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俺、抵抗する。

 石柱が力を失い重力に従って地面に落ちると同時に、動揺から回復した者達が動き出す。

 

「あの野郎正体を現しやがったな!」

 

 ユウが叫び武器を構える。

 

「ユウとトウは下がれ。止める防御は効果が無いどころか即死の可能性がある。相性が悪い。」

 

「ここに来て引き下がれってのかっ。」

 

 俺が警告するがユウは噛みつく。

 

「せめて本来の主である神谷さんが来るまで大人しくしてろよ。」

 

 俺は少しげんなりしながらも下がるように願う。どうもユウはチェイス系に短気でしょうがない。トウが小声で耳打ちし出口方面へ下がる。トウは理解が早くていい。問題は神谷さんが戻ってきた時だが。

 

「金糸雀も今回ばかりは防御を自重してくれよ。」

 

 正面に浮く盾に向かって声をかける。納得いかなそうに微振動で音を伝えるがそれこそ相性が悪すぎる。金糸雀は基本的には重装兵である。【幻想】がある時に比べれば攻撃汎用性は著しく下がる。【絶断】に加えて【審判】。使用距離が若干ずれているとはいえ、どちらも即死を内包している。迂闊に接触させるわけにはいかない。

 

「主殿は優しいであるな・・・それが足かせになると思いませんか?」

 

 紺の気配が一瞬あらわになる。

 

「お前がそれを狙うとういうなら止められんが・・・」

 

 俺はそれに釣られるないように、だが意識だけは一瞬そちらに向けてやる。そこにはすでに紺の気配は無い。当然ブラフなのだが一応確認のためにも《爆破》の魔法を放っておく。当然当たらない訳だが、そもそも【潜伏】しながらどうやって移動しているかが一つの謎だ。他にも【審判】で隠した後付けスキルがあると見るべきか、もしくはステータス表に現れないアーツで条件を満たしているかだが。萌黄に意思を飛ばしながら動きを観察し身を翻す。一瞬だけ現れる気配に向けて陽光石の剣を叩き込む。現れた紺の姿を一瞬捕らえたものの、笑みを浮かべながら剣に軽く手刀を当てたかと思えば剣は中程から切断され遠心力に促されて剣先が飛んでいく。そのまま紺が手をこちらに伸ばしてくるのに合わせて間に《爆発》魔法を挟みお互いの距離を離す。

 

「仲間を叩くようなら引き戻すことは無いぞ。」

 

「それこそお優しく・・・甘い考えですな。」

 

 俺はまだ和解の余地があると諭すが、紺はそれを一蹴する。紺が手を振れば紺の姿も気配も消え去る。この原理もよくわからん。【絶断】で何を斬ってるんだ。菫が勘に任せて短剣を投げるが空振りし地面に突き刺さる。どこかに存在はしているなら部屋の中全域を攻撃する方が早いか。魔法水晶を取り出そうと収納をあさるが取りやめる。

 

「それも狙いの一つか。」

 

 萌黄の硬直を見計らって大きく回避する。タイミングが早かった為紺が追いかけてくる。これはお互いの誘いだ。紺は手刀を振りかぶり、俺は神涙滴の剣で突き、合わせて《白光》を重ねる。反射的に菫が更に攻撃を重ねるが。

 

「ちっ、無理か。」

 

 《白光》を中断し、《爆発》を八重に発動する。更に静観していた桔梗が《爆発》を重ねる。紺から広がるちらつく光が魔法を切り裂き無効化していく。桔梗が爆発を重ねたおかげで紺の試行回数を超え重ねられた爆発の数に比べて規模の小さい爆発が、それでも部屋の中をかき回すには十分な威力であったが、結果的に俺と菫は助かった。

 

「何回だ?」

 

「六です。」

 

 俺の意図を察して桔梗が返答する。先んじた俺の爆発は全て相殺されて、桔梗の爆発が三回ぐらい残ったか。これは流石に抜く(・・)のが大変だ。

 

「掛かりませんでしたか。」

 

 紺が余裕そうに部屋の隅で糸で結ばれた何かを振り回している。

 

「流石に萌黄じゃなくても嫌な予感がしたわ。」

 

「侮れませんなぁ」

 

 俺が答えると紺は楽しそうに声を出し、手首を翻した。小さな光を放ち何かが飛んでくる。空間を切り裂きながらめくれるように虚無が姿を現す。

 

「無茶苦茶しやがってっ。」

 

 糸の先にカミソリでも着けてるのか、何かが世界を切り裂きながら飛来してくる。流石に弾いてみようかとかすめた考えを投げ捨て、焦ってその場から離脱する。世界ごと切り裂かれればその瞬間は死にはしないが原状復帰するまで動けばそのまま寸断されることになる。そのわずかな時間に追撃を受けてやはり死ぬことになるだろう。一手ではなくとも即死には違いない。そして紺が攻撃している間は姿が消えず、俺に攻撃が飛んだことに合わせて菫が紺に迫る。

 

「勝ち目が無い事は貴方も分っているでしょう。大人しく縛につきなさい。」

 

「菫殿は主殿同様お優しいですな。ただ・・・勝ち目が無いかは・・・どうであるかな?」

 

 菫が珍しく正面から短剣を突きつける。紺は菫の勧告を笑いながら流す。

 

「主殿は常に全力に近いですが、紺はまだまだ手札があります故・・・」

 

 菫が紺に短剣を突き立てるとその姿は花びらをばら撒きながら消え失せる。驚く菫の前には花びらと一本の棒。《幻影》、【詐術】、そして【審判】。何を現し、何を騙し、そして何を覆しているのか。【絶断】もそうだが神絡みのスキルは検証がしづらく、多くが会話で済まされていたことが惜しい。こうなってくると紺が開示した情報が事実がどうかも怪しく感じてしまう。詐術恐るべし。嘘を突き通すには真実を少し混ぜるとはよく言ったものだと妙に感心する。いつから紺がそこにいたのかは分らないが棒が支える糸の先には糸の根元を持つ紺がいる。逆の手が下手から翻り煌めく光を放つ。そしてまた爆発。

 

「菫。それはもうご主人様に仇なす敵です!切り替えなさいっ。」

 

 桔梗が爆発を下から起こし紺が振り上げたぺらぺらの紙のようなものを吹き上げる。

 

「ああ・・・取り損ねましたな・・・」

 

 紺は残念そうに声を出しながらも表情にはそんな気配を全く見せず、むしろ小さな愉悦すら見える。しかし予想通りではあるのだが振りかぶった時点で斬ろうと思ったものしか斬れないんだな。ただ最初から世界そのものを斬られるとあまり意味の無い話ではあるが。

 

「さぁ少しペースを上げるであるよ。考える時間は主殿の力であるからな。」

 

 紺が両手に短剣を構え体を前に倒す。蹴り脚を踏み切ると同時に紺の姿が二十に分かれる。

 

-輪廻-

 

「私の前で分身など。」

 

 単体攻撃が主体の近接戦士ならともかく幅広い攻撃手段を持つ魔術師相手に分身の相手はさほど難しくない。桔梗は牽制かつ多数攻撃のしやすい【光の槍】で分身すべてを打ち抜く。その全てが虚影。打ち抜かれた分身がほころびその横に新たな分身が生まれる。輪廻というアーツの影響なのか、幻影を追加しているのか分らないがタネなどどうでも良い。残り時間で暴くほうが難しい。二十のうち二体ずつが菫、桔梗、萌黄に割り振られる。アリアや鶸は放置か。選択肢を与えて俺を牽制するのが目的なんだろうが。

 

「チェイスの命令は俺だけなんだろ?俺が落ちたら皆がどうなるか分らんが。」

 

 迫る紺に一声かける。せまりくる多数の紺が口角を上げる。

 

「分ってやってきてるんだろうが・・・乗ってやるよ。」

 

 紺は知っているはずなのだこうやって攻撃すればそうせざるを得ないことを。俺は収納から弓を取り出し弦を放す。構えて取り出せばあとは手を放すだけだ。

 

-弓聖技 破魔-

 

 紺はそこと言わんばかりに何かを飛ばしてきて弦を斬る。

 

「お?」

 

 技が発動する前に技の母体を潰す。それが出来るならそのまま俺を攻撃すれば良かったのに、今更何を知りたいんだ?

 

「残念だが、それ自体がフェイクなんだよ。」

 

 弦が宙に泳いだままでも弦がならす独特の音色が響く。何度も技を見られればその技が来ることを知られ、そして対処される。これ見よがしにそれらしい大本を作っておけば最初はそれに釣られるだろ?破魔の発動準備は構えた時点で終わってるんだよ。弓を中心に全周囲に向けて魔力の流れを沈静化する効果が波紋のように広がり紺の分体を次々に消していく。菫は大きな動きを止め、萌黄は慌てて武器を収納し、桔梗は何も起こらないと慌てずその身を正す。

 

「少しは危機感を覚えましたかな?」

 

 元々決めるつもりは無かったのだろうかとアーツの起動した位置から動かないでいた紺が口を開いた。

 

「いや・・・お前のやることに疑問を覚えたくらいだな。」

 

「ご主人様の要求の一つであるからかな?・・・いやいや、ご主人様もそれをお望みでしょう?」

 

 俺の返答に紺が律儀に答え、そして上の空で言葉を紡ぐ。交信中か?

 

「これ以上俺の配下を惑わすなっ。」

 

 俺は弓で紺に狙いを付けて速射する。紺はその場から飛び退いて回避する。その回避の瞬間に『静寂』をかぶせて動きを止める。軸足を弾き体勢が崩れた所に、先に撃った矢が紺を穿つ。

 

「はははは、上の空では対処が困難でしたな。恐ろしい、知っていても回避が難しい。やはり主殿の相手は真面目にしなくてはっ。」

 

 部分的に装備を削っただけで相手を倒すには気の遠くなる段階だ。紺は頭の片隅に鳴り響いているであろうチェイスの言葉を振り切り前に出る。見たところ紺とチェイスの間で見解の相違があるようだ。チェイスは遊ばず即殺してほしいんだろうな。もうお遊びの段階は過ぎたからこそこうしたんだろうから。しかし紺はご主人様(・・・・)がそう望んでいるに違いないと行動している。攻略の構想はあるが時間があるにこしたことはない。紺の言うとおり俺に取って時間は重要だ。ある意味紺の余裕が無くなるまでがリミットと言える。チェイスの命令を遂行できない事は紺にとって背反行為であるはずだからだ。そして沈黙を保つもう一人の使徒(・・)はどうだろうか。

 

「クロ。お前はどうするんだ?見たところ指示は無さそうだが。」

 

「私は・・・」

 

 紺動きにくいように多弾系の魔法で牽制し続ける。桔梗も相乗りして弾幕の密度を上げている。紺は余裕を崩さずそれらを切り払い徐々に俺との距離を詰める。

 

「邪魔するな・・・は多分通じないんだろうが、お前はどうしたいんだ。」

 

 クロの立場からすれば審判の可否を迫られたら否決を選ぶ理由は無い。ただ言い淀む事からクロが躊躇する要素はあるのだ。

 

「指示はありません・・・が、私は逆らえない。逆らうわけにはいかないのです。」

 

 クロはかぶりを振って悲痛な叫びを上げる。理由は分らんが、クロにとっては辛いなにかなのだろう。俺はクロに対する説得は諦め紺に目を向ける。狂ったように四方八方から放たれる魔法の数々をただ空間を切り払うだけでいなしている。魔法そのものが消えたり、誘導機能が消えあらぬ方向に飛んだり、当たったかと思えば紺が消え、俺と桔梗の魔法を相殺させるような器用さと余裕さえ持ち合わせている。

 

「桔梗。一旦静観しろ。」

 

「どういう・・・」

 

 俺は桔梗が意思を確認する前に紺に詰め寄る。

 

「はは、主殿。近接戦はそれほど得てではありますまい。この距離なら紺のほうが分があるであるよ。」

 

 俺は神涙滴の剣を振るい紺と打ち合う。紺が手に持った短剣で俺の剣を受け止め、弾く。二十と少し打ち合い紺が俺の剣を受け止めた時、俺の剣が寸断される。逆の手から短剣が振りかぶられる。その手首を分っているかのように朱鷺の剣が飛び出し押しとどめる。紺の意外と感じる笑み。朱鷺は金糸雀と違って自己主張が激しくないからな。ただ俺の意思を推し量る事においては菫より子細だぞ。

 

「穿て。」

 

 -弓聖技十八 無影-

 

 十七代目の課題。弓無しで弓聖として戦うには如何にするか。お偉方に謁見するときには武器を取り上げられるのはままあること。こんな武技に撃ち込むような輩が高貴な血筋であることは少なく、十七代目はそれを拒否できずに命を落とす。よく十七代目までそんな場面に出会わなかったと思うものだが、十七代目はことさらにそれが悔しかったようだ。十八代目が生み出したこの弓聖技は魔力を弓として形の無い矢を放つ。ただ単純に魔力で魔力や空気の塊を撃ち出すだけの技を弓聖技として高めた、ある意味弓聖としてのこだわりの塊である技である。矢として形のある弓聖技は使えないが、そうでない弓聖技は無理なく使用でき、なおかつ矢が用意できれば使用できない弓聖技は無い。そして便利なことにこの弓は片手で用意し放てるのである。後の弓聖にクロスボウと揶揄されたのは一つの笑い話でもある。収納からいくらでも矢が任意の位置に出せる俺からすれば中々愉快な使い方も出来る。最初の一射はメジャーな弓系アーツであり矢にあり得ないほどの衝撃を乗せる。ミーバに急所的な弱点があるわけではないが、みぞおちにその矢をぶつけ吹き飛ばす。痛みは無いが大きな衝撃を受けて紺が吹き飛ぶ。体の重心に大きな衝撃で押され続けられればたやすく動くことは出来ない。距離を取るためではない、動きを止めるためだ。

 

「まだこんな便利なものがあるなら・・・」

 

「強敵は人外の方が多いからな。」

 

 紺が何を出し惜しみして隠しているのかと抗議するように声を上げるが、俺は食い気味にその言葉を否定する。竜やケルベロスの重心なんか知らんし理解も出来ない。俺は弓を構えて狙いを付ける。この溜めが終わるより早く紺は動き出すだろう。紺も-非道-という技を知っている以上それほど慌ててはいない。軽くなり始めているみぞおちの重圧から抜け出す準備は出来ている。

 

「欺し欺され、俺もお前もそうし続けただろう。どうしてこれが二の矢だと思っているのか。」

 

 俺が紺にそう宣言したのはもう間に合わないと分っているからだ。

 

-十、十八複合技 絶句-

 

 紺の天頂から煌びやかな光が放たれる。無かった気配が急に現れ紺が釣られて上を見る。

 

「十八代以後の弓聖がやろうとしても諦めた。一つならまだしもそれが七つとなればな。」

 

-神技 北斗七星-

 

 歴代弓聖により認められたこの技はかなりの魔力と判断力を要求する。脳筋どもでは位置計算が出来ないらしい。手元から離れれば離れるほど無影を操るのは難しくなる。だが馬鹿みたいなステータスを持つ俺にとってそれはそこまで難易度の高いものでは無かった。紺が意を決して自らの腹を押しこむ矢を切り払い、その体を犠牲にしてその場から逃げる。そこまでは計算通りだったが、降り注ぐ絶句がそこから逃げることを許さないはずだった。紺が苦し紛れと言わんばかりにその場を爆破する。紺の行動回数からすれば全ての絶句を切り払うのも難しいはずだった。その行動回数を爆破に割り振った事を警戒する。システムから提供されるログが紺に攻撃が当たっていることを告げる。しかしその全てが当たる前にログが停止する。

 

「ご主人様!」

 

 実体化した金糸雀が背後左斜め後ろから襲いかかる紺の手を受け止める。

 

「ご主人様を裏切ったお前を許すいわれは・・無い!接収」

 

 紺は金糸雀の体に指先を触れて宣言する。

 

「可・・決。」

 

 クロが心苦しそうに宣言する。


『否決!』

 

『可決する。』

 

「HP上限を接収するっ。」

 

 響き渡る声が接収を可決する。否決した女の声は・・・鈴か。最後の可決はチェイスだろうが。鈴が否決した?どちらにせよ金糸雀の体が崩れ落ちる。

 

「二度も申し訳ありま・・」

 

 金糸雀が言い切る前に紺が体を断ち、金糸雀の姿が消え盾が転がる。俺は状況を見ながら動かしていた体を紺に正対し。矢を放つ。紺の右肩を非道の矢がえぐり貫く。紺が腕を力なく垂れ、飛び退くようにその場を引く。

 

「お前らも一枚板じゃないんだな。」

 

 俺は金糸雀の盾を収納し、静かに声をかけた。

 

「鈴は負荷に耐えられず無情であったであるが、本来は間違いなく主殿の配下であるよ。」

 

 紺が左手を振り上げ俺に向かって刃を投げる。

 

「それを聞くと少し安心したよ。そろそろ状況が見えただろう、魔法馬鹿共。」

 

 紺の刃を軽く回避しながら、奥の部屋で熱中していた魔法オタ達に声をかける。

 

『そちらに行くには時間がかかります。貴方が落ちる可能性がある以上彼女をそちらには遅れません。』

 

 呼びかけに答え藤の声が広間に響く。

 

「このまま見守れと言うことですの?」

 

 紺に対して割り込む手段を持たない鶸が叫ぶ。

 

『そちらの事情です。私には私の事情がある。』

 

 藤は冷たく言い放つ。

 

「悪い。そっちが来る必要はまるで無いんだが、神谷さんはこっちの状況が見えてるんだよな?」

 

 鶸と藤の喧嘩の原因など俺に取ってどうでも良く、あちらにいる神谷さんに用があった。

 

『それはもちろん。』

 

 藤が答える。

 

「クロを説得して封鎖してくれ。」

 

 俺は簡潔に意図を伝えた。それが何の意味を持つか分らないが、恐らくクロの障害を取り除けるはずだった。

 

『それでどうにかなるの?』

 

 放送室なのか知らないが神谷さんの声が聞える。

 

「どうにかなる、と思ってる。クロは丸損かもしれんが。」

 

 俺の言葉にクロがびくっと体を揺らす。

 

『やってみる。』

 

 神谷さんから簡潔に声がかかる。俺の考えが全て分っているわけじゃ無かろうに。よく信じる気になったな。

 

「クロをどうにかしたところでご主人様が鈴を制圧すれば結果はかわりませんぞ。」

 

 紺が駆け足で迫る。俺は矢を放ち紺を牽制する。衝撃を放ち先ほどの攻撃を匂わせることで踏み込ませない。離した無影からも放ち紺の動きを散らす。

 

『鈴聞えてるな。ミーバを五体目の前に集めろ。』

 

 俺はメッセージを鈴に送る。

 

『もう鈴から離れて声を聞くことは出来ないが、これが鈴の憂いを断つ手段になる。』

 

-群燕-

 

 矢が飛び交い紺を突き放す。

 

『四体ずつが見えるように並べて、左から二番目を注視しろ。』

 

 俺は鈴に情報遮断の手順を伝える。

 

「主殿は黙して何を思っていますかな・・・?すぐに倒せ。先ほどからそう言われますが、主殿も流石に・・・」

 

 チェイスには意味が理解出来たか。

 

「仕方ありません・・・なっ。」

 

 紺が増えた耐久力を盾に前に突き進む。被弾も恐れず俺に向かって最短に。

 

『そこから右端を注視して。』

 

 鈴に言葉を伝えている間に紺が俺の前に降り立つ。朱鷺が切り払うが紺は消え去る。流石に馬鹿正直に前からは来ないよ。釣られたな。

 

「主殿、これでチェックメイトでありますな。」

 

『左端を見直せ。』

 

 紺が静かに声をかけ、俺は最後のメッセージを送る。

 

「接収。」

 

「可、可決。」

 

『否決します!』

 

『可決する。』

 

 宣言が行われれば速やかに議決される。間に合わなかったか。

 

『否決しよう。』

 

 決定される前に知らない声が響いた。

 

「な?」

 

「は?」

 

 驚く紺。そして俺。

 

『貴様。大国主命かっ。』

 

『ここで終わっては申し訳が立つまい。大人しく引き給えよ。』

 

 知らない誰か。何故か大国主命によって接収が否決される。同数なら発動しない。そして恐らく鈴はやり遂げた。天井をキョロキョロとみるクロ。頭を抱えかぶりを振り、そして俺達を見た。驚きの硬直から回復した紺が、再び笑い。

 

「接収。」

 

 宣言した。

 

「否決します。」

 

 静かに、しかし力強いクロの声だけが響いた。

 

「な・・ぜ?」

 

 紺が戸惑いながらたたらを踏むように後ろに下がる。

 

「絶断ならチャンスがあったかもな。避けられない即死に頼ってくれて助かった。」

 

 俺は紺に向き直った。

 

「どうしてご主人様の声がっ。」

 

 紺が俺に向かって叫ぶ。どうせ俺が何かしたんだろうと。実際そうだが。

 

「あっちで知ったネタを使って鈴への干渉を封じた。鈴にメッセージは届けられても、鈴にそれを実行する意思はもう無い。鈴は・・・正しく俺の元に戻った。」

 

「【神託】を封じるなんて出来るはずが無いっ。」

 

 紺が叫ぶ。

 

「【神託】を封じたんじゃない。神託に悪さする神の干渉を封じたんだ。俺は聞けないが【神託】は機能している。鈴が神託を聞いて、そして神託を通じて意思を伝える。その流れを切っただけだ。」

 

 俺は律儀に答える。紺を折る為に。

 

「そんな・・・どうやって。」

 

「原理は俺も知らん。だが・・・これからは気軽にチェイスの意思が地上に降りてくることは無い。正規の手段なら知らんが。」

 

 俺は言い切った。バグを利用した賭けに俺は勝ったのだ。

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