・・短期決戦で私達でその力を作り出すしかあるまい。』

 

『はぁ・・・貴方は預かり物(・・・・)なのですがね。』

 

『私とて戦士には違いない。そう思われるのは心外だよ。』

 

『ならば共に。』

 

 桔梗が礼を取る。動きの変化を見たペルッフェアが首を下げて興味を引く。

 

「手は決まったか?」

 

「待っているとは余裕ですね。」

 

「それが誘いとも限らぬのでな。突発的な対応よりも策の中で戦った方がやりやすいと思うたまでよ。」

 

「慎重と言うべきか・・・やはり竜ですね。」

 

 傲慢とつぶやきながら、桔梗がトウの背中を押しながら少し後ろに下がる。

 

【加速】

 

 桔梗は自分に魔法を施す。竜が羽ばたき風と共に氷粒を飛ばす。トウはディファーダに向かって走る。

 

「魔術師が護衛を放すとは笑止。」

 

 ペルッフェアが宙を蹴って桔梗に向かう。

 

「そうでもしないと・・・」

 

 桔梗は倒れるように前に走る。

 

「貴方降りてこないでしょう?」

 

【影縛り】

 

 勢いよく宙を駆るペルッフェアに影が襲いかかり地上に引き下ろして束縛する。ペルッフェアが力任せに引きちぎれば動けそうなレベルの束縛。だが確実にその動きを鈍らせている。力に頼るか魔法消去に頼るかギリギリのライン。その一瞬の時間に桔梗はペルッフェアの前まで踏み込む。

 

【閃光】【攪乱】【静音】

 

 ペルッフェアが警戒して身構えたところに桔梗が連動させた魔法がまとめて発動する。視界を潰し、魔力を乱し、音を消す。ディファーダが慌てるように駆けつけようとするがトウがそれを塞ぐ。

 

「行かせんよ。」

 

 槍を操り踏み込ませない。盾を弾き、鎧を刺す。無理に動けば損傷が酷くなるように力の向きを操る。桔梗が立ち位置を変えディファーダから隠れるようにペルッフェアの側面に回り込む。桔梗が大きく魔力を動かせばディファーダがトウを強行突破して桔梗に向かう。トウはディファーダの鎧に槍を掛けて大きく削ぐ。ディファーダが吠えてペルッフェアの周りに漂う魔法を打ち消す。

 

「いらっしゃいませ。」

 

 ディファーダが主を飛び越えて桔梗の後ろに回り込もうとするその時に視線が合う。

 

【時空間停止】

 

 桔梗以外の世界が止まる。

 

「その魔法消去は本当にやっかいですよね。」

 

 桔梗は収納から魔法陣を展開する。ペルッフェアの周りに石柱を打ち立てる。

 

 -一秒-

 

「ただ使用制限があるんでしょうね。一方が吠え続ければ少なくとも私は封殺できますものね。」

 

 桔梗は魔力を動かし魔法を展開する。桔梗の手を離れた魔法は進行を停止する。

 

 -二秒-

 

 桔梗は魔力を動かし魔法を発動する。

 

【真空化】

 

 -三秒-

 

「回数ではない。使用間隔ですかね。後声が届く範囲でしょうか。」

 

 桔梗は魔力を集める。

 

 -四秒-

 

「それでは貴方は何を選びますか?」

 

 【招請:願いの柱】

 

 -五秒-

 

「ご主人様が要した対神兵器、その身に受けなさい!」

 

 時間が動き出した桔梗が叫び、ペルッフェアの側面から【神光】の魔法を放つ。腕甲を経て白い光がペルッフェアを襲う。

 

「それは聞いてない!というか死ぬ気か桔梗!」

 

 トウが振り返って盾を構える。石柱が結界となり中にいる者を縛る。ペルッフェアの周りは真空化しており呼吸を困難にさせ、竜の体からすれば微々たる影響しかないが体を冒す。何をされたか解らないペルッフェアはわかりやすい脅威である桔梗に向かってその口を開き叫ぶ。音にならないその魔法は確かに発動しており桔梗の予想を少しだけ覆した。真空化を破壊し、結界線を破壊して竜達は自由を取り戻す。

 

[ご主人様失礼いたします。]

 

 慣性を無くしたディファーダが落ち、ペルッフェアの背中に一瞬足を置く。魔力を打ち消す音は桔梗が放つ魔法すらもかき消す。桔梗は予定外の状況に顔をゆがめる。ディファーダがペルッフェアの背中を蹴って桔梗に向かって顎を開く。桔梗が薄く笑いながら身をひねるが明らかに間に合わない状況であった。強い揺れが世界を襲う。ベヒモスが歩みを進め桔梗とトウが跳ね上がる。ディファーダの牙がわずかにずれて桔梗の左腕を奪う。

 

「幸か・・・不幸か。」

 

 身を翻した慣性のまま桔梗は地面に転がる。見上げた視線の上で蘇芳が光を携えているのが見える。

 

『後は任せましたよ。』

 

 桔梗は蘇芳にメッセージを飛ばして壁を障壁を多重展開する。世界が熱と閃光に包まれる。

 

(そこまでの相手でしたかね。)

 

 自らの行いを棚に置いて桔梗は蘇芳の行った攻撃を思う。

 

(願いは届くでしょうか。)

 

 桔梗の想いと共に、白い光の世界の中赤き柱がペルッフェアの上に落ちる。

 

「がっ。」

 

 直径四m、長さ十mの及ぶ金属柱は桔梗によって呼ばれ遙か高空より落ちてきただけの棒である。その圧力はペルッフェアの鎧を優に破壊する。その質量と勢いにペルッフェアは地面に押しつけられ潰される。余る衝撃は周囲を吹き飛ばす。金属柱の中で変化が起き質量が動く。金属柱は動かないまま二度目の衝撃がペルッフェアを襲う。ダメージを転送され主が攻撃を受けていることを知り、ディファーダがその方向に向けて魔力消去を叫ぶ。桔梗がやったことならば魔法であるという先入観からだが、【招請】自体は魔法でも招請された物は魔法ではない。厳密には内部に魔法を含んでいるが音が直接触れない魔法を消去することは出来ない。三度目の衝撃が発生しディファーダが崩れ落ちる。そして柱が爆発し周囲に熱と破片をまき散らす。鎧の欠けたディファーダは無数の熱と刃を受け止めきれず、そして主が受けるダメージを追加で請け負う。爆発は地面を砕き吹き飛ばしクレーターに変える。

 

「あんなもん使ったのか・・・」

 

 蘇芳は自らが行った後に起きた惨状を見ながらつぶやく。ベヒモスの首を溶融させ赤い血のようにその体を大地に落としている。

 

「まぁ・・・頼まれたわっ。」

 

 蘇芳が笑って下を見る。爆発の中巨体が空を飛ぶ。三十mを越える巨体が蘇芳の前に現れる。羽を広げたペルッフェアが宙に止まる。

 

「やってくれる。まさか再生の暇無くディファーダが落とされるとはな。」

 

「おまえさんらの余裕ってヤツだろ。サービス精神旺盛で助かるぜ。」

 

 ソロネの上に立ち蘇芳が吠える。

 

「ほざけ。」

 

 ペルッフェアが視線を動かせば氷の槍が飛ぶ。蘇芳はわずかにソロネを動かして回避。ペルッフェアは移動した先に凍結ブレスを置く。

 

「お、これが。」

 

 しかし蘇芳の二m手前で白い煙を上げながら受け止められる。

 

「だが性質上ソロネの熱壁は越えられんようだな。」

 

 ソロネの炎の熱が気化熱を主因とする凍結ブレスを着弾前に無効化する。蘇芳が笑みを浮かべてペルッフェアに飛ぶ。槍が炎を纏い蘇芳が振り上げペルッフェアに叩きつける。ペルッフェアはそれを破壊するつもりで爪を立てる。槍は爪に払われ竜の外に流される。その力に乗るまま蘇芳はペルッフェアの横を駆け抜ける。

 

「ははは、こっちも有効か。とことん相性が良さそうだなぁ。不滅の炎が切れないとはな。」

 

 予想外の結果に蘇芳は笑い、ペルッフェアは驚く。

 

「あらゆる防御を無効化して切り裂くことは出来ても不滅という存在を切れないんだろ?細かいことはわからんが。」

 

 蘇芳はひとしきり笑った後弓を構えて矢を放つ。ペルッフェアはその矢を破壊しながらたたき落とす。炎の纏わない矢なら砕くことはできるが、その無駄に重量のある矢を弾くことはそれなりに負担がかかった。再び蘇芳がペルッフェアに走る。騎兵としての性質を思い出してペルッフェアも蘇芳に向かって飛ぶ。ぶつかり合う槍と爪。すれ違い旋回し、向かい合う。蘇芳の弓から-群燕-の矢が放たれる。ペルッフェアは氷壁と爪でそれらを打ち落とすが足が止まる。

 

「回避に自信がないか?」

 

-閃光突撃-

 

 蘇芳が炎を纏い瞬間的に速度を上げてペルッフェアを貫く。

 

「まずは一撃。」

 

 蘇芳は弓を手にして振り返る。

 

-飛燕-

 

 一本の矢はあらぬ方向に飛び消える。狙った相手を追う効果を持った矢であるが相手を狙わずに撃ったときはどうなるか。蘇芳は再び槍を構えて突撃する。ペルッフェアは前に出て迎え撃つ。途中で羽ばたき速度を増加し、蘇芳のタイミングをずらしその懐に爪を突き立てる。蘇芳はそれを気にせず笑いがながら槍をペルッフェアに突き立てる。

 

「いいね。突き立て甲斐がある。」

 

 蘇芳は再び飛燕を放ち突撃を繰り返す。ペルッフェアは空中での急な緩急を繰り返し蘇芳に対抗する。蘇芳もソロネの非常識な旋回、横移動でペルッフェアの思惑を交わす。同じ事を繰り返すが変化が現れ始める。

 

「最初はどうかと思ったが・・・ご主人様は見る目があるね。余裕過ぎず、そして不可能でも無い。不満にちゃんと気がついてくれてたってことだ。」

 

 深い傷を負いながらも蘇芳は笑う。傷付けは強くなる蘇芳にとっては傷は単純なマイナスではない。それをコントロールすることが重要であると教えられている。相打ち上等だけではない。事前に仕込むことでその効果をいくらでも増強できる。そしてまた突撃のすれ違いが起こる頃に矢がペルッフェアに刺さる。一瞬気を取られた隙に急加速した蘇芳に槍を打ち付けられる。

 

「放した燕はいくらでも帰ってくるぜ。」

 

 蘇芳はまた飛燕を放つ。攻撃回数の少ないの為に考案された時間差攻撃。突撃と共に別方向から攻撃が行われるという恐怖。ペルッフェアは今更ながらその攻撃の複雑さに気がついた。放たれた五つの矢が戦場を駆け巡っている。いつくるかわからない攻撃が、そしてそれは着実にその体を死に進ませる。

 

-凍レル川-

 

 タイミング的にそろそろと予測してペルッフェアは防御を展開。矢は防御に絡め取られて霧散する。守る手段はあると一安心したがそれを見守るほど蘇芳は優しくなかった。

 

「こっちも忙しいんだ。桔梗が持つか解らんでな。」

 

 蘇芳が弓に炎を絡ませる。

 

「大盤振る舞いだ。全部持ってけやっ。」

 

 -合技:神罰炎上-

 

 ペルッフェアに向けて白い閃光が飛ぶ。蘇芳が魔力を集めた時からペルッフェアが反応し矢に向けて魔力消去を放つ。炎は消え赤熱する矢のみが残される。

 

「祝福と呪いは紙一重。益か不利益かだけがその意味を分ける。」

 

 咆吼が止まれば矢は再び炎上し光を放つ。

 

「不滅の炎に呪われろ。」

 

 矢はペルッフェアは貫く。ペルッフェアの体が燃え、そして力なく落ちる。

 

「あー!降伏させんといかんのだったぁぁ。どうしたもんだろ。」

 

 蘇芳は怒りのまま力を振るいそしてペルッフェアを撃沈させてしまっていた。結果的に問題はなかったのだが蘇芳は気を落としながら桔梗を探しに地上に降りる。

 

 

-------------------------------

  

 

 【願いの柱】に吹き飛ばされたトウは起き上がって周囲を見回す。赤熱した岩石の輻射熱を感じながら警戒を強める。視界の影から繰り出される攻撃を盾によって弾く。

 

「アレでまだ生きているのが不思議ですが・・・『杯』の力ですか。」

 

 焼き爛れたゲラハドを見ながらトウが口を開く。

 

「ペルッフェアから聞くに恐ろしい連中とは思ったがこれほどかと思うわ。」

 

 ゲラハドがしゃべりながら槍を繰り出す。トウが皮膚の状況を見る限り治癒魔法を行使しながらの戦闘である。トウも槍を払い槍で反撃を行う。

 

「あの辺の狂信者と一緒にされると心外ですがね。」

 

 踏み込む音、すれる草の音、槍がぶつかる音が静かに響く。周りの派手な動きに比べれば非常に小さく地味な戦いだった。トウが受け止めたゲラハドの槍を強く弾く。横薙ぎの一撃をゲラハドの体に入れてよろめく動きを見つめる。

 

「降伏してくれると有り難いのですが。」

 

「馬鹿馬鹿しい。次があるにも関わらず、神のためにも、諦める選択など無い!」

 

 トウが静かに口を開けばゲラハドは怒りを込めて口と槍を使う。繰り出される槍を弾きながらトウはこっちも狂信者かと頭を悩ませる。距離を離して槍を突きつける。ゲラハドが口角を上げて槍を小さく振る。振動と共にベヒモスが動き出す。

 

「動ける形さえあれば頭など飾りのような物よ。」

 

「自主行動は難しそうですがね。」

 

 ゲラハドは得意げに槍を繰り出す。トウは呆れながら口を開いてその槍を弾く。頭がなくては周囲を認知することが難しいのではないかとトウは考えている。主人が作ったゴーレムもその先入観からも頭部に外部認識能力が集中していたからだ。分散するメリットもあるが、その形状にふさわしい位置に視点があることはバランスがいいことなのだと遊一郎は言っていた。ズン、ドンと背後からせまるベヒモスの音を聞きながら、トウはゲラハドの槍を大きく弾きながら追い詰めていく。槍の腕だけみればトウの方が圧倒しているという印象があった。恐らくゲラハドの本来の戦闘スタイルは槍だけではなく魔法も含んでいるからだろうと予測する。

 

「勝つ気があるなら治療を辞めることをお勧めしますが。」

 

「ぬかせ。」

 

 トウは強めに攻撃を繰り出しゲラハドを引かせ傷つける。トウはその粘り強い戦いの意味に気がつき目線を後ろに向けてベヒモスを見る。

 

「ならばその心・・・折りましょう。」

 

 トウは身を翻してベヒモスに向かって走る。

 

「馬鹿か、たかが人間が、重戦士が。一族の叡智に勝てるわけがないわ。」

 

 ゲラハドが叫ぶ。

 

「やはり自信の根拠はこれですか。」

 

 トウはベヒモスの足に槍を突き立てる。

 

「ですが、見たところただのゴーレムですよね。」

 

 ベヒモスが足を上げたと同時に槍をしならせ飛び上がる。槍を収納して再びベヒモスの足に槍を突き立てる。そしてまた飛び上がる。目線に突然ベヒモスから棘が伸びトウを突く。トウはとっさに槍でベヒモスを突き、棘を顔で受け止める。

 

「なるほどヤツからの指令を受けて部分的に変化できるのですね。」

 

 事実上その攻撃力を無視しつつ槍をしならせベヒモスの脚を駆け上がる。昇る途中の異変に気がつきながら。背中にたどり着いて周囲を見回す。至る所から棘が伸び縮みしているところをみるとゲラハドからもベヒモスからもトウを探知出来ていないことがうかがえる。

 

「魔術師としては二流ですかね。」

 

 遊一郎と桐絵の側にいるトウとしては物足りないというべき性能に嘆息する。ふと見れば空中戦を繰り広げている蘇芳とペルッフェアが見える。

 

「あちらは安心ですかね。元々押しつけたい相手でしたし。」

 

 トウは問題なしと盾を持ち直して槍を収納する。

 

「事前に蘇芳が仕事をしてくれていたのは助かりますね。」

 

 トウは盾をベヒモスに向けて振り上げる。

 

-局地地震-

 

 トウは力強く盾をベヒモスの肩に打ち付ける。縦振動がベヒモスの肩から脚に伝わり震える。不自然で片側だけの異常な振動がベヒモスを襲う。ひび割れ欠けた小石が飛ぶ。

 

「その程度ならベヒモスの再生力で・・・」

 

 ゲラハドは地表からベヒモスを見上げる。頭部があれば転移機能があったが早々に失ってしまった為乗り移ることが出来ない。その視線に見られないままトウはタイミングを見計らってもう一度盾を打ち付ける。正確に二度目の波を最初の波に重ねる。ひびをつなぎ止める力に拮抗する形でベヒモスの再生力が機能する。しかし蘇芳の掘り進めた穴、そしてその後自由なピットエビルが掘り進めた穴が著しくその脚の強度を低下させていた。再生すべきひびが重なり即時再生出来ない物が増え、そしてそれらが繋がる。穴に瓦礫が落ち隙間が増え、繋がったひびが一気に脚を瓦解に導く。中央付近から脚が折れベヒモスがバランスを崩す。

 

「止めです。」

 

-超重圧-

 

 トウは足下の肩に盾を打ち付ける。崩れたバランスに追い打ちを受けたベヒモスが折れた右肩口に向けて倒れ込む。

 

「馬鹿な、そんなことが。」

 

 ゲラハドが驚愕する。トウは倒れ行くベヒモスの背中を駆け上がる。

 

「こんな力業でも一応学問と理論らしいですがね。」

 

 トウは傾斜がきつくなるベヒモスの背中に盾を打ち付け体を固定する。腕に太い槍を固定し振り上げる。そして地面の方を見ながらタイミングを待つ。

 

「墜ちろ。」

 

 振り上げた槍を背中に突きつけると同時にトウは拳を握り混む。炸薬が弾け槍が背中に撃ち出される。トウの背後にキラキラと金属が舞う。地面に落ちた衝撃と背中に刺さった槍の衝撃が重なり亀裂が広がりベヒモスは真っ二つに裂けた。トウは崩れる背中を飛び移りながら大地に降り立つ。その背後から輝く光があふれペルッフェアの姿が大地に落ちる。トウは槍を構えてゲラハドの前に立つ。

 

「まだ・・・がんばりますか?」

 

 トウの宣告にゲラハドは膝をついてうなだれた。

 

「生き残るだけでは叶わぬのか・・・降伏する・・・」

 

 ゲラハドの小さなつぶやきが響く。

 

「状況終了です。」

 

 トウは槍と盾を収納しゲラハドに礼をとった。

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