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俺、敵となる。

 俺と神谷さんの重苦しい雰囲気とは裏腹にアリアには理解出来ないようでおろおろと俺と藤を交互に見ている。

 

「その・・・管理者権限?とは・・・?」

 

 アリアは恐る恐るといったふうに俺の顔を見て尋ねる。まぁ確かにそれからだよな。俺は藤をちらっとみて説明を促す。

 

「管理者権限とはこの世界に張り巡らされているシステムに対する権限です。」

 

「え?」

 

「は?」

 

 藤が説明したところである勘違いにより俺が声を上げる。藤がそれに対して分ってますよね?と言わんばかりに俺を見て声を上げる。

 

「すまん、続けてくれ。」

 

 俺は声を上げて中断したことを謝罪し続きを促す。藤が少し疑い深そうな目をしながらも説明を続ける。

 

「ルール上における行為は各神々も利用する手段があり、そしてバグを消す処置があることからシステムを改変するような管理者権限を行使する手段は天界の方にもあることが分っています(・・・・・・)。チェイスはそれらを経由せずに管理者権限を行使出来ることが優様が確認しております。」

 

 藤はそう言ってからため息を吐く。

 

「条件に見合わないスキルの付与、内容の改変から創作もさることながら、そもそもシステムから供給されるエネルギーを停止することすら出来ると考えられています。」

 

「まぁ管理者っつーくらいだしな。」

 

 藤の説明が続き、俺は相づちを打つ。藤は俺の軽い口調が気になったのか少し眉をひそめる。

 

「この世界の住民はシステムの恩恵を受けているだけですが、盤面中の選定者はシステムに依存しております。おわかりですか?遊一郎様。」

 

 藤が理解度を確認するためか嫌みな先生のような口調で俺に話題を振る。

 

「まぁ薄々は理解していたよ。体ごと無くなる可能性もあるんだが・・・死亡時死体は残ることから考えると、元の体かそれ以下の状態になるんだろうな。」

 

 俺の答えに藤はある程度満足したように頷く。

 

「その通りでございます。システムの恩恵を失った選定者は構築された時点の身体的能力や魔力に回帰します。」

 

「やっぱりか・・・」

 

 藤の断言に俺は面倒くさいと思いながら頭を掻く。この世界に来てから体が何一切成長していないし、傷を負っても治療次第では元に戻り、四肢を失った場合にはそれなりの手順が必要になるが元に戻す余地がある。魔法が強力であるにしても元の体の情報が何一切変更されないのは、何か強力な保護があることが予想出来ていた。筋肉もついていなさそうな細腕で体の数倍を跳躍したり、岩を投げたり出来るのは不自然でしかなかった。魔力という存在で片付けるにはおかしなことは多い。

 

「結果発表の場は天界であったようですがシステムが限定的に稼働しているようでした。そうで無ければ私達も存在できませんでしたしね。一矢報いるならこのタイミングを置いては無いだろうと思われていました。」

 

「そう思うよな。」

 

 藤の話を聞いて俺が頷く。その言葉のやりとりに違和感を感じて神谷さんが首をひねる。

 

「そんな力を持つ存在に反逆できるのでしょうか・・・」

 

 アリアは俺のやろうとしていたことに改めて恐怖と不安を感じているようだ。

 

「始めの頃にチェイスに煽られたんだが・・・最後の願いの場で神への挑戦を行った者がいると言われたよ。確かに神に一矢報いるなら神が目の前にいないとしょうがない。そしてそれを実行するにはこの世界の全てのエネルギーを持っても困難であることも別の神から示唆されている。」

 

 俺はそう言葉を紡ぐ。

 

「いや、もう無理じゃ無いですか・・・」

 

 アリアが声を落とす。藤も首を振って頷いているが口元に笑みを浮かべている。

 

「だがそのシチュエーションを伝えること自体が罠でありヒントであると思えた。ありきたりを期待していないチェイスだからこそかもしれないが、あの場で反逆しても無意味であると。」

 

 俺はそう続けた。

 

「ではどうやってチェイスに一矢報いると?盤面をかき回したところで天界の視聴者が喜ぶだけでしょう?」

 

 神谷さんはおぼろげながら答えに気がついているようにも見えるが、その結論を口に出すのが恐ろしいようだ。信心深い彼女からすればその行為は邪神とはいえあまりに不敬で危険な行為だろう。

 

「盤面を思惑通りに進めないというのも一つ手なんだが、やはり直接殴りたいよなぁ。」

 

 と大仰な身振りで藤を見る。

 

「一応遊一郎様もその選択肢は考えられておられたのですね。」

 

「正直とっかかりもできてないがね。」

 

 藤が笑みを浮かべる。アリアはまだ気がついていないようだが。

 

「神を・・・この世界に呼び出す。」

 

 俺はその答えを告げる。藤が頷いたことからそれ自体はじいちゃんか藤の結論の一つのようだ。

 

「優様の考えでは神は肉体的にも魔力的にもこの世界の生命体を著しく凌駕しており、つけいる隙はほぼないだろうと考えていました。ただその精神性については別で、我々の知らない知識や技術があるとはいえその考え方は人類の延長線上にあり八百万の神々?に近いと言っておられました。」

 

 日本の神々は確かに人間くさい所は多いよな。地域や現象に密着した神々が多い。むしろ何もかもに神を見いだしてしまったからこそ八百万・・・無数に存在する神々なのだろうし。

 

「システムに縛られたこの世界に呼び出した瞬間であるなら神を打ち倒せる可能性があると考えています。降臨させた後にシステムから情報を切り離し、肉体を破壊すればその精神・・・意思と呼ぶものは霧散し天界の体は意味をなくすだろうという・・・予測、確信があります。」

 

 藤は力強く話を進めた。魂・・・なる思考する幽体を神が操れるなら、その魂を呼び出して破壊すれば選定者のように保護されてないなら・・・神もある意味死を迎えるだろう、と。これは予想に過ぎないのかもしれないが、もし死ぬことがなくても一矢報いたと言えなくも・・・ない。仮想とは言え死を与えられるのだから。

 

「だたこの世界に呼び出すとなると管理者権限がネックか・・・予想していたより一段低くて助かってはいるが。」

 

 俺はそれが成立したときの考えをふと口にだした。

 

「だからこそ呼び出した段階で即座に決着を付ける必要があると考えています。しかし予想より低いとは?」

 

 藤が疑問を述べる。

 

「ああ、最初に驚いたのはそこなんだが、チェイスはこの世界そのものに対する管理者権限を持っている前提で考えていたからな。それがシステム止まりならまだ余地はあるかと少し驚いただけだ。世界そのものを操作できるとなると突然足下に穴が開いて吸い込まれるだの、そもそも空間ごと破壊されかねんかったからな。」

 

 《絶断》なんて狂ったスキルを見た後だとチェイスはそれに類する権限を持っているものかと思っていた。

 

「なるほど、そういうことでしたか。流石にそこまででは無かったと聞き及んでいますが。」

 

「それも気になっている所なんだが、じいちゃんはどこでその確証を得たんだ?推論や予測から導くには情報が確定的過ぎるところがあったが。」

 

 藤が納得したところで、俺も話の端々にあった疑問をぶつける。

 

「管理者権限については・・・優様の友とも言えた敵選定者をチェイスが横やりを入れて無力化したという事実があります。administrator code xnd:1*6+9・・・意味は不明ですが精霊種ゼスト氏との決闘はその文言を持って優様の勝利となりました・・・」

 

 藤は静かな怒りをこめてそう言った。それが管理者権限を持っている証拠になるとは言い難いとは思うのだが。

 

「その限定空間の中でチェイスは恩着せがましくその権限を使ったことを自慢したので間違いは無いだろうと確信しています。」

 

 藤は怪しんでいた俺の視線をみてそう続けた。チェイスなら煽りとして言わなくも無いと思うが、じいちゃんの心も折りたい思っていたならありそうな事象ではあった。何にせよ管理者権限くらいは行使出来ると考えていた方が間違いが少ない。出来なきゃ出来ないで楽になるだけなのだから。

 

「その他の確証については勝利者報酬で得た情報の一部でございます。優様は私に情報と体を与え世界にお戻しになり、ご自分は記憶を元の世界に転写されました。私は世界に降り立ちすぐさま神々から隠れるため情報を遮断し、ここに隠れ住んでいたということです。この情報を生かしてくれる者を待つために。」

 

「ふむ。そこに開山剣継承者が絡むのは?」

 

 藤が聖人に救われたかのように朗々と語るが、俺はその辺をぶった切って質問を追加する。藤が難しい顔をしながら俺を見るが知らん顔でスルーする。

 

「・・・剣士は流派に執着する。というのはロックヴォルト様の言ではありますが、開山剣よりも継承の証、技の根幹であり一子相伝にせざるを得ない世界における唯一無二(ユニーク)、斬岩剣が問題の解決に寄与する一つと考えていたからでございます。」

 

 藤は一息ついてアリアを少し残念そうに見る。

 

「その執着が災いして主である剣が伝承されたことは幸いでありましたが、意思が途切れたのは惜しくありますね。とはいえここに斬岩剣と神を討つ意思を持ったものがそろったのが偶然とはいえ喜ばしいことであります。この状況を操作している者がいないとも限りませんが・・・ここは相乗りしておきましょう。」

 

 藤が話の筋を脱線しながら悪い笑みを浮かべる。俺の微妙な視線を受けて藤が居住まいを正す。

 

「システムが世界の住民や現象、そして選定者に大きな影響を与えていることは理解して頂いていると思いますが、この斬岩剣もシステムの影響を大きく受けているものになります。」

 

 藤は気を取り直して話を続ける。

 

「逆なのか。」

 

「そうでございます。」

 

 俺が思わず口に出したことを藤は頷いて肯定しつつ話を進めた。

 

「当時の選定者が自らの世界から召喚した斬岩剣は無類の強さを誇ったそうです。大地を砕き、粉塵に変え、ありとあらゆる鉱物は魔力の有無にかかわらず所有者を傷つけず、かの者が操る砂粒は全てを貫く矢となり盾となったと。選定者を含めてこの世界の全ての生物は彼に対して戦闘的に対抗する手段を失いました。その時点で有効打となり得そうな魔物由来の武器でも彼の体に届くことは無かったそうですから。天界の反応がどうだったかはその後に起こった出来事から容易に推察できます。周囲の被害を顧みずに戦う彼を諭すかのように突然現れた聖者とやらに彼と斬岩剣の力が抑止されます。彼へはシチュエーション的についでだったのでしょうが、斬岩剣はその力の全てを発揮できなくなりました。その後彼はこの世界の有力者に攻撃を受け盤面から退けられました。」

 

 藤は斬岩剣と最初の所有者の話を締めくくった。天界側はシステムを使って斬岩剣の機能を改変したと言うことなのだろう。現在の形に仕様変更されたのはその時かは分らないが、どちらにせよ斬岩剣は封印されている状態なわけだ。

 

「その話の信憑性は?」

 

 世界に残った記録を調べたらそうでした、なんて話では流石に信用できない。

 

「伝承から得られた話も多いですが、その剣自体が知っております。」

 

 藤が斬岩剣を指さして言う。

 

「この情報遮断された空間で斬岩剣そのものに対する情報を遮断すると封印を解除することが出来ます。ただ斬岩剣に対するシステムの仕様なのがこの空間から外に出ると再度封印されてしまいます。ですのでこの空間内で可能な限り検証、調査をしています。そしてその剣の小さな意思がその本来の力を教えてくれました。堕ちた大地の神を倒し、抑止する為の対神剣であったと。元の世界は大変なことになっているかもしれませんね。」

 

 藤が説明してくれる。剣の意思は斬岩剣の機能に対するアシスタントのようなものらしい。所有者を自動的に守り、使い方を伝授する。エネルギーをどこから持ってくるのかと疑問に思ったが剣の内部に元世界で言う精霊性のエネルギーを無尽蔵に生み出す機構があり剣の力を使うのに外部のエネルギーは一切必要無いらしい。そこまでできるなら対神ゴーレムで良かったのでは無かろうかと思ったがその世界にも事情があるのだろう。取り敢えず話の主は理解できた。開山剣が正しく伝承されることでいずれ神に対抗できそうな人材を作る、もしくは連れてくることが開山剣継承者の密命であったわけだ。

 

「私の役目は神に抗する能力があるかということを確認すること、そしてその手段の一部を提供することです。正直なところ対抗する能力に関してはこの世界にいる限り計ることが難しいのでその意思確認ぐらいですね。遊一郎様は問題ないと思いますが。御意志は変りませんか?」

 

「それは問題ない。」

 

 藤の静かな声に俺は力強く応える。

 

「他の方々・・・神谷様とアリア様は如何なさいますか?情報遮断措置は避けられませんが、まだ戦うことを回避することはできます。」

 

 藤はかなり蚊帳の外であった二人にも意思確認を行う。

 

「私は・・・一緒に戦います。」

 

「私も微力ながら師匠のために。」

 

 二人とも、アリアは若干不安そうだが戦うことを決めた。藤は笑みを浮かべてそれに答えた。

 

「まぁ拒否しても巻き込むけどな。」

 

「酷い話ね。」

 

 決意に水を差すように俺が言うと、神谷さんが緊張を解いて笑う。

 

「まずは情報遮断措置を行います。その措置を行いながらその方法ともう一つの手段について提供いたします。ただこちらに関しては未だ完成していないものになりまして、申し訳ありませんが・・・」

 

 藤が何やら道具を取り出しながら謝罪してくる。五つのよく分らない壺のようなものを等間隔とも言えない微妙な間隔に並べていく。

 

「これらの入れ物が同時に私に正対した状態で視界に四つ入るような位置に移動してください。」

 

 藤は神谷さんとアリアに後ろの方に移動するように指示しつつ俺の顔をみて言う。目線を動かせば調節できそうなものだが指示には従う。

 

「まず向かって左側の四つが視界に入るようにしてもらって左から二番目に出てくるものに対して通常鑑定をしてもらいます。その耐久力が確認できましたら反対側右端のものに通常鑑定を行ってください。その後に左端のものを通常鑑定してください。いきますよ?」

 

 藤が手順を説明し準備を促す。俺は二、五、一と頭で反芻しながら頷いて返事を返す。藤が正面から移動する。

 

「最初の視線は崩さないでくださいね。始め。」

 

 藤はそう言って手を叩く。壺から蛇が顔を出して思わず吹き出しそうになる。妙に太くて何となくかわいげのある顔だ。色は白っぽい。視界の隅に黒い影が動いたように見えるのは五匹目だろうか。指示通り二番目の蛇に鑑定を行うとHPが鮮明になる。そして視線を右端の黒い蛇に移して鑑定を行う。鑑定を行えば本で付与した結果保存機能が鑑定結果の残滓を残し、本来の鑑定結果は消える。右端の鑑定結果を得て左端に視線を戻す。鑑定結果は残滓を残したままその残滓が全ての蛇に表示される。その妙な現象に驚きながら左端の鑑定結果を得ると全ての鑑定結果が消去される。

 

「なんだこれ・・・」

 

「鑑定結果が見えなくなれば状況は成功です。システムからの情報参照が遮断されました。」

 

「途中の挙動が見ないもんだったからなんともな。」

 

 ふと思い至って蛇を再度鑑定するが通常通り作用する。まぁバグなんだから何が起こったかは裏から見ないと理解出来ないわな。何か見ていたら耳が聞えなくなったでござる、という理解しがたい状況になっている。自主的に行わないと付与されないから攻撃的につかうのは難しそうだ。

 

「これってミーバにやっても問題ないのかね。」

 

「問題ないかは・・・やってみないことには・・・ほとんどのミーバは主人に依存していますので、繋がりを断ち切られると不安感が増して錯乱する可能性も・・・私の時は終盤でも最後の最後でしたからね。」

 

「かなりきついのか?」

 

「それはもう・・・としか。」

 

 俺の質問に藤が顔を赤くして体を振りながら答える。相当過去の話だがそれなりに恥ずかしいようだ。これを配下に施すとなると・・・桔梗は持たなそうだし、菫にしても離れて行動は難しそうだ。紺は・・・主人ではないという意味ではいけそうだが、ほとんどの者に施せない以上意味はあまりなさそうだ。情報を展開しても重要な内容や方策については秘するしかなさそうだ。研究に鶸を使えないし、クロを介した本の使用も難しいのか・・・小話しながら進んでいたバグ適用は神谷さん、アリアと終わったようだ。

 

「そもそもこちらから情報遮断したらミーバからも遮断されるんじゃ無いのか?」

 

 疑問が鎌首をもたげ話が戻る。

 

「その辺りはよく分らないですね。発信は出来るけど受信が出来ない状態とみられているのですが、ミーバの主人検知がどういう方法か詳細が分りませんので。主人の存在を把握する部分は本人まで情報が届いていないと考えられています。」

 

 藤が困ったように答えた。天界から自己の情報を読まれなくなっているのは確からしいが、その他の何が遮断され、通過するのかは検証もできていないし原理も予測の域をでないようだ。神託が使えない所からするとシステム側からの干渉は出来ないようだが・・・そうするとミーバの感知機能が説明つかないな。まぁしばらくの間は先人にならって天界から読まれなくなるならいいかと割り切るしか無い。少なくとも判明していることはミーバが受信が出来なくなると心身不全になる可能性があるということだ。

 

「これを施した後ということは天界にしられちゃいけないことなんだな?」

 

 俺は藤に尋ねる。

 

「知られたところで神々にしてみたら一蹴するだけの案件かもしれませんが、先ほど一矢報いる方法として挙げていた神を召喚する魔法陣の未完成図が最後に私から提供できるものとなります。」

 

 藤はA2程度の大きさの紙に記載された魔法陣を広げる。中々書き込みが激しい図案で一度に把握するのは難しい。

 

「理論と仕様はこちらの束にございますが・・・現在解決出来ない問題は、使用時にかかるエネルギー、召喚する神を指定する手段、そして神を降ろすための媒体となります。」

 

 藤が残念そうに束を差し出しながら言う。

 

「おう・・・正直魔法陣作成における八割は解決出来てないってことだな?」

 

 俺の言葉に藤は申し訳なくと口ごもる。設計図を組み上げたが材料も燃料も無い状態だ。このレベルまで夢想するだけなら俺の知識範囲でもできることだった。

 

「まぁ最初から作る手間が省けたと思えばいいか・・・」

 

 仕様書の束をチラ見しながら顛末を納得させる。

 

「んー・・・」

 

 神谷さんが魔法陣を見ながら唸る。

 

「全体的に執拗に相手を拘束して呼び出そうと見受けられますが、相手が相手ですし正直無駄なのでは?」

 

 強烈なダメ出しが入った。

 

「やはりそうでしょうか、召喚時に大人しくしてもらわないと困るのはどの召喚においても同じですので、神相手だからとかなりの数を組み込んでいますが・・・」

 

 藤も懸念材料だったのか話に乗る。

 

「いっそのこと拘束を全て外して魔力量を軽減したほうが・・・」

 

「それでも全体の三%にもなりませんが・・・」

 

「節約は小さな所からの積み重ねですよ。」

 

 神谷さんと藤が魔法陣を見つめて議論を始めてしまった。

 

「大分長居したし一旦外に報告してくるわ。」

 

 俺はその光景を横目に見ながらアリアを伴って外への通路に入る。

 

「はぁぁ、開山剣の理念を知れたのは良かったものの酷い事実を知ってしまった気がします。」

 

 アリアがため息をついて重い足取りを進めている。

 

「俺のやりたいことだし、アリアが表立つ必要は無いぞ。斬岩剣は借りるかも知れないが。」

 

「そこは問題ないのですが・・・」

 

 ただ借りたところで何か出来るかは分らない。この身の強化はほぼ全てがシステムの恩恵によって成り立っている。斬岩剣がシステムによらない状態でも強力な武器であることが分っても、そんな環境で戦える体では無いのだ。武器に当てが出来たものの別の問題が出てくるのである。広間に戻ると姿を見た菫が駆け寄ってくる。桔梗も遅れて走り寄ってくる。鶸はほっとした顔をし萌黄も嬉しそうに近寄ってくる。

 

「ご主人様は?」

 

 ユウが姿の見えない神谷さんについて尋ねる。

 

「ちょっと興味深いもの見つけてしまって奥でまだ話し込んでる。無事なのは間違いない。」

 

 そう言われてユウとトウが落ち着く。その中で鋭い視線を送っているのは紺だ。

 

「中で何があったであるか?」

 

 紺が少しトーンを落として聞いてくる。

 

「じいちゃんの置き土産・・・かな?神に対抗する手段の一つがあったよ。」

 

 紺の気配が変ったのを知った上で俺はいつも通り、いつもの話をした。神に一矢報いる話などいつもしていることだ。方法や推論を交わしたことも一度や二度では無い。それ故にいつも通り、だが具体的な内容には言及せずに話した。

 

「進歩はありそうなのですか?」

 

 桔梗が首をかしげて尋ねてくる。

 

「今までに比べれば格段に進歩したかな。ただ俺自身がメッセージの類いを使用できなくなった。神託の直接受信も難しいかも知れない。その辺に関しては以前開発した電波系の通信機で代用しようかと思うのだけど・・・」

 

 俺は鶸を見る。

 

「思考会話に比べると使い勝手が悪くなりますわよ。仕方ないようですから準備はいたしますけどねっ。」

 

 鶸が頭を掻きながら答える。

 

「ああ・・・本当に聞えないのであるな・・・」

 

 紺が離れた場所から嘆くように声を上げる。ミーバからすると脚が高い・・・長椅子から紺が飛び上がり気味に降りる。その小さな着地音がした瞬間から空気が変る。暗く、重く、紺の踏み出す一歩が周囲に緊張を走らせ、首を挙げた目線は鋭く、しかしその表情はなんとも悲しく。

 

「紺・・・その殺気はなんのつもりですか・・・」

 

 菫が武器を構える。金糸雀が俺の正面に飛び、朱鷺が震えて音を鳴らす。

 

「主殿・・・少し知りすぎたであるよ。ご主人様はこれ以上のリスクを許容できぬと。管理出来ない、読めない未来は必要無いとおっしゃられております。」

 

 紺がかほそい声で宣告する。

 

「お前は・・・それでもあいつに従うんだな。」

 

 俺は悲しそうに話す紺に向かって真面目に問う。

 

「主殿なら分るであろう?我らは主人に依存し、主人の為に動くことが至上として与えられているのであるよ。主殿といるのは楽しいしやりがいもある。ただそれでもなおご主人様からの命には逆らえないであるよ。それ以上の至福がっ、快感がっ!皆がいつも感じているその幸福感が紺には無かったっ。そしてこの数少ない機会こそが紺の至上の喜びであるとっ。」

 

 紺が悲しみから、嗚咽、そして愉悦へと。

 

「主殿!我がご主人様の為に・・・死んでくださいっ!」

 

 その叫びと殺気の存在感と共に紺は手を振り抜く。それと共に紺の姿が消える。気配も、重量も、音も、存在感も。

 

「残念だ・・・共にいる喜び以上にお前達はシステムに支配されているんだったな。」

 

 初撃必殺。紺の手管からどこにくるか。萌黄がとっさに動く。

 

「萌黄!防ぐな、俺が避ける。」

 

 萌黄の視線、体重移動、武器の動きから紺の攻撃を予測し動く。俺は体を傾け逃げるように移動しようとし、石柱と風の魔法を使って移動方向を無理矢理ずらす。石柱が瞬時に切断され地面に落ちる。姿が見えない暗殺者にして全世界最高の攻撃力を持つ紺との戦いが幕を開けた。

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