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俺、メタる。

リアルに曜日を間違えていました。申し訳ない。

 死亡からどれだけ時間がかかったか分らないが走りながら鈴にメッセージを飛ばす。

 

『お早いお帰りで。尤も権限復帰と同時に九割方の施設は再支配済みですので戻ってきたこと自体は分っていましたがぁ。』

 

 脳内に【神託】の独特の音声が響き渡る。

 

『他の方々がどこなのかいつなのかと騒ぎ立てているのでお早めに帰還めどを・・・』

 

『索敵範囲内だが自国じゃないな。距離的に考えると二日くらいか。』

 

『思ったより遠いですねぇ。早めにお願いしますね。』

 

 鈴の回りの状況が脳裏に浮かぶかのように、鈴の声はいつも以上にぐったり感を思わせる。頑張ってくれと心の中で祈りつつ街を目指す。入市税を払うのに金が無くて一悶着。見た目子供が突然越後屋を呼んでくれと言っても取り合ってくれず。結局支払いの誓約書を書いて中に入る。道ですれ違う人に越後屋の場所を聞きたどり着き、店員に店長を呼んでくれと言っても話が通らず店頭で騒ぎになる始末である。証明用の魔法まで見せてやったのに知らん帰れで問答するハメになったのは納得がいかないが、騒ぎを聞きつけた店長が平謝りしてきて逆に申し訳なくなる。安心して良いぞ、この作業はもう次は無いからな。ある意味ババを引いた店舗といえなくもない。遠方の店舗に運ばせている開かずの箱、中身は俺と神谷さんの為の帰還支援セットで装備セットとお金が入っている。所定の手順と魔力遊びが必要なので知らなければ開けるのは大変だろう。そこそこのレベルのヤツでないと壊すのが大変と言うくらいの強度にもしてある。

 

「何かと思ってましたがそういう物が入ってたんですね。」

 

 中身を隠していた訳でもないし、なんなら渡すときに教えても良いはずなんだが、こいつは特に気にしてもいなくて覚えていなかったらしい。中身を全て収納し体に合わせて展開する。早業に見えて店長から軽い拍手が飛んでくる。店頭で食料とファイを買い込み例を言って立ち去る。最初に対応した店員ががくがくと震えていたが誰の査定にも響かないから安心しろとだけ声をかけておいた。それで安心できたかどうかは知らないが。この世界で生まれたファイなのでいつものように無茶はさせてやれない。道に沿って全力前程度で進む。疲労してきたら治療してやりながら息抜きを繰り返して進む。街に着いたらファイを交換しながらまた進む。拠点では魔法開発と装備の準備を進ませつつ、なるべく急いで進む。途中出てきた魔物や野盗を追い立てていたら少し時間がかかった。三日弱の一人旅は拠点について終了した。戻ってきたので城に挨拶に行く。

 

「随分早いお帰りでしたね。」

 

 トーラスの皮肉ともなんとも言いがたい雰囲気を醸し出す。

 

「面倒な案件で死に戻った。」

 

 俺は気恥ずかしい思いをしながら答えた。トーラスにはそれが意外だったようで見たこと無いような表情で驚く。

 

「まさか貴方を倒せるような存在がいるとは・・・噂に聞く悪魔とか、まさか神そのものですか?」

 

 トーラスはこれから先の危機感を覚えて情報を得ようとする。俺はそのまくし立てて詰め寄ろうとする姿を手で制する。

 

「安心しろ今期の選定者だ。お前達が心配するような案件じゃない。持って行った手札(・・・・・・・・)の相性が悪かっただけだ。」

 

「そうでしたか。」

 

 俺の言葉にトーラスの表情は一転して元の状態に戻る。限定的な期間であればどれほど強力でもしのげばいいというこの世界の住民に俺がやられて一番困る方法をトーラスは理解していた。尤も幽体相手にしのぐのはそれなりに大変だが。トーラスは相手の正体を知らないから仕方が無い。そもそも戻ってきたなら対策を打ちようがあるのでいちいち不安を煽る必要も無い。トーラスも俺と付き合ってそれなりの時間がたっているので対策を忠告、準備するように言われておらず発言の端々からすでに問題ない相手であることを理解している。

 

「こちらには何用で?」

 

 トーラスはお互いそれほど暇でもないでしょうと言わんばかりに話題を変える。

 

「戻ってきたのに挨拶しないのも何だろうというのがほとんどだな。」

 

「貴方にしては珍しい・・・」

 

 トーラスが気持ち安堵したように声を漏らす。

 

「お互いやるべき事をしましょう。その様子ですとまだ時間はあるのでしょう?」

 

 トーラスは一瞬で思考を素早く切り出す。

 

「ああ・・・」

 

 俺はその言葉を受けてトーラスに背を向けて城を出た。

 

「対策案はあっても対策そのものは無いという所でしょうか。」

 

 俺の心境をズバリと言い当てたトーラスの小さな言葉が聞えた。

 

「というわけでとある魔法が必要になった。」

 

 俺は神谷さん一党の前でそう発言した。

 

「死に戻ったと言うことは相手は相当強いのか?」

 

 ユウが興味深そうに尋ねてくる。連れていった蘇芳相手に負け越すような脳筋がどうにか出来るような相手じゃ無いぞ。

 

「強さ的にはさほどでも無い。倒すだけならユウでもよほど油断しないと負けないだろう。時間はともかく。」

 

 俺達は瞬殺の状態だったが、ユウだと少し攻撃力不足か。呪殺さえ回避できれば一方的は無理でも安定して倒しきれるくらいには弱いといえる。

 

「強さ意外に問題があったのですね。」

 

 ヨルがユウを押さえるような仕草をしながら尋ねてきた。

 

「回数制限はあると思ってたんだが・・・俺達ではそれを突破できなかった。倒しても復活してくるタイプだ。」

 

「貴方方総出で攻撃して回数制限を突破できないというのは、なにか復活条件があったのでしょうよ。」

 

 俺の言葉を聞いて呆れたようにクロが言う。

 

「それなりにシチュエーションを揃えて倒し続けたつもりなんだけどな。少なくとも条件を満たす何かは得られなかった。そもそも《全知》で見る限りスキルでなんとかしてるわけじゃない。ついでにチェイスからのヒントでシステム的なバグみたいな物らしい。」

 

「今更アレの言葉を信用するのですか?」

 

 傀儡にされた恨みか信仰を汚されたという思いからなのか神谷さんはチェイスをアレ呼わばりしている。気持ちは分らんでも無いが一応神様だからね?

 

「その感情は一時置いておいて欲しいけど、チェイスはそれなりに信念があって動いてる。盤面のルール的なところもあるとは思うけど、選定者に直接嘘はついていないと思う。」

 

 情報に対する対価の多寡はともかく情報そのものに虚偽はないと考えている。

 

「で、その魔法というのは?」

 

 クロがその前提はどうでもいいと言わんばかりに面倒そうな顔をして話を戻す。

 

「古来から殺せない相手は封印するってことだ。」

 

「なるほど、それは単純明快。」

 

 俺の答えにクロは納得する。すでに頭の中では候補を列挙していることだろう。

 

「でも、単純な封印だけなら遊一郎さんでも出来たでしょうに。」

 

 神谷さんが不思議そうに質問する。俺のスキル内だと弱いが、桔梗も交えれば準備していた中でもそれなりの封印は出来たはずだった。だがその手段は早々に放棄した。

 

「まず前提として相手が不可思議な集合体の存在であり、表面上一体であるに関わらず複数の存在と扱われていること、そして表面の一体に対応しても次が現れる。更に表面に出ていない相手に直接干渉する手段がない。」

 

 俺はまず死霊に対する対象となる前提条件を挙げる。

 

「はぁ?」

 

 頭の中で十程度の案を考えていたであろうクロが思い浮かべていたであろうほとんどの案を却下され変な声を上げる。準備して持って行ったのは強力な個を封印する儀式魔法だった為、個でありながら複数であるあの死霊には行使できなかったのだ。

 

「ようは空間ごと封印するしかないということですねの?」

 

 クロの中で二、三に絞られた封印系の魔法があるはずだ。

 

「それもありなんだが、盤面の仕様として外的救済要因がない状態の封印が続くと選定者の自死が認められるらしい。そしてその自死が成立した場合そのままの状態で復活する。」

 

「どうしろと。何度か同じ方法で封印しろということですの?」

 

 クロが無意味に切れて声を上げる。あの死霊の残機がどれだけ残っているかしらないが、後二回は封印しないといけないだろう。普通封印されたら次は対策を取るだろう。俺なら辺りを破壊しながら逃げ切る。

 

「そこが悩んでいるところの一つでな。どうにかして対策が取りづらい封印方法を見つけたい。」

 

「貴方が言い出すのですから簡単な案件でないと思いましたけどっ。」

 

 俺の案にクロがキレちらかす。

 

「流石に無茶なんじゃね?」

 

 ユウが呆れて声を出す。戦士であるがゆえに門外漢だが、無茶振りをしていることは理解出来るようだ。

 

「単体を対象にとれず追尾も出来ない。空間で封印するには規模と準備が問題。下手に範囲封印しても最悪次の個体が出てくる可能性もある。そして封印に成功しても相手の選定者としての復活権が無くなるまで何度も封印する必要がある。用意されたものでは難しいのでしょうねぇ。」

 

 問題を列挙しながらトウが呆れるように言う。

 

「それこそ本の力で開発するべきなのでは?」

 

「本で開発するにはもう少し手法を詰める必要がある。曖昧に申請しても最適な形では開発されない。あと根本的な問題だが開発に時間がかかりすぎる。零からではなくて既存のものを改良するくらいでないと。」

 

 ヨルの案に俺は本の開発を考えていない方針を提示する。

 

「あと十数年あることですし問題が解決できるなら本の開発力を使うべきでは?」

 

 ヨルは更に詰める。

 

「今の死霊は見知らぬ親切な方が捕らえてくれている状態なんだが、神々が強権で脱出させないところをみると推定ではあるんだが・・・長くない時間で自力で脱出できる可能性が高い。」

 

 俺の発言にヨルが首をかしげる。

 

「かなり凶悪なやつでな、恐らく集めた噂の中にあった街一つを全滅させた犯人の可能性が高い。開発完了までの間、野放しにするのは流石にな。」

 

 俺の発言に神谷さんが悲痛な顔をして、許せるものでは無いと頷く。主人がそう言うなら仕方が無いとヨルはそれ以上の反証をすることは無かった。ヨルも案の一つとして挙げたに過ぎない。理由があるならそれを優先する理由は無かった。

 

「どちらにせよ手詰まりに近いですよ。まず相手に仕掛けられる要素が限定的すぎますわ。」

 

 ほとんどの解答が分ってしまっているクロはお手上げと言わんばかりに投げるような結論を言う。

 

「視線とかは?」

 

 ヨルが提案する。

 

「対象が表に出ているヤツ限定になる可能性が高い。相手が幽体だから封印という結果を得られるまで視線の中に入れることがかなり難しい。地面に潜られたら終わりだし、出来たとしても次は確実に無理だな。あと一番大きな理由だが、相手の最大攻撃である呪いを封じるために視界を遮る必要がある。採用するとなると膨大な数の呪い防御が必要になるな。」

 

 即死から石化、魅了、燃焼など視線系は見るという単純な条件で前提を満たした瞬間に発動するというお手軽、強力な攻撃だが、今回は相手もそれを持っていることが問題でもあった。

 

「相手の復活は翌日、世界のどこかと考えるとなるべく隙無く何度も使える効果でないとな。」

 

 俺の希望にクロがなんて贅沢なとケチだけつけてくる。

 

「空間、範囲封印にしても追い込めるかどうかが問題と言ってるが、対霊装備で縫い止められるならそこまで問題じゃ無いと思うんだが。」

 

 ユウがだるそうに提案する。

 

「まぁそうなんだが・・・その線が一番堅実であるとは思う。」

 

 俺もそれが一番安定しているとは思っている。幸い相手は一方的に殴れるくらいの強さしかないのでそれほど邪魔が入るとは思えない。

 

「ただあいつが表層を自爆させると縫い止めは意味がないんで、二度目以降の確実性が厳しくなるのは確かだな。菫か蘇芳を犠牲にする覚悟でやらなきゃいけなくなる。流石に避けたい。」

 

 自死が自由というのが懸念材料だ。一番の問題は封印完成のタイミングで自死されると一秒後の復活はどこでおこなわれるのだろうかと。恐らく封印空間内だとは思うのだが・・・

 

「ですから封印した後も元の状態のまま復活する以上は二度目以降は手を変えるしかないでしょうに。一つで済ませようとするのが怠惰なのですよ。」

 

 クロはそう指摘する。

 

「まぁそうだな。相手の残機は分らないが確実性のありそうな封印を四種用意するか?」

 

「わかってますわ、そちらも現実的ではないのですのよね。」

 

 選択肢が少ない中で概ね成功しそうな封印を四種。失敗を考慮すれば五~七種となる。当たったもの勝ちみたいな感じで十種ぐらい作るか。そうすると初手の時間が無くなる。封印し始めたら情報網を使って即封印していかないと犠牲は増えるばかりだ。

 

「とても戦争で現地を破壊している方の案とは思えませんけどね。」

 

 クロは言葉の毒を隠さない。流石に神谷さんがその態度を咎める。クロは一瞬反抗しようとしたがすぐに矛を収める。

 

「後は遅延発動で嵌めるくらいしか無さそうですがね。」

 

 ヨルは結果が分っていると言わんばかりに案を挙げる。

 

「まぁ分ってて提案したんだろうが、範囲封印だと強固にするのが大変だよな。」

 

 術式だけで組まれる範囲封印だと準備に時間がかかるし、その膨大な魔力で何か隠してるのは嫌でもばれそうだ。

 

「・・・全部を解決出来る方式がありますね。」

 

 神谷さんがふと思い立って顔を上げる。全員の興味がそちらに移る。

 

「呪いに近い形になりますけど名前とその他の条件で縛りましょう。」

 

「名前?」

 

 俺が聞き返すとはいと神谷さんは頷く。

 

(しゅ)とほぼ同じようなものですが、相手の名前に紐つけて身体封印を施すのです。名前だけだと必要出力が大きくなりますがその他の条件を付与して出力を押さえながら強固に出来るはずです。」

 

 神谷さんは提案を説明する。

 

「確かにその方法ならそのまま復活すればすぐにでも効果が現れる。なんでその対策がなされていない?・・・ああ、そもそも普通に復活したら全部リセットされるから考慮の必要がないのか。」

 

「恐らく復活する際にどちらか選べると思います。不利な要素があるならリセットしたほうが無駄がなくなりますし。」

 

「そうすれば二度目の対策がとれるしな。ただそれを選ばれると・・・」

 

 俺が悩むのを見て神谷さんが続ける。

 

「これも推測ですが、最初からその死霊もその状態では無かったわけですし、たまたまバグのような形で成立してしまったのですから、再び同じ状態になるのはかなり困難なのではないでしょうか。」

 

 神谷さんの言い分も尤もだ。最初からそうならヤツはもっと強く、無双していただろう。

 

「よし、その案を採用しよう。」

 

 俺は改良に向いた魔法をいくつか思案する。ただ一番大きな穴に誰もが気づいた。

 

「遊一郎さんが対象をそう言っていたことに違和感がありましたけど・・・その死霊、名前が判明していませんね?」

 

「確かに。」

 

 話が振り出しに戻りそうな気配が漂った。

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