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俺、事前処理する。

 藤の隠れ家から出た俺達を妨害する者は特に無くある意味拍子抜けとも言えた。途中村に寄って行き、森は守護者の庇護下では無くなったことを村長に伝えた。代々続く呪いとも恩恵とも分らぬ事象が無くなるわけがという村長の言い分は尤もで有り、最終的には気乗りしない藤が説明し、証明して見せた。藤からすると庇護していた覚えもないと主張するが、じいちゃんの配下だった事もあってか手に届く人間が無為に死ぬのは目覚めが悪かったのだろう。自然の驚異はともかく対応でき無さそうな対人間や魔物に対しては対処していたというのだからそれは立派な庇護だろう。村には対死霊用ではあったが他の悪意にも反応するような結界を施したので、内側からどうにかされない限り村は安泰である。村長は特に藤に感謝を告げていた。拠点に戻った俺達は研究施設を増設し藤に情報遮断を処置してもらう。

 

「結局私は研究に参加できないではないですか。」

 

 鶸がぶつぶつ文句を言う。支配されたミーバが忍び込んでも困るので仕方ない。研究の主は神谷さんと藤だ。俺は盤面に対する下準備と自己強化、そして対神装備の製造を行う。元々王城には警告を行っているが後三年以内にミーバの支援が無くなる事を伝える。

 

「分ってはいたのだが・・・辛すぎる。」

 

 今生の別れを惜しむよりも軍隊、政治に食い込みすぎたミーバのシステムをトーラスは惜しんだ。担ぎ上げた王であるグラハムは俺達との別れを純粋に惜しんだ。しかし俺の都合で担ぎ上げたとはいえ、実務面では貢献度が低いことから周囲の反応は微妙に冷たかった。そして貢献度の主力たる越後屋はすでにいつ支援を切られても問題ない状態に仕上げられており特に干渉することは無かった。盤面攻略計画上に必要な物資は完全に俺の資源に依存しているが、それ以外の越後屋本業に関しては現地の資材で九割近く賄っているようだ。

 

「一部希少品や、趣向品に関してはどうしようもありませんが、頂いた技術も概ね定着しましたし店舗営業に関しては当面問題はありません。全体の利益は半分近くになるでしょうが蓄えた財も莫大ですしね。」

 

 城下の越後屋本店の一室でスレウィンと一服している。三十年にも続く付き合いでスレウィンも老年といえる歳になっている。

 

「貴方様の望みが叶いますように・・・」

 

 別れ際にスレウィンは小さく祈りを捧げた。

 

「お前はついぞ顔を見せなんだから・・・活躍は聞いておったから心配はせなんだが。」

 

 サルードルの顔役のおばあちゃんは今もおばあちゃんだった。歳はいくつとか聞けない。おばあちゃんは更に老けた気もするがお互い変らないねと言われれば首を縦に振るしか無い。

 

「街は発展したが昔のように住み心地は良くなったよ。あの越後屋とかいうのが怪しい店を軒並みつぶしていったからね。」

 

 そう言われれば悪い気はしない。

 

「んじゃ、元気でな。」

 

「お互い様さね。」

 

 奇妙な香りのカクカダ漬けをつまみ、そして大銀貨を弾いて渡した。

 

「今じゃこれより安いんだよ。銀貨じゃ足りないがね。」

 

「それこそ腐るほど作ったからな。」

 

 お互い悪い顔をして別れを告げた。都市の外れ、森の中の森。ナクラレーンの森の奥深く、クァラルーン氏族の集落がある。話に聞いただけで立ち寄ったことは無かったが。

 

「先触れぐらい出すのが貴族の常識では無いのか?」

 

「貴族になったつもりは無いんだがな。」

 

 上が族長になりサレンも今や第二位の地位にいるらしい。しかしその発言力は第一位である族長よりもよほど高く実質のトップに君臨しているようだ。

 

「どれ、わざわざ懐かしさだけで顔をだしたわけではあるまい。何用じゃ。」

 

「いや、懐かしさだけで来た・・・かな?」

 

 サレンは正気かと声を上げて笑う。こうやって過去を巡っているのもお世話になった頃の郷愁というやつだ。深い意味はない。最初の地にも行ってみたいが・・・帝国領なので流石に面倒で時間がかかる。

 

「まぁ・・・氏族が問題ない程度に越後屋の力になってもらえればいいよ。」

 

「どちらが世話になっとるかは分らんがのう。あやつらからすれば金を介して平等ということらしいが。」

 

 サレン的には世話になっているという想いが強いようだ。

 

「もうすぐ終わらせるつもりで引きこもるから、最後に挨拶だけはと思ってね。」

 

「随分長くおったから忘れがちではあったが一応使徒なんじゃったな。」

 

 サレンは静かに笑って表情を曇らせる。その後は軽い世間話をして分かれた。実験的に制作した魔力バッテリーを抱えて拠点手前まで【瞬間移動】を行使する。盤面上の価値としての設定なのだろうが移動系は割と負荷が重い。結果的にバッテリーは不要だったが負荷はギリギリで体調に影響が出る。戻ってきたことを菫に通知し休憩室に入る。ぞろぞろと皆が集まってくる。連絡が遅れないことがそれなりに不安なのだろう。中でも自意識を取り戻した鈴はべったりだ。菫も事情が分ってか一喝はしないが内心は微妙のようだ。本来の鈴はそのステータスに見合わぬ気の弱さで桔梗よりも輪をかけて遠慮がちで主張が弱い。俺との繋がりが切れてしまっているので不安でしょうがないようだ。仕向けた手前拒否しづらいが動きづらいので勘弁してほしくはある。

 

「さて、囮の意味もあったが上からの干渉は特になかったのでチェイスも急に何か出来るというわけでは無くなったようだ。逆に時間をかければお互い強くなる余地があるが、策がばれるとどうしようも無い現状では時間をかけすぎるのは得策では無い。ここからは全体としては平行作業になるが、個々としては専業になってもらう。」

 

 俺は盤面処理計画を進める。

 

「大筋として神との戦いの後即座に盤面を終わらせる準備を進める。紺を失って内情の情報収集は難しくなったが、情報網自体は生きているので現状は問題ない。神谷さんの軍と協力して今現在位置を把握している選定者一同・・・グラージ以外を討伐する。」

 

 盤面を終わらせる大前提としての行動である。

 

「グラージを残すんですの?」

 

 鶸が疑問の声を上げる。

 

「グラージを討伐するとなると神聖ディモスそのものを滅ぼすレベルにまでなる。全軍でやらなきゃいけなくなるしグラージの残機が分らない以上アレの心を折れるかは分らん。よって時間が掛かりすぎるので最後にする。」

 

 鶸の疑問に俺が答える。鶸はその時点でその後の展開をある程度予測したようだが、苦虫を噛んだような顔をして続くであろう意見を引っ込めた。

 

「萌黄は二万を率いて北のエルフに対応。桔梗と蘇芳、トウで四十万を連れて西側の爬虫類連合を。菫はヨルと共に情報網に上がったり消えたりしている選定者らしいノームの探索を頼む。ユウは残留して臨時の抵抗勢力に対応してもらう。鶸はこれらの行軍管理と拠点の運営、クロとも協力してもらうが、クロは開発寄りに運用する。俺は能力開発と兵器開発を行う。護衛は拠点内だし朱鷺と金糸雀で十分だろう。」

 

 紺との戦いで金糸雀を倒されたものの疑似復活状態のようなものであり再度魔法を行使することで以前の状態を取り戻している。心配されていた最大HPの接収もシステムの根幹まで操作はされていなかったようで問題はなかった。紺の復活も考えたが思い入れのある品物が無く、忠誠の先も俺になかった為か復活先に誘導することは出来なかった。菫が若干不満を漏らしているが討ち漏らしは問題が出てくるので頑張って欲しい。

 

「復活されることは避けたいので選定者を倒す際には必ず降伏に持ち込むこと。力で蹂躙し復活しても無駄であることを悟らせ復活回数に関わらずその場で脱落させることが条件だ。自害でもされたら仕方が無いが、よほど上手く隠れない限りあぶり出して倒せるとは思うが・・・ね。」

 

 俺は話を切って周りを見る。神谷さんの配下がいるわけではないが今更断る状況でも無い。

 

「討伐に関しては目標半年以内。捜索に関しては一年・・くらいで終わらせたいね。」

 

 なにせたまに変な行動をして目立つが音沙汰が無い期間もそこそこある。今あの辺かもというくらいしか情報がないのだ。

 

「後は・・・討伐の主体はあくまで神谷さんの配下で・・・ね?」

 

 俺のこの発言には菫と蘇芳が眉をひそめる。

 

「相手によっちゃそうはなるかもしれんが・・・譲るとなると話は変んじゃねーか?」

 

 蘇芳は暴れれば良いだけという環境では無い事自体が不満なのだろうが。

 

「幸い盤面でチームとして勝つには俺だろうが神谷さんだろうが問題無いだろうし、神谷さんも叶えたい望みがあるだろう。彼女にもポイント稼ぎをさせてやりたい。実際その余裕もあるしね。」

 

 俺は建前上の話をしてやる。相手の予想戦力を最大限に見積もっても現状で蹂躙できる見込みだ。

 

「秘匿しながら研究することもあるけど、これ以上稼いで目立ちたくないという想いが強いかな。」

 

 本音を混ぜながら説得を促す。

 

「まぁ蘇芳は敵将の片方ぐらいやってもいいよ。ただしちゃんと降伏させるという目標は達成してもらわないとね。実際の所蘇芳が満足できる相手じゃ無いとは思うけど。」

 

 この先蘇芳が満足できるとなると、最終戦のグラージ、ベゥガ戦くらいだろうけど。そこに至れるかは今も予想出来ない。

 

「しかたねぇなぁ・・・」

 

 蘇芳は相手の戦力と俺の意向を察して渋々納得する。

 

「蘇芳は貴方から見て弱そうな方を相手すると良いのです。それが貴方を満足させるでしょう。」

 

 俺の膝の上でごろごろしていた鈴が突然頭を上げて蘇芳に告げる。

 

「そいつは気が進まねぇが・・・予言とあっちゃ興味があんな。」

 

 蘇芳は笑みを浮かべて機嫌を直す。気分がよくなって何より。

 

「そういうわけで皆頼むよ。」

 

 俺は手を叩いて行動を促す。終わるために始めよう。

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