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俺、招かれる。

「ちょっと予想外すぎて整理が追いついてない。どうなったんだ?」

 

 俺は神谷さんに尋ねる。

 

「例の名前の文字を変形させて模様にした壁を出して展開していたんです。最後に目立つように文字そのものを前面にだして・・・」

 

 神谷さんがやったことを説明してくれた。反射的に声に挙げてしまったのは見知ったものが視界に入って反射的に意味を求めてしまったのか。実にくだらないといえばその通りではあるが、結果的に解決出来たので良しとしよう。瘴気が晴れ森に惑わす効果がなくなって菫が慌ててやってくる。拍子抜けに終わって心配していたことが怒りに変わり途端に説教が始まる。紺は俺と同じように合流を優先したからか桔梗と鶸を連れてやってきた。桔梗には泣いてすがられ、鶸は呆れながらも俺の腹に拳を打ち付けてきた。衝撃を受けたことしか感じないが。過程を説明すると菫と鶸にはやっぱり怒られた。桔梗は約束を守ってくれないと泣き崩れる始末だ。

 

「茶番ねぇ。」

 

 クロに突っ込まれながら俺は皆をなだめ続けるのだった。幾分時間がかかり皆が納得したところで、タイミングを計っていたかのように声が届く。

 

『直に継承者が来ます。その後こちらへ案内します。』

 

 森の守護者であろう者からの念話だ。ただ通常利用しているものとは違うような感じがする。桔梗も鶸も違和感を感じていているようで少し考えているようだった。三分ほどしたところでアリアがミーバを連れてやってくる。

 

「管理者殿とは思うのだが、やはり合っていたのですな。敵の謀略かと疑いましたが瘴気は無くなっていましたので。」

 

 アリアは指示を無視して合流したとを気に病んでいるようだったが結果オーライと慰めた。しかし結果オーライであったことはやはりダメだったのではないかとアリアは少し悩んでいた。そこはスルーして欲しかったところだ。

 

(つるぎ)の導くままに。』

 

 特に何も起こったようには見えないが斬岩剣を持つアリアには何か感じ取れたようだ。

 

「鉱石探知が反応しています。それが導きかと思いますが。」

 

 アリアが指示を仰ぐように俺を見る。他に手も無いのでその通りに案内してもらうことにする。探知に従い真っ直ぐ進み、そしてある地点にたどり着くとまた別の反応がでるといった具合だ。そうして正しい道をたどらせているようだ。ただその探知を発動させている方法が疑問だった。十分ほど折れ曲がりながら歩かされたところ、目の前にこんもりとした土山、周囲の状況からすれば明らかな人工物。似たような映像に見覚えが無いわけでは無いがそのどれとも一致というわけではなかった。アリアが斬岩剣を振り上げ土山の端を斬る。物理的に入り口を封鎖していたようで、その一閃によりぽっかりと穴が開く。一閃で穴が開くのは明らかにおかしいので何かしらギミックがあったのだろう。導きが再開されたようでその先に進む。閉じ込められていた洞窟とは思えないほど空気は澄んでおり息苦しさも感じない。ひんやりとした空気だけが何かの緊張を誘う。わずかに下る坂道を進んでいくと大きな広間にでる。

 

『ミーバ達は一旦ここで待機をお願いします。興味本位で進むと帰ってこれないとだけ言っておきます。犠牲を良しとするならミーバを進ませてみなさい。』

 

 その声を感知すると菫が露骨に警戒する。広場の奥にはそこが境界と言わんばかりのスイングドアがある。その先に案内されていることをアリアが目線で伝えてくる。

 

「行ってくれるか?」

 

 犠牲を良しとするわけでは無いが、傍に控えていた重装兵二体をスイングドアに進ませる。その一体にスイングドアの先に進むように指示する。重装兵がドアを押しのけ進もうとするとその場で転んだ。俺達は通常あり得ない動作を見て驚く。そして転んだミーバは一切動かない。転んでしまったせいで体がドアの向こう側に完全に侵入してしまっている。しかし死亡はしていないのか魔石にはならない。不思議な状態だった。一緒に行ったミーバに引きずり出すように指示をする。触手を伸ばして接触しようとする。こちらから見ると触手でつついて後ろに下がっているように見えるだけだ。三度ほど同じ動作を繰り返した所で、『境界を越えると体を操作できない』という立て看板が掲げられる。

 

「はぁ?どういう・・・」

 

 俺は疑問を声に出す。恐らく聞いているであろう守護者から返答は無い。

 

「・・・ちょっと行ってきますわ。」

 

 興味本位の代表格、少しわくわくしながら鶸がドアに走る。状況を見ているので流石に無茶はしないと思うが。鶸は手を突っ込み引き、足を入れては引き、棒で重装兵でつついたりしている。手持ちの道具を出したり入れたり様々な実験を思いつく限り試しているようだ。ちょっと研究気質が出過ぎている。注意しようと思った矢先に、鶸は投げ縄を重装兵に投げ、その体に引っかける。傍にいる重装兵に指示を出し一緒になって引っ張り出す。そんな苦労をしているようには見えないがドアの向こうに倒れた重装兵はずるずると引き出される。そして七割ほど引き出されたところで重装兵が触手を使って自ら境界から這い出てきた。『びっくりした』などと立て看板を掲げているがそれで済むような話だったのかとも思う。鶸がドアの方を見ながらかなり難しい顔をしていた。そして重装兵をつれて鶸が戻ってくる。

 

「結論を出すのは難しいですが、森の管理者は知っているのでしょうから言うのは辞めておきますわ。少なくとも守護者が言うとおりミーバに類するものはあの先に進めないでしょう。ごらんになれば分ると思いますわ。」

 

 鶸は少し悔しそうに解説した。菫は少し食い下がったが鶸に試すように促され境界の近くでジタバタしていたが諦めて帰ってきた。

 

「ご主人様に傷一つ付けようものなら許しませんからねっ。」

 

 完全に捨て台詞である。守護者はそれでも沈黙を保ち俺達の行動を待っているようだった。

 

「わ、私が行ってもいいものでしょうか。」

 

 アリアが遠慮しがちに言う。

 

「斬岩剣に・・・開山剣継承者が本来招かれる者っぽいからアリアには資格があるんじゃないかな?」

 

 俺は少し疑問系になりながらも答えた。

 

「それならば師匠だっ・・・」

 

 アリアが反射的に叫ぶのを俺は黙るように仕草で止める。もしかしたら俺が実行出来ないことだとすると困る。何かしら正当継承者であることが必要かもしれない。俺はあくまで傍系なのだ。俺と神谷さんは配下にこの場で待機するように指示し、アリアを伴ってスイングドアの前まで来る。どんな仕掛けか分らないがミーバを拒否するその空間はどんなものか。俺は恐る恐ると思いながらも速やかに一歩を踏み出した。もちろんそのまま全身を入れ込むことはしない。踏みしめる感触も残っておりミーバや菫、鶸が言うように足の指を動かせなかったり踏みしめる感触を感じなくなることも無い。そして足を眺めていると明らかな違和感があることを視認する。鶸が見れば分ると言ったことがある程度理解出来る。境界から先にミーバを引きずった跡が残っているが境界辺りから明らかに引きずり跡に変化が見られる。境界から先は重量が軽くなったかのように。俺はなるほどと思いながら、概ね動きに問題ないと判断し更に一歩を踏み込み体を境界に入れる。頭が境界を越えるとノイズが走ったかのようなわずかな頭痛を覚える。それは神谷さんも同じようだったがアリアには無かったようだ。その違いが何か判断はつかなかったがお互い目配せで問題ないことを確認し通路の奥に進む。途中なぜか分かれ道が作ってあり、それを斬岩剣で判別し進む。結局アリアは必要だったということだ。剣だけ受け取れば良かったなんて野暮なことは言わないことだ。迷路といわんばかりに曲がり、分かれ道を進み、地下に進まされているのだろうなと思わせるわずかな傾斜を感じる。歩いて十分ほど進んだところで大きめの空間に出て七つの扉が現れる。

 

「こちらですね。」

 

 アリアが斬岩剣の判断を疑わず扉に進む。俺だったらここに罠を仕掛ける所だがここは素直に従おう。扉を開けるとそこは和室という形容がふさわしい、この世界にはかなり希少な部屋が存在していた。三和土があることから靴を脱げと言うことか。鎧の脚甲を外すのはかなり面倒ではあったが懐かしさもあって流儀に従うことにする。アリアは当然のように作業を始めた俺達に習って慌てて装備を外し始める。

 

「い草の香りが素晴らしいですね。」

 

 神谷さんは和室に情緒を覚えるタイプのようだ。俺もしばらく嗅いだことの無い匂いに懐かしさを覚えるが感動を覚えるほどでは無い。畳にそのまま座っても良かったのだが鎧で傷つけるのも忍びなく隅に置いてあった座布団を拝借して座る。座布団に座り込むと、あったか覚えも無いふすまが開き和装の女性が姿を現す。

 

「よくぞおいでくださいました。周辺の者は森の管理者と呼びますが、私のことは藤とお呼びください。」

 

 緩やかな動作で礼を取り森の管理者藤は透き通るような声で言葉を発した。

 

「俺は紺野遊一郎。遊一郎でいい。」

 

「私は神谷桐枝と申します。」

 

「わ、私はアリアだ、です。」

 

 藤からの紹介を受けて俺達は順に言葉を発する。アリアだけが威圧されたのか動揺しながら答えている。確かに雰囲気に圧を感じなくはないが。

 

「・・・継承者の方はそれなり・・という所ですか。お二方は今代の神の使徒なのですね。」

 

 藤は少し驚いた顔をしてから、残念そうに顔を曇らせ言葉を続けた。

 

「今代の使徒は卓越した能力をお持ちのようですね。積み重ねられてた力が見えます。」

 

 藤はそう口に出しアリアを見てから残念そうに目を背けた。アリアはその動作で理解したようでどんよりと表情を曇らせる。

 

「ここに招かれたのは開山剣継承者だからっていうのは分るんだが、その理由を聞いてもいいかい?」

 

 俺はアリアに任せると話が進まなそうなので藤に聞いてみる。

 

「継承者には代々口伝で伝えていくと聞いています。継承者の許可無く貴方方に・・・特に使徒に話すことではありませんね。」

 

 藤は睨むようにこちらを見て口調を強めた。使徒に忌避反応があるのは見て取れる。隠そうともしていない。アリアが更に気落ちしている。

 

「私で十七代を数える開山剣ではありますが・・・身内の話で恥ずかし話なのですが後継者争いでかなりの口伝、技術を失伝していまして・・・開祖の

 技の内容に関しては師匠のほうが詳しいくらいで・・・」

 

 アリアが気落ちした声のまま言い訳のように口を開く。

 

「ならばその開祖に近い師匠ならば口伝を知っているでしょう。この口伝に関しては一子相伝など危険なことはしていないはずです。」

 

 藤がなぜ知らないのかと疑問を隠さずに問い詰めるように話す。割と威圧的な子だな。

 

「その師匠というのが・・・彼でして・・・」

 

 アリアが恐縮そうに俺に手を向けて師匠と呼んでいることを藤に伝える。

 

「ぽっと出の使徒である貴方が?」

 

 藤の疑問も最もである。ゲームで知ったと言ったら更に頭がおかしいと言われそうだ。

 

「同じ武器と流儀を見たことがあってね。岩爺といっても分らんか、ロックヴォルトという人物が開祖であることは知っている。俺は仮定的な二代目と言えなくもない、と思っている。」

 

 俺は根源をぼかしながら根拠を語る。

 

「確かに年齢としてはおかしいと思えるくらいには知っているようですね。しかし二代目は別人・・・でしょう。少なくとも貴方ではないはずです。」

 

 藤は俺の話を否定する。まぁこの時代の二代目ではないから当然そうなるだろう。

 

「使徒であることは理解されてるようなんで、別世界から来てるということは分るよな。その元世界で見知ったことなんだが。この偶然の一致をどう説明したもんだろう。」

 

 俺はどうするか話の突破口を悩み始める。しかしその突破口は藤のほうから提示された。

 

「貴方・・・もしかすると優様に近しい者ですか?」

 

 藤がありえなさそうな疑問という感じに口を開く。

 

「じいちゃんか。」

 

 俺は反射的に答えた。

 

「それならば斬岩剣がそれを示すでしょう。アリア殿、剣を雄一郎殿に。」

 

 藤はアリアに剣を渡すように促す。アリアは重責から解かれたかのように俺に献上するように剣を差し出す。そうしないことには始まらないので俺は剣を受け取らざるを得ない。傍系登録が残っていることは知っていたが本登録もしちゃってはいるんだよね。剣を持ったところで何も起こらないが、右後ろに何か反応があることが分かった。反射的にそちらを見るところだったが体を押しとどめる。

 

「かなり早く反応したようですが・・・血統どころか本契約の方法まで知っていらっしゃるようですね。」

 

 体を硬直させたことで藤には悟られてしまったようだ。

 

「傍系登録があったことは知ってる。本登録も済ませてるのも確かだ。」

 

 俺は観念して言葉にして藤に告げる。

 

「登録者開示。」

 

 藤が低く強い声で宣言する。斬岩剣が一瞬鳴動する。それだけで藤はすべてを理解したようだ。

 

「優様の血統であることを剣が認めました。開山剣と私は貴方を継承者として認めます。」

 

 藤には外部から剣の情報を知る手段があるようだ。どういう存在なんだ。

 

「そちらの方も関係者ですか?雄一郎様の配偶者であらせますか?」

 

 藤の口調が急に柔らかに恭しくなる。

 

「ちちちちちがいます。」

 

 急に話を振られて神谷さんが動揺しながら反射的に首を振りながら答える。

 

「そうですか・・・ですがお仲間・・・ということなんですよね?」

 

「はい・・そうです・・が。」

 

 藤が少し声を落として、ある意味残念そうに話を続ける。その雰囲気を察してか神谷さんは同意しながらも探りを入れるように答える。

 

「これから話すことは貴方の進退に、当然でありますが継承者達に影響を与える話でもあります。継承者に連れてこられたということは信用されているということですが逆にそれが不利益を与える要素でもあります。それでも貴方は聞いていきますか?」

 

 藤が淡々と説明口調で語る。脅しとも思えない。あえて選択を迫っているようにも思える。口調を平坦にすることであくまで本人の意思に任せようとしているのだろう。

 

「・・・聞きます。」

 

「良いのですね?」

 

 神谷さんが決意を決め、藤の最終確認に神谷さんがうなずく。


「それでは話を進める前に口伝が伝わっていないということですのでそこから始めましょう。そしてそれを聞いてからさらに踏み込むか判断していただきましょう。」

 

 藤はそう前置きをして俺たちに語り始める。

 

「口伝として伝えて頂いたことは『神に支配されること無かれ、神威を打ち破るべし。』ということです。この世界は神に支配、むしろ神に遊ばれているとと優様は認識いたしました。短い時間ではありましたが偶然もありこの世界の秘密の一端に触れる機会がありました。この空間もその知識の賜物であります。貴方方はこの神に遊ばれている世界を住民の手に取り戻そうという意思はありますか?」

 

 藤は威圧感を込めて言葉を紡いだ。じいちゃんがこの世界で何かをしたとき、何かを見つけてしまった。そしてそれを後世につなぎ、この世界を神の遊戯から解放したいと願った。俺の目的とは若干ずれているが何を知ったかは知りたいと思う。

 

「世界を住民の手に取り戻せるかは置いておいて俺は神に一矢報いたい。」

 

 俺は目的を告げた。神谷さんもアリアもそこまで明確な目的はなく、神谷さんは無難に盤面を満了したい、アリアも強くなりたいという程度しかない。開山剣は決して神を倒すための技術ではないはずで口伝を伝える、むしろ流布しようとしていたのは別の意図ではないかと思わせる。しかし、初代とおそらくじいちゃんの意思が混ざり開山剣は戦うための技術に傾倒していったのだと予想できた。そもそも岩爺が伝えたならこんな物騒な進化はしなかっただろう。自然破壊が加速度的に進むという点では物騒ではあるのだが。

 

「雄一郎様は優様と同じ考えなのですね。」

 

 どこをどうやったらそうなったのか藤は感慨深そうに言葉を紡いだ。

 

「この世界は確かに神の調停の場になっているという役割はありますが、住民をもてあそんでよいという話ではありません。ここにシステムという強化、管理、監視機構を配置し効率よく推し進めようとした者たちがいます。」

 

 藤が怒気を強め話を進める。

 

「チェイスか。」

 

「チェイスはシステムの構築担当ですね。発案者はヘルメス。調整者はグソインということまで分かっていますが・・・雄一郎様があげたチェイスだけがこの盤面を弄んでいる主犯と言えるでしょう。ヘルメスは住民を選ぶより自己で管理するものから選んだほうがおもしろいと案を上げ、神々がそれに賛同し形に仕上げ、それを具体的に組み上げたのがチェイスであり、それを鑑定、調査したのがグソインとその一派です。」

 

 藤は俺の言葉に対してこの世界の根幹となる話を始めた。

 

「発案に乗っただけで発案者に罪はなく、不備を見逃したという点ではグソインと一派には罪はなくはないでしょうが、やはりそのシステムに今だ干渉を続けるチェイスが最も悪で大罪を犯していると言えるでしょう。」

 

 藤は話を続ける。仕様書は神々が作って、チェイスが組み上げ、グソインがデバックしたというところか。デバッカーを罪に問うたらゲームメーカーの大半は倒産するだろう。悪くないと思いたい。悪いのは正常な動作をしようとしないユーザーだよ。

 

「どちらから話すか悩ましいところですが順番にすべてを説明します。ここから先を聞けば引き返せないと思ってください。」

 

 藤はそう言ったが、すでに引き返せないところまでぶっちゃけられている気はする。俺たちは大きくうなずいた。

 

「まずは優様が発見した事象から。発見状況やなぜそうなるかはまずは割愛させていただきますが、結果的にこの作業を行うとシステムの一部から隔絶されます。」

 

 藤はそう語った。

 

「システムの一部?」

 

 俺が聞き返すと藤はうなずく。

 

「大きなところでは情報同期。すでにこの場には行われていることですが、ここから出る際には皆様にも強制的に(・・・・)施させていただきます。」

 

 藤がそう言って、強制的と聞いて俺たちは身構える。

 

「大きなところではシステムに依存した通信、会話が不能になります。翻訳はすでに内部にあるので問題ありませんし、周辺にある情報を読むことはできますが、メッセージの魔法やそれに類するものは使えなくなります。ミーバにも関係することですが、ミーバは常にシステムにより世界のどこかにある何かと情報を交換し世界に存在・・・投影されていると言ってもよいですね、そういう存在ですのでこの隔離空間の中では生存できません。一時間ほどこの隔離空間に置くとシステム側からエラーとしてはじかれて切断され死亡扱いになります。」

 

 藤はそう言って一息ついた。はっきり言ってデメリットしかない。なぜそんなことをしなければならないか。神に抗する為にと繋がっているのだろうが、そうなると。

 

「その代わり天界からこちらの情報を読めなくなる?」

 

 俺は予想を藤にぶつけた。

 

「そうです。本件の最大のメリットはそこになります。この先どんな計画を夢想しても神に悟られることはなくなります。神と言えどこちらに干渉するにはシステムを介して介入してきています。このバグ?と優様はおっしゃっていましたが、使用することで神に思考を読まれなくなります。」

 

 藤はそう言った。物は試しにと鈴にメッセージを送ろうとしたが、初めてそれが失敗したことに驚きと喜びを感じた。

 

「早速試されましたか。疑うことはよろしいことだと思います。」

 

 藤はうんうんとうなずきながらその行為をほめる。

 

「いやそれどころじゃないよ。鈴に通信が繋がらないなんて今までありえないことだったからな。」

 

 俺もやや興奮気味に答える。藤は少し首をかしげていたので、俺は鈴の《神託》について説明する。その常識を超えた効果に藤は驚いたがそれが繋がらないならこのバグは完全に遮断しているのだと再認識したようだ。

 

「このバグは無用に長い手順があるものの比較的簡単に施術できますが、戻す方法は分りません。少なくとも私たちが検討した範囲では復旧することはできませんでした。」

 

 藤が不退転であることを伝える。

 

「次に雄一郎様の夢が遠のく話にはなりますが・・・チェイスは未だに管理者権限を発動できます。」

 

 藤は苦し気に爆弾発言した。それは・・・詰んでないか?

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